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平成31年(行ヒ)第99号不動産取得税賦課決定処分取消請求事件
令和2年3月19日第一小法廷判決
主文
原判決を破棄する。
被上告人の控訴を棄却する。
控訴費用及び上告費用は被上告人の負担とする。
理由
上告代理人森末尚孝の上告受理申立て理由について
1本件は,堺市所在の土地を共有していたAが,同土地の共有物分割により他
の共有者の持分を取得したところ,大阪府泉北府税事務所長から不動産取得税賦課
決定処分(以下「本件処分」という。)を受けたことについて,被上告人(Aは原
審係属中に死亡し,同人の弟である被上告人が相続により本件訴訟を承継した。)
が,上記の取得に対しては地方税法(以下「法」という。)73条の7第2号の3
の規定により不動産取得税を課することができず,本件処分は違法であると主張し
て,上告人を相手に,その取消しを求める事案である。
2原審の適法に確定した事実関係等の概要は,次のとおりである。
(1)ア不動産取得税は,不動産の取得に対し,当該不動産の取得者に課される
ものであるところ(法73条の2第1項),法73条の7第2号の3は,共有物の
分割による不動産の取得に対しては,当該不動産の取得者の分割前の当該共有物に
係る持分の割合を超える部分(以下「持分超過部分」という。)の取得を除き,不
動産取得税を課することができないと規定する。
イ法73条の13第1項は,不動産取得税の課税標準を,不動産を取得した時
における不動産の価格(適正な時価をいう。法73条5号)とすると規定し,法7
3条の21第2項は,道府県知事は,固定資産課税台帳に固定資産の価格が登録さ
れていない不動産については,法388条1項の固定資産評価基準によって,当該
不動産に係る不動産取得税の課税標準となるべき価格を決定するものとすると規定
する。
ウ固定資産評価基準(昭和38年自治省告示第158号。以下「評価基準」と
いう。)は,第1章第3節において,主として市街地的形態を形成する地域におけ
る宅地については,市街地宅地評価法によって各筆の宅地について評点数を付設
し,これを評点1点当たりの価額に乗じて,各筆の宅地の価額を求めるものとして
いる。市街地宅地評価法は,①状況が相当に相違する地域ごとに,その主要な街路
に沿接する宅地のうちから標準宅地を選定し,②標準宅地について,売買実例価額
から評定する適正な時価を求め,その単位地積当たりの適正な時価に基づいて上記
主要な街路の路線価を付設し,これに比準してその他の街路の路線価を付設し,③
路線価を基礎とし,画地計算法(評価基準別表第3)を適用して各筆の宅地の評点
数を付設するというものである。
この画地計算法につき,評価基準別表第3の1は,各筆の宅地の評点数は,各筆
の宅地の立地条件に基づき,路線価を基礎とし,奥行価格補正割合法等の所定の画
地計算法を適用して求めた評点数によって付設するものとしている。また,同別表
の2は,各筆の宅地の評点数は,一画地の宅地ごとに画地計算法を適用して求める
ものとし,この場合において,一画地は,原則として,土地課税台帳又は土地補充
課税台帳に登録された1筆の宅地によるものとするが,1筆の宅地又は隣接する2
筆以上の宅地について,その形状,利用状況等からみて,これを一体を成している
と認められる部分に区分し,又はこれらを合わせる必要がある場合においては,そ
の一体を成している部分の宅地ごとに一画地とするものとしている。さらに,同別
表の3以下は,路線価に当該画地の状況に応じた所定の補正率を乗じて単位地積当
たりの評点数を求め,これに当該画地の地積を乗じて当該画地の評点数を求めるも
のとしている。
(2)アA及び被上告人は,平成25年3月に死亡したBからの遺贈により,分
筆前の堺市▲区▲町▲番▲の土地(以下「分筆前土地」という。)の持分各2分の
1を取得し,その旨の所有権移転登記がされた。
イA及び被上告人は,分筆前土地の共有物分割を行うこととし,平成26年1
1月11日,分筆前土地を第1審判決別紙物件目録記載1及び2の各土地(以下,
順に「本件土地1」,「本件土地2」といい,併せて「本件各土地」という。)に
分筆する登記をした上,同月30日,本件土地1についてはAが被上告人の持分全
部を取得し(以下,この取得を「本件取得」という。),本件土地2については被
上告人がAの持分全部を取得して,同年12月1日,その旨の各持分全部移転登記
をした。
これにより,Aが本件土地1を,被上告人が本件土地2を,それぞれ単独で所有
することとなった。本件各土地の登記上の地積は,本件土地1が617㎡,本件土
地2が566㎡である。
ウ本件各土地の形状及び位置関係は,第1審判決別紙図面のとおりである。本
件各土地は,上記の分筆の前から,構造物等により物理的に区分されておらず,連
続して舗装され,隣地との間の塀及びフェンスや駐車区画の一部が両土地にまたが
って設けられるなどして,全体が駐車場として一体的に利用されている。
(3)大阪府知事から権限の委任を受けた大阪府泉北府税事務所長は,本件土地
1が本件取得時において固定資産課税台帳に価格が登録されていない不動産であっ
たことから,法73条の21第2項に基づき,評価基準により本件土地1の価格を
算定した上,同価格は分筆前土地の価格の2分の1相当額を超えているから,本件
取得には持分超過部分の取得が含まれるとして,平成27年11月5日付けで,A
に対し,当該持分超過部分に係る課税標準額を101万3000円,税額を3万0
300円とする本件処分をした。
上記の本件土地1の価格は,①本件各土地につき,その形状,利用状況等からみ
て一体を成しているとして,一画地と認定した上,②これと接する街路の路線価を
基礎に画地計算法を適用して,本件各土地の1㎡当たりの評点数を算出し,③これ
に本件各土地の地積及び評点1点当たりの価額を乗じて,本件各土地の評価額を算
出し,④これに本件土地1と本件各土地との地積比(617㎡/1183㎡)を乗
ずることにより,算定されたものである。
3原審は,上記事実関係等の下において,共有物の分割による不動産の取得に
係る持分超過部分の有無及び額は,当該不動産に係る不動産取得税の課税標準とな
るべき価格によって判断すべきところ,本件処分において評価基準により本件土地
1の価格を算定するに当たり,本件各土地を一画地と認定して画地計算法を適用し
たこと自体は評価基準に適合するとした上で,要旨次のとおり判断して,本件処分
の取消請求を認容した。
本件処分において,本件土地1の価格は,一画地として認定された本件各土地全
体の評点数を算出した上,これを地積比であん分する方法によって算定されている
が,持分超過部分の有無を判断する場合にあっては,僅かな評価の差異によってそ
の判断が異なることとなるから,より慎重な方法によって算定する必要がある。そ
して,一画地を構成する各筆の土地が所有者を異にする場合,各筆の土地はそれぞ
れの所有者がこれを拠出して一画地を構成しているという関係にあるから,それぞ
れの土地の価格の割合であん分する方がより公平に適するというべきである。ま
た,本件においては,本件土地1と本件土地2の地積が異なる以上,その地積比で
本件各土地の価格をあん分すれば,地積の大きい本件土地1について必然的に持分
超過部分が生ずることは明らかであった。このような場合において,本件処分が,
他の合理的な計算方法を試みることなく,漫然と地積比に従ってあん分計算をして
本件土地1の価格を算定したことには,違法がある。
4しかしながら,原審の上記判断は是認することができない。その理由は,次
のとおりである。
(1)ア評価基準は,市街地宅地評価法により付設する各筆の宅地の評点数は一
画地の宅地ごとに画地計算法を適用して求めるものとし,この場合において,一画
地は,原則として,土地課税台帳又は土地補充課税台帳に登録された1筆の宅地に
よるものとするが,その例外として,1筆の宅地又は隣接する2筆以上の宅地につ
いて,その形状,利用状況等からみて,これを一体を成していると認められる部分
に区分し,又はこれらを合わせる必要がある場合においては,その一体を成してい
る部分の宅地ごとに一画地とするものとしている。この例外は,筆界が土地の形状
や利用状況等に即したものであるとは限らないことから,上記の原則を貫くと,宅
地の客観的な交換価値を合理的に算定することができず,分筆や合筆の仕方次第で
評価額が異なることにもなって,評価の不均衡をもたらす可能性があるため,評価
の均衡上必要があるときは,筆界のいかんにかかわらず,その形状,利用状況等か
らみて一体を成していると認められる範囲をもって,一画地として画地計算法を適
用することとしたものと解される。
イ隣接する2筆以上の宅地を一画地として認定して画地計算法を適用する場合
に,各筆の宅地の評点数をどのように算出するかについて,評価基準は明示的な定
めを置いていない。
もっとも,評価基準に定める画地計算法とは,街路に沿接する標準的な画地の単
位地積当たりの価格を示す路線価を基礎として,当該街路に沿接する各画地につい
て,それぞれの画地の奥行,接道の状況,形状等が宅地の価格に及ぼす影響を,標
準的な画地のこれらの状況との比較において計量しようとするものであり,具体的
には,一画地の宅地につき,路線価に当該画地の状況に応じた所定の補正率を乗じ
て単位地積当たりの評点数を求め,これに当該画地の地積を乗じて当該画地の評点
数を求めるものとされている。そして,前記アのとおり,隣接する2筆以上の宅地
を一画地として認定すべき場合とは,これらの宅地が形状,利用状況等からみて一
体を成していると認められる場合であって,この場合の各筆の宅地は,一体を成し
ている当該画地の構成要素にすぎず,個別に客観的な交換価値を算定するのに適さ
ないものである。そうすると,隣接する2筆以上の宅地を一画地として認定し,当
該画地について画地計算法を適用する場合において,算出された当該画地の単位地
積当たりの評点数は,当該画地全体に等しく当てはまるものと解するのが相当であ
る。
ウ以上によれば,評価基準により隣接する2筆以上の宅地を一画地として認定
して画地計算法を適用する場合において,各筆の宅地の評点数は,画地計算法の適
用により算出された当該画地の単位地積当たりの評点数に,各筆の宅地の地積を乗
ずることによって算出されるものというべきである。そして,共有物の分割による
不動産の取得に係る持分超過部分の有無及び額の判断のため,法73条の21第2
項に基づき評価基準によって当該不動産に係る不動産取得税の課税標準となるべき
価格を算定する場合や,一画地を構成する各筆の宅地の所有者が異なる場合であっ
ても,これと別異に解する理由はない。
(2)これを一画地を構成する各筆の宅地と当該画地との関係でみると,各筆の
宅地の評点数又は価格は,画地計算法を適用して算出された当該画地全体の評点数
又は価格を,各筆の宅地の地積比に従ってあん分する方法によって算出されるとい
うこともできる。そうすると,本件処分において,本件各土地を一画地として画地
計算法を適用して算出した価格に本件土地1と本件各土地との地積比を乗ずること
により,本件土地1の価格を算定したことは,評価基準の定める評価方法に従った
ものということができる。
(3)本件処分は,本件取得につき,法73条の21第2項に基づき,評価基準
によって本件土地1に係る不動産取得税の課税標準となるべき価格を算定し,これ
に基づいて持分超過部分に係る課税標準及び税額を算定してされたものであるとこ
ろ,以上によれば,上記の本件土地1の価格について,評価基準の定める評価方法
に従って決定される価格を上回る違法があるとはいえないし,その客観的な交換価
値としての適正な時価を上回る違法があるというべき事情もうかがわれないから
(最高裁平成13年(行ヒ)第224号同16年10月29日第二小法廷判決・裁
判集民事215号485頁,最高裁平成24年(行ヒ)第79号同25年7月12
日第二小法廷判決・民集67巻6号1255頁参照),これを基礎としてされた本
件処分に違法はない。
5以上と異なる原審の判断には,判決に影響を及ぼすことが明らかな法令の違
反がある。論旨はこの趣旨をいうものとして理由があり,原判決は破棄を免れな
い。そして,本件処分の取消請求を棄却した第1審判決は正当であるから,被上告
人の控訴を棄却すべきである。
よって,裁判官全員一致の意見で,主文のとおり判決する。
(裁判長裁判官山口厚裁判官池上政幸裁判官小池裕裁判官
木澤克之裁判官深山卓也)

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