弁護士法人ITJ法律事務所

裁判例


戻る

             主文
      1 本件控訴をいずれも棄却する。
      2 控訴費用は控訴人らの負担とする。
        事実及び理由
第1 当事者の求める裁判
 1 控訴の趣旨
  (1) 原判決を取り消す。
  (2) 被控訴人は,控訴人ら各自に対し,217万2880円及びこれに対する
平成12年7月25日から支払済みまで年5分の割合による金員を支払え。(控訴
人らは当審において請求の減縮をした。)
  (3) 訴訟費用は,第1,2審とも被控訴人の負担とする。
  (4) 仮執行の宣言
 2 控訴の趣旨に対する答弁
   主文同旨
第2 事案の概要
   本件は,控訴人らが債務者をA(以下「A」という。),第三債務者を被控
訴人とする債権差押命令に基づく取立権により,被控訴人に対し,被控訴人がAに
負う手数料債務の支払及び本件訴状送達の翌日である平成12年7月25日から支
払済みまで民法所定の年5分の割合による遅延損害金の支払を求める事案である。
 1 争いのない事実及び前提的事実(証拠により認定した事実については,括弧
内に当該証拠を記載する。)。
  (1) Aは,被控訴人との間で,昭和58年4月1日損害保険代理店委託契約
(以下「本件代理店契約」という。)を締結した。
  (2) 本件代理店契約において,次のとおり定められている。
   あ Aは,委託された保険種類について,被控訴人を代理して保険契約の締
結等の業務を行う。
   い 被控訴人は,Aが取り扱った保険契約について,被控訴人が領収した収
入保険料に対し,一定の割合の代理店手数料を支払う(以下「本件手数料」とい
う。)。
    (以上,甲1の③)
  (3) 控訴人らは,Aを債務者,被控訴人を第三債務者として,平成6年6月2
日,大阪地方裁判所に対し,本件手数料債権につき仮差押命令の申立をし(同庁平
成6年(ヨ)第1644号仮差押命令申立事件),同日同裁判所において本件手数料
債権につき仮差押決定がなされ,同決定正本は,平成6年6月3日に被控訴人に,
同月8日にAにそれぞれ送達された(同決定正本のAに対する送達及びその年月日
については,甲4)。
  (4) 控訴人らは,枚方簡易裁判所平成11年(ノ)第307号事件の執行力ある
調停調書正本に基づき,Aを債務者,被控訴人を第三債務者として,大阪地方裁判
所に対し,請求債権を別紙請求債権目録記載の債権,差押債権を別紙差押債権目録
記載のとおり本件手数料債権として差押命令を申立て,平成12年3月30日,同
裁判所において同債権につき差押命令がなされ,同差押命令正本は,同月31日に
被控訴人に,同年4月6日にAにそれぞれ送達され(同差押命令正本のAに対する
送達及びその年月日については,甲6),その後同月13日が経過した。
 2 争点
   本件手数料債権の有無
 3 当事者の主張
  (1) 控訴人ら
   あ 本件代理店契約における本件手数料債権と被控訴人のAに対する保険料
請求権の精算に関する合意は,交互計算や段階交互計算ではなく,単なる支払方法
についての特約にすぎず,包括的な相殺予約である。そして,私人間においてこの
ような相殺予約をし,その結果として善意の第三者による差押えないし転付を免れ
ようとすることは,民事執行を免れるものとして許されないから,上記相殺予約は
脱法行為として無効である。
   い 仮に本件代理店契約においていわゆる段階的交互計算が合意されている
としても,段階的交互計算においては,決済の簡易化の機能は認められても,担保
的機能や不可分の原則の効力を欠き,その期間中も継続的に決済してその時々に残
額債権が発生するから,同債権に対する差押えは可能である。なお,大審院昭和1
1年3月11日第3民事部判決(民集15巻4号320頁)は,交互計算に組み入
れられた各個の債権は個別に相殺等の処分が許されないと判示しているが,上記
「各個の債権」に交互計算の期間終了後の残額を含むかどうかについては,何ら判
断を示していない。
     また,交互計算において,交互計算不可分の原則は第三者に対して効力
を有しないから,交互計算に組み入れられた債権に対する差押えは有効である。
  (2) 被控訴人
   あ 本件代理店契約7条1項によれば,被控訴人は,Aに対して,その取扱
いに係る保険契約について,被控訴人がAから領収した収入保険料に対する一定割
合の代理店手数料を支払うこととされている。したがって,Aの被控訴人に対する
本件手数料債権は当該保険料全額を支払うことによって初めて発生するから,保険
料全額の支払までは本件手数料債権は発生しない。
   い 本件代理店契約による取引は,継続的な取引であり,被控訴人はAに対
し本件保険料債権を取得し,他方,Aは被控訴人に対して本件手数料債権を取得
し,その都度両債権につき差し引き計算しその残額が支払われるから,この決済方
法は段階的交互計算である。そして,段階的交互計算に組み入れられた個々の債権
に対する差押えは許されないと解すべきであるから,本件差押えは無効である。
     また,仮に本件差押えが差引計算後の残額を差し押さえたものであると
しても,本件保険料債権は常に本件手数料債権より多額であるから,その残額は常
に存在しない。
   う 仮に本件手数料債権に対する差押えが許されるとしても,本件保険料債
権が本件手数料債権より先履行の関係にあるか又は少なくとも同時履行の関係にあ
る。
     したがって,被控訴人は,Aが保険料を支払うまで本件手数料債権に対
する支払を拒絶する。
第3 当裁判所の判断
 1 前記第2の1の事実及び証拠(甲1の③,乙6の①ないし⑥,7)並びに弁
論の全趣旨によれば,以下の事実が認められる。
  (1) 被控訴人とAは,本件代理店契約として,自動車損害賠償責任保険代理店
委託契約(以下「自賠責保険代理店委託契約」という。)及び損害保険代理店委託
契約(火災・自動車・傷害・新種)の2種類の代理店契約を締結した。
  (2) 被控訴人は,Aが取り扱った保険契約について,被控訴人が領収した収入
保険料に対し,一定の割合の本件手数料を支払い,Aは被控訴人に保険料を納付し
なければならないところ,保険料と本件手数料の精算の仕方は,次のとおりであ
る。
   あ 自賠責保険代理店委託契約においては,Aは,被控訴人のために領収し
た保険料から本件手数料を控除した残額を直ちに被控訴人に支払う。
   い 損害保険代理店委託契約においては,Aは,被控訴人が毎月の締切日現
在をもって作成する代理店勘定請求書により,被控訴人のために領収した保険料か
ら本件手数料を控除した残額を翌月末日までに被控訴人に支払う。
 2 上記事実によれば,Aが取り扱った保険契約が成立するに伴い,被控訴人の
Aに対する保険料請求権が発生する一方,Aの被控訴人に対する本件手数料債権が
発生し,そして,その精算は,継続的取引関係を前提として,保険契約の成立に伴
って被控訴人とAがそれぞれ相手方に対して取得する債権をそれぞれ別個独立に行
使せず,自賠責保険代理店委託契約においてはその都度差引決済され,その残額を
直ちに支払うものとされ,損害保険代理店委託契約においては,前月の締切日の翌
日から当月の締切日までの期間を単位として,その間は相互に支払を猶予し合い,
当月の締切日にそれまでに取得した相互の債権の総額について差引計算し,その差
額を翌月末日までに支払うものと認められる。したがって,被控訴人とAの間にお
いて,保険料請求権
及び本件手数料債権の決済につき,自賠責保険代理店委託契約においては段階的交
互計算の合意が,損害保険代理店委託契約においては交互計算期間を1か月とする
交互計算の合意がなされたものと認められる(なお,被控訴人は,そのいずれもが
段階的交互計算であると主張するが,契約の法的性質は,裁判所が当事者の主張に
拘束されずに決定しうるところである。)。
 3 控訴人は,本件手数料債権の精算方法は脱法行為であると主張するけれど
も,本件手数料債権の精算方法は,段階的交互計算あるいは交互計算であり,前記
1及び2の事実によれば,被控訴人とAとは,相互に債権債務を生ずる継続的な取
引関係を前提としてこのような精算方法を合意する合理的な必要性があったといい
うるから,本件における段階的交互計算あるいは交互計算の合意を脱法行為という
ことはできない。
 4 ところで,自賠責保険代理店委託契約においては段階的交互計算の合意がな
されたところ,段階的交互計算においては,相互の債権が発生する都度差引精算が
なされて残額が確定され,残額は直ちに弁済すべきであるから,このように差引精
算されて確定した残額債権は,差押えの対象になりうるものと解される。しかしな
がら,前記のとおり,本件手数料債権は,Aが被控訴人に支払うべき保険料の一定
割合であるから,常に保険料より少額であり,したがって,段階的交互計算の結
果,残額債権は常に被控訴人のAに対する保険料請求権であって,本件手数料債権
は消滅し,本件差押えの対象となる債権は,現在に至るまで及び将来においても存
在しないことは明らかである(この点は,本件仮差押決定がなされたことによって
も,異ならない。)。
   次に,損害保険代理店委託契約においては交互計算の合意がなされていると
ころ,交互計算は,相互に債権・債務を生ずる継続的取引を行う当事者間におい
て,決済の簡易化をはかる機能を有し,また,交互計算期間中相互に信用を授与し
あうことから,担保的機能も有するものであり,そして,交互計算期間中に交互計
算に組み入れられた債権を個別に処分しうるとすればこれらの趣旨に反するから,
これら債権の個別的な処分は許されないもの,すなわち,交互計算不可分の原則が
妥当するものと解される。そして,交互計算不可分の原則をおよそ第三者に主張で
きず個別的な債権譲渡や差押えが許されるものとすると,交互計算の上記機能は阻
害され,交互計算の意義は失われるから,商法529条の合理的解釈として,交互
計算不可分の原則は,
第三者にも主張しうるものと解するのが相当である。したがって,損害保険代理店
委託契約に基づいて発生した本件手数料債権は,交互計算に組み入れられるもので
あるから,これに対する本件差押えは許されないというべきである。
   もっとも,本件交互計算において,交互計算期間毎に差引決済した残額債権
は次の交互計算期間に組み入れられず,処分が可能な独立の債権となると認められ
る余地もあるが,損害保険代理店委託契約においても,自賠責保険代理店委託契約
におけるのと同様に,差引決済後の残額債権は本件保険料請求権だけであって,本
件手数料債権は常に消滅しているところである。
第4 結論
   よって,控訴人らの本件請求(当審において減縮後のもの。)は,その余の
点について判断するまでもなく,理由がないから棄却すべきであり,原判決は相当
であって,本件控訴は理由がないから棄却することとし,控訴費用の負担について
民訴法67条1項,65条,61条を適用して,主文のとおり判決する。
   大阪高等裁判所第13民事部
      裁判長裁判官  大喜多 啓 光
         裁判官  安 達 嗣 雄
         裁判官  橋 本 良 成

戻る



採用情報


弁護士 求人 採用
弁護士募集(経験者 司法修習生)
激動の時代に
今後の弁護士業界はどうなっていくのでしょうか。 もはや、東京では弁護士が過剰であり、すでに仕事がない弁護士が多数います。
ベテランで優秀な弁護士も、営業が苦手な先生は食べていけない、そういう時代が既に到来しています。
「コツコツ真面目に仕事をすれば、お客が来る。」といった考え方は残念ながら通用しません。
仕事がない弁護士は無力です。
弁護士は仕事がなければ経験もできず、能力も発揮できないからです。
ではどうしたらよいのでしょうか。
答えは、弁護士業もサービス業であるという原点に立ち返ることです。
我々は、クライアントの信頼に応えることが最重要と考え、そのために努力していきたいと思います。 弁護士数の増加、市民のニーズの多様化に応えるべく、従来の法律事務所と違ったアプローチを模索しております。
今まで培ったノウハウを共有し、さらなる発展をともに目指したいと思います。
興味がおありの弁護士の方、司法修習生の方、お気軽にご連絡下さい。 事務所を見学頂き、ゆっくりお話ししましょう。

応募資格
司法修習生
すでに経験を有する弁護士
なお、地方での勤務を希望する先生も歓迎します。
また、勤務弁護士ではなく、経費共同も可能です。

学歴、年齢、性別、成績等で評価はしません。
従いまして、司法試験での成績、司法研修所での成績等の書類は不要です。

詳細は、面談の上、決定させてください。

独立支援
独立を考えている弁護士を支援します。
条件は以下のとおりです。
お気軽にお問い合わせ下さい。
◎1年目の経費無料(場所代、コピー代、ファックス代等)
◎秘書等の支援可能
◎事務所の名称は自由に選択可能
◎業務に関する質問等可能
◎事務所事件の共同受任可

応募方法
メールまたはお電話でご連絡ください。
残り応募人数(2019年5月1日現在)
採用は2名
独立支援は3名

連絡先
〒108-0023 東京都港区芝浦4-16-23アクアシティ芝浦9階
ITJ法律事務所 採用担当宛
email:[email protected]

71期修習生 72期修習生 求人
修習生の事務所訪問歓迎しております。

ITJではアルバイトを募集しております。
職種 事務職
時給 当社規定による
勤務地 〒108-0023 東京都港区芝浦4-16-23アクアシティ芝浦9階
その他 明るく楽しい職場です。
シフトは週40時間以上
ロースクール生歓迎
経験不問です。

応募方法
写真付きの履歴書を以下の住所までお送り下さい。
履歴書の返送はいたしませんのであしからずご了承下さい。
〒108-0023 東京都港区芝浦4-16-23アクアシティ芝浦9階
ITJ法律事務所
[email protected]
採用担当宛