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平成17年(行ケ)第10468号 審決取消請求事件
平成17年10月13日判決言渡,平成17年9月13日口頭弁論終結
     判    決
  原 告 X
  被 告 中国パール販売株式会社
     主    文
 原告の請求を棄却する。
 訴訟費用は,原告の負担とする。
     事実及び理由
第1 原告の求めた裁判
 「特許庁が無効2004-80185号事件について平成17年4月14日にし
た審決を取り消す。」との判決。
第2 事案の概要
 本判決においては,書証等を引用する場合を含め,公用文の用字用語例に従って
表記を変えた部分がある。
 本件は,原告が,本件実用新案登録の無効審判請求をしたが,審決は同審判請求
は実用新案法41条で準用する特許法167条の規定に違反する不適法なものであ
るとして却下したため,同審決の取消しを求めた事案である。
 1 特許庁における手続の経緯
 (1) 本件実用新案登録(甲2)
 実用新案権者:中国パール販売株式会社(被告)
 考案の名称:「包装用皿状容器」
 出願日:昭和51年9月20日
 設定登録日:昭和56年12月25日
 実用新案登録番号:第1412281号
 (2) 先の無効審判手続
 審判請求日:平成16年1月9日(無効第2004-35013号。甲4)
 請求人:X(原告)
 審判日:平成16年7月5日(甲3)
 審判の結論:「本件審判の請求は,成り立たない。」(確定)
 (3) 本件手続
 審判請求日:平成16年10月9日(無効第2004-80185号。甲5)
 審決日:平成17年4月14日
 審決の結論:「本件審判の請求を却下する。」
 審決謄本送達日:平成17年5月1日
 2 本件考案の要旨
 プラスチックシートないしフイルムを圧空,真空成型してなる容器において,容
器の底面に左右両端部付近にわたる突条又は凹溝条の複数のリブを適間隔をおいて
配し,該リブ間の底面には凹溝又は突条に形成した略V形を複数個一列に配列した
V形列を形成し,かつ該V形列は底面全体に複数列形成してなる,容器上周縁に外
下側に巻込んだ形態の耳部を有し側面四隅部に補強縦筋を有した包装用皿状容器。
 3 審決の要点(甲1)
 審決は,本件審判の請求は,先の無効審判請求と実質的に同一の事実及び同一の
証拠に基づくものであるから,実用新案法41条で準用する特許法167条の規定
に違反してされた不適法な審判請求であり,却下すべきであるとした。
 (1) 先の無効審判手続における主張及び証拠
 審決は,先の無効審判手続における請求人(原告)の主張及び証拠は,以下のと
おりであると摘示した。
 ア 主張
 本件考案に係る願書に添付された図面のうち,第4図には先端が巻き込まれた形
のトレーが記載されており、同トレーは製造することができないのであるから,本
件考案は、希望的事項を羅列したにすぎず,実用新案法3条1項柱書きにいう「産
業上利用することができる考案」に該当しない。
 イ 証拠
  審判甲1:実公昭56-18169号公報(本訴甲2)
  審判甲2:原告宛の「相談について(回答)」と題する書面(大阪府立産業技
術総合研究所作成)及び「相談内容」と題する書面(X作成)(両書面とも本訴甲
6の1)
  審判甲3:訴状(本訴甲8)
 (2) 本件審判手続における主張及び証拠
 審決は,本件審判手続における請求人(原告)の主張及び証拠は,以下のとおり
であると摘示した。
 ア 主張
 本件考案に係る容器は製造することができないのであるから,実用新案法3条1
項柱書きにいう「産業上利用することができる考案」に該当しない。
 イ 証拠
  審判甲4の1:X作成の「陳述書」(本訴甲7の1)
  審判甲4の2:「求めるもの,それ以上へ。」と表題される株式会社山田工作
所のパンフレット(本訴甲7の2)
  審判甲5:「大阪府立産業技術総合研究所」のパンフレット(本訴甲6の2)
 (3) 事実及び証拠の同一性
 審決は,本件審判手続と先の無効審判手続における事実及び証拠の同一性につい
て,以下のとおり,判断した。
 ア 事実の同一性
 「本件審判請求の理由は,先の無効審判と同じく登録第1412281号実用新
案に係る考案を製造することができないことを理由として,実用新案法3条1項柱
書きにいう「産業上利用することができる考案」に該当しないから実用新案登録を
無効とすべき旨主張するものである。したがって,本件無効審判と,先の無効審判
とは同一の事実に基づくものである。」
 イ 証拠の同一性
「本件無効審判において,先の無効審判において提出された証拠に加えて,新たに
提出された甲4の1,2(本訴甲7の1,2)及び甲5(本訴甲6の2)が実用新
案法41条で準用する特許法167条の規定に規定される同一の証拠ではなく,新
たな証拠となり得るかをまず検討する。
 甲5は,先の無効審判において提出された甲2(本訴甲6の1)中の,X宛の
「相談について(回答)」と表題される書面(大阪府立産業技術総合研究所作成)
の作成者を釈明するものであるから,その証明力に係る間接証拠の追加であり,大
阪府立産業技術総合研究所の業務を釈明するものであるが,甲2の回答者の証明力
は,その釈明を待つまでもなく先の無効審判において審理の対象とされた事項であ
る。
 そして,甲5に基づいて,請求人は,先の無効審判において審決が,大阪府立産
業技術総合研究所が,実用新案法に規定する物品の形状・構造等に係る考案につい
て,その製造方法との関連において,実用新案法に規定する「産業上利用すること
ができる」なる事項についての判断を示した事実を甲2がいうものではないとした
判断を争い,大阪府立産業技術総合研究所の業務は産業上の技術の利用であること
を立証するとしているので,甲5は,先の無効審判の審決の判断に対する不服に係
る証拠として提出されているものであり,特許法167条にいう同一の事実に係る
同一証拠についての間接事実を証明する証拠の追加であり,新たな証拠ではない。
 次に,甲4は,請求人が本件考案について,「耳部」について,その製造方法が
通常の経済活動として合理的な方法がないという,先の無効審判において主張した
と同一の事実を,請求人と金型の製造に係る会社との交渉経緯を含めて陳述すると
共に,陳述内容に係る金型の製造に係る会社を釈明するものである。
 してみれば,先の無効審判における主張を陳述する以上のものではなく,先の無
効審判は,物品の形状構造に係る考案が,その形状構造により所期の目的を達成す
ることができ,その形状構造が形状構造として存在し得るものであれば,経済的に
量産することができないものであっても,一品ごとの手作業による製造によるとし
ても,製造を不能とすることはできず,その製造が新たな製造方法の提案がない限
り,コスト的に問題があり,歩留まりに問題があり,製造工程の煩雑さ等に問題が
あるとしても,その提案がないことをもって,物品の形状構造に係る考案を産業上
利用することができる考案ではないとすることはできず,物品の形状構造に係る考
案として完成しているというべきであると判断している。
 したがって,甲4の1,2は,先の無効審決において請求された無効の原因を構
成する事実について,何ら新たな事実を追加することなく,先の無効審判において
主張していた事項を陳述するにすぎないものであり,新たな証拠とすべきものでは
ない。」
第3 当事者の主張の要点
 1 原告
 原告が本件審判手続において新たに提出した大阪府立産業技術総合研究所のパン
フレット(甲6の2)は,特許庁の公的研究機関に関する知識不足を補い,大阪府
立産業技術総合研究所作成に係る「相談内容について(回答)」と題する書面(甲
6の1)が本件考案の産業上の利用可能性を十分に考慮していることを立証するた
めのものである。
 同様に,甲7の1及び2は,本件トレーが製造できない事実を立証するため,優
れた技術と知識を持つトレー金型製造業者の意見を陳述書にまとめて新たな証拠と
して提出したものである。
 これらの証拠は新たな証拠であるから,本件審判の請求は,先の無効審判請求と
実質的に同一の証拠に基づくものであるとした審決の認定判断は誤りである。
 2 被告 
原告の主張は争う。
第4 当裁判所の判断
 1 先の無効審判請求における主張及び証拠
 (1) 先の無効審判請求書(甲4)によれば,原告は,先の無効審判手続において
「本件明細書及び図面には,第3図(成形前の耳部略図)の状態から第4図(耳部
略図)の状態に至る工程が具体的に示されていないので,第4図の先端が巻き込ま
れた形のトレーを製造することはできない。したがって本件考案は未完成であり,
かつ産業上利用できるものではない。」と主張していることが認められる。
 (2) また,先の無効審判請求に対する審決(甲3)によれば,原告は,先の無効
審判手続において,証拠として実公昭56-18169号公報(甲2),大阪府立
産業技術総合研究所作成に係る「相談について(回答)」と題する平成16年4月
26日付け書面及び原告作成に係る「相談内容」と題する書面(甲6の1),平成
15年12月4日付け訴状(甲8)を提出したことが認められる。このうち,甲2
は本件考案に係る公報であり,甲6の1の「相談について(回答)」と題する上記
書面は,本件考案の係る容器が製作可能かとの照会に対する回答であり,「トレー
容器の端部は,研究所が有する装置では製作できない。」と記載されている。ま
た,甲8は本訴原告を原告とし大阪府を被告とする訴状であり,大阪府の管轄下に
ある上記研究所は原告の依頼に応じ包装用皿状容器に関する技術指導結果報告書を
作成する義務があるなどと記載されている。
 (3) 先の審決(甲3)は,請求人が提出した証拠として上記甲2,甲6の1,甲
8に言及した上で,本件明細書には本件考案の目的を達成するための構成が記載さ
れているから,実施不能であるとはいえず,また,請求人(原告)が主張するよう
に本件考案に係る物品を経済的に製造できる方法がなくとも,一応製造することが
できれば「産業上利用することができる考案」であり,考案として完成していると
いうことができると判断し,審判請求は成り立たないと結論付けた。
 2 本件審判請求における主張及び証拠
 (1) 本件審判請求書(甲5)によれば,原告は,本件審判手続において「本件考
案の耳部は,製造不能であるから本件考案は未完成であり,産業上利用することが
できない。」と主張していることが認められる。
 (2) また,審決(甲1)によれば,原告は,本件審判手続において,先の無効審
判手続で提出した上記甲2,甲6の1及び2,甲8に加え,大阪府立産業技術総合
研究所のパンフレット(甲6の2),原告作成に係る陳述書(甲7の1),株式会
社山田工作所のパンフレット(甲7の2)を提出していることが認められる。上記
陳述書(1頁のもの)には,原告が株式会社山田工作所に本件考案に係るトレーを
製造する金型と治具を発注したところ,製作不能との回答を受けた旨の記載が存在
する。
 3 事実及び証拠の同一性
(1) 事実の同一性
 上記1(1)及び2(1)によれば,先の無効審判手続及び本件審判手続において原告
が主張した事実が同一であることは明らかである。
 (2) 証拠の同一性
 原告は,本件審判手続において新たに証拠として提出した甲6の2,甲7の1及
び2は,先の無効審判手続において提出した証拠と同一とはいえないと主張する。
 しかしながら,特許法167条は,特定の無効理由をめぐって無効審判手続にお
いて攻撃防御が行われ,審判官の審理判断もこの争点に限定してなされるという手
続構造に照応し,現に審理判断の対象とされた事項につき対世的な一事不再理の効
力を付与したものであると解されるところ,上記各証拠は,まさに先の無効審判に
おいて争点となり,審理手続において攻撃防御方法が尽くされ,審判で現実に判断
のなされた無効理由に関するものである。そして,各証拠の内容を見ても,甲6の
2は,先の無効審判手続で証拠として提出された書面(甲6の1)の作成者である
大阪府立産業技術総合研究所の業務内容を記載したパンフレットにすぎず,甲7の
1は,原告本人の主張や事実認識を記載した陳述書であり,甲7の2は同陳述書で
言及されている株式会社山田工作所の業務内容を説明するために提出されたパンフ
レットにすぎないのであって,先の無効審判請求と異なる新たな証拠であるという
ことはできない。したがって,本件審判請求は,先の審判請求と「同一の証拠」に
基づくものというべきである。
 (3) 以上によれば,本件審判の請求は,先の無効審判請求と同一の事実及び同一
の証拠に基づくものであるから,実用新案法41条で準用する特許法167条の規
定に違反してされた不適法な審判請求であり,これを却下した審決は是認すること
ができる。
 4 結論
 よって,原告の請求は理由がないので,棄却されるべきである。
  知的財産高等裁判所第4部
        裁判長裁判官
                   塚   原   朋   一
           裁判官
                   髙   野   輝   久
           裁判官
                   佐   藤   達   文

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