弁護士法人ITJ法律事務所

裁判例


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         主    文
     原判決を破棄する。
     被告人全員を各罰金五、〇〇〇円に処する。
     被告人A1同A2において右罰金を完納することができないときは、金
五〇〇円を一日に換算した期間当該被告人を労役場に留置する。
     被告人全員に対する商品取引所法第九二条違反、被告人A1同A2に対
する業務上横領の点は無罪。
     訴訟費用中、原審における証人B1同B2に支給した分は被告人全員の
負担とする。
         理    由
弁護人広沢道彦の控訴の趣意は記録編綴の控訴趣意書記載のとおりであるから、こ
こにこれを引用する。
 これに対する当裁判所の判断は次のとおりである。
 第一、 商品取引所法第九一条第一項違反の点に対する法令適用の誤りないしは
事実誤認の主張について
 所論は要するに「原判示事実の取引委託がなされた当時、商品仲買人は営業所を
新設するに当り、登録前試験的に同所で営業し得る慣習が存し、法はこれを容認し
ていたものであるところ、被告人A3株式会社(以下被告会社という。)のA4営
業所設置についても、昭和三五年七月二五日登録変更届が農林大臣宛提出されてい
たものである。原判決が、商品取引所法第九一条第一項違反として有罪としたの
は、同法条の解釈適用を誤つたか事実を誤認したものであり、破棄を免れない。」
というのである。
 原判決挙示の証拠により、原判示第二事実はこれを肯認することができる。
 商品取引所法第九一条第一項前段は、同法所定の登録がしてある営業所又は事務
所以外の場所で、商品市場における売買取引の委託を受けることを禁じている。将
来登録を受けるつもりの場所であるからといつて、現にこれを受けていない限り、
同所で売買取引の委託を受けることは許されない(官庁が営業所の登録申請書に添
付書類として建物賃貸借契約書、営業所の所在についての書類、事務所の構造図面
を要求するからといつて、それが試験的営業を許す趣旨であるとはいえないし、試
験的な営業を認める慣習があつたといえないことは、原審裁判所のB3に対する証
人尋問調書によつて明らかなところである。法がこれを許すと考えていた旨の被告
人らの供述は単なる弁解と思われる。弁護人の主張に、法の不知による犯意欠缺の
主張が含まれているとしても採ることができない。)。原判決にはこの点に法令解
釈適用の誤りもなく、事実の誤認もない。論旨は理由がない。
 第二、 商品取引所法第九二条違反の点に対する法令適用の誤りの主張について
 所論は要するに「被告会社など商品仲買人が商品市場における売買取引を受託す
るに当り、委託者から担保として委託証拠金に充用する有価証券(以下充用証券と
いう。)の預託を受け得るのは、商品取引所に定める受託契約準則、本件ではC8
所の受託契約準則第一九条に根拠をおくものであつて、商品取引所法そのものには
この点についての規定は存しないのである。したがつて、同法第九二条にいう
「物」の中には充用証券は含まれないというべく、原判示第一のような事実が存在
したとしても、被告人らにつき同法条違反の罪は成立しない。原判決が右の点を有
罪としたのは同法条の解釈適用を誤つたものである。」というのである。
 商品取引所法第九二条は「商品仲買人は、委託者から預託を受けて、又はその者
の計算において自己が占有する物をその者の書面による同意を得ないで、委託の趣
旨に反して、担保に供し、貸し付け、その他処分してはならない。」と規定する。
そこで右の「物」の中に充用証券が含まれるかどうかが問題となる。同法は第九章
「商品市場における売買取引の受託」の末尾にある第九七条において、委託証拠金
の点を規定するが、有価証券を以てこれに充用し得ることは何等規定しないところ
である。第九二条の「物」の中に充用証券を含ましめる趣旨であるなら、法文の上
に充用証券の点も規定し(商品仲買人が取引所に預託する売買証拠金の充用証券に
ついては第七九条第二項の規定が存するところである)、且つ、第九二条がその規
定を受けていると見られる如き体裁にすべきが相当であるのに、前記の如く第九二
条の規定の後であり、第九章の末尾に僅かに委託証拠金についてのみ規定するに止
どめていることや、そもそも、商品仲買人が売り委託のため預つた商品、買注文の
結果委託者に引渡すべき商品などと、後記の如く権利質が設定せられたものとみら
れる充用証券とは、同じく商品仲買人が占有する物といつても預託の性質に大きな
差異があることなどからいつて、第九二条の「物」の中には充用証券は含まれない
と解するのが相当である(最高裁昭和四一年七月一三日大法廷判決参照)。
 そうすると、かりに原判示第一事実が存在したとしても、被告人らの所為が商品
取引所法第九二条に違反したとして、同法第一五五条第六号によつて罰せられるこ
とはないというべく、原判決はこの点で法令の解釈適用を誤つて被告人全員を有罪
としたものであり、破棄を免れない。論旨は理由がある。
 第三、 業務上横領の点に対する法令適用の誤りないしは事実誤認の主張につい

 所論は要するに「委託者が商品仲買人に充用証券を預託する行為の民事法的性質
は、白地式譲渡証が添付されているときは消費寄託と見る余地もあるのであり、被
告会社が原判示第一事実の如く充用証券を処分しても横領罪を構成しない。そうで
なくても権利質の設定と解されるのであるから、被告会社には転質をなす権利があ
り、本件はこれをなしたに止どまるので横領罪を構成しない。又、商品取引所と仲
買人との間では、毎日後場締切後決済がなされ、仲買人は差金勘定、定率会費、取
引税を支払わなければならず、これは現金で決済されるので、仲買人は顧客から預
託された充用証券をC1代行株式会社(以下代行会社という。)に担保に入れて借
金をなし、これによつて清算せざるを得ない事情にあり、かようにしているのが取
引一般の実情であつて、委託者においても充用証券をかように利用することは承知
しているところであり、委託の趣旨に反したといえない。なお、被告人A2(被告
人A1は行為に全く干与しない。)においては、右の如く転質権があると信じてい
たものであるから、すくなくとも、不法領得の意思がないというべきである。即
ち、原判示第一の如き客観的事実が存しても、法律的にも事実的にも委託の趣旨に
反した処分といえず、又、そうでなくとも被告人らには犯意がないのであるから横
領罪を構成しない。」というのである。
 本件においては、被告会社が充用証券を原判示代行会社に担保に差入れたとして
被告人A1、同A2らは横領罪に問われているのであるから、罪の成否を論ずるに
は、代行会社に差入れた行為の性質が何であるか、被告会社においては右差入れの
権限を有したかが問題となるわけである。
 先ず、原判決別表第一にかかげる委託者が、充用証券を商品仲買人たる被告会社
に差入れた行為の民事法的性質から考える。前記の如く、商品取引所法には充用証
券について何等規定するところがない。しかし、同法第九六条は第一項において、
商品仲買人は商品市場における売買取引の受託については、その所属する取引所の
定める受託契約準則によらなければならないとし、第二項において、取引所は受託
契約準則において、売買取引の委託の条件などについて定めなければならないと規
定するところであり、本件C8所においても受託契約準則が定められていること
は、弁第八号その他の証拠によつて明らかなところである、右の次第であるから、
C8所受託契約準則は、同取引所に所属する仲買人が売買取引を受託する際の附従
契約約款というべきものであり、かりに委託者において受託契約準則の細目につき
目を通さないことがあつたにしろ、これにしたがう意思がある限り、その内容が当
事者双方を拘束するので、これによつて充用証券差入れの性質を看ることができ
る。そこで当事者が受託契約準則にしたがう意思を有していたかどうかを考えるに
(附従契約約款につき民事上いわれている了知推定論は、刑事上そのまま採用する
ことはできない。)、受託契約準則を裏面に記載し、これにしたがつて取引をなす
旨を記載した契約書用紙が証拠(弁第八号)として提出されているけれども、被告
人A2(被告会社常務取締役であり、営業全般を担当していた。)は当審公判廷に
おいて、本件取引当時は、受託に当りこれを使用していなかつたということである
から、委託者が右弁第八号により受託契約準則にしたがう意思を明らかにしていた
とはいえない。しかしながら、被告人A2の右供述、原審裁判所のB4(被告会社
事務員として充用証券に関する実務を担当していた。)に対する証人尋問(第一
回)調書によると「充用証券を受入れるに際しては、何時も預り証を出していた。
その預り証は証第一号の『証』と題する書面と同じ形式であつた(弁護人が当審に
おいて提出した「証」と題する書面も同じもの)。」ということであり、原判決別
表第一記載の委託者で、警察官に対する供述調書や原審裁判所の証人尋問調書の存
する後記の人々のうち、ある者は預り証を貰つたと述べ、他の者は預り証のことに
触れていないが、委託者が充用証券を手渡してその預り証もとらないとは考えられ
ぬので、右別表記載の委託者全員に対し被告会社から預り証の交付があつたと認定
してよい。そして右「証」という書面用紙裏面には、受託契約準則抜萃として一〇
項目の記載があり、それは弁第八号記載の受託契約準則に照してみると、その第一
条、第四条第三項、第六条、第九条本文、第一〇条、第一四条第一項、第一四条第
二項、第一七条第三項、第二三条など(他の一項目は第二〇条類似の規定)に相当
する。右の如く受託契約準則のすべてが記載されていないけれども、表面には「商
品取引所法受託契約準則により清算済の上は無効と致します。」との記載があつ
て、受託契約準則にしたがう趣旨も現れているし、前記の如く受託契約準則は商品
取引所法に根拠をおくものでもあるから、預り証にその全文の記載はないけれど
も、当事者はその全体にしたがう意思であつたとみるのが相当である。よつて、右
受託契約準則により本件充用証券差入行為の法的性質を検討することが許される。
 充用証券差入行為の民事法的性質については、消費寄託説、譲渡担保説、権利質
説が考えられる。 <要旨第一>受託契約準則第一九条第一項前段(弁第八号の契約
書用紙裏面記載の受託契約準則による。)に「委託者の預託する委託証
拠金は市場性のある有価証券を以て充用することができる。」との規定があつて、
充用証券の根拠規定となつている。そして第三項に「前条(前項のミスプリントか
と考えられる。)の有価証券は委託者がその債務を履行しないときに、これを現金
に換えることができる手続きを完了したものでなければならない。」との規定があ
る。又第一四条は第一項において「委託証拠金その他の金銭及び物件は、その預託
の前後にかかわらず、すべて委託によつて生ずる委託者の債務に対し共通の担保と
なる。」とするとともに、第二項において「商品仲買人は前項の預託金銭又は物件
を委託者から債務の弁済を受けるときまで留保し、若し預託者が債務を弁済しない
ときはその金銭及び物件を以つてその弁済に充当し、なお不足するときは、委託者
からその不足額を追徴する。」と規定する。第一四条の「物件」は委託証拠金を前
提としているので、充用証券を含むと考えられるところ、無条件な処分を許してい
ないのであるから、消費寄託説は採用できない。預託する充用証券はこれを現金に
換えることができる手続きの完了していることを要求している点から、譲渡担保で
あると考える余地はあるが、名義書換までは要求していないところであるし、担保
物の占有を設定者に留めるという譲渡担保が通常採る形態とは異なるし、譲渡担保
であると考える場合、委託者の権利を必要以上に害する虞がないでもないし、原審
の証人B3、当審の証人B5、被告人両名及び被告会社代表者ら業界関係者の証言
や供述中には、右差入れは質権の設定であると考えていたふしがみられる点からい
つても、充用証券差入れは権利質の設定と解するのが相当である。そうして、継続
的委託取引から生ずる債務をすべて担保するのであるから、根質権の設定というこ
とができる。(なお、有価証券の信用取引における保証金代用証券の預託について
は、それが根質権の設定である旨の最高裁昭和四一年九月六日第三小法廷決定があ
る。)
 商品仲買人の充用証券の受入れが権利質の設定であるとすると、転質権の存否が
問題となる。当事者が特約でこれを禁じておればもとより転質権は存しないし、委
託者が特にこれを承諾しておればいわゆる承諾転質権が発生し、又この点につき当
事者に格別の合意がなければ民法第三四八条により一定の制限内で転質権が発生す
る。
 この点についても、先ず受託契約準則を検討することが必要である。受託契約準
則第一一条は「商品仲買人は委託者から預託を受け、又はその者の計算において自
己が占有する物件を、書面による委託者の同意を得ないで、委託の趣旨に反して、
担保に供し、貸付け、その他処分してはならない。」と規定する。もし右の「物
件」の中に充用証券が含まれるとすると、仲買人が勝手に転質することは許されな
いこととなる。しかし、右第一一条は商品取引所法第九二条と同文である(「物」
が「物件」となつているだけである。)ことからいつて、商品取引所法第九二条を
再言したものだといわざるを得ず、そうすると、商品取引所法第九二条の「物」に
は充用証券が含まれないこと前記説示のとおりであるから、受託契約準則第一一条
の「物件」の中にも充用証券は含まれないというべきである。右第一一条が委託証
拠金や充用証券についての条文の前に置かれているという規定の体裁からいつて
も、右の如く解するのが相当である。次に受託契約準則第一四条第二項は前記の如
く、商品仲買人は預託された物件などを債務の弁済を受けるときまで留保し、弁済
がないときはこれらを以て弁済に充当し、なお不足するときは、委託者からその不
足額を追徴する、と規定する。右「物件」の中には充用証券を含むこと前記のとお
りであるが、「債務の弁済を受けるときまで留保し」とは転質などしない趣旨では
ないかとの疑いもないではない。しかし民法第三四八条は転質権を認め、転質ので
きるのが原則なのであるから、この原則を排除する意図であるなら、その趣旨を一
層明確にすべきであつたというべきであり、右は債務の弁済を受けるまでは売却処
分などはしない趣旨であると解するのが相当である。即ち、転質禁止の趣旨は受託
契約準則に現われていない。他方、委託者が転質を承諾するものとみられる規定も
存しない。
 次に、委託の際、口頭などにより右の点につき何等かの特約がなされたか否かを
検討する。前記預り証には転質の点について何等触れるところがない。被告会社代
表者C2は検察官に対する供述調書において「充用証券を転質することにつき、係
員は委託者から書面をとつていないが、口頭による同意はとつていたと思う。」と
供述し、営業を担当としていた被告人A2は原審及び当審公判廷において「本件各
取引に当つては、充用証券の転質につき同意の書面はとつていないが、委託者に種
々説明し、口頭による同意はとつている。代行会社への転質は同意なくしてできる
と考えていたが、念のため同意はとつていた。」と供述する。他方、充用証券に関
する実務を担当するB4は警察官に対する供述調書、原審裁判所の証人尋問調書に
おいても「原判決別表第一に記載された人々については右の点の同意書をとつてい
ないが、他には一部同意書をとつたものもある。」というのみで、事実上同意をと
つたといわないところである。又、本件記録中のC3、C4、C5、B6、B7、
B8(原判決別表第一47C6の関係)、B9、B10、B11、B12、B1
3、B14、B15、B16、B17、B18、B19、B20、B21、B2
2、B23、B24、B25、B26、B27、B28(同表29C7の関係)、
B29、B30、B31の警察官に対する供述調書、原審裁判所のB32、B6、
B7、B8、B9、B10、B33、B34、B11、B12、B13、B14、
B15、B16、B17、B18、B19、B20、B21、B22、B23、B
24、B25、B26、B27、B28、B31、B35ことB35B29、B3
0に対する証人尋問調書をみるに、原判決別表第一に記載されているこれらの人々
は「転質についての同意書を作成していないし、他の担保に供することを承諾して
いない。」「被告会社が転質しているなら騙されたことになる。」といい、又、
「同意書を作成しないのみならず、この点相談をうけたこともない。」と供述する
ところである。なるほど、弁護人に尋問され「決済の時に充用証券を返して貰えば
それてよい。」と答える部分もあるが、委託の際口頭で転質に同意した趣旨とは受
けとれない。実務担当係員や委託者のかような供述にかんがみると(被告人A2も
一方では原審公判廷で「委託者が充用証券を差入れ、委すというのは、他の担保に
供することの同意と考えていた。」と供述するところでもある。)、被告人A2及
び被告会社代表者C2の「話合つた上で転質の同意を得た。」との言は措信でき
ず、むしろ、この点については当事者間に何等具体的な話合いはなかつたものと認
め得る。換言すれば、民法上の責任転質を超えて転質をなし得る承諾転質の話合い
もないし、一方では転質禁止の特約もなかつたということができる。
 民法第三四八条は質権者に転質を許すところである。しかし、それは質権者が把
握した担保価値の利用であるから、その存続期間においても、被担保債権額におい
ても、原質権のそれを超過することができない。これを超過した転質権を設定し、
原質権設定者に不利な結果を及ぼす場合(民事法上超過部分は無効であつても、か
ような結果を生じ得る。)には横領罪を構成し得る(大正一四年七月一四日大審院
聯合部判決参照)。形式的には原質権の範囲内の転質であつても、転質に名をかり
て質物を処分したときも横領罪を構成する。転質に供するのでなく、質物であるこ
とを秘して新たな質権を設定したとき横領罪を構成することはいうまでもない。
 よつて進んで、被告会社が原判決別表第一記載の委託者から預つた同表記載の充
用証券をどのように処分したかについて検討する。
 被告会社が右別表記載の充用証券を預つたこと、そのすべてを原判示代行会社に
原判示の如く差入れたことは原判決挙示の証拠により明らかなところである。
 被告人A1、同A2、被告会社代表者C2の各警察官、検察官に対する述調書、
原審公判廷における供述、岩村文雄の警察官に対する供述調書、原審裁判所の同人
に対する証人尋問調書、前記原判決別表第一記載の人々の供述調書、同人らに対す
る原審裁判所の証人尋問調書に、当審公判廷におけるB5の証言、被告人A2の供
述を参酌すると、次の事実が認められる。
 原判示代行会社は専らC8所上場商品の早受早渡の代行と右取引所々属の商品仲
買人に対する金員の貸付などを義務とする会社である。被告会社は預託を受けた充
用証券の数人分を併せ、時には被告会社所有の有価証券をこれに加え、一括して共
同担保に供し、支払期限を一個月後利息は日歩二銭七厘位として代行会社から金員
を借り受けていた。被告会社所有の有価証券については質権が設定される関係にあ
るところ、充用証券については、それが質権の設定であるか、転質権の設定である
か、当事者は格別意識しなかつたようであるが(当審公判廷において代行会社取締
役B5は「代行会社の貸付対象者はあくまで仲買人なのだから、担保物件の名義人
が誰であるか、誰から差入れたものであるかということまで調べる必要はない。仲
買人所有以外のものは充用証券と考えられる。」と証言する。)次のとおり充用証
券の随時差替を許している点などから、転質権設定の趣旨と考えられる。代行会社
は右有価証券の市場価格の約七割の金員を貸付けていた。支払期限は右の如く一個
月後であるが、時には切替と称して更に期限を一個月ずつ延長することもあつた。
その間に顧客との間に取引決済がなされ、差入れた充用証券をこれに返戻しなけれ
ばならない事態が生じると、被告会社は代行会社と話合の上、これを他の顧客から
預託を受けた別の充用証券を以て差替え、右返戻に及んだ。昭和三四年一〇月頃か
ら昭和三六年三月頃にかけ、原判決別表第一に記載する委託者を含め五四名から預
つた充用証券七〇口を代行会社に差入れたが、昭和三六年四月本件の捜査が始まつ
た頃には、原判決別表第一の番号欄1のC9C10株式五〇〇株、10のB32C
11株式一〇〇〇株、15のB13C12株式一〇〇〇株、21のB16C13株
式一〇〇〇株、22のC3C14株式五〇〇株、23のC4C15投信二〇〇口、
26のB7C16株式一〇〇〇株、27のB25C17株式一〇〇〇株、28の同
人C18株式五〇〇株、30のB18C19株式一〇〇〇株、36のC4C15投
信一〇〇口、37のB10C20株式五〇〇株、39のB27C21株式一〇〇〇
株、40のB21C22株式五〇〇株、43のB33C22株式一五〇〇株、45
のC23C24株式一〇〇〇株、48のB23C25株式五〇〇株のみがなお代行
会社に差入れられており、他のもののうち殆どが本人に返戻され、残余は被告会社
が保管していた。本人に返戻されたのは取引の決済があつたためである。昭和三六
年四月頃充用証券が被告会社に保管されたり、代行会社に差入れられている場右
は、すべて当時取引が継続中か決済手続未了のものであり、要するに原質権がなお
存続中であつたものである。現在においてはこれらもすべて決済され、充用証券は
委託者に返戻されている(昭和三六年四月頃、担保がなお代行会社に差入れられて
いたもののうち、C9とC23については供述調書が存しないところであるが、当
時取引継続中でありその後清算されたとする被告人らの供述は措信できる。)。被
告会社は代行会社からの借受金のうち七、八割は日々の差金勘定決済、定率会費、
取引税の支払に充てたものであり、残余は他の営業資金に費消したものである。な
お、本件委託取引当時、被告会社が格別経営不振に陥つていたという事情はない。
 右の次第で、本件は質物であることを秘して充用証券に質権を認定した場合でも
なく、転質に名をかりて質物を処分した場合でもない。
 さて、委託者と被告会社との間では、継続的取引契約が解除され清算される時ま
で、充用証券についての根質権は存続するところ、被告会社は代行会社から一個月
期限で借受ける借金の転質に供したものであり、期限を延長した場合も、委託者と
の間で決済がなされ、充用証券を返戻する必要が生じた時は、他の証券と差替えを
することによつてこれをなしていたのであるから、昭和三六年四月本件捜査が開始
された当時既に返戻されていた分はもとより、当時なお代行会社に差入れられてい
た分も、すべて原質権存続期間内における転質だとい<要旨第二>うことができる。
もつとも、委託者との間は根質権の設定であるから、一方では原質権の被担保債権
が未だ現実化していない段階で既に転質権を設定していたり、当時存し
た原質権の被担保債権を超えるそれで転質権を設定した関係になつた場合もあつた
と考えられるけれども、代行会社はC8所々属の商品仲買人に融資をするこなどを
主目的とする会社で、商品仲買人とは特殊の関係にあり、商品仲買人の取引の実情
も十分知つており、右転質権の関係においても一応委託者に対し実害を生じないよ
うな仕組みにしていたものであるから、被告会社の本件転質は、右の点に民事法的
には些少の権限超越があつたとしても、横領罪を構成する如き違法性はないという
べきである。かりにしからずとするも、被告人らは代行会社への転質は許されると
信じていたと供述するところ、右の如く細かな法律判断の上はじめて権限超越とい
えるのであるから、被告人らにおいて右の如く信じていたというのは単なる弁解で
はないと考えられ、よつて被告人らは民事法規の誤解から罪となるべき事実を認識
しなかつたものであり、横領の犯意があつたものといえない。
 そうすると、かりに原判示第一事実が存在したとしても、被告人A1同A2の所
為が業務上横領に該ることはないというべく、原判決は事実を誤認するか法令の解
釈適用を誤つて、被告人A1同A2を有罪としたものであり、この点からも破棄を
免れない。論旨は理由がある。
 以上の次第であるから、刑事訴訟法第三九七条第三八〇条第三八二条に則り原判
決を破棄するところ、同法第四〇〇条但書により直ちに判決をする。
 被告人全員に対する商品取引所法第九二条違反、被告人A1同A2に対する様務
上横領の点は、前記説示の次第で、罪とならないか犯罪の証明がないことに帰する
ので、刑事訴訟法第三三六条に則り無罪の言渡をする。
 原判決が認定した原判示第二の事実に法律を適するに、右はいずれも商品取引所
法第一六一条第一号第九一条第一項第一六三条、罰金等臨時措置法第二条に該当す
る(被告人A1同A2については別に刑法第六〇条、)ので被告人全員を各罰金五
〇〇〇円に処し、被告人A1同A2に対する換刑処分について刑法第一八条を、被
告人全員に対する訴訟費用の負担につき刑事訴訟法第一八一条第一項本文を適用す
る。
 よつて主文のとおり判決する。
 (裁判長裁判官 高橋英明 裁判官 福地寿三 裁判官 竹村寿)

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