弁護士法人ITJ法律事務所

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         主    文
     原判決中控訴人全大阪金属産業労働組合の請求を棄却した部分を取消
す。
     控訴人全大阪金属産業労働組合の訴えを却下する。
     その余の控訴人らの控訴を棄却する。
     訴訟費用は第一、二審とも控訴人らの負担とする。
         事    実
 第一 当事者の求める裁判
 一 控訴人ら
 原判決を取消す。
 被控訴人が昭和五七年二月一三日付で別表記載の各人に対してなした第二六期大
阪府地方労働委員会労働者委員の各任命を取消す。
 訴訟費用は第一、二審とも被控訴人の負担とする。
 二 被控訴人
 本件控訴を棄却する。
 控訴費用は控訴人の負担とする。
 第二 当事者の主張
 別紙「控訴人の主張」及び「被控訴人の主張」のとおり付加するほか、原判決事
実摘示のとおりであるから、その記載をここに引用する。
 第三 当事者の証拠の提出援用認否
 本件訴訟記録中の証拠目録のとおりであるから、その記載をここに引用する。
         理    由
 一 本件訴えの要旨は、「控訴人らは大阪府下に組織を有する労働組合である
が、大阪府地方労働委員会の第二六期労働者委員(定員一一名。任期は昭和五七年
二月二二日から昭和五九年二月二一日まで)の候補者として二名の者を推薦したと
ころ、被控訴人大阪府知事は、昭和五七年二月二二日付をもつて、大阪府下労働組
合の推薦にかかる候補者一三名中より一一名(定員どおり)の労働者委員を任命し
たが、その中には控訴人らの推薦した二名の者は含まれておらず、右任命処分には
裁量権を濫用した違法があるから、取消しを求める」というにあり、これに対し、
被控訴人は、本案前の抗弁として、「被控訴人が控訴人ら主張の任命処分をしたこ
とは認めるが、控訴人らは右任命処分の取消しを求める法律上の利益を有しない」
旨主張し、まず控訴人らの訴訟当事者適格を争つているものである。そこで、最初
に本件訴えの訴えの利益の点について考察することとする。
 二 行政処分の取消しの訴えは、当該処分の取消しを求めるにつき法律上の利益
を有する者に限り提起することができることは、行政事件訴訟法九条の定めるとこ
ろであり、右にいわゆる利益とは権利もしくは法律上保護された利益を指し、原告
たらんとする者の利益が法律上の利益に該当するかどうかは、実定法が本来的にそ
の者に当該利益を保障している趣旨であるかどうかによつて定めるべきものである
と解される。
 三 労働組合法一九条の関係規定によれば、労働委員会は「使用者を代表する
者、労働者を代表する者及び公益を代表する者各同数をもつて組織する」旨(一
項)、地方労働委員会の「使用者委員は、使用者団体の推薦に基いて、労働者委員
は、労働組合の推薦に基いて、公益委員は、使用者委員及び労働者委員の同意を得
て」知事が任命する旨(七項二一項)規定し、同法施行令二一条一項は、「使用者
委員及び労働者委員を任命しようとするときは、当該都道府県の区域内のみに組織
を有する使用者団体又は労働組合に対して候補者の推薦を求め、その推薦があつた
者の中から任命するものとする」旨規定している。これらの規定からみると、知事
は使用者団体又は労働組合の推薦を受けていない者を使用者委員又は労働者委員と
して任命することはできない。したがつて、この場合の推薦は知事の任命権限を制
約する意味を持ち、推薦されていない者を委員に任命したときは、その任命処分は
当然に違法となる。そして、法が使用者団体及び労働組合に推薦の権限を認めた所
以は、労働委員会の職務及び権限の特殊性から、その構成員の中に使用者を代表す
る者及び労働者を代表する者を加え、その権限行使に際し、使用者及び労働者の正
しい利益を反映させようとしたためであると考えられる。
 以上のように、法律は労働組合の推薦した候補者の中から必ず労働者委員が任命
されることを保障しているのであり、これは労働組合にとつて一の法的な利益であ
り権利であるといつてよいが、しかし、特定の労働組合が推薦した候補者の中から
労働者委員が任命されることまで保障しているのではない。法は、労働委員会の権
限の行使に際し労働者の利益が反映することを所期しているとはいえ、その利益と
は労働者一般の正しい利益であつて特定の労働組合の利益ではなく、労働委員会が
労働者及び使用者の正しい利益を踏まえて公平適正にその権限を行使することを期
待しているのである。そうだとすると、労働組合の労働者委員推薦の権限なるもの
は、特定の労働組合の利益のため認められたものではなく、労働者一般の利益のた
め認<要旨>められたものであるといわなくてはならない。したがつて、特定の労働
組合から推薦した候補者の中から労働者委員が任命されず、他の労働組合か
ら推薦した候補者の中から労働者委員が任命されたからといつて、当該労働組合の
法的利益が侵害されたものということはできない。
 この点に関し、控訴人らは、「控訴人ら推薦者は、自ら推薦した労働者委員の候
補者が、被控訴人の任命権行使の過程において、公正にして差別なき判断を受け、
適切な考慮の対象となつていることを求める地位、すなわち推薦権があり、被控訴
人の本件任命処分はこの推薦権を侵害するものである」旨主張し、この見地から訴
えの利益が認められるべきものであると主張する。
 思うに、労働組合として、法律に基づき特定の候補者を推薦した以上、知事に対
しその候補者を適切な判断・考慮の対象とすべきことを求めて妨げはないであろう
し、知事も推薦に対しては誠実に対応すべきものであろう。しかし、これは候補者
の推薦なる法制度に伴なう当然の効果とも称すべきものであつて、これがため推薦
者に特別な法的地位を与えることにはならないと解される。推薦はやはり推薦であ
つて、知事が労働組合(一般)の推薦を受けていない者を労働者委員に任命するこ
とができないという以上に推薦に格別の法的意義を認めることは困難である。のみ
ならず、特定の労働組合の推薦に権利性を認めることは他の労働組合の推薦にも権
利性を認めることを意味し、本件におけるがごとく、候補者数が委員定数を上まわ
り他の組合の推薦した候補者が任命されることによつて特定の組合の推薦した候補
者が任命されないこととなる場合、その特定の組合の権利ないし法的利益は他の組
合の権利ないし法的利益と衝突することとならざるを得ないが、かかる法的構成は
現労働組合法に定める委員(使用者委員を含む)任命制度の予想していないところ
であると解されるとともに、中立公正たるべき行政機関の構成員を選任するという
趣旨にも沿わないであろう。あるいは、労働組合は組合員の利益を擁護するだけで
はなく組合固有の法上の利益を享受する団体であるとして、労働組合の推薦である
点に特殊性を認める見解もあるが、本件の争点との関連が分明でないばかりでな
く、法は労働委員会の委員の推薦・任命に関しては労働組合と使用者団体とを全く
同列に取り扱つているのであつて、この見地からしても右見解は採用できない。
 控訴人らはまた、知事が適切に労働者委員の任命をなさない場合の弊害をるる強
調する。しかし、法は行政庁が適切に権限の行使をなさないすべての場合に司法審
査を許すのではなく、もつばら行政権の裁量と責任において処理させるのが適当な
事項であるとしてその事項を争訟の対象とはせずその結着を選挙その他国民の政治
的、社会的行動に委ねる場合、あるいは当該処分が国民の権利・利益に及ぼす影響
が間接的であるとして後続の行政処分に対して不服を認めて足れりとする場合など
があり、司法審査を許す場合においても当該処分に社会的に関係を持つすべての者
に訴えの提起を認めるのでなく、当該処分により直接権利もしくは法的利益を害さ
れた者に訴えの提起を認めるのであるから、控訴人主張のような理由は直ちに本件
の訴えについて訴えの利益を肯定する根拠となるものではない。
 その他控訴人らは別紙のとおり詳細に主張しているけれども、それらは以上に述
べたところよりして自ら採用することができない。
 四 そうだとすると、控訴人らの本件訴えはそれ自体訴えの利益を欠く不適法な
訴えであるから、その余の点について判断するまでもなく却下の判決をなすべきで
ある。
 ところで、原審は、控訴人全大阪金属産業労働組合の訴えについては、訴えの利
益を認めて本案に立ち入り判断しているから、この部分は取消・変更をまぬがれ
ず、その余の控訴人らの訴えについては、理由は異なるが訴えの利益なしとして却
下の判決をしているから、この部分は維持すべきである。
 五 よつて、原判決中、控訴人全大阪金属産業労働組合の請求を棄却した部分を
取消して同控訴人の訴えを却下し、その余の控訴人らの控訴を理由なしとして棄却
することとし、訴訟費用の負担について民事訴訟法九六条八九条九三条を適用し、
主文のとおり判決する。
 (裁判長裁判官 今中道信 裁判官 露木靖郎 裁判官 齋藤光世)
別 表
<記載内容は末尾1添付><記載内容は末尾2添付>

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