弁護士法人ITJ法律事務所

裁判例


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         主    文
     原判決を破棄する。
     被告人を無期懲役に処する。
     但し、第一審における未決勾留日数中三百日を右本刑に算入する。
     尚、被告人が占領軍軍事裁判所の判決によつて執行を受けた二年一〇月
二七日を右本刑に算入する。
     原審並びに当審における訴訟費用は被告人の負担とする。
         理    由
 弁護人蓬田武の上告趣意第一点について。
 わが国は、昭和二一年二月一九日附「刑事裁判権の行使」に関する連合国最高司
令官の覚書の発せられて以後、昭和二五年一〇月一八日附「民事及び刑事裁判権の
行使」に関する覚書に基く「連合国人に対する刑事事件等特別措置令」の施行(同
年一一月一日)にいたるまでの間、即ち昭和二一年二月一九日から昭和二五年一〇
月三〇日までの間、連合国人に対して、公訴権並びに裁判権を行うことを得なかつ
たものであり、原判決の確定するところによれば、被告人は台湾生れで、連合国人
に属するものとせられ、本件犯行は昭和二三年一一月八日、東京都内で行われたも
のである。
 しかしながら、わが国は、被占領当時においても統治権を喪失したものでなく、
わが刑法は当時日本国内において罪を犯した者に対しては、内外人たるを問わず、
その効力を及ぼしたのであつて、ただ前記の期間内は、連合国最高司令官の覚書に
よつて、一時、連合国人に対し、公訴権並びに裁判権の行使を停止せられていたに
過ぎないのである。すなわち、右期間内といえども、連合国人に対するわが刑法の
効力は何ら害されることなく、これに対する公訴権、裁判権も、単に、一時的な制
限を受けたにとどまり、潜在的には、その存在を失わなかつたものと解すべきであ
る。
 であるから、本件犯行のごとく、右の期間内に連合国人によつて犯された犯罪で
あつても、これに対し、右期間経過後において、すなわち、かかる犯行についての
わが国公訴権、裁判権に対する障害が除去され、わが国が完全に、その公訴権、裁
判権を回復した後において、これを起訴審判することは、毫も、事後立法禁止に関
する憲法三九条の規定に違反するものではないのである。論旨は理由がない。
 同第二点について。
 憲法三九条は、同一犯罪につき、わが国の憲法による裁判権によつて二重に刑事
上の責任を問うことを禁じた趣旨と解すべきであつて、占領軍軍事裁判所は、連合
国最高司令官によつて設けられ、その裁判権は同司令官の権限に由来し、わが国の
裁判権にもとずくものではないのであるから占領軍軍事裁判所の裁判を経た事実に
ついて、重ねてわが裁判所で処罰をすることがあつても、憲法三九条に違反するも
のでないことは、既に、当裁判所の判例とするところである。(昭和二七年(あ)
六〇一〇号同二八年七月二二日大法廷判決)論旨は、独自の見解に立つて、右判旨
と反対の解釈にもとずき原判決の違憲、違法を主張するものであつて、採用するこ
とはできない。
 同第三点は、違憲を名とするけれども実は、刑法五条但書の解釈の誤りを主張す
るに過ぎず、同第四点は、量刑不当の主張であつて、いずれも、刑訴四〇五条所定
の適法な上告理由にあたらない。
 被告人の上告趣意は多岐に亘るけれども、その内容は結局、弁護人蓬田武の上告
趣意と同一に帰着するのであつて、いずれも採用に価しないことは、前述するとこ
ろによつて明らかである。
 次に職権をもつて調査するに、原判決は、本件犯行につき被告人を無期懲役に処
した上、「なお、被告人は本件犯行につき、昭和二四年六月二日軍事占領裁判所(
米軍第八軍第一騎兵師団軍事委員会)において終身刑に処する旨の裁判を受け、昭
和二七年四月二八日平和条約発効の日まで二年一〇月二七日間該刑の執行を受けた
ことは明らかであるが、被告人に対し無期懲役の言渡をする以上、この刑の性質上、
右受刑の事実を斟酌して、刑の執行を減軽、又は免除するに由ないので、刑法五条
但書の規定を準用する措置を執らない」と判示している。原判決が、右占領軍裁判
所の判決を受けたことをもつて、刑法五条所定の「外国ニ於テ確定判決ヲ受ケ」た
ことに準じて、本件について、原則として、刑法五条の準用あるものと解したこと
は正当である。しかしながら、同条但書は「但犯人既二外国ニ於テ言渡サレタル刑
ノ全部又ハ一部ノ執行ヲ受ケタルトキハ刑ノ執行ヲ減軽又ハ免除ス」と規定してい
る。そして、わが国裁判所が、同一犯罪事実に対し、あらためて、懲役又は禁錮の
刑を言渡す場合、さきに、被告人が外国判決にもとずいて刑の執行を受けた事実を
斟酌して、その受刑期間のうち、相当の期間を本刑に算入して、右期間は、刑法二
八条仮出獄に関する規定の適用については、既に「経過シタル」期間として通算さ
れるものとすることも、また同条但書にいわゆる刑の執行の減軽にあたるものと解
するを相当とする。されば、右のごとき期間の算入は、何ら無期懲役刑の性質に反
するものではなく、本件のごとく、被告人を無期懲役に処した場合においても、同
条但書に従い「刑ノ執行ヲ減軽」することを要するものと解すべきである。従つて、
原判決が、前叙のごとく「刑ノ執行ヲ減軽」しなかつたのは違法であり、刑訴四一
一条によつて破棄を免れないものである。
 よつて、原判決の確定する事実に対し、刑法二四〇条後段の規定を適用し、その
所定刑中無期懲役を選択して、被告人を無期懲役に処することとし、第一審におけ
る未決勾留日数の算入については刑法二一条、占領軍軍事裁判所の判決によつて執
行を受けた期間の算入については、同法五条、訴訟費用の負担については刑訴一八
一条を適用して主文のとおり判決する。
 この判決は全裁判官一致の意見によるものである。
 検察官佐藤藤佐、安平政吉出席
  昭和三〇年六月一日
     最高裁判所大法廷
         裁判長裁判官    田   中   耕 太 郎
            裁判官    栗   山       茂
            裁判官    小   谷   勝   重
            裁判官    島           保
            裁判官    斎   藤   悠   輔
            裁判官    藤   田   八   郎
            裁判官    河   村   又   介
            裁判官    谷   村   唯 一 郎
            裁判官    小   林   俊   三
            裁判官    本   村   善 太 郎
            裁判官    入   江   俊   郎
            裁判官    池   田       克

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