弁護士法人ITJ法律事務所

裁判例


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         主    文
     本件上告を棄却する。
     上告費用は上告人の負担とする。
         理    由
 上告代理人田中徳一同高木定義同大内為雄の各上告理由は後記のとおりであつて、
これに対し当裁判所は次のとおり判断する。
 上告代理人田中徳一の上告理由第一、二点の論旨は、原判決がその挙示する証拠
により本件売買契約の趣旨を解釈してなした(一)所論残代金の支払時期は賃借人
たるDの家屋明渡のときであつたこと(二)右は専ら被上告人(控訴人)の利益の
ために定められた約定であつたこと(三)手附金の抛棄若しくは倍戻による契約解
除権留保の特約は民法五五七条に規定する通常の手附金約款と同趣旨を約定したも
のであつたこと等の事実認定を非難するに帰着し「最高裁判所における民事上告事
件の審判の特例に関する法律」(昭和二五年五月四日法律一三八号)にいわゆる「
法令の解釈に関する重要な主張を含む」ものとは認められない。
 同第六点の論旨は、本件契約当時本件土地建物の価格が高騰することは何人も予
見し得なかつたのであるから、原審は価格変動に関する事実を誤認したものであり
原判決には理由不備の違法があるというのであるが、本件契約当時において物価が
将来さらに高騰することを予見し得べきであつたとの原判決の説示に誤りはない。
論旨引用の大審院判例は賭博罪の成否につき取引所の相場に関し説示されたに過ぎ
ない刑事々件の判例であつて本件の場合に適切でない。のみならず、原判決は当事
者が物価高騰の事情変更を予見し得たことのみをもつて契約の効力に影響を及ぼす
べき事情の変更がなかつたものと即断したのではなく、本件売買契約については、
代金の半ばに近い手附金が支払を了していたこと、残代金の支払時期はDが家屋明
渡を完了するときと約定されていたのに上告人(被控訴人)はDに対し家屋の明渡
を故らに阻止したことその他諸般の事情を考慮に入れて本件契約どおりの効果を発
生させても著しく信義衡平の原則に反しないと判断したものであり、右の判断は正
当と認められるので原判決には所論のような違法はない。
 同代理人のその他の論旨及び上告代理人高木定義同大内為雄の各上告理由は、い
ずれも前記法律一号乃至三号に該当せず、また同法にいわゆる「法令の解釈に関す
る重要な主張を含む」ものと認められない。
 よつて、民訴四〇一条九五条、八九条に従い、裁判官全員の一致で、主文のとお
り判決する。
     最高裁判所第三小法廷
         裁判長裁判官    井   上       登
            裁判官    島           保
            裁判官    河   村   又   介
            裁判官    小   林   俊   三
            裁判官    本   村   善 太 郎

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