弁護士法人ITJ法律事務所

裁判例


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         主    文
     原判決を破棄する。
     本件を大阪高等裁判所に差戻す。
         理    由
 上告代理人弁護士小田成就の上告理由第一点について。
 原判決は、証拠に基き原告主張のごとき縦約九、二糎、横約二、六糎の紙片の表
裏両面に仮名で「D」と墨書された候補者Eの氏を仮名書にしたこと疑のない紙片
が本件投票日の午前九時半頃からすくなくとも午前十時過頃までの間本件選挙の第
二投票所の投票記載所左端の机上に放置せられていた事実を認定し、且つ、「投票
所においては、選挙人は、何人からも勧誘又は制肘を受けることなく全く自由に自
己の所信に従つて投票し得られるということが最も重要な要請であつて、この要請
に反し指定候補者の為めの勧誘を受け若しくは投票の自由を制肘せられるような環
境又は設備のもとになされた選挙は明文の有無に拘らず選挙の規定に違反して為さ
れたものと謂わざるを得ない。」と説示した後、所論のごとく、その理由中に「而
して前認定の紙片は、故らその両面に候補者の氏を墨書しているもので、これを単
に選挙人が心覚えに持参したものを置き忘れたものと認めるには余りに念入りであ
つて、候補者Eの為め投票を勧誘する意図のもとに故意に作成せられ且つ投票記載
机の上に放置せられたものと認めるのを相当とし投票者としては投票の勧誘とも考
えられるから斯る紙片を存置したまゝ施行された本件村長選挙は選挙の規定に違反
するものと謂うべきである。」と判示したことは、所論のとおりである。
 そして、単に、原判決認定のごとき縦、横の紙片の表裏両面に候補者Eの氏を仮
名で「D」と墨書されている事実並びに右紙片を判示時間中判示机上に放置されて
いたという事実のみから直ちに原判決認定のごとく「これを単に選挙人が心覚えに
持参したものを置き忘れたものと認めるには余りに念入りである」とすること、並
びに、「候補者Eの為めに投票を勧誘する意図のもとに故意に作成せられ且つ投票
記載机の上に放置せられたもの」と認定することは、推理の過程に飛躍があつて所
論の指摘するごとく経験則上かかる認定を是認することはできない。しかのみなら
ず、公職選挙法二〇五条にいわゆる「選挙の規定に違反することがあるとき」とは、
主として、選挙管理の任にある機関が選挙の管理執行の手続に関する明文の規定に
違反することがあるとき又は直接かような明文の規定は存在しないが選挙法の基本
理念たる選挙の自由公正の原則が著しく阻害されるときを指すものと解するを相当
とする。しかるに、原判決は「前示紙片が選挙事務担当者の知らぬ間に机上に置か
れたもので、これを発見しなかつたことについて担当者に何等責むべき過失がなか
つたとしてもやはり選挙が違法に行われたと謂うのに毫も差支ない。」と説示しこ
れをもつて公職選挙法にいわゆる「選挙の規定に違反するもの」としたのは法令の
解釈につき重大な誤りがあるものというべきである。それ故本論旨は、結局その理
由があつて、原判決は破棄を免れない。
 そして、原判決は、他の争点の判断を省略して原告の本訴請求を認容したもので
あるから、民訴四〇七条一項に基き本件を原裁判所に差戻すべきものと認め主文の
とおり判決する。
 この判決は、裁判官全員一致の意見によるものである。
     最高裁判所第一小法廷
         裁判長裁判官    斎   藤   悠   輔
            裁判官    真   野       毅
            裁判官    岩   松   三   郎
            裁判官    入   江   俊   郎

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