弁護士法人ITJ法律事務所

裁判例


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         主    文
     本件上告を棄却する。
     上告費用は上告人の負担とする。
         理    由
 上告代理人吉田鐵次郎の上告理由について
 建物の建築工事請負人が建築途上において未だ独立の不動産に至らない建前を築
造したままの状態で放置していたのに、第三者がこれに材料を供して工事を施し、
独立の不動産である建物に仕上げた場合においての右建物の所有権が何びとに帰属
するかは、民法二四三条の規定によるのではなく、むしろ、同法二四六条二項の規
定に基づいて決定すべきものと解する。けだし、このような場合には、動産に動産
を単純に附合させるだけでそこに施される工作の価値を無視してもよい場合とは異
なり、右建物の建築のように、材料に対して施される工作が特段の価値を有し、仕
上げられた建物の価格が原材料のそれよりも相当程度増加するような場合には、む
しろ民法の加工の規定に基づいて所有権の帰属を決定するのが相当であるからであ
る。
 これを本件についてみると、原審が適法に確定したところによれば、(1) 上告
人の被相続人であるDは、被上告人から本件建物の建築工事を請け負つたE建設株
式会社(旧商号F建設工業株式会社)から昭和四〇年六月一六日さらに右工事の下
請けをして建築に着手し、同年七月一五日ごろには棟上げを終え、屋根下地板を張
り終えたが、E建設が約定の請負報酬を支払わなかつたため、その後は屋根瓦も葺
かず、荒壁も塗らず、工事を中止したまま放置した、(2) そこで、被上告人は、
E建設との請負契約を合意解除し、同年一〇月一五日、G建設工業株式会社に対し、
工事進行に伴い建築中の建物の所有権は被上告人の所有に帰する旨の特約を付して
右建築の続行工事を請け負わせた、(3) G建設は、右請負契約に従い自らの材料
を供して工事を行い、DのG建設に対する仮処分の執行により工事の続行が差し止
められた同年一一月一九日までに、右建前に屋根を葺き、内部荒壁を塗り上げ、外
壁もモルタルセメント仕上げに必要な下地板をすべて張り終えたほか、床を張り、
電気、ガス、水道の配線、配管工事全部及び廊下の一部コンクリート打ちを済ませ、
未完成ながら独立の不動産である建物とした、(4) 右未完成の建物の価格は少な
く見積つても四一八万円であるのに対し、Dが建築した前記建前のそれは多く見積
つても九〇万円を超えるものではなかつたというのである。
 右事実によれば、G建設が行つた工事は、単なる修繕というべきものではなく、
Dが建築した建前に工作を加えて新たな不動産である本件建物を製造したものとい
うことができる。ところで、右の場合において民法二四六条二項の規定に基づき所
有権の帰属を決定するにあたつては、前記G建設の工事によりDが建築した建前が
法律上独立の不動産である建物としての要件を具備するにいたつた時点における状
態に基づいてではなく、前記昭和四〇年一一月一九日までに仕上げられた状態に基
づいて、G建設が施した工事及び材料の価格とDが建築した建前のそれとを比較し
てこれをすべきものと解されるところ、右両者を比較すると前記のように前者が後
者を遥かに超えるのであるから、本件建物の所有権は、Dにではなく、加工者であ
るG建設に帰属するものというべきである。そして、G建設と被上告人との間には、
前記のように所有権の帰属に関する特約が存するのであるから、右特約により、本
件建物の所有権は、結局被上告人に帰属するものといわなければならない。これと
同旨の原審の判断は、正当として是認することができ、原判決に所論の違法はない。
論旨は、採用することができない。
 よつて、民訴法四〇一条、九五条、八九条に従い、裁判官全員一致の意見で、主
文のとおり判決する。
     最高裁判所第一小法廷
         裁判長裁判官    藤   崎   萬   里
            裁判官    本   山       亨
            裁判官    戸   田       弘
            裁判官    中   村   治   朗

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