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平成23年5月19日判決言渡同日原本領収裁判所書記官
平成22年(行ケ)第10259号審決取消請求事件
口頭弁論終結日平成23年5月10日
判決
原告コーニンクレッカフィリップス
エレクトロニクスエヌヴィ
訴訟代理人弁理士西教圭一郎
被告特許庁長官
指定代理人杉山輝和
吉野公夫
廣瀬文雄
田村正明
主文
原告の請求を棄却する。
訴訟費用は原告の負担とする。
この判決に対する上告及び上告受理の申立てのための付加期間を30日
と定める。
事実及び理由
第1原告の求めた判決
特許庁が不服2008−13695号事件について平成22年3月29日にした
審決を取り消す。
第2事案の概要
本件は,特許出願に対する拒絶査定に係る不服の審判請求について,特許庁がし
た請求不成立の審決の取消訴訟である。争点は,容易推考性の存否である。
1特許庁における手続の経緯
A及びBは,平成12年(2000年)12月22日及び平成13年(2001
年)4月6日(ドイツ)の優先権を主張して,平成13年12月20日,名称を「サ
ンドイッチ状パネル部材」とする発明について国際特許出願(PCT/EP200
1/015102,日本国における出願番号は特願2002−553050号)を
し,平成15年6月23日に特許庁に翻訳文を提出した(国内公表公報は特表20
04−526178号)。原告は,上記出願人両名から特許を受ける権利を承継し
たが(平成19年2月27日付けで出願人名義変更届を提出),拒絶査定を受けた
ので,不服の審判請求をした。
上記審判請求は,不服2008−13695号事件として審理され,原告は,平
成20年6月27日付けで手続補正(甲13)をしたが,特許庁は,平成22年3
月29日,「本件審判の請求は,成り立たない。」との審決をした。そして,審決
謄本は平成22年4月13日,原告に送達された。
2本願発明の要旨
平成20年6月27日付けの手続補正書(甲13)により補正された特許請求の
範囲の請求項1に係る本願発明は,次のとおりである。
【請求項1】
高度に透明な,少なくとも1枚の第1のパネル(102)と,高度に透明な第2
のパネル(103)とを含むサンドイッチ状パネル部材(100)であって,さら
に該パネル間の空隙内に,または該2枚のパネルの少なくとも一方上に設けられた
太陽電池素子(108)を含み,さらに,縁部領域にパネル(102,103)の
ためのフレーム構造(104)を有するサンドイッチ状パネル部材(100)にお
いて,多数のLEDまたはSMDが照明手段(106)として該フレーム構造の前
面部分に配置され,前記照明手段は該パネル(102,103)のうち少なくとも
1枚に前面部分において照明光を照射し,該光は少なくとも部分的に放射の方向に
ほぼ垂直に偏向し,少なくとも1枚のパネルの表面一面に投射され,該パネルは透
明な構成を有し,それによって該パネルは光拡散効果を持ち,この目的のために少
なくともひとつの面が印刷,サンドブラスト,エッチング,コーティング,彫刻ま
たは貼付されるか,またはパネルの内部が欠陥構造を有し,さらに太陽電池素子(1
08)が日光に対して半透過性であることを特徴とするサンドイッチ状パネル部材。
3審決の理由の要点
(1)引用刊行物1(特開2000−80863号公報,平成12年3月21日
公開,甲1)には次のとおりの引用発明1が記載されていると認められる。
【引用発明1】
それぞれに板ガラスが装着された状態で互いに対向した一対の窓枠と,各窓枠の
周縁部間に架橋された連結部材とから窓本体が構成され,上記窓枠間に光源が配設
されているガラス窓構造であって,
上記ガラス窓構造は,2枚の透明な板ガラスが所定の間隔で配された二重構造の
窓本体と,この窓本体に内装された光源とからなる基本構成を有し,
上記窓本体は,それぞれに板ガラスが装着された状態で互いに対向した矩形状の
同一寸法の一対の窓枠と,各窓枠の周縁部間に架橋された連結部材とからなってお
り,
上記光源は,窓枠において一対の上部の横桟間に水平方向に延びるように配設さ
れ,上記光源として,LED等の発光素子を利用した光源を採用し,
板ガラスの表面にソーラーパネルを付設するとともに,窓枠内の適所に蓄電池を
設け,昼間の太陽光によってソーラーパネルで発電した電力を蓄電池に蓄電するよ
うにし,夜間にこの蓄電池からの電力で光源を点灯するようにした,ガラス窓構造。
(2)本願発明と引用発明1との間には,次のとおりの一致点,相違点がある。
【一致点】
高度に透明な,少なくとも1枚の第1のパネルと,高度に透明な第2のパネルと
を含むサンドイッチ状パネル部材であって,さらに該パネル間の空隙内に,又は該
2枚のパネルの少なくとも一方上に設けられた太陽電池素子を含み,さらに,縁部
領域にパネルのためのフレーム構造を有するサンドイッチ状パネル部材において,
LED又はSMDが照明手段として該フレーム構造に配置され,前記照明手段は該
パネルのうち少なくとも1枚に照明光を照射し,該光は少なくとも部分的に放射の
方向にほぼ垂直に偏向し,少なくとも1枚のパネルの表面一面に投射され,該パネ
ルは透明な構成を有した,サンドイッチ状パネル部材。
【相違点1】
本願発明では,照明手段としてのLED又はSMDが,「多数」であるのに対し
て,引用発明1では,「LED等の発光素子」が多数であるかどうか不明である点。
【相違点2】
本願発明では,照明手段がフレーム構造の「前面部分」に配置され,パネルのう
ち少なくとも1枚に「前面部分において」照明光を照射するとともに,該照射光が
投射されるパネルは,「それによって該パネルは光拡散効果を持ち,この目的のた
めに少なくともひとつの面が印刷,サンドブラスト,エッチング,コーティング,
彫刻又は貼付されるか,又はパネルの内部が欠陥構造を有し」とされているのに対
して,引用発明は,そのような特定事項を有していない点。
【相違点3】
本願発明は,「太陽電池素子(108)が日光に対して半透過性である」のに対
して,引用発明は,そのような特定事項を有していない点。
(3)相違点1について,引用発明1における光源は線状の構成とされていると
ころ,この光源として,点光源である「LED」を採用する際には,多数のLED
を線状に配置する必要があることは当業者にとって明らかであるから,引用発明1
につき,相違点1に係る本願発明の構成とすることは,当業者が容易になし得たこ
とである。
相違点2について,引用刊行物2(特開2000−148054号公報,平成1
2年5月26日公開,甲2)に記載された引用発明2は,導光板の側面から入射し
た光を,透光性のある反射部により前面側に均等に乱反射させる面発光体を備え,
これによって,ディスプレー板の画像を室内側に浮かびあがらせることができると
同時に,室内用の間接照明としても機能するディスプレー窓であるところ,引用発
明2における面発光体の「反射部」は,「導光板自体の背面に形成された乱反射用
の凹凸から構成したり,あるいは,導光板の前面又は背面に配置される乱反射シー
トから構成され」たものであり,相違点2に係る本願発明の構成に相当するもので
ある。そして,引用発明1と引用発明2とは,いずれも,窓構造に関する発明であ
って,自然光の採光及び室内の照明が可能である点で共通し,また,引用発明1に
おいては,部屋の雰囲気に合わせて,板ガラスとして各種の模様が形成された模様
ガラスとすることも想定されているから,引用発明1における2枚の透明な板ガラ
スのうち,画像が表示される側,すなわち,前面部分の板ガラスをディズプレー窓
とし,該板ガラスを側面から照明する光源をフレームの前面部分に配置し,この前
面部分において板ガラスを側面から照明するようにするとともに,引用発明2の窓
面をディスプレー面として利用されるディスプレー窓の構造を採用し,各種の模様
の表示が可能な構成とし,これにより本願発明の相違点2に係る構成とすることは,
当業者が容易になし得たことである。
相違点3について,引用発明1は,自然光を室内に取り入れることができるもの
であるから,「板ガラスの表面にソーラーパネルを付設する」構成を採用した際に
も自然光を取り入れることができるような構成とすることは明らかであるところ,
採光が必要な箇所に設けるソーラーパネル(太陽電池素子)として,日光に対して
半透過性であるものを用いることは,周知技術であるから,引用発明1に上記周知
技術を適用して,相違点3に係る本願発明の構成とすることは,当業者が容易にな
し得たことである。
そして,本願発明によってもたらされる効果は,引用発明1,2及び上記周知技
術から予測し得る程度のものである。
したがって,本願発明は,引用発明1,2及び周知技術に基づいて当業者が容易
に発明できたものであるから,特許法29条2項の規定により,特許を受けること
ができない。
第3原告主張の審決取消事由
1取消事由1(一致点認定の誤り・相違点の看過)
(1)審決は,本願発明と引用発明1との一致点認定の前提として,「引用発明
1の「2枚の透明な板ガラス」は,本願発明の「高度に透明な,少なくとも1枚の
第1のパネル(102)と,高度に透明な第2のパネル(103)」に相当する。」
(11頁6行∼8行)と認定する。
しかし,引用刊行物1の段落【0002】∼【0005】の記載によれば,引用
発明1は,引用刊行物1において従来技術として記載された発光パネルを二重構造
としたものである。これに対し,本願発明では,実施の形態に即して説明すると,
前面にある第1のパネル102とLED106のみが前面に光を放射する構成であ
って,引用発明1の発光パネルの機能を果たす構成に相当する。したがって,引用
発明1の2枚の透明な板ガラスは,本願発明の前面部分の第1パネル102のみに
相当するのであって,審決の上記認定は誤りである。
(2)審決は,「引用発明1の「ガラス窓構造」は,本願発明の「サンドイッチ
状パネル部材」に相当し」(11頁11行∼12行)と認定するが,誤りである。
ア本願発明は,「…第1のパネル(102)と…第2のパネル(103)
…の空隙内に,または該2枚のパネルの少なくとも一方上に設けられた太陽電池素
子(108)を含」むサンドイッチ状パネル部材である。ここにいう「サンドイッ
チ状」とは,太陽電池素子108が2枚のパネルの間に設けられてサンドイッチさ
れた構造をいう。この点について,被告は,上記下線部の「または」の文言から,
太陽電池素子の位置は2枚のパネルの間でなくてもよい旨主張するが,この「また
は」は,ドイツ語原文の「oder」の誤訳であって,「言いかえると,正確に言
うと」と訂正して解釈されるべきである。また,「サンドイッチ状」について原告
主張のとおり解することは,本件出願に係る国際予備審査報告における解釈とも一
致する。さらに,本願明細書には,太陽電池素子が2枚のパネルの間に設けられた
構成しか記載されていないので,このように解さなければ特許法36条6項1号に
反することになる。
これに対し,引用発明1は,2枚の板ガラスが所定の間隔で配されて,空気層(引
用刊行物1の段落【0007】)を挟んだ「二重構造」になっており,本願発明の
ように太陽電池素子を2枚パネルで「サンドイッチ状」にする構造ではない。
イ本願発明は,ビルディング部門における建物の窓を含む壁面の広い表面
を照明するための「パネル部材」であって,窓自体ではない。これにより,本願発
明は,本願明細書の【図1】のように,建物の窓を含む壁面を覆った状態で,多数
の各パネル部材の発光色を変化させて色付きのパネルパターンの照明効果を生み出
し,あるいは,建物の表面にモザイク模様を描いて表示することも可能にするもの
である。これに対し,引用発明1は,引用刊行物1に従来の技術として記載された
発光パネルのあくまでも改良にすぎず,「ガラス窓構造」であって,本願発明とは,
発明の属する技術分野が異なる。
(3)審決は,「引用発明1の「ソーラーパネル」は,本願発明の「太陽電池素
子」に相当し」(11頁16行∼17行)と認定するが,誤りである。
ア本願発明は「太陽電池素子108が日光に対して半透過性である」構成
を有しており,これにより,照明がオフになっている場合にサンドイッチ状パネル
部材を見通すことが可能である。
これに対し,引用刊行物1には,ソーラーパネルが日光に対して半透過性である
構成は記載されていない。
イ本願発明では,太陽電池素子108が日光に対して半透過性であること
によって,建物の窓機能を実現する場合に,照明がオフのとき,室内から外部を,
外部から室内を,それぞれ見通すことができる。また,これとは逆に,照明がオン
のとき,光が照射される第1のパネル102の前面(すなわち建物の外部)は明る
く,後面(すなわち室内)は暗いので,前面から後面を見通しにくく,かつ後面か
ら前面を明瞭に見通すことができるので,本願発明の「パネル部材」は,建物の外
面を成す窓では,室内のブラインドの働きを果たすことができる。これに対し,引
用刊行物1の,「…室内の照明用や,陳列された展示物の照明用として利用するこ
とができるガラス窓構造…」(段落【0001】),「…発光パネルを展示物の陳
列戸棚のガラス戸の代わりに利用…」(段落【0003】),「…窓本体を部屋の
間仕切り部分に採用することにより,2部屋に同時に配光する…」(段落【005
4】)という記載からすると,引用発明1は,照明がオンのとき本願発明の「ブラ
インドの働き」が達成されてはならず,本願発明とはその構成と動作が異なる。
(4)審決は,「引用発明1の「ガラス窓構造」の「窓本体」は,「それぞれに
板ガラスが装着された状態で互いに対向した矩形状の同一寸法の一対の窓枠と,各
窓枠の周縁部間に架橋された連結部材とからなって」いるから,引用発明の「窓枠」
及び「連結部材」が,本願発明の「フレーム構造」に相当し,」(11頁21行∼
24行)と認定する。
しかし,上記(2)イのとおり,引用発明1の「ガラス窓構造」は,本願発明の建物
の窓を含む壁面の広い表面を覆う「パネル部材」に相当しないので,引用発明1の
「窓枠」及び「連結部材」は本願発明の「フレーム構造」には相当しない。
(5)審決は,「引用発明1は,「窓枠間に光源が配設されて」おり,「上記光
源として,LED等の発光素子を利用した光源を採用」するものであり,また,「上
記光源を点灯することにより,光源からの光は,ほとんどが窓枠の内壁面で乱反射
したのち板ガラスを通して外部に照射されるため,窓本体を室内の壁面に配するこ
とにより,室内は穏やかな間接光が板ガラスの表面から照射されて均一に照明され
た状態にな」るから,引用発明1は,本願発明と,「LED又はSMDが照明手段
(106)として該フレーム構造」「に配置され,前記照明手段は該パネル(10
2,103)のうち少なくとも1枚に」「照明光を照射し,該光は少なくとも部分
的に放射の方向にほぼ垂直に偏向し,少なくとも1枚のパネルの表面一面に投射さ
れ」る点で一致する。」(11頁27行∼12頁3行)と認定する。
しかし,引用刊行物1には,LEDに関して,「…LED等の発光素子を利用し
た光源を採用してもよい。…」(段落【0044】)とのわずかな記載があるのみ
であり,発光領域が半導体接合面であるごく小さい表面積から狭い放射角度で,す
なわち鋭い指向性を持った光を放射するLEDを用いて,板ガラスを通して外部に
照射する構造は,当業者には明らかではない。光源としてLEDに比べて極めて広
い表面積から光を放射する蛍光灯,白熱電球でさえも,審決が上記のとおり認定し
たように「光源からの光は,ほとんどが窓枠の内壁面で乱反射したのち板ガラスを
通」すのであるから,たとえ多数のLEDを利用したとしても,その光を乱反射さ
せて2枚の各板ガラスの厚さ方向に横切らせて通す構造は,当業者には明らかでは
ない。
これに対して本願発明では,多数のLED又はSMDが照明手段106として該
フレーム構造の前面部分に配置され,前面部分の第1のパネル102に縁部領域か
ら照明光を照射し,その照明光は同パネル内を伝播して,放射の方向に,すなわち
前面に向かって,ほぼ垂直に偏向して同パネルの表面の一面に投射する。
したがって本願発明の光の放射の構成は,引用刊行物1に記載されておらず,引
用発明1における光源からの光が板ガラスから照射される構成は,本願発明とは異
なる。
しかも,引用発明1は,「室内は穏やかな間接光が板ガラスの表面から照射され
て」照明された状態にするが,本願発明は,光を第1のパネル102の前面に,す
なわち建物の外部に投射するので,引用発明1と本願発明とはその動作も異なる。
2取消事由2(作用効果に関する判断の誤り)
本願発明は,照明手段によって建物の窓を含む壁面の広い表面を照明することが
できるのはもちろん,サンドイッチ状パネル部材が建物の窓を含む壁面の広い表面
を覆い,建物の窓機能を実現する場合,太陽電池素子が「半透過性」であることに
よって,照明手段がオフのとき,室内から外部を,外部から室内を見通すことがで
き,照明手段がオンのとき,照射されている明るい外部から暗い室内を見通しにく
く,かつ室内から外部を明瞭に見通すことができるという室内のブラインドの働き
を果たすことができる。
引用発明1,2及び周知技術によっても,このような効果を達成することはで
きない。審決は,進歩性(特許法29条2項)の存在を肯定的に推認するのに役立
つ事実として,このような効果を参酌していない。
第4被告の反論
1取消事由1に対し
(1)本願明細書の段落【0026】,【0027】に記載されるように,本願
発明の「サンドイッチ状パネル部材」は,窓部材として使われ得るものであって,
典型的には,2枚のガラスパネルを含むフレーム構造を持つ断熱ガラス窓のように
構成されるものである。これに対し,引用刊行物1の記載によれば,引用発明1の
「ガラス窓構造」は,それぞれ板ガラスを装着した状態で対向した一対の窓枠と,
窓枠の周縁部間に架橋された連結部材とからなる窓本体等の構成を備えるものであ
り,この窓本体は,昼間は通常の窓として自然光を取り入れることが可能であり,
かつ,2枚の透明な板ガラスが所定の間隔で配された二重構造により断熱効果を得
ることができるものである。
これらの構造からすれば,引用発明1の「2枚の透明な板ガラス」が,本願発明
の「高度に透明な,少なくとも1枚の第1のパネル(102)と,高度に透明な第
2のパネル(103)」に相当するとした審決の認定に誤りはない。
(2)ア本願明細書(甲6)には,「サンドイッチ状」の意味内容を明確に定義
する記載はない。そして,請求項1の「さらに該パネル間の空隙内に,または該2
枚のパネルの少なくとも一方上に設けられた」との記載によれば,本願発明の「サ
ンドイッチ状パネル部材」において,太陽電池素子の設けられる位置は,「パネル
間の空隙内」でなくとも「2枚のパネルの少なくとも一方上」のいずれか一方であ
ればよい(2枚のパネルの外側でもよい)ことは明らかである。
したがって,2枚のパネルの間に太陽電池素子が含まれることをもってサンドイ
ッチ状であるとする原告の主張は,本願発明の構成に基づかないものである。
イ上記(1)のとおり,本願発明の「サンドイッチ状パネル部材」は,窓部材
としての使用が想定されたものであって,2枚のガラスパネルが共に光透過性があ
る(透明な)ものとされることにより,自然光が一日中通過するという「窓機能」
を有し,2枚のガラスパネルとフレーム構造とを備えることにより「断熱ガラス窓」
のように構成されるものである。
したがって,本願発明の「サンドイッチ状パネル部材」と,引用発明1の「ガラ
ス窓構造」とは,その技術分野ないし用途においても差異はなく,それに基づく構
成上の差異があるということもできない。
(3)アソーラーパネルが太陽電池素子であることは明らかである。したがっ
て,審決が,引用発明1の「ソーラーパネル」は,本願発明の「太陽電池素子」に
相当すると認定したことに誤りはない。原告は,引用刊行物1に半透過性に関する
記載がないから上記認定が誤りであると主張するが,この点については,相違点3
として認定・判断が行われており,原告の主張は失当である。
イ原告は,本願発明について,「照明手段がオンのとき,照射されている
明るい外部から暗い室内を見通しにくく,かつ室内から外部を明瞭に見通すことが
できる」という「ブラインドの働き」があると主張するが,本願明細書には,その
ような「ブラインドの働き」に関する記載はない。したがって,原告の上記主張は,
本願明細書の記載に基づくものでなく,失当である。
(4)上記(2)イのとおり,引用発明1の「ガラス窓構造」は,本願発明の「サ
ンドイッチ状パネル部材」に相当するから,審決が,引用発明1の「窓枠」及び「連
結部材」が本願発明の「フレーム構造」に相当するとしたことに誤りはない。
(5)発光ダイオード(LED)において,放射する光の指向性は制御可能なも
のであって,その用途に応じて,広い放射角度,すなわち,指向性の広い発光をす
るものとされることは周知の技術である。かかる周知技術に照らしても,引用刊行
物1の「…光源3としては,白熱電球に限定されるものではなく,LED等の発光
素子を利用した光源を採用してもよい。…」(段落【0044】)との記載は,引
用発明1に係る「LED等の発光素子を利用した光源を採用し」た「ガラス窓構造」
について実施可能なものとして当業者が理解するに十分な開示であることは明らか
である。
したがって,引用発明1が「上記光源として,LED等の発光素子を利用した光
源を採用し」との構成を含むものとした審決の認定に,誤りはない。
そして,引用刊行物1の段落【0027】の記載によれば,引用発明1の動作に
おいて,光源からの光は,乱反射したのち外部に照射され,穏やかな間接光が板ガ
ラスの表面から照射されて均一に照明された状態になるのであるから,外部に照射
された光の少なくとも一部が,板ガラスの表面に垂直(よって,照明手段からの放
射の方向に対しても垂直)に偏向していることは明らかである。
したがって,引用発明1は,本願発明と,「LED又はSMDが照明手段(10
6)として該フレーム構造」「に配置され,前記照明手段は該パネル(102,1
03)のうち少なくとも1枚に」「照明光を照射し,該光は少なくとも部分的に放
射の方向にほぼ垂直に偏向し,少なくとも1枚のパネルの表面一面に投射され」る
点で一致するとした審決の認定に誤りはない。
2取消事由2に対し
引用発明2は,「日中の明るいとき」,すなわち,「光源を点灯」しないときに
は,「自然光が,屋外側保護層,ディスプレー板を経て室内に入射することによっ
て,室内側への採光機能を維持し」ているものである。したがって,引用発明1と
引用発明2を組み合わせた場合にも,照明手段がオフの時には,自然光の採光機能
が維持できる程度の見通しがあることになる。
原告の主張する「ブラインドの働き」については,上記1(3)イのとおり,本願明
細書の記載に基づくものでない。
太陽電池素子が日光に対して半透過性であるという相違点3に係る本願発明の構
成は,当業者が容易になし得たことであるところ,たとえ原告の主張するような「ブ
ラインドの働き」に関する効果を考慮したとしても,このような半透過性である構
成によって奏される効果が,当業者の予測の域を超えるほどの顕著なものとみるべ
き根拠はない。
第5当裁判所の判断
1本願発明について
本願明細書及び図面(甲6,13)によれば,本願発明について,次のとおり認
められる。
従来技術の照明広告においては,照明により照射されるアクリルパネルが高価で
あるという欠点があるため,小さな広告に使われ,広い表面への適用が検討される
ことはなかった。また,照明手段として通常使用される蛍光灯には,交換が必要で,
高層ビルなどで交換する際の費用がかかり,消費電力が高いという欠点があった(段
落【0002】,【0003】)。そこで,本願発明は,請求項1に記載された構
成を備えることにより,透明なパネルとして低コストのガラス等を用いることが可
能であり(段落【0008】),太陽電池素子により照明手段に給電することが可能
であり(段落【0006】),LEDなどが照明手段として使用されるので,消費
電力が低く,寿命もより長い(段落【0032】)などの効果を奏するものである。
【図2】第1の実施の形態によるサンドイッチ状パネル部材の断面図
2引用発明1について
引用刊行物1(甲1)によれば,引用発明1について,次のとおり認められる。
引用発明1は,室内の照明用等として利用することができるガラス窓構造に関す
る発明である(段落【0001】)。それぞれに板ガラスが装着された状態で互い
に対向した一対の窓枠と,各窓枠の周縁部間に架橋された連結部材とから窓本体が
構成され,上記窓枠間に光源が配設されていることを特徴とすることで(段落【0
006】),窓本体を通常の窓として利用し得るとともに,光源を点灯することに
より,光源からの光が間接光になって互いに対向した板ガラスから外部に向けて照
射され,夜間の照明用としても利用することができ(段落【0006】,【000
7】,【0011】),また,窓本体は,空気層を挟んだ二重構造になっているた
め,優れた断熱作用を備えており(段落【0007】),板ガラスに透明ガラスを
含み(段落【0053】),光源として蛍光灯,白熱電球のほか,LED等の発光
素子を利用してもよく,昼間にソーラーパネルで発電した電力で光源を点灯させる
ことができる(段落【0025】,【0044】)というものである。
【図1】ガラス窓構造の第1実施形態を示す一部切欠き斜視図
3取消事由1(一致点認定の誤り・相違点の看過)について
(1)取消事由1(1)につき
引用発明1が2枚の板ガラスという構成を備え,この板ガラスに透明なガラスが
含まれることは上記2のとおりであり,一方,本願発明の透明なパネルについても,
ガラスを用いることが想定されていることは上記1のとおりであるから,引用発明
1の「2枚の透明な板ガラス」が,本願発明の「高度に透明な,少なくとも1枚の
第1のパネル(102)と,高度に透明な第2のパネル(103)」に相当するこ
とは明らかであって,これを一致点とした審決の認定に誤りはない。
原告は,本願発明の2枚のパネルのうち,第1のパネル(102)のみが光を放
射する構成であることを前提として,引用発明1の2枚の板ガラスは本願発明の第
1のパネルのみに相当すると主張する。しかしながら,本願発明の「照明手段は該
パネル(102,103)のうち少なくとも1枚に…照明光を照射」するという構
成からすると,本願発明には,第2のパネルが照射される態様も含まれ得るのであ
って,原告の上記主張は前提を欠く。
(2)取消事由1(2)につき
ア本願明細書には,次の記載がある。
「本発明は少なくとも1枚のパネルと,前面部分で該パネルの少なくとも1枚
へ照明光を発する少なくともひとつの照明手段を持つ照明装置とを備えたサンド
イッチ状パネル部材に関するものであり,この照明光はこの照射の方向にほぼ垂
直に少なくとも部分的に偏向し,透明な構成のパネルの少なくとも1枚の表面に
投射される。」(段落【0001】)
「本発明による典型的なサンドイッチ状パネル部材100の,より詳細な構造
と動作方法は図2の説明に基づいている。この場合サンドイッチ状パネル部材は,
その縁に2枚のガラスパネル102,103を含むほぼU字型のフレーム構造1
04を持つ断熱ガラス窓のように構成されている。両方のガラスパネル102,
103は断熱ガラス窓の場合のように互いから離れて配置され,両方のガラスパ
ネル102,103の間に空隙105を形成している。両方のガラスパネル10
2と103の間の距離はスペーサ109によって画定される。」(段落【002
7】)
本願明細書に「サンドイッチ状」という文言に関する明確な定義はなく,本願明
細書の上記記載などに照らすと,本願発明のサンドイッチ状パネルとは,2枚のパ
ネルとフレーム構造と照明装置を備え,2枚のパネルの間に空隙が形成された構成
を指すものと解される。そうすると,引用発明1の「ガラス窓構造」がこれらの構
成を備えていることは,上記2で認定したとおりであるから,審決が,引用発明1
の「ガラス窓構造」は,本願発明の「サンドイッチ状パネル部材」に相当すると認
定したことに誤りはない。
イ原告は,「サンドイッチ状」とは,太陽電池素子が2枚のパネルの間に
設けられた構成を指し,引用発明1の構成とは異なるから,上記認定は誤りである
と主張する。しかしながら,請求項1の「…第1のパネル(102)と…第2のパ
ネル(103)…の空隙内に,または該2枚のパネルの少なくとも一方上に設けら
れた太陽電池素子」との記載に照らすと,本願発明において,太陽電池素子が2枚
のパネルの空隙内にある構成のほかに,2枚のパネルの外側でパネルの上に設けら
れた構成をも含むことは明らかであり,原告の上記主張は理由がない。なお,原告
は,上記「または」の文言は,ドイツ語原文の「oder」の誤訳であると主張す
るが,独和大辞典(甲16)にも,「oder」には「または」の意味があると記
載されていることや,「空隙内」であることと「2枚のパネルの少なくとも一方上」
であることが必ずしも言いかえの関係にないことからすると,誤訳であるとの原告
の主張は採用することができない。その他原告が主張する点も,上記判断を左右す
るものではない。
ウ原告は,本願発明のパネル部材は,建物等の壁面の広い表面を照明する
ための部材であり,窓自体ではないから,本願発明のパネル部材が引用発明1のガ
ラス窓構造に相当するとの認定は誤りである旨主張する。しかしながら,請求項1
には,パネル部材が壁面の広い表面を照明するためのものであると限定する構成は
なく,かえって,本願明細書には,パネル部材を天井や床に用いることを窺わせる
記載(段落【0015】)や,パネル部材が壁面に少なくとも1枚含まれれば足り
る旨の記載(段落【0019】)があることなどに照らすと,原告の上記主張は,
本願発明の構成に基づかないものであって,採用することができない。
(3)取消事由1(3)につき
ソーラーパネルが太陽電池素子に相当することは自明であるから,引用発明1の
「ソーラーパネル」が本願発明の「太陽電池素子」に相当するとした審決の認定に
誤りはない。
原告は,引用発明1のソーラーパネルについて,日光に対して半透過性であるこ
とが引用刊行物1に記載されていないと主張するが,この点は相違点3として別途
認定・判断されているのであって,審決の上記一致点の認定自体に誤りがないこと
は明らかである。
また,原告は,本願発明にはブラインドの働きがある旨主張する。しかしながら,
本願明細書には,原告が主張するような「ブラインドの働き」に関する記載は認め
られない。したがって,原告の上記主張は,本願明細書の記載に基づかないもので
あって,採用することができない。
(4)取消事由1(4)につき
原告は,引用発明1の「ガラス窓構造」が本願発明の「パネル部材」に相当しな
いことを前提として,引用発明1の「窓枠」及び「連結部材」は本願発明の「フレ
ーム構造」には相当しないと主張する。しかしながら,上記(2)で説示したとおり,
引用発明1の「ガラス窓構造」が本願発明の「パネル部材」に相当するとした審決
の認定に誤りはなく,原告の上記主張は前提を欠く。
(5)取消事由1(5)につき
引用刊行物1の記載によれば,引用発明1は,窓枠間に配設された光源を点灯す
ることにより,光源からの光が間接光になって互いに対向した板ガラスから外部に
向けて照射され,照明等として利用することができるガラス窓構造であって(段落
【0001】,【0007】),光源として,引用刊行物1に記載された実施例に
おいては蛍光灯や白熱電球が用いられているが,LED等の発光素子を利用しても
よい(段落【0025】,【0044】)とされているものである。このような光
源として例示されているLED等の発光素子について,光の放射角度が狭いという
特性があるとしても,狭い放射角度の範囲に対応するように,窓枠間の幅,窓枠の
大きさ,窓枠内における光源の設置位置,光源の角度や個数等を調整して,上記の
間接光として照射されるという目的を達成するようにすることは,当業者にとって
明らかといえる。また,そのようにした場合,少なくとも照射された光の一部分は,
乱反射の結果として,照射の方向にほぼ垂直に偏向して,少なくとも1枚のパネル
の表面に投射されることになる。
したがって,引用発明1と本願発明とが,「LED又はSMDが照明手段(10
6)として該フレーム構造に配置され,前記照明手段は該パネル(102,103)
のうち少なくとも1枚に照明光を照射し,該光は少なくとも部分的に放射の方向に
ほぼ垂直に偏向し,少なくとも1枚のパネルの表面一面に投射され」る点で一致す
るとした審決の認定に誤りはない。
なお,原告は,引用発明1は室内に光を照射するのに対し,本願発明は建物の外
部に投射する点で異なるとも主張する。しかしながら,引用刊行物1の「窓本体を
挟んだ両側の空間が照明される」(段落【0007】)との記載によれば,引用発
明1の照射の範囲が室内に限定されないことは明らかであり,本願発明の動作と異
なることはない。
以上のとおり,取消事由1はいずれも理由がない。
4取消事由2(作用効果に関する判断の当否)について
原告は,本願発明について,照明手段がオフのとき,室内と外部とを相互に見通
すことができると主張する。しかしながら,引用刊行物1の「昼間は通常の窓とし
て自然光を室内に取り入れることができる」(段落【0028】)との記載や,引
用刊行物2の「…窓としての基本的な採光機能を確保しつつ…」(段落【0004】),
「…画像形成層23は…透光性を有して…」等の記載に照らすと,引用発明1に引
用発明2を組み合わせた場合であっても,室内と外部を相互に見通す効果があると
認められる。また,引用発明1において半透過性のソーラーパネルを用いることが
容易であることは,審決が相違点3で判断するとおりである。したがって,原告主
張の上記効果が格別な効果であるとは認められない。
原告は,本願発明が,建物等の壁面の広い表面を照明するものであることや,ブ
ラインドの働きをすることを前提とする作用効果の主張もしているが,上記3(2),
(3)のとおり,原告の主張はその前提を欠く。
したがって,取消事由2も理由がない。
第6結論
以上のとおりであるから,原告主張の取消事由はいずれも理由がない。
よって,原告の請求を棄却することとして,主文のとおり判決する。
知的財産高等裁判所第2部
裁判長裁判官
塩月秀平
裁判官
清水節
裁判官
古谷健二郎

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