弁護士法人ITJ法律事務所

裁判例


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主文
 1 原判決を取り消す。
 2 被控訴人の請求を棄却する。
3 訴訟費用は,第1,2審とも被控訴人の負担とする。
          事実及び理由
第1 当事者の求めた裁判
 1 控訴人
   主文同旨。
2 被控訴人
  (1) 本件控訴を棄却する。
(2) 控訴費用は控訴人の負担とする。
第2 事案の概要
 1(1) 本件は,被控訴人が「控訴人は,原判決別紙の文書(以下「本件文書」と
いう。)を公開するに当たり,その一部が特定の個人が識別され得る情報及び事業
活動に関する情報で,A市情報公開条例(平成元年11月15日A市条例第20
号,以下「本件条例」という。)6条1号本文,2号に各該当するとして,該当部
分の役職名・会社名(本件文書の黒塗部分)を非公開とした。しかし,同非公開処
分は,本件条例の解釈を誤った違法なものである。」旨主張し,その取消しを求め
た事案である。
    なお,控訴人は,原審で,「当該部分が公開されると,反復継続される市
の工事入札事業の公正かつ円滑な実施が著しく困難となるので,本件条例6条3号
イにも該当する。」旨主張し,非公開理由を追加した。
  (2) 原判決は,
  「ア 本件文書中の本件役職名及び本件会社名は,いずれも,本件文書中の他
の情報と結びつけることにより間接的に特定の個人が判別できるから,個人に関す
る情報である。しかし,本件文書は,市が内規に基づき実施した事情聴取につき,
共同企業体の代表会社の各担当者が,個人としての資格を離れて,勤務する会社の
職務として事情聴取に応じた内容が記載されたものであるから,個人の私的な領域
の問題とはいえず,専ら自己が従事する職務に関する事柄である。そうすると,会
社担当者個人のプライバシーとはおよそ関係のない事柄ということができ,本件条
例6条1号本文所定の非公開事由に該当するとはいえない。
   イ 本件会社名を公開しても,本件文書の他の記載とともに明らかになるの
は,当該2社が市の事情聴取に営業部主事又は営業所主任を出席させたこと,その
者らが各会社内で情報を知り得る立場にあると回答したこと,その者らが他の共同
企業体の15社の各責任者と同様に,談合の働き掛けをしたり,されたり,噂を聞
いたりしたことが一切ないと回答したこと等である。このような内容が明らかにな
っても,当該2社の「事業活動に不利益を与えることが明らかである。」とは到底
いえない。そうすると,本件条例6条2号所定の非公開事由にも該当しない。
   ウ すでに共同企業体の代表会社の17社の各来庁者の回答内容が公開され
ている以上,更に,本件役職名及び本件会社名が公開されても,そのことによっ
て,当該担当者において不快,不信の念を抱き,以後市の入札業務に関して同様に
談合疑惑情報が寄せられた場合に,市の事情聴取への参加を拒否したり,率直な意
見表明を控えたりするような事態が生ずるおそれがあるとは考えられない。そうす
ると,本件役職名や本件会社名を公開したとしても,本件条例6条3号イに規定す
るような支障が生じるとはいえないというべきである。」旨判示し,非公開処分を
取り消した。
(3) 控訴人は,原判決を不服として本件控訴に及んだ。
2 前提となる事実(争いのない事実並びに証拠及び弁論の全趣旨により容易に
認定できる事実),争点及び争点についての当事者の主張は,原判決の事実及び理
由,第二の一,二記載のとおり(ただし,原判決の3頁23行目の「本件条例」か
ら同24行目の「理由で,」を削除する。)であるから,これを引用する。
 3 控訴人の控訴理由
  (1)ア 原判決は,「本件条例6条1号は,個人のプライバシー保護に最大限配
慮しなければならないことにかんがみ設けられたものであるから,個人に関する情
報であっても,個人のプライバシーに関係しないことが明らかな情報については,
同号所定の非公開事由には該当しないものと解すべきである。」旨判示する。
イ(ア) しかし,上記判断は,本件条例が,広く個人識別情報の公開を一般
的に禁止する方式(個人情報一般方式)を採用し,これに加えて,プライバシーと
して法律上の保護を受けることまで要求する方式(プライバシー正当情報方式)を
採用していないことを看過している。
    (イ) 本件条例のもとでは,個人識別情報は公開できず,例外的に公開が
許されるのは6条1号ただし書に該当する場合に限られている。確かに,運用基準
(乙2)では,本件条例6条1号の趣旨が,個人のプライバシー保護にある旨規定
している。しかし,これは目的をいっているにすぎない。
    (ウ) 本件条例は,プライバシー概念が不明確である点を考慮し,行政機
関側の実質的審査をできる限り回避し,6条1号ただし書に該当する場合を除い
て,無条件に非公開とすることにより,プライバシー保護を図ったものである。し
たがって,個人のプライバシーに関係しないことが明らかな情報は,同条同号所定
の非公開事由に該当しない旨の解釈をとることは許されない。
ウ(ア) 仮に,原判決の解釈を前提にしても,本件役職名及び本件会社名が
「会社担当者個人のプライバシーと,およそ関係のない事柄」とはいえない。
    (イ) 本件事情聴取書は,公共工事の談合疑惑への対応措置として行われ
た入札参加各社の担当者の事情聴取内容を記載したものである。入札の談合は,通
常,当該入札に参加する全ての企業が関与するものであり,世間からもそのように
認識されている。このような疑惑を受けて,事情聴取されること自体が不名誉であ
り,当該入札の権限を有する部署ないし責任者にとり,直接,犯罪行為に荷担した
かの疑いを掛けられたのと同様である。したがって,事情聴取に出向いた個人にと
っては,通常,他人に知られたくない事柄であり,プライバシーに関係がないとは
いえない。
    (ウ) 原判決は,「個人としての資格を離れて,勤務する会社の職務とし
て事情聴取に応じた内容が記載されたもので,個人の私的な領域の問題とはいえ
ず,専ら自己が従事する職務に関する事柄であることが明らかである。」とする。
      しかし,専ら会社の職務に関する事柄であることを理由にプライバシ
ーと関係がないというのは暴論である。プライバシーという概念は個人の尊厳を上
位概念として存在するものである以上,このように限定した「私的な領域」のみを
妥当範囲とすることを予定していないといわなければならない。
    (エ) 会社の職務として行われたことや,それが談合疑惑を招いているこ
となどの事情は,同号ただし書の該当性の有無として問題にすべきであって,同号
本文に関係する事柄ではない。
(オ) 上記(イ)のとおりであるから,仮に,原判決に従ったとしても,プ
ライバシーに関する事柄として非公開とすべき情報であることが明らかである。
(2) また,本件事情聴取は,入札参加業者にとって極めて不名誉なことであ
り,事業活動に不利益を与えることが明らかであるから,本件条例6条2号の非公
開事由があるというべきである。
  (3) 本件事情聴取は,当該入札の権限を有する部署ないし責任者にとって,犯
罪に荷担したかの疑いを掛けられたのと同様である。公開された文書は,地元紙な
どを通じて,広く市民に公表される可能性があるので,家族もある各担当者が,自
己を特定する情報が公開され,あるいは,特定されて氏名等を報道されるかも分か
らない状況のもとでの事情聴取において,発言が消極的になることは容易に想像で
きる。したがって,このような事情を公開することは工事入札事業の公正かつ円滑
な実施を著しく困難にすることが明らかであり,6条3号の非公開事由があるとい
うべきである。
  (4) 以上のとおり,原判決には,本件条例の解釈を誤った違法があるので,こ
れを取り消し,被控訴人の請求が棄却されなければならない。
4 被控訴人の反論
  (1)ア 本件事情聴取は,入札事務に関わる職務遂行の役職者に対して行われた
もので,個人を対象とする私的なものではないことは,本件文書の記載自体より明
らかである。
   イ A市作成の「情報公開事務の手引」には,「個人に関する情報」とは
「戸籍・身分・経歴・心身・能力・成績・思想・信条・財産・収入状況・個人生
活」を指す旨解説されているので,個人に関する私的な情報を意味するものである
ことが明らかである。
   ウ 本件文書には,上記アのとおり,私的な情報は記載されておらず,「個
人に関する情報」といえないことが明らかであるから,本件条例6条1号の非公開
事由があるとはいえない。
  (2)ア 談合が法令で保護されるべき正当な利益を有しているとは,到底考えら
れない。
   イ 事実が報道されて入札も無効とされ,回答内容も公開されている以上,
関係各社の事業活動に不利益を生じたり,控訴人の入札事業に支障を生ずるとはい
えない。
   ウ したがって,本件条例6条2号,3号の非公開事由があるとはいえな
い。
第3 当裁判所の判断
 1 本件非公開処分がされるに至った経緯等は,前提事実並びに原判決の事実及
び理由,第三の一記載のとおりであるから,これを引用する。
 2 本件非公開処分により非公開とされたのは,控訴人が談合疑惑解明のため
に,入札参加予定会社の担当者から事情聴取を行った際,各社のいかなる役職の者
から事情聴取を行ったかを示す部分である。したがって,仮に,これらが公開され
ることになれば,会社名とその役職を併せることにより,同事情聴取に応じた担当
者が特定されることになる(ちなみに,本件会社名の部分については,その役職名
が記載されているので,同じことがいえる。)。
 3(1) ところで,本件条例は,市民に,実施機関が作成・管理等する公文書を閲
覧等する権利を認めることによって,市民が市政を監視し,主体的に市政に参加で
きる条件を整え,真の意味での住民自治の実現を図ることを目的としているものと
認められる(本件条例1条等参照)。
(2)ア 本件条例6条は,上記により,公文書を原則公開すべきことを当然の前
提としたうえ,同条1号から4号に該当する場合に限って,例外的に,これを公開
しないことができる旨規定している。
   イ 特に,本件条例6条1号は,個人のプライバシー保護の観点から,個人
に関する情報で,特定の個人が識別され,又は識別され得る情報を,非公開とする
ことを定めたものである。本件条例3条は,「実施機関は,この条例の解釈及び運
用に当たり,公文書の公開を求める権利を十分に尊重するとともに,個人に関する
情報をみだりに公にすることがないよう最大限の配慮をしなければならない。」旨
明確に定めているから,本件条例6条1号は,その趣旨を実現するため,個人が特
定・識別される個人情報の公開を禁ずることにより,個人のプライバシー保護を徹
底しようとしたものと解される。なお,これと似た定めは情報公開法5条1号にも
ある。
ウ 本件条例6条1号は,その条文の体裁から明らかなとおり,情報公開法
5条1号などと同様,個人識別情報を原則非公開としたうえ,「個人の権利利益を
侵害せず,非公開とする必要のないもの」,「公開によって得られる公益が,これ
を公開することに伴う弊害に優先するため公開するのが相当なもの」を,ただし書
で例外的公開事項として定めるという方式を採用している。
   エ したがって,個人識別情報は,本件条例6条1号ただし書に該当しない
限り,公開することが許されていないというべきである。
 (3) 既にみたとおり,本件非公開処分により,非公開とされた会社名及び役職
名は,他の情報と結びつけることによって,間接的に特定個人が識別される情報で
あるから,本件条例6条1号により公開を禁じられた個人識別情報に当たるものと
認めるのが相当である。
 4(1) 確かに,談合は,犯罪行為であり,市民が,市の行う公共工事の入札等を
監視するため,公文書の公開を求めることは,本件条例の趣旨目的に適うところで
ある。
(2) しかし,本件の場合,入札直前,控訴人宛に落札者を予告し,談合疑惑を
告げる手紙が寄せられたため,①入札参加各社の担当者から事情聴取を行い,②
「談合の事実は一切ないが,仮に,談合の事実が判明した場合には,市のいかなる
措置にも従う。談合情報と落札結果が一致した場合,又は談合の疑惑がある場合に
は,入札中止や入札無効の措置をされても異議がない。」旨の誓約書を提出させた
うえ,入札を実施したところ,③談合情報と落札結果が一致したため,入札が無効
とされる(弁論の全趣旨)という経過を辿ったものである。
  (3) 上記(2)のとおりの経過であるから,談合疑惑が存在するということがで
きても,その確証があるとまではいえないし,事情聴取についても,各会社担当者
の任意の協力によって行われたものといえる。入札への参加は,各会社の業務とし
て行われるものであり,談合疑惑が生じた場合,これら各社はその社会的責務とし
て,疑惑解明に向けて協力する義務を負うものと解すべきであるが,各担当者は,
当該会社の従業員として,実際に入札業務に関わり,最も情報を知り得る立場にあ
るため,これらの会社に代わって,事情聴取に応じているにすぎない。このような
立場の者を,個人事業者と同視し,その個人情報を事業活動情報と評価することは
できない。
  (4) 会社の担当者として,談合に関わったのではないかと世間から疑惑を抱か
れること自体不名誉なことであり,これによって,私生活上の平穏が乱されるおそ
れがある。そもそも,どのような職業に就いているかということ自体がプライバシ
ーであり,他人にその詮索の術を与えることは相当とはいえない。したがって,こ
れら担当者の個人識別情報は,本件条例6条1号によって,保護された個人情報と
いうべきであり,被控訴人が主張するような,同号の保護の対象外であるなどとは
いえない。
(5) 本件の場合,上記事情聴取に当たり,各社が差し入れた誓約書(甲2の1
ないし17)や入札書(甲3の1ないし17)は,いずれも公開されているので
(弁論の全趣旨),入札に参加した各社の名前,その代表者(支店長),代理人の
名前は,これらに記載されている。前記のとおり,談合の疑惑があるというのみ
で,これを超えて,現実に事情聴取を受けた担当者を識別する情報まで公開する必
要があるとはいえず,むしろ,上記(4)で述べた弊害が考えられるところである。そ
うすると,前記担当者の個人識別情報は,公開が例外的に許された,本件条例6条
1号ただし書に該当するともいえない。
5 以上のとおり,非公開処分の対象となった部分は,個人識別情報として,本
件条例6条1号の非公開事由に該当するから,当該部分を非公開とした本件非公開
処分は,その余の点を判断するまでもなく適法なものといわなければならない。そ
うすると,被控訴人の控訴人に対する本訴請求は理由がなく,棄却を免れない。
   よって,これと結論を異にする原判決は失当であって,本件控訴は理由があ
るから,原判決を取り消すこととし,主文のとおり判決する。
大阪高等裁判所第12民事部
        裁判長裁判官    大 谷  種 臣
             裁判官    佐 藤  嘉 彦
             裁判官    和 田    真

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