弁護士法人ITJ法律事務所

裁判例


戻る

          主     文
     1 本件控訴を棄却する。
     2 控訴費用は控訴人の負担とする。
          事実及び理由
第1 当事者の求めた裁判
 1 控訴人
(1) 原判決を取り消す。
(2) 被控訴人の請求を棄却する。
(3) 訴訟費用は,第1,2審を通じて,被控訴人の負担とする。
 2 被控訴人
   主文と同旨
第2 事実関係
 本件は,被控訴人の父であるAが,昭和63年2月6日,控訴人経営の鈴鹿の
森カントリークラブ(以下「本件クラブ」という。)の入会保証金として,控訴人に
対し1800万円(以下「本件入会保証金」という。)を預託し,平成2年5月12日
に本件クラブが開業したことによりその会員資格を取得したが,平成7年3月1
4日に死亡したので,被控訴人が相続し,所定の手続を経て,同年7月24日に
本件クラブの会員資格を取得したものの,その後,平成12年9月28日到達の
書面により本件クラブ退会の意思表示をし,A入会時の約定により,本件入会
保証金返還請求権の据置期間は,Aの会員資格取得日(本件クラブ開業日)を
起算日とする10年間であると主張して,本件入会保証金1800万円の返還を
求めたのに対し,控訴人は,①本件クラブの臨時理事会(平成12年1月16日
開催)が,入会保証金の据置期間を10年間延長する決議をしており,同決議
はA入会時の約定に基づいて被控訴人を拘束する旨,②仮にそうでないとして
も,被控訴人が本件クラブの会員資格を取得したのは平成7年7月24日である
から,本件入会保証金返還請求権の据置期間は同日を起算日とする旨主張し
て,本件入会保証金の返還期限は到来していないとして争った事案である。
1 争いのない事実並びに証拠(甲1,乙1,2,乙7,乙9ないし14,乙24)及び
弁論の全趣旨により容易に認められる事実
(1) 控訴人は,本件クラブを経営,管理する会社である。
(2) A(被控訴人の父)は,昭和63年2月6日,控訴人に対し本件入会保証金
(1800万円)を預託して,本件クラブに入会する契約(当時の本件クラブの
会則(以下「旧会則」という。)の内容が同契約内容の一部を構成している。)
を締結し,平成2年5月12日,本件クラブが開業したことにより,本件クラブ
の会員資格を取得した。
(3) 旧会則の第8条には,次のとおりの定めがあった。
第8条(保証金の返還)
 第5条の規定により会社に払い込んで会員になった者が会員資格を喪
失したときには会社は返還するものとする。
 ただし,入会後10年以内の退会,法人会員でその法人の消滅,に該当
する場合には払い込みの日の翌日を起算日として10年が経過したあと会
社の規定により返還する(ただし,旧会則28条等により,本件クラブ開業
の前に払込みがあった場合は,同開業の日(会員資格取得の日)を起算
日とすると解される。以下,第8条ただし書の定めを「本件据置条項」とい
う。)。
 なお,天災地変その他の不可抗力の事態が発生した場合及び理事会の
決議により据置期間を延長することができる(以下「本件延長条項」とい
う。)。
 また,入会保証金を返還する場合において,当該会員が会社に対して債
務を負担している場合には会社はその債務の全額を控除した残額を返還
するものとする。(後略)
(4) Aは平成7年3月14日に死亡し,被控訴人はAを相続した。
(5) 被控訴人は,上記相続及び下記の旧会則10条により,平成7年7月24
日,同条の定める名義書換料を払い込んだことにより,本件クラブの会員資
格を取得した。
第10条(会員資格の承継)
① 会員は会社が別に定める会員資格の譲渡に関する規定に基づいて理
事会の承認を得てその会員資格を他に譲渡することができる。(後略)
② 会員(法人会員を除く)の資格に相続が開始した場合には会社が別に
定める会員資格の相続手続規定に従って相続人はその名義の変更手
続をしなければならない。
 ただし,理事会が相続人に名義を変更することが適当ではないと認め
る場合には相続人は第8条の規定にかかわらず入会保証金の返還を
受けることが出来る。
③ 前2項により新たに会員資格を取得する者は会社所定の名義書換登
録料を払い込んだあと会員資格を取得するものとする。(後略)
④ 第①,②項によって会員資格を取得した者は前会員の会社に対する
権利義務の一切を承継するものとする。
(6) 平成12年1月16日に開催された本件クラブの臨時理事会は,本件据置
条項の定める据置期間を10年間延長する旨決議(以下「本件据置期間延長
決議」という。)をし,旧会則8条を次のとおり改正した(ただし,第3,4項は記
載を省略した。)。
第8条(保証金の返還)
 会員が会員資格を喪失したときは,会社は,次の規定により入会保証金
を返還するものとする。
1.平成2年5月12日の当ゴルフ場の開業日以前に払い込みのあった入
会保証金の返還については,平成2年5月13日を起算日として20年が
経過したあと返還する。
2.平成2年5月12日の当ゴルフ場の開業日以降に会員資格を取得した
者の入会保証金の返還については,入会保証金の払い込みがあった
日の翌日を起算日として20年が経過したあと返還する。
 ただし,会員資格の譲渡を受け,理事会の承認を得て,新たに会員資
格を取得した者に対する入会保証金の返還については,その会員資格
取得日の翌日を起算日として20年が経過したあと返還する。
(7) 被控訴人は,平成12年9月28日到達の内容証明郵便により,控訴人に
対し,本件クラブを退会する旨意思表示をし,併せて本件入会保証金の返還
を請求した。
 2 争点
(1) 本件延長条項の「天災地変その他の不可抗力の事態が発生した場合及び
理事会の決議により据置期間を延長することができる。」という文言は,①
「天災地変その他の不可抗力の事態が発生した場合」又は「理事会の決議」
がある場合に,入会保証金返還請求権の据置期間を延長することができる
という意味か(控訴人主張),それとも,②「天災地変その他の不可抗力の事
態が発生した場合」には「理事会の決議」によって入会保証金返還請求権の
据置期間を延長することができるという意味か(被控訴人主張)。
   ア 控訴人の主張
 本件延長条項を上記①のように解釈すべきことは,同条項が「天災地変
その他の不可抗力の事態が発生した場合『には』理事会の決議により据
置期間を延長することができる。」と規定されていないことから明らかであ
る。「天災地変その他の不可抗力の事態が発生した場合」と「理事会の決
議」との間に置かれている「及び」は,両者が並列して扱われていることを
示すものである。
 しかし,もちろん控訴人も,「理事会の決議」があれば,無制約に入会保
証金返還請求権の据置期間を延長し得ると主張しているわけではなく,文
理上は制約のない「理事会の決議」による上記延長を認めている本件延
長条項を,旧会則2条の趣旨達成を目的として限定的に解釈し,本件ゴル
フ場の維持,存続が困難となる場合(「天災地変その他の不可抗力の事情
が発生した場合」は,その例示として本件延長条項に掲げられていると解
すべきである。),例えば,本件据置期間延長決議の場合のように多数の
会員から入会保証金の返還請求がされることが予想される場合には,理
事会の決議による据置期間延長が許されると解すべきである。したがっ
て,本件据置期間延長決議は有効である。
   イ 被控訴人の反論
 本件延長条項を前記②のように解すべきことは,「天災地変その他の不
可抗力の事態が発生した場合」でも,常に入会保証金返還請求権の据置
期間を延長する必要があるとは限らないのであるから,その必要性を判断
する者が必要であり,「及び理事会の決議により」という文言は,そのこと
を表現したにすぎない。
(2) 被控訴人の入会保証金返還請求権の据置期間の起算日は,Aが本件クラ
ブの会員資格を取得した日(平成2年5月12日)であるか,被控訴人自身が
同会員資格を取得した日(平成7年7月24日)であるか。
第3 争点に対する判断
 1 争点(1)について
(1) 本件延長条項の「天災地変その他の不可抗力の事態が発生した場合及び
理事会の決議により据置期間を延長することができる。」という文言は,文理
上,「天災地変その他の不可抗力の事態が発生した事実」と「理事会の決
議」により据置期間を延長することができるとの趣旨であると解することがで
きる。
 また,入会保証金返還請求権は,ゴルフ会員権を構成する会員の諸権利
義務のうち,最も重要な権利の一つであるから,同請求権の行使に対する重
大な制約である据置期間延長が,無制約に「理事会の決議」に委ねられると
は考えられず,そうである以上,「理事会の決議」に対する制約,言い換えれ
ば,どのような場合に理事会の決議により据置期間を延長することができる
かという要件は,問題の重大さからしても,他の条項においてでなく,本件延
長条項内において,少なくとも旧会則8条内において明文化され,据置期間
延長の可否の判断の指針とされるべきところ,本件延長条項の「天災地変そ
の他の不可抗力の事態が発生した場合」がその定めであると解すべきであ
る。
 したがって,本件延長条項については,前段の「天災地変その他の不可抗
力の事態が発生した場合」が据置期間延長の実体的要件を定め,後段の
「理事会の決議により」が手続的要件を定めたものであり,両者相まって「天
災地変その他の不可抗力の事態が発生した場合」には「理事会の決議」によ
って入会保証金返還の据置期間を延長することができる旨を定めたものと解
するのが相当である。
(2) ところで,控訴人は,本件延長条項の「天災地変その他の不可抗力の事態
が発生した場合及び理事会の決議により据置期間を延長することができ
る。」との定めは,「天災地変その他の不可抗力の事態が発生した場合」又
は「理事会の決議」があった場合には,入会保証金返還請求権の据置期間
を延長することができると解釈すべきである旨主張するが,下記ア,イのとお
り,同解釈は認め難い。
ア 控訴人は,上記解釈の根拠として,本件延長条項が「天災地変その他の
不可抗力の事態が発生した場合」と「理事会の決議により」とを「には」では
なく「及び」で結んでいることを挙げ,文理上,両者は並列の関係にあるこ
とが明らかである旨主張する。
 しかし,文理上は,上記(1)のように解釈することができるから,上記両者
が「及び」で結ばれているからといって,直ちに並列関係にあるとはいえな
い。
 また,控訴人主張のように「天災地変その他の不可抗力の事態が発生し
た場合」と「理事会の決議」が並列の関係にあるとすると,「天災地変その
他の不可抗力の事態が発生した場合」には,「理事会の決議」なくして据置
期間を延長することができることになる。しかし,本件延長条項には「据置
期間を延長する」ではなく「据置期間を延長することができる」と規定されて
いることからすると,「天災地変その他の不可抗力の事態が発生した場
合」でも,据置期間を延長するか否かの決定は必要であり,その決定権者
が必要であるにもかかわらず,控訴人の上記解釈によれば,「天災地変そ
の他の不可抗力の事態が発生した場合」については,本件延長条項上,
決定権者が定められていないことになるが,このような重大な事態につい
て,本件延長条項が決定権者を定めていないとは考え難いから,「天災地
変その他の不可抗力の事態が発生した場合」と「理事会の決議」は,控訴
人が主張するように並列の関係にあるのではなく,前記(1)のとおり,実体
的要件と手続的要件の関係にあると解すべきである。
イ また,控訴人は,「理事会の決議」も無制約ではなく,限定的に解釈され
るべきであり,旧会則2条の趣旨に照らして,本件ゴルフ場の維持,存続
のため必要な場合,例えば,本件据置期間延長決議の場合のように,多
数の会員から入会保証金の返還請求がされることが予想される場合等に
限って認められるものであると主張する。
 しかし,旧会則2条は,その内容や「第1章 総則」に規定されていること
から明らかなとおり,本件クラブの目的を定める一般的規定にすぎず,本
件延長条項の「理事会の決議」を上記控訴人主張のように制約する実体
的要件を定める規定でないことは明白である。そうすると,控訴人主張の
ように「理事会の決議」が「天災地変その他の不可抗力の事態が発生した
場合」と並立する別個独立の据置期間延長事由であるとすると,「理事会
の決議」を制約する実体的要件を定める規定はないといわざるを得ないと
ころ,入会保証金返還請求権が会員の重要な権利であることに照らして
も,旧会則が無制約に「理事会の決議」による同請求権行使の据置期間
延長を認めたとは考えられないから,控訴人主張の解釈の矛盾は明らか
であり,同解釈を採用することはできない。
(3) したがって,本件延長条項は「天災地変その他の不可抗力の事態が発生
した場合」には「理事会の決議」によって入会保証金返還の据置期間を延長
することができる旨を定めたものと解釈すべきであるとの前記(1)の判断は左
右されず,他にこれを左右するに足りる証拠はない。
 よって,被控訴人に対し本件据置期間延長決議の効力は及ばないから,本
件入会保証金1800万円の返還請求権の据置期間は,本件据置条項の定
めるとおり10年間である。
 2 争点(2)について
(1) 旧会則(乙2)では,死亡した会員は,当然に会員資格を喪失するが(15
条),死亡した会員の相続人は,会員資格を承継するか否かの選択権がな
く,会員資格を承継することを当然の前提として,名義変更手続をすることが
義務付けられている(10条②項本文)。
 他方,理事会は,相続人に対する名義変更を拒否することができ,同拒否
があった場合,相続人は,被相続人が控訴人に預託した入会保証金の返還
を受けることができ,この場合,本件据置条項は適用されない(10条②項た
だし書)。
 旧会則10条②項によって会員資格を取得した相続人は,被相続人の控訴
人に対する権利義務の一切を承継する(10条④項)。
(2) 旧会則における上記の各定め,特に相続人には被相続人の会員資格を承
継するか否かの選択権がないこと,会員資格を取得した相続人は被相続人
の控訴人に対する権利義務の一切を承継することにかんがみれば,被相続
人が控訴人に預託した入会保証金は,観念的に控訴人から相続人にいった
ん返還された後,相続人から控訴人に再び預託されたということはできず,
被相続人が預託した後,そのままの状態で控訴人によって拘束されていると
いうべきであるから,本件据置条項の解釈においては,据置期間の起算日
は被相続人が会員資格を取得した日であると解すべきである。
3 よって,本件入会保証金1800万円の返還請求権については,本件据置条項
に基づく10年間の据置期間の起算日は,Aが会員資格を取得した平成2年5
月12日(本件クラブ開業の日)の翌日となるので,その10年後である平成12
年5月12日の経過をもって,本件入会保証金の返還期限が到来した。
 なお,被控訴人は,控訴人に対し,同返済期限後である同年9月28日に本件
クラブを退会する意思表示をし,併せて本件入会保証金の返還を求めたので,
本件入会保証金の返還債務につき,同日の後である同年10月19日から支払
済みまで商事法定利率年6分の割合による遅延損害金が発生することは明ら
かである。
4 以上のとおりであるから,控訴人の請求を認容した原判決は相当であり,本件
控訴は理由がないから,これを棄却することとし,控訴費用の負担について,民
事訴訟法67条,61条を適用して,主文のとおり判決する。
    名古屋高等裁判所民事第2部
         裁判長裁判官   大内捷司
            裁判官   加 藤 美 枝 子
     裁判官長門栄吉は転補のため署名押印することができない。
         裁判長裁判官   大内捷司

戻る



採用情報


弁護士 求人 採用
弁護士募集(経験者 司法修習生)
激動の時代に
今後の弁護士業界はどうなっていくのでしょうか。 もはや、東京では弁護士が過剰であり、すでに仕事がない弁護士が多数います。
ベテランで優秀な弁護士も、営業が苦手な先生は食べていけない、そういう時代が既に到来しています。
「コツコツ真面目に仕事をすれば、お客が来る。」といった考え方は残念ながら通用しません。
仕事がない弁護士は無力です。
弁護士は仕事がなければ経験もできず、能力も発揮できないからです。
ではどうしたらよいのでしょうか。
答えは、弁護士業もサービス業であるという原点に立ち返ることです。
我々は、クライアントの信頼に応えることが最重要と考え、そのために努力していきたいと思います。 弁護士数の増加、市民のニーズの多様化に応えるべく、従来の法律事務所と違ったアプローチを模索しております。
今まで培ったノウハウを共有し、さらなる発展をともに目指したいと思います。
興味がおありの弁護士の方、司法修習生の方、お気軽にご連絡下さい。 事務所を見学頂き、ゆっくりお話ししましょう。

応募資格
司法修習生
すでに経験を有する弁護士
なお、地方での勤務を希望する先生も歓迎します。
また、勤務弁護士ではなく、経費共同も可能です。

学歴、年齢、性別、成績等で評価はしません。
従いまして、司法試験での成績、司法研修所での成績等の書類は不要です。

詳細は、面談の上、決定させてください。

独立支援
独立を考えている弁護士を支援します。
条件は以下のとおりです。
お気軽にお問い合わせ下さい。
◎1年目の経費無料(場所代、コピー代、ファックス代等)
◎秘書等の支援可能
◎事務所の名称は自由に選択可能
◎業務に関する質問等可能
◎事務所事件の共同受任可

応募方法
メールまたはお電話でご連絡ください。
残り応募人数(2019年5月1日現在)
採用は2名
独立支援は3名

連絡先
〒108-0023 東京都港区芝浦4-16-23アクアシティ芝浦9階
ITJ法律事務所 採用担当宛
email:[email protected]

71期修習生 72期修習生 求人
修習生の事務所訪問歓迎しております。

ITJではアルバイトを募集しております。
職種 事務職
時給 当社規定による
勤務地 〒108-0023 東京都港区芝浦4-16-23アクアシティ芝浦9階
その他 明るく楽しい職場です。
シフトは週40時間以上
ロースクール生歓迎
経験不問です。

応募方法
写真付きの履歴書を以下の住所までお送り下さい。
履歴書の返送はいたしませんのであしからずご了承下さい。
〒108-0023 東京都港区芝浦4-16-23アクアシティ芝浦9階
ITJ法律事務所
[email protected]
採用担当宛