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平成24年5月16日判決言渡同日原本領収裁判所書記官
平成23年(ワ)第38220号特許権侵害差止等請求事件
口頭弁論終結日平成24年3月19日
判決
北九州市<以下略>
原告A
同訴訟代理人弁護士牧野忠
同山内良輝
同山根義則
同訴訟代理人弁理士有吉修一朗
東京都立川市<以下略>
被告セブンネット株式会社
同訴訟代理人弁護士中島茂
同原正雄
同寺田寛
同南摩雄己
同訴訟代理人弁理士松浦恵治
主文
1本件訴えをいずれも却下する。
2訴訟費用は原告の負担とする。
事実及び理由
第1請求
1被告は,別紙物件目録記載のデジタルカタログ表示装置の製造,販売,又は
販売の申出をしてはならない。
2被告は,前項のデジタルカタログ表示装置におけるデジタルカタログ表示の
ためのプログラム及びデータベースを廃棄せよ。
3被告は,原告に対し,金3453万2652円及びこれに対する平成23年
12月14日から支払済みまで年5分の割合による金員を支払え。
第2事案の概要
本件訴訟は,原告が,被告の製造販売に係るデジタルカタログについて,原
告の特許権を侵害している旨主張して,被告に対し,①特許法100条1項に
基づく差止請求権として,デジタルカタログ表示装置の製造,販売,又は販売
の申出の禁止,②同条2項に基づく廃棄請求権として,デジタルカタログ表示
装置におけるデジタルカタログ表示のためのプログラム及びデータベースの廃
棄,③不法行為に基づく損害賠償として,同法102条1項の推定による損害
額1億0962万円のうち3139万3320円と弁護士費用相当額313万
9332円の合計額である3453万2652円(附帯請求として訴状送達の
日の翌日である平成23年12月14日から支払済みまで民法所定の年5分の
割合による遅延損害金)の支払を求めた事案である。
これに対し,被告は,本案前の主張として原告適格を争うとともに,本件特
許権の侵害を争った。
1前提事実(後掲の証拠等により認められる。ただし,証拠には枝番号を含
む。)
(1)特許権の設定登録(甲1,2)
原告は,平成21年12月25日,次の特許権(以下「本件特許権」とい
う。)の設定登録を受けた。
登録番号特許第4431118号
発明の名称頁画像表示装置
出願日平成18年3月13日
登録日平成21年12月25日
(2)原告の破産手続(乙1)
ア原告は,平成22年4月13日,福岡地方裁判所小倉支部に対し,破産
手続開始・免責許可を申し立てた(以下,当該破産手続開始申立てに係る
手続を「本件破産手続」といい,本件破産手続に係る破産裁判所を「本件
破産裁判所」という。)。
上記破産手続開始・免責許可申立ての際に,原告が提出した資産目録一
覧,資産目録詳細説明書等の書類には,本件特許権及びこれに基づく損害
賠償請求権についての記載はなかった。
上記の資産目録一覧及び資産目録詳細説明書は,①現に所有している現
金(5万円以上),②弁護士への預け金,③預金,貯金口座,④公的扶助
(生活保護,年金,雇用保険,各種扶助等),⑤給料,報酬,賃料収入等,
⑥退職金請求権,退職慰労金(過去1年以内に受給した分を含む。),⑦
貸付金,求償金,敷金,損害賠償等,⑧社内積立,財形貯蓄,冠婚葬祭等
の互助会積立等,⑨<ア>保険(生命,年金,学資,傷害,火災,自動車保
険等),<イ>過去1年以内に解約又は失効した保険,⑩有価証券等(手形,
小切手,株式,転換社債,ゴルフ会員権等),⑪自動車等(自動二輪車,
原動機付自転車を含む。),⑫現在処分すれば10万円以上になりそうな
動産(家財道具,電化製品,貴金属等),⑬過去1年以内に10万円以上
で処分した動産,⑭不動産(土地,建物,マンション等)(配偶者(過去
1年以内に離婚した者も含む。内縁も同様),親・子の所有分を含む。),
⑮過去2年以内に処分し,又は担保提供した不動産,⑯遺産分割未了の相
続財産,⑰養育料,慰謝料,財産分与,扶養等として受けるべき額とその
支払状況,⑱その他,破産管財人による回収が必要と思われる財産につい
て記載する書面であった。
上記⑦の貸付金,求償金,敷金,損害賠償等について,資産目録詳細説
明書には,40万円の敷金が記載され,さらに,その他として,「申立人
が代表者をしていた会社(エス・アイ・エス)への運転資金等があるが,
額はどれくらいになるかわからない。会社も倒産して回収の見込みもな
い。」との記載があるが,本件特許権及びこれに基づく損害賠償請求権に
ついての記載はなかった。
イその後,原告は,本件破産裁判所に対し,本件破産手続について,平成
22年5月25日及び同年6月15日付け各上申書を提出した。上記の各
上申書には,本件特許権及びこれに基づく損害賠償請求権についての記載
はなかった。
ウ本件破産裁判所は,平成23年8月22日午後0時,本件破産手続を開
始する旨の決定をし,併せて,破産管財人として弁護士B(以下「本件破
産管財人」という。)を選任し,財産状況報告集会・破産手続廃止に関す
る意見聴取のための集会・計算報告集会の各期日を同年11月21日午前
10時と定め,免責についての意見申述期間を同月14日までと定めた。
エ本件破産管財人は,平成23年11月21日,本件破産手続についての
財産状況報告集会・破産手続廃止に関する意見聴取のための集会・計算報
告集会において,負債(破産債権)が3億0592万1915円であるの
に対し,預金について極めて少額であるため破産財団から放棄し,敷金に
ついて原告及び家族が居住する賃貸物件であるため回収見込みがないとし
て,破産財団を形成するような財産はない旨報告した。本件破産管財人作
成の財産状況報告書には,本件特許権及びこれ基づく損害賠償請求権につ
いての記載はなかった。
オ本件破産裁判所は,平成23年11月21日,本件破産手続を廃止する
旨の決定をするとともに,原告について免責を許可する旨の決定をした。
上記の各決定は,それぞれ同年12月21日に確定した。
(3)本件の提起(乙4,8,当裁判所に顕著な事実)
ア原告は,平成23年11月14日,原告代理人らを本件訴訟の訴訟代理
人と定め,訴訟委任する旨の訴訟委任状を作成した。
イ原告は,平成23年11月26日,当庁に対し,同月25日付け訴状を
もって,本件訴訟を提起した。
ウ本件訴訟は,原告が,被告の製造販売に係るデジタルカタログについて,
本件特許権を侵害している旨主張して,被告に対し,①特許法100条1
項に基づく差止請求権として,デジタルカタログ表示装置の製造,販売,
又は販売の申出の禁止,②同条2項に基づく廃棄請求権として,デジタル
カタログ表示装置におけるデジタルカタログ表示のためのプログラム及び
データベースの廃棄,③不法行為に基づく損害賠償として,同法102条
1項の推定による損害額1億0962万円のうち3139万3320円と
弁護士費用相当額313万9332円の合計額である3453万2652
円(附帯請求として訴状送達の日の翌日である平成23年12月14日か
ら支払済みまで民法所定の年5分の割合による遅延損害金)の支払を求め
るものである。
2争点
本件訴訟の争点は,①原告適格の有無(本案前の争点),②本件特許権の侵
害の有無である。
3争点に関する当事者の主張
(1)原告適格の有無(本案前の争点)
(被告の主張)
ア本件訴訟は,平成23年11月25日付けで提起された。本件破産手続
の異時廃止決定からわずか4日後のことで,同決定の確定前であり,破産
管財人が任務の終了により管理処分権を失う前であった(破産法217条
8項)。そのため,本件特許権,またこれに基づく損害賠償請求権が仮に
存在したとしても同請求権の管理処分権は,破産管財人に専属しており,
原告は管理処分権を有していなかった。
したがって,本件訴訟においては,原告適格を欠いている。
イ原告は,本件破産裁判所に対する「財産の内容を記載した書面」の届出
において,原告が代表者を務めていたエス・アイ・エスへの運転資金等の
損害賠償請求権のみを記載しており,「その他,破産管財人による回収が
必要と思われる財産」については「無」ないし「ない」にチェックをして
いる。ここで,「その他…財産」には,本件特許権,およびこれに基づく
損害賠償請求権が仮に存在した場合の同請求権も含まれる。
したがって,原告は,本件破産裁判所に対し,本件特許権について,ま
たこれに基づく損害賠償請求権が仮に存在した場合の同請求権について,
存在を全く告げていなかった。原告は,本人の評価によれば「金1億09
62万円の損害賠償債権」という重要な財産を意図的に破産裁判所に告げ
なかったことになる。他方で,原告は,免責許可を申立て,平成23年1
1月21日,免責決定を受けている。
ウ上記の結果,本件破産管財人は,本件特許権を認識することができず,
本件特許権を換価する機会を失った。破産者が,重要な財産について告知
せずに免責決定を得ておきながら破産手続外で処分することは,破産者の
財産を債権者に公平に分配するという破産手続を根底から否定する行為で
ある(破産法265条1項1号,269条)。このような強度の違法行為
について「補正」を認める余地は一切ない。
したがって,本件の提起は「訴えが不適法でその不備を補正することが
できないとき」に該当する。口頭弁論を経ずに,直ちに却下されるべきで
ある(民事訴訟法140条)。
(原告の主張)
ア破産手続の開始が決定した時点から,破産財団に属する権利の管理処分
権は破産管財人に専属し,破産者はこれを行使することができないが(破
産法78条1項,47条1項),破産手続の廃止決定の確定した時点から,
破産財団に属する権利の管理処分権は,破産管財人から破産者に復帰する。
破産者が破産財団に関する訴訟を提起しても,破産者は当事者適格を欠
いているので訴訟は却下されるが,訴えを提起した後,却下される前に破
産手続が終了し,あるいは当該目的物が破産財団から放棄された場合には,
その瑕疵は治癒される(最判昭和47年9月7日の趣旨,最判平成5年6
月25日の趣旨)。
ところで,破産手続が終結した後に「新たに発見された財産」について,
これを破産財団に帰属するものとして追加配当の目的となるべきか否かが
問題となるが,「破産管財人が任務を懈怠して当該財産を占有管理するこ
とができなかった場合あるいは破産者が隠匿していたため破産管財人が占
有管理することができなかった場合」には破産財団に帰属するものと解す
るのが相当である(最判平成5年6月25日に関する最高裁調査官解説)。
ここにおいて,隠匿とは,「包み隠すこと。秘密にすること。かくまう
こと。」をいうのであり(広辞苑第六版),その語義・語感からは,「隠
れていたという客観的事実」に加えて,「隠すという主観的意思」が必要
であると解される。
したがって,本件訴訟においては,原告が本件特許権を本件破産手続に
おいて届け出ていなかったことについて,「隠れていたという客観的事
実」と「隠すという主観的意思」という両者の要件を備えていたかどうか
が問題となる。
イ(ア)本件特許権は,企業会計基準及び国際財務報告基準のいずれに照ら
してみても,資産計上することができない財産であったと認められるの
であるから,そもそも本件特許権は会計上の客観的な資産価値を欠くも
のであり,その存在と内容を破産手続の中で届け出る必要がなかったと
認められるのであるから,隠れていたという客観的事実は存在しないこ
とになる。
(イ)原告は,本件特許権の存在とその内容を本件破産手続において届け
出ていなかったが,仮に,本件特許権が会計上資産価値を有していたと
しても,原告は,意図的に本件特許権を隠していたわけではない。その
理由は,次のとおりである。
①原告は,国税庁や企業会計のルールにより,自ら実施していない特
許権や,他人に実施を許諾する場合において実施料を得ていない特許
権は,財産評価の上では無価値として扱ってよいと考えており,かつ,
原告が所属するソフトウエア業界では,自ら実施していない特許権や,
他人に実施を許諾する場合において実施料を得ていない特許権は決算
や申告の時に資産として計上しないことが一般的な会計処理の実務で
あると考えていた。
②原告は,訴訟代理人に初めて相談した時点では,被告が本件特許権
を侵害していることを理由として,被告による侵害の差止めを相談し
たのであって,この時点では損害賠償を請求できるとは知らなかった。
原告は,本件訴訟を提起する直前に訴訟代理人に本件特許権の損害額
を算定してもらい,損害賠償を請求できることを知ったが,裁判で勝
つかどうかもわからない損害賠償請求権が破産財団に属する現実的な
財産であるというような発想はまったくなかった。
③原告の上記①及び②のような考え方は,その内容において,法律の
専門家にあらざる者の考え方として自然かつ合理的であるのみならず,
国税庁のルールや企業会計のルールによって,客観的に裏付けられて
いる。
したがって,原告は,本件破産手続の中で意図的に本件特許権とこれ
に基づく損害賠償請求権を隠していたのではなく,届け出なければなら
ない財産であるという認識を欠いていただけであり(言葉を換えれば,
うっかりしていたというだけであり),その供述の合理性は,客観的な
証拠によっても裏付けられている。
ウ以上のとおり,本件特許権については,そもそも企業会計上の資産価値
を欠くものであり,本件破産手続において隠れていたという状態には達し
ておらず,仮に,本件特許権が会計上資産価値を有していたとしても,本
件特許権とこれに基づく損害賠償請求権については,原告は届け出なけれ
ばならない財産であるという認識を欠いていたのであるから,意図的に隠
していたわけではないという事実が優に認められる。そうすると,本件特
許権とこれに基づく損害賠償請求権は,「破産者が隠匿していたため破産
管財人が占有管理することができなかった場合」には該当しないのである
から,本件特許権とこれに基づく損害賠償請求権の管理処分権は,破産手
続廃止の決定が確定した時点から,原告に復帰する。
したがって,原告は,本件訴訟が提起された後,訴えが却下される前に,
本件特許権とこれに基づく損害賠償請求権の管理処分権を回復したのであ
るから,原告適格の欠缺という瑕疵は治癒されているのである。
(被告の反論)
ア会計上の資産計上の要否は,破産手続における開示義務とは関係がない。
破産手続において問題となるのは,回収等により債権者らへの配当資源と
して実質的な価値があるかどうかである。開示も同様の観点から要否が問
題となる。この判断は,税務や経営を管理するための会計上の判断とは一
致しない。また,資産の価値を判断するのは破産裁判所ないし破産管財人
であり,破産者ではない。また,企業会計原則は,無形固定資産について
資産計上できることを前提として,資産計上の方法を定めている。国際財
務報告基準も,同様に,無形固定資産について資産計上することを前提と
して,資産計上の方法を定めている。
以上から,本件特許権は「資産計上することができない財産」ではない。
イ破産法においては,何ら限定を付することなく「破産者が破産手続開始
の時において有する一切の財産は,破産財団とする」と定めている(破産
法34条)。この「一切の財産」については,申立書に資産状況を記載す
るとともに,財産目録を提出しなければならない(破産規則13条2項1
号,14条3項6号)。申立書への記載および財産目録は,債権者らへの
配当の財源になるかという実質的な観点から,記載の要否が判断される。
そのため,本件破産裁判所が作成した財産目録の書式においては「損害賠
償」,「損害金」,「その他破産管財人による回収が必要と思われる財
産」の欄が用意され,記載が求められている。その違反については,刑事
罰の定めもある(破産法265条1項1号)。
原告は,本件破産手続係属中の時点で,本件特許権及び損害賠償請求権
について,損害額を1億0962万円と算定した上,訴訟を起こしてまで
回収する必要があると考えていた。そのため,本件特許権及び損害賠償請
求権は「損害賠償」,「損害金」,「その他破産管財人による回収が必要
と思われる財産」として,本件破産裁判所及び本件破産管財人への報告が
求められていた。かかる財産について本件破産裁判所及び本件破産管財人
に報告しないことは許されない。
したがって,原告が本件特許権及び損害賠償請求権を報告しなかったこ
とは「隠匿」に該当する。
ウ原告は,平成23年11月21日,本件破産手続において,総額3億円
以上もの債務についての免責許可決定を受けた。そのわずか4日後の平成
23年11月25日付けで,訴額1億円の本件訴訟を提起している。訴状
は,別紙も含めて全26頁にもわたり,内容もプログラムの特許権侵害と
いう専門的なもので,ソースコードの分析なども実施している。証拠も,
枝番号を含めて全20以上の大部のものであり,準備に相当の時間がかか
る内容である。
この点については,原告は,本件訴訟を提起する1年以上前の平成22
年の時点で既に,弁護士に相談し,本件訴訟の提起に向けた準備をしてい
たとのことである。そのため,原告は,同年の時点で,損害賠償請求の可
能性を十分に認識していた。また,原告は,本件破産手続が係属中の平成
23年11月14日,本件訴訟を提起するために,事件の表示を「特許権
侵害による損害賠償請求等事件」として,訴訟委任状を作成している。
以上の事実から,原告は,本件破産手続中に本件訴訟を提起することに
は重大な問題があると十分認識したうえで,本件破産手続が終了するのを
待って本件訴訟を提起した可能性が極めて高い。原告による本件特許権及
び損害賠償請求権の「隠匿」は,意図的なものである。「うっかり」との
主張は,認められない。
(原告の再反論)
「隠匿」とは,債務者に属する財産の所有関係を不明にするとか,ある
いは財産を場所的に移動させその所在を不明にする行為(すなわち積極的
行為)を含むと解されている。
これを原告についてみると,原告には,債務者に属する本件特許権の所
有関係を不明にするとか,あるいは財産を場所的に移動させその所在を不
明にするなどの積極的な行為は見られない。したがって,原告には「隠
匿」は認められないのであって,即時却下(民事訴訟法140条)すべき
ほどの著しい不正義は認められない。
(2)本件特許権の侵害の有無
(原告の主張)
別紙訴状に記載のとおり。
(被告の主張)
別紙答弁書及び被告第1準備書面記載のとおり。
第3当裁判所の判断
1原告適格の有無(本案前の争点)について
(1)破産手続開始決定があった場合には,破産財団に属する財産の管理及び
処分をする権利は,破産管財人に専属するから(破産法78条1項),破産
財団に関する訴訟は破産管財人が当事者適格を有する(同法44条1項・2
項)。
これを本件についてみるに,原告は,本件破産手続を廃止する旨の決定が
確定した日(平成23年12月21日)よりも前である平成23年11月2
6日に本件訴訟を提起している(前提事実(2)オ,(3)イ)のであり,破産手
続廃止の決定は確定しなければ効力が生じないから(破産法217条8項),
本件訴訟の提起日においては,本件破産管財人が本件訴訟の当事者適格を有
していたと解される。
そうすると,本件訴訟は,その提起時において,原告適格を有しない者の
訴えであったから,不適法な訴えであったといわざるを得ない。
(2)原告は,その後,本件破産手続が終了し,原告が本件特許権及びこれに
基づく損害賠償請求権の管理処分権を回復したから,原告適格の欠缺は治癒
された旨主張する。
そこで検討するに,確かに,破産手続が終了した場合には,破産管財人の
任務は終了し,原則として破産管財人の管理処分権限は失われるから,破産
管財人を当事者とする破産財団に関する訴訟手続は中断し,破産者は当該訴
訟手続を受継しなければならない(破産法44条4項・5項)。しかしなが
ら,破産管財人の任務が終了した場合であっても,破産管財人は,急迫の事
情があるときの必要な処分や財団債権の弁済をしなければならないし(同法
90条),新たに配当に充てることができる相当の財産があることが確認さ
れたときは,追加配当を行うことができる(同法215条1項後段)など,
破産管財人の管理処分権限が認められる場合がある。
このような破産法の規定に照らすと,破産手続が終結した後における破産
者の財産に関する訴訟については,当該財産が破産財団を構成し得るもので,
破産管財人において,破産手続の過程で破産終結後に当該財産をもって同法
215条1項後段の規定する追加配当の対象とすることを予定し,又は予定
すべき特段の事情があれば,破産管財人に当事者適格を認めるのが相当であ
る。そして,例えば,破産終結後,破産債権確定訴訟等で破産債権者が敗訴
したため,当該債権者のために供託していた配当額を他の債権者に配当する
必要を生じた場合,又は破産管財人が任務をけ怠したため,本来,破産手続
の過程で行うべき配当を行うことができなかった場合などには,破産管財人
において,当該財産をもって追加配当の対象とすることを予定し,又は予定
すべき特段の事情があるというべきである(最高裁平成3年(オ)第1334
号同5年6月25日第二小法廷判決・民集47巻6号4557頁参照)。
加えて,破産手続が廃止によって終了した場合であっても,破産管財人は
財団債権を弁済しなければならない(破産法90条2項)のであるから,破
産手続が廃止によって終了した後における破産者の財産に関する訴訟につい
ては,当該財産が破産財団を構成し得るもので,破産管財人において,破産
手続の過程で破産手続廃止後に当該財産をもって財団債権に対する弁済や破
産債権に対する配当の対象とすることを予定し,又は予定すべき特段の事情
があれば,破産管財人に当事者適格を認めるのが相当である。
これを本件についてみるに,原告は,その陳述書(甲12)において,本
件特許権を本件破産裁判所及び本件破産管財人に申告しなかったことを認め
ている上,本件破産手続の廃止決定以前に本件訴訟の委任状を作成し,その
決定の5日後に本件特許権侵害の特許法102条1項の推定による損害額を
1億0962万円と主張して本件訴訟を提起した(前提事実(2)オ,(3))の
であるから,本件特許権が価値を有する可能性があることを知りながら,本
件破産裁判所に対して本件特許権及びこれに基づく損害賠償請求権を申告し
なかったと認められる。
そうすると,原告の重要財産開示義務(破産法41条)の違反によって,
本件破産管財人は,本件破産手続の過程において,本件特許権の換価やこれ
に基づく損害賠償請求権の行使の機会を失い,ひいては本来行うべき財団債
権に対する弁済や破産債権に対する配当の機会を失ったというべきであるか
ら,財団債権に対する弁済や破産債権に対する配当の対象とすることを予定
すべき特段の事情があったと認めるのが相当である。
したがって,本件訴訟においては,口頭弁論終結時点においても,本件破
産管財人が原告適格を有するというべきである。
(3)これに対し,原告は,本件特許権については,そもそも企業会計上の資
産価値を欠くものであり,本件破産手続において隠れていたという状態には
達しておらず,仮に,本件特許権が会計上資産価値を有していたとしても,
本件特許権とこれに基づく損害賠償請求権については,原告は届け出なけれ
ばならない財産であるという認識を欠いていたのであるから,意図的に隠し
ていたわけではない旨主張する。
しかしながら,破産法が破産者に対して重要財産開示義務を課しているの
は,破産財団に属する財産の内容等を裁判所に提供させることによって,破
産管財人の管財事務遂行の資料とし,破産債権者の管財事務に対する監督の
資料とするためであるから,企業会計を理由として重要財産開示義務を免れ
ることはできない。さらに,上記(2)のとおり,原告は,本件特許権が価値
を有する可能性があることを知りながら,本件破産裁判所に対して本件特許
権及びこれに基づく損害賠償請求権を申告しなかったと認められるのである
から,原告が意図的に隠していたわけではない旨の主張は失当である。
2結論
よって,本件訴えは,原告適格がなく不適法であるから,いずれも却下する
こととして,主文のとおり判決する。
東京地方裁判所民事第29部
裁判長裁判官大須賀滋
裁判官小川雅敏
裁判官森川さつき

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71期修習生 72期修習生 求人
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職種 事務職
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