弁護士法人ITJ法律事務所

裁判例


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         主    文
     本件上告を棄却する。
     上告費用は上告人の負担とする。
         理    由
 上告代理人芦苅直巳、同石川悌二、同久保恭孝の上告理由第一について。
 所論は、上告人および被上告人間に被上告人主張のような和解契約が成立したと
の原判決の認定は、採証法則および経験則に違反したものであるという。しかし、
所論一、二、三の論旨中、昭和二六年七月頃被上告人の上告人に対する本件手形割
引金の未交付金額が約一二〇〇万円に達していたとの点、本件和解契約において本
件約束手形割引に関する諸費用および謝礼金について当事者間に書面が作成された
か否かの点、および本件和解契約成立後被上告人側から上告人に対して一五〇万円
ないし二〇〇万円の謝金の支払要求がなされたか否かの点は、すべて原審の認定す
るところでないし、また、判示のような和解契約がなされる場合には当事者間で手
形割引に関する諸費用、謝金について明確を期するため両当事者の署名のある書面
が作成されるはずであるとの経験則も存するとはいえず、却つて原判決挙示の証拠
関係によれば、本件和解契約成立に関する原審の事実認定は首肯することができる。
 また所論四は、被上告人が原審において、本件約束手形割引に要した諸費用とし
て主張した金二九六万五六一七円のうち金四六万円は被上告人が訴外Dに対して個
人的に貸与した分にすぎないから右金額から控除すると述べたのに対して、原審が
右控除も本件和解契約の成立およびひいては判決に影響を及ぼさないと判示したの
は、判断を誤つたものであると非難するが、本件約束手形割引に関する費用が金二
九六万五六一七円であつたことを前提として本件和解契約が締結されたことは、原
審において主張、判断のなかつたところであるのみならず、仮りに当事者間におい
て、上告人から被上告人に対して右金額の支払義務があることを前提として本件和
解契約が締結されたものとしても、原判示によれば、上告人は本件手形割引金の引
渡未了額が金一二〇〇万円に及ぶと主張し、被上告人はこれを争つていたところ、
昭和二六年八月七日当事者双方協議のうえ、被上告人から上告人に対する支払額を
金六〇〇万円と定めたというのであるから、上告人が被上告人に支払うべき金二九
六万五六一七円のうち金四六万円が所論のような理由で当初から控除されるべきも
のであつたとしても、右各金額を対比するときは、訴外Dに対する貸与金額を控除
しなかつたことが本件和解契約の成立に必ずしも影響を及ぼすほどのものとはいい
難く、従つて、原審で被上告人のなした右控除の主張も判決に影響を及ぼすものと
は認められず、この一事をもつて直ちに所論のように被上告人の主張が根拠に乏し
く不当であるということはできない。これと同趣旨の原判決は正当である。
 要するに所論は、その余の論旨をも含めて、原審が適法にした証拠の取捨判断お
よび事実の認定を非難するに帰し、採るを得ない。
 同第二について。
 所論は、原審は本件わさび粉につき上告人が被上告人との間に売買契約を結ぶ義
務があると判示したが、右義務がいかなる内容のものであるかを明らかにしていな
い点で、審理不尽、理由不備、理由そごの違法があるというのである。しかし、原
判示によれば、被上告人が上告人に対して交付すべき手形割引金の額を金六〇〇万
円と協定し、被上告人において手持ちのわさび粉を順次上告人に売り渡してその売
渡代金との相殺勘定によつて決済をつけるという趣旨の和解契約が成立したことを
認定し、従つて、上告人は、被上告人が右和解契約の趣旨に従つてわさび粉の買取
を申し入れて来た場合には、この申入に応じて買取代金や数量をとりきめてわさび
粉の売買契約を結ぶ義務を負つたものと判断しているものであることは、判文上明
らかであり、右の認定および判断には所論の違法は認められない。
 また所論は、上告人が右わさび粉について売買契約を結ぶ義務に違反したことか
ら直ちに判示のような損害賠償の責任を負うとした原判決には、理由不備の違法が
あるという。しかし、原判決およびその引用する第一審判決は、上告人および被上
告人は前記和解契約を結ぶにあたり、わさび粉がその性質上製造した年のうちに処
分しなければ変質するものであることを双方とも熟知していたとともに、上告人が
右買受わさび粉を他に売り渡してその買得金をもつて取引銀行に対して手形決済を
なす早急の必要に迫られていたこと等の事情から、本件わさび粉の売買および引渡
は少くとも昭和二六年の年末までにすることが暗黙のうちに諒解されていたことお
よび被上告人は右和解契約の趣旨に従い、上告人に対して昭和二六年八月から同年
九月にかけて再三口頭または書面をもつて、わさび粉を売り渡したが手持ちわさび
粉は早急に処理しなければ傷んでしまうおそれがあるから速かにわさび粉を引き取
つてもらいたい旨申し入れたが、上告人はなんら回答をせず、代金引渡の日時、場
所等についての打ち合わせさえもしようとしないばかりか、買取の意思がないとい
う回答すら寄せず、右申入をそのまま放置しておいたこと、被上告人は右回答を待
つて手持ちわさび粉の処分を控えていたが、ついに回答が得られなかつたため、同
年一一月頃手持ちわさび粉の一部を他に売却しようとしたが、すでに変質を来たし
ていたため引取を拒否され、やむを得ず同年一二月頃手持ちわさび粉五〇〇〇貫以
上を廃棄するに至つたこと、前記和解契約においてはわさび粉の買受量が、当時被
上告人が五〇〇〇貫余の手持ちわさび粉を保有していたところから、和解で妥結し
た金六〇〇万円全額に相当する量を定めたものであり、しかして右わさび粉は前記
廃棄当時変質していなかつたならば一貫あたり金一四〇〇円の価格を有していたと
の各事実を認定しているのであり、右認定によれば、右わさび粉の変質によつて被
上告人の蒙つた損害は、上告人の前記和解契約に基づく義務の不履行によるもので
あることが明らかである。それ故、原判決の所論認定および判断には、所論の違法
は認められない。
 次に所論は、本件和解契約において定められた本件わさび粉買取義務の最終履行
期日は昭和二六年の年末であつたところ、すでに右最終履行期前において右わさび
粉が変質のため廃棄されたことが原判決によつて確定されているのであるから、右
変質による損害を上告人の契約不履行によるものとして上告人にその賠償を命ずる
ことはできないはずであるという。しかし、原判決は、昭和二六年の年末が本件わ
さび粉買取の最終履行期と一応定められたけれども、前記説示のとおり被上告人は
わさび粉の変質をおそれて昭和二六年八月から同年九月にかけて再三書面または口
頭をもつてその買取方を申し入れており、一方上告人側においてもわさび粉が性質
上変質し易いものであることを熟知していたというのであるから、右和解契約の趣
旨に従い、上告人は右申入に応じて速かにこれを買い取るか、なんらかの理由で買
取に差支えが生じたならば直ちにその旨を被上告人に対して通告すべき義務がある
ことが明らかであり、右義務を怠つた以上、判示のような経過に従い、最終履行期
たる昭和二六年の年末以前においてなされた変質した右わさびの粉の廃棄につき、
上告人は右不履行による損害賠償責任を免れないものというべきであり、これと同
趣旨の原判決およびその引用する第一審判決は正当であり、所論の違法は認められ
ない。
 さらに所論は、被上告人の蒙つた本件損害賠償額の算定につき本件わさび粉の廃
棄当時の価格をその基準としたことについて、原判決およびその引用する第一審判
決には理由を附さない違法があるという。しかし、原判決およびその引用する第一
審判決の判示によれば、本件わさび粉五〇〇〇貫のうち二〇〇〇貫は昭和二六年一
一月頃変質しており、同年一二月頃右わさび粉全量を廃棄したが、右廃棄当時は、
もし変質していなかつたならば一貫あたり金一四〇〇円の価格であつたというので
あり、右わさび粉の変質時期、廃棄時期および上告人の本件わさび粉買取義務の最
終履行期が、極めて近接している本件においては、その間にわさび粉の価格に顕著
な変動があつたとの特段の事情の認められない以上、右変質による損害を廃棄当時
の価格によつて算定することとした原判決およびその引用する第一審判決には、所
論の違法は認められられない。
 よつて、民訴四〇一条、九五条、八九条に従い、裁判官全員の一致で、主文のと
おり判決する。
     最高裁判所第一小法廷
         裁判長裁判官    入   江   俊   郎
            裁判官    下 飯 坂   潤   夫
            裁判官    斎   藤   朔   郎
            裁判官    長   部   謹   吾

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