弁護士法人ITJ法律事務所

裁判例


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         主    文
     本件各控訴を棄却する。
         理    由
 本件控訴の趣意は、神戸地方検察庁検察官検事本井甫作成の控訴趣意書記載のと
おりであり、これに対する答弁は、被告人A関係につき弁護人中東孝、同矢野弦次
郎、同阪本豊起共同作成の答弁書、被告人B関係につき弁護人田中秀雄、同宮崎定
邦共同作成の答弁書各記載のとおりであるから、これらを引用するが、当裁判所
は、所論並びに各答弁にかんがみ、記録を調査し、当審における事実取調の結果を
も参酌して、以下のとおり判断する。
 第一、 控訴趣意の要旨
 一、 原判決の要旨
 原判決は、被告人両名に対する本件公訴事実中、別紙原判示罪となるべき事実記
載のとおり、被告人Aに対する暴力行為等処罰に関する法律違反、威力業務妨害、
傷害、器物損壊の各事実(原判示罪となるべき事実第一の一ないし七)、被告人B
に対する暴力行為等処罰に関する法律違反、威力業務妨害、窃盗、公務執行妨害の
各事実(同第二の一ないし四)、被告人両名に対する暴力行為等処罰に関する法律
違反、公務執行妨害、傷害の事実(同第三)については、ほぼ公訴事実どおりの事
実を認定し、被告人Aを懲役一年六月に、同Bを懲役一年に処し、被告人両名に対
しいずれも三年間それぞれ右各刑の執行を猶予する旨の有罪の判決を言渡したが、
「被告人両名は、昭和五一年五月一五日午後一一時三五分ころ、神戸市a区bc丁
目d番e号付近の神戸市道中央幹線西行車道において、ほか多数の者らとともに、
別紙原判示罪となるべき事実第三の大型輸送車(車両総重量六一一〇キログラム)
を後方に向けて押していたところ、被告人Aは、同車を約七メートル後退させた
際、同車の後方約九メートルの後退進路上に昏倒しているC(当時四〇年)を認
め、被告人Bは、右Cを認めた周囲の群衆から発せられた『人が倒れている』など
との警告によつて、人が同車の後退進路上に倒れていることを知つたが、被告人両
名とも右Cを殺害する意思をもつて、ほか数名と共謀のうえ、さらに右多数の者と
ともに同車を押し続けてこれを後退させ、同車右後車輪で右Cの身体を轢過して同
人に肝臓破裂等の傷害を負わせ、よつて同日午後一一時四五分ころ、同市同区fc
丁目g番地h警察署iセンター派出所において、右傷害により同人を死亡するに至
らせて殺害したものである」との殺人の公訴事実(以下本件殺人の事実ともいう)
については、右事実に関する主要な証拠として原審において検察官が取調請求をし
た被告人Aの司法警察員(九通)及び検察官(九通)に対する別表(一)記載の各
供述調書、被告人Bの司法警察員(八通)及び検察官(二通)に対する別表(二)
記載の各供述調書(一部については別表(一)(二)記載のとおり被告人両名相互
間で刑事訴訟法三二一条一項二号該当書面として請求されているもの)の全部また
は一部(本件殺人の事実に関する部分)の証拠能力を否定し、証拠調請求を却下し
た原裁判所の昭和五六年三月一〇日付証拠決定(以下本件決定という)を前提と
し、原審で取り調べられた各証拠によつては、本件殺人の事実の証明は十分ではな
いとして、結局被告人両名に対し、右事実について無罪の言渡しをした。
 二、 本件決定の要旨
 本件決定は、以下の如き理由により、別表(一)、(二)記載の各供述調書(そ
の全部の証拠能力を否定された調書についてはその全部を、本件殺人の事実に関係
する部分のみの証拠能力を否定された調書についてはその否定された部分のみを指
す。以下とくに断らない限りこの例による。)の証拠能力を否定し検察官の証拠調
の請求を却下した。
 (一) いわゆる別件逮捕・勾留と呼ばれる事例において、その身柄拘束の許否
は、捜査官がそれをもつぱら本件の捜査に利用する意図を有し、ただ別件に籍口し
たに過ぎない場合は格別、捜査官において別件についても捜査する意図のある以
上、別件についての逮捕・勾留の要件の有無によつて決せられるべきであつて、捜
査官が本件についても取調べの意図を有しているからといつて、右逮捕・勾留がた
だちに違法となるものではなく、被告人両名に対する本件身柄の拘束がいわゆる別
件逮捕・勾留として違法であるとはいえない。
 (二) 刑事訴訟法一九八条一項は、逮捕・勾留中の被疑者に対し、逮捕・勾留
の基礎となつた被疑事実(以下逮捕・勾留事実という)に限つて取調受忍義務を課
した規定であると解される。ところで、逮捕・勾留中の被疑者を逮捕・勾留事実以
外の事実(以下余罪という)について取り調べることを一概に非難することはでき
ないが、余罪の取調べは被疑者に取調受忍義務のない任意捜査であるからという理
由で、いかなる余罪であろうと、無制限に取り調べることができると解すべきでは
なく、被疑者に取調室からの退去の保障があることを十分に理解させ、実際に被疑
者が右保障を行使しうる雰囲気のもとに取り調べる場合、あるいは被疑者が積極
的、自発的に余罪の取調べを求めた場合のみを任意捜査と認め、右の場合に該当し
ないと認められる余罪の取調べは、むしろ取調受忍義務を課した状態で行われる強
制捜査であると認めたうえで、強制捜査における事件単位の原則に一定の修正を加
え、一定の範囲、程度の余罪の取調べは強制捜査としても許容されると解するとと
もに、その範囲、程度を越えた余罪の取調べは違法というべきである。その許容範
囲は、強制捜査に対する司法的抑制の手法である令状主義、事件単位の原則の見地
に立つて、個々の事例ごとに、当該余罪と逮捕勾留事実との社会的関連性の有無及
び強弱、両罪の事案としての軽重、取調態様等の諸点を総合的に考察して判断すべ
きものである。
 (三) 以上の観点にたつてみると、本件における被告人両名に対する余罪の取
調べはいずれも強制捜査であつたと認められるところ、被告人Aは、原判示罪とな
るべき事実第一の一と同一の被疑事実(以下Dタクシー事件ともいう。)により逮
捕・勾留(以下第一次逮捕・勾留ともいう。)され、二回にわたり五日間づつの勾
留期間延長決定を受けた後、引き続き同第一の二、三、四、六と同一の被疑事実で
再逮捕・勾留(以下第二次逮捕・勾留ともいう。)されていた(ただし、第二次逮
捕・勾留事実中には、本件殺人の事実及び右事実と密接に関連する原判示罪となる
べき事実第三の事実(以下○△□襲撃事件ともいう。)と同一の被疑事実が含まれ
ていたが、弁護人が申し立てた勾留に対する準抗告についての決定において、右両
事実に関する勾留は、実質上勾留のむし返しに該当するとして勾留から三日後に原
勾留の裁判を取り消したうえ勾留請求を却下している。)期間中に、被告人Bは、
原判示罪となるべき事実第二の一(以下Eタクシー事件ともいう。)及び第二の三
(以下Fタクシー事件ともいう。)の両事実で逮捕・勾留中に、いずれも逮捕・勾
留事実と異なる余罪、なかでも本件殺人の事実について取調べを受け、その結果別
表記載の各調書が作成されたもの(ただし、被告人Aの別表(一)番号16ないし
18の各調書は、家庭裁判所の検察官送致決定により観護措置が勾留とみなされる
期間に作成されたものであり、また被告人Bの別表(二)番号9、10の各調書
は、逮捕・勾留に引き続いた家庭裁判所による観護措置中に作成されたもの)であ
るところ、被告人両名に対する各逮捕・勾留事実と本件殺人の事実とは社会的事実
としては関連するが、逮捕・勾留事実についての取調べが余罪の取調べにもなるほ
どの有機的密接な関連性はなく、それぞれ別個の各事実毎に完結する犯罪であるこ
と、本件殺人の事実以外の余罪は、逮捕・勾留事実と対比して、罪質、態様が同種
で、軽重の程度も同程度ないしより軽微であつて、被告人両名も争つておらない
が、本件殺人の事実は、逮捕・勾留事実に比しはるかに重大で罪質も異なる犯罪で
あること、被告人Aの取調態様についてみるに、第一次逮捕・勾留期間中の大部分
を客観的資料がないのにもつぱら自白を得る目的で行つた本件殺人の事実について
の取調べにあてたうえ、第二次勾留につき本件殺人の事実に関する部分が前述の如
く準抗告決定により勾留請求を却下されたにもかかわらず、なお第二次勾留期間中
に本件殺人の事実の取調べを続行しており、また被告人Bの取調態様についてみて
も、捜査官において、もつぱら自白を得る目的で本件殺人の事実についての取調べ
を行つているばかりでなく、右事実について取り調べる意図を秘し、「殺人なんか
つけへんから心配するな。」と詐言を用いた取調べを行つていること、以上の各事
実を総合すると、被告人Aの第一次、第二次各逮捕・勾留中の被告人Bの逮捕・勾
留中の被告人両名に対する本件殺人の事実についての取調べは、余罪の強制取調べ
として許容される範囲を逸脱して違法であり、かつその違法は重大であつて右取調
べによつて得られた証拠は証拠能力を欠き、被告人Bの観護措置中に作成された別
表(二)番号9、10の各調書も逮捕・勾留中の違法な取調べによつて得られた供
述が大きく影響していることが明らがであるから、証拠とすることはできない。
(なお、被告人Aの別表(一)番号16ないし18の各調書については、本件決定
中において却下の理由が明示されていないが、被告人Bの別表(二)番号9、10
の各調書と同様の理由によりその証拠能力を否定したものと解される。)
 三、 控訴趣意
 原裁判所の以上の判断に対し、論旨は、以下のとおり、被告人両名に対する本件
殺人の事実についての取調べに何らの違法も存在しなかつたことが明らかであるか
ら、被告人両名の別表(一)(二)記載の各調書(ただし、被告人Bの昭和五一年
七月二九日付、同月三一日付各検察官調書合計三通という(控訴趣意書一五ページ
九、一〇行目)のは合計二通の誤記と認める。)の証拠能力を否定し、その取調請
求を却下した本件決定には、訴訟手続の法令違反があり、右各調書は、本件殺人の
事実を認定するための主柱となる証拠であつて、右証拠と原審において取調べずみ
の関係証拠とを総合すれば、本件殺人の事実は優に認定することができるのである
から、その違反が判決に影響を及ぼすことは明らかである、と主張するのである。
 すなわち、刑事訴訟法一九八条一項但書は、被疑者が逮捕又は勾留されていると
いう状態に着目して取調受忍義務を課した規定と解すべきであつて、特定の犯罪事
実ごとに取調べの限界を定めたものと解することはできず、また逮捕・勾留中の被
疑者に対する余罪の取調べが一般に禁止されているものではない。
 ただ、外形的には甲事実についての逮捕・勾留による身柄拘束状態を利用して乙
事実について取調べを行つたようになつてはいても、甲事実による逮捕・勾留が単
に名目であつて、実質的には乙事実による逮捕・勾留と同視し得る場合であると
か、甲事実についての逮捕・勾留の理由、必要性が消滅したのに、その身柄拘束状
態を利用して乙事実を取り調べるような場合には、憲法三三条の令状主義を潜脱す
るものとして許されないが、甲事実による逮捕・勾留が令状主義の理念に則つてお
り、かつ勾留の理由、必要性が存続する限り、乙事実の取調べをしてもそれによつ
てあらたに被疑者に身柄拘束状態が生ずるものではないから、なんら令状主義の理
念に反するものではなく、そのように解するほうが、被疑事実ごとに逮捕・勾留を
繰り返し、身柄拘束状態を長期化させる弊を防止することにもつながる適切な解釈
といわなければならない。
 これに反し、前述の如く、余罪の取調べは原則として任意捜査で行うべきであ
り、強制捜査と認められる余罪の取調べの許容限度は、逮捕・勾留事実と余罪との
社会的関連性の強弱、事案の軽重、取調態様等を総合的に考察して判断すべきであ
るとして、その限度を越える余罪の取調べを違法とする本件決定は、独自の見解で
あつてその誤りは明白である。
 もつとも、昭和五二年八月九日最高裁判所第二小法廷決定(刑集三一巻五号八二
一頁)には、逮捕・勾留事実と余罪との間に「社会的事実としての一連の密接な関
連がある」旨の説示があるが、これは当該事件の事実関係に即応して、余罪に関す
る取調べが逮捕・勾留事実についても当然しなければならぬ取調べにあたることを
説示したもので、一般的に余罪の取調べが許されるための要件として判示したもの
と解すべきではない。
 また本件決定は、被告人両名の取調態様をもつて、被告人両名に対する本件殺人
の事実の取調べを違法とする理由の一つとしているが、右両名に対する取調状況を
代用監獄における出入監の状況、調書の作成状況等によつてし細に検討すれば、い
ずれも逮捕・勾留事実による身柄拘束状態を利用し、本件殺人の事実についての自
白を得る目的でもつぱらその取調べを行つたものではなく、単に逮捕・勾留事実の
取調べに付随して本件殺人の事実の取調べを併行して行つているにすぎないことが
明らかであつて、本件決定は、右の点において事実を誤認しており、さらに被告人
Bの取調べに際し、捜査官が本件決定の指摘するような詐言を用いたこともないか
ら、結局本件決定は以上の点で前提事実を誤認し、別表(一)(二)記載の各供述
調書の証拠能力に関し誤つた判断に至つたものである。
 以上によれば、被告人両名の本件殺人の事実に関する供述を記載した別表(一)
(二)記載の各供述調書はすべて証拠能力を有すると認められ、これを否定した本
件決定には、訴訟手続の法令違反があり、前述の如くこれが判決に影響を及ぼして
いることは明らかであるから、原判決は破棄を免れず、本件殺人の事実と原判決が
被告人両名に対し有罪を言渡した別紙罪となるべき事実とは併合罪の関係にあるか
ら、右有罪部分についても併せて控訴を申し立てる。
 第二、 当裁判所の判断
 当裁判所は、以下に詳述する如く、別表(一)(二)記載の各供述調書は、いわ
ゆる別件逮捕・勾留中の違法な取調べの結果獲得されたか、またはその違法性を承
継した証拠であつて、かつその違法性は、令状主義の潜脱という重大なものである
から、いずれも証拠能力を欠くと認めたものであつて、理由づけにおいて原裁判所
の見解と若干異なるが、結論において、右各調書に証拠能力を認めず、検容官の証
拠調請求を却下した本件決定は、結局正当であり、右決定を前提として本件殺人の
事実についての証明の有無を判断した原判決に、所論の訴訟手続の法令違反は認め
られないと判断した次第である。
 一、 被告人両名に対する取調べの経緯
 (一) 被告人両名の取調開始に至るまでの経緯
 原審において取り調べられた関係証拠によれば、被告人両名が、本件殺人の事実
について取調べを受けるに至つた経緯として以下の事実を認めることができ、右認
定を左右するに足りる証拠はない。
 (1) 神戸市においては、例年五月に、G協会主催のHまつりが開催されてい
たが、昭和四九年度及び昭和五〇年度に連続して、その期間にいわゆる暴走族と見
物の一部群衆が暴徒化し、警察官に投石するなど種々の騒ぎが発生したため、昭和
五一年五月一四日から同月一六日までの昭和五一年度Hまつり期間中の不測の事態
発生に備え、兵庫県警察(以下単に県警という。)本部は、同月一四日に暴走族防
圧対策本部を設け、I県警交通部長を総指揮者として連日一〇〇〇名を越える警察
官と多数の車両を動員して、違法行為の防圧に努めることとした。
 (2) ところが右Hまつり期間中の同月一五日夜から翌一六日早朝にかけて、
国鉄J駅に近い神戸市h区bや同市j区k町一帯に暴走族とこれを見物しようとす
る群衆約六〇〇〇名がい集して騒然とした状況となり、遂には通行中のタクシーを
転覆させて放火するなどの行為に及ぶに至つた。そこで、防圧対策本部では、大型
輸送車で警察官を現場に急行させるなどの措置をとつて違法行為の鎮圧に努めた
が、群衆の数が多く、同時多発的に同様の行為が発生したこともあつて、少数の警
察官が現場に出動した場合には、かえつて興奮した群衆から投石などの襲撃を受
け、警察官らの身体にも危険が及ぶという事態になつた。
 (3) 右の如く騒然とした状況下の同月一五日午後一一時ころ、前記bc丁目
d番地付近でDタクシー事件等が発生したため、その約三〇分後に右現場に派遣さ
れた大型輸送車(兵○ち○△□号)に乗車していた警察官らも、秩序回復行動をと
るためいつたん降車したものの付近の群衆から石や木の棒で攻撃を受け、危険を感
じて○△□の幌付荷台に再度乗車して退避したが、同車の運転をしていた警察官も
右荷台内に避難した。そのため、同車は、同所付近の幅員約二〇メートルの広い神
戸市道中央幹線西行車道の南寄り部分に前部をやや西南に向けた状態で立往生をし
たような状態となつた。
 (4) これを見た暴走族クループや群衆が同車の周囲を取り囲み、さらに一部
の者が同車に投石したり、後部荷台の警察官を木の棒で突いたりするなど、共同器
物損壊、公務執行妨害、傷害の各行為(○△□襲撃事件と同一の事実)に及び、遂
には午後一一時三五分ころ同車の前部付近及び車体側面に取りついてこれを中央分
離帯に向けて後方に押し、その際たまたま同所付近で取材中に群衆から暴行を受
け、路上に昏倒していた神戸新聞社カメラマンCを同車車輪で轢過して死亡させる
事件(本件殺人の事実)か発生した。
 (5) このような事態となつたため県警本部では、翌一六日ただちにh警察署
内に「Hまつりにおける暴走族等による殺人放火事件合同捜査本部」(本部長は、
当初前記I交通部長であつたが、六月一八日県警刑事部長に交代した。)を設置
し、捜査を開始した。捜査開始当初から、右捜査本部では、C記者死亡事件は、群
衆犯罪ではあるが、群衆のなかには、C記者昏倒の事実を知りながら○△□を押し
続けた者が存在するはずであり、その者については殺人罪が成立するとの見通しを
立てたことにより、本件殺人の事実は、昭和五一年度Hまつり開催中に発生した他
の器物損壊、威力業務妨害、公務執行妨害、傷害等を含む一連の事犯中で、罪質、
態様、法定刑等いずれの見地からも他と比較にならない重大な位置づけを与えられ
ることになつた。そして、たまたま被害者がマスコミ関係者であつたことや、犯行
に供された物が警察車両であり、しかもその運転者が避難に際し、サイドブレーキ
をかけていなかつた事実が判明したことなどのため、連日新聞紙等がC記者殺害の
元凶と目された暴走族を非難するとともに警察官の手落ちを指摘する記事を掲載
し、兵庫県議会でも県警の責任問題が取り上げられ、当時の社会的関心も本件殺人
の事実に集中するというような事情が重なり、前記捜査本部は、何よりも本件殺人
の事実の犯人捜査に全力を上げて取り組まざるをえない状況に置かれた。そのため
県警本部では交通部所属の警察官以外に凶悪犯担当の刑事部所属の捜査官らをも含
め多数の警察官を動員して、本件殺人の事実の捜査に従事させ、犯人解明に総力を
挙げることとなつた。
 (6) 右捜査本部の基本的な捜査方針は、本件殺人の事実の発生した現場付近
の当夜の写真(捜査官が撮影したもののほか、マスコミ関係者や一般人の撮影した
ものを含む。)を、時間的前後を問わず、できうる限り多数収集し、これに聞き込
み捜査を併用して、約二、三十名と推定される○△□を押した人物の特定につと
め、特定しえた者に対しては、C記者が路上に昏倒していた事実を認識しながらこ
れを押し続けたか否かについての取調べを行つて殺人罪を立証しようとするもので
あつたが、これに併せて、昭和五一年度Hまつりの際に発生したタクシーに対する
転覆、放火等多数の違法行為の容疑で逮捕した約一五五名のほとんど全員に無作為
的に本件殺人の事実に関するポリグラフ検査(その質問事項が本件殺人の事実に関
するものであつた事実は、直接の証拠こそないが当審における事実取調べの結果に
より優に推認することができる。)を実施し、その検査結果から本件殺人の事実に
関与している者を割り出そうとの努力もなされた。
 しかしながら、群衆によつて行われた突発的な犯罪であるという本件殺人の事実
の特質から、目撃者や写真の数は多いものの、犯行に関与した人物の特定と殺意の
有無に関する捜査は、いずれも困難を極め、難航する情勢となつた。
 (二) 被告人Aに関する取調べの客観的経過
 原審で取り調べられた関係証拠、当審において取り調べた被告人Aに関する留置
人出入簿謄本、同被告人の司法警察員に対する供述調書五通及び検察官に対する供
述調書三通(いずれも本件決定において証拠能力を否定されたものであるが、当審
において供述経過を立証趣旨として取り調べたもの)、並びに被告人Aの当審公判
廷における供述を総合すると、同被告人に対する取調開始からその終結に至るまで
の客観的経過として以下の事実が認められ、右認定を左右するに足りる証拠はな
い。
 (1) 被告人A(第一次逮捕当時一八才一一月)は、昭和四九年三月からKの
経営する自動車修理工場に修理工として勤務するかたわら、Lの神戸市立M高校に
通学していたものであつて、前科前歴は、全くない。同被告人は、昭和五一年五月
一五日午後九時ころ友人とともにHまつりに現われる暴走族を見物するために出か
け、群衆心理に駆られて原判示罪となるべき事実第一及び第三各記載の如きタクシ
ーに対する共同器物損壊行為等の犯行に及んだが、その際の着衣は、仕事用の上下
一体となつた白の作業衣(いわゆる鉛管服)に白い作業帽というはなはだ特徴ある
ものであつた。
 (2) 同月二一日、二二日の両日にわたつて新聞にDタクシー事件の現場写真
が掲載され、同写真中に同タクシーを蹴つている白い鉛管服の男が写つており、こ
れを見た被告人Aの雇主であるKは、ただちにこれが同被告人であることに気付
き、その両親及び学校に連絡したうえ、両親と関係教師を交え同被告人を問いただ
したところ、タクシーを蹴つたり投石したことを認めたので、相談のうえ、同月二
二日午後七時ころ前記高校の教諭三名において、東灘警察署に赴き、新聞に出てい
る写真の鉛管服の男は、同校生徒の同被告人であつて、本人も届け出て欲しいと言
つているので届ける、明二三日には同行して出頭させる旨事情説明を行つた。
 (3) 他方、前記捜査本部においても多数の捜査員を動員して前記捜査方針に
基づき、主に新聞に掲載された写真から被疑者の特定につとめていたが、前記
(2)の如く被告人Aに関する届出があつたため、同人の取調べを永年殺人、強盗
等凶悪犯の捜査に従事し、同月一七日ころから同捜査本部に編入されていたベテラ
ン警察官であるN警部補(県警刑事部捜査第一課所属)に担当させることを決定
し、命を受けたN警部補は、同月二三日午前一〇時ころ被告人Aの自宅に赴き、
「Hまつり事件のことで聞きたいので県警本部まで一緒に来て欲しい。」と言つ
て、あらかじめ覚悟をしていた同被告人と両親の了解を得て、同被告人を県警本部
に任意同行した。
 (4) N警部補が、県警本部に到着後ただちに、参考人取調べの形式で五月一
五日夜から同月一六日早朝にかけての被告人Aの行動を聴いたところ、任意同行当
日の午後四時ころまでの間に、同人は、友人とHまつりを見物に行き、国鉄J駅南
側の交差点の付近でDタクシーを転覆させようとしたり、そこへ来た○△□に投石
したり、押したりしたほか、数台のタクシー及びバスに投石したり、派出所や警察
署に投石したりしたことなど原判示罪となるべき事実第一記載の各事実のほか、○
△□を押したことを率直に認める供述をした。そこでN警部補は、午後四時ころか
ら、黙秘権を告知したうえ、同被告人の身上関係とDタクシー事件に関する簡単な
自白を内容とする供述調書を作成し、午後七時三〇分ころDタクシー事件を被疑事
実とする通常逮捕状を請求して、同日午後八時ころ神戸地方裁判所裁判官から逮捕
状の発付を受け、午後八時二五分同被告人を逮捕し、県警本部留置場に留置した。
逮捕後に作成された弁解録取書には、右被疑事実のほか、警察のトラツクに投石し
たり、押したり、交番に投石したことを認める旨の供述が記載されている。
 (5) N警部補は、翌五月二四日から被告人Aに対する本格的取調べを開始し
たが、同日から同月二六日同被告人に対し神戸地方裁判所裁判官からDタクシー事
件を被疑事実とし、刑事訴訟法六〇条一項二号、三号を勾留理由とした勾留状が発
せられるまでの三日間には、同被告人の五月二四日付司法警察員に対する供述調書
二通を作成したほか、同月二五日に、同被告人本人に自筆で、同月一五日夜から一
六日早朝にかけての同人の行動の詳細について、長文の説明書(同被告人の昭和五
一年六月五日付司法警察員に対する供述調書《本文三丁の分》にその一部が添付さ
れているもの)を作成させた。右二四日付供述調書のうち一通(二二丁の分)はも
つぱらDタクシー事件に関するものであつたが、他の一通(六丁の分)には極く簡
単ではあるものの、警察の大型トラツクに投石したり、多くの人とトラツクを倒そ
うとして押したりついたりした旨の供述が含まれ、さらに右説明書には、被告人A
が本件大型輸送車に遭遇し、投石したり押したりした状況の詳細がB4判白紙二枚
に記載され、ことに○△□を押した際、その進行方向に人が倒れているのを見て手
を離し、離れて見ている時に人が轢過されるのを目撃したとの本件殺人の事実に直
接関連する具体的記述がなされている。
 (6) 同月二六日、前記勾留状が発付された後の同月二七日から同月三〇日ま
での四日間には、連日長時間にわたる取調べが行われたものの、供述調書は、司法
警察員に対する同月二七日付のもの二通及び検察官に対する同月二九日付のもの一
通が作成されたのみであり、同月二七日付供述調書のうち一通は、起訴外の事実で
ある中央交通タクシーを転覆させたりしたことに関するもの(四丁)、他の一通
は、被告人Aの五月一五、六日の行動順序を略図に従つて説明させたもの(本文二
丁)であり、同月二九日付検察官調書は、被告人Aの身上、経歴及びHまつり見物
に出かけるまでの行動についての供述を内容とするもの(一〇丁)で、いずれも長
時間の取調べを要しないと考えられるものばかりである。
 (7) 同月三〇日には、被告人Aは、午前一時二五分から午前四時五〇分まで
の間「見分のため(h管内)」との理由でN警部補の要請により代用監獄から出房
し、本件殺人の事実発生の現場に臨んだ。同所で行われた実況見分では、同被告人
の指示説明に基づき、○△□を押した状況、人の倒れていた位置、手を離した状況
等を同型車を用いて再現し、距離の測定などが行われ(昭和五一年六月四日付実況
見分調書…昭和五一年七月一五日付検察官請求証拠目録番号5―不同意により撤
回)、また同日ころ、本件殺人の事実に関し、同被告人に対し、ポリグラフ検査が
実施された。
 (8) 五月三一日は、一日中本件殺人の事実についての取調べが行われ、午前
中は、被告人Aが○△□を押しているとき、人が倒れているとの声で手を離したの
か、倒れている人を見て手を離したのかについての問答があり、午後、短時間であ
るが、中東弁護人の接見があつた後、午後四時ころから取調べが再開されたが、そ
の際同被告人が○△□を押した事実自体をも否認するような供述をしかけたため、
N警部補は、こういうことやつておると暇ばかりかかつてどうするつもりかよく考
えよと厳しく叱りつけ、同被告人が涙ぐむようなことがあつた後、押している時に
人が倒れているのを見たがそのまま押し続けたとの供述がなされ、その結果同日中
に供述調書二通が作成され、午後九時四五分ころ取調べを終了した。右調書中の一
通は前記中央交通タクシー事件に関する簡単な調書(二丁)であり、他の一通は、
本件殺人の事実に関する右の如き供述を内容とするもの(六丁―別表(一)番号1
の調書)である。
 (9) 右供述後の六月一日から、二回にわたる各五日間ずつ合計一〇日間の勾
留期間延長を経由して、六月一四日午後七時四〇分に本件殺人の事実を含む被疑事
実により再逮捕されるまでの一四日間の被告人Aに対する取調状況は、連日午前九
時ないし一〇時ころから午後八時ころまで、最も遅い時間としては午後一一時ころ
まで警察官及び検察官の取調べが続けられ、合計一二通の警察官調書、七通の検察
官調書が作成され、右各調書のうち九通の警察官調書、四通の検察官調書が本件殺
人の事実に関するもの(別表(一)番号2ないし13)であつて、とくに六月一日
から同月五日までの間は、七通の供述調書中本件殺人の事実以外の事実のみに関す
る調書は、六月一日付検察官調書(二丁)、六月五日付警察官調書(五丁)だけで
他の五通(合計丁数三九丁)は、いずれも本件殺人の事実、とくに人が倒れている
のを見ながら、○△□を押し続けて轢過した状況に関する詳細な供述を含むもので
あつた。
 なお、右六月一日以降の警察官調書の冒頭記載の被疑罪名は、別表(一)記載の
如く、本件殺人の事実関係で請求されているものについては、すべて「公務執行妨
害等」となつており、五月三一日までの警察官調書に記載されている被疑罪名「暴
力行為等処罰に関する法律違反等」(逮捕・勾留事実)と明確に区別されて記載さ
れている。(もつとも、検察官調書は、第二次逮捕に至るまで一貫して後者の罪名
が記載されており、右の如き区別はなかつた。)
 またその間被告人Aは、以上の供述調書のほか、六月三日、同四日の両日にわた
り、Dタクシー事件以降の同被告人の行動を詳細に説明し、本件殺人の事実につい
ても詳しく触れた自筆の説明書(昭和五一年六月五日付警察官調書六丁のものに添
付)を作成し、さらに同月一三日午前三時一五分から午前六時一〇分の間には再び
実況見分に立会し、同被告人が○△□を押し続けた状況を再現した。
 (10) 被告人Aは、六月一四日午後六時五分いつたん釈放されたが、引き続
き本件殺人の事実を含む原判示第一の二、三、四、六及び第三の事実と同一の事実
を被疑事実とする逮捕状により逮捕され、同月一七日右と同一の事実について神戸
地方裁判所裁判官から勾留状が発付されたが、右勾留に対し弁護人がした準抗告に
ついて、同月一九日同裁判所は、六月一日以降同月一四日までの第一次勾留期間中
には、もつぱら本件殺人の事実及び原判示第三の事実についての取調べがなされ、
この間の勾留は、実質的にはこれらの事実についての勾留と認められるから、これ
らの事実に基づく第二次勾留は勾留のむし返しになつて許されないとの理由で右各
事実に関する勾留請求を却下し、その余の事実について勾留を認める決定をした。
 (11) 右第二次勾留期間中(六月一七日から、同月二六日に神戸家庭裁判所
が被告人Aについて観護措置決定をするまで)には、警察官調書は一通も作成され
ず検察官の取調べが主体であつたが、本件殺人の事実に関しては、六月二四日付供
述調書二通が作成され、その余の事実に関する供述調書が三通作成された。
 (12) 被告人Aは、六月二六日、原判示罪となるべき事実第一の一ないし
六、第三及び本件殺人の事実について神戸家庭裁判所に送致され、右各事実につい
ての観護措置決定を経て、七月六日右事実につき身柄拘束のまま検察官送致決定を
受け、同月一三日に追送致された原判示罪となるべき事実第一の七の事実を加え、
同月一五日(本件決定中《三〇六七丁表》に一三日とあるのは一五日の誤記と認め
る。)に右全事実について神戸地方裁判所に起訴されたが、右起訴の直前の七月一
四日、同月一五日に各二通ずつの検察官調書(うち三通が本件殺人の事実に関する
もので、別表(一)番号16ないし18にあたる。)が作成されている。その後同
月一九日、同被告人は、保釈許可決定により釈放された。
 (13) 以上の取調経過のうち、被告人Aが六月二六日家庭裁判所に送致され
るまでの取調状況の要約は、次表のとおりである。
<記載内容は末尾1添付>
 (三) 被告人Aに対する捜査官の取調方針と実情
 前記(二)認定の如く、被告人Aの警察段階における取調べを終始担当し、かつ
五月三一日に本件殺人の事実に関し、人の倒れているのを見ながら○△□を押し続
けた旨の同被告人の供述を最初に得たN警部補は、自己の取調べないし供述録取の
方針と実情につき、原審公判廷において、「1」前記捜査本部の基本的捜査方針並
びに自己の凶悪犯担当の捜査経験に照らして、自分が右捜査本部に編入され、被告
人Aの取調担当を命ぜられたのは、主として本件殺人の事実の捜査を行わせるため
であるとの自覚を有していたこと、「2」したがつて、被告人Aを任意同行した際
には、いまだ本件の殺人の事実に関する容疑は強くなかつたものの参考人として取
り調べた段階で同被告人が○△□を押した旨任意に供述したので、ただちに本件殺
人の事実について取り調べる方針を固め、前記写真と本人の自認により証拠上明ら
かなDタクシー事件で逮捕した当日及びその翌日は、「作戦として」(記録二七六
三丁)Dタクシー事件及びHまつりに赴いた当日の同被告人の一連の行動について
質問したが、その取調べはさほどの時間を要せずに終つたので、五月二五日ころか
ら連日取調時間のほとんどすべてを本件殺人の事実の取調べに費し、同月三一日の
前記供述に至つたが、それまでは、同被告人が倒れている人を見て○△□から手を
離した旨の供述を続けていたので、本件殺人の事実に関する供述調書は作成せず、
同月三一日から六月五日ころまでの間に、本件殺人の事実に関する供述調書を集中
的に合計六通(合計三三丁)作成したこと、「3」第一次逮捕・勾留期間中(合計
二三日間)Dタクシー事件についての取調べに要した時間は、全体を通じ日数に換
算して二、三日程度にすぎず、右期間中に本件殺人の事実に関する警察段階の取調
べを終了してしまつたため、第二次逮捕勾留期間中に取調べの必要を感じる事項は
残つていなかつたが、検察庁における補充的取調のため検察官の指示により第二次
逮捕がなされ、引き続き勾留手続がとられたこと、「4」本件殺人の事実に関する
取調べに関し、上司からは、何日かかつてもよいとの示唆を受けていたが、証拠資
料としては結局前記Dタクシー事件についての写真以外は全く与えられず、取調べ
はもつぱら、同被告人が○△□から手を離したとの供述内容の不自然性を追及する
という取調方法に終始せざるを得なかつたことの各事実を供述しているのである
が、右供述内容は、前記(二)認定の取調経過、ことに留置人出入簿によつて認め
られる取調時間の状況、供述調書(説明書を含む)の作成状況とその内容、丁数等
に照らして十分首肯するに足り、信用性が高いと認められる。
 (四) 被告人Aの取調状況についてのまとめ
 以上(二)(三)で説示したところに従つて、Dタクシー事件を被疑事実とする
被告人Aの第一次逮捕・勾留期間中の同被告人に対する取調べについて、取調時間
の費消状況、作成された供述調書の録取内容及び丁数、取調べを担当した捜査官の
意図等の諸事実を総合すると、右逮捕・勾留期間二三日間のうちDタクシー事件の
取調べには、たかだか二、三日間程度を要しただけで、その余の期間は、もっぱら
右事件以外の余罪、就中被告人Aが否認していた本件殺人の事実、それも倒れてい
る人を見て押していた○△□から手を離したか否かの一点に集中した取調べに用い
られていると認められ、しかも右取調べの状況は、第一次逮捕の当初から意図され
た結果であるということができる。
 これに対し所論は、第一次逮捕・勾留期間中の被告人Aの取調状況について、逮
捕・勾留事実であるDタクシー事件の取調べに付随しないしはこれと併行して本件
殺人の事実の取調べが行われたにすぎないと主張するけれども、以上説示したとこ
ろに照らして到底採用することができず、前記認定とほぼ同旨の事実を認定した本
件決定に証拠能力判断に際し、所論のいうような前提事実の誤認は認められない。
 (五) 被告人Bに関する取調べの客観的経過
 原審で取り調べられた関係証拠、当審において取り調べた被告人Bに関する留置
人出入簿謄本、同被告人の検察官に対する供述調書一通(本件決定において証拠能
力を否定されたものであるが、当審において供述経過を立証趣旨として取り調べた
もの)及び捜査日誌、並びに当審証人Q及び被告人Bの当審公判廷における各供述
を総合すると、同被告人の取調開始から終結に至るまでの客観的経過として、以下
の事実が認められ、右認定を左右するに足りる証拠はない。
 (1) 被告人B(逮捕当時一九才四月)は、昭和五一年三月兵庫県立R高校を
卒業後、会社員として勤務していたものであつて、前科前歴は全くない。同被告人
は、同年五月一五日午後九時ころ、友人とともにHまつりに現われる暴走族を見物
するために出かけ、その際群衆心理に駆られて、原判示罪となるべき事実第二及び
第三記載のとおりのタクシーに対する共同器物損壊行為等の犯行に及んだ。
 (2) 五月一六日付新聞に掲載された写真に、原判示第二の四の如く機動隊に
投石している群衆のなかに被告人Bが写つており、また一般人の提供した写真中に
もタクシーを転覆させている同被告人が写つていたため、通報により右写真中の人
物が同被告人らしいとの情報をえた前記捜査本部は、ベテランの刑事である県警刑
事部捜査第三課所属の巡査部長Qに同被告人に関する捜査を命じた。Q巡査部長
は、前記各写真を持つて学校や同被告人の居宅の近所について聞き込みを行つた結
果、前記写真中の人物は同被告人であると断定し、七月一九日夕刻、同被告人に対
し電話で翌朝県警本部へ任意出頭するよう求めた。
 (3) 七月二〇日午前九時四〇分ころ県警本部に任意出頭した被告人Bに対
し、Q巡査部長は、参考人取調べの形式で同被告人の五月一五日、一六日の行動を
簡単に尋ね、さらに本件殺人の事実に関するポリグラフ検査を実施した後、あらた
めて詳細に質問したところ、同被告人は、原判示第二の一、三のタクシー二台に対
する転覆行為であるEタクシー事件及びFタクシー事件のほか、○△□を押した事
実を認める供述をしたが、同巡査部長は、右のうち原判示第一の一、三の事実に関
する供述調書を作成したうえ、右事実と同一の事実を被疑事実とする通常逮捕状を
請求し、神戸地方裁判所裁判官から逮捕状の発付を受け、同日午後五時四〇分同被
告人を逮捕した。
 右逮捕後の弁解録取の手続の際に、被告人Bは、タクシー二台を転覆させたほか
○△□を分離帯に突き当たるまで押した旨の供述をした。
 (4) 翌二一日から、Q巡査部長によつて、被告人Bに対する本格的取調べが
開始されたが、同日行われた勾留質問前検察官の作成した弁解録取書には、前記二
台のタクシーを転覆させたほか、○△□を押し続けた際、途中車輪が人を轢いたシ
ヨツクがあつた旨の、また同日付の警察官調書には、身上、経歴のほか原判示第二
の一、三、四の行為について概略の供述に加え、「大型車を押してカメラマンを轢
き殺すというようなことまでやつてしまつた」との本件殺人の事実の概略を認める
供述が記載された。
 (5) 七月二二日被告人Bは、前記逮捕事実と同一の事実で神戸地方裁判所裁
判官の発した勾留状により刑事訴訟法六〇条一項二号、三号を勾留理由として勾留
され、同日のQ巡査部長の取調べに対し、原判示第二の三のFタクシー事件につい
ての供述のほか、本件殺人の事実についての詳細の供述すなわち、○△□の前部中
央付近を押し、人が倒れているとの人声を聞いた後も押し続けた、その二、三〇秒
後に手ごたえのあるシヨツクがあつた、との供述をし、その旨の供述を内容とする
同日付警察官調書(別表(二)番号1)が作成された。
 (6) 七月二三日以降二六日まで連日Q巡査部長及び検察官の被告人Bに対す
る取調べがなされたが、本件殺人の事実に関する供述調書は一通も作成されず、原
判示第二の一、三、四の事実に関する警察官調書三通及び検察官調書一通が作成さ
れたのみである。ところが同月二七日から、同被告人が同月三一日に逮捕・勾留事
実について神戸家庭裁判所に送致され、同日右事実について観護措置決定を受ける
までの間は、連日の長時間にわたる取調べの結果七通の警察官調書、三通の検察官
調書が作成されたが、内二通の警察官調書と一通の検察官調書を除くその余のすべ
てが本件殺人の事実に関する供述を含んでおり、別表(二)番号2ないし8のとお
り原審公判廷において本件殺人の事案に関する証拠として請求されている。しかし
いずれの調書の被疑罪名の記載にも別表(二)記載のとおり「殺人」の罪名は含ま
れていない。
 (7) 前記の如く観護措置決定を受け少年鑑別所に収容中の被告人Bに対し、
八月一一日及び一二日に前記捜査本部所属のS巡査部長外一名が取調べを行い、本
件殺人の事実を被疑事実として告知して供述を求め、同月一一日及び一二日付各供
述調書(別表(二)番号9、10)を作成した。
 (8) 八月一六日神戸地方検察庁検察官は、被告人Bについて、本件殺人の事
実、原判示第二の二、四、第三の各事実について神戸家庭裁判所に追送致し、同裁
判所は、同月二四日全受送致事実について検察官に送致する決定を行つたものの、
同日観護措置を取り消したため、同検察庁検察官は、九月二七日本件殺人の事実及
び原判示第二の一ないし四、第三の各事実と同一の公訴事実について、被告人Bを
原裁判所に在宅起訴した。
 (9) 以上の取調経過のうち、被告人Bが七月三一日家庭裁判所に送致される
までの取調状況の要約は、次表のとおりである。
<記載内容は末尾2添付>
 (六) 被告人Bに対する捜査官の取調方針と実情
 前記(五)認定の如く被告人Bの警察段階における取調べを逮捕から七月三一日
の家庭裁判所送致まで担当し、かつ七月二二日に同被告人の本件殺人の事実に関す
る前記供述を最初に得たQ巡査部長は、自己の取調べないし供述録取の方針と実情
につき、原審及び当審公判廷において、「1」被告人Bを任意出頭させた際には、
いまだ本件殺人の事実に関する容疑は強くなかつたものの、参考人として取り調べ
た段階で同被告人が○△□を押した事実を任意に供述したので、ただちに本件殺人
の事実についても取り調べる方針を固め、写真と本人の自認により証拠上明らかな
Eタクシー事件及びFタクシー事件で逮捕し、逮捕の日とその翌日は右両事件に関
する取調べを行つたが、七月二二日はもつぱら本件殺人の事実について取り調べた
ところ、同被告人が人が倒れているとの人声を聞いた後も○△□を押し続けた旨の
供述をしたので、とりあえず早い時期に本件殺人の事実に関する供述調書を作成し
ておく必要があつた(記録二五三九丁)ため、その要点を記載した同日付供述調書
を作成し、その後再び逮捕・勾留事実の取調べに戻り、同月二六日までに右事実に
ついての取調べをすべて終了し、同月二七日から同月三一日まではその連日、長時
間の取調時間の大半を本件殺人の事実に関する取調べと供述調書作成に費したこ
と、「2」供述調書記載の被疑罪名を被告人Bに見せて、殺人罪にしないから安心
して話すようにといつた説得は行つていないが、同被告人から人が倒れているとの
人声を聞いたというと殺人罪にならないかとの趣旨の質問があり、それに対して
は、明確な返答をしなかつたのであつて、その理由は、自分では判断がつきかねた
ためと、被疑罪名を決定するのは上司の権限であると考えていためであることをそ
れぞれ供述しているのであるが、右供述内容のうち「1」の部分は前記(五)認定
の取調経、ことに留置人出入簿、捜査日誌によつて認められる取調べの状況、供述
調書の作成状況とその内、丁数等に照らして十措信することができるが、「2」の
部分は、不自然であつて、信用することがでない。
 すなわち、前記捜査本部のとつた基本的な捜査方針など前記一(一)に判示した
事実によつて明らかなように、同本部所属の捜査員全員の関心が本件殺人の事実に
集中し、殺意を持つて○△□を押したか否かの供述を求めることを中心に被疑者の
取調べを行つていたことは動かし難い事実であつて、Q巡査部長ももとよりその地
位、経歴に徴し、その例外とは考えられないうえ、少年であつた被告人Bでさえ直
感したように、人が倒れているとの人声を聞いたにもかかわらず○△□を押し続け
て轢過したと供述することが殺人の構成要件に該当する嫌疑を濃厚ならしめること
は、Q巡査部長において気づかないはずはないのである。まして前記(五)(四)
で認定した如く逮捕の翌日には、カメラマンを「轢き殺す」というようなことをし
たとの供述を録取しているのであるから、同巡査部長が被告人Bの本件殺人の事実
に関する一連の供述が殺人罪の嫌疑を生じさせるか否か判断しかねたとの供述は不
自然極まりないといわなければならず、むしろ殺人罪について取り調べていること
を十分自覚しつつ被疑者にそれを知られたくないためあいまいな返答をしていたの
ではないかとも考えられるのである。
 これに反し、被告人Bが原審及び当審公判廷において、七月二二日の取調べの際
に、同巡査部長から供述調書の冒頭記載の被疑罪名を示されて、「殺人なんかつけ
へんから心配するな」との誘導を受け、人が倒れているとの声を聞いたとの事実を
供述したとの弁解内容は、その供述内容それ自体にその信用性を疑うべき格別の事
情はなく、前記Q供述の不自然性に照らすと、少なくとも同被告人は、七月二二日
の取調べの際Q巡査部長から右のような詐言を用いて誘導された結果、人が倒れて
いるという人声を聞きながら○△□を押し続け、二、三十秒後に手ごたえのあるシ
ヨツクがあつたとの前記供述をし、以後これを維持した合理的疑いが濃厚であると
いわざるをえない。
 (七) 被告人Bの取調状況についてのまとめ
 以上(五)(六)で説示したところによれば、被告人Bの逮捕・勾留は、Eタク
シー事件及びFタクシー事件についてなされたものであるが、捜査官は、その逮
捕・勾留期間を本件殺人の事実の取調べに流用する意図を当初から有しており、現
に逮捕当初から同被告人に対し、本件殺人の事実についても取調べを行つているに
もかかわらず、そのことを告知して弁明の機会を与えないばかりか、逆に殺人とい
う重大犯罪の嫌疑で取り調べるのではない旨詐言を用いて同被告人から前記のよう
な供述を早期に得てしまつた疑いが濃厚であるといわなければならない。そのため
被告人Aの場合と異なり外観上逮捕二日後の七月二二日に本件殺人の事実に関する
右供述を得た後は、まず逮捕・勾留事実についての取調べを行い、その終了後、余
罪である本件殺人の事実に移行したかのような通常の余罪取調と同様の取調状況と
なつているが、捜査官が逮捕の当初から逮捕・勾留事実による身柄拘束を利用して
本件殺人の事実について同被告人を取り調べる意図を有しており、現にその逮捕・
勾留期間の大半が本件殺人の事実の取調べにあてられたことは動かしがたい事実で
あると認められる。
 これに対し所論は、被告人Bに対する本件殺人の事実に関する取調べは、その外
観どおり、逮捕・勾留事実の取調終了後、余つた身柄拘束期間を利用し、同被告人
の利益のためにたまたま判明した余罪取調べをしたものと認定すべきであり、Q巡
査部長が詐言を用いたこともないと主張するけれども、以上説示したところに照ら
して到底採用し難く、前記認定とほぼ同旨の事実を認定した本件決定に、証拠能力
判断に際しての前提事実の誤認は認められない。
 二、 被告人両名に対する取調べの適法・違法について
 そこで、被告人Bに対するDタクシー事件を被疑事実とする第一次逮捕・勾留期
間中に、被告人Bに対するEタクシー事件及びFタクシー事件を被疑事実とする逮
捕・勾留期間中に、本件殺人の事実について被告人両名を取り調べ、これに関する
不利益事実の供述を得た取調方法が適法であるか否かについて検討する。
 <要旨>(一) 一般に甲事実について逮捕・勾留した被疑者に対し、捜査官が甲
事実のみでなく余罪である乙事実についても取調べを行うことは、これを禁
止する訴訟法上の明文もなく、また逮捕・勾留を被疑事実ごとに繰り返していたず
らに被疑者の身柄拘束期間を長期化させる弊害を防止する利点もあり、一概にこれ
を禁止すべきでないことはいうまでもない。しかしながら、憲法三一条が刑事の手
続に関する適正性の要求を掲げ、憲法三三条、三四条及びこれらの規定を具体化し
ている刑事訴訟法の諸規定が、現行犯として逮捕される場合を除いて、何人も裁判
官の発する令状によらなければ逮捕・勾留されないこと、逮捕状・勾留状には、理
由となつている犯罪が明示されなければならないこと、逮捕・勾留された者に対し
てはただちにその理由を告知せねばならず、勾留については、請求があれば公開の
法廷でその理由を告知すべきことを規定し、いわゆる令状主義の原則を定めている
趣旨に照らし、かつ、刑事訴訟法一九八条一項が逮捕・勾留中の被疑者についてい
わゆる取調受忍義務を認めたものであるか否か、受忍義務はどの範囲の取調べに及
ぶか等に関する同条項の解釈如何にかかわらず、外部から隔離され弁護人の立会も
なく行われる逮捕・勾留中の被疑者の取調べが、紛れもなく事実上の強制処分性を
もつことを併せ考えると、逮捕・勾留中の被疑者に対する余罪の取調べには一定の
制約があることを認めなければならない。とくに、もつぱらいまだ逮捕状・勾留状
の発付を請求しうるだけの証拠の揃つていない乙事実(本件)について被疑者を取
り調べる目的で、すでにこのような証拠の揃つている甲事実(別件)について逮捕
状・勾留状の発付を受け、同事実に基づく逮捕・勾留に名を借りて、その身柄拘束
を利用し、本件について逮捕・勾留して取り調べるのと同様の効果を得ることをね
らいとして本件の取調べを行う、いわゆる別件逮捕・勾留の場合、別件による逮
捕・勾留がその理由や必要性を欠いて違法であれば、本件についての取調べも違法
で許容されないことはいうまでもないが、別件の逮捕・勾留についてその理由又は
必要性が欠けているとまではいえないときでも、右のような本件の取調べが具体的
状況のもとにおいて実質的に令状主義を潜脱するものであるときは、本件の取調べ
は違法であつて許容されないといわなければならない。
 (二) そして別件(甲事実)による逮捕・勾留中の本件(乙事実)についての
取調べが、右のような目的のもとで、別件の逮捕・勾留に名を借りその身柄拘束を
利用して本件について取調べを行うものであつて、実質的に令状主義の原則を潜脱
するものであるか否かは、「1」甲事実と乙事実との罪質及び態様の相違、法定刑
の軽重、並びに捜査当局の両事実に対する捜査上の重点の置き方の違いの程度、
「2」乙事実についての証拠とくに客観的な証拠がどの程度揃つていたか、「3」
甲事実についての身柄拘束の必要性の程度、「4」甲事実と乙事実との関連性の有
無及び程度、ことに甲事実について取り調べることが他面において乙事実について
も取り調べることとなるような密接な関連性が両事実の間にあるか否か、「5」乙
事実に関する捜査の重点が被疑者の供述(自白)を追求する点にあつたか、客観的
物的資料や被疑者以外の者の供述を得る点にあつたか、「6」取調担当者の主観的
意図がどうであつたか等を含め、具体的状況を総合して判断するという方法をとる
ほかはない。
 (三) これを本件についてみるに、前記第一、一において認定した事実から明
らかな以下の諸事由、すなわち「1」被告人Aの第一次逮捕・勾留事実であるDタ
クシー事件、被告人Bの逮捕・勾留事実であるEタクシー事件及びFタクシ―事件
は、犯罪事実自体からただちに逮捕・勾留の理由又は必要性がないと断定しうるほ
ど軽微な事件ではないけれども、本件殺人の事実と比較して、その法定刑がはるか
に軽いのはもとより、その罪質及び態様においても大きな径庭のある軽い犯罪であ
るだけでなく、昭和五一年度Hまつり開催期間中に発生した一連の事犯の捜査にあ
たつた捜査官の関心は、既述の事情から、主として本件殺人の事実の解明に向けら
れていたこと、「2」そして、本件殺人の事実の捜査については、○△□を押した
人物を写真等の客観的資料で特定するだけでは足りず、○△□を押したことが判明
した被疑者について、さらに殺意を認めるための前提事実としてこれを押した方向
にC記者が昏倒している事実を認識しながらあえてこれを押し続けたということを
証明する証拠が収集されなければならないが、この点を裏づける客観的証拠は非常
に乏しく、いきおい被疑者の供述に頼らざるをえなかつたため、捜査は困難を極
め、現に前記のように逮捕被疑者一五五名のほとんど全員に無作為的に本件殺人の
事実に関するポリグラフ検査を実施するというような状況であつたこと(なお捜査
の結果殺人罪として処理しえたのは、被告人両名を含む少年三名のみであつたが、
そのうち被告人両名以外の少年は、家庭裁判所において少年の供述に信用性がない
として不処分決定がなされている。)、「3」被告人両名は、いずれも逮捕当時少
年であり、前科前歴は皆無で身元も安定しておるうえ、逮捕前すでに右各逮捕・勾
留事実を認め、その旨の概略的な供述を録取した調書も作成され、その供述を裏づ
ける客観的証拠である写真も存在していたのであつて、これらの点よりみると、被
告人両名を右各逮捕・勾留事実について逮捕・勾留する理由と必要性は、けつして
高度のものではなく、在宅取調べによつて捜査目的の達成が可能であつたとも考え
られること、「4」しかも、右各逮捕・勾留事実と本件殺人の事実とは、右Hまつ
り開催中に発生した一連の事犯の一部であるという程度の広い意味では社会的関連
性を有しないとはいえないが、罪質、被害者、犯行時刻、場所を異にし、右各逮
捕・勾留事実の取調べをすすめることが本件殺人の事実についての取調べにもつな
がるというような密接な関連性は存在せず、前者についての取調べは後者について
の取調べのきつかけを提供するという程度の関係にあるにすぎないのであつて、現
に被告人両名に対する右各逮捕・勾留事実についての取調べは手早くすまされ、本
件殺人の事実は、それらとは別個の事実として取調べがなされていること、「5」
また、被告人両名は、逮捕前から○△□を押したことのあつた事実自体は争つてい
なかつたから、捜査の重点は、客観的資料の収集というより、被告人両名から、人
が倒れていたことを認識しながらその方向に、したがつて人を轢過することを認識
しながら○△□を押し続けたか否かについての供述を得ることにおかれていたこと
(なお、この点は、被告人AがN警部補に対しては、○△□を押しはじめてから倒
れているC記者に気づいたが、同車右後輪で同記者を轢くまで一貫して同車を押し
続けた旨供述しながら、検察官の取調段階に至つて同車を押しはじめたという時点
以後同被告人が同車から離れている事実を示す写真の存在が覚知されたため、これ
に符合するように、いつたん同車を押しはじめた後、割り込んできた他の男にはじ
き出されるようにして同車を離れ、その後再び同車にへばりついて押したと供述が
変更されたと認められることや、被告人Bが、捜査官に対し、○△□の前部正面か
ら後方に向けて同車を押していた際人が倒れているという声を聞いただけで、その
倒れている位置その他の具体的状況を一切聞知していないのに、場合によつては倒
れている人を轢いてしまうかもしれぬと思つて同車を押し続けた旨飛躍のある供述
をしていることにもあらわれている。)、「6」さらに、被告人Aの第一次逮捕・
勾留期間、被告人Bの逮捕・勾留期間中の取調時間の大半が本件殺人の事実につい
ての取調べに費されているところ、被告人両名の取調べを担当したN警部補、Q巡
査部長の両名とも、右各逮捕の当初から右各期間を本件殺人の事実の取調べに積極
的に利用しようという意図を有していたこと、以上の諸事由を踏まえて、さらに関
係証拠を検討すると、被告人両名に対する右各逮捕・勾留は、その理由又は必要性
が欠けているとまでは断定しえないとしても、そしてまた右逮捕・勾留期間中にお
いては、それぞれその逮捕・勾留事実についても被告人両名の取調べがなされてい
るけれども、その各期間中の取調時間の大半が用いられた被告人両名に対する本件
殺人の事実についての取調べは、これを実質的にみれば、もつぱらいまだ逮捕状・
勾留状の発付を請求しうるだけの証拠の揃つていない本件殺人の事実について被告
人両名を取り調べる目的で、すでにこのような証拠の揃つていた右各逮捕・勾留事
実について逮捕状・勾留状の発付を受け、同事実に基づく逮捕・勾留に名を借り
て、その身柄拘束を利用し、あたかも本件殺人の事実について司法審査を受け逮捕
状・勾留状の発付を受けたと同様の状態のもとで、同事実ことにその殺意に関する
不利益事実の供述を追求したものであるということかできる。これに加えて、被告
人Aについては、第一次逮捕・勾留に続いて、本件殺人の事実等に基づく逮捕状・
勾留状の請求発付がなされ(第二次逮捕・勾留)、実質的な逮捕・勾留のむし返し
が行われた(もつとも、それは前記準抗告決定の限度で司法的抑制を受けた。)こ
と、被告人Bについては、その取調べに際し捜査官の意図を察知されないようにす
るため、あたかも本件殺人の事実については、殺人罪として処理することを目的と
した取調べをしないかのような詐言が用いられ、同被告人の防禦権行使が妨げられ
た疑いが濃厚であることなどの諸事情をも併せ考えると、右各逮捕・勾留期間中に
おける被告人両名に対する本件殺人の事実に対する取調べは、具体的状況に照ら
し、実質的に憲法及び刑事訴訟法の保障する令状主義を潜脱するものであつて、違
法で許容されえないものといわなければならない。
 三 別表(一)(二)記載の各供述調書の証拠能力について
 (一) 捜査官が、被告人Aに対する第一次逮捕・勾留期間、被告人Bに対する
逮捕・勾留期間中に、被告人両名を本件殺人の事実について取り調べて作成した各
供述調書、すなわち、別表(一)番号1ないし(13)、別表(二)番号1ないし
8の各供述調書は、前記のようにその取調べに存する違法性が令状主義の潜脱とい
う重大なものであつて、司法の廉潔性の保持及び将来における同様の違法な取調方
法の抑制という見地から、違法収集証拠としてその証拠能力は否定されるべきであ
る。
 (二) 被告人Aに関する別表(一)番号14、15の各供述調書は、同被告人
に対する第二次勾留期間中に、捜査官が本件殺人の事実について同被告人を取り調
べて作成したもの、同被告人に関する別表(一)番号16ないし18の各供述調書
は、同被告人に対する家庭裁判所の観護措置決定が、同裁判所の検察官送致決定に
伴つて勾留とみなされた期間内に、捜査官が本件殺人の事実について同被告人を取
り調べて作成したものであり、被告人Bに関する別表(二)番号9、10の各供述
調書は、同被告人が家庭裁判所の観護措置を受けている間に、捜査官が少年鑑別所
に赴き本件殺人の事実について同被告人を取り調べて作成したものであるが、いず
れも、被告人Aの第一次逮捕・勾留及び被告人Bの逮捕・勾留中に同被告人らを本
件殺人の事実について取り調べて各供述調書(第一次証拠)を作成した捜査官ない
しこれと一体と認められる捜査機関が同様の捜査目的で同一事実につき同被告人ら
を取り調べて作成した供述調書(第二次証拠)である。そして第一次証拠が、前記
のように憲法及び刑事訴訟法の保障する令状主義を実質的に潜脱して被告人両名を
取り調べた結果得られたという重大な違法性を帯びるものである以上、右のような
捜査機関が、第一次証拠の収集時から実質上継続して身柄を拘束されている被告人
両名を取り調べて作成したこのような第二次証拠も、特段の事情のない限り、第一
次証拠と同様の違法性を承継するものと解するのが、司法の廉潔性の保持と将来に
おける違法捜査の抑制という目的にも合致し、正当であると考えられ、本件では右
各供述調書を証拠として許容すべき特段の事情も認められないので、第二次証拠で
ある右各供述調書の証拠能力も、すべて否定すべきものと解する(なお、被告人A
に関する別表(一)番号14、15の各供述調書は、前記準抗告審決定によつて、
同被告人に対する第二次勾留による身柄の拘束が本件殺人の事実の取調べに利用さ
れてはならない旨指摘されながら、右勾留期間内にあえて同被告人を右事実につい
て取り調べて作成したものであつて、実質的な逮捕・勾留のむし返しにより法定の
身柄拘束期間の制限を潜脱してなされた取調べの結果獲得されたという違法性をも
帯びているものと考えられる。)。
 四 結論
 してみると、本件決定が別表(一)(二)記載の各供述調書の証拠能力を否定し
たのは、結論において正当であり、その他所論にかんがみ更に検討しても原判決に
所論の訴訟手続の法令違反はない。
 よつて刑事訴訟法三九六条により本件各控訴を棄却することとし、主文のとおり
判決する。
 (裁判長裁判官 石松竹雄 裁判官 石田登良夫 裁判官 安原浩)
別 紙 
<記載内容は末尾3添付>
別 表 
<記載内容は末尾4添付>

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