弁護士法人ITJ法律事務所

裁判例


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          主文
   1 本件控訴に基づき原判決を次のとおり変更する。
2 控訴人は被控訴人に対し,1704万6331円及びこれに対する平
成9年6月18日から支払済みまで年5分の割合による金員を支払
え。
   3 被控訴人のその余の請求を棄却する。
   4 本件附帯控訴を棄却する。
5 訴訟費用は,これを5分し,その3を控訴人の負担とし,その2を被
控訴人の負担とする。
6 この判決は,主文第2項に限り,仮に執行することができる。
   事実及び理由
第1控訴の趣旨
1 原判決中控訴人敗訴部分を取り消す。
2 被控訴人の請求を棄却する。
3 訴訟費用は,第1,2審とも,被控訴人の負担とする。
第2 附帯控訴の趣旨
 1 原判決を次のとおり変更する。
2 控訴人は被控訴人に対し,3091万0552円及びこれに対する平成9年
6月18日から支払済みまで年5分の割合による金員を支払え。
 3 訴訟費用は,第1,2審とも,控訴人の負担とする。
 4 仮執行宣言
第3 事案の概要
 事案の概要は,次のとおり付加・訂正するほか,原判決の事実及び理由
欄の「第2 事案の概要」に摘示のとおりであるから,これを引用する。
(1) 原判決6頁16行目から17行目の「『海外商品市場における先物取
引の受託等に関する法律』」の次に「(以下「海外先物取引法」とい
う。)」を加える。
(2) 同11頁10行目冒頭から同13行目末尾までを次のとおり改める。
「海外先物オプション取引は,仕組みが複雑で,かつ投機性の極めて
強い取引であるから,新規の委託者は,理論的に取引の仕組みを理
解することができても,実際には予想外の多額の損失を被るおそれが
強い。そこで,新規の委託者を保護するため,海外先物オプション取引
を受託する会社においては,新規の委託者に対し,当初の一定期間,
多額の取引を勧誘してはならないという義務があるというべきである。
国内の商品先物取引においても,新規委託者については,当初の3か
月間,1時点の建玉枚数(取引量)が20枚を超える取引をさせてはな
らない旨の社内規則が各商品先物取引受託会社において制定されて
いる。」
(3) 同13頁12行目から同20行目末尾までを次のとおり改める。
「ア 新規委託者保護管理規則違反について
 国内の商品先物取引において,新規の委託者に対して一定期間
にわたり取引量を制限する規則は存在しない。
 被控訴人が行った各取引におけるストライクポジションや限月は,
Aにおいてプランを示し,結果的に被控訴人自身が納得して決定し
たものであり,また,被控訴人は,予算の範囲内で枚数を決めて購
入していたものである。
 イ 無敷,薄敷取引について
 無敷,薄敷取引は,委託保証金を要する商品先物取引の場合に
問題となる概念であり,委託保証金を要しない本件オプション取引に
当てはめることはできない。むしろ,本件オプション取引においては,
買付代金は注文の翌日に銀行振込により控訴人に送金することに
なっていたから,被控訴人においては,注文を発した後においても,
実際に送金手続をするまでの間,さらに考慮する時間があったこと
になる。」
第4 当裁判所の判断
1控訴人の損害賠償責任について判断する。
  当裁判所も,控訴人の従業員であるA及びBの被控訴人に対する本件
オプション取引勧誘行為は違法であり,控訴人は被控訴人に対し,民法7
15条による損害賠償責任を負うものと判断するが,その理由は,次のと
おり付加・訂正するほか,原判決の事実及び理由欄の「第3 争点に対す
る判断」の一ないし四の説示(原判決14頁25行目冒頭から同20頁25
行目末尾までの部分)のとおりであるから,これを引用する。
(1) 原判決16頁17行目の「主婦であり,」の次に「教員をしていた亡夫
の遺族年金で生活しており,」を加える。
(2) 同17頁11行目の「本件オプション取引の仕組み」から同14行目末
尾までを「Aは,本件オプション取引の仕組みについて,リスク開示告
知書が添付された『オプション取引契約のご案内』と題するパンフレット
(甲1の1)を使用して説明したが,儲けることができるという話が中心
であり,被控訴人は,商品先物取引の経験が皆無であったこともあり,
本件オプション取引の仕組みについて,ほとんど理解できなかったが,
ローリスク・ハイリターンという説明を聞いて,本件オプション取引を依
頼することにした。」と改める。
(3) 同17頁18行目から19行目にかけての「もっとも,原告は,Aらの言
われるままにもそれぞれ記載し」を「これらの書面によれば,被控訴人
は,本件オプション取引の仕組みについて十分理解できた旨の回答に
なっているが,実際には,Aに言われるままに,これら書面に記載し」と
改める。
(4) 同18頁4行目末尾に「被控訴人は,当時,亡夫の退職金や生命保
険金等により,ある程度の金融資産を有していた。」を加える。
(5) 同19頁2行目の「もっとも」を「この書面によれば,被控訴人は,本件
オプション取引の計算方法を理解し,マーケット情報を毎日聞いている
旨の回答になっているが,実際には,本件オプション取引の計算方法
は十分理解できず,マーケット情報を入手する手段も知らなかったもの
であり」と改める。
(6) 同19頁5行目の次に行を改めて次のとおり加える。
 「被控訴人は,本件オプション取引の注文後,各取引について控訴人か
らオプション買付および計算報告書の送付を受け,委託手数料が高額
であることに気付き,Aに対して手数料が高額ではないかとの感想を述
べたが,Aから手数料を含めても大きく上回る利益を得られる旨の説明
を受けたので,その説明に納得し,以後手数料の金額が高額であるこ
とを気にしなくなった。」
(7) 同19頁21行目冒頭から同20頁4行目末尾までを次のとおり改め
る。
「8 被控訴人は,本件取引2で多額の損失を被ったことから,大変な取
引に手を出してしまったと思うようになり,平成8年11月下旬ころ以
後,Aに対し,本件オプション取引の継続を慎重に考えたい旨を伝え
たが,Aらが『損をした分を必ず取り返します。』等と何度も取引の継
続を勧誘し,被控訴人においても何とか損失分を取り返したいという
考えがあったこともあり,本件オプション取引を継続することになっ
た。
 そして,被控訴人は,Aらに勧誘されるまま,その後も,原判決別
紙売買取引一覧表番号8ないし23のオプション取引を注文した。
9 被控訴人は,その後も本件オプション取引による損失が続いたにも
かかわらず,Aらが新たな取引の勧誘を続けたため,平成9年4,5
月ころ,このまま本件オプション取引を継続することに強い不安を感
じ,新聞記事で知った相談窓口に電話し,結局のところ弁護士への
相談を勧められて,被控訴人訴訟代理人らに対応を相談し,直ちに
本件オプション取引を終了するよう助言された。」
(8) 同20頁11行目冒頭から25行目末尾までを次のとおり改める。
「四 前記三認定(原判決引用)の事実によれば,被控訴人は,本件オプ
ション取引はもちろん株式信用取引や商品先物取引の知識や経験
がない主婦であったものの,相当な社会経験を有し,かつ一定の金
融資産も有していた者であるから,本件オプション取引の内容とりわ
けそのリスクについて理解できる能力がなかったとはいえず,かつ
取引を行うに足りる経済力を有していたといえる。したがって,控訴
人において,被控訴人に対し,本件オプション取引を勧誘したことが
適合性の原則に違反して違法であったとまではいえない。
 しかしながら,前記一,二判断(原判決引用)のとおり,本件オプシ
ョン取引は,その仕組みが一般の証券取引に比べて複雑で,日本で
はなじみのない取引であり,かつリスクが高い投機性の極めて強い
取引であるから,投資経験のない被控訴人がその内容を十分理解
することは,相当困難であることが明らかである。したがって,Aらと
しては,被控訴人に対し,株式信用取引や商品先物取引の経験が
あるか否かを確認して,その経験がない場合には,本件オプション
取引の内容について,十分な時間をかけて説明するとともに,具体
的な取引例を想定して,手数料も含めた上で,予想される利益や損
失を具体的に数字を示して説明すべき義務があり,かつ,当初は少
額の取引の勧誘に止めて,その取引の損益を確定させ,実際に取
引を経験してもらったうえで,通常規模の取引を勧誘すべき義務が
あるといえる。
 ところが,前記三認定(原判決引用)のとおり,Aは,被控訴人に対
し,株式信用取引や商品先物取引の経験の有無を確認することもな
く,パンフレットを示す等して,本件オプション取引にリスクがあること
は説明したものの,ローリスク・ハイリターンで儲かることを強調し,
具体的に一定数の注文をしたと仮定した場合に,手数料を含めてど
のような場合にいくらの利益が得られ,どのような場合にいくらの損
失が発生するかを具体的に説明していない。このようなローリスク・
ハイリターンを強調しただけの一般的説明では,投資経験のない被
控訴人が本件オプション取引の仕組みやリスクを正しく理解すること
は不可能であり,説明義務違反があったものというべきである。ま
た,Aは,被控訴人に対し,原判決別紙売買取引一覧表番号1ない
し3のとおり,本件オプション取引の開始後,1週間の間に,合計約1
900万円の預託金額となる取引を勧誘したものであるが,初めて本
件オプション取引を行う被控訴人に,当初から多額の取引を勧誘し
たことになり,投資経験のない新規委託者の保護義務にも違反して
いるものというべきである。
 なお,被控訴人は,その他の違法事由として,無敷・薄敷取引及び
仕切拒否・回避を主張している。しかし,本件オプション取引におい
ては委託保証金の制度は存在せず,前記三認定(原判決引用)のと
おり,手数料を含めた買付代金は控訴人において遅滞なく徴収して
いたことが認められるし,仮に控訴人の仕切拒否の事実が認められ
るとしても,それによって被控訴人の損失が拡大したのかどうか本件
証拠上明らかでない。したがって,被控訴人の上記主張は理由がな
い。」
2 そこで,損害額及び過失相殺について判断する。
(1) 前記三認定(原判決引用)のとおり,本件オプション取引による被控
訴人の財産的損害額は,被控訴人の主張金額である2591万0552
円と認められる。
  また,被控訴人は,精神的損害による慰謝料も請求しているが,控訴
人の従業員において,脅迫等の反社会的態様の勧誘方法をとったと
は認められないから,慰謝料は認められない。
(2) ところで,前記三認定(原判決引用)の事実によれば,次の事情が指
摘できる。
  被控訴人は,本件オプション取引の仕組みを理解することはできなか
ったが,損失を被ることがあり得ることは理解できたものであり,Aか
ら,本件オプション取引について十分に理解している趣旨のアンケート
や念書への署名押印を求められた際,実際には十分理解できなかっ
たにもかかわらず,これら書類への署名押印に応じている。また,本件
取引2(大豆)によって約860万円という多額の損失を被り,本件オプ
ション取引が実際にはハイリスクであることを理解することができたに
もかかわらず,その後もAらの勧誘に応じて,多数のオプション取引を
注文し,結果的に損失をさらに拡大させてしまった。
(3) 以上の事情によれば,本件オプション取引によって損害を被ったこと
については,被控訴人にも相当な落ち度があるものというべきであり,
本件のその他の一切の事情を考慮すると,4割の過失相殺をするのが
相当である。
(4) そうすると,被控訴人が控訴人に請求できる損害額は,2591万05
52円から4割を控除した1554万6331円となる。
  弁護士費用のうち,本件と相当因果関係のある損害として150万円を
認めるのが相当である。したがって,合計額は1704万6331円とな
る。
3 以上によれば,被控訴人の本訴請求は,1704万6331円及びこれに
対する不法行為の後である平成9年6月18日から支払済みまで民法所
定の年5分の割合による遅延損害金の支払いを求める限度において理
由がある。
  よって,本件控訴に基づき,これと結論を一部異にする原判決を変更し,
被控訴人の本訴請求を上記限度で認容し,その余の請求は理由がない
からこれを棄却し,本件附帯控訴は理由がないからこれを棄却することと
し,主文のとおり判決する。
 名古屋高等裁判所民事第4部
裁判長裁判官小   川   克   介
裁判官黒   岩   巳   敏
裁判官永   野   圧   彦

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