弁護士法人ITJ法律事務所

裁判例


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         主    文
     本件上告を棄却する。
         理    由
 弁護人板井一治の上告趣意、並びに弁護人杉崎安夫の上告趣意第一点について。
 (一) 憲法三五条は個人の住居、書類、及び所持品について濫に侵入、捜索、
押収を受けることのない権利を保証し、捜索又は押収をするには正当な理由に基い
て発せられ、且つ捜索する場所及び押収する物を明示する裁判官の令状を必要とす
る趣旨を宣明した規定であつて、適法な令状によつて押収した物件の換価その他の
処分について規定したものではない。また捜索及び押収について裁判官の令状を要
件としていることから押収物の換価処分は検事又は司法警察官には全く許されない
ものであつて必らず裁判所のなすべきものであると解しなければならない理由もな
い。それゆえ押収した物件の換価処分を規定した旧刑訴一六五条の規定を同一七四
条で検事又は司法警察官の為す押収に準用し、検事又は司法警察官も亦押収物の換
価処分ができるとしても憲法三五条の規定に違反するものではない。然らば右旧刑
訴の規定が違憲であるとの論旨及び押収物の換価処分は裁判所でなければできない
と主張する論旨はいずれも理由がない。
 (二) 本件において捜索、、差押はそれぞれ適法な裁判官の臨検捜索許可状(
記録第三八丁)並びに差押許可状(記録第四〇丁)によつてなされているのである。
そして本件記録に存する捜索差押書、記録第六九丁)には、経済調査官Aと札幌市
警察署巡査Bが共に署名捺印しているのであつて、札幌地方裁判所判事矢吹幸太郎
の許可状により警察官吏Bを同行して本件物件を差押えた旨を記載してある。とこ
ろで経済調査庁法二〇条五項によると経済調査官が裁判官の許可状に基き調査をす
るときは許可状の執行に従い且つ差押及び身体についての捜索をする所轄警察官又
は警察吏員を同行しなければならないのであり、またその六項によると差押と身体
についての捜索は警察官又は警察吏員に限りこれをすることができるのであつて、
本件における差押は右規定に従い同行した警察史員Bがしたものであることが前示
捜索差押書の記載から認めることができるのである。また本件記録に存する買上書
(記録第七三丁)によれば、本件物件は司法警察官たる札幌警察署長が換価処分を
したことが認められるのであるから、本件差押及び換価処分は共に適法である。
 (三) 本件押収物は被告人の犯罪行為を組成した物であるから、そのうち被告
人の所有に属する物はこれを没収することができるのである。そして本件押収物が
適法に換価され金銭に代わつた場合には右換価金のうち何れが被告人の所有物を買
つた分であるかは不明であるがその割合が判明しているのであるから、その割合に
相当する金額を没収することは適法であつて何等違法とはいえない。
 弁護人杉崎安夫の上告趣意第二点について。
 原判決は被告人がゴム長靴を統制額を超えて販売する目的で即ち物価統制令三条
に違反して取引する目的で所持した事実を確定しこれに同令一三条の二を適用処断
しているのであつて、その販売せんとした価格は一足一、二〇〇円以上というので
あるから、ゴム長靴の卸売統制額をも小売統制額をも遙に超過した額である。従つ
て本件を物価統制令一三条の二違反の罪に問擬するにあたつて被告人の販売せんと
した価格が卸売か小売かを確定する必要もなく、またその統制額を判示する必要も
ないのであるから、原判決には所論の如き審理不尽その他の違法があるとはいえな
い。論旨はその理由がない。
 よつて旧刑訴四四六条により主文のとおり判決する。
 右は裁判官全員一致の意見である。
 検察官 小幡勇三郎関与
  昭和二五年七月一九日
     最高裁判所大法廷
         裁判長裁判官    田   中   耕 太 郎
            裁判官    塚   崎   直   義
            裁判官    長 谷 川   太 一 郎
            裁判官    沢   田   竹 治 郎
            裁判官    霜   山   精   一
            裁判官    井   上       登
            裁判官    真   野       毅
            裁判官    小   谷   勝   重
            裁判官    島           保
            裁判官    斎   藤   悠   輔
            裁判官    藤   田   八   郎
            裁判官    河   村   又   介
            裁判官    穂   積   重   遠

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