弁護士法人ITJ法律事務所

裁判例


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主文
1原告の請求を棄却する。
2訴訟費用は原告の負担とする。
事実及び理由
第1請求
東京都知事が東京都個人情報の保護に関する条例(以下「本件条例」という。)
に基づき原告に対してした平成20年10月3日付け保有個人情報一部開示決定
処分(○児セ相第○号。以下「本件処分」という。)のうち,別紙1非開示部分
目録記載の部分(以下「本件各非開示情報部分」という。)を非開示とした部分
(以下「本件非開示部分」という。)を取り消す。
第2事案の概要
本件は,原告が,未成年者P1(以下「本件児童」という。)の法定代理人と
して,本件条例に基づいて,本件児童本人に代わって本件児童に係る個人情報の
開示請求をしたところ,処分行政庁(東京都知事)により請求に係る個人情報の
一部を開示しない旨の本件処分をされたことを不服とし,これに対する異議申立
ても棄却されたことから,本件処分のうち本件非開示部分の取消しを求める事案
である。
1本件条例中関係規定の定め
別紙2関係規定の定め記載のとおり。
2前提事実(争いがない事実,顕著な事実並びに掲記の証拠及び弁論の全趣旨
により容易に認められる事実)
(1)平成20年9月4日,原告は,東京都児童相談センター(以下「児童相談
センター」という。)に,本件条例13条1項及び2項に基づき,本件児童
の法定代理人として,「P1愛の手帳の判定書,医学的所見,心理学的所
見,社会診断所見に関する根拠となる物」の写しの交付を求める保有個人情
報開示請求書を東京都知事にあてて提出した(以下,この請求書による開示
請求を「本件開示請求」という。)。(乙4)
(2)平成20年9月18日,東京都知事は,上記(1)の本件開示請求について,
本件条例14条3項の規定により,「請求のあった保有個人情報の内容が複
雑で,期間内に開示決定等をすることが困難である」ことを延長理由として,
決定期間を同年10月3日まで延長することを決定し,決定期間延長通知書
を原告に送付した。(甲9)
(3)平成20年10月3日,東京都知事は,前記(1)の本件開示請求のうち,
「P1愛の手帳の判定書」に係る対象保有個人情報を「田中ビネー知能検
査Vアセスメントシート」と特定し,同個人情報のすべてを開示することと
し,また,前記(1)の本件開示請求のうち,「医学的所見,心理学的所見,社
会診断所見に関する根拠となる物」については,「児童票(2)(その1)」
(以下「本件児童票(2)」という。),「児童票(5)心理学的所見」(以
下「本件児童票(5)」という。)及び「児童票(6)医学的所見」(以下
「本件児童票(6)」といい,本件児童票(2)及び本件児童票(5)とあ
わせて,以下「本件各児童票」という。)を対象保有個人情報と特定し,以
下のアないしオの各部分(本件各非開示情報部分)を非開示として,上記対
象保有個人情報の一部を開示することを決定(本件処分)した。(甲7,8)
ア本件児童票(2)のうち,「児童及び保護者等の状況」欄の4行目29
字目から13行目末尾まで(以下「非開示情報部分①」という。)
イ本件児童票(2)のうち,「児童及び保護者等の状況」欄の14行目1
字目から同行目19字目まで,同行目27字目から同行目30字目まで及
び同行目33字目から20行目末尾まで(以下「非開示情報部分②」とい
う。)
ウ本件児童票(5)のうち,「所見詳細」欄の3行目から4行目まで,5
行目1文字目から同行目24文字目まで,同行目41文字目から7行目ま
で及び9行目から14行目まで(以下「非開示情報部分③」という。)
エ本件児童票(5)のうち,「所見詳細」欄の15行目から20行目まで
(以下「非開示情報部分④」という。)
オ本件児童票(6)のうち,「所見詳細」欄の2行目から15行目まで(以
下「非開示情報部分⑤」という。)
(4)平成20年10月22日,原告は,本件処分のうち本件非開示部分の取消
しを求め(甲1参照),異議申立てをした。
(5)平成21年8月18日,東京都知事は,原告の上記(4)の異議申立てを棄
却した。(甲1)
(6)原告は,平成22年2月16日,本件処分のうち本件非開示部分の取消し
を求めて,本件訴訟を提起した。(顕著な事実)
3争点
本件処分のうち本件非開示部分の適法性(本件各非開示情報部分に記載され
た情報の本件条例16条2号又は6号該当性)
4争点に関する当事者の主張の要旨
(1)被告の主張の要旨
ア東京都知事は,本件各児童票のうち,児童氏名,生年月日,相談主訴,
所見要旨等の基本的な事項のほか,出生地や出生時など,本件児童が当然
に知り得る客観的な事実に基づく記載に関する部分を開示し,その他の部
分である本件各非開示情報部分は,そこに記載された情報がそれぞれ本件
条例16条2号又は6号に該当するから,イのとおり非開示とした。
イ(ア)非開示情報部分②及び非開示情報部分④に記載された各情報は,本
件条例16条2号に該当する。
非開示情報部分②及び非開示情報部分④の各部分には,本件児童の父
(以下「本件父」という。)から聞き取りにより得た情報が記載されて
いるところ,これらの情報を開示した場合には,開示請求者以外の個人
の権利利益を害するおそれがあることから,本件条例16条2号に該当
する非開示情報に該当する。
(イ)本件各非開示情報部分に記載された情報は本件条例16条6号に該
当する。
本件各非開示情報部分には,本件父から聞き取りにより得た情報が記
載されている。本件開示請求当時,原告と本件父は離婚しており,親権
者問題で係争中という状況において,上記情報が開示されると,相談内
容に関して個人情報の保護を前提として聞き取りを行っている児童相談
所の相談援助活動について信頼を損ない,相談援助活動の適正な執行に
影響を及ぼすおそれがある。
また,非開示情報部分③ないし非開示情報部分⑤の各部分には,児童
相談センターの担当職員及び担当医師(以下「担当職員等」という。)
による評価,判断等が記載されているところ,このような評価,判断は,
本人や父,母の認識等と必ずしも一致するものではなく,児童票が開示
されることを前提に作成されることとなると,相談援助活動の適正な執
行に支障を及ぼすおそれがある。
したがって,本件各非開示情報部分に記載された情報は,本件条例1
6条6号に該当する非開示情報に該当する。
(2)原告の主張の要旨
①被告は,原告が本件児童の親権について本件父との間で係争中である
ことを理由として,本件父からの相談内容等を開示すると,相談内容に関す
る個人情報の保護を前提として聞き取りを行っている児童相談所の相談援助
活動についての信頼を損ない,相談援助活動の適切な執行に影響を及ぼすと
主張するが,本件開示請求当時は,本件児童の親権者は父・母と戸籍に記載
されている上,本件児童の親権について係争中ということは児童相談センタ
ーには関係のないことであるし,係争者の一方から得た情報であり,これに
基づいた判断である以上,理由とならない。②練馬区教育委員会,P2病
院等,他の行政機関が開示していることに照らしても,被告(東京都)は,
本件児童に係る保有個人情報を全開示すべきである。③被告は愛の手帳等
に本件児童の生年月日を誤って記載しており,このような重要な事項の記載
を誤る以上,その活動において信頼を語るに値せず,また,相談援助活動の
適正な執行も理由となるものではない。④原告は,本件児童の生年月日が
誤って記載された愛の手帳には,その判定にも疑問を抱いているのであって,
上記生年月日の誤記載の非を認めながら何もその後の処置をしない児童相談
センターに対する損害賠償請求及び愛の手帳取消訴訟の提起を検討している
から,本件児童の個人情報の全開示は不可欠である。
第3当裁判所の判断
1本件非開示情報部分に記載された情報
本件各非開示情報部分に記載された情報の内容に関する被告の主張は,前記
第2の4(1)のとおりであるところ,前記前提事実に加え,証拠(甲1,甲2,
甲7,甲10∼甲13,乙6)及び弁論の全趣旨を総合すると,本件非開示情
報部分に記載された内容等に関し,以下の事実を認定することができる。
(1)本件各児童票中の本件各非開示情報部分について
ア(ア)本件児童票(2)には,「相談内容」,「児童及び保護者等の状況」,
「児童相談所の意見」の各欄が設けられており,「児童及び保護者等の
状況」欄中の「カナダで出生。」「37週で出生自然分娩2150
g」,「保育器に1週間入った。」,「現地P33年間。」と記載さ
れた部分が開示され,上記開示部分の次から同欄13行目までが非開示
(非開示情報部分①)とされ,また,同欄14行目の冒頭から,途中「2
006年6月」,「帰国」の各記載部分を除いて,同欄末尾までが非開
示(非開示情報部分②)とされた。
(イ)本件児童票(5)には,心理学的所見として,「所見要旨」及び「所
見詳細」の各欄が設けられており,「所見詳細」欄中の「父子で来所。」,
「田中ビネーVCA13:10MA10:0IQ73」と記
載された部分が開示され,上記開示部分の次から,途中「カナダで出生,
帰国は2006年。」,「カナダでは,現地P3に通っていた。」の各
記載部分を除いて,同欄14行目までが非開示(非開示情報部分③)と
され,また,同欄15行目の冒頭から同欄20行目までが非開示(非開
示情報部分④)とされ,同欄末尾に「○。愛の手帳▲度該当。」と記載
されている部分が開示された。
(ウ)本件児童票(6)には,医学的所見として,「家族歴」,「生育・
既往歴」,「理学的所見」,「神経学的所見」,「検査所見」,「所見
要旨」及び「所見詳細」の各欄が設けられており,「所見詳細」欄中の
「父と来所.」と記載された部分が開示され,上記開示部分の次から同
欄末尾まで非開示(非開示情報部分⑤)とされ,診断日として「平成1
9年12月10日」と記載された部分が開示された。
イ本件各児童票には,平成19年11月7日以降,本件父が,本件児童と
共に児童相談センターを訪れ,相談等をした際,児童相談センターの担当
職員等による聞き取りによって得られた本件児童の生活歴・生育歴等の情
報のほか,これらの情報等を前提とした担当職員等による評価,判断等の
情報や児童相談センターにおいて相談業務を行うに当たり必要となる情報
が記載されている。
そして,本件児童票(2)の「児童及び保護者等の状況」欄においては,
本件児童の出生時点から時系列に従い,出生したカナダにおける状況を中
心とした内容が非開示情報部分①として記載され,平成8年(2006年)
6月以降の本邦における生活状況を中心とした内容が非開示情報部分②と
して記載されているものとうかがわれる。また,本件児童票(5)の「所
見詳細」欄には心理学的見地から,本件児童票(2)と同様に,本件児童
が出生した当時の状況及びそれを前提とした所見を中心とした内容が非開
示情報部分③として記載され,それに引き続いて,本邦における生活状況
や愛の手帳の交付を受けた平成19年12月18日ころの状況を中心とし
た内容が非開示情報部分④として記載されているものとうかがわれる。さ
らに,本件児童票(6)の「所見詳細」欄には,医学的見地から,担当医
師が本件児童を○,○と診断するに当たって考慮した事情(既往歴,現在
症等)や所見の詳細を中心とした内容が非開示情報部分⑤として記載され
ているものと認められる。
そして,本件各非開示情報部分に記載された情報の具体性の程度は,担
当医師が本件児童を軽度精神遅滞,発達障害と診断するに当たり前提とし
た情報のみならず,児童相談センター(児童相談所)がその業務(後記2
(2)参照)の一環として,本件児童及びその保護者(本件父)からの相談を
受け,指導等を行うために記録されたものであることに照らせば,相当程
度具体的に記載されているものとうかがわれる。
(2)上記(1)以外の点について
原告は,平成18年3月18日,カナダ国ブリティッシュコロンビア州最
高裁判所の離婚裁判の確定により本件父と離婚し,同年6月,本件児童は本
件父に連れられて日本に帰国した。
本件父は,同年12月12日,本件児童の親権者を本件父と指定する旨の
調停を東京家庭裁判所に申し立てたが,平成19年6月13日に不調となり,
審判手続に移行し,平成21年6月3日,東京家庭裁判所において,本件児
童の親権を父母から本件父に変更する旨の審判がされた。
原告は,平成22年5月,本件父等を被告として,上記審判の無効確認等
を求める訴訟を東京地方裁判所に提起している。
(以上につき,甲11∼甲13)
なお,本件児童には,平成19年12月18日付けで愛の手帳(東京都療
育手帳)が交付されている。(甲10)
2本件条例16条6号該当性について
(1)前記1(1)の本件各非開示情報部分に記載された情報が本件条例16条6
号に該当するか否かについて検討するところ,同号は,都の機関等が行う事
務又は事業に関する情報であって,開示することにより,診断,指導,相談
等に係る事務に関し,評価,判断等その事務の過程若しくは基準が明らかと
なるおそれ又は公正な判断が行えなくなるおそれその他当該事務又は事業の
性質上,当該事務又は事業の適正な遂行に支障を及ぼすおそれがある情報が
含まれている場合を非開示事由の一つとして規定している。そして,同号に
いう「当該事務又は事業の適正な遂行に支障を及ぼすおそれ」があるかどう
かは,当該事務又は事業の性質,すなわち当該事務又は事業の目的,その目
的達成のための手法等に照らして判断すべきものと解される。
(2)そこで,児童相談センターの事務又は事業をみるに,児童相談所は,児童
福祉法に基づいて,都道府県により設置され(同法12条1項),①児童
に関する家庭その他からの相談のうち,専門的な知識及び技術を必要とする
ものに応ずること,②児童及びその家庭につき,必要な調査並びに医学的,
心理学的,教育学的,社会学的及び精神保健上の判定を行うこと,③児童
及びその保護者につき,上記②の調査又は判定に基づいて必要な指導を行う
こと,④児童の一時保護を行うこと等の業務を行うものとされ(同法12
条2項,11条1項参照),これを受けて,東京都においては,東京都児童
相談所条例,東京都児童相談センター処務規程(昭和50年2月28日東京
都訓令第3号)が定められ,児童相談センター(東京都児童相談センター)
は,①児童及びその保護者に対する相談に関すること(1条1号),②児
童及びその保護者に対する調査,診断・判定及び治療・指導に関すること(同
条2号),③児童の措置に関すること(同条3号),④児童の一時保護
に関すること(同条5号),⑤重度知的障害児の認定診断に関すること(同
条6号)等の事務をつかさどるものとされている。
そして,地方公共団体においては,児童の保護者と共に,児童を心身とも
に健やかに育成する責任を負うとされること(児童福祉法2条参照)に照ら
せば,児童相談センターにおいて,上記の各事務(児童及びその保護者に対
する相談,調査,診断・判定及び治療・指導,児童の措置,一時保護,重度
知的障害児の認定診断等)を適正に遂行するためには,関係者の理解及び協
力の下,児童及びその保護者の生活状況等を適切に把握することがその前提
とされるものと解される。
(3)ア前記1のとおり,本件において,本件各児童票の本件各非開示情報部分
には,児童相談センターの担当職員等が,本件父から聞き取りにより得た
本件児童及び本件父等の状況に関する情報(児童相談センターにおける担
当職員等において相談に訪れた本件父から聴取した諸々の内容を,上記(2)
の児童相談センターの業務に照らして取捨選択し,その事務に必要と判断
した内容の情報であると推認される。)及びこれらの情報等を前提とした
担当職員等による評価,判断に関する情報(本件父から聞き取りにより得
た事情等に対する担当職員の心理学的評価や担当医師の医学的評価等)等
が相当程度具体的に記載されていることがうかがわれる。
児童相談センターにおいて,児童を心身ともに健やかに育成を果たすべ
く,前記事務又は業務を遂行するためには,児童の状況及びその成育歴等
を正確に把握し,児童及びその保護者との信頼関係を構築することが不可
欠である。そして,本件各非開示情報部分に記載された情報の内容の性質
にかんがみれば,一般的に,これらの情報の入手は児童相談センターの担
当職員等による保護者(法定代理人の1人であることもある。)その他の
関係者からの聞き取りを中心とせざるを得ないことが容易に想定できると
ころ,その情報が児童本人又はその法定代理人(の他の1人)に開示され
ることを前提とすると,関係者において,自らの話した内容が本人又はそ
の法定代理人に伝わり,特に同人らの希望しない診断や処遇が本件児童に
されるなどした場合に,同人らから反発を受けること等をおそれて真実を
語らないことにより,担当職員等がする診断,指導,相談等の前提となる
事実に偏りを生じさせ,その結果,公正な判断を行えなくなるおそれがあ
るというべきである。また,これらの情報に基づく担当職員等による評価・
判断の内容が本人,その保護者等の認識と必ずしも一致するものではない
ことからすると,その内容が開示された場合には,担当職員と本人や保護
者等との間にあつれきを生ずることもあり,児童及びその保護者等の信頼
を損なうおそれがある。そうであるとすると,本件各非開示情報部分に記
載された情報は,これを開示することが予定されると,児童相談センター
の担当職員等による適正な評価,診断等をするために必要となる情報の聴
取が困難になったり,担当職員等が適正な評価,診断等を率直に記載する
ことを控えることとなったりするおそれがある。
さらに,本件においては,本件各児童票に記載された本件児童の生活歴,
生活状況等に関する情報は,児童相談センターの担当職員等が本件父から
聞き取りにより得た本件児童及び本件父等の生活歴,生活状況等に関する
情報が中心であるところ,これらの生活歴等の中には,原告と本件児童の
親権をめぐって係争中の本件父にとって,当該争訟との関係から必ずしも
開示されることを良しとしない内容も当然に含まれているものと解される
のであって,本件父においてはこれらを開示されないことを希望するもの
と合理的に推認される。そうすると,本件父からの聞き取り等によって得
られた本件各非開示情報部分に記載された情報を開示した場合には,本件
父の信頼を害し,児童相談センターにおいて,本件児童の保護のために適
切な情報を入手することが困難になるおそれがあるというべきである。
以上によれば,本件各非開示情報部分に記載された情報を開示した場合
には,児童相談センターにおいて,情報の提供を受けるべき関係者の適切
な協力を得ることができなくなり,また,児童及びその保護者の信頼を損
ねるおそれがあるから,「診断,指導,相談等に係る事務」に関し公正な
判断が行えなくなるおそれがあり,その事務の適正な遂行に支障を及ぼす
おそれがあるといわざるを得ない。
イそして,本件処分が,本件各非開示情報部分をその他非開示情報に該当
しない記載部分と明確に区別していることは,本件各児童票(甲7)の体
裁や,本件各非開示情報部分の各内容,各性質に照らし,明らかであるか
ら,これ以上に本件条例17条1項による部分開示を問題とする余地はな
いというべきである。
ウしたがって,本件各非開示情報部分に記載された情報は,そのすべてが
本件条例16条6号の非開示情報に当たると解すべきである。
3原告の主張について
以上に対し,原告は,前記第2の4(2)のとおり主張するので,この点につい
て補足する。
(1)①について
確かに,原告が開示請求をした平成20年9月4日の時点においては,原
告は,本件父と共に,本件児童の親権者として戸籍上記載されていた(甲1
2)。
しかし,前記1(2)のとおり,原告は,本件父と平成18年3月18日に,
カナダ国ブリティッシュコロンビア州最高裁判所の離婚裁判の確定により離
婚し,同年6月,本件児童は本件父に連れられて日本に帰国したこと,本件
父は,平成18年12月12日,本件児童の親権者を本件父と指定する旨の
調停を東京家庭裁判所に申し立て,平成19年6月13日に不調となり,審
判手続に移行し,平成21年6月3日,東京家庭裁判所において,本件児童
の親権を父母から本件父に変更する旨の審判がされ,平成22年5月には原
告は上記審判の無効確認等を求める訴訟を提起していることが認められ(甲
13),本件各児童票が作成された当時(平成19年11月7日ないし平成
20年1月10日ころ)においても,開示請求をした同年9月4日の時点に
おいても,原告は本件児童の親権をめぐって本件父と係争中であったことが
認められる(甲7,13)。
そして,共同親権者とされている父(本件父)から聞き取った情報を,本
人に代わって母のした情報開示請求に対して開示すべきか否かを判断するに
当たり,親権の帰属に関する争いがあるか否かは,児童相談所の事務の適切
な遂行に及ぼす支障の有無,程度にかかわる重要な事情であって,上記事情
を無視することはできない。そして,前記の事情の下において,本件父から
聴取された本件児童の生活状況を開示することが児童相談センターの事務の
適正な遂行に支障を及ぼすおそれがあることは,前述したとおりである。
したがって,原告の上記主張は理由がない。
(2)②について
原告は他の行政機関等においては本件児童に関する情報を開示している旨
主張するが,原告のかかる主張を認めるに足りる証拠はない。その点をおく
としても,本件各非開示情報部分の内容が原告において他の行政機関等から
開示を受けたと主張する各情報と同一であると認めるに足りる事情もない。
また,教育委員会及び都立病院等において保有する情報は,それぞれの事
務又は業務を行うに当たり入手された情報であると解されるところ,例えば
本件条例16条6号該当性の検討に例えるなら,それぞれが遂行する事務又
は業務が異なる以上,これらの情報を開示した場合に懸念される事務又は業
務の適正な遂行に支障を及ぼすおそれ等も各機関や情報の内容により異なる
といわざるを得ない。そうであるとすると,他の行政機関等がその保有する
情報を開示しているからといって,処分行政庁において本件各非開示情報を
開示する義務を負うことにはならない(もとより,同号には,同条2号と異
なり明文上の除外条項(「法令の規定により又は慣行として公にされ,又は
公にされることが予定されている情報」(同号イ)の適用はないし,その点
をおくとしても,本件各非開示情報部分がこれに当たることをうかがわせる
事情等も見あたらない。)。
したがって,原告の上記主張には理由がない。
(3)③及び④について
原告の上記主張③及び④は,いずれも本件各非開示情報部分の情報の非開
示情報(本件条例16条各号参照)該当性の判断に影響するものではないか
ら,これら主張は主張自体失当である(なお,愛の手帳等の誤記載により児
童相談センターの本件児童又は原告に対する事務や活動に具体的な支障が生
じたこともうかがわれない上,児童相談センターにおいて上記誤記載の存在
が認識されている以上,当該誤記載により相談援助活動が適正に行われない
ということもできない。)。
したがって,原告の上記主張③及び④はいずれも理由がない。
4したがって,本件各非開示情報部分に記載された情報は本件条例16条6号
の非開示情報に当たるから,非開示情報部分②及び非開示情報部分④が本件条
例2号に該当するか否かを判断するまでもなく,本件各非開示情報部分を開示
しなかった本件処分に違法はない。
5結論
よって,原告の請求は理由がないからこれを棄却することとし,訴訟費用の
負担について,行政事件訴訟法7条,民訴法61条を適用して,主文のとおり
判決する。
東京地方裁判所民事第2部
裁判長裁判官川神裕
裁判官林史高
裁判官新宮智之
(別紙1)
非開示部分目録
P1(本件児童)に係る次のアないしウの行政文書の各部分
ア児童票(2)(その1)のうち,「児童及び保護者等の状況」欄の4行
目29字目から13行目末尾まで並びに同欄の14行目1字目から同行目
19字目まで,同行目27字目から同行目30字目まで及び同行目33字
目から20行目末尾まで
イ児童票(5)(心理学的所見)のうち,「所見詳細」欄の3行目から4
行目まで,5行目1文字目から同行目24文字目まで,同行目41文字目
から7行目まで及び9行目から14行目まで並びに同欄の15行目から2
0行目まで
ウ児童票(6)(医学的所見)のうち,「所見詳細」欄の2行目から15
行目まで
(別紙2)
関係規定の定め
東京都個人情報の保護に関する条例(平成2年東京都条例第113号。本件
条例)のうち,本件に関係のある規定のみを略記する。
(1)2条(定義)
アこの条例において「実施機関」とは,知事,教育委員会,選挙管理委員
会,人事委員会,監査委員,公安委員会,労働委員会,収用委員会,海区
漁業調整委員会,内水面漁場管理委員会,固定資産評価審査委員会,公営
企業管理者,警視総監及び消防総監並びに都が設立した地方独立行政法人
(地方独立行政法人法(平成15年法律第118号)第2条第1項に規定す
る地方独立行政法人をいう。以下同じ。)をいう。(1項)
イ略(2項ないし6項)
(2)12条(開示を請求できる者)
ア何人も,実施機関に対し,当該実施機関が保有する自己を本人とする保
有個人情報の開示の請求(以下「開示請求」という。)をすることができる。
(1項)
イ未成年者又は成年被後見人の法定代理人は,本人に代わって開示請求を
することができる。(2項)
(3)16条(保有個人情報の開示義務)
実施機関は,開示請求があったときは,開示請求に係る保有個人情報に次
の各号のいずれかに該当する情報(以下「非開示情報」という。)が含まれて
いる場合を除き,開示請求者に対し,当該保有個人情報を開示しなければな
らない。
ア略(1号)
イ開示請求者以外の個人に関する情報(事業を営む個人の当該事業に関す
る情報を除く。)であって,当該情報に含まれる氏名,生年月日その他の記
述等により開示請求者以外の特定の個人を識別することができるもの(他
の情報と照合することにより,開示請求者以外の特定の個人を識別するこ
とができることとなるものを含む。)又は開示請求者以外の特定の個人を識
別することはできないが,開示することにより,なお開示請求者以外の個
人の権利利益を害するおそれがあるもの。ただし,次に掲げる情報を除く。
(2号)
(ア)法令等の規定により又は慣行として開示請求者が知ることができ,
又は知ることが予定されている情報(イ)
(イ)人の生命,健康,生活又は財産を保護するため,開示することが必
要であると認められる情報(ロ)
(ウ)当該個人が公務員等(国家公務員法(昭和22年法律第120号)第
2条第1項に規定する国家公務員(独立行政法人通則法(平成11年法律
第103号)第2条第2項に規定する特定独立行政法人の役員及び職員
を除く。),独立行政法人等の役員及び職員,地方公務員法(昭和25年
法律第261号)第2条に規定する地方公務員並びに地方独立行政法人
の役員及び職員をいう。)である場合において,当該情報がその職務の遂
行に係る情報であるときは,当該情報のうち,当該公務員等の職及び当
該職務遂行の内容に係る部分(ハ)
ウ略(3号ないし5号)
エ都の機関又は国,独立行政法人等,他の地方公共団体若しくは地方独立
行政法人が行う事務又は事業に関する情報であって,開示することにより,
次に掲げるおそれその他当該事務又は事業の性質上,当該事務又は事業の
適正な遂行に支障を及ぼすおそれがあるもの(6号)
(ア)試験,選考,診断,指導,相談等に係る事務に関し,評価,判断等
その事務の過程若しくは基準が明らかとなるおそれ又は公正な判断が行
えなくなるおそれ(イ)
(イ)略(ロないしト)
オ略(7号及8号)
(4)17条(一部開示)
ア実施機関は,開示請求に係る保有個人情報に非開示情報が含まれている
場合において,非開示情報に該当する部分を容易に区分して除くことがで
きるときは,開示請求者に対し,当該部分を除いた部分につき開示しなけ
ればならない。(1項)
イ開示請求に係る保有個人情報に前条第2号の情報(開示請求者以外の特
定の個人を識別することができるものに限る。)が含まれている場合におい
て,当該情報のうち,氏名,生年月日その他の開示請求者以外の特定の個
人を識別することができることとなる記述等の部分を除くことにより,開
示しても,開示請求者以外の個人の権利利益が害されるおそれがないと認
められるときは,当該部分を除いた部分は,同号の情報に含まれないもの
とみなして,前項の規定を適用する。(2項)
以上

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