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平成28年2月12日判決言渡
平成27年(行ウ)第77号法人文書一部不開示決定取消等請求事件
主文
1本件訴えのうち,法人文書の開示決定の義務付けを求める部分を却下する。
2原告のその余の請求を棄却する。
3訴訟費用は原告の負担とする。
事実及び理由
第1請求
1株式会社日本政策金融公庫が平成26年9月17日付けで原告に対してした
別紙1文書目録記載1の法人文書(以下「本件文書」という。)の部分開示決
定(日公総法第26-10号)のうち同目録記載2の部分(以下「本件不開示
部分」という。)を不開示とした部分を取り消す。
2株式会社日本政策金融公庫は,原告に対し,本件不開示部分を開示する旨の
決定をせよ。
第2事案の概要
本件は,原告が,独立行政法人等の保有する情報の公開に関する法律(以下
「法」という。)に基づき,被告兼処分行政庁(以下,単に「被告」という。)
に対し,判決書正本である本件文書の開示請求をしたところ,被告から,その
一部を不開示とし,その余の部分(以下「本件開示部分」という。)を開示す
る旨の部分開示決定(以下「本件決定」という。)を受けたため,本件決定の
うち本件不開示部分を不開示とした部分は違法であるとして,同部分の取消し
を求めるとともに,本件不開示部分を開示する旨の決定の義務付け(以下,当
該義務付けを求める訴えを「本件義務付けの訴え」という。)を求める事案で
ある。
1法の定め
⑴法3条は,何人も,法の定めるところにより,独立行政法人等(独立行政
法人通則法2条1項に規定する独立行政法人及び法別表1に掲げる法人をい
う〔法2条1項〕。以下同じ。)に対し,当該独立行政法人等の保有する法
人文書の開示を請求することができる旨規定し,法4条1項は,同開示請求
は,同項各号に掲げる事項を記載した書面を独立行政法人等に提出してしな
ければならない旨規定する。
⑵ア法5条は,独立行政法人等は,前記⑴の開示請求があったときは,開示
請求に係る法人文書に同項各号に掲げる情報(以下「不開示情報」という。)
のいずれかが記録されている場合を除き,開示請求者に対し,当該法人文
書を開示しなければならない旨規定する。
イ同条1号本文は,不開示情報の一つとして,個人に関する情報(事業を
営む個人の当該事業に関する情報を除く。以下同じ。)であって,当該情
報に含まれる氏名,生年月日その他の記述等により特定の個人を識別する
ことができるもの(他の情報と照合することにより,特定の個人を識別す
ることができることとなるものを含む。以下「個人識別情報」という。)
又は特定の個人を識別することはできないが,公にすることにより,なお
個人の権利利益を害するおそれがあるもの(以下「権利侵害情報」という。)
を規定する。
⑶法7条は,独立行政法人等は,開示請求に係る法人文書に不開示情報が記
録されている場合であっても,公益上特に必要があると認めるときは,開示
請求者に対し,当該法人文書を開示することができる旨規定する(以下「裁
量的開示」という。)。
2前提となる事実
以下の事実は,当事者間に争いがないか,後掲の証拠及び弁論の全趣旨によ
り容易に認めることができる。
⑴被告
被告は,政府が発行済株式の総数を保有する株式会社であって(株式会社
日本政策金融公庫法3条),法別表第1に掲げられた法人の一つである。
⑵本件文書
ア大阪地方裁判所は,自殺をした被告の職員(以下「本件職員」という。)
の父母及び配偶者(以下「本件相続人ら」という。)が,本件職員が自殺
をした原因は,被告における過重業務により精神疾患を発症したことにあ
るとして,被告に対し不法行為等に基づき損害賠償を請求した事件(大阪
地方裁判所平成20年(ワ)第10242号事件)について,平成25年
3月6日,本件相続人らの請求を一部認容する旨の判決を言い渡した(以
下「本件一審判決」という。)。(甲7の1)
イ本件相続人ら及び被告の双方が本件一審判決を不服として控訴を提起し
たところ(大阪高等裁判所平成25年(ネ)1133号事件),大阪高等
裁判所は,平成26年7月17日,被告の敗訴部分を取り消し,本件相続
人らの請求を棄却する旨の判決を言い渡した(以下「本件控訴審判決」と
いう。)。(甲7の2)
ウ被告は,本件控訴審判決の判決書正本(本件文書)を保有している。
エ本件相続人らの訴訟代理人であるA弁護士は,インターネット上におい
て,本件一審判決の評釈記事を公開している。当該記事には,本件職員が
被告のB支店及びC支店に勤務したことや,本件職員が精神障害を発症し,
その後自殺したこと等が記載されている。(甲5)
オ本件一審判決及び本件控訴審判決は,いずれもD株式会社が運営する判
例検索サイトに掲載されている。なお,同サイトに掲載された上記両判決
には仮名処理(人名を含む固有名詞及び地名の一部を仮名とすること)が
施されているが,固有名詞及び地名に当たらない部分は原文のまま掲載さ
れている。
また,本件一審判決は,E社が発行する法律雑誌「○」に,本件控訴審
判決は,F社が発行する法律雑誌「○」に,それぞれ掲載されている。
(甲7の1・2)
⑶本件決定
ア原告は,同月23日,被告に対し,本件文書の開示請求をした。(甲1)
イ被告は,本件職員の配偶者の意見を聞いた上で,同年9月17日,本件
文書のうち次に掲げる部分を不開示とし,その余の部分(本件開示部分)
を開示する旨の本件決定をした。(甲1,乙11)
①「個人の氏名,住所及び事件番号」
②「個人の病状,病気,体重,経歴その他のプライバシーに係る情報」
(本件不開示部分)
③「医学意見書を提出した医師の氏名,元公庫職員が担当した公庫の顧
客及び関係機関の名称並びに同人が訪問した店舗等の名称」
ウ被告は,本件決定に基づき,前記イの①~③の部分をマスキングした本
件文書の写しを原告に送付し,原告はこれを受領した。(甲2)
エ原告は,同月30日,本件決定のうち,前記イの②(本件不開示部分)
及び③の部分を不開示とした部分を不服として,被告に対し,異議申立て
をした。(甲4)
オ被告は,情報公開・個人情報保護審査会に諮問した上で,平成27年3
月23日,原告の異議申立てを棄却する旨の決定をした。(甲3の1~3,
4)
⑷本件訴訟の提起
原告は,同月27日,本件訴訟を提起した。(顕著な事実)
2争点及び当事者の主張
本件の争点は,①本件不開示部分が法5条1号本文前段の不開示情報(個人
識別情報)に該当するか(争点1),②本件不開示部分が法5条1号本文後段
の不開示情報(権利侵害情報)に該当するか(争点2),③本件不開示部分を
法7条(裁量的開示)に基づき開示しなかった被告の判断に裁量権の範囲の逸
脱又はその濫用があるか(争点3)であり,これらの点についての当事者の主
張は以下のとおりである。
⑴争点1(法5条1号本文前段〔個人識別情報〕該当性)について
(被告の主張)
法5条1号本文前段が規定する個人識別情報には,当該情報に含まれる氏
名,生年月日その他の記述等により特定の個人を識別することができるもの
のみならず,他の情報と照合することにより,特定の個人を識別することが
できることとなるものも含まれる。そして,ここでいう「他の情報」とは,
一般に容易に入手し得る情報のみに限定されるものではなく,当該情報の性
質及び内容に照らし,具体的事例において個人識別の可能性をもたらすよう
な情報を含むと解するのが相当である。
本件不開示部分は本件文書に記載された本件職員の「経歴」や「死因・死
期」等に関する情報であるところ,これらは,本件職員の同僚や本件職員の
営業先が有する情報と照合することにより,本件職員を識別することができ
ることとなるものと認められるから,本件不開示部分が個人識別情報に該当
することは明らかである。
(原告の主張)
法5条1号本文前段が規定する個人識別情報には,他の情報と照合するこ
とにより,特定の個人を識別することができることとなるものも含まれると
ころ,ここでいう「他の情報」とは,特殊な事情により特定の個人を識別で
きる可能性がある場合を除き,一般に入手可能な情報をいうものと解するの
が相当である。
本件では,上記特殊な事情は認められず,被告が主張する本件職員の同僚
や本件職員の営業先が有する情報は,一般に入手可能な情報であるというこ
とはできないから,上記「他の情報」には該当しない。そして,本件不開示
部分のみをもって本件職員を識別することができないことは,当事者間に争
いがないから,本件不開示部分が個人識別情報に該当しないことは明らかで
ある。
⑵争点2(法5条1号本文後段〔権利侵害情報〕該当性)について
(被告の主張)
ア本件不開示部分のうち「病状・病気に関する情報」(別紙1文書目録記
載2⑴),「死因・死期に関する情報」(同目録記載2⑶)及び「夫婦間
におけるプライバシー性の高い情報」(同目録記載2⑷)は,本件職員の
人格と密接に関連する秘匿性の高い情報であって,通常人の一般的な感覚
に照らして他人に知られることに苦痛を感じる性質のものである。また,
本件不開示部分のうち「経歴に関する情報」(同目録記載2⑵)は,本件
職員の人格や能力と密接に関連する情報であって,これが公にされれば,
前記⑴の(被告の主張)で述べたように本件職員の同僚や本件職員の営業
先から本件職員の情報であると識別され,その結果,本件職員の尊厳や名
誉感情が侵害されるおそれがある。そうだとすると,本件不開示部分は,
公にすることにより,本件職員の権利利益を害するおそれがあるものであ
るというべきであるから,本件不開示部分が法5条1号本文後段が規定す
る権利侵害情報に該当することは明らかである。
イまた,本件不開示部分の上記のような内容,性質に照らせば,これを公
にすることにより,本件相続人らに精神的苦痛を与えるなど,同人らの権
利利益を害するおそれがあるから,本件不開示部分は本件相続人らとの関
係でも権利侵害情報に該当するというべきである。
なお,原告は,本件相続人らの訴訟代理人であるA弁護士が本件不開示
部分の一部をインターネット上に公開していることからすれば,本件不開
示部分のうちA弁護士が公開している部分については,本件相続人らがこ
れを公にすることに同意しているとみるべきであるから,当該部分は権利
侵害情報に該当しないと主張する。しかしながら,A弁護士が本件不開示
部分の一部をインターネット上に公開している事実から本件相続人らの同
意を推認することはできないし,仮に推認できたとしても,本件相続人ら
との関係で本件不開示部分の権利侵害情報該当性が否定されるだけであっ
て,本件職員との関係においてまで権利侵害情報該当性が否定されるもの
ではないから,原告の主張は失当である。
(原告の主張)
ア本件相続人らの訴訟代理人であるA弁護士が,本件不開示部分の一部で
ある本件職員の経歴,病気,死因等をインターネット上で公開しているこ
と(前記前提となる事実⑵エ)からすれば,上記情報については,これを
公にすることに本件相続人らが同意しているとみるべきである。そうだと
すると,本件不開示部分のうち上記情報は,公にすることにより,個人の
権利利益を侵害するおそれはないということができるから,法5条1号本
文後段が規定する権利侵害情報に該当しないことは明らかである。
イまた,公益にかなう目的のために必要かつ有益なものとして選択された
判決が,個人の権利利益が侵害されることがないように相当と認められる
措置が執られて法律雑誌等に掲載されている場合,その掲載された内容は
権利侵害情報に該当しないと解されるところ,本件控訴審判決は,仮名処
理という措置が取られた上で,判例検索サイトや法律雑誌に掲載されてい
るのであるから,本件不開示部分のうち上記サイト等に掲載されている情
報は,権利侵害情報に該当しないというべきである。
⑶争点3(裁量的開示に係る裁量権の逸脱,濫用)について
(原告の主張)
仮に,本件不開示部分が不開示情報に該当するとしても,被告は,公益上
特に必要があると認めるときは,法7条に基づき,その裁量により,本件不
開示部分を開示しなければならない。
そして,被告が私法人ではなくいわゆる特殊法人であること,本件職員が
自殺当時非常に高額な収入を得ていたこと,本件控訴審判決がインターネッ
ト上において誤解に基づく激しい批判にさらされていること等の事情からす
れば,本件控訴審判決は公益上の観点から開示すべきものであるところ,本
件不開示部分は,本件控訴審判決の妥当性を判断する上で必要不可欠な情報
であるから,本件不開示部分を裁量により開示する公益上の必要性は高いと
いうべきであって,これを開示しなかった被告の判断には裁量権の範囲の逸
脱又はその濫用があることは明らかである。
(被告の主張)
争う。本件不開示部分を開示しなかった被告の判断に,裁量権の範囲の逸
脱又はその濫用は認められない。
第3当裁判所の判断
1争点1(法5条1号本文前段〔個人識別情報〕該当性)について
⑴法5条1号本文前段は,不開示情報の一つとして,個人に関する情報であ
って,当該情報に含まれる氏名,生年月日その他の記述等により特定の個人
を識別することができるもの(他の情報と照合することにより,特定の個人
を識別することができることとなるものを含む。)と規定する。
そして,ここでいう「他の情報」については,法5条1号本文前段が,そ
れ自体は個人を識別させない情報であっても,他の情報と相まって個人が識
別されるものについては,これを不開示情報として個人のプライバシーを保
護しようとする趣旨の規定であると解されること,法3条が何人に対しても
開示請求権を認めており,当該個人と特殊な関係にある者が開示請求をする
可能性があるため,当該特殊な関係にある者との関係をも考慮して当該個人
のプライバシーの保護を図る必要があること,加えて,法5条1号本文前段
が,単に「他の情報」とのみ規定し,その範囲に文言上の限定を加えていな
いこと等に鑑みれば,一般人が知り得る報道や公刊物の情報だけでなく,当
該個人の近親者や関係者のみが知り得る情報が含まれると解するのが相当で
ある。
なお,ここでいう「個人」については,文言上,生存する個人に限定され
ていないこと(独立行政法人等の保有する個人情報の保護に関する法律2条
2項対照)や,このことが死者の名誉ないしプライバシーに関する一般の国
民感情に鑑み,死者の個人識別情報についても,不開示情報として保護を図
るという法の趣旨に基づくものであると解されること等に鑑みれば,死亡し
た個人が含まれると解するのが相当である。
⑵前記前提となる事実,証拠(甲7の2)及び弁論の全趣旨によれば,本件
不開示部分のうち「経歴に関する情報」(別紙1文書目録記載2⑵)は,本
件職員が勤務した支店に関する情報(支店の所在地を推認させる情報を含む。),
本件職員の婚姻状況に関する情報(配偶者の住居地や就業状況に関する情報
を含む。)等であると認められるところ,これらの情報が公になれば,既に
公となっている本件開示部分の情報や,本件職員の近親者や関係者が知り得
る本件職員の勤務地や婚姻状況に係る情報と照合することにより,死亡した
個人である本件職員を識別することができることとなるものと認められるか
ら,本件不開示部分のうち「経歴に関する情報」は,個人識別情報に該当す
る。
なお,本件不開示部分のうち,「病状・病気に関する情報」(別紙1文書
目録記載2⑴),「死因・死期に関する情報」(同目録記載2⑶)及び「夫
婦間におけるプライバシー性の高い情報」(同目録記載2⑷)は,後記2の
とおり法5条1号本文後段が規定する権利侵害情報に該当するから,個人識
別情報該当性についての判断は示さないこととする。
2争点2(法5条1号本文後段〔権利侵害情報〕該当性)について
⑴前記前提となる事実,証拠(甲7の2)及び弁論の全趣旨によれば,本件
不開示部分のうち「病状・病気に関する情報」は,本件職員が発症した精神
疾患の病名やその症状(症状の発露と思われる本件職員の言動を含む。)で
あり,このような個人の心身に関する情報は,その性質上,個人が開示を望
まない高度の秘匿性が求められる情報というべきである。また,本件不開示
部分のうち「死因・死期に関する情報」についても,個人の心身に関する情
報であるから,その性質上,個人が開示を望まない高度の秘匿性が求められ
る情報というべきである。そして,本件不開示部分のうち「夫婦間における
プライバシー性の高い情報」は,本件職員が配偶者に送信した電子メールの
一部分(夫婦間で用いられていた符丁や夫婦間の性交渉に関わるやり取りな
ど)であり,純然たる私的領域に属する事項であるから,本件職員の人格と
密接に関係する情報というべきである。そうだとすると,本件不開示部分の
うち,「病状・病気に関する情報」,「死因・死期に関する情報」及び「夫
婦間におけるプライバシー性の高い情報」は,本件職員を識別するには至ら
ない情報であっても,当該個人の同意なしに第三者に流通させることは適切
ではないというべきであるから,これらは,いずれも,法5条1号本文後段
が規定する権利侵害情報に該当すると認めるのが相当である。
⑵この点,原告は,本件相続人らの訴訟代理人であるA弁護士が,本件不開
示部分の一部である本件職員の経歴,病気,死因等をインターネット上で公
開していることからすれば,上記情報については,これを公にすることに本
件相続人らが同意しているとみるべきであるから,権利侵害情報には該当し
ないと主張する。しかしながら,A弁護士が本件不開示部分の一部をインタ
ーネット上に公開している事実から直ちに本件相続人らの同意を推認するこ
とはできないし,仮に推認できたとしても,本件職員の権利利益は死者の名
誉ないしプライバシーとして本件相続人らの権利利益とは別個に保護される
べきものであるから,本件相続人らの同意によって本件職員の権利利益を害
するおそれが否定されるものではない。したがって,原告の主張は採用する
ことができない。
また,原告は,公益にかなう目的のために必要かつ有益なものとして選択
された判決が,個人の権利利益が侵害されることがないように相当と認めら
れる措置が執られて法律雑誌等に掲載されている場合,その掲載された内容
は権利侵害情報に該当しないと解すべきであるから,本件不開示部分のうち
判例検索サイト等に掲載されている情報は,権利侵害情報に該当しないと主
張する。しかしながら,判決が法律雑誌等に掲載されているからといって,
本件不開示部分の開示によって新たな権利利益の侵害が生ずるおそれが一般
的に否定されるものではなく,本件不開示部分がその情報の具体的内容に照
らし権利侵害情報に該当することは前示のとおりであるから,原告の主張は
採用することができない。
さらに,原告は,東京労働局が原告に開示した判決書(甲11の1・2)
や,原告が購入した「○」に掲載されている裁決(甲16の1~4)に,個
人の経歴の一部や死因に関する事項が原文のまま記載されていることとのバ
ランスからすれば,本件不開示部分の相当部分は権利侵害情報に該当しない
と解するべきであると主張する。しかしながら,不開示情報該当性の判断は,
対象となる法人文書に係る個別具体的な事情を考慮して行われるものである
から,上記判決書等の内容が本件不開示部分の権利侵害情報該当性の判断を
直ちに左右するものではない。したがって,原告の主張は採用することがで
きない。
加えて,原告は,将来的にインターネット上で裁判記録を閲覧できるよう
にするためにも,仮名処理が施された判決書の内容は権利侵害情報に該当し
ないと解すべきであると主張する。しかしながら,原告の主張の根拠となる
法令上の規定は見当たらず,本件不開示部分が権利侵害情報に該当すること
は前示のとおりであるから,原告の主張は採用することができない。
3争点3(裁量的開示に係る裁量権の逸脱,濫用)について
⑴法7条は,独立行政法人等は,開示請求に係る法人文書に不開示情報が記
録されている場合であっても,公益上特に必要があると認めるときは,開示
請求者に対し,当該法人文書を開示することができると規定している。これ
は,開示請求に係る法人文書に法5条各号に掲げる不開示情報が記録されて
おり,その開示が禁止される場合であっても,当該情報についての個別的事
情のいかんによっては,当該情報の記録された文書を開示することに,これ
を不開示とすることにより保護される利益を上回る公益上の必要性があると
認められる場合があり得ることから,独立行政法人等の行政的判断により,
当該文書の開示を行う余地を残すこととしたものである。このような法7条
の趣旨及びその規定の形式に鑑みれば,当該文書を不開示とした決定が違法
となるのは,当該文書を開示することに,これを不開示とすることにより保
護される利益を上回る公益上の必要性が認められないとした独立行政法人等
の判断に裁量権の範囲の逸脱又はその濫用がある場合に限られると解するの
が相当である。
⑵原告は,本件不開示部分は,公益上開示すべき本件控訴審判決の妥当性を
判断する上で必要不可欠な情報であるから,本件不開示部分を裁量により開
示する公益上の必要性は高いというべきであって,これを開示しなかった被
告の判断には裁量権の範囲の逸脱又はその濫用があると主張する。
しかしながら,本件控訴審判決は既に判例検索サイト及び法律雑誌に掲載
されているのであって,本件不開示部分も固有名詞や地名の一部を除いてそ
のまま掲載されており(前記前提となる事実⑵オ),また,本件控訴審判決
を理解するために上記固有名詞や地名が必要であることをうかがわせる事情
も認められないのであるから,本件不開示部分を裁量により開示する公益上
の必要性が高いということはできない。したがって,本件不開示部分を開示
しなかった被告の判断に,裁量権の範囲の逸脱又はその濫用があるというこ
とはできない。
4結論
⑴前記1及び2で判示したとおり,本件不開示部分は法5条1号本文が規定
する不開示情報に該当し,前記3で判示したとおり,本件不開示部分を開示
しなかった被告の判断に,裁量権の範囲の逸脱又はその濫用があるというこ
とはできないから,本件決定のうち本件不開示部分を不開示とした部分は適
法である。したがって,同部分の取消しを求める訴えは,理由がないものと
して棄却されるべきである。
そして,一定の処分を求める旨の法令に基づく申請を却下し又は棄却する
旨の処分がされた場合における当該一定の処分についての義務付けの訴えは,
当該申請に対する応答としてされた処分が「取り消されるべきものであり,
又は無効若しくは不存在である」(行政事件訴訟法37条の3第1項2号)
という要件に該当するときに限り提起することができるものであるから(同
項柱書き),本件決定のうち本件不開示部分を不開示とした部分が取り消さ
れるべきものでない以上,本件義務付けの訴えは不適法な訴えとして却下さ
れるべきである。
⑵以上のとおり,本件訴えのうち本件義務付けの訴えに係る部分は,不適法
であるからこれを却下し,原告のその余の請求は,理由がないからこれを棄
却することとし,主文のとおり判決する。
大阪地方裁判所第2民事部
裁判長裁判官西田隆裕
裁判官角谷昌毅
裁判官松原平学
別紙1
文書目録
1「平成17年▲月▲日発生の過労自殺に関する大阪地裁平成25年3月6日判
決を全部取り消した,大阪高裁平成26年7月17日判決」
21のうち,以下に掲げる部分
⑴「病状・病気に関する情報」(別紙2記載アの部分)
⑵「経歴に関する情報」(別紙2記載イの部分)
⑶「死因・死期に関する情報」(別紙2記載ウの部分)
⑷「夫婦間におけるプライバシー性の高い情報」(別紙2記載エの部分)

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