弁護士法人ITJ法律事務所

裁判例


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         主    文
     本件各上告を棄却する。
         理    由
 弁護人佐藤義彌の上告趣意第一点の(1)について。
 論旨は、単なる法令違反の主張であつて適法な上告理由とならない。なお、退廷
命令に基づき法廷外の何処まで退廷を執行し得るかは、法廷の秩序維持を必要とす
る具体的状況によつて異なる。本件の場合は、原判決の認定説示のような経過と事
情の下に傍聴人全員に対し退廷命令が発せられたのであり、すなわち、傍聴人は多
数であり、その上右退廷命令発令前既にこれらの傍聴人は静粛に退廷することを肯
えんぜず喧騒を極め一部の者は警備員に対し反抗的態度にすら出ていたのである。
かゝる場合においては、本件建物内部の構造殊に本件法廷の位置およびその附近の
状況(これらは当裁判所に顕著である)に照らし、所論の退去命令を用いることな
く本件退廷命令に基づきその執行として、裁判官の指揮により右法廷の存する建物
の外まですなわち右喧騒を聞知し得ない場所まで退去させることを得るものと解す
るのが相当である。しかして本件退廷命令の執行が裁判官の指揮に基づくものであ
ることは一審判決の認定するところである。従つてAその他の警察官が裁判官の退
廷命令に従い被告人を建物外に退去せしめた行為は正当な職務の執行であると判示
した原判決は、結局正当なるに帰する。
 同第一点の(2)について。
 本論旨も単なる法令違反の主張であつて適法な上告理由とならない。のみならず
裁判所法七一条の法廷秩序維持権を行使し得る場所的限界または範囲については、
法廷の秩序を維持するに必要な限り、法廷の内外を問わず裁判官が妨害行為を直接
目撃または聞知し得る場所まで及ぶものと解すべきであり、所論の如く狭義に解す
べきではない。
 同第一点の(3)について。
 論旨は原審において主張判断を経ていない事項に関するから適法な上告理由とな
らない。のみならず万一発生すべき本件の如き事態に対処するため、事前に所論の
ような指示を警備員に与えたとしても、これを違法と目すべき理由はない。また本
件執行は、前記退廷命令に基づく執行であつて、所論の指示に基づくものではない。
 同第一点の(4)について。
 本論旨も原審において主張判断を経ていない事項に関するから適法な上告理由と
ならない。なお裁判所法七一条の法廷秩序維持権を行使し得る時間的範囲(始期と
終期)は、法廷の開廷中およびこれに接着する前後の時間を含むと解するを相当と
するから、たとえ所論のように判決の言渡し後であつてもこれを行使し得ることは
明らかである。論旨はまた、被告人が憲法三七条に基いて有する権利を侵害された
と主張するけれども、所論もまた原審において主張判断を経ていない事項に関する
ものであるから適法な上告理由とならない。
 同第二点について。
 論旨は原審において主張判断を経ていない事項に関するから適法の上告理由とな
らない。
 同第三点について。
 所論のように被告人等が朝鮮人であることまたはいわゆる北鮮系であることのた
めに特に重き刑を科せられたと認むべき形跡は認められないから、所論憲法一四条
違反の主張はその前提を欠き採用できない。その余の論旨は単なる量刑不当の主張
であつて適法な上告理由とならない。
 同第四点について。
 論旨は事実誤認の主張に帰し適法な上告理由とならない。
 また記録を精査しても刑訴四一一条を適用すべきものとは認められない。
 よつて刑訴四〇八条により主文のとおり判決する。
 この判決は、裁判官全員一致の意見である。
  昭和三一年七月一七日
     最高裁判所第三小法廷
         裁判長裁判官    河   村   又   介
            裁判官    島           保
            裁判官    小   林   俊   三
            裁判官    本   村   善 太 郎
            裁判官    垂   水   克   己

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