弁護士法人ITJ法律事務所

裁判例


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         主    文
     本件各上告を棄却する。
         理    由
 被告人Aの弁護人永田泰之、同池谷昇の上告趣意のうち、違憲をいう点は、実質
は単なる法令違反の主張であり、判例違反をいう点は、いずれも原判断に沿わない
事実関係を前提とする主張であり、その余は、事実誤認、単なる法令違反の主張で
あり被告人A本人の上告趣意は、単なる法令違反、事実誤認、量刑不当の主張であ
つて、いずれも適法な上告理由に当たらない。
 被告人Bの弁護人川上義隆、同阿部昭吾、同渡邊顯の上告趣意のうち、判例違反
をいう点は、原判断に沿わない事実関係を前提とする主張であり、その余は、事実
誤認、単なる法令違反の主張であつて、適法な上告理由に当たらない。
 以下、所論にかんがみ、被告人Bの関係において、特別背任罪(昭和五六年法律
第七四号による改正前の商法四八六条一項)におけるいわゆる図利加害目的につき、
職権をもつて検討する。
 原判決及び原判決が是認する差戻し後の第一審判決の認定によれば、株式会社C
銀行のD支店長であつた被告人Bは、被告人Aの経営するE株式会社(以下「E」
という。)が同支店に開設していた当座預金口座に決済資金が不足した場合には、
右不足分を同銀行において立替払いをするいわゆる過振りの便宜を図つていたが、
Eの資金状態が改善される見通しのないことが明らかとなつた後も、その任務に違
背し、被告人A及びEを利し同銀行を害することを熟知しながら、あえて回収不能
のおそれのある過振りを長期間連続的に行い、同銀行に財産上の損害を加えたもの
であり、しかも、被告人Bが右任務違背行為に出たのは、同銀行の利益を図るため
ではなく、従前安易に行つていた過振りの実態が本店に発覚して自己の面目信用が
失墜するのを防止するためであつたというのである。
ところで、特別背任罪における図利加害目的を肯定するためには、図利加害の点に
つき、必ずしも所論がいう意欲ないし積極的認容までは要しないものと解するのが
相当であり、右事実関係のもとにおいては、被告人A及びEを利し同銀行を害する
図利加害目的の存在を認めることができるものというべきであるから、これと同旨
に解される原判断は、正当である。
 よつて、刑訴法四一四条、三八六条一項三号により、裁判官全員一致の意見で、
主文のとおり決定する。
  昭和六三年一一月二一日
     最高裁判所第二小法廷
         裁判長裁判官    香   川   保   一
            裁判官    牧       圭   次
            裁判官    島   谷   六   郎
            裁判官    藤   島       昭
            裁判官    奥   野   久   之

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