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裁判例


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平成19年10月31日判決言渡
平成18年(行ケ)第10547号審決取消請求事件
平成19年(行ケ)第10232号審決取消請求参加事件
平成19年10月17日口頭弁論終結
判決
原告兼参加人住友金属工業株式会社
(以下,単に「原告」という。)
訴訟代理人弁理士広瀬章一
被告特許庁長官肥塚雅博
指定代理人鈴木由紀夫
同野村康秀
同唐木以知良
同大場義則
脱退原告住友金属建材株式会社
主文
1原告の請求を棄却する。
2訴訟費用は原告の負担とする。
事実及び理由
第1請求
特許庁が訂正2006−39094号事件について平成18年11月20日
にした審決を取り消す。
第2争いのない事実
1特許庁における手続の経緯
(1)特許第3376949号の特許平成11年3月24日出願優先権主張(〔
:平成10年9月16日及び平成11年1月25日日本平成14年12,〕,
月6日設定登録,登録時の請求項の数は10である。以下,この特許を「本
件特許,本件特許に係る特許権を「本件特許権,本件特許に係る明細書及」」
び図面を本件明細書とそれぞれいうは発明の名称を太陽熱反射「」,。),「
性表面処理金属板」とし,特許権者を原告及び脱退原告(以下,両者を併せ
「」。),。,,,て原告らというとして設定登録されたなおその後脱退原告は
原告に対し,本件特許権の持分を移転した(平成19年5月25日登録。)
(2)本件特許の請求項1ないし10について特許異議の申立てがされ異議2,
003−72058号事件として特許庁に係属した。その審理の過程におい
て,原告らは,平成17年7月11日,本件明細書を訂正する請求をした。
特許庁は,審理の結果,平成18年2月2日,上記訂正を認めないとした上
,「。」で特許第3376949号の請求項1ないし10に係る特許を取り消す
との決定をした。原告らは,上記決定を不服とし,被告を相手方として,平
成18年3月17日,その取消を求める訴訟を当庁に提起した(平成18年
(行ケ)第10115号。その後,原告は,前記(1)のとおり,脱退原告か)
,,ら本件特許権の持分の移転を受けたので権利承継による参加を申し立てて
上記訴訟に参加し平成19年行ケ第10231号脱退原告は被告(()),,
の同意を得て同訴訟から脱退した。
(3)原告らは平成18年6月5日本件明細書を訂正することについて審判,,
を請求し,この請求は,これを訂正2006−39094号事件として特許
。,,,庁に係属したその審理の過程において原告らは平成18年7月24日
審判請求書を補正する手続補正をした(以下,この補正後の審判請求書に係
「」,「」,る訂正を本件訂正といい本件訂正後の本件明細書を本件訂正明細書
本件訂正前の本件明細書を「本件訂正前明細書」とそれぞれいう。本件訂正
により,請求項1,3及び10が削除され,その余の請求項の記載が訂正さ
れた〔項番号の変更を含む。特許庁は,審理の結果,平成18年11月。〕。)
20日,上記補正を認めた上で「本件審判の請求は,成り立たない」との,。
審決以下審決というをし同年11月30日その謄本を原告らに(「」。),,
送達した。
原告らによる本件訴訟の提起後原告は前記(1)のとおり脱退原告から,,,
本件特許権の持分の移転を受けたので,権利承継による参加を申し立て,本
件訴訟に参加し,脱退原告は,被告の同意を得て本件訴訟から脱退した。
2特許請求の範囲
(1)本件訂正前明細書の特許請求の範囲の請求項1ないし10の各記載は次,
のとおりである以下これらの請求項に係る発明を項番号に対応して本(,,「
件発明1」などといい,これらをまとめて「本件発明」という。。)
請求項1基板としてアルミニウム−亜鉛合金めっき皮膜を備え3「【】,,
50∼2100nmの波長領域での太陽熱反射率Rが60%以上である()E
,()基板表面に800∼2100nmの波長領域での太陽熱反射率RE/NIR
が20%以上の顔料を2∼70重量%含有する塗膜を備えたことを特徴とす
る太陽熱反射性表面処理金属板。
【請求項2】基板として,アルミニウム−亜鉛合金めっき皮膜を備え,3
50∼2100nmの波長領域での太陽熱反射率Rが60%以上である()E
,()基板表面に800∼2100nmの波長領域での太陽熱反射率RE/NIR
が20%以上の顔料を2∼70重量%含有することで所望の色彩に着色した
塗膜を備えたことを特徴とする太陽熱反射性表面処理金属板。
【請求項3】前記顔料以外に,着色顔料を含まないことを特徴とする請求
項2記載の太陽熱反射性表面処理金属板。
【請求項4】基板として,アルミニウム−亜鉛合金めっき皮膜を備え,3
50∼2100nmの波長領域での太陽熱反射率Rが60%以上の基板()E
表面に,外層塗膜と1以上の内層塗膜とを備え,該外層塗膜は,800∼2
100nmの波長領域での太陽熱反射率Rが20%以上の顔料を2()E/NIR
∼70重量%含有するものであることを特徴とする太陽熱反射性表面処理金
属板。
【請求項5】少なくとも1の内層塗膜は,350∼2100nmの波長領
域での太陽熱反射率Rが20%以上の顔料を2∼70重量%含有するも()E
のであることを特徴とする請求項4に記載の太陽熱反射性表面処理金属板。
【請求項6】少なくとも1の内層塗膜は,鱗片状アルミニウム顔料を2∼
20重量%含有することを特徴とする請求項4または5に記載の太陽熱反射
性表面処理金属板。
請求項7350∼2100nmの波長領域での太陽熱反射率Rが【】()E
20%以上の顔料の含有量が2重量%未満である内層塗膜の厚さが10μm
以下であることを特徴とする請求項4∼6のいずれかに記載の太陽熱反射性
表面処理金属板。
【】,.請求項8めっき鋼板を基板としめっき皮膜表面の酸化膜の厚さが0
30μm以下であることを特徴とする請求項1∼7のいずれかに記載の太陽
熱反射性表面処理金属板。
【請求項9】基板表面の粗さが,中心線平均粗さRaで0.05∼2.0
μmであることを特徴とする請求項1∼8のいずれかに記載の太陽熱反射性
表面処理金属板。
【請求項10】基板に,塗装前処理皮膜として,金属クロム換算で5∼2
00mg/m相当のクロメート処理皮膜または0.2∼5.0g/mのリ22
ン酸塩処理皮膜を備えたことを特徴とする請求項1∼9のいずれかに記載の
太陽熱反射性表面処理金属板」。
(2)本件訂正明細書の特許請求の範囲の請求項1ないし7の各記載は次のと,
おりである以下これらの請求項に係る発明を項番に対応して本件訂正(,,「
発明1」などといい,これらをまとめて「本件訂正発明」という。下線部は
訂正箇所を示す。)
請求項1基板としてアルミニウム−亜鉛合金めっき皮膜を備え3「【】,,
50∼2100nmの波長領域での太陽熱反射率Rが60%以上である()E
基板表面に,塗装前処理皮膜を備えないか,または塗装前処理皮膜として,
.金属クロム換算で5∼200mg/m相当のクロメート処理皮膜または02
2∼5.0g/m2のリン酸塩処理皮膜を備え,さらにその上に800∼2
100nmの波長領域での太陽熱反射率Rが40%以上の顔料を2()E/NIR
∼70重量%含有することで所望の色彩に着色しかつ当該顔料以外に着色顔
料を含まない塗膜を10μm以上30μm以下の厚みで備えたことを特徴と
する太陽熱反射性表面処理金属板。
【請求項2】基板として,アルミニウム−亜鉛合金めっき皮膜を備え,3
50∼2100nmの波長領域での太陽熱反射率Rが60%以上の基板()E
表面に,塗装前処理皮膜を備えないか,または塗装前処理皮膜として,金属
クロム換算で5∼200mg/m相当のクロメート処理皮膜または02∼2

50g/mのリン酸塩処理皮膜を備えさらにその上に外層塗膜と1以上.,2
の内層塗膜とを備え,該外層塗膜は,800∼2100nmの波長領域での
太陽熱反射率Rが40%以上の顔料を2∼70重量%含有すること()E/NIR
で所望の色彩に着色しかつ当該顔料以外に着色顔料を含まない,10μm以
上30μm以下の厚みのものであることを特徴とする太陽熱反射性表面処理
金属板。
【請求項3】少なくとも1の内層塗膜は,350∼2100nmの波長領
域での太陽熱反射率Rが20%以上の顔料を2∼70重量%含有するも()E
のであることを特徴とする請求項2に記載の太陽熱反射性表面処理金属板。
【請求項4】少なくとも1の内層塗膜は,鱗片状アルミニウム顔料を2∼
20重量%含有することを特徴とする請求項2または3に記載の太陽熱反射
性表面処理金属板。
請求項5350∼2100nmの波長領域での太陽熱反射率Rが【】()E
20%以上の顔料の含有量が2重量%未満である内層塗膜の厚さが10μm
以下であることを特徴とする請求項2∼4のいずれかに記載の太陽熱反射性
表面処理金属板。
【請求項6】めっき皮膜表面に酸化膜を有するめっき鋼板を基板とし,め
っき皮膜表面の酸化膜の厚さが0.30μm以下であることを特徴とする請
求項1∼5のいずれかに記載の太陽熱反射性表面処理金属板。
【請求項7】基板表面の粗さが,中心線平均粗さRaで0.05∼2.0
μmであることを特徴とする請求項1∼6のいずれかに記載の太陽熱反射性
表面処理金属板」。
3審決の理由
別紙審決書写しのとおりである要するに本件訂正は下記(1)の理由によ。,,
り特許法126条1項の規定に違反しまた下記(2)の理由により同条3,,,,
項の規定に違反する,というものである。
(1)特許法126条1項違反
本件訂正は,本件訂正前明細書の段落【0066】の記載につき,
「塗膜に含有させる顔料として,800∼2100nmの波長領域での分
光反射率Rが45%平均粒子径が04μmの不溶性モノアゾ顔料E/NIR,.
(大日本インキ化学工業(株)製,SYMULERFASTYELL
OW4192(以下,符号「PY154,Rが25%,平均粒)」)E/NIR
子径が0.5μmの無機顔料(菊池色素工業(株)製,パーマエロー16
50S(以下,符号「PY34,および,Rが15%,平均粒子)」)E/NIR
径が0.5μmのクロム酸鉛(大日精化工業(株)製,325クローム
)(,「」)。」(「」エロー7G以下符号7Gを用いた以下本件訂正前記載
という)。
とあるのを,
「塗膜に含有させる顔料として,800∼2100nmの波長領域での分
光反射率Rが45%の顔料(以下,符号「PY154,RがE/NIRE/NIR」)
25%の顔料以下符号PY34およびRが15%の顔料(,「」),,E/NIR
(以下,符号「7G)を用いた(以下「本件訂正後記載」という。下」。」,
線部は訂正箇所を示す)。
と訂正するという訂正事項以下訂正事項aというを含むものである(「」。)
ところ,訂正事項aは,特許請求の範囲の減縮,誤記又は誤訳の訂正あるい
は明りょうでない記載の釈明のいずれかを目的とするものということはでき
ないから,訂正事項aを有する本件訂正は,特許法126条1項の規定に適
合しない(以下「理由(1)」という。。)
(2)特許法126条3項違反
本件訂正後記載は,本件訂正前明細書に記載された事項の範囲内において
したものということはできないから,訂正事項aを有する本件訂正は,特許
法126条3項の規定に違反する以下理由(2)というなお審決書9(「」。,
頁16行に本件訂正前記載とあるのは本件訂正後記載の誤記と認め「」,「」
る。。)
第3取消事由に係る原告の主張
審決は,以下のとおり,理由(1)ないし(2)に係るいずれの認定判断にも誤り
があるから,違法として取り消されるべきである。
1取消事由1(理由(1)に係る認定判断の誤り)
審決は訂正事項aは特許請求の範囲の減縮誤記又は誤訳の訂正或い,,「,,
は明りょうでない記載の釈明の,いずれかを目的としているとする理由は見当
たらない(審決書5頁2行∼4行)と判断した。」
しかし,以下のとおり,審決の上記判断は誤りである。
(1)訂正事項aの要点について
審決は理由(1)の判断に当たり訂正事項aの内容を単なる顔料審,,「『』」(
決書5頁2行)への訂正と認定した。
,,「,,しかし審決も認めたように本件訂正前記載は何らかの誤記が存在し
その結果として記載内容が不明りょうになっている審決書7頁18行∼,」(
19行)ところ,訂正事項aはこれを明りょうにするものであって,誤記を
含めた段落【0066】の記載全体を対象とするものであるから,審決の上
記認定は誤りである。
したがって,上記誤った認定を前提とする理由(1)の判断も誤りである。
(2)訂正事項aの目的について
ア訂正事項aは,以下のとおり,明りょうでない記載の釈明を目的とする
ものである。
上記(1)において指摘したとおり「本件訂正前記載は,何らかの誤記が,
存在しその結果として記載内容が不明りょうになっている審決書7,,」(
頁18行∼19行)ことは,審決も認めるとおりであるところ,本件訂正
前記載に接した当業者は顔料の分光反射率Rと顔料の平均粒子径,,E/NIR
や具体的名称等との間に特段の意味付けがあるとは理解せず,顔料の分光
反射率をもって,本件発明を理解する。本件発明の特徴は,顔料の名称や
品番ではなく太陽熱反射率分光反射率Rが所定値以上の顔料と,()E/NIR
太陽熱反射率分光反射率Rが所定値以上の基板とを組み合わせる()E/NIR
ことにより,優れた相乗効果が発現されることを見い出した点にあり,こ
のことは本件訂正前明細書において必要かつ十分に示されているからであ
る。
すなわち,本件訂正前明細書の特許請求の範囲及び段落【0048】の
記載からも明らかなとおり本件発明における顔料は800∼2100,,「
nmの波長領域」という特定範囲での特定の太陽熱反射率を有するもので
あり,段落【0050】の記載に示されるように,本件訂正前明細書に商
品名で具体的に特定された顔料を用いなければ,本件発明が実施できない
というものではない。このように,当業者であれば,本件訂正前明細書の
,,記載から本件発明の技術思想や臨界性などを直ちに理解することができ
顔料の具体的名称によらずとも,特定の太陽熱反射率の顔料を入手し,容
易に追試することができる。
そして,本件訂正における「分光反射率」は,用語こそ違え,JISに
規定された物性値であって,その測定方法も確立していることは,当業者
には自明である。
したがって,訂正事項aは,記載の削除を伴うものではあるが,本件訂
正前明細書の段落【0066】の記載の誤りを当業者が当然に理解する形
に正そうとするものであって,明りょうでない記載の釈明という目的に合
致するというべきである。
イ被告は,本件訂正前記載が,本件発明の実施例や比較例に関する記載で
,,,,,あることその要素である顔料につき平均粒子径製造元顔料の種類
製品名などの具体的事柄に及んだ記載であることから,顔料の記載自体は
誤記とは理解されない旨主張する。
しかし,以下のとおり,被告の上記主張は失当である。
一般に,明細書に記載された実施例は,発明の構成がどのように具体化
されるかを示すものにすぎない本件訂正前明細書においても実施例比。,(
較例)は,顔料の800∼2100nmの波長領域での太陽熱反射率(分
光反射率)が変化したときに,作用効果が具体的にどのように変化するか
等を明らかにするものにすぎず,具体的顔料を用いることが本件発明の本
質ではないから,本件訂正前明細書の段落【0066】における顔料の記
載が誤記と理解されないとはいえない。
2取消事由2(理由(2)に係る認定判断の誤り)
審決は訂正事項aは訂正前明細書等に記載した事項の範囲内においてし,「,
たものということはできない(審決書9頁18行∼19行)と判断した。」
しかし,以下のとおり,審決の上記判断は誤りである。
前記1(2)のとおり,本件発明の特徴は,太陽熱反射率Rが所定値以上E/NIR
の顔料と太陽熱反射率Rが所定値以上の基板とを組み合わせることにあり訂E,
正事項aに係る段落【0066】の記載は,その具体例の構成要素としての顔
料の例を示すにすぎない。当業者は,本件訂正前明細書に開示された顔料の測
定値に疑念が生じた場合には,本件訂正前明細書全体の記載から,顔料の具体
的名称等との間に特別の意味付けがあるとは理解せず,具体的名称等に何らか
の誤りがあったと当然に理解する。すなわち,訂正事項aは,当業者が当然に
理解する形に訂正するものであるから,本件訂正前明細書に記載した事項の範
囲内においてするものである。
本件訂正後記載の「PY154「PY34」及び「7G」により表される」,
3種の顔料は,いずれも本件訂正前記載における顔料と,同じである。すなわ
ち,本件訂正によって,新たな顔料が追加されたわけではなく,別の顔料と入
れ換えたものでもない平均粒子径製造元顔料の種類更には製品名審。「,,,」(
決書9頁14行∼15行)は,本件発明を特徴づける事項ではなく,効果を左
E/NI右する事項でもないから,これらの記載がなくても,顔料の分光反射率R
さえ明確であれば効果の確認をすることができ実施例比較例の説明としR,()
て不足はない。
第4取消事由に係る被告の反論
審決の認定判断に誤りはなく,原告主張の取消事由はいずれも理由がない。
1取消事由1(理由(1)に係る認定判断の誤り)について
(1)訂正事項aの要点について
原告は審決におけるただ単なる顔料にそれぞれ訂正するもので,「『』,,
ある審決書5頁2行との説示をとらえ審決が訂正事項aの要点の認定」(),
を誤った旨主張する。
しかし審決の上記説示は訂正事項aが特許法126条1項の規定に違反,,
することを指摘する文脈の中で用いられたものにすぎず,訂正事項aそれ自
体を認定するものではないそして審決における訂正事項aの認定審決書。,(
4頁5行∼19行)に誤りはなく,この点は原告も認めている。
したがって,原告の上記主張は,審決を正解しないものであり,失当であ
る。
(2)訂正事項aの目的について
原告は,訂正事項aが明りょうでない記載の釈明を目的とするものである
旨主張する。
しかし,以下のとおり,原告の上記主張は失当である。
ア本件訂正前記載は形式的にみれば何ら不明りょうではないがPY,,,「
34」と「7G」の2つの顔料の「800∼2100nmの波長域」での
分光反射率は同程度であると理解されるのに対し甲12本件訂正前記(),
載では,25%と15%という有意な差があるから,当業者は,まずは,
本件訂正前記載における特定の顔料名やその分光反射率の値に誤記がある
ものと理解する。
そして,本件訂正前記載が,本件発明の実施例や比較例としての記載で
,,,,,あることその要素である顔料につき平均粒子径製造元顔料の種類
製品名などの具体的事柄に及ぶ記載であることに照らせば,当業者は,本
件訂正前記載における平均粒子径が04μmの不溶性モノアゾ顔料大「.(
日本インキ化学工業(株)製,SYMULERFASTYELLOW
)」,「.(()4192平均粒子径が05μmの無機顔料菊池色素工業株
製パーマエロー1650S又は平均粒子径が05μmのクロム酸,)」「.
鉛大日精化工業株製325クロームエロー7Gとの記載の((),)」
いずれかが誤記であるとは理解せず,ましてそのすべてが誤記であるとは
理解しない。むしろ,当業者は,上記のような表記に慣れているから(乙
12本件訂正前記載における分光反射率の値に誤記があると理解する,),
というべきである。
しかし,訂正事項aは,値を訂正するものではないから,誤記又は誤訳
の訂正を目的にしているとはいえず,また,明りょうでない記載の釈明を
目的にしているともいえない。
イ仮に平均粒子径が04μmの不溶性モノアゾ顔料大日本インキ化,「.(
(),)」,学工業株製SYMULERFASTYELLOW4192
「平均粒子径が0.5μmの無機顔料(菊池色素工業(株)製,パーマエ
ロー1650S及び平均粒子径が05μmのクロム酸鉛大日精化)」「.(
工業株製325クロームエロー7Gが誤記であるというので(),)」
あれば,訂正事項としては,平均粒子径,製造元,顔料の種類,製品名を
訂正すべきである。
また,本件訂正後記載における「PY154」等の符号は,顔料を特定
するものと解される可能性があるから乙12これら符号を残す訂正(,),
事項aは,結局,明りょうでない記載を解消するものではない。
したがって,上記の観点からも,訂正事項aは,誤記又は誤訳の訂正を
目的にしているとはいえず,明りょうでない記載の釈明を目的にしている
ともいえない。
2取消事由2(理由(2)に係る認定判断の誤り)について
原告は,訂正事項aは,当業者が当然に理解する形に訂正するものであるか
ら,本件訂正前明細書に記載した事項の範囲内においてするものである旨主張
する。
しかし前記1(2)のとおり当業者は本件訂正前記載における3つの顔料,,,
の記載すべてが誤記であるとは理解せず,まして,そのすべてが「顔料」の誤
記であるとは理解しないのであるから,平均粒子径,製造元,顔料の種類,製
品名の特定のない「顔料」が,本件訂正前明細書に記載されているということ
はできない。原告の上記主張は失当である。
第5当裁判所の判断
当裁判所は,訂正事項aが特許法126条1項の規定に適合しないとした審
決の認定判断に誤りはないと判断する。その理由は,以下のとおりである。
1取消事由1(理由(1)に係る認定判断の誤り)について
(1)訂正事項aの要点について
原告は審決におけるただ単なる顔料にそれぞれ訂正するもので,「『』,,
ある審決書5頁2行との説示について審決が訂正事項aの要点の認定」(),
を誤ったものである旨主張する。
しかし,以下のとおり,原告の主張は失当である。
ア審決は前記第23(1)のとおり本件訂正が本件訂正前明細書の段,,,,
落【0066】の記載につき,本件訂正前記載を本件訂正後記載に訂正す
るとの訂正事項を含むことを認定した上(この認定自体は原告も認めると
ころである,当該訂正事項を訂正事項aとしたものである。。)
そして,訂正事項aに係る具体的な訂正箇所を検討すると,本件訂正前
記載における「,平均粒子径が0.4μmの不溶性モノアゾ顔料(大日本
インキ化学工業(株)製,SYMULERFASTYELLOW4
)」,「,.((),192平均粒子径が05μmの無機顔料菊池色素工業株製
パーマエロー1650S及び平均粒子径が05μmのクロム酸鉛)」「,.
((),)」,大日精化工業株製325クロームエロー7Gとの記載を
いずれも「の顔料」と訂正するものである。換言すると,訂正事項aは,
,「,.」本件訂正前記載における平均粒子径が04μmの不溶性モノアゾ
を削除してのを挿入し大日本インキ化学工業株製SYMU,「」,「((),
LERFASTYELLOW4192」を削除し「,平均粒子径),
.」,「」,「(()が05μmの無機を削除してのを挿入し菊池色素工業株
製,パーマエロー1650S」を削除し「,平均粒子径が0.5μmの),
クロム酸鉛大日精化工業株製325クロームエロー7Gを((),)」
削除して「の顔料」を挿入するというものということができる。
イそうすると審決が訂正事項aは本件訂正前記載を本件訂正後記載,,「,
と訂正するものでその要点は平均粒子径が04μmの不溶性モノア,,『.
ゾ顔料(大日本インキ化学工業(株)製,SYMULERFASTY
ELLOW4192平均粒子径が05μmの無機顔料菊池色素)』,『.(
工業株製パーマエロー1650S及び平均粒子径が05μm(),)』『.
((),)』のクロム酸鉛大日精化工業株製325クロームエロー7G
を,その平均粒子径や製造元,不溶性モノアゾ顔料,無機顔料やクロム酸
鉛といった顔料の種類,更には,SYMULERFASTYELLO
W4192,パーマエロー1650Sや325クロームエロー7G
といった製品名,の特定されない,ただ単なる『顔料』に,それぞれ,訂
」(),正するものである審決書4頁27行∼5頁2行と説示している点は
訂正事項aにおいて,上記アのとおり,各顔料の平均粒子径,製造元,種
類,製品名などの具体的記載が削除されていることを指摘したものと理解
できるから,審決の上記説示に誤りはない。
(2)訂正事項aの目的について
原告は,本件訂正前記載には誤記が存在する結果,記載内容が不明りょう
になっているものであり,訂正事項aは,明りょうでない記載の釈明を目的
とするものである旨主張する。
しかし,次のとおり,原告の主張は失当である。
ア「本件訂正前記載は,何らかの誤記が存在し,その結果として,記載内
容が不明りょうになっている審決書7頁18行∼19行ことについて」()
は,当事者間に争いがないところ,原告の主張の趣旨は,要するに,本件
E/NIRE発明の特徴が太陽熱反射率Rが所定値以上の顔料と太陽熱反射率R
が所定値以上の基板とを組み合わせることにあることは本件訂正前明細書
の記載から明らかであるから,本件訂正前記載に接した当業者は,顔料の
分光反射率Rは誤記でなく顔料の平均粒子径製造元種類製品E/NIR,,,,
名などの具体的記載を誤記と認識する,というものと解される。
イ検討するに本件訂正前明細書甲5によれば本件訂正前記載は実,(),,【
施例に関する記載段落0065∼0087の一部でありま】(【】【】),
た実施例1段落0065∼0072は350∼2100n,(【】【】),
mの波長領域における基板の太陽熱反射率分光反射率Rの値及び()E/NIR
800∼2100nmの波長領域における顔料の太陽熱反射率(分光反射
率Rの値の組合せにより作用効果鋼板裏面の最高到達温度が),()E/NIR
どのように相違するかを示そうとするものであること段落0069表(【】【
1が認められるそうすると本件訂正前記載に接した当業者が塗膜】)。,,
,,に含有させる顔料の分光反射率Rは誤記でなく顔料の平均粒子径E/NIR
製造元,種類,製品名などの具体的記載を誤記と認識する可能性がないと
はいえない。
しかし,甲11∼13によれば,原告は,審判手続において,本件訂正
前明細書の段落0069の表1における符号PY34及び7【】【】「」「
Gの各顔料の反射率Rの値は日本フェロー株製の顔料である」,()E/NIR
「42−633A」及び「42−701A」の顔料の各値に対応する旨主
張したことがうかがわれるが,上記【表1】における符号「PY154」
の顔料の反射率Rの値が具体的にいかなる顔料製品名等に基づE/NIR,()
くものであるというのかについては,具体的に主張しておらず,また,甲
,,,,14によれば本件訂正前記載における顔料の平均粒子径製造元種類
製品名などについて,本来,どのように記載するつもりであったというの
か,本件発明の発明者とされる者でさえ具体的な説明をすることができな
いことが認められる。
そうすると,本件訂正前記載に接した当業者にとって,同記載における
顔料の平均粒子径,製造元,種類,製品名などの具体的記載が誤記である
ことが,本件訂正前明細書の記載から自明であるということはできない。
ウ本件訂正前明細書の特許請求の範囲の請求項1の記載は,前記第2,2
(1)のとおりであって,本件発明1では「800∼2100nmの波長領,
域での太陽熱反射率Rが20%以上の顔料としか規定されてい()」E/NIR
ないことに照らせば,実施例1(本発明例」及び「比較例)において,「」
塗膜に含有させる顔料として,800∼2100nmの波長領域における
太陽熱反射率分光反射率Rが45%の顔料Rが25%の顔(),E/NIRE/NIR
料Rが15%の顔料を用いる必然性があるとはいえないから本件,,E/NIR
訂正前記載に接した当業者が,塗膜に含有させる顔料の平均粒子径,製造
元,種類,製品名などの具体的記載は誤記ではなく,顔料の分光反射率R
が誤記であると認識する可能性を否定することはできない。E/NIR
エ本件訂正後記載にはPY154及びPY34との符号が存在す,「」「」
るところ,訂正事項aが特許法126条3項に適合するという原告の主張
を前提とする限り,符号「PY154」については,平均粒子径が0.4
μmの顔料である大日本インキ化学工業(株)製,SYMULERFA
(,),,STYELLOW4192を意味するものであり乙12また
符合「PY34」については,平均粒子径が0.5μmの顔料である菊池
色素工業(株)製,パーマエロー1650Sを意味する(乙1)と理解さ
(,「」,れる可能性を否定できないなお本件訂正前記載におけるPY154
「PY34「7G」との符号は,それぞれ「平均粒子径が0.4μmの」,
不溶性モノアゾ顔料(大日本インキ化学工業(株)製,SYMULER
FASTYELLOW4192平均粒子径が05μmの無機顔)」,「.
((),)」,「.料菊池色素工業株製パーマエロー1650S平均粒子径が0
5μmのクロム酸鉛(大日精化工業(株)製,325クロームエロー
7Gという特定の顔料を意味することは本件訂正前記載自体から明ら)」,
,「」,「」,かであるところ仮に本件訂正後記載におけるPY154PY34
「」,,7Gとの符号が上記特定の顔料を意味しないとすれば訂正事項aは
上記各符号の概念を,本件訂正前明細書に記載された事項の範囲でないも
のに変更するものといわざるを得ない。。)
したがって,本件訂正後記載は,依然として不明りょうな点を残したも
のといわざるを得ない。
オ上記イないしエにおいて検討したところによれば,訂正事項aは,明り
ょうでない記載の釈明を目的とするものということはできず,また,誤記
又は誤訳の訂正を目的とするものともいえない。そして,訂正事項aが,
特許請求の範囲の減縮を目的とするものでないことは明らかである。した
がって,訂正事項aは,特許法126条1項の規定に適合しないというべ
きである。
(3)小括
その他原告は理由(1)に係る審決の認定判断につき縷々主張するがいず,,
。,,れも理由がない以上のとおりであるから理由(1)に係る審決の認定判断は
これを是認することができる。原告主張の取消事由1は理由がない。
2結論
上記検討したところによれば「本件審判の請求は,成り立たない」とした,。
審決の結論は理由(2)に係る審決の認定判断の当否を検討するまでもなくこ,,
れを是認することができるよって原告主張の取消事由2理由(2)に係る認。,(
定判断の誤り)について検討するまでもなく,原告の本訴請求は理由がないか
ら,これを棄却することとし,主文のとおり判決する。
知的財産高等裁判所第3部
裁判長裁判官三村量一
裁判官大鷹一郎
裁判官嶋末和秀

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