弁護士法人ITJ法律事務所

裁判例


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         主    文
     本件上告を棄却する。
     上告費用は上告人の負担とする。
         理    由
 上告代理人岸本亮二郎、同川本修一の上告理由について
 物上保証人所有の甲不動産と債務者所有の乙不動産とを共同抵当の目的とする順
位一番の抵当権が設定されるとともに乙不動産に後順位の抵当権が設定されている
場合において、甲不動産につき先に競売がされ、その競落代金の交付により一番抵
当権者が弁済を受けたときは、物上保証人は、後順位抵当権者に優先して、乙不動
産に対する一番抵当権を代位により取得すると解すべきことは、当裁判所の判例と
するところであり(最高裁昭和四一年(オ)第一二八四号同四四年七月三日第一小
法廷判決・民集二三巻八号一二九七頁参照)、右の理は、両不動産が同時に競売さ
れた場合についても異ならないというべきである。したがつて、原審の適法に確定
した事実関係のもとにおいては、第一審判決添付物件目録(一)及び(二)記載の物件
の売却代金が同目録(一)ないし(三)記載の物件の第一順位の共同抵当権者に対し配
当されることによつて同目録(一)及び(二)記載の物件の所有者である被上告人らは、
同目録(三)記載の物件上の第一順位の抵当権につき代位するとした原審の判断は、
正当として是認することができ、その過程に所論の違法はない。論旨は、これと異
なる見解に基づき原判決を論難するものにすぎず、採用することができない。
 よつて、民訴法四〇一条、九五条、八九条に従い、裁判官香川保一の反対意見が
あるほか、裁判官全員一致の意見で、主文のとおり判決する。
 裁判官香川保一の反対意見は、次のとおりである。
 民法第三九二条の規定は、共同抵当の目的たる数個の不動産が同時に競売された
場合には、その所有者が債務者、物上保証人又は第三取得者のいずれであるかを問
わず、各不動産の価額に準じて共同抵当の被担保債権の負担を分けて(以下この負
担額を「分担額」という。)、それぞれ配当が実施されることとするとともに(同
条第一項)、ある目的不動産のみが競売された場合には、共同抵当権者は、その不
動産の代価から右の分担額を超えて債権の全部について弁済を求め得るが、そのた
めにその債権の全部又は一部の弁済を受け得なかつた後順位抵当権者は他の目的不
動産の分担額を限度として当該不動産の共同抵当権について代位し、自己の債権の
弁済を求めることができるものとしているのであつて(同条第二項)、その趣旨は、
共同抵当の目的不動産についての後順位抵当権者、配当要求をした債権者その他の
利害関係人の利害を調整するとともに、共同抵当の目的不動産の余剰担保価値の活
用を可能ならしめようとするものである。
 ところが、他方、共同抵当の目的不動産で債務者以外の者、すなわち物上保証人
又は第三取得者(以下「物上保証人等」という。)の所有に属するもののみが競売
され、その分担額を超えて共同抵当権の債権の全部又は一部が弁済された場合には、
民法第五〇〇条、第五〇一条の規定により物上保証人等は、債務者に対する代位弁
済による求償債権について他の目的不動産上の共同抵当権にも弁済代位することが
できるものとしていることから、その弁済代位する物上保証人等と民法第三九二条
第一項又は第二項の場合における後順位抵当権者又は目的不動産の所有者との利害
の調整が問題となるのである。
 そこで、まず、民法第三九二条第一項の同時配当の場合には、共同抵当の目的た
る各不動産のうちに物上保証人等の所有に属するものがあるときでも、各不動産は、
共同抵当の被担保債権を分担額によつて負担を分つこととしている限りにおいて、
後順位抵当権者はもちろん各不動産の所有者間の利害は既に調整されているのであ
つて、この場合に、さらに物上保証人の右分担額の出捐についてまで弁済代位を他
の不動産について認めることは、実質的には共同抵当の負担を物上保証人以外の者
の所有不動産のみによつて負担させることに帰し、同項の規定に反するのみならず、
同時競売の場合には、いわゆる消除主義を探る競落の効果として絶対的に消滅する
共同抵当権については、物上保証人が弁済代位するに由ないものである。思うに、
同時配当の場合にも、物上保証人の弁済代位を後順位抵当権者等の利益よりも優先
して保護すべきであるとする考え方は、物上保証人の弁済代位による求償債権の回
収確保の期待を後順位抵当権の設定等により失わせるべきでないことを根拠とする
ようであるが、それは、問を以て問に答えるものであつて根拠とするに足らず、後
順位抵当権者についても民法第三九二条第一項の規定による分担及び同条第二項の
規定による代位の期待が同じく存するのであつて、そのいずれを優先保護すべきか
についての説得力のある合理的な理由が問題となるのである。
 次に民法第三九二条第二項の場合における後順位抵当権者と弁済代位する物上保
証人との利害の調整について考えるに、競売された物上保証人所有の不動産又は他
の目的不動産上に後順位抵当権が存する場合には、右の物上保証人の弁済代位の期
待と民法第三九二条の規定を前提としての共同抵当の目的不動産の余剰担保価値又
は代位の期待のいずれを優先して保護すべきかの問題が生ずるのである。そして、
右の調整を考える場合には、民法第五〇一条第三号及び第四号の規定の趣旨が重要
な拠り処となるところ、これらの規定によつて、物上保証人が他の物上保証人又は
第三取得者所有の目的不動産上の共同抵当権に弁済代位する場合には、分担額に応
じて代位すべきであつて各不動産の分担額を超えて代位することはできないことと
されている趣旨は、共同抵当権についての物上保証人の弁済代位も、利害関係人た
る他の物上保証人又は第三取得者に対する関係においては、当該物上保証人が自己
の不動産を共同抵当債務の担保に供した以上、自己の不動産の分担額の負担義務は
これを甘受すべきであり、実質的には自己の分担額を超える出捐部分の求償債権に
ついてのみ、しかも、他の不動産の当該分担額を限度として弁済代位するにとどま
るものとしているのである。このような弁済代位がされても、当該不動産上の後順
位抵当権者に対しては何ら不利益をもたらすものではなく、その間の利害の調整が
合理的に図られているということができる。そして、右のような物上保証人の弁済
代位を制約している趣旨から云えば、債務者所有の不動産上の後順位抵当権者に対
する関係においても、その不動産の分担額を限度としてしか弁済代位を認めないこ
ととするのが最も合理的というべきである。
 以上を要するに、物上保証人の弁済代位は、利害関係人に対する関係においては、
自己の所有不動産の分担額については当然自己負担の義務があることを前提とし、
右の分担額を超える出捐部分の求償債権についてのみ他の不動産の分担額を限度と
して代位を認めるのが相当であり、自己の所有不動産上の後順位抵当権者に対して
は、物上保証人は当然その負担の義務があるのであるから、物上保証人の弁済代位
も、後順位抵当権者の民法第三九二条第二項の規定による代位に劣後するものと解
すべきである。
 したがつて、かかる場合についても、物上保証人の代位が後順位抵当権者の代位
に優先すべきものとした原審の判断には、法令の解釈適用の誤りがあり、右の違法
が原判決の結論に影響を及ぼすことは明らかであるから、論旨は理由がある。そし
て、右に説示したところによれば、原審の適法に確定した事実関係のもとにおいて
は、上告人の請求は理由があるから、上告人の請求を棄却すべきものとした原判決
を破棄し、これと同旨の第一審判決を取り消したうえ、上告人の請求を認容すべき
である。
 よつて、以上述べたところと異なる結論及び理由を採る多数意見には賛同するこ
とができない。
     最高裁判所第二小法廷
         裁判長裁判官    香   川   保   一
            裁判官    大   橋       進
            裁判官    牧       圭   次
            裁判官    島   谷   六   郎
            裁判官    藤   島       昭

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