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裁判例


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平成11年(行ケ)第269号審決取消請求事件
判決
原告株式会社ひよ子
代表者代表取締役A
訴訟代理人弁護士藤井信孝
同弁理士B
被告株式会社クリエイティブヨーコ
代表者代表取締役C
訴訟代理人弁護士小南明也
同弁理士D
主文
特許庁が平成10年審判第35470号事件について平成11年6月25日にし
た審決を取り消す。
訴訟費用は被告の負担とする。
事実
第1請求
主文と同旨の判決
第2前提となる事実(当事者間に争いのない事実)
1特許庁における手続の経緯
被告は、別紙審決書の写し(以下「審決書」という。)別紙(1)に表示したとおり
の構成よりなり、指定商品を商標法施行令(平成3年政令第299号による改正前
のもの)別表第30類「菓子、パン」とする登録第2580221号商標(平成2
年1月26日商標登録出願、平成5年9月30日設定登録。以下「本件商標」とい
う。)の商標権者である。
原告は、平成10年9月29日、本件商標につき無効審判を請求した。
特許庁は、この請求を平成10年審判第35470号事件として審理した結果、
平成11年6月25日、本件審判の請求は成り立たない旨の審決をし、その謄本
は、同年7月29日原告に送達された。
2審決の理由
審決の理由は、審決書のとおりであり、審決は、本件商標は、引用A商標(登録
第770378号商標。審決書別紙(2))との関係で商標法4条1項11号に該当せ
ず、引用B商標(登録第524914号商標。審決書別紙(3))との関係で商標法4
条1項15号に該当するものとすることはできず、その登録を無効とすることはで
きない旨判断した。
第3審決の取消事由
1審決の認否
(1)審決の理由1(本件商標)、同2(請求人の引用商標)、同3(請求人の
主張)及び同4(被請求人の答弁)は認める。
(2)同5(当審(審決)の判断)中、商標法4条1項11号についての判断
(審決書8頁15行ないし9頁18行)のうち、本件商標と引用A商標の構成及び
外観上区別し得るものであること(同8頁16行、17行)、本件商標が「ぴよち
ゃん」の文字及び「PIYOCHAN」の文字を同書、同大、等間隔に書してなる
こと、視覚上一体のものとして把握されるものであること、その称呼として「ピヨ
チャン」の称呼が生ずること(同8頁18行ないし21行)、引用A商標は、別
紙(2)に表示したとおり、「ピヨ」の文字とひよこの図形とを書してなるから、該文
字及び図形に相応して「ピヨ」及び「ひよこ」の称呼が生じ、「ひよこ」及び「ひ
よこの鳴き声」の観念を生じるものということができること(同9頁5行ないし9
行)、及び本件商標と引用A商標とは外観の点において相紛れるおそれのないこと
(同9頁16行、17行)は、認め、その余は争う。
商標法4条1項15号についての判断(審決書9頁19行ないし10頁3行)の
うち、請求人(原告)の主張内容(審決書9頁19行、20行)及び引用B商標と本
件商標とが外観、称呼の点で相紛れるおそれのないものであること(同9頁21行
ないし23行)は認め、その余は争う。
まとめ(審決書10頁4行ないし7行)は争う。
2取消事由
審決は、本件商標の商標法4条1項11号該当性についての判断を誤り(取消事
由1)、商標法4条1項15号該当性についての判断を誤ったものであるから(取
消事由2)、違法なものとして取り消されるべきである。
(1)取消事由1(商標法4条1項11号該当性についての判断の誤り)
審決は、「本件商標と引用A商標とは、外観、称呼及び観念のいずれの点について
も相紛れるおそれのないものであるから、非類似の商標といわざるを得ない。」
(審決書9頁16行ないし18行)と判断するが、誤りである。本件商標と引用A商
標とは、称呼及び観念の点で類似するものである。
ア観念の点について
審決は、本件商標は「特定の観念を有しない造語よりなる」(審決書9頁3行)
と認定するが、誤りである。本件商標「ぴよちゃん」、「PIYOCHAN」は、
「ひよこ」の愛称であるから、「ひよこ」の観念を生じるものである。
(ア)「ぴよ」からは、「ひよこの鳴き声」という観念を生じるものであ
る。
本件と同一指定商品に関する「ピヨピヨ」なる商標につき、「ピヨピヨ」なる称
呼及び愛称としての「ひよこ」を観念すると判断した審決例がある(甲第9号
証)。この審決は、「ピヨピヨ」が「ひよこの鳴き声」を意味するものとして一般
的に承認されているという認識を前提とするものであると解される。そして「ぴよ
ぴよ」が一般的に「ひよこの鳴き声」として承認されているのにもかかわらず、
「ぴよ」と略した途端に「ひよこの鳴き声」という意味を喪失し、意味のない造語
に転化するというのはいかにも不合理である。
被告は、鳥の子は「ぴよぴよ」、「ぴいぴい」と鳴くが、鳥の子は「ひよこ」す
なわち「にわとりの子」に限られないから、「ぴよぴよ」、「ぴいぴい」と鳴く雛
が「ひよこ」すなわち「にわとりの子」とは限らない旨主張する。しかし、「ひよ
こ」すなわち「にわとりの子」であるとする被告の前提は適切とはいえない。広辞
苑第四版によると、「ひよ子」は「鳥の子。特にニワトリの子。ひな」と定義され
ており、「ひよこ」の意味は「にわとりの子」に限定されていない。そうすると、
「ひよこ」は「鳥の子」のことだから、「鳥の子」が「ぴよぴよ」と鳴くなら、
「ひよこ」も「ぴよぴよ」と鳴き、「ぴよぴよ」と鳴くのは「鳥の子」であり、
「ひよこ」であるともいい得ることになる。
(イ)「ちゃん」なる語は、名詞等の直後に配置される場合、それ自体独自
の観念を有するものではないが、単なる造語ではなく、一般に直前におかれた名詞
等が意味するものを愛称化する語である。
被告は「ちゃん」を愛称として使用する場合は、その直前に付けられる部分が、
「人の名前」あるいはそれ自体として独立した名称として社会通念上通用されてい
る場合に限られるところ、「ぴよちゃん」の「ぴよ」はそれ自体として独立した名
称として社会通念上通用していないから、この場合の「ちゃん」は「ぴよ」の愛称
ではない旨主張する。しかし、「ちゃん」は、単に名詞等につけてそのものに対し
親しみを表わす呼び方であると定義されているにすぎない上、そもそも直前に配置
される名詞等は多種多様であり、極めて狭小な範囲で使用されるあだ名、ニックネ
ーム、略称等が直前に配置される場合があることを考慮すると、被告の上記主張は
独自の見解というほかない。
(ウ)以上によれば、本件商標「ぴよちゃん」、「PIYOCHAN」は
「ひよこの鳴き声」を意味する「ぴよ」の直後に「ちゃん」を配置することによ
り、「ひよこ」を愛称化したものである。
したがって、本件商標は、引用A商標と観念において類似するものである。
イ称呼の点について
(ア)本件商標からは、「ピヨチャン」との称呼のほか、「ピヨ」との称呼
が生じる。
本件商標のアクセントは、「ぴよちゃん」のうち「ぴ」の部分に存在し、「ぴ」
を高く発音し、その余を低く発音するものである。そのため、需要者は本件商標の
前半部に特に強い印象を持つものであって、「ちゃん」の部分に特に強い印象を持
ったり、「ぴよちゃん」全体で需要者の注意を引き付けるものではない。
さらに、「ちゃん」は、直前の名詞等の親しみを込めた呼び方であるから、指定
商品の形状それ自体を表示する語に関係する語にすぎないものとして、その部分の
自他商品識別力は低いものである。したがって、商品の名称を構成する「~~ハ
イ」の「ハイ」(品質等が高いという意味)の部分や「ニュー~~」の「ニュー」
(商品等が新しいという意味)の部分と同様に、独占適応性、自他商品識別力を欠
くものである。
以上によれば、本件商標の「ぴよ」、「PIYO」の部分こそが自他商品の識別
機能を果たす部分であると認識され、本件商標は、自他商品識別力を果たす部分で
ある「ぴよ」、「PIYO」の文字に従って「ぴよ」と称呼される場合も少なくな
いものである。
(イ)仮に本件商標の称呼が「ピヨチャン」に限られるとしても、上記(ア)
の点からすると、本件商標の「ぴよ」、「PIYO」の部分こそが自他商品の識別
機能を果たす部分であると認識されるから、本件商標の要部は、まさに「ぴよ」、
「PIYO」の部分にあり、称呼類否の判断にはこの部分に重点をおいてされるべ
きである。
(ウ)さらに、引用A商標からは、「ぴよちゃん」という称呼も生じ得る。
すなわち、ひよこの図形とピヨなる文字から構成される結合商標である点を考慮
すると、引用A商標からは、更に「ピヨという名前のひよこ」という観念も生じ得
る。このような引用A商標の構成、観念を考慮するとき、需要者は、同商標の構成部
分たるひよこの愛称として「ぴよちゃん」と称呼することもあり得るものである。
(エ)離れた時間、場所、人伝てで間接的に両商標に接する需要者の立場に
立つと、「ぴよちゃん」、「PIYOCHAN」と「ぴよ」の称呼は、相紛らわし
いものといわなければならない。
(オ)以上の点からも、本件商標は、引用A商標と称呼の点において類似す
る。
(2)取消事由2(商標法4条1項15号該当性についての判断の誤り)
ア引用B商標は昭和61年に防護標章登録を経ており、「需要者の間に広く
認識された登録商標」である。
イ本件商標は、「ひよこ」の愛称であるから「ひよこ」の観念を有するも
のである。
ウよって、引用B商標と本件商標とは観念において類似するものである。
エさらに、両商標は指定商品が同一である。
オそうすると、本件商標に接した需要者は、本件商標を付した商品の出所
が、引用B商標を付した商品の出所と同一企業ではないか、あるいはグループ企業、
関連企業ではないかと考え、商品の出所の混同を生じるおそれがある。
第4審決の取消事由に対する認否及び反論
1認否
原告主張の審決の取消事由は争う。
2反論
(1)取消事由1(商標法4条1項11号該当性についての判断の誤り)につい

ア観念の点について
(ア)通常、「ひよこ」すなわち「にわとりの子」の鳴き声として観念する
のは、「ぴよぴよ」、「ぴいぴい」である。しかし、その逆は妥当しない。「ぴよ
ぴよ」、「ぴいぴい」と鳴く動物は、「にわとりの子」に限らないからである。
要するに、「ぴよぴよ」、「ぴいぴい」という語は、それ自体としては、「ひよ
こ」を観念するものではなく、ましてや「ぴよ」、「ぴい」だけで「ひよこ」を観
念することはあり得ない。
(イ)原告は、「ちゃん」なる語の意味について論じているが、ここで重要
なのは、「ちゃん」という語を本件商標の「ぴよちゃん」、「PIYOCHAN」
から取り出して、外観上分離して観察しなければならない格別な理由があるかどう
かである。
「ちゃん」を愛称として使用するのは、その直前に付けられる部分が「人の名
前」あるいはそれ自体として独立した名称として社会通念上通用されている場合に
限られている。
上記(ア)のとおり、「ぴよ」は「ひよこ」を観念するものでなく、また、「ぴよ」
がある特定の動物あるいはキャラクターの名称として社会通念上通用している事実
もない。
したがって、「ちゃん」という語を「ぴよ」に付しているからといって、本件商
標を「ぴよ」と「ちゃん」に外観上分離して観察しなければならない格別な理由は
存在しない。
(ウ)よって、本件商標は特定の観念を有しない造語よりなるものとした審
決の認定に誤りはない。
イ称呼の点について
(ア)原告は、本件商標は、「ぴ」の部分を強く発音するものである旨主張
するが、本件商標は「ぴよちゃん」、「PIYOCHAN」の全体で1つの文字商
標を形成している同書、同大、等間隔に書してなるものであり、一体不可分構成で
あるから、「ぴ」の部分の発音が「ちゃん」と区別されて、特に強く発音されなけ
ればならない理由は存在しない。また、最初に発音され、最初に聴取されるからと
いってその部分のみが需要者に特に強い印象を与えることにもならない。本件商標
は、この構成全体で認識され、「ピヨチャン」と淀みなく一気に称呼されるとする
のが極めて自然な解釈である。さらに、仮に原告の主張に従うならば、本件商標
は、「ぴ」と「よちゃん」に分離されることになり、なおさら「ぴよ」なる称呼が
生ずることはあり得ない。
原告は、「ちゃん」は独占適応性、自他商品識別力を欠く旨主張するが、本件商
標における「ちゃん」を、直前の名詞等の親しみを込めた呼び方である「ちゃん」
に限定して解さなければならない理由は存在しないから、その「ちゃん」の部分の
みを取り出して、それに独占適応性、自他商品識別力を欠く旨の原告主張は失当で
ある。
(イ)原告は、本件商標「ぴよちゃん」、「PIYOCHAN」の要部が
「ぴよ」、「PIYO」の部分にあるから、本件商標の称呼は、引用A商標の称呼
「ピヨ」と類似する旨主張する。
しかし、本件商標の要部を「ぴよ」、「PIYO」の部分に限る理由はない。前
記のとおり、「ぴよちゃん」、「PIYOCHAN」は、この構成全体で認識さ
れ、「ピヨチャン」と淀みなく一気に称呼されるとするのが極めて自然な解釈であ
る。
(ウ)さらに、原告は、引用A商標から「ぴよちゃん」との称呼も生じ得る
旨主張する。
しかし、引用A商標は、ひよこ図形の右側に、嘴の先端部分から縦書きに「ピヨ」
と併記し、あたかも図形で記載したひよこが鳴いているかのような状態が示された
商標であるから、「ピヨという名前のひよこ」という観念は生じず、したがって、
その愛称として「ぴよちゃん」と称呼することなど到底あり得ない。
(エ)その他、本件商標が引用A商標と称呼の点において類似すると解すべ
き点はない。
(2)取消事由2(商標法4条1項15号該当性についての判断の誤り)につい

ア前記(1)で論じたように、本件商標から「ひよこ」の観念は生じない。
したがって、引用B商標と本件商標とは、観念において非類似の商標である。
イしたがって、観念はもちろん、外観、称呼が著しく相違する引用B商標
を付した商品と本件商標を付した商品との出所につき混同が生じるおそれはない。
理由
第1取消事由1(商標法4条1項11号該当性)について
1引用A商標(昭和38年9月2日登録出願)及び本件商標(平成2年1月26
日登録出願)が、いずれも指定商品を平成3年政令第299号による改正前の商標
法施行令別表第30類「菓子、パン」とするものであることは、当事者間に争いが
ない。
2(1)引用A商標は、審決書別紙(2)に表示したとおり、「ピヨ」の文字とひよこ
の図形とを書してなるから、「ひよこ」及び「ひよこの鳴き声」の観念を生じるも
のということができること(審決書9頁5行ないし9行)は、当事者間に争いがな
い。
(2)他方、本件商標が「ぴよちゃん」、「PIYOCHAN」の文字を同書、
同大、等間隔に書してなることは、当事者間に争いがない。
そして、甲第35号証、第48号証、第49号証及び弁論の全趣旨によれば、広
辞苑第四版などの国語辞典には、「ぴよぴよ」は、「ひななどの鳴く声。」と説明
され、「ひよ」は、「(擬声語)雛の鳴く声。」と説明され、「ひよこ【雛】」は、
「鳥の子。特にニワトリの子。ひな。・・・」と説明されていることが認められ
る。また、甲第34号証、第37ないし第47号証、第50号証の1ないし3、乙
第5ないし第8号証によれば、一般に「○○ちゃん」という表現は親しみや可愛ら
しさを表した愛称として用いられているところ、本件商標登録出願以前から今日に
至るまで、菓子類の商品名として、「○○ちゃん」という愛称化した名称が多数用
いられていることが認められる。
これらによれば、本件商標に接する取引者、需要者は、「ぴよちゃん」、「PI
YOCHAN」中の「ぴよ」、「PIYO」の部分は「ひよこの鳴き声」を意味す
るものと理解し、それを愛称化するものとして、「ちゃん」、「CHAN」が付さ
れたものと理解するとみるのがむしろ自然であるから、本件商標からは、「ひよ
こ」の観念が生ずるものと認められる。
これに反する被告の主張は、採用することができない。
(3)そうすると、本件商標と引用A商標とは、「ひよこ」の観念を共通にする
ものである。
3そして、両商標は、外観を異にし(当事者間に争いがない。)、称呼につい
ては、本件商標から「ピヨチャン」の称呼が生じ(当事者間に争いがない。)、引
用A商標からは少なくとも「ピヨ」の称呼が生じるものと認められ、「ピヨ」の限度
では一致しているものである。
4以上の点を総合して、本件商標と引用A商標との類否を判断すると、両商標
は、外観を異にするものであり、かつ、観念の共通にもかかわらず両商標が類似し
ないことを裏付けるべき事情、例えば称呼において明らかに区別し得るものとすべ
き事情についての主張はないし、また積極的にそのような事情を認めることもでき
ないので、両商標は、全体としてみて、類似する商標であると認められる。
よって、これに反する審決の判断は誤りであり、原告主張の取消事由1は理由が
ある。
第2結論
以上によれば、商標法4条1項11号該当性をいう原告の請求は、理由があるか
らこれを認容することとし、主文のとおり判決する。
(口頭弁論終結の日平成11年12月21日)
東京高等裁判所第18民事部
裁判長裁判官永井紀昭
裁判官塩月秀平
裁判官市川正巳

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