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         主    文
     一 上告人の本訴請求のうち、金沢地方裁判所が同庁昭和五三年(ケ)
第一三三号不動産任意競売事件について作成した第一審判決別紙(一)の支払表の支
払順位2の被上告人に対する支払額を一二九八万二九一七円に、支払順位3の上告
人に対する支払額を一二三二万三九七二円に変更することを求める請求に係る部分
につき、原判決を破棄し、右破棄部分を名古屋高等裁判所に差し戻す。
     二 その余の本件上告を棄却する。
     三 前項に関する上告費用は上告人の負担とする。
         理    由
 上告代理人林武夫の上告理由について
 一 原審が確定した事実関係は、次のとおりである。
 1 株式会社D(以下「D」という。)は、E(後記第一審判決別表A、B及び
同別紙債権現在額表における整理番号一二一二、後に「F」と改称)、G(同一二
四一、後に「H」と改称)、G三号(同一二四三、後に「I」と改称)、J(同一
三五七)及びK(同八八一三)なる店名のカフェー、サロン又はスタンドバーを経
営し、右各店舗における飲食行為に係る料理飲食等消費税(昭和六三年法律第一一
〇号による改正前の地方税法第六節に規定するもの。以下「料飲税」という。)の
特別徴収義務者として指定された者であり、L観光企業有限会社(以下「L観光」
という。)は、E二号(同一二一四、後に「N」と改称)なる店名のカフェーを経
営し、右店舗における飲食行為に係る料飲税の特別徴収義務者として指定された者
である。
 2 M(以下「M」という。)は、右D及びL観光の各代表取締役であつて、右
両会社の経営する前記各店舗における飲食行為に係る料飲税の特別徴収義務者とし
て指定された者であり、右各会社とそれぞれ連帯して右料飲税に係る地方団体の徴
収金を被上告人に納入する義務を負う者である。
 3 Dは、その経営する前記各店舗に係る第一審判決別表A(一)、(二)(但し、
原判決により一部訂正後のもの)記載の料飲税について、納入申告書を被上告人の
金沢県税事務所長に提出し、右料飲税に係る地方団体の徴収金の法定納期限等(地
方税法一四条の九第一項参照。以下同じ。)は同表該当欄記載のとおりであるとこ
ろ、昭和五六年五月二二日現在において、同表該当欄記載の料飲税、加算金及び延
滞金を滞納していた。また、L観光は、その経営する前記店舗に係る第一審判決別
表A(三)記載の料飲税について、納入申告書を同県税事務所長に提出し、右料飲税
に係る地方団体の徴収金の法定納期限等は同表該当欄記載のとおりであるところ、
前同日現在において、同表該当欄記載の料飲税及び延滞金を滞納していた。しかし、
Mは、前記各料飲税について、納入申告書を提出しなかつた。
 4 被上告人の前記県税事務所長は、前記各店舗に係る料飲税の特別徴収義務者
であるMに対し、昭和五二年六月一八日に第一審判決別表B(一)記載のとおりの、
同年九月八日に同表B(二)記載のとおりの、昭和五三年二月二〇日に同表B(三)記
載のとおりの、同年七月一九日に同表B(四)(但し、原判決により一部訂正後のも
の)記載のとおりの各料飲税を、それぞれ同人が納入義務を負担する税額とする旨
の地方税法一二四条二項に基づく各決定をし、これと併せて、昭和五二年六月一八
日には同表B(一)記載のとおりの、昭和五三年七月一九日には同表B(四)記載のと
おりの各加算金を、それぞれ同人が納入義務を負担する加算金額とする旨の同法一
二七条四項に基づく各決定をした。そして、各決定日に右各決定に係る料飲税及び
加算金をそれぞれ記載した決定通知書兼納入告知書を発し(昭和五二年六月一八日
に発した決定通知書兼納入告知書には同表B(一)記載のとおりの、昭和五三年二月
二〇日に発した決定通知書兼納入告知書には同表B(三)記載のとおりの各延滞金も
記載されていた。)、右各書面は、昭和五二年六月二〇日、同年九月九日、昭和五
三年二月二一日、同年七月二二日に順次Mに到達したところ、右各決定は不服申立
なく確定した。
 5 上告人は、M所有の土地建物(以下「本件不動産」という。)につき、昭和
五三年四月二八日設定登記に係る抵当権(以下「本件抵当権」という。)を有して
いたところ、上告人の申立により、同年九月二五日本件不動産について本件抵当権
に基づく競売開始決定がされた(金沢地方裁判所昭和五三年(ケ)第一三三号競売
申立事件)。
 6 被上告人は、Mに対し地方税法所定の督促手続をした後、右開始決定に先立
つ昭和五三年六月五日前記各店舗の昭和五二年度三月分から同年度一一月分までの
料飲税に係る地方団体の徴収金につき本件不動産を差し押さえ、更に、右開始決定
後の昭和五三年一〇月九日前記各店舗の昭和五二年度一二月分から同五三年度五月
分までの料飲税に係る地方団体の徴収金につき参加差押えの手続をした。競売裁判
所(金沢地方裁判所)は、昭和五四年一月一八日右競売手続続行決定をし、被上告
人は、同月二九日競売裁判所に対し、以上の料飲税に係る地方団体の徴収金(以下
「本件徴収金」という。)につき交付要求をした。
 7 競売裁判所は、昭和五六年六月一一日を配当期日として指定した。上告人は、
本件抵当権の被担保債権の額を一六八九万二二一一円とする計算書を提出し、被上
告人は、本件徴収金の現在額合計を二五九一万二七四五円とする債権現在額申立書
(その内訳は、第一審判決別紙債権現在額表(但し、原判決により一部訂正後のも
の)記載のとおりである。)を提出したが、競売裁判所は、本件徴収金のうち、右
債権現在額表の法定納期限等欄記載の日付が本件抵当権設定登記の日である昭和五
三年四月二八日より前である料飲税、加算金、延滞金合計二一七三万二一六二円(
同表三枚目太線までの分、以下「本件料飲税債権」という。)は、上告人主張の右
被担保債権に優先して配当されるべきものであるとして、被上告人に対する支払額
を二一七三万二一六二円とし、上告人に対する支払額を三五七万四七二七円とする
第一審判決別紙(一)の支払表(以下「本件支払表」という。)を作成したところ、
上告人は、右配当期日において、被上告人に対する配当全部について異議を述べた。
 二 本訴において、上告人は、本件抵当権の被担保債権の額は一六六一万四〇八
〇円であるとした上、被上告人が主張する本件料飲税債権は存在せず、上告人は右
被担保債権全額につき配当を受けるべき権利を有する旨主張して、本件支払表中、
支払順位2の被上告人に対する支払額を〇円に、支払順位3の上告人に対する支払
額を一六六一万四〇八〇円に変更することを求め、なお、本件料飲税債権が存在す
るとしても、このうち昭和五三年七月一九日にMに対して前記決定通知書兼納入告
知書が発せられた税額及び加算金額並びに右税額に対する延滞金額の合計額八七四
万九二四五円(前記債権現在額表に昭和五二年度一二月、同一月及び同二月分とし
て表示された税額、加算金額及び延滞金額の合計額。以下「本件債権部分」という。)
は、右被担保債権に劣後するものであるから、少なくとも、被上告人に対する支払
額を一二九八万二九一七円に、上告人に対する支払額を一二三二万三九七二円に変
更すべきであると主張した。
 三 原審は、前記のとおり被上告人主張の本件料飲税債権二一七三万二一六二円
が存在することを確定した上、前記の事実関係のもとにおいて、Mに対して地方税
法一四条の一〇を適用する場合、同条の法定納期限等とは、Mに対し納入告知書を
発した日ではなく、DあるいはL観光の申告による法定納期限等と解するのが相当
であるとし、被上告人のMに対する本件料飲税債権は全額上告人主張の被担保債権
に先立つて徴収することができると判断して、右被担保債権の存否について判断す
ることなく、上告人の本訴請求を全部棄却すべきものとし、これと同旨の第一審判
決を正当として控訴棄却の判決をした。
 四 しかしながら、原審の右判断は是認することができない。その理由は次のと
おりである。
 地方税法一四条の一〇は、いわゆる地方税優先の原則と担保物権公示の原則との
調整の観点から、地方税債権と抵当権の被担保債権との優先劣後につき、「納税者
又は特別徴収義務者が地方団体の徴収金の法定納期限等以前にその財産上に抵当権
を設定しているときは、その地方団体の徴収金は、その換価代金につき、その抵当
権により担保される債権に次いで徴収する。」と規定しているところ、料飲税に係
る地方団体の徴収金の法定納期限等についてみるに、料飲税については、地方税法
(昭和六三年法律第一一〇号による改正前のもの)一一九条二項所定の期限以前に
納入申告書を提出したことにより税額が確定した場合においては、右期限が法定納
期限等となる(地方税法一四条の九第一項各号列記以外の部分)が、右期限後に税
額が確定した場合においては、それが期限後申告によるときには、その申告があつ
た日が、それが地方税法一二四条二項の決定によるときにはその納入告知書(同法
一三条一項)を発した日が、それぞれ法定納期限等となり(同法一四条の九第一項
一号)、加算金、延滞金については、その徴収の基因となつた料飲税の法定納期限
等がその法定納期限等となる(同項各号列記以外の部分)ことが明らかである。そ
して、地方団体の徴収金の連帯納入義務については、連帯債務に関する民法四三二
条から四三四条まで、四三七条及び四三九条から四四四条までの規定を準用するも
のとされているところ(地方税法一〇条)、連帯納入義務者の一人について生じた
税額確定の効力は、他の連帯納入義務者との関係において絶対的効力を生ずるもの
ではなく、民法四四〇条の準用により単に相対的効力を生ずるにとどまるものであ
つて、連帯納入義務者に対する税額確定の手続は、連帯納入義務者ごとに各別に行
われることを要するものと解するのが相当であるから、地方税法一四条の一〇を適
用する場合における法定納期限等もこれに応じて各連帯納入義務者ごとに相対的に
定まるものというべきである。
 これを本件についてみるに、原審の適法に確定した前記の事実関係によれば、D
及びL観光並びにMは、本件徴収金につき、ともに特別徴収義務者として連帯納入
義務を負担しているものであるところ、D及びL観光は、所定の納入申告書(一部
期限後申告)を提出し、その都度、税額は確定していたのであるが、Mは納入申告
書を提出しなかつたというのであるから、同人との関係においては、前記地方税法
一二四条二項に基づく各決定によりはじめて税額が確定することになつたものとい
わなければならない。したがつて、本件徴収金につき、D及びL観光との関係での
法定納期限等は、本来の法定納期限(一部期限後申告のあつた分については、当該
申告の日)ということになるけれども、このことは、なんらMとの関係で税額を確
定し、かつ、法定納期限等を右と同時期とみるべき効力を生じるものではなく、同
人との関係における法定納期限等は、あくまでも、同人に対する税額を確定させる
効力を有するものとしてされた前記各決定の通知書兼納入告知書を発した日と解す
べきことは前記の説示に照らして明らかである。そうすると、本件抵当権の設定登
記の日である昭和五三年四月二八日の段階においては、Mに対する昭和五二年六月
一八日、同年九月八日及び昭和五三年二月二〇日の各決定に係る決定通知書兼納入
告知書は発せられていたものの、未だ同年七月一九日の決定に係る決定通知書兼納
入告知書は発せられていなかつたのであるから、本件徴収金の一部である本件料飲
税債権のうち前三決定に係る部分である一二九八万二九一七円は本件抵当権の被担
保債権に優先するものとして、被上告人においてその額の配当を受けるべきもので
あるが、同年七月一九日の決定に係る部分(本件債権部分)は、右被担保債権に次
いで徴収すべきものであり、したがつて、上告人主張の右被担保債権が存在するの
であれば、上告人は、本件支払表の支払順位3に記載された上告人に対する支払額
三五七万四七二七円に本件債権部分の額を加えた一二三二万三九七二円の配当を受
けることができるものといわなければならない。
 以上によると、右被担保債権と本件料飲税債権との優先劣後を決すべき基準であ
るMに関する本件徴収金の法定納期限等は、同人に対して納入告知書を発した日で
はなく、D又はL観光のした納入申告に基づく法定納期限等であると解した原判決
には、法令の解釈適用を誤つた違法があり、原判決中、本件支払表の変更を求める
上告人の本訴請求のうち支払順位2の被上告人に対する支払額を一二九八万二九一
七円とし、支払順位3の上告人に対する支払額を一二三二万三九七二円とする限度
でこれを変更することを求める請求をも棄却すべきものとして上告人の控訴を棄却
した部分は破棄を免れない。論旨は、右の限度において理由があるが、本訴請求の
うち上告人に対する支払額を一二三二万三九七二円を超える額に変更することを求
める請求を認容する余地はないから、原判決中、右請求を棄却すべきものとして上
告人の控訴を棄却した部分は正当というべきであり、この部分に関する論旨は理由
がない。そして、記録に照らすと、上告人主張の前記被担保債権の存在については
当事者間に争いの存することが窺われるところ、原審がこれについて判断をしてい
ないことは前記のとおりであり、したがつて、右破棄部分については、右の点につ
いて判断を加えた上、前記の説示に沿つて上告人の右請求の当否を判定すべく、更
に審理を尽くさせる必要があるから、これを原審に差し戻すのが相当である。
よつて、民訴法四〇七条一項、三九六条、三八四条、九五条、八九条に従い、裁判
官全員一致の意見で、主文のとおり判決する。
     最高裁判所第二小法廷
         裁判長裁判官    藤   島       昭
            裁判官    牧       圭   次
            裁判官    島   谷   六   郎
            裁判官    香   川   保   一
            裁判官    奧   野   久   之

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