弁護士法人ITJ法律事務所

裁判例


戻る

○ 主文
本件各控訴を棄却する。
控訴費用は控訴人らの負担とする。
○ 事実
控訴人らは「原判決を取り消す。被控訴人法務大臣が控訴人らに対し昭和五三年一
一月一六日付でなした控訴人らの出入国管理令四九条一項に基づく異議の申出を棄
却するとの裁決を取り消す。被控訴人大阪人国管理事務所主任審査官が控訴人らに
対し同年一二月一五日付でなした退去強制令書発付処分を取り消す。訴訟費用は第
一、二審とも被控訴人らの負担とする。」との判決を求め、被控訴人らは主文同旨
の判決を求めた。
当事者双方の主張及び証拠の関係は、原判決事実摘示のとおりであるから、これを
引用する。
○ 理由
当裁判所も、控訴人らの本訴請求はいずれも理由がないと判断するものであり、そ
の理由は、次のとおり付加するほか、原判決理由の説示と同一であるから、これを
引用する。
「成立に争いない甲第一号証に原審の控訴人A本大尋問の結果を総合すると、控訴
人Aは、昭和一七年韓国人の母Bの子として韓国で出生したが、同一九年一月一二
日出生したものとして韓国の戸籍(本籍済州市内<地名略>)に登載され、現在韓
国籍を有する外国人であることが認められるところ、その後日本国籍を有する父C
が昭和五四年四月五日同控訴人を認知したものであつて、同控訴人は、右認知によ
つて直ちに日本国籍を取得するものではない。すなわち、国籍法二条一号は、子の
出生時において法律上父子の関係が成立する場合について定めたもので、自然的血
縁として父子の関係があるにとどまる場合には、その適用がないのであつて、後者
の場合には、父が子の出生後に認知したとしても、それはわが民法上出生の時から
婚外子として親子の身分関係があつたものとするにすぎず、これによつて子は当然
に日本国籍を取得するものではないと解されるからである。したがつて、同控訴人
は、なお韓国籍を有する外国人であるから、これを前提とした本件裁決及び本件令
書発付処分にはこの点に関する違法もない。」
よつて、控訴人らの各請求を棄却した原判決は正当であつて、本件各控訴は理由が
ないから棄却することとし、訴訟費用の負担につき民訴法九五条、八九条、九三条
を適用して主文のとおり判決する。
(裁判官 首藤武兵 丹宗朝子 西田美昭)
(原裁判等の表示)
○ 主文
原告らの請求をいずれも棄却する。
訴訟費用は原告らの負担とする。
○ 事実
第一 当事者双方の申立
一 原告ら
1 被告法務大臣が原告らに対し、昭和五三年一一月一六日付でなした、原告らの
出入国管理令四九条一項に基づく異議の申出を棄却するとの裁決を取消す
2 被告大阪入国管理事務所主任審査官が原告らに対し、昭和五三年一二月一五日
付でなした退去強制令書発付処分を取消す。
3 訴訟費用は被告らの負担とする。
二 被告ら
主文と同旨。
第二 原告らの請求の原因
一 被告法務大臣は、昭和五三年一一月一六日付で原告らに対し、出入国管理令
(以下、管理令という)四九条一項による異議の申出を棄却するとの各裁決(以
下、本件裁決という)をなし、被告大阪入国管理事務所主任審査官は、同年一二月
一五日付で原告らに対し、朝鮮への各退去強制令書を発付した(以下、本件令書発
付処分という)。
二 しかしながら、本件裁決および本件令書発付処分は、以下の理由によりいずれ
も違法な行為であるから取消されるべきである。
(一) 原告A(以下、原告Aという)は、昭和一七年韓国済州道において母・B
(韓国籍)、父・Cとの間に非嫡出子として出生した。Cは、昭和二〇年の終戦直
後に日本へ引揚げたので、原告は、母の許で育てられ、翌二一年母死亡後は祖父母
の許から小学校へ通学し、祖父母死亡後ほ済州保育院(孤児院)に預けられ、同所
から小学校、中学校(中退)へ通い、通信教育で高等学校の課程を終え、靴店で働
いていた。
原告Dは、昭和二一年九月九日韓国済州道において出生し、小学校を卒業後家業の
農業を手伝つていた。
右原告両名は、昭和四三年一で月二九日結婚したが、その間に昭和四四年一一月一
一日に出生した長女・Eがいる。
(二) 原告Aは、原告Dと結婚する前からCを探していたが、韓国に身寄りもな
いこととて是非父の許で暮したいと考え、昭和四五年二月一九日Cを探す目的で本
邦へ不法入国し、大阪でヘツプ加工に従事していた。原告Dは、原告Aの跡を追つ
て昭和四七年二月本邦に不法入国し、大阪でヘソプ加工に従事していた。右原告両
名は、昭和四九年二月から肩書地で袋物加工業を始め、預貯金四〇〇万円を有する
に至り、現在は得意先の信用もえ、日本社会に定着し、安定した生活を送つてい
る。
原告Fは、
昭和五一年四月六日大阪市で右原告両名の次女として出生した。
(三) 原告Aは、昭和五三年中頃C(島原市居住)を探しあて、Cも原告Aを自
己とBとの間に生まれた子として認めているので、父に対し孝養を尽したいと考え
ている。
(四) 以上のような事情の下にある原告らに対してなされた本件裁決は、その裁
量権の範囲を逸脱し、著しく不公正かつ不当なものであり、したがつてこれに基つ
きなされた本件令書発付処分も違法なものである。
第三 被告らの答弁
一 請求の原因一記載の事実は認める。
二 同二記載の事実については
(一) のうち、原告AがCの子であることおよびCに関する事実は知らないが、
その余は認める。
(二) のうち、韓国に原告Aの身寄りがないこと、原告Aの本邦への不法入国目
的、原告らが日本社会に定着し、安定した生活を送つていることは争うが、その余
は認める。
(三) のうち、原告Aが昭和五三年中頃C(島原市居住)を探しあてたことは認
めるが、その余は知らない。
第四 被告らの主張
本件裁決が裁量権の範囲を逸脱した著しく不公正かつ不当なものであり、したがつ
てこれに基づぎなされた本件令書発付処分も違法なものであるという原告らの主張
について。
管理令四九条三項に基づく本件裁決は、当該外国人の管理令二四条各号該当性の有
無についてのみの判断に限定されており、裁量の余地は全く存しないのであるか
ら、裁量の違法を理由としてその取消を求める原告らの主張は失当であり、仮に原
告らの主張を管理令五〇条一項に基づく法務大臣の在留特別許可(以下、特在許可
という)の許否の裁量の違法を理由として本件裁決および本件令書発付処分の取消
を求めているものと解しても、以下に述べるとおり失当である。
(一) 管理令四九条三項に基づく裁決と管理令五〇条一項に基づく特在許可の許
否の裁量とは別個独立の処分であつて、後者の違法を理由として前者の取消を求め
ることはできない。
(二) 仮に右主張が容れられないとしても、原告らに対し特在許可を与えなかつ
たことに関し、裁量の違法は存しない。
即ち、外国人の入国ならびに滞在の許否は当該国家の自由に決しうるものであり、
条約等特別の取極めが存しない限り、国家は外国人の入国または在留を許可する義
務を負うものではないというのが国際慣習法上の原則であるから、
特在許可の許否の裁量は極めて広範な自由裁量に属するものである。
したがつて、原告らの主張するような事実をもつてしても、法務大臣の裁量はその
範囲を逸脱したものということはできない。
第五 証拠関係(省略)
○ 理由
一 請求の原因一記載の事実については各当事者間に争いがない。
二 そこで、本件裁決および本件令書発付処分の違法事由の存否について判断す
る。
(一) 管理令四七条ないし四九条によれば、法務大臣は特別審理官の判定に対す
る異議につき、特別審理官の判定によつて維持された入国審査官の認定の当否を審
査し、裁決を下すが、さらに、管理令五〇条によれば、法務大臣は右裁決にあた
り、異議の申出が理由がないと認める場合でも一定の要件が存するときは容疑者に
特在許可を与えることができるのであるから、異議を棄却する裁決は同時に右特在
許可を与えない処分としての性質を有するといえる。そして管理令五〇条の規定の
体裁自体ならびに外国人の出入国および滞在の許否が元来国家において自由に決し
うる事柄であることからみて、特在許可を与えるか否かは法務大臣の自由裁量に委
ねられていると解すべきものであるが、他方その裁量は全く無制限なものではな
く、著しく人道に反するとか、著しく正義の観念にもとるとか等社会通念上著しく
妥当性を欠くことが明らかな場合には裁量権の範囲を逸脱したものとして、またこ
れを濫用したものとして、違法性を帯びるに至るというべきである。
(二) よつて、本件裁決が右のような意味で違法性を有するか否かについて検討
する。
請求の原因二、(一)記載の事実(但し、原告AがCの子であることおよびCに関
する事実は除く。)、同二、(二)記載の事実(但し、韓国に原告Aの身寄りがな
いこと、原告Aの本邦への入国目的、原告らが日本社会に定着し、安定した生活を
送つていることは除く。)、同二、(三)記載のうち、原告Aが昭和五三年中頃に
C(島原市居住)を探しあてたことは、各当事者間に争いがなく、成立に争いがな
い甲第一号証(戸籍謄本)、第二号証(新聞記事)、第三号証(戸籍謄本)、乙第
一九号証(除籍謄本)、第二〇号証(調査報告書)、原告A本人尋問の結果によれ
ば、
(1) Cは、済州島で護岸工事の現場監督をしていた昭和一七年、正妻とその間
に儲けた子供がありながら、
当時海女をしていたBとの間に原告Aを儲けたが、終戦とともにB、原告Aと別
れ、一家で島原へ引揚げた。
(2) 韓国には、原告Aの腹違いの兄姉二人がおり、また原告Dの父母や五人の
兄弟がいる。しかし原告Aは、自己の兄姉と一緒に生活したことはない。
(3) 原告Aと原告Dは、その間に儲けた長女・Eを韓国にいる原告Dの父母に
預けたまま本邦へ不法入国した。
(4) Cは、昭和五四年四月五目原告Aを認知したが、原告A、同Dの助けを必
要としている状態ではない。
(5) 原告A、同Dは、現在大阪において袋物加工業を営み、原告Fとともに安
定した生活を送つている。以上の事実が認められる。
右の事実、就中、原告Aの生立ちや、原告Aの本邦への入国目的には、父親である
Cを探す意図が含まれていたことを否定できないこと、原告らが現在大阪において
安定した生活を営んでいること等の点を斟酌するときは、原告らが引続き本邦に滞
在することを強く希望していることについて同情すべき点もないのではないが、他
方、原告ら一家の長女や原告Dの親族多数が韓国に居住しており、また原告らが韓
国において生活できないといつたような格別の事情も窺えない。
したがつて、以上の事情の下では、被告法務大臣が原告らに対して特在許可を与え
なかつたことが社会通念上著しく妥当性を欠くことが明らかなものということはで
きない。
(三) そうすると、本件裁決は裁量権の範囲を逸脱し、あるいはこれを濫用した
ものといえないから、何ら違法性はなく、したがつて、これに基づいてなされた本
件令書発付処分もまた違法ではない。
三 以上の次第で、原告らの請求はいずれも失当であるからこれらを棄却すること
とし、訴訟費用の負担については行政事件訴訟法七条、民事訴訟法八九条、九三条
一項本文を適用して主文のとおり判決する。

戻る



採用情報


弁護士 求人 採用
弁護士募集(経験者 司法修習生)
激動の時代に
今後の弁護士業界はどうなっていくのでしょうか。 もはや、東京では弁護士が過剰であり、すでに仕事がない弁護士が多数います。
ベテランで優秀な弁護士も、営業が苦手な先生は食べていけない、そういう時代が既に到来しています。
「コツコツ真面目に仕事をすれば、お客が来る。」といった考え方は残念ながら通用しません。
仕事がない弁護士は無力です。
弁護士は仕事がなければ経験もできず、能力も発揮できないからです。
ではどうしたらよいのでしょうか。
答えは、弁護士業もサービス業であるという原点に立ち返ることです。
我々は、クライアントの信頼に応えることが最重要と考え、そのために努力していきたいと思います。 弁護士数の増加、市民のニーズの多様化に応えるべく、従来の法律事務所と違ったアプローチを模索しております。
今まで培ったノウハウを共有し、さらなる発展をともに目指したいと思います。
興味がおありの弁護士の方、司法修習生の方、お気軽にご連絡下さい。 事務所を見学頂き、ゆっくりお話ししましょう。

応募資格
司法修習生
すでに経験を有する弁護士
なお、地方での勤務を希望する先生も歓迎します。
また、勤務弁護士ではなく、経費共同も可能です。

学歴、年齢、性別、成績等で評価はしません。
従いまして、司法試験での成績、司法研修所での成績等の書類は不要です。

詳細は、面談の上、決定させてください。

独立支援
独立を考えている弁護士を支援します。
条件は以下のとおりです。
お気軽にお問い合わせ下さい。
◎1年目の経費無料(場所代、コピー代、ファックス代等)
◎秘書等の支援可能
◎事務所の名称は自由に選択可能
◎業務に関する質問等可能
◎事務所事件の共同受任可

応募方法
メールまたはお電話でご連絡ください。
残り応募人数(2019年5月1日現在)
採用は2名
独立支援は3名

連絡先
〒108-0023 東京都港区芝浦4-16-23アクアシティ芝浦9階
ITJ法律事務所 採用担当宛
email:[email protected]

71期修習生 72期修習生 求人
修習生の事務所訪問歓迎しております。

ITJではアルバイトを募集しております。
職種 事務職
時給 当社規定による
勤務地 〒108-0023 東京都港区芝浦4-16-23アクアシティ芝浦9階
その他 明るく楽しい職場です。
シフトは週40時間以上
ロースクール生歓迎
経験不問です。

応募方法
写真付きの履歴書を以下の住所までお送り下さい。
履歴書の返送はいたしませんのであしからずご了承下さい。
〒108-0023 東京都港区芝浦4-16-23アクアシティ芝浦9階
ITJ法律事務所
[email protected]
採用担当宛