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裁判例


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平成21年12月16日判決言渡
平成18年(行ウ)第23号義務付け等請求事件
平成19年(行ク)第7号,平成20年(行ク)第1号訴訟参加申立事件
口頭弁論終結日平成21年11月11日
主文
1本件訴えを却下する。
2訴訟費用は原告ら(参加原告を含む。)の負担とする。
事実及び理由
第1当事者の求めた裁判
1原告ら(以下,参加原告を含め,「原告ら」という。)
(1)被告は,平成8年7月8日付けでなした換地処分に基づく清算金の徴収
及び支払いを行え。
(2)訴訟費用は被告の負担とする。
2被告
(1)本案前の答弁
ア本件訴えを却下する。
イ訴訟費用は原告らの負担とする。
(2)本案についての答弁
ア原告らの請求を棄却する。
イ訴訟費用は原告らの負担とする。
第2当事者の主張
1請求原因
(1)ア被告は可児市A地区内において土地改良事業を行うために設立された
土地改良区である。
イ原告らはいずれも被告の組合員である。
(2)ア岐阜県知事は,県営土地改良事業A地区B工区につき,平成8年7月
8日換地処分(以下「本件換地処分」という。)を行った。
イ岐阜県知事は,換地処分通知書において,清算金の徴収または支払い
は,換地設計統括表の2の地区総計表の清算金の徴収または支払いの方
法,時期欄に各記載のとおり行う旨記載し,同地区総計表の2の徴収また
は支払いの方法・時期欄には,「①県と土地改良区との清算土地改良法
89条の2第11項の規定に基づき,県は土地改良区と清算を行うものと
する。②土地改良区と権利者との清算徴収または支払いの場所被告事
務所。③徴収または支払いの時期・方法換地処分公告の日の翌日から3
ヶ月以内に一括にて徴収しまたは支払う。」と記載されている。
(3)本件換地処分はその頃公告され,公告の翌日に同換地処分の効力は発生
し,同日から3か月以内に被告は清算金の徴収及び支払いをする義務が生じ
た。
しかるに,被告は何ら正当な理由なく,法に基づく清算金の徴収及び支払
いを行わず漫然と放置し,著しく公権力の行使を怠っている。
(4)原告らは,清算金の徴収及び支払いの事務が既に10年以上も全く手が
つけられずにいるため,徴収されるべき金員に損害金が付加されることもあ
りうる一方,他方では当然支払われるべき清算金が支払われていないため,
本来なら支払いを得て費消したり運用したりしうる機会を逸しており,支払
いを受けられないために多大な損害を受けている。
原告Cは,清算金1167円の徴収を義務づけられている。
原告Dは,ある土地について35万9113円の支払いがあるとされ,他
の土地については29万5265円の徴収があるとされている。この他,E
と共有する土地について6万8444円の支払い,Fと共有する土地につい
て24万4081円の支払い,G外3名と共有する土地について3万258
3円の支払いがあるとされている。
以上の事情から,本訴請求をもってする以外には,被告の違法の是正を実
現して原告らを含む組合員の受ける重大な損害を回避する方法はない。
(5)よって,原告らは,被告に対し,行政事件訴訟法37条の2に基づき,
本件換地処分に基づく清算金の徴収及び支払いを行うことを求める。
2被告の本案前の主張
(1)被告は,次のとおり本件訴訟における被告適格を欠く。
ア本件義務付け訴訟は,行政事件訴訟法3条の抗告訴訟の一類型であり,
抗告訴訟とは,「行政庁の公権力の行使に関する不服の訴訟」である。
同法11条は,抗告訴訟における被告適格を「行政庁」と定めている。
「行政庁」とは,国又は公共団体の機関で,具体的法令に基づき国又は
公共団体の意思を外部に決定表示する権限を有するものであり,「行政
庁」にあたるかどうかの判断は,具体的な権限行使について定めている法
規によって定まるから,必ずしも,国家行政組織法上の行政機関とは一致
しない。
義務付け訴訟で言えば,法令上「一定の処分をすべき」立場にある「行
政庁」が被告とされる。
イ土地改良事業(ほ場整備事業)は,事業主体が土地改良区,国・都道府
県営や市町村のいずれであるかによって区別されるが,本件の土地改良事
業(ほ場整備事業)は岐阜県が事業主体である。
土地改良区が事業主体の場合は,土地改良区が「行政庁」として,土地
改良事業計画の策定・変更,換地計画の策定,換地処分等,土地改良事業
に必要な行政処分を全般的に行う。
国営・県営事業においても,維持管理団体としての土地改良区は設立さ
れるが,土地改良区が事業主体となる場合と異なり,上記のような行政処
分を行うのは,国であれば農林水産大臣であり,県であれば知事である。
ただし,国営・県営事業においても,土地改良区が国や県から土地改良
事業に関して一定の処分を行う権限を与えられている場合には,その限度
で,当該土地改良区は「行政庁」たる地位を取得する。
ウ本件では,平成8年7月8日付で,岐阜県知事により本件換地処分がな
されたことが通知されており,本件換地処分の主体は岐阜県である。
そして,本件換地処分において,本来,地元権利者との間で清算金の徴
収又は支払いを行う主体も岐阜県であるから,岐阜県が「行政庁」であ
る。
本来の土地改良事業主体でない被告が,地元権利者との間で清算金の徴
収又は支払いという処分を行うには,そのための法令上の権限が与えられ
ている必要がある。
しかし,被告にはそのような法令上の権限が与えられていないから,
「一定の処分をすべき」,「行政庁」にはあたらない。
(2)換地処分に基づく清算金の徴収及び支払いは,次のとおり行政処分でな
いから,行政事件訴訟法37条の2の要件がない。
ア土地改良法には都道府県営土地改良事業の場合の清算金の強制徴収の定
めは存在せず,地方自治法による。
地方自治法によると,普通地方公共団体の歳入を納期限までに納付しな
い者があるときは,普通地方公共団体の長は期限を指定してこれを督促し
なければならない(同法231条の3第1項)。県営土地改良事業におけ
る清算金の徴収金は上記の歳入である。普通地方公共団体の長は上記の督
促をした場合は,条例の定めるところにより手数料・延滞金を徴収するこ
とができる(同法231条の3第2項)。
普通地方公共団体は,清算金につき上記の督促を受けた者が指定された
期限までに納付すべき金額を納付しないときは,清算金及びその手数料・
延滞金について,地方税の滞納処分の例により処分することができる(同
法231条の3第3項)。
しかし,土地改良区に滞納処分の権限を認めた規定はなく,都道府県営
土地改良事業の場合,清算金の徴収に関し土地改良区には普通地方公共団
体に認められている滞納処分権限がない。これは,都道府県営土地改良事
業における清算金の徴収の場面に関し,土地改良区には,普通地方公共団
体と異なって公権力性がないことを意味する。
イ清算金の額,徴収・支払いの方法・時期は換地計画において定められ
(土地改良法52条の5第3号),換地処分通知書(各筆換地等明細書の
清算金の表示)をもって通知され,そして上記換地処分の通知が完了する
と換地処分のあった旨の公告がされ,清算金は確定する。したがって,上
記公告後に清算金の額はもちろん,徴収・支払いの方法を定める手続(例
えば,徴収・支払いの通知)を要しない。
換地処分通知と公告により確定した清算金については,徴収・支払いの
手続のための格別の行政処分は予定されていない。
そうとすると,本件の清算金の徴収・支払いについても,土地改良事業
主体で本来の清算事務を行うべき岐阜県に対してすら行政事件訴訟を提起
できないのであり,いわんや土地改良区にすぎない被告について行政訴訟
の対象となることはおよそあり得ない。
ウ土地改良法39条3項は,土地改良区が市町村に対して清算金を徴収す
るよう請求することができ,同条4項は,市町村は3項の規定による請求
があった場合には,地方税の滞納処分の例によりこれを処分する,とされ
ているように,市町村には強制徴収(滞納処分)権限が認められてはいる
が,土地改良区自体には認められていない。あくまでも,土地改良区は市
町村に対し強制徴収(滞納処分)権限の発動を求めることができるだけで
ある。
なお,同条5項では,市町村が3項の請求を受けた日から30日以内に
その処分に着手せず,又は,90日以内にこれを終了しない場合には,理
事は地方税の滞納処分の例により,都道府県知事の認可を受けて,その処
分をすることができるとされている。つまり,同項によると,この場合の
滞納処分権限は,都道府県知事の認可を受けて土地改良区の「理事」に認
められているものであって,土地改良区には認められるものではない。
3被告の本案前の主張に対する原告らの反論
(1)岐阜県知事は,本件換地処分にかかる清算金について,土地改良法89
条の2第11項に基づき,被告との間で一括して徴収及び交付の事務を完了
している。したがって,被告は,各権利者との間で清算金の徴収及び交付の
事務を行うべき権限を有し,かつ義務を負う。
(2)土地改良法39条は土地改良区による賦課金等の徴収方法等について定
めており,同条3項は「土地改良区は,前二項の規定による督促又は請求を
した場合において,その督促又は請求を受けた者がその督促又は請求で指定
する期限までにこれを完納せず,又は履行しないときは,市町村に対し,そ
の徴収(夫役又は現品については,これに代るべき金銭の徴収)を請求する
ことができる。」,同条4項は,「市町村は,前項の規定による請求があっ
た場合には,地方税の滞納処分の例によりこれを処分する。」と規定してい
る。そして,39条に定める「賦課金等」とは,同法38条に「清算金(第
89条の2第13項の規定により徴収すべき仮清算金等を含む。以下次条ま
でにおいて「賦課金等」と総称する。)」とされているから,都道府県の土
地改良事業でありながら,都道府県が権利者から直接徴収するのに代わって
土地改良区から清算金を徴収したことによって土地改良区に清算金の徴収権
限が生じた同法89条の2第11項から13項の規定による清算金について
も土地改良法39条の適用がある。したがって,被告は,土地改良法39条
に基づき,本件換地処分に基づく清算金の支払いを督促ないし請求しなけれ
ばならないし,それにもかかわらず土地の権利者が支払わない場合には,市
町村に委任して,強制徴収することができる。
4請求原因に対する認否
(1)請求原因(1)アは認める。イのうち,原告C,原告Dが被告の組合員であ
ることは認め,その余は否認する。
(2)同(2)は認める。
(3)同(3),(4)は否認ないし争う。
第3当裁判所の判断
1本件の土地改良事業(ほ場整備事業)の事業主体は岐阜県である(弁論の全
趣旨)から,本件換地処分に基づく清算金の徴収及び支払いの権限を有するの
は岐阜県であると認められる(土地改良法89条の2第10項,54条の
3)。
もっとも,国又は都道府県は清算金を土地改良区の地区内にある土地につき
土地改良法5条7項に掲げる権利を有する者(以下「権利者」という。)に支
払い,又はこれらの者から徴収する場合には,農林水産省令(土地改良法施行
規則68条の4の4)の定めるところにより,清算金をこれらの者に支払い,
又はこれらの者から徴収するのに代えて,これらの者に支払うべきすべての清
算金の額を合計して得た額に相当する額の金銭をその土地改良区に支払い,又
はこれらの者から徴収すべきすべての清算金の額を合計して得た額に相当する
額の金銭をその土地改良区から徴収することができる(土地改良法89条の2
第11項前段)。この場合には,国又は都道府県は,権利を有する者に係る清
算金の明細を明らかにして,かつ支払い又は徴収の理由を明らかにした書面を
添えて,その支払い又は徴収の期日の相当期間前までに,その旨を土地改良区
に通知しなければならない(土地改良法89条の2第11項後段,土地改良法
施行規則68条の4の4)。そして,これにより金銭の支払いを受けた土地改
良区は,国又は都道府県からの清算金の明細に従い,遅滞なく清算金の支払い
をしなくてはならず(土地改良法89条の2第12項,土地改良法施行規則6
8条の4の5),徴収される金銭を国又は都道府県に納付した土地改良区は,
徴収の期日の相当期間前までに,その地区内にある土地につき権利を有するも
のに通知し(土地改良法施行規則68条の4の6),国又は都道府県からの徴
収の明細に従い,清算金を土地の権利者から徴収することができることとなる
(土地改良法89条の2第13項)。
2そこで,岐阜県が土地改良法89条の2第11項前段に基づき,被告に対
し,岐阜県が支払うべき清算金の総額に相当する額の金銭を支払ったのか否
か,被告から,岐阜県が徴収すべき清算金の総額に相当する額の金銭を徴収し
たのか否か,岐阜県が被告に対し,土地改良法89条の2第11項後段に定め
る通知をしたかにつき検討する。
証拠(岐阜県農政部農地計画課に対する調査嘱託(第1,2回))によれ
ば,岐阜県が支払うべき清算金の総額と,岐阜県が徴収すべき清算金の総額が
同額であり,岐阜県は,土地改良法89条の2第11項前段に基づき,被告に
対し,清算金の総額に相当する額の支払い又は徴収をしていないこと,岐阜県
は被告に対し,土地改良法89条の2第11項後段に定める通知をしていない
ことが認められる。
そうとすると,被告には,本件換地処分に基づく清算金の徴収及び支払いの
権限はないことになる。
なお,岐阜県農政部農地計画課長は,調査嘱託につき,「遅くとも,県営土
地改良事業A地区B工区の権利者会議を開催した平成7年9月5日までには,
土地改良法89条の2第11項の規定に基づき,県と土地改良区との間で清算
を行うこと,各権利者との清算金の支払い・徴収は被告が同区事務所において
実施すること及び県と被告の間で清算金の現実の徴収・支払いを行わないこと
について合意に達しており,土地改良法89条の2第10項の規定により準用
する同法54条の2第3項の規定により清算金が確定する日(換地処分公告が
あった日の翌日)である平成8年7月24日に県と被告との間で清算金の相殺
的処理が完了したものと承知している。」と回答(第2回)しているが,土地
改良法89条の2第11項所定の手続がとられていない以上,岐阜県と被告と
の間で清算はされていないというべきであるから,岐阜県農政部農地計画課長
の同見解は採用できない。
3以上によれば,その余の点につき判断するまでもなく,本件訴えは不適法で
あるから,これを却下すべきである。
よって,主文のとおり判決する。
岐阜地方裁判所民事第2部
裁判長裁判官内田計一
裁判官永山倫代
裁判官山本菜有子

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