弁護士法人ITJ法律事務所

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主文
原判決を破棄する。
本件を東京高等裁判所に差し戻す。
理由
上告代理人宮下進ほかの上告受理申立て理由について
1原審が確定した事実関係の概要等は,次のとおりである。
(1)被上告人は,その取引銀行であるA銀行(茂原支店扱い)との間で,平成
13年4月20日,下記内容のパソコンバンクサービス及びオンラインデータ伝送
サービス(以下「本件オンラインシステム」という。)の利用契約を締結した。
アこのサービスは,被上告人のコンピューター(端末機)を通じた依頼に基づ
き,A銀行における被上告人の普通預金口座から資金を引き落とし,A銀行又はそ
の提携金融機関における受給者の預金口座へ給与や賞与の振込みを行う場合等に利
用する。
イ被上告人は,A銀行に対し,あらかじめ伝送内容(受付サービスの種類,合
計件数,合計金額)をファクシミリにより通知した上,所定の内容を端末機を通じ
てA銀行が指定したセンターコードあてに送信する。
ウ被上告人は,A銀行にデータ伝送を行った後は,送信したデータの内容に瑕
疵がないときは,データの内容を取消し・変更できない。
エ被上告人は,A銀行が受信したデータの内容に瑕疵がある場合は,その内容
を修正して速やかに再送信する。
オ本件オンラインシステムの利用日・利用時間は,A銀行が定めた営業日・時
間内とする。
(2)Bは,同年12月31日限り被上告人を退職し,被上告人から退職金とし
て1138万0800円を支給されることになった(以下,この退職金を「本件退
職金」という。)。Bは,その退職に先立ち,被上告人に対し,本件退職金をC労
働金庫木更津支店のB名義の預金口座(以下「本件口座」という。)へ振込みの方
法で支払うことを依頼した。
(3)被上告人は,同年12月26日,A銀行茂原支店に対し,本件オンライン
システムを通じて,本件退職金がA銀行の提携金融機関であるC労働金庫の本件口
座に同月28日に振込入金されるよう依頼し(以下,これを「本件振込依頼」とい
う。),本件振込依頼は,依頼の当日である同月26日,A銀行により受理され,
本件オンラインシステムの中に依頼履歴として電磁記録された。なお,被上告人
は,労働組合との協定により,原則として従業員の退職の日に退職金を支払うこと
としており,これによれば,本件退職金の支払日は同月31日であったが,A銀行
その他の銀行の同年末の最終営業日が同月28日(金)であったため,被上告人
は,A銀行に対し,同日に上記振込入金がされるように依頼した。
(4)上告人は,Bを債務者,被上告人を第三債務者とし,下記の債権を仮差押
債権として,千葉地方裁判所に対し仮差押命令を申し立て(同裁判所平成13年
(ヨ)第508号),同月26日,これに基づく債権仮差押命令(以下「本件仮差
押命令」という。)が発令された。

Bが被上告人から支給される,仮差押命令送達日以降支払期の到来する次のアか
らウまでの債権にして1749万2070円に満つるまで
ア給料(基本給と通勤手当以外の諸手当)から所得税,住民税及び社会保険料
を控除した残額の4分の1(ただし,上記残額が月額28万円を超えるときは,そ
の残額から21万円を控除した金額)
イ賞与からアと同じ税金等を控除した残額の4分の1(ただし,上記残額が月
額28万円を超えるときは,その残額から21万円を控除した金額)
ウ上記ア,イにより弁済しないうちに退職したときは,退職金から所得税及び
住民税を控除した残額の4分の1
(5)本件仮差押命令は,同月27日午前11時ころ,被上告人の守衛所に送達
された。同日は,被上告人の年内最終営業日であり,その終業予定時刻は午後零時
15分であった。
(6)被上告人の総務担当主任Dは,本件仮差押命令の受領後,Bに対する振込
みの中断の可否について,人事勤労担当課長Eに質問し,E課長から,Bの給与は
支払済みであり,本件退職金の振込手続は前日に完了しており,支払を止めるのは
無理である旨告げられた。さらに,E課長は,本件退職金の振込依頼の撤回の可否
を経理部主計担当主任Fに確認し,窓口営業終了時刻である午後3時までにA銀行
茂原支店の窓口に赴いて手続を執る必要があると言われた。総務部長Gは,E課長
から報告を受け,同月27日午後零時20分ころ,本件退職金の振込手続が完了し
たことを前提として裁判所に回答させることとした。
(7)総務部担当者は,千葉地方裁判所に対し,同日午後1時ころ,仮差押命令
を受けた第三債務者が提出する陳述書の書き方等について問い合わせをした上,B
が同月31日付け退職となっており,Bへの給与及び退職金は既に支払済みであっ
て,本件仮差押命令に係る債権は存在しない旨を記載した同月27日付け陳述書を
千葉地方裁判所に提出した。
(8)同月28日,本件振込依頼に基づき,本件口座に本件退職金が入金され
た。
(9)上告人は,Bが被上告人から支給される同月31日に支払期の到来した本
件退職金の4分の1につき,千葉地方裁判所木更津支部に対し債権差押命令を申し
立て(同支部平成14年(ル)第142号),これに基づく債権差押命令(以下
「本件差押命令」という。)が平成14年5月7日に発令され,同月8日に被上告
人に送達された。
(10)本件退職金のうち,本件仮差押命令及び本件差押命令の対象となったの
は,284万5200円である。
2本件は,上記の事実関係の下で,上告人が被上告人に対し,本件差押命令に
基づく差押債権の取立てとして差押債権相当額の金員の支払を求める事案である。
3原審は,次のとおり判断して,上告人の請求を棄却すべきものとした。
(1)金融機関を通じた振込手続は信頼性の高い決済手段として広く利用されて
おり,この手続を利用する債権者及び債務者とも,振込依頼手続を完了すれば,依
頼内容に従った振込みが金融機関によって実行され,有効な弁済がされることが確
実であると信頼するに至っていると推認し得ることにかんがみると,第三債務者
が,債務の本旨に従った弁済をするために,金融機関に対し差押債務者が指定した
口座への振込みを依頼した後に,差押命令(仮差押命令についても同じ。)の送達
を受けた場合,弁済期までに長い期間がある時期に振込依頼がされたなどの特段の
事情がない限り,第三債務者の依頼に基づいて金融機関がした差押債務者に対する
送金手続が差押命令の第三債務者への送達後にされたとしても,第三債務者の上記
振込依頼に基づく弁済をもって差押債権者に対抗することができると解するのが相
当である。
(2)本件の事実経過の下においては,上記特段の事情も認められないから,被
上告人は,本件退職金の弁済をもって仮差押債権者である上告人に対抗することが
できる。
4しかしながら,原審の上記判断は是認することができない。その理由は,次
のとおりである。
(1)金銭の支払を目的とする債権に対する仮差押えの執行は,保全執行裁判所
が第三債務者に対し債務者への弁済を禁止する命令を発する方法により行うものと
され(民事保全法50条1項),弁済禁止の命令を受けた第三債務者がその対象と
なった債権の弁済をした場合は,差押債権者はその受けた損害の限度において更に
弁済すべき旨を第三債務者に請求することができる(民法481条1項)。この弁
済禁止の効力が生ずるのは,仮差押命令が第三債務者に送達された時である(民事
保全法50条5項,民事執行法145条4項)。
前記事実関係によれば,本件仮差押命令は,本件退職金債権につき,第三債務者
である被上告人からA銀行に対する本件振込依頼がされた日の翌日に被上告人に送
達されたが,その時点ではまだA銀行から債務者であるBの本件口座への振込みは
されておらず,同振込みは本件仮差押命令送達の日の翌日にされたことが明らかで
ある。
(2)依頼人から振込依頼を受け,その資金を受け取った銀行(仕向銀行)がこ
れを受取人の取引銀行(被仕向銀行)に開設された受取人の預金口座に入金すると
いう方法で隔地者間の債権債務の決済や資金移動を行う振込手続が,信頼性の高い
決済手段として広く利用されていることは,原判決の判示するとおりであるが,一
般に,振込依頼をしても,その撤回が許されないわけではなく,銀行実務上,一定
の時点までに振込依頼が撤回された場合には,仕向銀行は被仕向銀行に対していわ
ゆる組戻しを依頼し,一度取り組んだ為替取引を解消する取扱いが行われている
(全国銀行協会連合会が平成6年4月に制定した振込規定ひな型・全銀協平6・4
・1全事第8号参照)。本件においても,前記事実関係によれば,被上告人は本件
仮差押命令が送達された日(本件退職金が本件口座に振り込まれる日の前日)の午
後3時までにA銀行茂原支店の窓口に赴けば振込依頼の撤回の手続を執ることが可
能であると知っていたことがうかがわれる。
(3)以上によれば,取引銀行に対して先日付振込みの依頼をした後にその振込
みに係る債権について仮差押命令の送達を受けた第三債務者は,振込依頼を撤回し
て債務者の預金口座に振込入金されるのを止めることができる限り,弁済をするか
どうかについての決定権を依然として有するというべきであり,取引銀行に対して
先日付振込みを依頼したというだけでは,仮差押命令の弁済禁止の効力を免れるこ
とはできない。そうすると,上記第三債務者は,原則として,仮差押命令の送達後
にされた債務者の預金口座への振込みをもって仮差押債権者に対抗することはでき
ないというべきであり,上記送達を受けた時点において,その第三債務者に人的又
は時間的余裕がなく,振込依頼を撤回することが著しく困難であるなどの特段の事
情がある場合に限り,上記振込みによる弁済を仮差押債権者に対抗することができ
るにすぎないものと解するのが相当である。
以上と異なる見解に立って,弁済期までに長い期間がある時期に振込依頼がされ
たなどの特段の事情がない限り,第三債務者は,差押命令(仮差押命令についても
同じ。)の送達後にされた振込みによる弁済をもって仮差押債権者に対抗すること
ができるとした原審の判断には,民法481条1項の解釈適用を誤った違法がある
といわざるを得ない。
5以上によれば,原審の判断には判決に影響を及ぼすことが明らかな法令の違
反がある。論旨は理由があり,原判決は破棄を免れない。そして,本件の具体的事
情の下において,被上告人が本件仮差押命令の送達を受けた時点で人的又は時間的
余裕がなく,振込依頼を撤回することが著しく困難であるなどの特段の事情があっ
たかどうか等について更に審理を尽くさせるため,本件を原審に差し戻すこととす
る。
よって,裁判官全員一致の意見で,主文のとおり判決する。
(裁判長裁判官島田仁郎裁判官横尾和子裁判官甲斐中辰夫裁判官泉
徳治裁判官才口千晴)

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