弁護士法人ITJ法律事務所

裁判例


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         主    文
     本件上告を棄却する。
     上告費用は上告人の負担とする。
         理    由
 上告代理人納富義光の上告理由第一点について
 前科及び犯罪経歴(以下「前科等」という。)は人の名誉、信用に直接にかかわ
る事項であり、前科等のある者もこれをみだりに公開されないという法律上の保護
に値する利益を有するのであつて、市区町村長が、本来選挙資格の調査のために作
成保管する犯罪人名簿に記載されている前科等をみだりに漏えいしてはならないこ
とはいうまでもないところである。前科等の有無が訴訟等の重要な争点となつてい
て、市区町村長に照会して回答を得るのでなければ他に立証方法がないような場合
には、裁判所から前科等の照会を受けた市区町村長は、これに応じて前科等につき
回答をすることができるのであり、同様な場合に弁護士法二三条の二に基づく照会
に応じて報告することも許されないわけのものではないが、その取扱いには格別の
慎重さが要求されるものといわなければならない。本件において、原審の適法に確
定したところによれば、京都弁護士会が訴外D弁護士の申出により京都市伏見区役
所に照会し、同市中京区長に回付された被上告人の前科等の照会文書には、照会を
必要とする事由としては、右照会文書に添付されていたD弁護士の照会申出書に「
中央労働委員会、京都地方裁判所に提出するため」とあつたにすぎないというので
あり、このような場合に、市区町村長が漫然と弁護士会の照会に応じ、犯罪の種類、
軽重を問わず、前科等のすべてを報告することは、公権力の違法な行使にあたると
解するのが相当である。原審の適法に確定した事実関係のもとにおいて、中京区長
の本件報告を過失による公権力の違法な行使にあたるとした原審の判断は、結論に
おいて正当として是認することができる。原判決に所論の違法はなく、論旨は採用
することができない。
 同第二点について
 原審の適法に確定した事実関係のもとにおいては、中京区長が本件報告をしたこ
とと、本件照会の申出をしたD弁護士の依頼者である訴外株式会社E教習所の幹部
らが中央労働委員会及び京都地方裁判所の構内等で、関係事件の審理終了後等に、
事件関係者や傍聴のため集つていた者らの前で、被上告人の前科を摘示して公表し
たこととの間には相当因果関係があるとした原審の判断は、正当として是認するこ
とができ、その過程に所論の違法はない。論旨は、採用することができない。
 よつて、民訴法四〇一条、九五条、八九条に従い、裁判官伊藤正己の補足意見、
裁判官環昌一の反対意見があるほか、裁判官全員一致の意見で、主文のとおり判決
する。
 裁判官伊藤正己の補足意見は、次のとおりである。
 他人に知られたくない個人の情報は、それがたとえ真実に合致するものであつて
も、その者のプライバシーとして法律上の保護を受け、これをみだりに公開するこ
とは許されず、違法に他人のプライバシーを侵害することは不法行為を構成するも
のといわなければならない。このことは、私人による公開であつても、国や地方公
共団体による公開であつても変わるところはない。国又は地方公共団体においては、
行政上の要請など公益上の必要性から個人の情報を収集保管することがますます増
大しているのであるが、それと同時に、収集された情報がみだりに公開されてプラ
イバシーが侵害されたりすることのないように情報の管理を厳にする必要も高まつ
ているといつてよい。近時、国又は地方公共団体の保管する情報について、それを
広く公開することに対する要求もつよまつてきている。しかし、このことも個人の
プライバシーの重要性を減退せしめるものではなく、個人の秘密に属する情報を保
管する機関には、プライバシーを侵害しないよう格別に慎重な配慮が求められるの
である。
 本件で問題とされた前科等は、個人のプライバシーのうちでも最も他人に知られ
たくないものの一つであり、それに関する情報への接近をきわめて困難なものとし、
その秘密の保護がはかられているのもそのためである。もとより前科等も完全に秘
匿されるものではなく、それを公開する必要の生ずることもありうるが、公開が許
されるためには、裁判のために公開される場合であつても、その公開が公正な裁判
の実現のために必須のものであり、他に代わるべき立証手段がないときなどのよう
に、プライバシーに優越する利益が存在するのでなければならず、その場合でも必
要最小限の範囲に限つて公開しうるにとどまるのである。このように考えると、人
の前科等の情報を保管する機関には、その秘密の保持につきとくに厳格な注意義務
が課せられていると解すべきである。本件の場合、京都弁護士会長の照会に応じて
被上告人の前科等を報告した中京区長の過失の有無について反対意見の指摘するよ
うな事情が認められるとしても、同区長が前述のようなきびしい守秘義務を負つて
いることと、それに加えて、昭和二二年地方自治法の施行に際して市町村の機能か
ら犯罪人名簿の保管が除外されたが、その後も実際上市町村役場に犯罪人名簿が作
成保管されているのは、公職選挙法の定めるところにより選挙権及び被選挙権の調
査をする必要があることによるものであること(このことは、原判決の確定すると
ころである。)を考慮すれば、同区長が前科等の情報を保管する者としての義務に
忠実であつたとはいえず、同区長に対し過失の責めを問うことが酷に過ぎるとはい
えないものと考える。
 裁判官環昌一の反対意見は、次のとおりである。
 前科等は人の名誉、信用にかかわるものであるから、前科等のある者がこれをみ
だりに公開されないという法律上の保護に値する利益を有することは、多数意見の
判示するとおりである。しかしながら、現行法制のもとにおいては、右のような者
に関して生ずる法律関係について前科等の存在がなお法律上直接影響を及ぼすもの
とされる場合が少なくないのであり、刑事関係において量刑上の資料等として考慮
され、あるいは法令によつて定められている人の資格における欠格事由の一つとし
て考慮される場合等がこれに当たる。このような場合にそなえて国又は公共団体が
人の前科等の存否の認定に誤りがないようにするための正確な資料を整備保管して
おく必要があるが、同時にこの事務を管掌する公務員の一般的義務として該当者の
前科等に関する前述の利益を守るため右の資料等に基づく証明行為等を行うについ
て限度を超えることがないようにすべきこともまた当然である。
 ところで、原判決の認定するところ及び記録によれば、右にのべた資料の一つと
認められるいわゆる犯罪人名簿は、もともと大正六年四月一二日の内務省訓令一号
により市区町村長が作成保管すべきものとされてきたものであるが、戦後において
は昭和二一年一一月一二日内務省発地第二七九号による同省地方局長の都道府県知
事あて通達によつて選挙資格の調査等の資料として引きつづき作成保管され、同二
二年地方自治法が施行されてのちも明文上の根拠規定のないまま従来どおり継続し
て作成保管され今日にいたつていること、右昭和二一年の内務省地方局長通達によ
れば、犯罪人名簿は選挙資格の調査のために調製保存されるものであるから警察、
検事局、裁判所等の照会に対するものは格別これを身元証明等のために絶対使用し
てはならない旨指示されていること、さらに昭和二二年八月一四日内務省発地第一
六〇号による同省地方局長の都道府県知事あて通達によれば、右の警察、検事局、
裁判所等の中には獣医師免許等の免許処分や当時における弁護士の登録等に関して
は関係主務大臣、都道府県知事、市町村長をも含むものである旨指示されているこ
とが明らかである。以上の経緯に徴すると、犯罪人名簿に関する照会に対しその保
管者である市区町村長の行う回答等の事務は、広く公務員に認められている守秘義
務によつて護られた官公署の内部における相互の共助的事務として慣行的に行われ
ているものとみるべきものである。したがつて、官公署以外の者からする照会等に
対してはもとより官公署からの照会等に対してであつても、前述した前科等の存否
が法律上の効果に直接影響を及ぼすような場合のほかは前記のような名誉等の保護
の見地から市町村長としてこれに応ずべきものではないといわなければならない。
前記各通達が身元証明等のために前科人名簿を使用することを禁ずる旨をのべてい
るのは右の趣旨に出たものと解せられる。
 そこでこれを本件について考えてみる。
 本件は、前記各通達のあつたのちに制定施行された弁護士法二三条の二の規定に
基づき、所属の弁護士から申出を受けた弁護士会が照会を必要とする事由として「
中央労働委員会、京都地方裁判所に提出するため」と記載された文書をもつてした
被上告人の前科等の存否についての照会に対する回答に関する事案であるが、この
ような経緯や右文書の記載は、中央労働委員会及び京都地方裁判所において被上告
人に関する労働関係事案の審理が現に進行中であり、右事案に対する法律判断に被
上告人の前科等の存否が直接影響をもつような事情にあることを推認させるものと
いうことができる。
 そして、右弁護士法二三条の二の規定が弁護士会に公務所に照会して必要な事項
の報告を求めることができる権限を与えている関係においては、弁護士会を一個の
官公署の性格をもつものとする法意に出たものと解するのが相当である。このこと
は弁護士会は所属弁護士に対する独立した監督権、懲戒権を与えられ(弁護士法三
一条一項、五六条二項)、前記所属の弁護士よりの照会の申出についても独自の判
断に基づいてこれを拒絶することが認められており(同法二三条の二第一項)、ま
た、弁護士にはその職務上知り得た秘密を保持する権利義務のあることが明定され
ている(同法二三条、なお刑法一三四条一項参照)ことにかんがみ実質的にも首肯
することができるのである(なお記録によれば地方自治庁においても昭和二四年一
二月一九日弁護士法による弁護士登録の場合の資格審査について弁護士会の照会に
応じて差し支えないものと通達していることをうかがうことができる。)。右にの
べたところに加えて雇傭契約その他の労働関係についての民事法上の判断に当事者
の前科等の存否が直接影響を及ぼすことはありえないとするような見解が判例等に
より一般に承認されているとみることもできないことを併せ考えると、上告人京都
市の中京区長は、照会者たる京都弁護士会を裁判所等に準ずる官公署とみたうえ、
本件照会が身元証明等を求める場合に当らないばかりでなく、前記のような事情の
もとで本件回答書が中央労働委員会及び裁判所に提出されることによつてその内容
がみだりに公開されるおそれのないものであるとの判断に立つて前記官公署間にお
ける共助的事務の処理と同様に取り扱い回答をしたものと思われるのであるが、こ
のような取り扱いをしたことは、他に特段の事情の存することが認められない限り、
弁護士法二三条の二の規定に関する一個の解釈として十分成り立ちうる見解に立脚
したものとして被上告人の名誉等の保護に対する配慮に特に欠けるところがあつた
ものというべきではないから、同区長に対し少なくとも過失の責めを問うことは酷
に過ぎ相当でない。この点に関して原判決は昭和三六年一月三一日自治省自治丁行
発七号による同省行政課長の愛知県総務部長あての回答の存在や原審証人Fの証言
により認められる事実、甲第一一、一二号証の記載を援用して以上のべたところと
反対の結論をみちびいているのであるが、記録にあらわれたところによつてみる限
り、これらの資料によつては未だ右特段の事情の存することが十分に明らかになつ
ているとは思われない。そうすると、以上のべたところと結論を異にし上告人の中
京区長の過失をたやすく肯定した原判決はその余の点についての判断をまつまでも
なく破棄を免れず、論旨は理由がある。よつて、本件は更に審理を尽くさせるため
これを原審に差し戻すのが相当である。
     最高裁判所第三小法廷
         裁判長裁判官    寺   田   治   郎
            裁判官    環       昌   一
            裁判官    横   井   大   三
            裁判官    伊   藤   正   己

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