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平成23年4月26日判決言渡同日原本領収裁判所書記官
平成20年(ワ)第28364号不正競争行為差止等請求事件
口頭弁論終結日平成23年1月25日
判決
東京都千代田区<以下略>
原告出光興産株式会社
訴訟代理人弁護士鈴木正勇
同相澤愛
東京都中野区<以下略>
被告阿州エンジニアリング株式会社
東京都中野区<以下略>
被告A
被告ら訴訟代理人弁護士矢花公平
主文
1被告らは,別紙目録1ないし3記載の各図面及び図表をポリカーボ
ネート製造装置の建設,改造,増設,補修,運転管理に使用してはな
らない。
2被告らは,別紙目録1ないし3記載の各図面及び図表を第三者に開
示してはならない。
3被告らは,別紙目録1ないし3記載の各図面及び図表が記録された
文書,磁気ディスク,光ディスクその他の記録媒体を廃棄せよ。
4被告らは,原告に対し,連帯して2億8700万円及びこれに対す
る平成20年10月11日から支払済みまで年5分の割合による金
員を支払え。
5原告の被告らに対するその余の請求をいずれも棄却する。
6訴訟費用は,これを30分し,その1を原告の負担とし,その余は
被告らの負担とする。
7この判決の第1項ないし第4項は,仮に執行することができる。
事実及び理由
第1請求
1主文第1項ないし第3項と同旨
2被告らは,原告に対し,連帯して2億9700万円及びこれに対する平成2
0年10月11日から支払済みまで年5分の割合による金員を支払え。
第2事案の概要
本件は,出光石油化学株式会社(以下「出光石油化学」という。)を吸収合
併した原告が,被告らが,株式会社ビーシー工業(以下「ビーシー工業」とい
う。)及びその代表取締役であるB(以下「B」という。)並びに有限会社C
商事(以下「C商事」という。)及びその代表取締役であるC1(以下「C1」
という。)と共同して,出光石油化学が保有していた営業秘密であるポリカー
ボネート樹脂(以下「PC樹脂」という。)の製造装置(以下「PCプラント」
という。)に関する別紙目録1ないし3記載の各図面及び図表に記載された情
報(以下「本件情報」という。)を出光石油化学の従業員をして不正に開示さ
せて取得し,その取得した情報を他社に開示した行為が,不正競争防止法2条
1項8号の不正競争行為又は民法709条の不法行為に該当する旨主張して,
被告らに対し,不正競争防止法3条1項に基づく上記各図面及び図表の使用,
開示の差止め,同条2項に基づく上記各図面及び図表が記録された記録媒体の
廃棄,同法4条(予備的に民法709条)に基づく損害賠償を求めた事案であ
る。
なお,原告が,ビーシー工業及びB並びにC商事及びC1に対し,本件と同
様の請求をした訴訟(東京地方裁判所平成19年(ワ)第4916号,平成2
0年(ワ)第3404号不正競争行為差止等請求事件。以下「別件訴訟」とい
う。)において,東京地方裁判所は,平成22年3月30日,原告のビーシー
工業及びBに対する請求を棄却し,C商事及びC1に対する請求を一部認容す
る旨の判決(乙9)をし,その控訴事件が知的財産高等裁判所に係属中である。
1争いのない事実等(証拠の摘示のない事実は,争いのない事実又は弁論の全
趣旨により認められる事実である。)
(1)当事者
ア原告は,昭和15年3月30日に設立された,石油精製及び油脂製造業,
石油化学工業等を目的とする株式会社である。
出光石油化学は,昭和39年9月10日に設立された,石油化学製品の
製造及び販売等を目的とする株式会社であり,原告がその発行済株式全部
を保有する原告の完全子会社であった。
原告は,平成16年8月1日,出光石油化学を吸収合併し,その権利義
務の一切を承継した。
イ被告阿州エンジニアリング株式会社(平成20年3月27日に「株式会
社三共プロセス・サービス」から現商号に商号変更。以下「被告会社」と
いう。)は,平成2年11月30日に設立された,海外プラント建設現場
における設計,据付管理業務代行,海外プラント建設工事の管理業務等を
目的とする株式会社であり,被告A(以下「被告A」という。)は,その
代表取締役である。
(2)PC樹脂の製造技術等(甲1,16,30,弁論の全趣旨)
アPC樹脂は,1953年(昭和28年)に,ドイツのバイエル社によっ
て開発された合成樹脂であり,それまでの汎用プラスチックに比べ,耐熱
性,耐衝撃性に優れた性質を有することから,電子機器,OA機器,自動
車部品,建材,医療機器,日用品など,様々な用途に使用されてきた。特
に近年では,パソコン筺体,DVD等の記録媒体の基板,液晶ディスプレ
イ用のバックライト反射板などの用途において大きく需要を伸ばしてい
る。
PC樹脂の製造技術には,界面重合法(「ホスゲン法」とも呼ばれる。)
と溶融重合法(「エステル交換法」とも呼ばれる。)の2種類の方法があ
る。界面重合法は,ビスフェノールAの苛性ソーダ水溶液と塩化カルボニ
ル(通称「ホスゲン」)とを,水に不溶な塩化メチレンなどの有機溶剤を
用い,触媒存在下で水相と有機溶剤相の界面で重合させる方法であり,混
ざらない二つの相の反応界面を増加させること及び反応過程で生じる
塩(塩化ナトリウム)を樹脂から取り除くことが重要な技術課題となる。
他方,溶融重合法は,高温・高真空下で溶融させたビスフェノールAとジ
フェニルカーボネートとを,触媒存在下でエステル交換反応により重合さ
せる方法であり,高温下での反応のため,反応中に生成する原料や樹脂の
分解を防止することが重要な技術課題となる。
イPCプラントを設計するに当たって,その根幹となる技術資料は,
Piping&InstrumentDiagram(以下「P&ID」という。)及びProcess
FlowDiagram(以下「PFD」という。)である。P&IDは,PCプラ
ント内の各機器,それらをつなぐ配管,装置運転を制御するための計器類
をダイヤグラム形式で工程ごとに表した図面であり,PFDは,プラント
内の機器,配管を流通する流体の種類,流量,温度・圧力などの運転条件
が記載された図表である。また,これらの技術資料に基づいて,PCプラ
ント内で使用されるすべての機器の仕様が定められ,その情報を記載した
機器図が作成される。
P&ID,PFD及び機器図は,PCプラントの建設,運転,管理等に
使用される不可欠な技術資料である。
(3)原告及び出光石油化学によるPC樹脂の製造等(甲16,25,30,3
1,弁論の全趣旨)
原告は,昭和32年にPC樹脂製造の基礎研究に着手し,昭和35年8月
に自社技術によるPCパイロットプラントを完成させ,本格的な製造研究に
乗り出した。
その後,原告及びその完全子会社である出光石油化学は,研究開発,技術
改良等を経て,界面重合法による自社技術を確立させ,昭和44年4月に原
告徳山工場にPCプラントを完成させ,PC樹脂の製造を開始した。
さらに,出光石油化学は,昭和60年に千葉工場第1PCプラントを,平
成2年に千葉工場第2PCプラントを建設し,それぞれPC樹脂の製造を開
始し,その後出光石油化学を吸収合併した原告は,千葉工場の各PCプラン
トにおいてPC樹脂の製造を行っている。
2争点
本件の争点は,原告主張の本件情報が「営業秘密」(不正競争防止法2条6
項)に当たるかどうか(争点1),被告らが,本件情報について,不正開示行
為であること若しくは不正開示行為が介在したことを知って,又は重大な過失
によりこれを知らないで,本件情報を取得し,開示する行為(不正競争防止法
2条1項8号の不正競争行為)を行ったかどうか(争点2),被告らの不正競
争行為により賠償すべき原告の損害額(争点3),仮に被告らによる不正競争
行為が認められない場合,被告らの行為が原告に対する民法709条の不法行
為を構成するかどうか(争点4−1)及び被告らの不法行為により賠償すべき
原告の損害額(争点4−2)である。
第3争点に関する当事者の主張
1争点1(本件情報の営業秘密性)について
(1)原告の主張
現在,PC樹脂の製造技術を開発・保有している企業は,原告を含めて世
界で8社しかなく,それぞれの主要な製造工程及びノウハウは公開されてお
らず,PC樹脂の製造は,これらの各企業が単独又は他社と共同して行って
いる。
原告及び出光石油化学は,多大な期間,労力,資金を費やした研究開発の
結果,独自にPC樹脂の製造技術を開発し,それに基づいて,昭和60年に
千葉工場第1PCプラントを建設し,PC樹脂を製造してきた。
そして,原告及び出光石油化学は,上記の過程において,PC樹脂の製造
技術開発の成果及びノウハウが集積されたものとして,別紙目録1記載の各
図面(P&ID),同目録2記載の各図表(PFD)及び同目録3記載の各
図面(機器図)(以下,これらを総称して「出光基本設計図書」という。)
をそれぞれ作成し,千葉工場第1PCプラントの建設,改造,増設,補修,
運転,管理等に使用してきた。なお,上記千葉工場第1PCプラントに係る
P&ID(以下「出光P&ID」という。)は,設計当初はトレーシングペ
ーパーに手書きして作成され,その後もたびたび手書きによる修正が加えら
れてきたが,平成13年にCAD(ComputerAidedDesign。コンピュータ
を利用した製図)システムによって作り直された(以下,出光P&IDのう
ち,平成13年のCAD化前のものを「平成13年CAD化前の出光P&I
D」,平成13年のCAD化後のものを「平成13年CAD化後の出光P&
ID」という場合がある。)。
また,原告及び出光石油化学は,出光基本設計図書を,その作成以来,千
葉工場において保管し,これらに記載された情報(本件情報)を秘密として
管理してきた。
以上のとおり,本件情報は,原告及び出光石油化学によって秘密として管
理され,PC樹脂の製造技術として有用な情報であって,しかも,公然と知
られていないものといえるから,不正競争防止法2条6項の「営業秘密」に
当たる。
(2)被告らの主張
原告の主張は争う。
2争点2(被告らによる不正競争行為の有無)について
(1)原告の主張
ア被告らによる本件情報の不正取得及び不正開示
(ア)被告らは,ビーシー工業及びその代表取締役であるB並びにC商事
及びその代表取締役であるC1と共同して,PC樹脂の製造技術を欲し
ていた中国法人である中国藍星(集団)総公司(以下「藍星」という。)
に対し出光基本設計図書に記載された情報(本件情報)を開示すること
により利益を得ることを企て,C1において出光石油化学の従業員をし
て本件情報を不正に開示させて取得した。
すなわち,平成15年ころ,藍星からPCプラントに係るP&ID,
PFD及び機器図の取得を依頼されたBは,被告Aに対し出光基本設計
図書を取得することを依頼し,これを受けた被告Aは,原告及び出光石
油化学の元従業員であるC1に対しその取得を依頼した。そして,その
依頼を受けたC1は,平成15年ころ,出光石油化学の従業員に働きか
けて,千葉工場で保管されている出光基本設計図書を持ち出させ,これ
らに記載された情報(本件情報)を開示させて取得した。
(イ)被告らは,C1から本件情報の提供を受けた上で,平成15年から
平成16年にかけて,各技術分野の技術者を集めたプロジェクト・チー
ム(以下「三共PT」という。)を立ち上げ,三共PTにおいて,藍星
が中国に建設を計画するPCプラントに適合するように出光基本設計
図書の修正等を行い,ビーシー工業作成名義のPCプラントの基本設計
図書(P&ID,PFD及び機器図を含む。)一式を作成した(以下,
この基本設計図書を「被告基本設計図書」という。)。
被告基本設計図書は,C1が被告会社に提出した別紙目録1ないし3
記載の各図面及び図表(出光基本設計図書)の複製物を一部修正したも
のであって,上記各図面及び図表と実質的に同一のものである。
(ウ)平成16年ころ,被告らは,被告基本設計図書をビーシー工業に引
き渡し,更にビーシー工業はこれらを藍星に引き渡した。
(エ)以上のような被告らの行為は,出光石油化学が保有する営業秘密で
ある本件情報について,不正開示行為であること若しくは不正開示行為
が介在したことを知って,又は重大な過失によりこれを知らないで,本
件情報を取得し,その取得した本件情報を開示する行為であり,不正競
争防止法2条1項8号の不正競争行為に該当する。
イ被告らが前記アの不正競争行為を行ったことは,次の諸点から明らかで
ある。
(ア)甲16添付の別紙図面8ないし14が別紙目録1記載の各図面の
一部を複製したものであること
甲16添付の別紙図面1ないし7(以下「甲16の図面1ないし7」
という。)は,原告及び出光石油化学が作成した平成13年CAD化後
の出光P&IDの一部であり,別紙目録1記載の各図面に含まれるもの
である。
一方で,甲16添付の別紙図面8ないし14(以下「甲16の図面8
ないし14」という。)は,被告会社の電気エンジニアリングマネージ
ャーの肩書で,電気技術者として三共PTに参加していたD(以下「D」
という。)が原告に提供した図面であり,被告基本設計図書に含まれる
P&IDの一部である。
甲16の図面8ないし14の右下の「TITLE」欄には「BCIndustrial
Company.Ltd.」との記載があるところ,この記載は,ビーシー工業の英
語表記であり,ビーシー工業の作成名義の図面であることを示してい
る。
甲16の図面1ないし7とこれらに対応する甲16の図面8ないし
14とを対比すると(具体的には,図面1と8,2と9,3−1と10
−1,3−2と10−2,4と11,5と12,6と13,7と14),
P&IDの主要な事項である,①主原料及び製品流体の流れ並びにそれ
らが直接関わる機器,②その他の流体等の流れ及びそれらが直接関わる
機器,③制御のための機器類及び信号ラインのいずれにおいてもほとん
ど同一である。
したがって,甲16の図面1ないし7と甲16の図面8ないし14
は,実質的に同一の図面である。
このことは,東京大学大学院工学系研究科化学システム工学専攻のE
教授(以下「E教授」という。)作成の技術鑑定結果報告(甲16)に
おいて,甲16の図面1ないし7と甲16の図面8ないし14につい
て,PC樹脂の製造技術の状況を前提にプロセスフロー図の類似性,主
要機器の類似性,各図面の比較検討を行った結果,極めて類似している
として,甲16の図面8ないし14は甲16の図面1ないし7を複製し
て作成したものと判断されていること,原告技術部担当課長F作成の報
告書(甲25)においても,原告のPC樹脂の製造技術の特徴を基にし
て,上記①ないし③の点について具体的かつ詳細に比較検討を行った結
果,甲16の図面9ないし14と甲16の図面2ないし7は実質的に同
一であると判断されていることからも裏付けられる。
そして,甲16の図面1ないし7及び甲16の図面8ないし14は,
その記載内容からも明らかなように極めて複雑精巧なものであり,その
記載が偶然一致するようなことはあり得ないこと,PC樹脂の製造技術
は,多くの専門的技術的ノウハウを要するものであり,原告を含む8社
を中心とする八つの企業グループしか同製造技術を保有していないこ
となどからすれば,被告基本設計図書の一部である甲16の図面8ない
し14は,別紙目録1記載の各図面の一部である甲16の図面1ないし
7を複製して作成されたものとしか考えられない。
(イ)甲16の図面8ないし14と本件情報全体との関係
aPC樹脂の製造技術は,限られた企業グループが独自に開発し保有し
ているもので,汎用的な技術ではなく,また,PCプラントの工程は連
続し,各工程が相互に密接に関連しているため,他の企業グループが作
成したPCプラントの基本設計図書の図面等の一部を流用するような
ことはできるものではない。被告基本設計図書に甲16の図面8ない
し14が含まれているのであれば,他の図面等も甲16の図面8ない
し14の複製元の甲16の図面1ないし7に係るPCプラントの基本
設計図書である別紙目録1ないし3記載の各図面及び図表(出光基本
設計図書)が使用されているとしか考えられない。
しかも,甲16の図面8は,甲16の図面1のシンボル(記号)リ
ストを複製したものであるが,シンボルリストはP&IDのシンボル
を全体として統一して記載するためのものであるから,シンボルリス
トを複製するということは,P&IDすべてについて複製することを
前提とするものである。
さらに,原告のPCプラントの主要工程は,①溶解工程,②2段階
の反応からなる重合反応工程,③洗浄精製工程,④回収,乾燥工程,
⑤造粒出荷工程,⑥溶媒回収工程からなるものであるが,甲16の図
面9は①の溶解工程に,図面10−1,10−2及び11は②の重合
反応工程に,図面12は③の洗浄精製工程に,図面13は④の回収,
乾燥工程に,図面14は⑤の造粒出荷工程に,それぞれ該当するもの
であり,甲16の図面9ないし14は,原告のPCプラントの主要工
程のうち⑥の溶媒回収工程を除くすべての工程についてのものであ
る。
bPFDは,それぞれの機器・配管を通過する流体の種類・流量・条件
などが記載され,P&ID,機器仕様書を作成,改定したり,PCプラ
ントの運転のための必須情報として使用されるものであり,P&ID,
機器仕様書及び同書に基づいて作成される機器図とは相互に密接な関
係にあり,他社のPC樹脂の製造プロセスに基づくPFDを流用するこ
とはできない。甲16の図面9ないし14を被告基本設計図書のP&I
Dに使用するのであれば,同じ製造プロセスに基づく基本設計図書のP
FDを使用せざるを得ない。
cC1及び被告らは,PC樹脂の製造プロセスの開発・プラント設計の
経験はなく,独自にPCプラントの基本設計図書であるP&IDやPF
Dを作成する能力はない。また,PC樹脂の製造技術は,限られた企業
グループが保有するものであり,C1や被告らが,他から当該図書を入
手することも不可能である。
d前記ア(イ)のとおり,被告らは,三共PTにおいて藍星が計画する
PCプラントについての基本設計を完成させ,被告基本設計図書を作
成している以上,甲16の図面1ないし7を複製して甲16の図面8
ないし14を作成したにとどまらず,別紙目録1ないし3記載の各図
面及び図表(出光基本設計図書)のすべてを入手し,これらを複製し
たものといわざるを得ない。
(ウ)被告基本設計図書が他のPCプラントの完成図書を基にして作成
されたものではないこと
被告らは,後記のとおり,被告基本設計図書は,被告会社が藍星から
示された中国常州に存在していたバッチ式のPCプラント(常州プラン
ト)の完成図書を原型にして独自に作成した連続式のPCプラントの基
本設計図書であって,甲16の図面8ないし14はそのP&IDの一部
である旨主張する。
しかし,前記(イ)cのとおり,C1及び被告らにおいては,PC樹脂
の製造プロセスの開発・プラント設計の経験はなく,独自にPCプラント
の基本設計図書であるP&IDやPFDを作成する能力はないから,被告
らの主張は理由がない。
(2)被告らの主張
ア甲16の図面8ないし14が,被告会社がビーシー工業に提出した藍星
のPCプラントの完成図書(被告基本設計図書)であるP&IDの一部を
複製した図面であること,甲16の図面8ないし14が甲16の図面1な
いし7の図面と実質的に同一であることは認めるが,被告らが原告主張の
不正競争行為を行った事実はない。
イ被告基本設計図書は,被告会社が,藍星から提示のあった中国常州に存
在するPCプラント(常州プラント)の完成図書を原型とし,バッチ式モ
デルプラントから連続式新設プラントへの変更を伴う化学工学的スケー
ルアップ技術を適用して独自に作成した図面及び図表である。
甲16の図面1ないし7は,原告及び出光石油化学が独自に作成した平
成13年CAD化後の出光P&IDの一部ではなく,原告が被告基本設計
図書の電子データが記録されたCDを不正な手段を用いて被告会社から
入手し,それを利用して作成したものであり,不正な複製を行ったのは,
むしろ原告の方である。その根拠は,以下のとおりである。
(ア)被告基本設計図書の作成の経緯等
a被告会社は,平成14年10月27日,インターネットサイトでビ
ーシー工業の「中国向け化学工場建設技術者」募集の記事を知り,同
年11月27日,ビーシー工業に対し,人材派遣6名の一括請負の希
望を連絡した。
被告会社の代表取締役の被告Aは,平成15年1月12日,ビーシ
ー工業から,北京での藍星との第1回面談への出席要請を受け,同月
15日に開催された同面談に出席した後,同年2月7日,ビーシー工
業の代表取締役Bと東京で会談した。
その後,被告Aは,中国常州所在のPCプラント見学のために中国
常州に赴き同プラント(常州PCプラント)を見学し,同月18日に
北京で藍星との第2回面談に臨んだ。被告Aは,上記第2回面談に先
立ち,藍星から依頼を受けて,藍星から提示のあった常州プラント完
成図書21冊(以下「常州PCプラント基本設計図書」という。)の
内容をチェックして,そのプロセス評価を行った。常州PCプラント
基本設計図書は,台湾の会社が米国の会社から購入し,中国の辰光化
工院が建設した年産3000トンのバッチ式のPC製造設備の基本
設計図書である。
常州プラント基本設計図書21冊は,被告Aがチェックする前に既
に東京及び北京の大手企業が内容確認を実施し,合格の採点をしてい
たものであったが,遠心分離機システムに根本的な欠陥があること
が,被告Aのチェックにより判明した。全体的な内容確認は,1日で
は不可能であり,更に被告会社は本業がエンジニアリング業(プラン
ト建設分野)であるため,日本のプロセス専門家から見解を聴取する
ことにした。他方,被告会社は,常州プラントによるパイロットテス
ト工程も策定した。
被告Aを含めた日本人プロセス専門家7名,藍星の技術者8名及び
ビーシー工業の社員2名が参加して,同年4月14日,東京において,
常州PCプラント基本設計図書のプロセス内容の確認のための検討
会を行った。なお,そのプロセス内容の確認には,同志社大学の系列
の者の紹介で,C1も出席した。
b被告会社とビーシー工業は,平成15年7月18日,被告会社が所
有又は作成し,かつ,ビーシー工業が入手する連続式合成樹脂製造設
備の基本設計を含むエンジニアリング,建設管理,調達管理,製作管
理並びに運転管理上における技術上及び運転上の知識と技能に関す
るライセンス及び技術供与契約(以下「本件技術供与契約」という。
乙5)を締結した。
その技術供与内容には,運転実績データから構成される年産1万ト
ンの「連続式合成樹脂設備」に関する「基本ソフトパッケージ」,ビ
ーシー工業が提示する設計条件に対応した,前記「基本ソフトパッケ
ージ」に基づく「基本設計図書」の作成,検図及び出図管理が含まれ
ていた。
被告会社は,同月25日,本件技術供与契約を履行するため,東京
にエンジニアリングセンターを開設し,同年8月1日から,常州プラ
ント基本設計図書を原型とし,藍星が中国蘭州に建設する年産1万ト
ンの連続式のPCプラントの設計を開始した。同時に,被告会社は,
C1が代表取締役を務めるC商事を含む4名のコンサルタントとコ
ンサルタント契約を締結した。C商事が行うコンサルタント業務は,
被告会社が作成した設計図書の照査,試運転計画及び試運転管理,維
持運転計画及び維持運転管理の3項目であった。
被告会社は,藍星が建設する上記PCプラントについての基本設計
図書(被告基本設計図書)一式を作成し,これらを,平成16年4月
30日及び同年5月31日の2回に分けてビーシー工業に提出し,更
にビーシー工業はこれらを藍星に提出した。
甲16の図面8ないし14は,いずれも被告会社が作成した被告基
本設計図書に含まれるP&IDである。
c被告会社は,平成16年6月12日に,東京のエンジニアリングセ
ンターを閉鎖し,そのころ,被告会社の設計担当の技術者6名及びビ
ーシー工業の管理者2名が,現地に合わせた詳細設計を行うため,藍
星のPCプラントの建設が予定される中国の蘭州に移動した。
その後,被告会社は,同年8月1日付けで,ビーシー工業から,C
商事とのコンサルタント契約先を被告会社からビーシー工業へ移行
する旨の連絡を受け,これに条件付きで同意した。
被告会社は,同年9月30日,ビーシー工業から,本件技術供与契
約を解消する旨の通知を受け,これに条件付きで同意した。
被告会社は,同年10月31日,中国蘭州から日本人技術者全員を
引き上げた。
d以上のとおり,被告基本設計図書は,バッチ式モデルプラントであ
る年産3000トンの常州プラントの完成図書を原型とし,これをバ
ッチ式から連続式に変更してスケールアップした,年産1万トンの連
続式新設プラントの基本設計図書であって,被告会社が独自に作成し
たものである。
(イ)原告による甲16の図面2ないし7の複製
原告が作成した甲16の図面2ないし7は,被告会社が作成した甲1
6の図面9ないし14を複製したものであり,このことは,以下の諸点
から明らかである。
a甲16の図面9と図面2の対比(NaOH水溶液受入希釈貯蔵設備
に関する記載の不存在)
中国では,原料受入供給工程が製造プロセスから完全に独立した別
プロセスになっている(乙1の「2−7−1−2)」参照)。これは,
中国においては,プロセスタンクとユーティリティタンクをまとめて
1か所に設置することが許されているからである。
被告会社が基本設計を行った藍星向けのPCプラントにおいては,
原料受入供給工程が製造工程から完全に独立した別の処理工程とな
っており,①NaOH(苛性ソーダ)タンク,②排水タンク,③冷媒
タンク,④メチレンクロライドタンクといった原料等の受入れや供給
を行う貯蔵設備が1か所にまとめて設置されている。そのため,被告
基本設計図書では,これらの貯蔵設備が1枚のP&ID(乙2)にま
とめて記載されており,他方,PC樹脂の主原料であるビスフェノー
ルAをNaOH水溶液に連続溶解させる工程を示す乙16の図面9
においては,NaOHタンクが記載されていない。
これに対して,日本国内のプラントにおいては,プラント管理者の
作業の便宜等のため,原料等の貯蔵設備はそれを使用する製造工程を
行う設備内に設置されるのが通常であり,このことは,原告の千葉工
場第1PCプラントにおいても同様のはずである。
そうすると,出光P&IDのうち,甲16の図面9に対応する工程
を示すP&IDにおいては,本来NaOHタンクが記載されていなけ
ればならないはずであるが,甲16の図面2にはNaOHタンクが記
載されていない。
以上の事実は,甲16の図面2が,実際の千葉工場第1PCプラン
トの設備とは異なる図面であって,出光P&IDの一部ではなく,む
しろ,原告において,被告会社の作成した甲16の図面9を入手し,
これを複製したものであることを示しているものといえる。
b甲16の図面10と図面3の対比(「フォスゲン化工程」と「PC
反応工程」の分離)
中国では,「フォスゲン化工程」(乙1の「2−7−1−8)」参
照)と「PC反応工程」(乙1の「2−7−1−14)」参照)とは
全く別に分離された工程になっている。
被告会社が基本設計を行った藍星向けのPCプラントにおいては,
ホスゲン化工程(「フォスゲン化工程」)とオリゴ反応工程(「PC
反応工程」)(いずれもホスゲンを取り扱う工程)が,分離された工
程となっており,そのため,甲16の図面10−1及び10−2にお
いては,ホスゲン化工程とオリゴ反応工程がそれぞれ図面10−1と
図面10−2に分かれて記載されている。これは,中国においては日
本と異なって,ホスゲンに対する規制が緩やかであり,ホスゲンを取
り扱う工程を開放式の施設で行うことが可能だからである。
これに対し,日本においては,毒物及び劇物取締法11条2項にお
いて,「毒物劇物営業者及び特定毒物研究者は,毒物若しくは劇物又
は毒物若しくは劇物を含有する物であって政令で定めるものがその
製造所,営業所若しくは店舗又は研究所の外に飛散し,漏れ,流れ出,
若しくはしみ出,又はこれらの施設の地下にしみ込むことを防ぐのに
必要な措置を講じなければならない。」と規定され,また,「ホスゲ
ン」は,政令に定める毒物とされているため,ホスゲンを取り扱う工
程を行う設備については,「飛散し,漏れ,流れ出,若しくはしみ出,
又はこれらの施設の地下にしみ込むことを防ぐのに必要な措置」とし
て,コンクリート立方室内に設置することが原則的に義務付けられて
いる。
そうすると,原告の千葉工場第1PCプラントにおいては,ホスゲ
ン化工程とオリゴ反応工程は,同じ処理工程とされ,これらの工程に
係る設備は1個のコンクリート立方室内に設置されていなければな
らないはずである。
ところが,甲16の図面3−1及び3−2によると,ホスゲン化工
程とオリゴ反応工程が2枚の図面に分かれ,別の工程として記載され
ており,これらの工程に係る設備が1個のコンクリート立方室内に設
置されていないこととなる。
以上の事実は,甲16の図面3−1及び3−2が,実際の千葉工場
第1PCプラントの設備とは異なる図面であって,出光P&IDの一
部ではなく,むしろ,原告において,被告会社の作成した甲16の図
面10−1及び10−2を入手し,これを複製したものであることを
示しているものといえる。
c図面修正日の矛盾
甲16の図面2,3−2,4及び5をみると,これらの図面の最終
修正日は2004年(平成16年)4月20日又は同月21日とされ
ている。
他方,甲16の図面9,10−2,11及び12をみると,これら
の図面の作成日は2004年(平成16年)5月20日とされている
が,これらの図面は,被告会社が同年3月15日に作成した図面(乙
3の1,2)を一部修正して作成したものである。このように被告会
社が実際にこれらの図面を作成したのは,甲16の図面2,3−2,
4及び5の最終修正日の約1か月前である。
以上の事実は,甲16の図面9,10−2,11及び12が甲16
の図面2,3−2,4及び5に基づいて作成されたものではなく,む
しろ,甲16の図面2,3−2,4及び5が甲16の図面9,10−
2,11及び12に基づいて作成されたものであることを示してい
る。
3争点3(不正競争行為による損害額)について
(1)原告の主張
ア不正競争防止法5条2項又は3項3号の損害額
(ア)不正競争防止法5条2項の損害額
出光石油化学は,他社にPC樹脂の製造技術(製造プロセス)のライ
センスを行って,ライセンス料を得ていたものであり,被告らの不正競
争行為によって出光石油化学に生じた損害は,本件情報に係るPCプラ
ントの製造技術をライセンスすることによって得べかりし利益の損害
である。
上記損害の額については,不正競争防止法5条2項により,被告らが
受けた利益の額をもって出光石油化学が受けた損害額と推定すべきで
ある。
a被告会社とビーシー工業との間の本件技術供与契約においては,被
告会社が被告基本設計図書を作成してビーシー工業に提供すること
などの対価として,ビーシー工業が被告会社に対し合計5億1500
万円(ロイヤルティ2億7200万円及びエンジニアリング・フィー
2億4300万円)を支払うものとされている。
そして,被告会社は,平成15年7月22日から平成16年11月
3日までの間に,ビーシー工業から,本件技術供与契約に基づいて,
合計3億5618万4508円の支払を受けている。
しかるに,被告らによって行われた被告基本設計図書の作成の実質
は,出光石油化学から不正に入手した出光基本設計図書を複製した上
で,事実の発覚を免れるために一部に変更を加えたものにすぎず,被
告会社においてエンジニアリングの対価の支払を受けるべき行為は
何ら行われていないから,ビーシー工業から被告会社に支払われた上
記金員全額が,エンジニアリング・フィーの実態を有するものではな
く,本件情報を開示・供与することの対価であるとしか考えられない。
仮にエンジニアリング・フィーなるものを観念することができると
しても,被告会社が本件技術供与契約に係る業務を行うに当たって雇
い入れるなどした技術者らに対し支払った合計1338万5696
円(株式会社三菱東京UFJ銀行新宿中央支店に対する調査嘱託(以
下「本件調査嘱託」という。)の結果)の限度にとどまるものである。
b以上によれば,被告会社がビーシー工業から支払を受けた3億56
18万4508円から,被告会社が技術者らに支払った1338万5
696円を差し引いた3億4279万8812円は,被告会社が前記
2(1)アの不正競争行為によって得た利益であるといえる。
したがって,上記3億4279万8812円は,不正競争防止法5
条2項により,被告らの不正競争行為によって出光石油化学が受けた
損害額と推定される。
(イ)不正競争防止法5条3項3号の損害額
被告らによる不正競争防止法2条1項8号の不正競争行為によって
侵害された営業秘密である本件情報の「使用」(開示行為)に対し受け
るべき金額に相当する金額(同法5条3項3号)は,以下のとおり4億
2313万6000円が相当である。
①本件技術供与契約において定められた2億7200万円のロイヤ
ルティは,被告会社がビーシー工業に本件情報を開示・供与することの
対価としての実質を有するものといえること,②出光石油化学が台湾の
会社との間で締結したPC製造プロセスのライセンス契約においては,
年間生産量5万トンのPCプラントに係るライセンス料が3200万
米ドルとされていることからすれば,年間生産量1万トンを予定する藍
星のPCプラントのために本件情報を使用することに対し受けるべき
金額に相当する金額は,次のとおりに算定されるべきである。すなわち,
上記②の契約に係るライセンス料3200万米ドルを,1米ドルを89
円73銭(平成22年5月25日時点のレート)とし,かつ,年間生産
量1万トンの施設に換算すると,5億7427万2000円(3200
万米ドル×89.73円÷5)となるので,これと上記①の契約に係る
ロイヤルティ2億7200万円との平均である4億2313万600
0円((5億7427万2000円+2億7200万円)÷2)と算定
するのが相当である。
したがって,出光石油化学の権利を承継した原告は,被告らに対し,
不正競争防止法5条3項3号に基づく損害賠償として4億2313万
6000円の支払を求めることができる。
(ウ)以上によれば,被告らの前記2(1)アの不正競争行為により出光石
油化学が被った不正競争防止法5条2項の損害額は3億4279万8
812円,同条3項3号の損害額は4億2313万6000円である。
イ弁護士費用相当額
原告は,被告らの不正競争行為により訴訟提起を余儀なくされたとこ
ろ,被告らの不正競争行為と相当因果関係のある弁護士費用の額は少なく
とも4050万円である。
ウ小括
したがって,出光石油化学の権利を承継した原告は,被告らに対し,不
正競争防止法4条に基づく損害賠償として前記ア(ア)及びイの合計額(3
億8329万8812円)又は前記ア(イ)及びイの合計額(4億6363
万6000円)の一部である2億9700万円及びこれに対する不正競争
行為の後である訴状送達の日(平成20年10月11日)から支払済みま
で民法所定の年5分の割合による遅延損害金の連帯支払を求めることが
できる。
(2)被告らの主張
ア(ア)原告の主張ア(ア)のうち,本件技術供与契約においては,ビーシー
工業が被告会社に対し合計5億1500万円(ロイヤルティ2億720
0万円及びエンジニアリング・フィー2億4300万円)を支払うもの
とされていたことは認めるが,その余は争う。
(イ)原告は,被告会社における藍星のPCプラント建設に関するプロジ
ェクトにおいて,被告会社が技術者らに支払うなどした必要経費を合計
1338万5696円であるとし,被告会社がビーシー工業から受領し
た金員から当該金額を差し引いた額である3億4279万8812円
をもって,被告会社が前記2(1)アの不正競争行為によって得た利益で
ある旨主張する。
しかしながら,被告会社がビーシー工業から受領した金員は,本件技
術供与契約に基づき,被告会社が藍星の計画するPCプラントのエンジ
ニアリング及び建設指導を行うことの対価であるエンジニアリング・フ
ィーとして支払われたものであって,被告会社が不正競争行為を行うこ
とによって得た利益ではない。
また,被告会社が技術者らに支払った金額は原告主張の額よりも多額
にのぼる上,そのほかにも被告会社は,被告会社の従業員らへの給与,
人材会社からの派遣社員への給与,事務所の賃料や光熱費など多額の費
用を支出している。また,被告会社は,C商事とのコンサルタント契約
に基づき,同社に対し少なくとも合計1億9440万円の報酬を支払っ
ている。
したがって,被告会社が,藍星のPCプラント建設に関するプロジェ
クトにおいて得た利益の額に関する原告の主張は,事実に反する。
イ原告の主張ア(イ)及びイについては,いずれも争う。
4争点4−1(被告らによる不法行為の成否)及び争点4−2(不法行為によ
る損害額)について(予備的損害賠償請求)
(1)原告の主張
ア本件情報は,原告又は出光石油化学が蓄積していた技術開発力をもと
に,多大な期間,労力,資金を費やして開発したPC樹脂の製造技術の成
果及び同製造のノウハウが集積されたものであり,一切外部に公表するこ
となく保有していたものである。仮に前記2(1)アのような方法により本
件情報を取得し開示した被告らの行為が不正競争行為に該当しないとし
ても,被告らの行為は,自由競争原理を明らかに逸脱する違法なものであ
り,出光石油化学に対する民法709条の不法行為を構成する。
イ被告らの前記アの不法行為により出光石油化学が受けた損害額は,3億
円をはるかに上回るものであり,少なくとも同額の損害が生じたことは明
らかである。
加えて,原告は,被告らの上記不法行為により訴訟提起を余儀なくされ
たところ,被告らの上記不法行為と相当因果関係のある弁護士費用の額は
2700万円を下らない。
ウしたがって,出光石油化学の権利を承継した原告は,被告らに対し,民
法709条の不法行為による損害賠償として前記イの合計額3億270
0万円の一部である2億9700万円及びこれに対する不法行為の後で
ある訴状送達の日(平成20年10月11日)から支払済みまで民法所定
の年5分の割合による遅延損害金の連帯支払を求めることができる。
(2)被告らの主張
原告の主張はいずれも争う。
第4当裁判所の判断
1争点1(本件情報の営業秘密性)について
原告は,別紙目録1ないし3記載の各図面及び図表(出光基本設計図書)に
記載された情報(本件情報)は,原告及びその完全子会社であった出光石油化
学が独自に開発したPC樹脂の製造技術開発の成果及びノウハウが集積され
たものとして出光石油化学千葉工場において秘密として管理されてきた有用
な技術上の情報であって,公然と知られていないものであるから,不正競争防
止法2条6項の「営業秘密」に当たる旨主張する。
(1)判断の前提となる事実
前記争いのない事実等と証拠(甲1,6,7,16,25,30,31,
43(枝番のあるものは枝番を含む。))及び弁論の全趣旨を総合すれば,
本件情報の内容,管理状況等に関し,以下の事実が認められる。
アPC樹脂の製造技術等
(ア)PC樹脂(ポリカーボネート樹脂)は,1953年(昭和28年)
に,ドイツのバイエル社によって開発された合成樹脂であり,それまで
の汎用プラスチックに比べ,耐熱性,耐衝撃性に優れた性質を有するこ
とから,電子機器,OA機器,自動車部品,建材,医療機器,日用品な
ど,様々な用途に使用されてきた。
平成20年2月当時,PC樹脂の製造について商業規模の自社技術を
有し活動している企業として知られていたのは,海外では,ドイツのバ
イエル社,アメリカ合衆国のSABICイノベーティブプラスチックス
社(旧GE社)及びダウケミカル社,国内では,帝人化成株式会社(以
下「帝人化成」という。),三菱瓦斯化学株式会社(以下「三菱ガス化
学」という。),原告,三菱化学株式会社(以下「三菱化学」という。),
旭化成株式会社(以下「旭化成」という。)の各社を中心とする八つの
企業グループであった。
PC樹脂の製造技術には,界面重合法(「ホスゲン法」とも呼ばれる。)
と溶融重合法(「エステル交換法」とも呼ばれる。)の2種類の方法が
あるところ,上記企業グループのうち,バイエル社,SABICイノベ
ーティブプラスチックス社,三菱化学においては界面重合法と溶融重合
法の双方を,ダウケミカル社,帝人化成,三菱ガス化学,原告において
は界面重合法を,旭化成においては溶融重合法をそれぞれの製造技術と
して保有している。
これらの製造技術は,上記企業グループがそれぞれの研究開発,技術
改良等を積み重ねて確立させたものであり,それぞれが独自の技術であ
る。
(イ)PCプラント(PC樹脂製造装置)の設計に当たっては,①P&I
D(PCプラント内の各機器,それらをつなぐ配管,装置運転を制御す
るための計器類をダイアグラム形式で工程ごとに表した図面),②PF
D(PCプラント内の機器,配管を流通する流体の種類,流量,温度・
圧力などの運転条件が記載された図表),③P&ID及びPFDに基づ
いて定められたPCプラント内で使用されるすべての機器の仕様に係
る情報を記載した機器図が作成される。
P&ID,PFD及び機器図は,PCプラントの建設,運転,管理等
に使用される不可欠な技術資料である。
イ原告及び出光石油化学によるPC樹脂の製造等
原告は,昭和32年にPC樹脂製造の基礎研究に着手し,昭和35年8
月に自社技術によるPCパイロットプラントを完成させ,本格的な製造研
究に乗り出した。
その後,原告及びその完全子会社である出光石油化学は,研究開発,技
術改良等を経て,界面重合法による自社技術を確立させ,原告においては,
昭和44年4月に原告徳山工場にPCプラントを完成させ,PC樹脂の製
造を開始し,出光石油化学においては,昭和60年に千葉工場第1PCプ
ラントを,平成2年に千葉工場第2PCプラントを建設し,それぞれPC
樹脂の製造を開始した。
その後,原告は,平成16年8月1日に出光石油化学を吸収合併し,以
後,千葉工場の各PCプラントにおいて,PC樹脂の製造を行っている。
ウ出光基本設計図書の管理状況等
(ア)別紙目録1記載の各図面,同目録2記載の各図表及び同目録3記載
の各図面(出光基本設計図書)は,それぞれ出光石油化学(前記イの吸
収合併後は原告)の千葉工場第1PCプラントのP&ID,PFD及び
機器図である。
千葉工場第1PCプラントのP&IDは,設計当初は手書きで作成さ
れ,その後もたびたび手書きによる修正が加えられてきた(千葉工場第
1PCプラントの手書きの原図を青焼きしたものが甲31である。)が,
平成13年にCADシステムによって作り直され,CAD化されてい
る。
別紙目録1記載の各図面(P&ID)は,「CAD化による作図」が
された図面であり,平成15年2月から3月にかけての定期見直し(以
下「平成14年度末定期見直し」という。)が実施された時点における
P&IDである。このように,別紙目録1記載の各図面(P&ID)は,
平成13年にCAD化された後のP&ID(平成13年CAD化後の出
光P&ID)である。
(イ)平成18年ないし平成19年の時点において,出光基本設計図
書(P&ID,PFD及び機器図)並びにその電子データ(CADデー
タ)が記録されたフロッピーディスクは,原告千葉工場のPS・PC計
器室内に保管されていた。
千葉工場は,周囲に塀がめぐらされ,敷地内への出入口にはゲートが
設置されており,そのゲート脇には,守衛が駐在する詰所があり,外部
の者が構内に出入りする際には,詰所において入出構手続をとる必要が
あり,許可のない者が入構することはできなかった。
上記PS・PC計器室は,独立した一つの建物となっており,その建
物出入口の扉には,「関係者以外立入禁止」の表示が付されており,出
光基本設計図書及び上記フロッピーディスクは,上記PS・PC計器室
にあるロッカー内に保管されていた。
上記ロッカー内の上記フロッピーディスクが入れられたケースの表
面には,持ち出しを禁止する旨が記載されたシールが貼付されていた。
なお,上記PS・PC計器室の建物出入口及び上記ロッカーは,施錠
されていなかった。
(2)前記(1)の認定事実を前提に,本件情報が「営業秘密」(不正競争防止法
2条6項)に当たるかどうかについて判断する。
ア有用性及び非公知性
まず,前記(1)の認定事実によれば,本件情報(出光基本設計図書に記
載された情報)は,原告及び出光石油化学が独自に開発したPC樹脂の製
造技術に基づいて設計された,出光石油化学千葉工場第1PCプラントの
P&ID,PFD及び機器図であって,同PCプラントの具体的な設計情
報であり,同PCプラントの運転,管理等にも不可欠な技術情報であるか
ら,出光石油化学及び同社を吸収合併した原告のPC樹脂の製造事業
に「有用な技術上の情報」であることは明らかである。
次に,平成20年2月当時,PC樹脂の製造について商業規模の自社技
術を有するものとして知られていたのは,世界でも八つの企業グループに
限られ,それぞれの技術は各企業グループが研究開発等によって確立させ
た独自の技術であり,原告及び出光石油化学が有していたPC樹脂の製造
技術も,その中の一つであること(前記(1)ア(ア))に照らすならば,千
葉工場第1PCプラントの設計情報である本件情報は,世界的にも稀少な
ものといえるから,その性質上,原告及び出光石油化学にとって秘匿性が
高く,社外の者に開示されることがおよそ予定されていない情報であるこ
とは明らかであり,現に,本件情報が刊行物に記載されているなど,一般
的に入手し得る状況にあることをうかがわせる証拠はない。
したがって,本件情報は,「公然と知られていないもの」であることが
認められる。
イ秘密管理性
(ア)平成18年ないし平成19年の時点における本件情報の管理状況
は,前記(1)ウ(イ)認定のとおり,出光基本設計図書(P&ID,PF
D及び機器図)及びその電子データ(CADデータ)が記録されたフロ
ッピーディスクが千葉工場のPS・PC計器室内のロッカー内に保管さ
れ,上記PS・PC計器室の建物出入口の扉には「関係者以外立入禁止」
の表示が付され,上記ロッカー内の上記フロッピーディスクが入れられ
たケースの表面には,持ち出しを禁止する旨が記載されたシールが貼付
されていたものであり,また,外部の者が千葉工場の構内に出入りする
際には,守衛が駐在する詰所において入出構手続をとる必要があり,許
可のない者が入構することはできなかったものである。
平成15年ないし平成16年当時の千葉工場における本件情報の管
理状況も,おおむね上記管理状況と同様であったものと推認される。
加えて,本件情報の上記管理状況及び弁論の全趣旨によれば,本件情
報が,世界的にみても稀少といえる,原告及び出光石油化学が独自に開
発したPC樹脂の製造技術に基づいて設計されたPCプラントについ
ての具体的な設計情報であり,その性質上,原告及び出光石油化学にと
って秘匿性が高い情報であること(前記ア)は,少なくとも出光石油化
学千葉工場の従業員であれば,一般的に認識していたものと推認され
る。
(イ)以上を総合すれば,本件情報は,平成15年ないし平成16年当時
の出光石油化学千葉工場において,従業員以外の者はそもそもアクセス
することができず,また,従業員であっても,特定の関係者以外はアク
セスが制限され,さらに,アクセスした従業員においても,それが秘密
情報であることを認識し得るような状況の下で管理されていたものと
認められるから,本件情報は,その当時,「秘密として管理されている」
情報であったことが認められる。
ウ小括
以上によれば,本件情報は,平成15年ないし平成16年の時点におい
て,出光石油化学千葉工場において秘密として管理されている原告及び出
光石油化学のPC樹脂の製造事業に有用な技術上の情報であって,公然と
知られていないものと認められるから,出光石油化学が保有する「営業秘
密」(不正競争防止法2条6項)に当たるものと認められる。
2争点2(被告らによる不正競争行為の有無)について
原告は,被告らは,ビーシー工業及びその代表取締役のB並びにC商事及び
その代表取締役のC1と共同して,PC樹脂の製造技術を欲している藍星に対
し出光基本設計図書に記載された情報(本件情報)を開示することにより利益
を得ることを企て,C1が,出光石油化学の従業員をして本件情報を不正に開
示させて取得し,C1からその提供を受けた被告らが,藍星が計画するPCプ
ラントに適合するように出光基本設計図書の修正等を行って被告基本設計図
書を作成し,これらをビーシー工業に引き渡し,更にビーシー工業がこれらを
藍星に引き渡したものであり,被告らの上記行為は,出光石油化学が保有する
営業秘密である本件情報について,不正開示行為であること若しくは不正開示
行為が介在したことを知って,又は重大な過失によりこれを知らないで,本件
情報を取得し,その取得した本件情報を開示する行為であって,不正競争防止
法2条1項8号の不正競争行為に該当する旨主張する。
(1)本件の事実経過等
前記争いのない事実等と証拠(甲8ないし13,15ないし20,32な
いし37,40,42ないし46,54ないし56,乙1ないし6,8,9(枝
番のあるものは枝番を含む。),被告A,本件調査嘱託の結果)及び弁論の
全趣旨を総合すれば,本件の事実経過等として,以下の事実が認められる。
アビーシー工業は,平成14年ころ,石油化学工業を営む中国法人である
藍星から,同社が中国に建設を計画しているPCプラントに関して協力を
求める要請を受けた。
ビーシー工業は,藍星からの要請に応ずるため,自社のホームページに
求人広告を出すなどして,PC樹脂及びその製造等に関する知識,経験等
を有する人材の募集を行った。
その後,被告会社は,平成14年10月ないし同年11月ころ,ビーシ
ー工業の上記募集に応募した。
イ藍星は,平成14年12月13日ころ,出光石油化学に対し,PC樹脂
の製造事業に関する申入れを行った。
出光石油化学と藍星は,平成15年1月17日,中国の上海において,
藍星の上記申入れに関する打合せをした。その中で,出光石油化学が藍星
のPCプラント建設に合同で出資して参加すること,出光石油化学が藍星
のビスフェノールA(PC樹脂の原料)プラントの建設に関与することな
どについての協議が行われた。
その後,出光石油化学は,平成15年1月24日付け書面(甲11)を
もって,藍星に対し,上記打合せの内容についての双方の理解に相違があ
ることなどを理由として,藍星の上記申入れについての交渉を白紙に戻す
旨通知した。
ウビーシー工業と被告会社は,平成15年7月18日,被告会社がビーシ
ー工業から,藍星が中国に建設を予定する年産1万トンのPCプラントに
関する設計,建設管理,試運転管理等の業務を受託し,ビーシー工業が被
告会社に対し所定のロイヤルティ及びエンジニアリング・フィーを支払う
旨の「ライセンス及び技術供与契約」(本件技術供与契約)を締結した。
本件技術供与契約の主な内容(乙5)は,次のとおりである。
(ア)被告会社は,ビーシー工業に対し,「連続式合成樹脂製造設備」に
関する「基本設計図書の作成及び開示」,「詳細設計管理」,「調達管
理」,「製作管理」,「建設管理」,「試運転管理」の各業務を提供す
る。
(イ)ビーシー工業は,被告会社に対し,年産1万トンの連続式合成樹脂
製造設備のノウハウを供与する対価として,以下の条件によりロイヤル
ティを支払う。
a契約時9000万円
b土木工事開始時8680万円
c試運転完了引渡後30日以内8160万円
d保証金(引渡後90日以内)1360万円
e合計2億7200万円
(ウ)ビーシー工業は,被告会社に対し,年産1万トンの連続式合成樹脂
製造設備のエンジニアリング及び建設指導を提供する対価として,以下
の条件によりエンジニアリング・フィーを支払う。
a総額2億4300万円
b契約時4860万円
cソフトパッケージ提出時2430万円
d基本設計図書パッケージ提出時2430万円
e詳細設計図書作成完了時6075万円
f試運転完了時7290万円
g保証費1215万円
エ(ア)被告会社は,平成15年7月ころ,本件技術供与契約に基づく業務
を行うことを目的として,各技術分野の技術者を集めたプロジェクト・
チーム(三共PT)を立ち上げた。三共PTには,被告会社の代表取締
役である被告Aの指揮の下,同社の「ゼネラルマネージャー」の肩書を
持つG(以下「G」という。),「プロジェクトマネージャー」の肩書
を持つH(以下「H」という。),「計装エンジニアリングマネージャ
ー」の肩書を持つI,「電気エンジニアリングマネージャー」の肩書を
持つD,いずれもビーシー工業の「マネージャー」の肩書を持つJ及び
Kのほか,被告Aが集めた複数の技術者が参加していた。
また,被告会社は,そのころ,C1が代表取締役を務めるC商事との
間で,藍星が計画するPCプラントの建設に関してC商事から設計図書
の照査,試運転の計画及び管理等の支援を受け,C商事に対し一定の報
酬を支払う旨の契約(以下「本件コンサルタント契約」という。)を締
結した。
(イ)C1は,昭和35年に原告に入社し,昭和39年に出光石油化学の
設立に伴って同社に移籍し,平成11年3月に同社を退職した後,同年
中に,個人でプラスチック樹脂を中国に輸出する事業を始め,平成14
年5月1日にこれを会社組織としてC商事を設立していた。
C1は,原告又は出光石油化学に在職中,原告徳山工場,出光石油化
学千葉工場などに勤務し,ポリスチレン樹脂,PC樹脂,ポリプロピレ
ン樹脂等の製造業務に従事した。
この間,C1は,PC樹脂の製造装置に関わる業務として,昭和35
年から昭和39年までの間原告徳山工場のPCパイロットプラントに
おける補助業務に,昭和60年から平成元年までの間出光石油化学千葉
工場のPCプラントにおける装置運転業務にそれぞれ従事した。
オ(ア)被告会社は,平成15年7月25日ころ,東京都内に三共PTが作
業を行うための事務所を開設し,同年8月1日ころから,三共PTにお
いて,藍星が計画するPCプラントのための基本設計図書の作成等の業
務を行い,平成16年5月ころまでに,P&ID,PFD及び機器図を
含む被告基本設計図書一式を完成させ,これらをビーシー工業に引き渡
し,更にビーシー工業はこれらを藍星に引き渡した。
(イ)甲16の図面8ないし14は,被告基本設計図書に含まれるP&I
Dである。
甲16の図面8ないし14の各図面右下には,「TITLE」の欄にビー
シー工業の英語表記である「BCIndustrialCompanyLtd.」の表記
が,「DESIGNED」の欄にHを表す「H1」の表記が,「CHECKED」の欄
にGを表す「G1」の表記が,「APPROVED」の欄に被告Aを表す「A1」
の表記が,「REVIS0RYCONTENTS」の欄に被告会社を表す「AschueProcess
ServiceCorporation」の表記がある。
(ウ)甲16の図面8ないし14に係る電子データは,Dが三共PTにお
ける作業の過程で取得した電子データであって,Dの私物パソコンに残
っていたものを原告に提供したものである。
カその後,三共PTのメンバーらは,平成16年6月中旬ころから同年1
0月末ころまでの間,中国の蘭州に滞在して,現地に合わせた詳細設計の
作業を行ったが,同年10月ころには作業を終えて帰国し,そのころ,三
共PTは解散した。
キ被告会社は,ビーシー工業から,平成15年7月22日から平成16年
11月3日までの間に,本件技術供与契約に基づく金員として合計3億5
618万4508円の支払を受けた。上記金員の支払は,ビーシー工業が
藍星から支払を受けた金員を原資とするものであった。
また,被告会社は,C商事に対し,平成15年7月23日から平成16
年8月2日までの間に,本件コンサルタント契約に基づく報酬として合計
2億0421万9150円を支払った。
ク藍星は,2008年(平成20年)5月の時点において,中国天津市所
在の臨海工業区において,年産1万トン規模のPCプラントを建設するプ
ロジェクトを進行させている。
(2)被告らによる不正競争行為の有無
そこで,以上の事実を前提に,被告らが原告主張の不正競争行為を行った
事実が認められるか否かについて,原告がその主張の根拠として挙げる諸事
情に沿って検討する。
ア甲16の図面1ないし7と甲16の図面8ないし14との対比
原告は,甲16の図面1ないし7が,原告及び出光石油化学の営業秘密
が記載された別紙目録1記載の各図面(出光基本設計図書に属する出光P
&ID)の一部であることを前提として,これらの各図面と被告基本設計
図書の一部である甲16の図面8ないし14とを対比すると,両者は実質
的に同一であり,このことは,被告らが,出光基本設計図書を不正に取得
し,これらを複製して被告基本設計図書を作成したことを示している旨主
張するので,以下,その主張の当否について検討する。
(ア)甲16の図面1ないし7が別紙目録1記載の各図面の一部である
こと
a甲16の図面1ないし7の各記載内容について
(a)甲16の図面1ないし7の各記載内容をみると,その各右下
に,「出光興産株式会社千葉工場」,「1PCPLANTPIPNG&INSTRUMENT
DIAGRAM」の表記が付され,更に,これらに付された「DWR.NO」を
みると,いずれも別紙目録1記載のP&ID中の別紙「千葉工場第
1ポリカーボネート装置P&IDリスト」に記載された図面番号の
一つが付されている(すなわち,図面1には№2の図面(図面番号
PC−00−GD−00B01)の,図面2には№5の図面(図面番号PC−07
−GD−078−8A−07802)の,図面3−1には№9の図面(図面番号
PC−62−GD−237−B−07831)の,図面3−2には№10の図面(図
面番号PC−62−GD−238−B−07832)の,図面4には№17の図
面(図面番号PC−07−GD−078−8A−07839)の,図面5には№19
の図面(図面番号PC−07−GD−079−6A−07902)の,図面6には№
24の図面(図面番号PC−07−GD−080−A−08002)の,図面7に
は№38の図面(図面番号PC−07−GD−081−8A−08108)の各図面
番号が付されている。)。
⒝また,前記1(1)ウ(ア)のとおり,出光石油化学千葉工場第1P
CプラントのP&IDは,設計当初は手書きで作成されたが,その
後,平成13年にCADシステムによって作り直され,更に,平成
15年2月から3月にかけて平成14年度末定期見直しが実施さ
れているところ,甲16の図面1ないし7には,いずれも右下に,
2001年(平成13年)10月31日に「CAD化による作図」
がされたことが記載されており,また,甲16の図面2,3−1,
3−2,6及び7には,2003年(平成15年)2月又は3月に「H
14年定期見直し」が行われたことが記載されている。
⒞さらに,甲16の図面2に記載された主要機器と千葉工場第1P
Cプラントに現に設置された主要機器との対応関係をみると,甲1
6の図面2に記載された以下の名称及び番号の各機器と同一の名
称及び番号の各機器が,それぞれ現に千葉工場第1PCプラントに
設置されていることが,甲30添付の各写真によって確認すること
ができる。
名称番号甲30添付の写真
BPAHOPPERV102写真−1
BPAFEEDERQ102写真−2
HYDROSULFITEFEEDERQ103写真−3
BPNaMIXERQ104写真−4
BPADISSOLUTIONDRUMV103写真−5
BPNaPUMPP103A写真−6
⒟以上によれば,甲16の図面1ないし7の記載内容は,原告及び
出光石油化学が独自に開発したPC樹脂の製造技術に基づいて設
計された千葉工場第1PCプラントに係る平成13年CAD化後
の出光P&IDの内容として矛盾のない合理的なものであり,これ
らの各図面は,別紙目録1記載の各図面の一部(別紙「千葉工場第
1ポリカーボネート装置P&IDリスト」のNo.2,5,9,10,
17,19,24及び38の各図面)であるものと認められる。
b被告らの主張について
(a)これに対し,被告らは,①PC樹脂の主原料であるビスフェノ
ールAをNaOH水溶液に連続溶解させる工程を示す甲16の図
面2が実際の原告千葉工場第1PCプラントのP&IDであれば,
同工程で使用するNaOH水溶液を貯蔵するタンク(NaOHタン
ク)が記載されているはずであるのに,甲16の図面2には当該タ
ンクの記載がないこと,②「ホスゲン化工程」と「オリゴ反応工程」
を示す甲16の図面3−1及び図面3−2が実際の原告千葉工場
第1プラントのP&IDであれば,両工程が同じ処理工程とされ,
これらの工程に係る設備が1個のコンクリート立方室内に設置さ
れるように記載されているはずであるのに,甲16の図面3−1及
び図面3−2によると,ホスゲン化工程とオリゴ反応工程が2枚の
図面に分かれ,別の工程とされており,これらの工程に係る設備が
1個のコンクリート立方室内に設置されるような記載となってい
ないこと,③甲16の図面2,3−2,4及び5に記載された図面
の最終修正日が,被告会社による甲16の図面9,10−2,11
及び12の実際の作成日よりも後であることを根拠として,甲16
の図面1ないし7は,原告及び出光石油化学が独自に作成した別紙
目録1記載の各図面(出光P&ID)の一部ではなく,むしろ,原
告が,被告会社作成の甲16の図面8ないし14を入手し,これら
を複製したものである旨を主張する。
⒝しかしながら,上記(a)の①及び②を根拠とする被告らの主張
は,そもそもP&IDの性質に照らし採用できないものである。
すなわち,P&IDは,プラント内の機器,配管,計器類をダイ
アグラム形式で工程ごとに表した図面であり,プラント内の各設備
の配管や計装を視覚的に分かりやすく表現することを目的とした
図面であって,プラント設備の建築設計図面とは異なるものである
ことはもとより,実際のプラント設備の設置状況や配置状況等をそ
のまま表す図面ではない。
したがって,被告が上記(a)の①で主張するように,ビスフェノ
ールAをNaOH水溶液に連続溶解させる工程を示すP&IDの
中にNaOHタンクの記載がないからといって,これに基づく実際
のプラントの当該製造工程を行う設備内にNaOHタンクが設置
されていないことを直ちに意味することにはならない。また,同様
に,被告が上記(a)の②で主張するように,「ホスゲン化工程」
と「オリゴ反応工程」を示すP&IDが,2枚の図面(甲16の図
面3−1及び図面3−2)に分けて記載されているからといって,
これに基づく実際のプラントにおけるこれらの工程に係る設備が
1個のコンクリート立方室内に設置されていないことを直ちに意
味することにはならない。
このように,上記(a)の①及び②を根拠とする被告らの主張は,
そもそもP&IDの性質についての誤った理解を前提とするもの
であって,採用することができない。
⒞また,上記(a)の③を根拠とする被告らの主張については,確か
に甲16の図面2,3−2,4及び5に記載された図面の最終修正
日のみをみれば,いずれも「’04,04,20」(平成16年4
月20日)又は「’04,04,21」(同月21日)とされてお
り,被告らが甲16の図面9,10−2,11及び12の実際の作
成日であると主張する平成16年3月15日(乙3の1,2)より
後の日付となっている。
しかしながら,甲16の図面2,3−2,4及び5に記載された
上記最終修正日より前の図面の修正状況をみると,①いずれも「’
01,10,31」(平成13年10月31日)に「CAD化によ
る作図」が行われたことが記載されるとともに,図面2において
は「’02,04,30」(平成14年4月30日)及び「’03,
03,30」(平成15年3月30日)に,図面3−2においては「’
03,02,28」(同年2月28日)に,図面4においては「’
02,04,30」(平成14年4月30日)及び「’02,12,
18」(同年12月18日)に,図面5においては「’02,04,
30」(同年4月30日)にそれぞれ図面の修正が行われたことが
記載されており,これらの修正日は,いずれも平成16年3月15
日より前の日付のものであること,②これらの図面に施された平成
16年4月20日又は同月21日の最終修正の内容は,いずれも微
細なものにとどまり,主要な機器や配管・計装には変更がないこと
が認められる。
してみると,甲16の図面2,3−2,4及び5の最終修正日が,
被告らが主張する甲16の図面9,10−2,11及び12の実際
の作成日(平成16年3月15日)の後であるからといって,甲1
6の図面9,10−2,11及び12が,上記最終修正前の甲16
の図面2,3−2,4及び5に基づいて作成された事実と何ら矛盾
するものではないから,上記(a)の③を根拠とする被告らの主張
は,採用することができない。
c小括
以上のとおり,甲16の図面1ないし7は,出光石油化学及び同社
を吸収合併した原告の営業秘密である別紙目録1記載の各図面の一
部であると認められる。
(イ)甲16の図面8ないし14が甲16の図面1ないし7を複製した
ものであること
甲16の図面1ないし7とこれに対応する甲16の図面8ないし1
4(具体的には,図面1と8,2と9,3−1と10−1,3−2と1
0−2,4と11,5と12,6と13,7と14)が,実質的に同一
の図面であることは,当事者間に争いがない。
加えて,東京大学大学院工学系研究科化学システム工学専攻のE教授
作成の「技術鑑定結果報告」(甲16)によると,E教授は,甲16の
図面1ないし7と甲16の図面8ないし14とを詳細に比較検討した
結果,①プロセスフロー図は,プラントの建設や運転において極めて重
要なものであり,一般に,様々な情報を組み合わせても,類似のプロセ
スフロー図はできないこと,②甲16の図面1と甲16の図面8におい
て使用されているシンボルには,JIS等による推奨記号も存在する
が,各企業独特の記号等も存在するところ,両図面のシンボルは,推奨
記号以外のものも含めて酷似していること,③甲16の図面2ないし7
と甲16の図面9ないし14は,いずれも同一の工程を示したものであ
り,機器番号や名称等に違いが認められるものの,主原料及び主反応物
の流れに直接関わる重要な機器構成が同一であること,④甲16の図面
1ないし7と甲16の図面8ないし14における主要な機器(甲16添
付の資料12)が酷似していることなどを理由に,甲16の図面8ない
し14は,甲16の図面1ないし7と極めて類似し,これらを複製して
作成されたものであると判断している。
E教授の上記判断は,国立大学の大学院教授の立場にある専門家とし
ての専門的知識,経験に基づくものであり,内容において不合理な点も
認められないから,その信頼性は高いものといえる。
そして,P&IDの性質上,無関係に作成された複数の図面が偶然上
記の程度にまで類似し,実質的に同一の図面となることは考えられない
ことからすると,甲16の図面8ないし14は,甲16の図面1ないし
7を複製して作成されたものであると認められる。
(ウ)被告らの主張について
これに対し,被告らは,甲16の図面8ないし14を含む被告基本設
計図書について,出光基本設計図書を複製して作成した事実はなく,藍
星から示されたバッチ式モデルプラントである年産3000トンの常
州プラントの完成図書(常州PCプラント基本設計図書)を原型とし,
これをバッチ式から連続式に変更してスケールアップした,年産1万ト
ンの連続式新設プラントの基本設計図書であって,被告会社が独自に作
成した旨主張し,被告Aもこれに沿う供述(乙6の陳述書を含む。以下
同じ。)をする。
しかしながら,本件においては,常州PCプラント基本設計図書の存
在及び内容はもちろんのこと,そもそも常州PCプラントの存在自体も
証拠上明らかではなく,被告Aの供述を裏付けるに足りる証拠は何ら存
在しない。
また,被告Aの具体的な供述内容をみると,被告会社や三共PTのメ
ンバーが常州PCプラント基本設計図書に接したのは,被告A自身が合
計3回にわたり,北京においてこれらの図書を閲覧したことのみであ
り,藍星からこれらの図書の写しを交付されたことはなく,被告Aが上
記閲覧の際に書き取ったデータのメモ書きに基づいて被告基本設計図
書の作成が行われ,しかも,被告A自身が,常州PCプラント基本設計
図書の閲覧前に,PCプラントの開発,設計,エンジニアリングに携わ
った経験はなく,三共PTのメンバーの中にもPCプラントの開発,設
計等に携わった経験者はいなかったというものであって,このような被
告Aの供述は,甲16の図面8ないし14の具体的な記載内容,PC樹
脂を商業規模で製造するPCプラントの基本設計には高度の専門的技
術及びノウハウが必要とされること(前記1(1)ア(ア),弁論の全趣旨)
等に照らし,極めて不可解かつ不自然であるといわざるを得ない。
したがって,被告会社が常州PCプラント基本設計図書を原型として
被告基本設計図書を独自に作成した旨の被告Aの供述は信用すること
ができず,他にこれを認めるに足りる証拠はない。
したがって,被告らの上記主張は,採用することができない。
イ甲16の図面8ないし14と本件情報全体との関係
(ア)前記アのとおり,被告会社が作成した被告基本設計図書のうち,少
なくとも甲16の図面8ないし14は,被告会社において,別紙目録1
記載の各図面の一部(具体的には,別紙「千葉工場第1ポリカーボネー
ト装置P&IDリスト」の№2,5,9,10,17,19,24及び
38の各図面)を複製して作成したものである。
そして,甲16の図面9は,苛性ソーダ水溶液(NaOH水溶液)を
用いたビスフェノールAの溶解工程に係る図面,図面10−1,10−
2及び11は,重合反応工程(オリゴマー反応及び重合反応)に係る図
面,図面12は,洗浄精製工程に係る図面,図面13は乾燥工程に係る
図面,図面14はポリカーボネートの造粒工程に係る図面であって,甲
16の図面9ないし14は,界面重合法によるPC樹脂の一連の製造プ
ロセス全体に関わっている。
(イ)前記(1)のとおり,被告会社は,ビーシー工業との間の本件技術供
与契約に基づいて,藍星が計画するPCプラントに関して,被告基本設
計図書の作成作業を行い,平成16年5月ころまでには,P&ID,P
FD及び機器図を含む被告基本設計図書を完成させ,これらの図面はビ
ーシー工業を経て藍星に引き渡され,その後,被告会社は,同年6月に
国内での作業を終了した後,同年10月末までは中国蘭州において現地
に合わせた詳細設計を行い,これらの業務の対価として,ビーシー工業
から合計3億5618万4508円にのぼる支払を受けていることが
認められる。
このような経過からすると,被告会社が作成し,ビーシー工業を経て
藍星に引き渡された被告基本設計図書は,藍星が計画するPCプラント
の建設に必要なP&ID,PFD及び機器図等をすべて網羅する基本設
計図書の一式であったものと認めることができる(なお,被告基本設計
図書が,藍星の計画するPCプラントの建設に必要な設計図書をすべて
含む完成図書であることは,被告らにおいてもこれを認めている。)。
(ウ)ところで,①PC樹脂の製造技術は,限られた企業グループがそれ
ぞれ独自に自社技術を確立し,実践しているものであり,原告及び出光
石油化学が有していたPC樹脂の製造技術もその中の一つであるこ
と(前記1(1)ア(ア)),②出光基本設計図書は,原告及び出光石油化
学が独自に開発したPC樹脂製造技術に基づいて設計された出光石油
化学千葉工場第1PCプラントのP&ID,PFD及び機器図であるこ
と(前記1(1)イ,ウ(ア)),③一つのPCプラントの建設に必要とさ
れるP&ID,PFD及び機器図は,有機的に関連する一連の工程を図
面化したものであり,一つ一つの図面が相互に密接に関連したものであ
ることからすれば,出光基本設計図書の一部とそれ以外のP&ID,P
FD及び機器図とを組み合わせることによって,一つのPCプラントに
係る完成されたP&ID,PFD及び機器図を作成することは,極めて
困難なことであって,通常は考え難いことということができる。
してみると,上記のとおり,被告会社が作成した被告基本設計図書が
藍星の計画に係るPCプラントの建設に必要なP&ID,PFD及び機
器図等をすべて網羅する完成された基本設計図書の一式であったこと,
被告会社が,別紙目録1記載の各図面(P&ID)の一部を複製して被
告基本設計図書の一部である甲16の図面8ないし14を作成し,しか
も,これらの図面は,界面重合法によるPC樹脂の一連の製造プロセス
全体に関わっていること(前記(ア))が認められる以上,被告会社は,
上記一部の図面のみならず,出光基本設計図書のすべてを複製して被告
基本設計図書を完成させたものであることが推認される。
ウ被告らによる出光基本設計図書の具体的な取得経過
上記イのとおり,被告会社が出光基本設計図書を複製して被告基本設計
図書を作成したものであることが認められる以上,被告会社は,何らかの
経過により,出光基本設計図書(具体的には,そのコピー又は電子データ)
を取得したものといえる。
そして,この点について,原告は,C1が,出光石油化学の従業員に働
きかけて,出光石油化学が保管する出光基本設計図書のコピー又は電子デ
ータを持ち出させてこれを取得し,更に被告らがC1からその提供を受け
たものである旨を主張する。
(ア)まず,前記1(2)で認定したとおり,出光基本設計図書に記載され
た情報(本件情報)が,出光石油化学において秘密として管理されてい
る重要な技術情報であることからすると,同社又は原告との間で,当該
技術に関するライセンス契約を締結したり,PC樹脂の製造に関する合
弁事業を営むなどといった特別の関係を持たない被告会社が,当該情報
を原告又は出光石油化学から適法に入手することは,考え難いこととい
える。
出光石油化学と藍星の間においては,平成14年12月から平成15
年1月にかけて,藍星からの申入れに基づき,PC製造の合弁事業等に
関する交渉が持たれたものの,進展のないまま短期間で交渉が打ち切ら
れたという経過があること(前記(1)イ)からすれば,平成15年当時
の藍星が,出光石油化学から出光基本設計図書のコピー等を入手してい
て,それらを被告会社に提供したということも考え難い。
(イ)次に,前記1(1)ウ(イ)認定の出光石油化学千葉工場における出光
基本設計図書の管理状況からすれば,出光石油化学の従業員以外の外部
の者が,出光石油化学が保管する出光基本設計図書に直接アクセスし
て,これらのコピーや電子データを持ち出すことは極めて困難であった
ものといえる。
その反面,上記の管理状況からすれば,少なくとも千葉工場でPC樹
脂の製造業務等に従事する出光石油化学の従業員であれば,PS・PC
計器室に保管されている出光基本設計図書やその電子データが記録さ
れたフロッピーディスクにアクセスし,これらをコピーするなどして持
ち出すことは,十分可能であったものと認められる。
(ウ)上記(ア)及び(イ)を総合すると,被告会社が出光基本設計図書のコ
ピー又は電子データを入手した経路として現実的に考え得るのは,出光
石油化学の従業員に働きかけて,出光石油化学千葉工場からこれらを持
ち出させるという方法である。そして,このような観点から前記(1)で
認定した本件の事実経過をみると,被告会社における藍星が計画するP
Cプラントの建設に関するプロジェクトに関与したと認められる関係
者の中で,出光石油化学との密接なつながりが認められる者は,被告会
社が本件コンサルタント契約を締結していたC商事の代表取締役であ
るC1しか見当たらないものといえる。このことは,C1が出光石油化
学からの本件情報の入手に関与している可能性を強く示唆するもので
ある。
この点について,被告らは,本件コンサルタント契約に基づいてC商
事が提供することとされた業務は,①被告会社が作成したPCプラント
の基本設計図書の照査,②建設されるPCプラントの試運転の計画及び
管理,③当該PCプラントの維持運転の計画及び管理であった旨主張
し,C1が出光石油化学からの本件情報の入手に関与した事実を否定す
る。
しかしながら,前記(1)キのとおり,被告会社からC商事に対しては,
本件コンサルタント契約に基づく報酬として,合計2億0421万91
50円にものぼる金額が支払われているところ,このような報酬の額
は,被告会社が本件技術供与契約に基づいてビーシー工業から支払を受
けた金員の総額が3億5618万4508円であることと比較しても,
明らかに高額である。特に,本件証拠によっても,藍星のPCプラント
が現実に建設され,試運転や維持運転が行われたとの事実は認められ
ず,C商事が,被告らの主張する上記業務のうち,少なくとも試運転や
維持運転の管理に係る業務を現に提供したとの事実が認められないこ
とからすれば,上記のような報酬の額は,不自然に高額なものといわざ
るを得ない。これに対して,C1が,上記のとおり出光石油化学から本
件情報を入手し,これを被告会社に提供したのであるとすれば,上記の
ような高額の報酬を受領していることも,自然かつ合理的なこととして
了解し得るところである。
(エ)そこで,更に,C1が本件情報の入手に関与した事実の有無につい
て検討するに,その関与の可能性を示唆する事情として,次のような点
を指摘することができる。
a前記(1)エ(イ)の認定事実と証拠(乙9)及び弁論の全趣旨を総合
すれば,①C1は,昭和35年に原告に入社し,平成11年3月に出
光石油化学を退職するまでの約35年間,原告又は出光石油化学に在
職し,この間,徳山工場,千葉工場などに勤務し,主にポリスチレン
等の製造装置の運転業務に従事し,千葉工場では管理職も務めたこ
と,②C1は,平成11年の退職後,まもなく個人でプラスチック樹
脂を中国に輸出する事業を始め,平成14年5月にはC商事を設立し
て同様の事業を会社組織として継続し,当該事業の関係で出光石油化
学とも取引関係があり,千葉工場に出入りしていたことが認められ
る。
上記認定事実によれば,C1には,平成11年の退職後も,出光石
油化学の従業員の中に,多数の元同僚,部下などの知人がいたものと
推認され,平成15年ないし平成16年ころの時点においても,出光
石油化学千葉工場に勤務する従業員の中に,本件情報の入手のための
働きかけの対象となり得る知人等がいた蓋然性があるものと認めら
れる。
他方,出光石油化学千葉工場に勤務し,少なくともPC樹脂の製造
業務に従事する従業員であれば,PS・PC計器室に保管されている
出光基本設計図書やその電子データが記録されたフロッピーディス
クにアクセスし,これらをコピーするなどして持ち出すことが十分可
能であったことは前記(イ)のとおりである。
してみると,C1が出光石油化学の従業員に働きかけて,出光基本
設計図書のコピー又は電子データを持ち出させることは,十分可能な
状況にあったものということができる。
bL(以下「L」という。)の別件訴訟における供述(甲43)中に
は,LとC1はかねてからの知り合いであったところ,平成15年秋
ころ,その当時出光石油化学千葉工場に勤務していたLがC商事の事
務所を訪れた際,同事務所に千葉工場第1PCプラントのP&ID等
の図面があることを見て,千葉工場第1PCプラントにおいては,熱
交換器,洗浄塔,分離槽など5か所ほどの機器図が同図面のものから
変更されている旨指摘したところ,C1から,それらのうち四つの機
器の機器図の提供を求められたこと,Lは,これに応じて,千葉工場
のPS・PC計器室において当該四つの機器図をコピーして社外に持
ち出し,C1に交付したこと,Lは,C1から,PCプラントに関す
る協力の報酬として,平成16年2月に180万円を受領し,その後
も平成17年2月まで毎月30万円(合計で390万円)を受領した
ことなどを述べる供述部分があり,これに沿うL作成の報告書(甲4
0の1)及び始末書(甲40の2)の記載部分がある。
Lの上記供述部分(上記報告書及び始末書の記載部分を含む。以下
同じ。)は,全体として格別不合理な点は見当たらず,金銭の受領に
ついては客観的な裏付け(C商事の預金取引明細表(甲41))があ
る上,自己に不利益な供述内容も含まれていることなどからすれば,
その供述自体において信用性を疑わせる事情は特段認められない。
そして,Lの上記供述部分によれば,C1は,平成15年秋ころ,
かねてからの知り合いであり,その当時出光石油化学千葉工場に勤務
していたLに対し,千葉工場第1PCプラントの機器図の一部を提供
するよう働きかけ,Lにそのコピーを持ち出させて取得したことが認
められるのであり,このような事実の存在は,C1が,上記の機器図
以外の設計図面についても同様に,出光石油化学の従業員の誰かに働
きかけて,持ち出させて取得した可能性を強く示唆するものというこ
とができる。
(オ)小括
以上で述べた諸事情,すなわち,①被告会社が出光基本設計図書のコ
ピー又は電子データを入手した経路として現実的に考え得るのは,出光
石油化学の従業員に働きかけて,これらを持ち出させるという方法であ
ること,②他方,本件の関係者の中で,出光石油化学と密接なつながり
を有し,上記のような情報の入手に関与し得る者として想定し得るのは
C1のみであり,また,C1が被告会社から受領した報酬の額からみて
も,C1が上記情報の入手に関与したものと考えるのが合理的であるこ
と,③さらに,C1には,その経歴等からみて,出光基本設計図書のコ
ピー等を持ち出し得る出光石油化学の従業員の中にそのような働きか
けの対象となり得る知人等がいた蓋然性があること,④しかも,現に,
C1が,千葉工場第1PCプラントの機器図の一部について,千葉工場
に勤務していたLに対してそのような働きかけを行い,そのコピーを千
葉工場から持ち出させた事実があることを総合すれば,C1が,出光基
本設計図書にアクセスし得る出光石油化学の従業員に働きかけて,その
コピー又は電子データを千葉工場から持ち出させて取得した上で,それ
らを被告会社に提供したものであることを推認することができる。
もっとも,本件証拠によっても,C1の働きかけにより出光基本設計
図書のコピー又は電子データの持ち出しを実際に行った出光石油化学
の従業員が具体的に誰であるのかは不明であるといわざるを得ない。し
かし,このことは,C1が上記の行為を行ったとの事実を推認すること
を妨げるものではないというべきである。
エまとめ
以上によれば,C1は,出光石油化学千葉工場の従業員に働きかけ,当
該従業員をして出光石油化学の千葉工場から出光基本設計図書全部のコ
ピー又は電子データを持ち出させてこれを取得したものであり,他方,被
告会社は,C1が上記のように不正な手段により出光基本設計図書全部の
コピー又は電子データを取得したことを知りながら,C1から当該コピー
等を取得した上で,これらを複製して被告基本設計図書を作成し,ビーシ
ー工業に提供し,更にビーシー工業を介して藍星に提供したものであるこ
とが認められる。
しかるところ,上記の持ち出しを行った出光石油化学の従業員は,出光
石油化学が保有する営業秘密である出光基本設計図書に記載された情報
を示され,少なくとも雇用契約に付随する信義則上の義務として,これを
第三者に漏洩しない義務を負っていたものというべきであるから,当該従
業員が出光基本設計図書のコピー又は電子データをC1に交付する行為
は,営業秘密を守る法律上の義務に違反して当該営業秘密を開示する行為
であって,不正競争防止法2条1項8号括弧書き後段に規定する「不正開
示行為」に当たるものと認められる。
そうすると,被告会社がC1から出光基本設計図書のコピー又は電子デ
ータを取得した行為及び出光基本設計図書の複製物である被告基本設計
図書をビーシー工業に提供し,更にビーシー工業を介して藍星に提供する
ことによって,出光基本設計図書に記載された情報(本件情報)を開示し
た行為は,営業秘密について不正開示行為が介在したことを知ってこれを
取得し,更にこれを開示する行為であって,不正競争防止法2条1項8号
の不正競争行為に当たるものと認められる。
そして,被告会社の上記行為は,主としてその代表取締役である被告A
によって行われたものであり,このような被告Aの行為は,被告会社の代
表者がその職務として行った法人たる被告会社の不正競争行為であると
同時に,被告A個人の不正競争行為でもあるものと認められる。
(3)原告の被告らに対する差止請求及び廃棄請求の可否
被告らによる出光基本設計図書のコピー又は電子データの取得及び出光
基本設計図書の複製物である被告基本設計図書の開示に係る前記不正競争
行為は,出光石油化学又はその権利義務を承継した原告の営業上の利益を侵
害するものであることが明らかであるところ,現時点においても,被告らが,
出光基本設計図書のコピーや電子データ,あるいは,その複製物である被告
基本設計図書のコピーや電子データを保有し,これらをPCプラントの建
設,改造,増設,補修,運転管理に使用し,又は第三者に開示するおそれが
あるものと認められる。
したがって,原告は,被告らに対し,不正競争防止法3条1項に基づき出
光基本設計図書(別紙目録1ないし3記載の各図面及び図表)の使用(その
使用の態様には,第三者に使用させる場合を含む。),開示の差止めを,同
条2項に基づき出光基本設計図書が記録された記録媒体の廃棄を求めるこ
とができる。
3争点3(不正競争行為による損害額)について
(1)前記2(2)で認定したとおり,被告らは,故意により,出光基本設計図書
に記載された本件情報の取得及び開示という不正競争行為(不正競争防止法
2条1項8号)を行い,出光石油化学の営業上の利益を侵害したものである
から,同法4条により,これによって出光石油化学に生じた損害を,出光石
油化学の権利義務一切を承継した原告に賠償すべき責任がある。
(2)そこで,出光石油化学に生じた損害額について検討する。
ア不正競争防止法5条2項の損害額
(ア)原告は,被告らの不正競争行為によって出光石油化学に生じた損害
は,本件情報に係るPCプラントの製造技術をライセンスすることによ
って得べかりし利益の損害であり,その損害額については,不正競争防
止法5条2項により,被告らが受けた利益の額(3億4279万881
2円)をもって出光石油化学の損害額と推定すべきである旨主張するの
で,まず,被告らが受けた利益の額について検討する。
前記2(1)で認定した本件の事実経過等によれば,①被告会社とビー
シー工業との間の本件技術供与契約においては,藍星が計画するPCプ
ラントの設計を行い,その基本設計図書を作成してこれを提供すること
が,被告会社がビーシー工業に提供すべき業務の重要な部分とされ,被
告会社は,かかる業務の履行として被告基本設計図書を作成し,平成1
6年5月ころまでに,これらをビーシー工業に引き渡し,更にビーシー
工業はこれらを藍星に引き渡したこと,②本件技術供与契約において
は,被告会社がビーシー工業に対し連続式合成樹脂製造装置のノウハウ
を供与する対価としてのロイヤルティ合計2億7200万円及び同設
備のエンジニアリング及び建設指導を提供する対価としてのエンジニ
アリング・フィー合計2億4300万円を支払うものとされているこ
と,③ビーシー工業から被告会社に対し,平成15年7月22日から平
成16年11月3日までの間に,本件技術供与契約に基づく金員として
合計3億5618万4508円が支払われていること,④その支払は,
ビーシー工業が藍星から支払を受けた金員を原資とするものであるこ
とが認められる。
そして,被告らが被告基本設計図書を作成してビーシー工業に提供
し,更にビーシー工業を介してこれを藍星に提供した上記行為は,出光
石油化学の営業秘密である本件情報を第三者に開示する行為として,不
正競争防止法2条1項8号の不正競争行為に該当するところ(前記2
(2)),上記②及び③によれば,被告会社がビーシー工業から支払を受
けた上記3億5618万4508円には,被告会社が上記不正競争行為
を行うことによって受けた利益(本件情報の開示の対価)が含まれてい
るものと認められる。
この点に関し,原告は,被告会社が上記不正競争行為を行うことによ
って受けた利益は,上記3億5618万4508円から被告会社が本件
技術供与契約に基づく業務を行うに当たって雇い入れるなどした技術
者らに対して支払った報酬額の合計1338万5696円を控除した
3億4279万8812円であると主張するのに対し,被告らは,ビー
シー工業から支払を受けた金員はすべてエンジニアリング・フィーであ
り,しかも,多岐にわたる多額の費用を支出しているので,原告主張の
被告会社が受けた利益は存在しない旨主張する。
そこで検討するに,前記2(1)で認定した本件の事実経過等によれば,
被告基本設計図書は,藍星が中国に建設を計画するPCプラントのため
の基本設計図書であって,出光基本設計図書と完全に一致するものでは
ないこと,被告会社は,三共PTにおいて藍星の建設計画に合わせるた
め出光基本設計図書の修正作業を行って被告基本設計図書を作成し,更
に中国に滞在して詳細設計の作業を行ったことが認められるから,被告
会社がビーシー工業から支払を受けた上記3億5618万4508円
には,このような修正作業及び詳細設計等に伴う費用(被告らの主張す
るエンジニアリング・フィー等)が含まれているというべきである。
加えて,本件技術供与契約によれば,被告会社がビーシー工業から支
払われるロイヤルティは総額で2億7200万円であり,その支払時期
は,「契約時」,「土木工事開始時」,「試運転完了引渡後30日以内」
及び「保証金(引渡後90日以内)」とされているが,被告会社は,詳
細設計の作業を終了した時点において三共PTを解散し,その時点では
藍星が計画するPCプラントの「土木工事」は開始されていなかったこ
と,上記「契約時」に支払われるロイヤルティは9000万円とされて
いることをも考慮すれば,ビーシー工業の被告会社に対する上記支払額
全額が本件情報の開示の対価と直ちに認めることはできない。
しかし,他方で,上記支払額が被告会社のいかなる業務に対する対価
の趣旨で支払われたのかについては,原告のあずかり知るところではな
く,原告において上記支払額から被告会社の修正作業及び詳細設計等に
伴う費用を差し引いて本件情報の開示の対価の額を立証することはそ
の事実の性質上極めて困難である。
これに対し被告らにおいては,作業の進捗状況と上記金員の支払状況
を具体的に説明し,これらの事実を裏付ける証拠を提出するなどして,
上記費用を立証することは可能なはずであるが,この点について,本件
調査嘱託により,被告会社が技術者らに対して合計1338万5696
円の支払をしたことが判明したほかには,被告らからの具体的な説明や
証拠の提出がない。
以上の諸点に鑑みると,被告らが上記不正競争行為を行うことによっ
て受けた利益(本件情報の開示の対価)は,不正競争防止法9条により,
口頭弁論の全趣旨と証拠調べの結果に基づき,被告会社がビーシー工業
から支払を受けた上記3億5618万4508円のうち,2億7200
万円と認めるのが相当である。
(イ)これに対し被告らは,被告会社が,本件コンサルタント契約に基づ
いてC商事に支払った報酬について,被告らが受けた上記利益の額を算
定するに当たって控除されるべき必要経費に当たるかのようにも主張
する。
そこで検討するに,前記2(2)エの認定事実によれば,被告らとC商
事及びC1とは,出光石油化学の営業秘密である本件情報の取得及び開
示という不正競争行為を互いに意を通じ共同して行ったものと認めら
れるから,被告らが受けた前記(ア)の利益(2億7200万円)は,被
告らがC商事及びC1と共同して不正競争行為を行ったことによって
受けた利益であるということができる。
他方で,被告会社からC商事に対し,平成15年7月23日から平成
16年8月2日までの間に,本件コンサルタント契約に基づく報酬とし
て合計2億0421万9150円が支払われているが(前記2(1)キ),
それがC商事が具体的にいかなる業務を行ったことに対する報酬であ
るのかについて,被告らからの具体的な説明や証拠の提出がないことに
照らすならば,被告会社からC商事への上記2億0421万9150円
の支払の実質は,共同不正競争行為者間における利益の分配を意味する
ものといわざるを得ないから,上記支払額を被告らが主張する必要経費
に当たるものとして,被告らが受けた利益の額の算定に当たって控除す
るのは相当とはいえない。
したがって,被告らの上記主張は,採用することができない。
(ウ)以上によれば,不正競争防止法5条2項により,被告らの不正競争
行為によって出光石油化学が受けた損害額は,被告らが受けた前記(ア)
の利益と同額の2億7200万と推定される。
イ不正競争防止法5条3項3号の損害額
原告は,被告らの不正競争行為によって侵害された営業秘密である本件
情報の「使用」(開示行為)に対し受けるべき金額に相当する金額(不正競
争防止法5条3項3号)について,上記ア(ウ)の損害額を超える4億23
13万6000円が相当である旨を主張する。
この点,原告の上記主張は,出光石油化学が台湾の会社との間で締結し
たPC製造プロセスのライセンス契約(甲52,53)において,年間生産
量5万トンのPCプラントに係るライセンス料が3200万米ドル(1米
ドルを89円73銭換算で,28億7136万円)とされていることに基
づき,年間生産量1万トンを予定する藍星のPCプラントのために本件情
報を使用することに対し受けるべき金額に相当する金額を,その5分の1
に当たる5億7427万2000円であると算定し,これと本件技術供与
契約において定められた2億7200万円のロイヤルティの額とを平均
することによって,上記金額を算定するものである。
しかしながら,PC製造プロセスのような技術についてのライセンス契
約におけるライセンス料の額は,個々の契約における契約条件のほか,当
事者間の関係,相手方企業が属する国の実情,対象とされる施設や生産の
規模など様々な要因によって定まるものであることからすれば,甲52及
び53の契約に係るライセンス料の額が,藍星が中国に建設を予定するP
Cプラントに関するライセンス料の額の算定に直ちに当てはまるものと
は言い難い上に,原告が主張する算定方法は,ライセンス料の額がライセ
ンスの対象となるPCプラントの年間生産量に単純に比例することを前
提とするものであるところ,このような算定方法がPC製造プロセスに係
るライセンス料の算定方法として正しいものであるか否かは,必ずしも明
らかとはいえない。
このように,原告が主張するライセンス料の額の算定は,必ずしも的確
かつ十分な根拠によるものとは言い難いというべきであり,少なくとも,
本件情報の「使用」(開示行為)に対し受けるべき金額に相当する金額が,
上記アの2億7200万円を超えるものであることを認めるに足りるだ
けの根拠があるものとはいえない。
したがって,原告の上記主張は理由がない。
ウ小括
以上の次第であるから,被告らの前記不正競争行為によって出光石油化
学に生じた損害額は,2億7200万円と認められる。
(3)被告らの前記不正競争行為と相当因果関係のある弁護士費用の額は,本
件事案の内容,審理の経過等諸般の事情を考慮し,1500万円と認めるの
が相当である。
(4)以上を総合すると,出光石油化学が,被告らの前記不正競争行為によっ
て受けた損害額の合計は,2億8700万円(前記(2)ウ及び前記(3)の合計
額)と認められる。
したがって,出光石油化学を吸収合併し,その権利義務一切を承継した原
告は,不正競争防止法4条に基づいて,被告らに対し,損害賠償として2億
8700万円及びこれに対する不正競争行為の後であり,かつ,訴状送達の
日であることが記録上明らかな平成20年10月11日から支払済みまで
民法所定の年5分の割合による遅延損害金の連帯支払を求めることができ
る。
なお,原告は,本件情報を取得,開示した被告らの行為について,民法7
09条の不法行為を構成するとして,予備的に同条に基づく損害賠償を請求
するが,仮に被告らの上記行為が不法行為を構成するとしても,これによっ
て,出光石油化学に上記2億8700万円を上回る損害が生じたものとは認
められない。
4結論
以上によれば,原告の被告らに対する請求は,不正競争防止法3条1項に基
づく別紙目録1ないし3記載の各図面及び図表の使用及び開示の差止め,同条
2項に基づく上記各図面及び図表が記録された記録媒体の廃棄,同法4条に基
づく損害賠償として2億8700万円及びこれに対する平成20年10月1
1日から支払済みまで年5分の割合による遅延損害金の連帯支払を求める限
度で理由があるからその限度で認容することとし,その余は理由がないからい
ずれも棄却することとする。
よって,主文のとおり判決する。
東京地方裁判所民事第46部
裁判長裁判官大鷹一郎
裁判官大西勝滋
裁判官石神有吾
(別紙)目録
原告千葉工場第1ポリカーボネート製造装置(プラント)に関する以下のもの。
1Piping&InstrumentDiagram(P&ID)
上記プラント内の機器,配管,計器類をダイアグラム形式で工程ごとに表した
別紙「千葉工場第1ポリカーボネート装置P&IDリスト」記載の№1ないし№60
の各図面(図表を含む。)。ただし,平成15年2月から3月にかけて実施され
た平成14年度末定期見直し版。
2ProcessFlowDiagram(PFD)
上記プラント内の機器,配管を流通する流体の種類,流量,条件などが記載さ
れた各図表。
3機器図
上記プラント内で使用する機器1台ごとに表した別紙「千葉工場第1ポリカー
ボネート装置機器図関連リスト」記載の№1ないし№65の各図面及び別紙「千
葉工場第1ポリカーボネート装置機器図関連リスト(更新・改造・新設)」記載
の№1ないし№34の各図面。

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