弁護士法人ITJ法律事務所

裁判例


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         主    文
     原判決を破棄する。
     本件を仙台高等裁判所に差戻す。
         理    由
 上告代理人寺井俊正の上告理由第一点について。
 原判決においては、本件「選挙の開票が即日青森市内十開票区において開始せら
れ、そのうちa開票区では開票場所であるD小学校において、開票管理者Eが、開
票立会人F、G、H、I、J、K、L、M、N、Oの十名立会の下に開票し、翌二
十四日午前五時頃投票の点検を了し、開票録を作成して右管理者並に立会人全員が
これに署名し、また投票を有効、無効に区別して封筒に入れ、これまた全員の印鑑
を以て封印して開票を終了し、一旦開票所を閉鎖して一同散会したこと、その直後
右開票の結果を選挙長Pに報告する前に、前記封印した投票入封筒の封緘を破棄し、
在中の投票を取出して投票の再調査をしたこと、は当事者間に争がない」との事実
を確定した。そして、原判決はさらに、「本件選挙のa開票区の開票管理人Eは、
開票終了の直後即ち昭和二十六年四月二十四日午前七時過頃……投票の再調査を決
意し、係りの者に既に大部分帰宅した開票係員及び開票立会人の招集その他投票再
調査の準備を命じ、同日午前八時過ぎ頃からQ市会議事堂内において、開票立会人
M、R、Oの三名及び係員等十数名立会の下に投票の再調査をした」こと及び「投
票の再調査は、先づ開票管理者Eから、前記開票立会人、開票係員十数名の者に、
投票の計数に相違しているところがあるから再調査する旨告げた上、その面前で投
票入封筒の封印を破毀して在中の投票を取り出し、投票全部について調査した」こ
とを認定している。
 公職選挙法によれば、開票管理者は、予め開票の場所及び日時を告示しなければ
ならないし(六四条)、選挙人は、その開票所につき開票の参観を求めることがで
きる(六九条)。すなわち、開票事務は公開されなければならない。各候補者は開
票立会人となるべき者一人を開票管理者に届け出ることができるし(六二条)、開
票には開票立会人の立会を要し、投票の効力は開票立会人の意見をきいて決定され
る(六七条)。開票録には立会人が署名捺印することを要し(七〇条)、開票管理
者は、投票点検済の投票の有効、無効を区別して、それぞれ別の封筒に入れ、開票
立会人と共に封印をしなければならない(施行令七六条)ことになつている。
 本件についてみるに、これらの手続に従つて適法に開票がなされその終了した後
において、開票管理者は、予め告示された日時及び場所以外において、さきに十名
の開票立会人をもつて適法になされた投票入封筒の封印を僅か三名の開票立会人と
開票係員の面前で破毀して、在中の投票を取り出し、投票全部について再調査した
ことは、公職選挙法の選挙規定に違反するものといわなければならぬ。
 しかるに原判決は、「再調査の措置が選挙の規定に違反するものとしても、その
こと自体によつて直ちに原告等主張のような不正行為の介在を推測し得るものでは
ない」と判示し、当時の具体的事情につき証拠調をなし、不正行為の行われたこと
を認めるに足る証拠はなく、不正行為の介在し得る余地のなかつたことを認めるに
十分である、と判示し、もつて上告人等の本訴請求を棄却したのである。
 だが、前記違法事実は、著しく選挙の公正を疑わしめるに足るものであつて、不
正行為が行われ得る可能性を有することは明らかである。従つて、かかる違法事実
は、現実に不正行為が行われたと否とにかかわらず、常に選挙の結果に異動を及ぼ
す可能性があるから公職選挙法二〇五条にいわゆる「選挙の結果に異動を及ぼす虞
がある場合」に該当するものといわなければならぬ。もし、原判決のごとき見解を
とると、前記のような違法な手続が行われたときでも、これに関与した関係者につ
いて証拠調をし、不正事実の発覚しない限り、選挙の効力は保持されることとなる。
あえて違法手続に関与したほどの者を取調べてみても、それらの者が口裏を合せて
おれば、現実に不正行為が行われた場合でも不正行為は表面に現われず、従つて選
挙は有効と認められる不都合な結果を生ずるに至るであろう。かくては、選挙の公
正は、著しく疑惑を増すことになる。されば、原判決はこの点において違法があり、
論旨は理由があるから、その余の論旨について判断を加えるまでもなく、原判決は
破棄さるべきである。
 そして、上告人等は本件選挙の全部無効を請求しているが、本件選挙無効の原因
は、a開票区だけに関するものであるから、本件においてはa開票区における選挙
のみを無効とするを相当とし(選挙の一部の無効)、上告人等その余の請求は理由
がない。さて、選挙の一部無効を判決する場合には、「当選に異動を生ずる虞のな
い者」に限り当選を失わない旨をあわせて判決することを要する(二〇五条二項三
項)。しかるに、原判決の確定した事実だけでは、各候補者のa開票区以外の区域
における得票数等を知ることを得ず従つて「当選に異動を生ずる虞のない者」を区
分することができるかどうかを判断することができないから、この点を審理するた
め本件は原裁判所に差戻すを相当とする。
 よつて、民訴法四〇七条により裁判官全員の一致で主文のとおり判決する。
     最高裁判所第一小法廷
         裁判長裁判官    真   野       毅
            裁判官    斎   藤   悠   輔
            裁判官    岩   松   三   郎
            裁判官    入   江   俊   郎

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