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平成12年(ワ)第8267号 特許権侵害差止等請求事件
口頭弁論終結日 平成13年6月22日
             判      決
       原      告        新倉計量器株式会社
       原      告        株式会社村春製作所
       原告ら訴訟代理人弁護士   高橋隆二
       原告ら補佐人弁理士 元井成幸
      被      告        タムラ産業株式会社
       訴訟代理人弁護士    及川信夫
       補佐人弁理士    忰熊弘稔
       被      告        株式会社アイティーオー
       訴訟代理人弁護士    青山 學
同井口浩治
同加藤文子
同石川恭久
同平林拓也
             主      文
    1(1) 被告タムラ産業株式会社は,別紙物件目録(1)記載の製品を製造,
販売してはならない。
     (2) 被告タムラ産業株式会社は,その占有する上記製品及び上記製品を
製造するための金型を廃棄せよ。
     (3) 被告株式会社タムラ産業株式会社は,原告新倉計量器株式会社に対
し,金682万4519円及びこれに対する平成12年4月29日から支払済みま
で年5分の割合による金員を支払え。
    2(1) 被告株式会社アイティーオーは,別紙物件目録(1)記載の製品を販
売してはならない。
     (2) 被告株式会社アイティーオーは,その占有する上記製品を廃棄せ
よ。
     (3) 被告株式会社アイティーオーは,原告新倉計量器株式会社に対し,
金116万0888円及びこれに対する平成12年4月28日から支払済みまで年
5分の割合による金員を支払え。
    3 原告新倉計量器株式会社の被告らに対するその余の請求をいずれも棄
却する。
    4 訴訟費用については,原告新倉計量器株式会社に生じた費用の3分の
1と被告らに生じた費用の9分の2を原告新倉計量器株式会社の負担とし,原告株
式会社村春製作所に生じた費用と原告新倉計量器株式会社及び被告らに生じたその
余の費用を被告らの負担とする。
    5 この判決の第1項及び第2項は,仮に執行することができる。
             事実及び理由
第1 請求
 1 主文1(1),(2),同2(1),(2)と同旨
 2 被告株式会社タムラ産業株式会社は,原告新倉計量器株式会社に対し,金3
000万円及びこれに対する平成12年4月29日から支払済みまで年5分の割合
による金員を支払え。
 3 被告株式会社アイティーオーは,原告新倉計量器株式会社に対し,金136
0万円及びこれに対する平成12年4月28日から支払済みまで年5分の割合によ
る金員を支払え。
第2 事案の概要等
 1 争いのない事実等
(1) 当事者
 ア 原告新倉計量器株式会社(以下「原告新倉」という。)は,計量器販売
等を目的とする株式会社であり,原告株式会社村春製作所(以下「原告村春」とい
う。)は傘袋自動装着装置の卸等を目的とする株式会社である。
 イ 被告タムラ産業株式会社(以下「被告タムラ」という。)は,自走式,
機械式立体駐車場の駐車装置等の販売等を目的とする株式会社であり,被告株式会
社アイティーオー(以下「被告アイティーオー」という。)は,文房具,事務用
品,オフィス用品,事務用器具及び家具類の製造並びに販売等を目的とする株式会
社である。
(2) 原告らが有する特許権
 ア 原告らは,以下の特許権(以下,その特許権を「本件特許権」といい,
その特許発明を「本件発明」という。)を共有している。
  【発明の名称】 傘の袋収納装置
  【特許番号】  第2562806号
  【出願日】 平成6年1月20日
【公開日】  平成7年8月8日
【登録日】平成8年9月19日
【特許請求の範囲】
 装置本体に傘の収納袋を装填し,その収納袋の挿入口を開放する開放操
作部材を装置本体内に回動可能に設け,その開放操作部材に傘の先端を当接させて
回動させることによって上記収納袋の挿入口を開放すると共に,上記開放操作部材
に当接させた傘の先端を該開放操作部材の表面を滑らせながら上記挿入口から収納
袋内に押し込んで収納するように構成したことを特徴とする傘の袋収納装置。
イ 本件発明の構成要件を分説すると,以下のとおりである。
 A 装置本体に傘の収納袋を装填し,
 B その収納袋の挿入口を開放する開放操作部材を装置本体内に回動可能
に設け,
 C その開放操作部材に傘の先端を当接させて回動させることによって上
記収納袋の挿入口を開放すると共に,
 D 上記開放操作部材に当接させた傘の先端を該開放操作部材の表面を滑
らせながら上記挿入口から収納袋内に押し込んで収納するように構成したことを特
徴とする
 E 傘の袋収納装置
(3) 被告製品の製造販売
 ア 被告タムラは,別紙物件目録(1)記載の傘袋収納装置(以下「被告製品」
という。)を,平成7年6月末ころから製造販売している。
 イ 被告アイティーオーは,有限会社アマノタイムサービス(以下「アマノ
タイムサービス」という。)及び被告タムラから被告製品を仕入れて,平成11年
5月から平成12年10月までの間に販売した。
 ウ アマノ株式会社(以下「アマノ」という。)は,被告タムラから被告製
品を仕入れて販売していた。
 2 事案の概要
   本件は,被告製品の製造販売が本件特許権を侵害するとして,原告らが被告
らに対して,被告製品の製造販売の差止め等を求めるとともに,原告新倉が被告ら
に対し損害賠償を求めている事案である。
 3 本件の争点
  (1) 被告製品が本件発明の技術的範囲に属するかどうか
(2) 原告らとアマノとの間の特許権実施契約によって,被告製品の製造販売に
関する被告タムラの責任はないといえるかどうか
  (3) 原告らが被った損害額及び差止請求の成否
第3 争点に関する当事者の主張
 1 争点(1)について
 【原告らの主張】
(1) 被告製品の具体的構成は,別紙物件目録(1)記載のとおりであるところ,
以下に述べるとおり,同製品は,本件発明の技術的範囲に属する。
ア 被告製品の収納装置本体1の内部には,傘の収納袋である傘袋6を装填
する構成を有しているから,本件発明の構成要件Aを充足する。
 イ 被告製品の第1当て板12,第2当て板14及び舌状板16には,それ
ぞれ互いに連結されてバネ付蝶番11,13,15によって回動可能に設けられ,
舌状板16の先端は,傘袋挿入口17を回動によって開放する構成となっているの
で,本件発明の構成要件Bを充足する。
 ウ 被告製品の舌状板16は,傘の先端を第1当て板12又は第2当て板1
4に当接させて下方に押圧することにより傘袋挿入口17を開放するものであるか
ら,本件発明の構成要件Cを充足する。
 エ 被告製品の傘挿入口5に挿入された傘の先端は,第1当て板12及び第
2当て板14の表面を滑りながら開放された傘袋挿入口17から傘袋6内に収納さ
れるので,本件発明の構成要件Dを充足する。
 オ 被告製品は,傘袋6を収納する装置であるから,本件発明の構成要件E
を充足する。
 カ 被告製品は,モータ等を用いることなく傘を袋内にワンタッチで容易に
収納することができる効果を有する点で本件発明と同一の効果を有している。
(2) なお,構成要件BないしDの「開放操作部材」は,「その収納袋の挿入口
を開放する開放操作部材」と記載されているとおり,挿入口を開放する機能を有す
る部材として特定されている。そして,被告製品の第1当て板12,第2当て板1
4及び舌状板16は,3つの蝶番によって連結しながら,それぞれ回動可能に構成
されており,それらの部材は収納袋の挿入口を開放する機能を有しているから,被
告製品は,本件発明の構成要件BないしDの「開放操作部材」を充足する。
 【被告タムラの主張】
   被告タムラは,別紙特許公報記載の特許権(以下「被告タムラ特許権」とい
う。)を有している。被告タムラ特許権と本件特許権とは先後願の関係にあり,後
願の被告タムラ特許権の出願が先願の本件発明の技術的範囲内に属するとすれば,
審査過程で拒絶理由通知が発せられるところ,被告タムラ特許権の出願過程におい
ては,このような通知はされていない。したがって,特許庁は,両者を同一である
とは考えていなかったということである。そして,被告製品は,被告タムラ特許権
の実施品であるから,同製品は,本件特許権に抵触しないというべきである。
 【被告アイティーオーの主張】
(1) 本件発明の構成要件BないしD各記載の「開放操作部材」という用語は造
語であり,その意味するところは一義的明確であるとはいえないところ,当該用語
を解釈するについては,特許請求の範囲以外の部分の記載及び図面を考慮する必要
がある。
  本件特許に係る明細書中の発明の詳細な説明によると,本件発明でいう
「開放操作部材」は,板状のもので,先端部は平面略三角形状に,かつ下向きに屈
曲形成され,中央部は凹部状で,先端部の反対側の両側部には内向きコ字形の屈曲
部が形成されているものであることが示されている。そうすると,本件発明におけ
る「開放操作部材」とは,①先端部は平面略三角形状に,かつ下向きに屈曲形成さ
れ,②中央部は凹部状で,③先端部の反対側の両側部には内向きコ字形の屈曲部が
形成されている,④1枚の板状のものを意味するというべきである。
(2) 以上を前提として,被告製品をみると,別紙物件目録(1)記載のbないし
dの各部分は,2枚のL字形の板(第1当て板12,第2当て板14)と1枚の舌
状板16によって構成されており,上記の本件発明に係る「開放操作部材」の①な
いし④の特徴のいずれも備えていない。したがって,被告製品は,本件発明の構成
要件BないしDを充足せず,本件発明の技術的範囲に属しないから,被告アイティ
ーオーの販売は,本件特許権を侵害する行為ではない。
 2 争点(2)について
 【被告タムラの主張】
(1)ア 原告らは,平成9年1月30日付けで,アマノとの間で,平成7年10
月4日以降に販売した被告製品に対し,1台当たり3000円の特許実施料を支払
うこと等を内容とする特許権実施契約(以下「本件特許実施契約」という。)を締
結した。同契約締結について,被告タムラは,アマノに対し,代理権を授与した。
   被告タムラは,アマノからの要請に基づいて,アマノを通じて,原告ら
に対し,本件特許実施契約に定められた1台当たり3000円の特許実施料を支払
った。
 イ 同一商品につき,既に特許実施料が支払済みであるのに,なおも取扱者
が異なる毎に実施料を収受できるとすると,商品流通を妨げ,産業発達を阻害する
のみならず,特許権者に不当な利益をもたらすことになるから,許されない。
(2) なお,原告らは,本件特許実施契約において,アマノから製造元の開示を
受けていない旨主張するが,実施料を収受するからには対象商品がどこの製品であ
るかについて議論されないことはない。また,専門業者である原告らが,アマノが
販売している製品が,被告タムラの製造した製品である事実を知らないはずがな
い。
 【原告らの主張】
(1) 特許製品の流通業者が,その販売行為について特許権者から実施許諾を得
た場合,その特許製品の仕入先の製造又は販売の各行為につき特許権の効力が及ぶ
か否かは当該実施契約の解釈の問題である。特許権侵害の違法行為があった後に特
許製品の一流通業者との交渉に基づいて,過去の販売行為及び在庫品の処分につき
特許権者に金銭を支払う旨の和解がされた場合は,当該違法行為の金銭的清算を目
的とするものであるので,製造元の違法行為を宥恕する旨の特別の意思表示がない
限り,仕入先の特許権侵害に関する責任が消滅することはない。
  原告らがアマノとの間で本件特許実施契約を締結したことは認めるが,こ
の契約はアマノの実施行為(販売行為)のみを対象とするものであること,契約当
事者は原告らとアマノであること,その実施料は低額であること,この契約締結に
当たって,アマノは,製造元を開示したことはないこと,この契約の内容等からす
ると,この契約によって,原告らが被告タムラの特許権侵害の責任を免除したもの
ではない。
(2) 仮に被告タムラが本件特許実施契約に基づく実施料を負担していたとして
も,それは,被告タムラが,アマノとの売買契約に基づき瑕疵担保責任を履行した
にすぎず,当該支払は,原告らとの関係で何ら法的な影響を与えるものではない。
 3 争点(3)について
 【原告らの主張】
(1) 被告タムラに対する損害賠償請求及び差止請求
 ア 損害賠償請求について
 (ア) 被告タムラは,本件特許権の登録日の後である平成8年10月18
日から平成12年6月29日までの間に被告製品を458台販売し,その販売額総
額は1776万1000円である。
 (イ) また,平成12年7月以降については,被告タムラが平成12年1
1月17日付け文書提出命令に違反して被告製品の製造販売数量等が記載された帳
簿を提出しないから,原告らの主張が真実であると認められるべきである。そうす
ると,被告タムラは,50か月(平成8年9月から平成12年11月まで)に被告
製品を少なくとも1億円販売したのであるから,平成12年7月1日から同年11
月までの5か月間の販売金額は,1000万円ということになる。
 (ウ) 以上によると,被告タムラは,被告製品を2776万1000円販
売したこととなる。
 (エ) 被告タムラが,平成8年10月18日から平成12年6月29日ま
での間に販売した被告製品の粗利益は,合計851万5513円であるから,その
利益率は,47.9パーセントである。
   (オ) したがって,被告タムラが被告製品の販売により得た利益額は,販
売総額に利益率を乗じた1329万7519円となり,原告らは,同額の損害を被
った。
 イ 差止請求について
   被告タムラは,侵害論,損害論のいずれについても原告らの主張を争っ
ており,上記のとおり文書提出命令に従って文書を提出していないのであり,被告
製品についての金型廃棄の事実も明らかでないから,なお被告製品を製造販売する
おそれがある。
(2) 被告アイティーオーに対する損害賠償請求及び差止請求
 ア 損害賠償請求について
 (ア) 被告アイティーオーは,被告製品をアマノタイムサービス及び被告
タムラから仕入れて,平成11年5月から平成12年10月までの間に合計248
台販売した。
 (イ) 被告アイティーオーは,アマノタイムサービス及び被告タムラから
1台3万9000円で仕入れた。被告アイティーオーの1台当たりの平均販売価格
は4万3681円である。
   (ウ) そうすると,被告アイティーオーが得た利益額は,116万088
8円(4681円×248台)であり,原告らは,同額の損害を被った。
   イ 差止請求について
被告アイティーオーは,侵害論について原告らの主張を争っており,在
庫を8台有するから,なお被告製品を販売するおそれがある。
(3) 原告らの被告らに対する損害賠償請求権の帰属関係
  原告村春製作所(以下「原告村春」という。)は,平成12年4月3日,
原告新倉に対し,被告らに対する本件特許権侵害行為による過去の損害賠償請求権
及び将来の本件訴訟終了までの損害賠償請求権のうち,原告村春が有する損害賠償
請求権を譲渡し,被告タムラに対して平成12年4月28日に,被告アイティーオ
ーに対して平成12年4月27日に,それぞれ本件訴状をもって通知した。
 【被告タムラの主張】
(1) 損害賠償請求について
 ア 原告新倉の主張は,すべて争う。
 イ 被告タムラは,被告製品を合計1139台製造販売した。そのうち,3
62台は,平成7年10月4日より前の製造販売分であり,631台については,
前述のとおり,アマノを通じて原告らに対し,特許権実施料を支払っている。
 ウ 被告タムラがアマノを介さないで販売した被告製品は,被告アイティー
オーに対して40台,アマノタイムサービスに対して106台のみである。
 エ 加工労賃として1個当たり1万円程度が必要であるので,損害額算定に
当たって,その点が考慮されるべきである。
(2) 差止請求について
 ア 被告タムラは,被告製品の金型を廃棄した。
 イ 被告タムラが平成12年4月以降に製造販売している製品は,別紙物件
目録(2)記載の製品(以下「被告新製品」という。)であり,被告製品とは別個の物
である。被告新製品は,原告らの本件特許権に抵触するものではない。
 ウ したがって,原告らの被告タムラに対する差止請求は理由がない。
 【被告アイティーオーの主張】
(1) 損害賠償請求について
 ア 被告アイティーオーが,被告製品をアマノタイムサービス及び被告タム
ラから仕入れて,平成11年5月から平成12年10月までの間に合計248台を
販売した事実は,認める。
 イ 被告アイティーオーが,アマノタイムサービス及び被告タムラから1台
3万9000円で仕入れた事実及び被告アイティーオーの1台当たりの平均販売価
格が4万3681円である事実は,認める。
ウ 原告らが被った損害額は,販売額と仕入額の差額から販売のための経費
等を差し引いたものである。 
(2) 差止請求について
  被告アイティーオーには,アマノタイムサービス及び被告タムラから仕入
れた被告製品の在庫が合計8台存在したが,これらは,すべて廃棄した。したがっ
て,原告らの被告アイティーオーに対する差止請求は理由がない。
第4 当裁判所の判断
 1 争点(1)について
  (1) 被告製品は,本件発明の構成要件をすべて充足していることが認められ
る。その理由は,前記第3の1【原告らの主張】(1)記載の原告らの主張のとおりで
あると認められる。
  (2) 被告アイティーオーは,本件発明における「開放操作部材」とは,①先端
部は平面略三角形状に,かつ下向きに屈曲形成され,②中央部は凹部状で,③先端
部の反対側の両側部には内向きコ字形の屈曲部が形成されている,④1枚の板状の
ものを意味すると主張する。
    証拠(甲2)によると,本件特許に係る明細書中には,実施例として,被
告アイティーオー主張に係る「開放操作部材」が記載されていることが認められ
る。しかしながら,これは,一実施例の記載にすぎない。
    証拠(甲2)によると,本件特許に係る明細書には,本件特許請求の範囲
【請求項1】「装置本体の傘の収納袋を装填し,その収納袋の挿入口を開放する開
放操作部材」,【発明が解決しようとする課題】「従来のものは収納袋の挿入口を
開放する手段として,負圧で吸引する手段や,多数のリンクやカム機構等を用いる
ものであるから,構成が複雑であると共に,真空吸引ポンプやモータ等を用いなけ
ればならないので,制作コストが増大すると共に,近くに電源のないところでは使
用できない,しかも電源コードが邪魔になったり,雨天に使用するものであるか
ら,漏電のおそれもある等の問題があった。」,【0004】「本発明は,上記の
問題点に鑑みて提案されたもので,上記のような電源が不要で,しかも構造簡単か
つ確実に袋内に傘を収納することのできる装置およびそれに適する傘収納袋を提供
することを目的とする。」,【課題を解決するための手段】「装置本体に傘の収納
袋を装填し,その収納袋の挿入口を開放する開放操作部材を装置本体に回動可能に
設け,その開放操作部材に傘の先端を当接させて回動させることによって上記収納
袋の挿入口を開放すると共に,上記開放操作部材に当接させた傘の先端を該開放操
作部材の表面を滑らせながら上記挿入口から収納袋内に押し込んで収納するように
構成したことを特徴とする。」,【0006】【作用】「上記のように装置本体に
装填した収納袋の挿入口を開放する開放操作部材を装置本体内に回動可能に設け,
その開放操作部材を傘の先端で回動させることによって収納袋の挿入口が開放され
るように構成したことによって,収納袋が簡単・確実に開放され,傘をワンタッチ
で袋内に収納することが可能となる。」とそれぞれ記載されていることが認められ
る。以上の記載からすると,本件発明における「開放操作部材」は,電源を要する
ことなく,収納袋の挿入口を開放する操作を行う部材を意味すると認められ,その
ような意味を有するものとして一義的に明確であるということができる。
    そうすると,「開放操作部材」を,上記の意味よりも限定して,一実施例
に限定して解釈すべき理由は見い出し難い。
    したがって,被告アイティーオーの上記主張は採用することができない。
  (3) また,被告タムラは,被告タムラ特許権と本件特許権とは先後願の関係に
あり,後願の被告タムラ特許権の出願が先願の本件発明の技術的範囲内に属すると
すれば,審査過程で拒絶理由通知が発せられるところ,被告タムラ特許権の出願過
程においては,このような通知はされていないことを理由して,被告製品は,本件
発明の技術的範囲に属さないと主張する。しかしながら,仮に被告製品が被告タム
ラ特許権の実施品であるとしても,後願たる被告タムラ特許権が先願たる本件特許
権によって拒絶されるかどうかということと被告製品が本件発明の技術的範囲に属
するかどうかということとは別問題であり,被告タムラ特許権が拒絶されなかった
からといって,被告製品が本件発明の技術的範囲に属さないということにはならな
いから,被告タムラの上記主張は採用できない。
  (4) 以上によると,被告製品は,本件発明の技術的範囲に属するというべきで
あるから,被告製品の製造販売行為は,本件特許権を侵害するものである。
 2 争点(2)について
  (1) 争いのない事実並びに証拠(甲13,15,甲27の1,2,甲29,乙
1の3)及び弁論の全趣旨によると,以下の事実が認められる。
 ア 平成9年1月30日,原告らとアマノとの間で,アマノが販売する被告
製品に関し,アマノの本件特許権侵害事件を解決するために,以下の内容の契約
(本件特許実施契約)が締結された。本件特許実施契約の当事者は,原告両名とア
マノである。
  第1条 アマノは,今後被告製品の製造を行わない。
  第2条
   1 原告らは,アマノの被告製品の製造済在庫品456台に対し,契約
日より1年を期間として,日本国内における販売を許諾する。
   2 アマノは,上記第2条第1項における1年を期間として在庫品の完
売に努力するが,完売できなかった場合には,原告ら及びアマノ協議事項とする。
  第3条
   1 アマノは,原告新倉に対して,平成7年10月4日以降の被告製品
の販売品(工場出荷品)に対して,1台当たり3000円の特許実施料を支払うも
のとする。
   2 アマノは,原告新倉に対して,本契約時において,平成7年10月
4日以降契約時までの販売台数(工場出荷台数)の報告と,上記第3条第1項に従
い,期限平成9年2月28日限り,特許実施料を支払うものとする。
   3 アマノは,原告新倉に対して,本契約後の販売台数(工場出荷台
数)を3か月毎に報告するとともに,上記第3条第1項に従い,特許実施料を支払
うものとする。
  第4条 この契約は,この契約の締結日から本件特許が存続する期間中有
効とする。
  第5条 この契約に規定のない事項及びこの契約の条項の解釈に疑義を生
じた時は,原告ら及びアマノ協議の上解決する。 
 イ 平成9年12月16日,原告らとアマノは,本件特許実施契約2条2項
に基づいて協議した結果,本件特許実施契約を平成10年7月31日まで継続する
旨合意し,特許実施継続契約書を作成した。同契約書の当事者も原告両名とアマノ
である。
 ウ 本件特許実施契約締結に当たって,アマノは,製造元が被告タムラであ
る旨の開示を行っていない。
 エ 平成12年5月30日,原告新倉とアマノは,アマノの新潟支店が平成
10年9月10日から平成12年2月29日までの間に販売(販売台数合計90
台)した被告製品に関して,以下のとおり合意し,覚書を交わした(以下「本件覚
書」という。)。本件覚書の当事者は,原告両名とアマノである。
  1.本件覚書の対象製品は,原告新倉とアマノ間の平成9年1月30日付
特許実施契約書に記載の対象物と同一であること,同契約書第1条はなお効力を有
することを相互に確認する。
  2.アマノは原告新倉に対し,特許権侵害に基づく損害賠償額金360万
円の支払義務あることを認め,そのうち金100万円を平成12年6月30日限
り,原告新倉指定の銀行口座に振り込んで支払う。アマノが同金額を原告新倉に支
払った場合は,原告新倉は残金の請求権を放棄する。
  3.略
  4.アマノの新潟支店において今後傘袋収納機の販売を行う場合は,アマ
ノは原告新倉に対して原告新倉の製品の供給依頼書を送付のうえ,原告新倉は同支
店と直接取引を行うものとする。
(2)ア 以上認定した事実に上記1で述べたところを総合すると,本件特許実施
契約は,原告らとアマノとの間において,アマノが本件特許権を侵害して被告製品
を販売したことに関して金員の支払を定めるとともに,原告らは,アマノに対し
て,1年間に限って在庫品の販売を認めたものであること,本件覚書は,原告らと
アマノとの間において,アマノが本件特許権を侵害して被告製品を販売したことに
関する損害賠償について定めたものであること,以上の事実が認められ,本件特許
実施契約及び本件覚書締結に至る交渉において,被告タムラの名が出されたことや
同被告に関する事項が交渉されたことを認めるに足りる証拠はない。
 イ 証拠(乙1の2,3,乙5の1ないし5,乙18,乙19の1)による
と,被告タムラは,平成8年8月28日,アマノの代表取締役に対し,被告製品に
関し,原告らの有する特許権について,使用許諾並びに特許使用料,今後の使用条
件,在庫品等の今後の処置につき,交渉する件に関して,委任状を交付し,交渉を
委任したこと,アマノは,平成8年10月から11月にかけて,被告タムラに対
し,原告らとの本件特許実施契約締結に関する交渉経過を報告し,その議事録を送
付したこと,アマノは,平成9年2月12日,被告タムラに対し,本件特許実施契
約書を送付したこと,以上の事実が認められる。また,証拠(乙4の1ないし1
3,乙7,9,18,乙19の1)によると,被告タムラは,アマノに対し,アマ
ノが原告新倉に本件特許実施契約に基づいて支払った金員を,支払ったことが認め
られる。
 ウ 以上の事実によると,本件特許実施契約及び本件覚書は,原告らとアマ
ノの間において締結されたもので,当事者に被告タムラは含まれていないこと,い
ずれの契約も,アマノが既に行った製品の販売又はアマノによる既に製造済みの在
庫品の販売について定めているのみで,それらの製品の製造やそのアマノに対する
販売といった被告タムラにかかわる部分については,何ら規定していないこと,本
件特許実施契約及び本件覚書締結に至る交渉において,被告タムラの名が出された
ことや同被告に関する事項が交渉されたことは認められないこと,以上のとおり認
められ,これらの事実からすると,本件特許実施契約及び本件覚書の締結によっ
て,被告タムラが原告らに対して本件特許権侵害行為の責任を免れることはないも
のというべきである。
   上記イ認定のとおり,被告タムラがアマノに対して,アマノが原告新倉
に本件特許実施契約に基づいて支払った金員を支払ったことは,被告タムラがアマ
ノに対して売主としての責任を履行したものと認められ,それ以前に,上記イ認定
のとおり,被告タムラがアマノに対して委任状を交付したり,アマノが被告タムラ
に対して交渉経過を報告したりしているのも,被告タムラがアマノに対して,アマ
ノが原告新倉に本件特許実施契約に基づいて支払った金員を支払う関係にあったた
めにされたものと認められるから,被告タムラが原告らに対して本件特許権侵害行
為の責任を免れることの根拠となるものではない。
(3) したがって,被告タムラが被告製品を製造販売した行為は,本件特許権を
侵害する行為であり,被告タムラはその責任を負うものというべきである。
 3 争点(3)について
(1) 損害賠償請求について
 ア 被告タムラに対する損害賠償請求
 (ア) 被告タムラの販売台数,売上額及び利益額
     被告タムラ作成の商品別売上推移表(甲18の1ないし5,甲19
の1ないし5)には,被告タムラは,平成8年10月から平成12年6月までの間
に,商品名「PAO-PAOスタンドタイプ」を,合計458台販売し,売上額は
1776万1000円(千円の位まで表示)であったことが記載されている。
     被告タムラ作成の商品売上明細書(甲28の1,2)には,被告タ
ムラは,平成8年10月から平成12年6月までの間に,商品名「PAO-PAO
スタンドタイプ」,「PAO-PAOスタンドタイプⅡ」,「A-88S-Ⅱかさ
しづく」を,合計458台販売し,売上額は1776万0400円であったことが
記載されている。
     以上の表を対比すると,商品売上明細書(甲28の1,2)は,商
品別売上推移表(甲18の1ないし5,甲19の1ないし5)と同一の事項につい
て,より詳しく記載したものと認められるから,商品売上明細書(甲28の1,
2)によって,被告タムラの販売台数等を認定することとする。
     弁論の全趣旨によると,商品売上明細書(甲28の1,2)記載の
製品のうち「PAO-PAOスタンドタイプ」及び「A-88S-Ⅱかさしづく」
は,被告製品に当たるものと認められる。しかし,証拠(乙13の1,2,乙16
の1,2)及び弁論の全趣旨によると,「PAO-PAOスタンドタイプⅡ」は,
被告製品とは構造が異なるもので,被告製品には当たらないものと認められる。
     商品売上明細書(甲28の1,2)によると,「PAO-PAOス
タンドタイプⅡ」は,上記458台のうち68台あり,これを除いた「PAO-P
AOスタンドタイプ」及び「A-88S-Ⅱかさしづく」の販売台数は390台,
売上額は1444万1400円,利益額合計は682万4519円であると認めら
れる。
     原告新倉は,被告タムラは,平成12年7月以降も被告製品を製造
販売していた旨主張するが,証拠(乙15)及び弁論の全趣旨によると,被告タム
ラは,平成12年7月以降は,「PAO-PAOスタンドタイプⅡ」のみを販売し
ていたものと認められるから,原告新倉の上記主張は採用することができない。し
たがって,被告に,文書提出命令の違反があったとすることもできない。
 (イ) 被告タムラは,加工労賃として1個当たり1万円程度が必要である
旨主張するが,これを認めるに足りる証拠はない。また,この他に被告製品の製造
販売に関して上記利益額から控除すべき経費に関する具体的な主張立証はない。さ
らに,証拠(乙14の1ないし4)によると,被告タムラの平成8年7月1日から
平成12年6月30日までの間における売上総額は,8億0667万5624円で
あると認められるところ,上記売上額1444万1400円は,その2パーセント
に満たないのであるから,他の売上げに加えて上記売上げを得るために更に経費を
要したとは直ちに認められない。そうすると,上記利益額をもって被告タムラが得
た利益額と認めるのが相当である。
(ウ) アマノは,原告新倉に対して,原告らとアマノとの間の本件特許実
施契約に基づいて,1台当たり3000円を支払い,本件覚書に基づいて,100
万円を支払ったことが認められるが,前記2(2)認定の事実によると,本件特許実施
契約及び本件覚書は,原告らとアマノとの間で締結されたもので,アマノの行為の
みを対象とするものであったのであり,被告タムラがアマノに対して本件特許実施
契約に基づいてアマノが原告新倉に対して支払った金員を支払ったのは,被告タム
ラが売主としての責任を履行したものにすぎないと認められるから,アマノから原
告新倉に対して本件特許実施契約及び本件覚書に基づいて支払われた金員を,原告
の上記損害額から差し引くことはできないものというべきである。
(エ) 以上によると,原告らが被告タムラに対して請求できる損害額は,
682万4519円となる。
 イ 被告アイティーオーに対する損害賠償請求
 (ア) 被告アイティーオーが,被告製品をアマノタイムサービス及び被告
タムラから仕入れて,平成11年5月から平成12年10月4日までの間に,合計
248台販売した事実,被告アイティーオーが,アマノタイムサービス及び被告タ
ムラから1台3万9000円で仕入れた事実並びに被告アイティーオーの1台当た
りの平均販売価格が4万3681円である事実は,当事者間に争いがない。
     以上の事実によると,被告アイティーオーが得た利益額は,116
万0888円【(4万3681円-3万9000円)×248台】となる。
 (イ) 被告アイティーオーは,原告の損害額は,上記利益額から販売のた
めの経費等を差し引いた額であると主張するが,他の売上げに加えて上記売上げを
得るために必要な販売経費等についての具体的な主張立証はないから,上記利益額
をもって,原告らの損害額であると認める。
 ウ 本件特許権侵害に基づく損害賠償請求権の帰属主体
   証拠(甲9)及び弁論の全趣旨によると,原告村春は,平成12年4月
3日,原告新倉に対し,被告らに対する本件特許権侵害行為による過去の損害賠償
請求権及び将来の本件訴訟終了までの損害賠償請求権のうち,原告村春が有する損
害賠償請求権を譲渡し,被告タムラに対して平成12年4月28日に,被告アイテ
ィーオーに対して平成12年4月27日に,それぞれ本件訴状をもって通知したも
のと認められるから,原告新倉は,被告らに対し,上記金額の損害賠償請求権を有
しているものである。
(2) 差止請求について
 ア 被告タムラに対する差止請求
   被告タムラは,被告製品に係る金型を廃棄した旨主張するが,これを認
めるに足りる証拠はない。そして,被告タムラが被告製品の製造販売による本件特
許権侵害を争っていることをも考え併せると,被告タムラは,被告製品を製造販売
するおそれがあるものと認められる。したがって,原告らの被告タムラに対する被
告製品の製造販売の差止め並びに同製品及び同製品を製造するための金型の廃棄を
求める請求は理由がある。
 イ 被告アイティーオーに対する差止請求
   被告アイティーオーは,被告製品の在庫品8台をすべて廃棄した旨主張
するが,これを認めるに足りる的確な証拠はないから,被告アイティーオーは,被
告製品を販売するおそれがあるものと認められる。
   なお,丙8号証(陳述書)には,被告アイティーオーは,被告製品の在
庫8台,部材及び部品関係商品をすべて廃棄したと記載されているが,同陳述書の
内容は,単に廃棄処分したと抽象的に述べるのみであって,陳述内容を具体的に裏
付ける証拠は提出されていないことからすると,同書面によって上記在庫品8台等
を廃棄したとまで認めることはできない。
   したがって,原告らの被告アイティーオーに対する被告製品の販売の差
止めを求める請求及び同製品の廃棄を求める請求は理由がある。
 4 結論
   以上の次第で,原告らの請求は主文掲記の範囲で理由があるから,主文のと
おり判決する。
  東京地方裁判所民事第47部
         裁判長裁判官    森 義之
            裁判官内藤裕之
            裁判官上田洋幸
別紙 物件目録(1)
  図面(図1~図5)
別紙 物件目録(2)
  図面(図1・図2)
  図面(図3・図4)

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