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平成14年(行ケ)第486号 審決取消請求事件
口頭弁論終結の日 平成14年12月11日
             判       決
          原       告   大塚食品株式会社
          同訴訟代理人弁護士   吉   原   省   三
          同           小   松       勉
          同           三   輪   拓   也
          同           竹   田   吉   孝
          同訴訟代理人弁理士   中   澤   直   樹
          被       告   京とうふ藤野株式会社
             主       文
1 特許庁が無効2001-35209号事件について平成14年8月2
0日にした審決のうち,登録第4408496号商標の指定商品中,商標法施行令
1条別表第29類「豆腐」,第30類「コーヒー及びココア,コーヒー豆,茶,香
辛料,食品香料(精油のものを除く。),穀物の加工品」について,請求を成り立
たないとした部分を取り消す。
2 訴訟費用は被告の負担とする。
             事実及び理由
第1 請求
 主文同旨
第2 事案の概要
 本件は,原告が,特許庁に対し,被告において設定登録を受けた商標権につ
いて,商標法4条1項16号に違反して登録されたものであると主張して,同法4
6条1項に基づき,商標登録の無効審判を請求したところ,特許庁が,同請求はそ
の指定商品全部について成り立たない旨の審決をしたことから,原告が,被告に対
し,同審決のうち,一部の指定商品に係る部分について,取消しを求めた事案であ
る。
 1 前提となる事実
(1) 被告の商標権設定登録
 被告は,平成11年6月10日,商標の構成を標準文字による「トフィ
ー」の片仮名文字とし,指定商品を商標法施行令1条別表第1第29類「食肉,食
用魚介類(生きているものを除く。),肉製品,かつお節,豆,加工野菜及び加工
果実,冷凍果実,冷凍野菜,卵,加工卵,乳製品,食用油脂,カレー・シチュー又
はスープのもと,なめ物,お茶漬けのり,油揚げ,豆腐,食用たんぱく」及び第3
0類「コーヒー及びココア,コーヒー豆,茶,みそ,しょうゆ,すりごま,化学調
味料,香辛料,食品香料(精油のものを除く。),食用粉類,食用グルテン,穀物
の加工品,すし,氷,酒かす」(なお,「砂糖,菓子及びパン,ソフトクリーム,
即席菓子のもと,アイスクリームのもと,アーモンドペースト,イーストパウダ
ー,アイスクリーム用凝固剤」についても,当初,指定商品とされていたが,これ
らは,特許庁からの出願審査時の拒絶理由通知書を受けて,指定商品から削除補正
された。)とする商標(以下「本件商標」という)について,登録出願し,同12
年7月7日,特許庁の査定を経て,同年8月11日,商標権の設定登録(商標登録
第4408496号)を受けた(甲1から3)。
(2) 原告請求に係る本件商標の商標登録無効審判
 原告は,平成13年5月15日,本件商標につき,「砂糖・バター・ナッ
ツ類などから作るキャラメル風の菓子」を意味する語として一般に知られてい
る「taffy(toffee,toffy)」という英単語に通じるところ,上記菓子と本件商標の
指定商品とは,流通経路等を共通にするから,その指定商品に本件商標を使用する
ときは,商品の品質の誤認を生ずるおそれがあると主張して,商標法46条1項,
4条1項16号に基づき,商標登録の無効審判を請求した。
 これに対し,被告は,何らの答弁をしなかったが,特許庁は,平成14年
8月20日,「トフィー」の片仮名文字につき,「砂糖・バター・ナッツ類などか
ら作るキャラメル風の菓子」を意味する「taffy(toffee,toffy)」という英単語に
通じることは認め得るものの,「taffy(toffee,toffy)」は,商品の種類をキャン
ディーの一種とする嗜好本位の間食品といえる洋菓子であって,原材料を「砂糖・
バター・ナッツ類など」とするものであり,本件商標の指定商品とは,原材料,用
途,用法を異にし,かつ,取引の系統をも異にしているものであるから,本件商標
をその指定商品に使用しても,商品の品質について誤認を生じさせるおそれがある
ものと判断することはできないとして,審判の請求は成り立たない旨の審決(以下
「本件審決」という)を行い,本件審決の謄本は,同月30日,原告に送達された
(以上につき,甲1,2,弁論の全趣旨)。
 2 原告の主張する本件審決の取消事由
 「トフィー」という語は,「砂糖・バター・ナッツ類などから作るキャラメ
ル風の菓子」を意味する「taffy(toffee,toffy)」という英単語に通じるのみなら
ず,当該キャラメル風の菓子を意味する普通名称であるので,本件商標をその指定
商品である商標法施行令1条別表第1第29類「豆腐」,第30類「コーヒー及び
ココア,コーヒー豆,茶,香辛料,食品香料(精油のものを除く。),穀物の加工
品」のうち,キャラメル風味以外のものに使用すると,当該商品がキャラメル風味
を有するものとして,商品の品質の誤認を生ずるおそれがあるにもかかわらず,本
件審決は,誤って,商品の品質の誤認を生ずるおそれはないと判断したものであ
る。
 なお,被告は,本件訴訟手続においても,争う意思はない旨の上申書を提出
し,本件口頭弁論期日に出頭しない。
第3 当裁判所の判断
1 「トフィー」という語は,本件商標登録出願の査定時において,普通名称と
して,取引者及び消費者一般に理解されるものとなっていたか否か。
(1) 「トフィー」という語の存在
 証拠(甲4,5,8の(5),12の(1)から(9),(10)の①から③,(11)か
ら(18),13,14の(2)から(5),15の(2)(3),16の(2)(3),17の(2),18
の(2)(3),19の(2))によれば,「taffy(toffee,toffy)」という英単語は,
「砂糖・バター・ナッツ類などから作るキャラメル風の菓子」を意味するものであ
り,わが国では,上記英単語の片仮名表記として,「トフィー」「タフィー」「タ
フィ」「タッフィー」等が用いられているものと認められるから,「トフィー」と
いう語は,上記キャラメル風の菓子を意味する「taffy(toffee,toffy)」という英
単語の片仮名表記ということができる。
(2) 「トフィー」という語の使用状況
ア 本件商標登録出願の査定時(平成12年7月7日)以前について
 証拠(甲11,13)及び弁論の全趣旨によれば,わが国における著名
な菓子製造販売業者であり,多数の販売店舗を有する不二家は,昭和50年ころ以
降,「ゴールデントフィー」という商品名のキャラメル又はキャラメル風の菓子を
製造販売していたことが認められ,また,証拠(甲8の(1)(5)(6))によれば,小林
彰夫他編集「菓子の事典」(平成12年5月20日発行)392頁には,「キャラ
メル(caramel)は,19世紀中頃アメリカで生まれ,ヨーロッパに広がった。ヨーロ
ッパでは,トフィー(toffee)とよばれる場合もある。」と記載されていることが認
められる。
イ 本件商標登録出願の査定時以降について
(ア)証拠(甲4)によれば,山本候充編「洋菓子・和菓子・デザート 百
菓辞典」(6版,平成14年8月10日発行,なお,初版は平成9年8月30日発
行)151頁には,「タフィー 英taffy タッフィー,トフィーとも表記する。キ
ャンディーの一種。砂糖・バターなどで作るキャラメル風の菓子。」と記載されて
いることが認められる。
(イ)また,証拠(甲11,12の(1)から(9),(10)の①から③,(11)か
ら(18))によれば,本件原告訴訟代理人弁護士小松勉が,平成14年11月16
日,インターネットショッピングモール「楽天」において,キーワードを「トフィ
ー」として検索したところ,次の各商品の紹介があったことを認めることができ
る。
a 「ロンドン市内を走るロンドンバスをイメージした缶の中にクリー
ムトフィーを入れました。」等の説明を付した「チャーチルロンドンバスキャンデ
ィ3缶セット」
b 「ビッグベンをかたどった缶に,ミルクたっぷりのクリームトフィ
ー」等の説明を付した「チャーチルビッグベントフィー3缶セット」
c 「トフィーでからめたアーモンドをウエハーにのせて焼きまし
た。」等の説明を付した菓房赤い実株式会社製「フロランタンウエハー」
d 「トフィーキャンディーで包んだ,香ばしい大粒で良質なマカデミ
アナッツをさらにミルクチョコレートで包み,シュガーパウダーをまぶしまし
た。」等の説明を付した「メレマックス マカデミアナッツチョコレート」
e セット内容につき「ドリップコーヒー20袋,アーモンドココア6
袋,ココナットフィー8袋,アーモンドラングドシャ7袋,ヘーゼルシナモン9
袋」との説明を付した「シャルマン ドリップコーヒー・洋菓子セット」
f 種類につき「1.ダブルファッジ,2.ピーナッツバターチョコレ
ート,3.イングリッシュトフィー,4.ダークチョコチャンクマイルド,5.ホ
ワイトチョコピーカン」との説明を付した「アメリカン・クッキーツリー社クッキ
ー(冷凍発送品)」
g 「セイロン紅茶にスコティッシュトフィー(砂糖菓子)とアーモン
ドの香りを加えました。白く見える部分がトフィーです。」等の説明を付し,か
つ,成分につき「セイロン紅茶(スリランカ),トフィー(英国),天然香料(ス
イス)」との説明を付したフレーバードティー「ハイランドトフィー」
h 「ブラックチャイナティーにキャラメルトフィーのフレーバーをブ
レンドした紅茶です。」等の説明を付したフレーバードティー「キャラメルトフィ
ー」
i 「スコットランドの『トフィー』という砂糖菓子が入った女性やお
子様に人気のティー♪ 香りも味もほんのり甘くて,とろけそう!!白い粒が入っ
ていますが,それがトフィーです。」との説明を付したフレーバードティー「ハイ
ランド・トフィー」
j フレーバーコーヒーのコーヒー豆「バタートフィー」
k セット内容につき「フレーバーコーヒー(ヘーゼルナッツ,フレン
チバニラ,アイリッシュクリーム,ホリデーチェアー,バタートフィー,チョコレ
ートラズベリー」等との説明を付した「12Days(コーヒー詰合せセット)」
l 種類につき「アイリッシュクリーム,バター トフィー」との説明
を付した「アイス フレーバーコーヒー」
m 「トフィーの様に甘く」等の説明を付したスコッチウィスキー「ベ
ンリアック 10年 43°」
n 「モルトとトフィーの風味が長く残る。」等の説明を付したスコッ
チウィスキー「スキャパ カスク No.12083 1980年/16YO キングスバリー オ
リジナル」
o 「素晴らしいバタートフィーの香りがあり」等の説明を付したスコ
ッチウィスキー「スキャパ カスク No.12093 1980年/16YO キングスバリー 
オリジナル」
p 「ココナッツ,パッションフルーツ,ナッツのトフィーを感じま
す。」等の説明を付したスコッチウィスキー「スプリング バンク 21年 
46/700」
q 「非常に広がりのある芳香でトフィーやフルーツの香り。」等の説
明を付したラム酒「ポートモーラント 1988」
r 「味:トフィーの後,極めて芳醇でふくよか。ウェアハースやトフ
ィーに感じるヴァニラのよう。」等の説明を付したスコッチウィスキー「ゴールデ
ンプロミス マッカラン 1988 700ml」
s 「香り:トフィーのような甘さ。わずかにワックス。」等の説明を
付したスコッチウィスキー「ゴールデンプロミス グレンリヴェット 1977 
700ml」
t 「トフィーリキュール キャラメル味」との説明を付したリキュー
ル「ドゥーリーズ」
u 「かすかなタフィー香とおだやかなカラメル香のミュンヘンタイプ
黒ビール。」等の説明を付した地ビール「金沢ビール 犀川 330ml」
v 「タフィー(キャンディ) コーヒースカッチのような甘いブラウ
ン。」との説明を付したネイルカラー「Toffee115」
(ウ)さらに,証拠(甲11,13)によれば,本件原告訴訟代理人弁護士
小松勉が,平成14年11月16日,インターネット検索サイト「Google」におい
て,キーワードを「トフィー」と「菓子」として検索したところ,約222件が抽
出されたが,その中には,上記(イ)記載の各商品の紹介等に加え,「トフィー」の説
明として,次の各記載のあったことが認められる。
a 「EnglishToffee)イギリスの伝統的なキャンディ菓子トフィー」
b 「トフィーとはバター,砂糖から造る欧米でポピュラーなキャンデ
ィーのようなお菓子です」
c 「TOFFEE(トフィ)・・・バター・砂糖からつくる,欧米でポピュ
ラーなキャンディのようなお菓子。」
d 「イングリッシュ トフィーEnglishToffee軽いキャラメル味の
イギリスでは定番の焼き菓子です。」
(エ)加えて,証拠(甲11,14の(1)から(5),15の(1)から(3),16
の(1)から(3),17の(1)(2),18の(1)から(3))によれば,平成14年11月1
5日,次の各店において,次の各商品が販売されていたことを認めることができ
る。
a スーパーマーケット紀伊国屋青山店
(a)「ミルクリッチな味わいのクリーミーチョコにトフィーとアーモ
ンドが入った新食感」等の説明を付したトフィーとアーモンドの入ったミルクチョ
コレート「HERSHEY'SKISSESEXTRACREAMYMILKCHOCOLATEWITHTOFFEE&
ALMONDS」(日本語の商品名「ハーシー キス トフィー&アーモンドチョコ」)
(b)「ラム酒の味と香りをキャラメルで包みました。」との説明を付
したキャンディ「TREBORRUMTOFFEE」(日本語の商品名「トレボー ラムタフ
ィ」)
(c)キャラメル風味のミルクチョコレート「LesSarments」(日本語
の商品名「サルマンチョコ(ミルクタフィー)」)
(d)詰め合わせの内容につき「バタータフィ,コーヒーキャンディ,
クリームタフィ,ミルクタフィ,チョコタフィ,キャラメルキャンディ・・・」と
の説明を付したチョコレート菓子・キャンディ詰合せ「TrefinCasualMix
CHOCOLATE&TOFFEE」(日本語の商品名「トレファン カジュアルミックス(チョ
コレートタフィ)」)
b スーパーマーケット成城石井atreえびす店
(a)「ミルクから出来たバターキャラメル。」との説明を付したキャ
ンディ「SweetTrefin」「Goldentoffee」(日本語の商品名「トレファン ゴール
デンタフィ」)
(b)詰め合わせの内容につき「バタータフィ,コーヒーキャンディ,
クリームタフィ,ミルクタフィ,チョコタフィ,キャラメルキャンディ・・・」と
の説明を付したチョコレート菓子・キャンディ詰合せ「トレファンチョコレートタ
フィ」
c 雑貨店ソニープラザアトレ恵比寿店
(a)「ミルクリッチな味わいチョコレートにカリカリキャラメルのト
フィーとカリフォルニアアーモンドが入った」等の説明を付したトフィーとアーモ
ンドが入ったミルクチョコレート「HERSHEY'SNUGGETSExtraCreamyMilk
ChocolatewithToffee&Almonds」(日本語の商品名「ハーシーナゲットトフィー
&アーモンドチョコ」)
(b)a(a)と同じもの
d コンビニエンスストアampm銀座2丁目店
 トフィーとアーモンドの入ったミルクチョコレート「HERSHEY'S
NUGGETS」(日本語の商品名「ハーシーナゲット トフィー&アーモンド」)
e 酒販店Sanmi
(a)トフィーとアーモンドの入ったミルクチョコレート「HERSHEY'S
NuggetsCREAMYMILKCHOCOLATEWITHTOFFEE&ALMONDS」(日本語の商品名「ハー
シーナゲットクリーミートフィー&アーモンド」)
(b)詰め合わせの内容につき「バタータフィ,コーヒーキャンディ,
クリームタフィ,ミルクタフィ,チョコタフィ,キャラメルキャンディ・・・」と
の説明を付したチョコレート菓子・キャンディ詰合せ「トレファン チョコレート
タフィ」
(オ)のみならず,証拠(甲11,19の(1)(2))及び弁論の全趣旨によれ
ば,わが国における著名な菓子製造販売業者であり,全国の百貨店等に多数出店し
ている株式会社メリーチョコレートカムパニーの平成14年11月16日当時の商
品カタログには,「プレーンチョコレート,タフィー,ナッツのチョコレートがけ
など,チョコレートを使ったお菓子の美味しさを存分にお楽しみいただけます。」
との説明を付したチョコレートミックスが掲載されていることを認めることができ
る。
(3) 以上のとおり,「taffy(toffee,toffy)」という英単語は,欧米では定番
となっている「砂糖・バター・ナッツ類などから作るキャラメル風の菓子」を意味
するものであり,「トフィー」という語は,この英単語の片仮名表記ということが
できるところ,本件商標登録出願の査定時以前から,わが国においては,著名な菓
子製造販売業者によって,キャラメル又はキャラメル風の菓子で,商品名に「トフ
ィー」という文字部分を含んだ商品が製造販売され,かつ,書籍によって,ヨーロ
ッパでは,キャラメルについて,トフィーと呼ばれることがある旨紹介されていた
ものである。
 そして,本件商標登録出願の査定時以降は,インターネットショッピング
モールにおいて,キャラメル又はキャラメル風の菓子で,商品名に「トフィー」等
という文字部分を含んだ商品,キャラメル又はキャラメル風の菓子を香料,添加物
又は副材料としたウエハー,チョコレート,紅茶,コーヒーで,商品名に「トフィ
ー」等という文字部分を含んだ商品が複数種紹介され,また,キャラメル風味を有
するスコッチウィスキー,地ビールについて,「トフィーの様」等と表現されるこ
とがあり,さらに,スーパーマーケット,雑貨店,コンビニエンスストア等では,
キャラメル又はキャラメル風の菓子で,商品名に「トフィー」等という文字部分を
含んだ商品,キャラメル又はキャラメル風の菓子を香料,添加物又は副材料とした
チョコレートで,商品名に「トフィー」等という文字部分を含んだ商品が複数種販
売されており,しかも,著名な菓子製造販売業者の商品カタログには,「タフィ
ー,ナッツのチョコレートがけ」等の表現部分が存在するなどしていたものであ
る。
 このようなわが国における「トフィー」という語の使用状況に加え,その
使用状況が,本件商標登録出願の査定前後において,著しく変化したことを窺わせ
るに足りる証拠の存在しないことを併せ考慮すれば,「トフィー」という語は,本
件商標登録出願の査定時において,既に,キャラメル又はキャラメル風の菓子を意
味する普通名称として,取引者及び消費者一般に理解されるものとなっていたとい
うべきである。
2 そこで,次に,キャラメル又はキャラメル風の菓子を意味する普通名称とい
うべき「トフィー」という語と同一である本件商標が,その指定商品である商標法
施行令1条別表第1第29類「豆腐」,第30類「コーヒー及びココア,コーヒー
豆,茶,香辛料,食品香料(精油のものを除く。),穀物の加工品」に使用された
場合に,商品の品質について,誤認の生ずるおそれがあるか否かを検討する。
(1) 確かに,本件審決が指摘するとおり,キャラメル又はキャラメル風の菓子が
嗜好本位の間食品といえる洋菓子であることは,否定しがたいところである。
(2) しかしながら,上記1(2)イ(イ)から(エ)のとおり,キャラメル又はキャラメ
ル風の菓子を香料,添加物又は副材料としたウエハー,チョコレート,クッキー,
紅茶,コーヒー,リキュールが,インターネットショッピングモールにおいて複数
種紹介されたり,スーパーマーケット等で複数種販売されていることに,証拠(甲
9の(1)(2),10の(1)(2))及び弁論の全趣旨によれば,キャラメル風味のフレー
バーコーヒーが近時人気となり,大手コーヒーチェーン店スターバックスコーヒー
において,遅くとも,平成12年12月20日ころまでには,キャラメルソースを
トッピングしたコーヒーが販売されたり,雑誌「日経レストラン」2001年6月
号等において,業務用のコーヒー用のキャラメル風味のフレーバーソースやフレー
バーシロップの宣伝が掲載されているものと認められることを併せ考慮すれば,キ
ャラメル又はキャラメル風の菓子は,コーヒー,紅茶等を初めとする幅広い種類の
飲食品において,香料,添加物又は副材料として利用されているものというべきで
ある。なお,このようなキャラメル又はキャラメル風の菓子の香料,添加物又は副
材料としての利用状況が,本件商標登録出願の査定前後において,著しく変化した
ことを窺わせるに足りる証拠は存在しない。
 そして,風味付けされた飲食品において,その風味の素となる香料,添加
物又は副材料の名称を商品に表示することが世間一般に行われていることは,上記
1(2)に摘示した各商品の紹介からも,明らかなところである。
(3) 上記(2)の各事情に照らせば,本件商標登録出願の査定時において,本件商
標の指定商品である商標法施行令1条別表第1第30類「コーヒー及びココア,コ
ーヒー豆,茶」のうち,キャラメル又はキャラメル風の菓子が香料,添加物又は副
材料として利用されていないものについて,本件商標が使用されたとすれば,取引
者及び需要者は,それらの商品について,あたかも,キャラメル又はキャラメル風
の菓子が香料,添加物又は副材料として利用されているものであるかのように認識
するため,商品の品質について,誤認の生ずるおそれがあるというべきであるし,
また,本件商標の指定商品である上記別表第1第30類「香辛料,食品香料(精油
のものを除く。)」のうち,キャラメル風味でないものについて,本件商標が使用
されたとすれば,取引者及び需要者は,それらの商品について,あたかも,キャラ
メル風味であるかのように認識するため,商品の品質について,誤認の生ずるおそ
れがあるというべきである。
(4) ところで,原告は,上記別表第1第30類「コーヒー及びココア,コーヒー
豆,茶,香辛料,食品香料(精油のものを除く。)」に加え,上記別表第1第29
類「豆腐」,第30類「穀物の加工品」のうち,キャラメル又はキャラメル風の菓
子が香料,添加物又は副材料として利用されていないものについても,本件商標が
使用されたとすれば,取引者及び需要者において,商品の品質について,誤認の生
ずるおそれがあると主張する。
ア 第29類「豆腐」について
(ア)まず,証拠(甲11,20)によれば,現に,被告において,豆腐を
材料として製造した菓子である「焼きおとふのババロア」等を販売していることが
認められる。
 また,わが国において,近時の健康食品志向等を受けて,豆腐を材料
として製造した飲食品として,豆腐アイスクリーム,豆腐ちくわ,豆腐ハンバー
グ,豆腐ステーキ,豆腐グラタン等が身近に販売されていること,古くから,豆腐
に,柚子等の香りを添加したり,南瓜等を副材料とするなどした「変わり豆腐」が
身近に販売されていることは,いずれも当裁判所に顕著な事実である。
 これらの各事情に照らすと,従来は,豆腐が材料として用いられるこ
とのなかった飲食品について,豆腐が材料として用いられるようになってきている
ものというべきであるし,また,種々の香料,添加物又は副材料が豆腐に用いられ
ることは,古くから行われてきたことであり,珍しいことではないというべきであ
る。
(イ)そして,風味付けされた飲食品において,その風味の素となる香料,
添加物又は副材料の名称を商品に表示することが世間一般に行われていることは,
上記(2)後段の判断のとおりである。
(ウ)上記(ア)(イ)の各事情に照らせば,本件商標の指定商品である第29類
「豆腐」のうち,キャラメル又はキャラメル風の菓子が香料,添加物又は副材料と
して利用されていないものについて,本件商標が使用されたとすれば,取引者及び
需要者は,その商品について,あたかも,キャラメル又はキャラメル風の菓子が香
料,添加物又は副材料として利用されているものであるかのように認識するため,
商品の品質について,誤認の生ずるおそれがあることは,否定し難いところという
べきである。
イ 第30類「穀物の加工品」について
 商標法施行規則6条別表によれば,第30類「穀物の加工品」には,コ
ーンフレークが含まれるところ,コーンフレークに,種々の香料,添加物又は副材
料が利用されていることは,当裁判所に顕著な事実である。
 そして,風味付けされた飲食品において,その風味の素となる香料,添
加物又は副材料の名称を商品に表示することが世間一般に行われていることは,上
記(2)後段の判断のとおりである。
 そうであれば,本件商標の指定商品である第30類「穀物の加工品」に
ついても,例えば,コーンフレークにおいて,キャラメル又はキャラメル風の菓子
が香料,添加物又は副材料として利用されていないものについて,本件商標が使用
されたとすれば,取引者及び需要者は,その商品についてあたかも,キャラメル又
はキャラメル風の菓子が香料,添加物又は副材料として利用されているものである
かのように認識するため,商品の品質について,誤認の生ずるおそれがあるという
べきである。
3 結論
 以上のとおり,本件商標の指定商品である商標法施行令1条別表第1第29
類「豆腐」,第30類「コーヒー及びココア,コーヒー豆,茶,香辛料,食品香料
(精油のものを除く。),穀物の加工品」のうち,キャラメル又はキャラメル風の
菓子が香料,添加物又は副材料として利用されていないものについて,本件商標が
使用されたとすれば,商標法4条1項16号に該当する事由があるというべきであ
るから,これらの指定商品については,本件商標の登録を無効とすべきものであ
る。したがって,これと結論を異にする本件審決の部分は,違法というべきであ
り,取消しを免れない。
 よって,原告の本訴請求は理由があるから,これを認容することとし,主文
のとおり判決する。
    東京高等裁判所第3民事部
           裁判長裁判官  北  山  元  章
              裁判官  青  柳     馨
              裁判官絹  川  泰  毅

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