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平成22年6月23日判決言渡
平成21年(行ケ)第10266号審決取消請求事件(特許)
口頭弁論終結日平成22年6月16日
判決
原告X
訴訟代理人弁理士丹羽宏之
同西尾美良
被告オキツモ株式会社
訴訟代理人弁理士赤岡迪夫
同赤岡和夫
主文
1原告の請求を棄却する。
2訴訟費用は原告の負担とする。
3この判決に対する上告及び上告受理申立てのための付加期間を30
日と定める。
事実及び理由
第1請求
特許庁が無効2008−800076号事件について平成21年4月21日にし
た審決を取り消す。
第2事案の概要
1本件は,原告が特許権者で発明の名称を「ワンコーティングまたはスリーコ
ーティング層にインク顔料を塗布してコーティング層を形成した器具およびそ
の形成方法」とする特許第4094016号(請求項の数10)の全請求項に
ついて,被告が無効審判請求をしたところ,特許庁が訂正後の請求項1ないし
6及び8ないし10について認容し,請求項7について請求不成立の審決をし
たことから,原告が無効とされた部分の取消しを求めた事案である。
2争点は,①訂正後の請求項1及び8が下記引用例との関係で新規性を有する
か(特許法29条1項3号),②訂正後の請求項1ないし6及び8ないし10が
同引用例との関係で進歩性を有するか(特許法29条2項),である。

・特公平6−77544号公報(発明の名称「高温調理機器用皮膜の構造及びその
形成方法」,出願人シャープ株式会社,出願日平成1年6月30日,公開日
平成3年2月13日,公告日平成6年10月5日,甲1。以下「引用例」と
いい,そこに記載された発明を「引用発明」という。)
第3当事者の主張
1請求の原因
(1)特許庁における手続の経緯
ア原告は,発明の名称を「ワンコーティングまたはスリーコーティング層に
インク顔料を塗布してコーティング層を形成した器具およびその形成方法」
とする特許第4094016号(平成17年7月8日出願,平成20年3月
14日設定登録,以下「本件特許」という。)の特許権者である。
イ被告は,平成20年4月28日,本件特許の全請求項について無効審判請
求をし,原告は,平成20年9月3日に各請求項等につき(ただし,請求項
2,3及び6を除く。)訂正請求を行った(以下「本件訂正」という。)とこ
ろ,被告は,平成21年1月13日に下記のとおり各請求項について無効理
由の補正を行い,平成21年3月31日付けで当該補正を許可する旨の決定
がされた(なお,請求項7に対する無効理由1は,平成21年1月13日の
第1回口頭審理期日において撤回された。)。

請求項1無効理由1,2,3
22,3
32,3
42,3
52,3
62,3
71,2,3
81,2,3
92,3
102,3
・無効理由1:上記引用発明と同一で新規性なし(特許法29条1項3号)
・無効理由2:上記引用発明から容易想到で進歩性なし(同法29条2項)
・無効理由3:発明の記載が不明確(同法36条6項2号)
ウ特許庁は,上記請求を無効2008−800076号事件として審理を
した上,平成21年4月21日,請求項7を除く各請求項につき請求に係
る上記無効理由1及び2を各認容して,「訂正を認める。特許第40940
16号の請求項1ないし6,8ないし10に係る発明についての特許を無
効とする。特許第4094016号の請求項7に係る発明についての審判
請求は,成り立たない。」との審決をし,その謄本は同年5月7日原告に送
達された(出訴期間として90日附加)。
(2)発明の内容
本件訂正後の請求項1∼10(請求項7は省略。)の内容は,以下のとおり
である(以下,全請求項に係る発明を「本件訂正発明」といい,各請求項に係
る発明を「本件訂正発明1」等という。下線は訂正部分)。
・【請求項1】
耐熱塗料が塗付されて形成されたワンコーティング層(100)が形成さ
れた器具において,前記ワンコーティング(100)層上にインク顔料を含
むコーティング液を噴霧器で一回以上噴射して前記インク顔料を斑点状に塗
布し,前記ワンコーティング層(100)と前記インク顔料の不連続コーテ
ィング層(6)が表面に不規則な凹凸状に形成されたことを特徴とする表面
層にインク顔料が塗布されてなる器具。
・【請求項2】
前記耐熱塗料は,シリコン複合樹脂,複合有機溶剤,カーボンまたは無機
顔料分散液,および複合充填材の組成でなることを特徴とする請求項1に記
載の表面層にインク顔料が塗布されてなる器具。
・【請求項3】
前記耐熱塗料を構成している各組成の比率は,シリコン複合樹脂35重
量%,複合有機溶剤40重量%,カーボンまたは無機顔料分散液5重量%,
および複合充填材20重量%であることを特徴とする請求項2に記載の表面
層にインク顔料が塗布されてなる器具。
・【請求項4】
前記インク顔料を含むコーティング液は,PTFE分散液,水,芳香族炭
化水素,トリエチルアミン,オレイン酸,界面活性剤,および無機分散液の
組成でなることを特徴とする請求項1に記載の表面層にインク顔料が塗布さ
れてなる器具。
・【請求項5】
前記インク顔料を含むコーティング液を構成している各組成の比率は,P
TFE分散液86.8重量%,水3.38重量%,芳香族炭化水素0.56
重量%,トリエチルアミン0.17重量%,オレイン酸0.17重量%,界
面活性剤0.12重量%,および無機分散液8.8重量%であることを特徴
とする請求項4に記載の表面層にインク顔料が塗布されてなる器具。
・【請求項6】
前記ワンコーティング層(100)上に一回以上塗布される前記インク顔
料は相異なる色相のインク顔料であることを特徴とする請求項1に記載の表
面層にインク顔料が塗布されてなる器具。
・【請求項8】
プライマーコート(201),ミッドコート(202)及びトップコート(2
03)の順に表面に積層されてスリーコーティング層(200)が形成され
た器具において,前記トップコート(203)上にインク顔料を含むコーテ
ィング液を一回以上噴射して前記インク顔料を斑点状に塗布し,前記トップ
コート(203)と前記インク顔料の不連続コーティング層(6)が表面に
不規則な凹凸状に形成されたことを特徴とする表面層にインク顔料が塗布さ
れてなる器具。
・【請求項9】
前記インク顔料を含むコーティング液は,PTFE分散液,水,芳香族炭
化水素,トリエチルアミン,オレイン酸,界面活性剤及び無機分散液の組成
でなることを特徴とする請求項8に記載の表面層にインク顔料が塗布されて
なる器具。
・【請求項10】
前記インク顔料を含むコーティング液は,PTFE分散液86.8重量%,
水3.38重量%,芳香族炭化水素0.56重量%,トリエチルアミン0.
17重量%,オレイン酸0.17重量%,界面活性剤0.12重量%及び無
機分散液8.8重量%の組成でなることを特徴とする請求項9に記載の表面
層にインクが塗布されてなる器具。
(3)審決の内容
ア審決の内容は,別添審決写しのとおりである。その理由の要点は,本件
訂正は誤記の訂正等を目的としたもので適法であるとした上,①本件訂正
発明1及び8が引用発明と同一であるから特許法29条1項3号に該当す
る,②本件訂正発明1ないし6及び8ないし10は引用発明及び技術常識
に基づいて当業者が容易に発明をすることができたものであるから同法2
9条2項により特許を受けることができない,というものである。
イなお,審決は,引用例(甲1)には以下の発明が記載されているとする(「引
用発明」とは,以下の引用発明1∼3を併せたものである。)。
・引用発明1
「主成分であるポリチタノカルボシランワニス,耐熱顔料に,フッ素樹脂
粉末を添加して有機溶剤で液状にした塗料で下塗装膜層を,高温調理機器
の調理表面上に塗布形成した後に,この下塗装膜層の上に,無機顔料を含
有するディスパージョン系のフッ素樹脂の液状塗料を,霜降り状に塗布形
成して焼結する皮膜を有する高温調理機器」
・引用発明2
「加熱調理器具の調理面の表面積をショットブラストして増大させる段
階,得られた粗面を清掃,清浄する段階,ポリチタノカルボシランを結合
剤にしたアルミニウム粉を混合したシルバー色の耐熱プライマ塗料を3∼
5ミクロン仕上げになるように塗布した後室温で乾燥する段階,フッ素樹
脂を含まない塗料を10∼15ミクロン仕上げになるように塗布した後,室温
で乾燥し,フッ素樹脂を8∼15重量%含む塗料を10∼30ミクロン仕上げに
なるように塗布し,150℃で20分の強制乾燥する段階,無機顔料を含有す
る四フッ化エチレン樹脂のディスパージョン型液体塗料を薄く,霜降り状
に塗布し,150℃で20分の予備乾燥を経て,380∼420℃の温度で20∼30
分間焼付硬化を行う段階を含む,加熱調理面の基材の上の皮膜形成方法」
・引用発明3
「ポリチタノカルボシランを結合剤にしたアルミニウム粉を混合したシル
バー色の耐熱プライマ塗料,フッ素樹脂を含まない塗料,フッ素樹脂を8
∼15重量%含む塗料の順に積層されたスリーコーティング層が形成され
た高温調理機器において,フッ素樹脂を8∼15重量%含む塗料の上に顔料
を含有する四フッ化エチレン樹脂のディスパージョン型液体塗料を薄く,
霜降り状に塗布されてなる高温調理機器」
ウまた,審決の認定した本件訂正発明1と引用発明1との一致点及び相違
点は,以下のとおりである。
<一致点>
両者は,「耐熱塗料が塗布されて形成されたワンコーティング層が形成さ
れた器具において,前記ワンコーティング層上に顔料を含むコーティング
液を塗布し,表面層に顔料が塗布されてなる器具」である点で一致する。
<相違点>
(Ⅰ)顔料が,本件訂正発明1においては,「インク顔料」であるのに対して,
引用発明1においては,「無機顔料」である点
(Ⅱ)ワンコーティング層上に顔料を含むコーティング液を塗布する方法が,
本件訂正発明1においては,「噴霧器で一回以上噴射して前記インク顔料
を斑点状に塗布」するのに対して,引用発明1においては,「霜降り状に
連続して塗布」する点
(Ⅲ)表面が,本件訂正発明1においては,「ワンコーティング層(100)
とインク顔料の不連続コーティング層(6)が表面に不規則な凹凸状に形
成された」ものであるのに対して,引用発明1においては,表面について
明らかでない点
(4)審決の取消事由
しかしながら,審決には以下のとおりの誤りがあるから,違法として取り
消されるべきである。
ア取消事由1(相違点(Ⅲ)についての判断の誤り)
審決には,以下に述べるように相違点(Ⅲ)についての判断に誤りがある
から,本件訂正発明1が引用発明1と実質的に同一である(特許法29条1
項3号)及び容易想到である(同法29条2項)とした判断も誤りである。
(ア)審決における本件訂正発明1と引用発明1との一致点及び相違点の
認定(32頁18行∼33行)並びに相違点(Ⅰ)及び(Ⅱ)に関する判断
(32頁下4行∼33頁21行)は争わないが,相違点(Ⅲ)の検討におい
て,引用発明1における「霜降り状に塗布して得られる無機顔料を含有
するディスパージョン系のフッ素樹脂の液状塗料からなる表面は,下塗
装膜層と顔料の不連続コーティング層が表面に不規則な凹凸状に形成さ
れたものであるから,実質的な相違点とならない。」(33頁下9行∼下
6行)と認定・判断したことは誤りである。
すなわち,引用発明1では,無機顔料を含有するディスパージョン系
のフッ素樹脂の液状塗料を霜降り状に塗布,すなわち不連続に塗布する
ものであるが,その後焼結するという工程を経て最終塗膜を得ている(甲
1,引用例3頁6欄17行∼27行参照)。したがって,引用発明1では,
焼結前に上記液状塗料を霜降り状(不連続状)に塗布しているものの,
焼結後は引用例6頁第1図Cの状態になるのであって,この状態は凹凸
状ではあるものの不連続な層であるとは到底いえないものである。
一方,本件訂正発明1は,「不連続コーティング層(6)」を有する
ものであり,本件特許に係る特許公報(甲19,以下「本件公報」という。)
の図1にも明確に不連続状態のコーティング層が示され,また,本件訂
正後の本件特許に係る明細書(甲20,以下「本件訂正明細書」という。)
の段落【0027】には,発明の効果として,「スリーコーティング層
のトップコート上に噴射されて斑点状に塗布されたインク顔料の不連続
コーティング層が上向きに充分に突出しているので,例えば調理器具に
適用する場合,スクラッチ(scratch)現象に耐える耐傷性およ
び耐磨耗性が向上し,これにより疵が発生しなくなり,よって使用後の
器具の掃除も容易になる。」と記載されており,本件訂正発明1のイン
ク顔料の不連続コーティング層が,インク顔料の粒子が上向きに突出し
て不連続層を形成していることは明らかである。
被告は,本件訂正発明1において,ワンコーティング層と不連続コー
ティング層とから形成される表面コーティング層の表面状態は,“不規則
な凹凸状”であれば足り,“不連続”であることは要件ではないと主張す
るが,本件訂正明細書(甲20)の段落[0006],段落[0027]及
び段落[0050]の記載並びに本件公報の図1からみて,ワンコーテ
ィング層と不連続コーティング層とから形成される表面コーティング層
の表面状態は,“不規則な凹凸状”であり,かつ“不連続”であること
が必須の要件であるといえる。なお,本件訂正明細書の段落【0033】
及び離散的に突出した不連続コーティング層6が描かれている本件公報
の図1を参照すれば,本件訂正発明1における「不連続」とは,インク
顔料が,つながった状態ではなくトップコートの表面が見える状態でト
ップコート上に離散的に分布している状態を指していると考えるが自然
である。また,本件訂正明細書の段落【0034】を参照すれば,図2
も図1と同様に,インク顔料がつながった状態ではなくトップコートの
表面が見える状態でトップコート上に離散的に分布している状態を示し
ていると考えられる。
さらに,被告が主張するように,引用発明が,塗布時(焼結前)のみ
ならず焼成後においても“霜降り状”であるとすれば,この霜降り状の
具体的な塗布状態は引用例の図1Cに示されている状態であることは明
らかである。そうであれば,引用例でいう「霜降り状」とは,到底「霜
の降りたように,白い斑点が散らばっている模様」(甲11)を意味する
ものではないことになる。
(イ)また,審決が「本件訂正発明1と引用発明1とは,同一の製造方法に
より得られていることから,当然に,得られたものも同一といえる。」(3
3頁下3行∼下1行)と判断したことも誤りである。
なぜなら,仮に,斑点状に塗布(本件訂正発明1)する工程と,霜降
り状に塗布(引用発明1)する工程までが同一であるとしても,その後
の加熱工程等が同一か否かは不明である。結果的に,本件訂正発明1で
は最終生成物として上向きに突出した不連続な凹凸の層が形成され,引
用発明1では表面は凹凸であるが連続した薄い膜が形成されている。し
たがって,この審決の判断は誤りである。
(ウ)さらに,審決が,本件訂正発明1の効果として,「(ア)スクラッチ(s
cratch)現象に耐える耐傷性および耐摩耗性が向上し,これによ
り疵が発生しなくなり,よって使用後の器具の掃除も容易になる。」(3
4頁5行∼7行)と認定しながら,「しかしながら,刊行物1には「本発
明の場合,10μ以下の霜降り状或いは連続膜にしているので,…(略)
…耐摩耗性,金属ヘラの使える皮膜となっているので,電子レンジオー
ブン調理が高温でも,トレイの出し入れで,皮膜がハクリしない。又,
ホットプレートで調理を行い,金属ヘラを用いても,ハクリを起こさな
いことが判明した。」及び「本発明の皮膜構造は,それを上回わる完全な
ものとなり,焦げ付き付着物が完全にとれて,付着物のあとシミ,汚れ
が目立たなくなった。」と記載されていることから(摘記1−h),上記
(ア)の効果は予測できる範囲のものであるといえる。」(34頁16行
∼23行)と判断したことは誤りである。
すなわち,確かに引用例(刊行物1)には上記の記載があるが,そこに
記載された効果は,審決の摘記1−hに記載されているように,上塗の
ディスパージョン型フッ素樹脂塗料のフッ素樹脂と下塗のフッ素樹脂粉
末入セラミック層との相乗効果により,強固な膜が形成されることによ
り奏される効果である。
一方,本件訂正発明1の効果は,インク顔料の突出により耐傷性,耐
磨耗性を向上させているものであり,引用発明1とは明らかに相違して
いるから,上記(ア)の効果は予測できる範囲のものとはいえない。
イ取消事由2(本件訂正発明2∼6についての判断の誤り)
本件訂正発明1については,上記したように特許の登録要件を満たすも
のであるから,本件訂正発明1に従属する本件訂正発明2∼6について
も,同様に特許の登録要件を満たすものである。
したがって,審決が,本件訂正発明2∼6について,引用発明及び周知
慣用技術に基づいて当業者が容易に発明をすることができたものである
から,特許法29条2項により特許を受けることができないと判断した(3
5頁2行∼37頁15行)ことは,いずれも誤りである。
ウ取消事由3(本件訂正発明8∼10についての判断の誤り)
(ア)審決が,【本件訂正発明8について】の「ウ相違点(iii’)につ
いて」において,「…引用発明3の表面の状態について,刊行物1の第8
図を参酌すると(摘記1−k),表面が不規則な凹凸であることは明らか
である。してみると,霜降り状に塗布して得られる無機顔料を含有する
ディスパージョン系のフッ素樹脂の液状塗料からなる表面は,下塗装膜
と顔料の不連続コーティング層が表面に不規則な凹凸状に形成されたも
のであるから,実質的な相違点とはならない。また,上記「イ相違点
(ii’)について」で述べたように,引用発明3における「霜降り状に
塗布」する方法に,噴霧器で一回以上噴射して斑点状に塗布する方法が
包含されていると解すれば,本件訂正発明8と引用発明3とは,同一の
方法により得られていることから,当然に,得られたものも同一となる
といえる。」(41頁10行∼20行)と判断したことは誤りである。
その理由は,取消事由1の本件訂正発明1の相違点(Ⅲ)についての認
定・判断の誤りにおいて述べたところと同一である。なお,「引用発明3
の表面の状態について,刊行物1の第8図を参酌すると(摘記1−k),
表面が不規則な凹凸であることは明らかである」とあるが,刊行物1(引
用例)の第8図においても,刊行物1の第1図Cと同様に,表面が不規則
な凹凸であることは認めるが,上向きの突起の不連続な層でないことは
明らかである。
したがって,審決が,「本件訂正発明8は,刊行物1に記載された発明
及び慣用技術に基づいて当業者が容易に発明をすることができたもので
あるから,特許法第29条第1項第3号に該当し,又は同法同条第2項
の規定により特許を受けることができない。」(41頁23行∼26行)と
判断したことは誤りであり,本件訂正発明8は特許の登録要件を満たす
発明である。
(イ)本件訂正発明8については,上記したように特許の登録要件を満たす
ものであるから,本件訂正発明8に従属する本件訂正発明9,10につ
いても,同様に特許の登録要件を満たすものである。
したがって,審決が,本件訂正発明9,10について,引用発明及び
周知慣用技術に基づいて当業者が容易に発明をすることができたもので
あるから,特許法29条2項により特許を受けることができないと判断
した(41頁下10行∼42頁22行)ことは,いずれも誤りである。
エ取消事由4(請求人の主張に対する判断の誤り)
審決が,【被請求人の主張について】において「しかしながら,上記【効
果について】で述べたように,刊行物1には,「本発明の場合,…(略)…
耐摩耗性,金属ヘラの使える皮膜となっている」というように,引用発明
においても,耐摩耗性及び耐傷性があるといえる。そして,本件訂正発明
も引用発明もメカニズムはともかく,ともに傷がつきにくいという効果を
奏する点で異なるものではなく,かつ,本件訂正発明において耐傷性の程
度が格別であると認めるに足るものもない。そうすると,本件訂正発明の
上記効果は,予測できない格別顕著な効果であるとはいえない。」(43頁
12行∼19行)と認定・判断したことは誤りである。
その理由は,取消事由1の本件訂正発明1の相違点(Ⅲ)(ウ)についての認
定・判断の誤りにおいて述べたところと同一である。すなわち,本件訂正
発明と引用発明では,耐傷性,耐傷性を発揮するための構成が全く異なる
ものであり,本件訂正発明の「インク顔料の突出により耐傷性を向上させ
る」との構成,効果は,引用発明には一切開示されていない。したがって,
本件訂正発明の上記効果は,予測できない格別顕著な効果であるといえる。
2請求原因に対する認否
請求原因(1)ないし(3)の各事実は認めるが,(4)は争う。
3被告の反論
(1)取消事由1に対し
ア本件特許の請求項1には「“ワンコーティング層(100)”と“インク
顔料の不連続コーティング層(6)”が,表面に不規則な凹凸状に形成させ
た」と記載されているのみであり,ワンコーティング層と不連続コーティ
ング層から形成される表面が不連続であることについては何ら記載がな
い。また,原告は,本件訂正発明1の表面コーティング層が“不連続”で
なければならない理由として,本件特許の明細書の段落[0027]に「イ
ンク顔料の不連続コーティング層が上向きに充分に突出している」と記載
されている点を指摘するが,これは,単に不連続コーティング層が不連続
であることを意味しているにすぎず,最終的に得られる表面コーティング
層の表面状態までもが“不連続”でなければならないことを意味するもの
ではない。本件訂正発明1において,最終的に得られる表面コーティング
層の表面状態は,不連続コーティング層のみから形成されるのではなく,
ワンコーティング層と不連続コーティング層の2層から形成される。この
ことは,本件訂正明細書の段落[0033]において「図1に示すように,
…前記インク顔料によって不規則な模様の凹凸状の不連続コーティング層
6をセラミックコーティング層のワンコーティング層とともに形成する」
と記載されていることから明らかである。
したがって,本件訂正発明1において,ワンコーティング層と不連続コ
ーティング層とから形成される表面コーティング層の表面状態は,“不規則
な凹凸状”であれば足り,“不連続”であることは要件ではない。
また,引用発明1では,液状塗料を“霜降り状に塗布”した表面コーテ
ィング層は,塗布時のみならず焼成後においても「霜降り状」であるので
(引用例5頁10欄28行∼33行),その表面状態が「霜の降りたように
白い斑点が“不連続”に散らばっている模様」,すなわち,本件訂正発明1
と同じ「不規則な凹凸状」を形成していることは自明である。
さらに,仮に,本件訂正発明1の表面コーティング層が“不連続”でな
ければならないとしても,本件訂正発明1のコーティング液の塗布条件に
は引用発明1と同じ粘度の液状塗料を用いた同じ塗布密度による塗布条件
が含まれているので,最終的に得られる引用発明1の表面コーティング層
は,当然に本件訂正発明1と同じ,斑点状に塗布した塗膜が下塗装膜層の
所々を露出するように分布している上向きに突出した“不連続な”凹凸層
を含んでいる。
原告は,引用発明1では焼結後は引用例第1図Cの状態になるのであっ
て,凹凸状ではあるものの不連続な層であるとはいえない旨主張するが,
第1図Cのような表面コーティング層の断面図を観察するのみでは,原告
が主張するような斑点状に塗布した塗膜が下塗装膜層の所々を露出するよ
うに分布している“不連続な状態”であるのか,又は斑点状に塗布した塗
膜が下塗装膜層を露出しないように分布している“連続な状態(不連続で
ない状態)”であるのかを識別することはできない。また,仮に断面図のみ
から表面コーティング層の表面状態を識別判断するのであれば,明らかに
連続な層とはいえない引用例の第1図Dも参照すべきである。
また,原告は,本件訂正発明1のインク顔料の不連続コーティング層は,
インク顔料の“粒子”が上向きに突出して不連続層を形成していることは
明らかである旨を主張するが,一般に顔料の粒子径は,0.01∼1μm
又は0.05∼1μm程度であるので,全コーティング層の厚みが20∼
40μm以上(甲20,段落[0028]参照)であるとされる本件訂正発
明1において,インク顔料の粒子のみが表面コーティング層から突出して
不連続に並び凹凸層を形成しているとは考えられない(乙1,2)。
イ本件特許の請求項1には,耐熱塗料が塗布されたワンコーティング層に
対し,インク顔料を含むコーティング液を噴霧器で一回以上噴射して前記
インク顔料を斑点状に塗布することにより,不規則な凹凸状の表面を有す
る,ワンコーティング層と不連続コーティング層からなるコーティング層
を形成することのみが記載されているのであって,加熱工程等の他の製造
条件については何ら記載されていない。そうすると,本件訂正発明1の加
熱工程等の条件には,当然に引用発明1と同じ加熱工程等の条件が含まれ
ている。
仮に,本件訂正発明1と引用発明1の具体的な加熱工程等の条件を考慮
するとしても,下塗装膜層がワンコーティング層ではなくスリーコーティ
ング層である違いがあるものの,本件訂正発明1と同じ不連続コーティン
グ層の加熱工程等の条件は405∼415℃×20分(甲20,段落[00
44])であり,引用発明1の液状塗料の加熱工程等の条件は380∼42
0℃×20∼30分(甲1,3頁6欄17行∼23行)であるので,両発
明の加熱工程等の条件は405∼415℃×20分の範囲で共通する。
ウ本件訂正発明1では,本件訂正明細書の段落[0048]の記載からみて,
下塗装膜層が湿った状態でその上に液状塗料を噴霧して不連続コーティン
グ層を形成することが許容されている。したがって,本件訂正発明1の不
規則な凹凸状の表面コーティング層は,不連続コーティング層単独で得ら
れるのではなく,混合溶融状態にある下塗装膜層と不連続コーティング層
が凝固又は焼結等により相互に強固に結合することにより得られる。すな
わち,本件訂正発明1の耐傷性,耐摩耗性を向上させるという(ア)の効
果は,不連続コーティング層の突出のみならず,下塗装膜層と不連続コー
ティング層が相互に強力に結合して強固な膜を形成するという相乗効果に
よっても発揮されている。
また,引用発明1の表面コーティング層が上向きに突出した“不連続な”
凹凸層を含んでいることは,前述したとおりであり,本件訂正発明1と引
用発明1の表面コーティング層は,上向きに突出した“不連続な”凹凸層
を有することによっても耐傷性,耐摩耗性を発揮している点で共通する。
したがって,本件訂正発明1の耐傷性,耐摩耗性を向上させるという(ア)
の効果は,予測できる範囲のものであるといえる。
(2)取消事由2に対し
原告の主張によれば,本件訂正発明2∼6について独自の構成要件等につ
いての争いはないから,本件訂正発明2∼6についての取消事由2は,実質
的に本件訂正発明1についての取消事由1と同じである。そして,原告主張
の取消事由1に理由がないことは,前述したとおりである。
(3)取消事由3に対し
本件訂正発明8は,下塗装膜層がワンコーティング層ではなくスリーコー
ティング層である違いがあるものの,本件訂正発明1と同じ表面コーティン
グ層を有するものである。そして,本件訂正発明8の表面コーティング層は,
本件訂正発明1の取消事由1で述べたのと同じ理由により,引用発明3の表
面コーティング層と実質的に相違する点がない。
また,本件訂正発明8の耐傷性,耐摩耗性効果は,本件訂正発明1の取消
事由1で述べたのと同じ理由により,引用発明3と同じ態様によって発揮さ
れているから,本件訂正発明8の耐傷性,耐摩耗性を向上させるという(ア)
の効果は,予測できる範囲のものである。
したがって,本件訂正発明1の取消事由1で述べたのと同じ理由により,
本件訂正発明8は,引用発明3であるか,引用発明3及び慣用技術に基づい
て当業者が容易に発明をすることができたものである。
さらに,原告の主張によれば,本件訂正発明9,10について独自の構成
要件等についての争いはないから,本件訂正発明9,10についての取消事
由は,実質的に本件訂正発明8についての取消事由と同じである。そして,
原告主張の本件訂正発明8についての取消事由に理由がないことは,前述し
たとおりである。
(4)取消事由4に対し
本件訂正発明1についての取消事由1と同様に,本件訂正発明の耐傷性,
耐摩耗性効果は,上向きに突出した凹凸層を形成することのみならず,引用
発明と同じ,焼結など下塗装膜層と不連続コーティング層が相互に強力に結
合して強固な膜を形成するという相乗効果によっても発揮されており,その
ため本件訂正発明の耐傷性,耐摩耗性効果は,引用発明と同じ態様によって
発揮されている。
第4当裁判所の判断
1請求原因(1)(特許庁における手続の経緯),(2)(発明の内容),(3)(審決の内容)
の各事実は,当事者間に争いがない。
なお,上記(3)(審決の内容)において認定した本件訂正発明1と引用発明1と
の一致点及び相違点(Ⅰ)∼(Ⅲ)並びに審決における相違点(Ⅰ)及び(Ⅱ)について
の判断も,当事者間に争いがない。
2本件訂正発明の意義
(1)本件訂正後の特許請求の範囲請求項1∼10(請求項7は除く。)の記載は,
前記第3,1(2)のとおりである。また,本件訂正明細書(甲20)の【発明の
詳細な説明】及び本件公報(甲19)の図面には,以下の記載がある。
・【技術分野】
「本発明はワンコーティング層またはスリーコーティング層の表面にイ
ンク顔料を噴射して斑点状のコーティング層を形成した器具,および前
記器具に塗布されるコーティング層の形成方法に係り,より詳しくは,
セラミック塗料または耐熱塗料またはフッ素樹脂塗料のいずれ一つを器
具の表面に塗布して形成されるワンコーティング層上に,インク顔料を
斑点状に塗布して不規則な凹凸状の不連続コーティング層を形成した器
具…に関するものである。」(甲20,段落【0001】)
・【背景技術】
「表面をコートする必要がある一般的な器具の殆どはアルミニウムのよ
うな金属材からなる。以前は金属材のみからなった器具を使用していた
が,このような金属材のみの器具は,厨房用器具の場合,飲食物のよう
なものを調理するとき,またはその以外の場合に,前記器具の表面が掻
かれるなどの問題が発生する。これを防止するため,コーティング液を
表面に塗布してコーティング層を前記表面に形成した器具が開発されて
以来,多様な種類のコーティング液を塗布してなった多様な形態のコー
ティング層が表面に形成された器具が登場することになった。」(甲20,
段落【0002】)
・「そのなかでも,器具の表面にプライマーコート(primercoa
t),ミッドコート(midcoat)およびトップコート(topc
oat)が順に積層されてコーティング層を形成している,いわゆるス
リーコーティング(threecoating)が普遍的に器具に適
用されている。図3に示すように,最近では,一歩進んで,器具10に
形成されたプライマーコート20またはミッドコート30が部分的に乾
燥しているかまたは湿った状態で,相違したスパッターインクを塗布し
て,連続的な小さな球形体からなる不連続コート60を形成し,その上
にトップコート40を塗布することにより,前記不連続コートがスリー
コーティング層50を多色で多様に表現するとともに,その自体が少し
突出して,器具の表面が掻かれることも防止するコーティング層が開発
された。このような器具は厨房器具に代表的に適用されている。」(甲2
0,段落【0003】)
・「しかし,このような形態のコーティングにおいて,スリーコーティング
層に不連続コートを適用する主目的は,反射性顔料によっては容易には
得られない色表現が可能な器具を提供することにあるので,前記のよう
に,不連続コートがプライマーコートとミッドコートとの間に,または
ミッドコードとトップコーとの間に塗布される形態においては,前記ト
ップコートが不連続コートを完全に覆ってしまうから,表面のコーティ
ング層がほぼ平坦な面をなすため,耐傷性をはっきりと発揮することが
できない問題があった。」(甲20,段落【0004】)
・「また,前記のような方式でスリーコーティング層に不連続コートを形成
すると,図3に示すように,例えば厨房器具の場合,あまり広くない表
面積(飲食物が触れる部位)を形成することになるので,飲食物を調理
する時,熱伝逹が均一でなくなり,飲食物が正常に調理されない問題も
あった。」(甲20,段落【0005】)
・【発明が解決しようとする課題】
「本発明は前記のようなコーティング層が形成された器具の問題点を改善
するためになされたもので,器具表面の耐傷性および耐磨耗性をより確
実に発揮し,熱伝逹が均一になるようにし,乱反射による光沢效果をよ
り確実に発揮するように,セラミック塗料または耐熱塗料またはフッ素
樹脂塗料のいずれか一つを塗布し,すなわち器具の表面に形成されるワ
ンコーティング層上にインク顔料を斑点状に塗布して不連続コーティン
グ層を形成するか,あるいはスリーコーティング層のトップコート上に,
またはトップコートがない場合は,ミッドコート上にインク顔料を斑点
状に塗布して不規則的な凹凸状の不連続コーティング層を前記トップコ
ートまたはミッドコートとともに表面のコーティング層として形成した
器具…を提供することが目的である。」(甲20,段落【0006】)
・【発明の効果】
「以上のような目的および構成を有する本発明によるワンコーティング層
またはスリーコーティング層にインク顔料を塗布した器具,および器具
のコーティング層形成方法によれば,スリーコーティング層のトップコ
ート上に噴射されて斑点状に塗布されたインク顔料の不連続コーティン
グ層が上向きに充分に突出しているので,例えば調理器具に適用する場
合,スクラッチ(scratch)現象に耐える耐傷性および耐磨耗性
が向上し,これにより疵が発生しなくなり,よって使用後の器具の掃除
も容易になる。」(甲20,段落【0027】)
・「特に,調理器具の場合,飲食物が触れる表面積が,他の器具に比べて相
対的に増加して熱伝逹が均一になるので,飲食物を均等に煮ておいしく
調理することができる效果もある。」(甲20,段落【0029】)
・「さらに,セラミックコーティング層または耐熱コーティング層またはフ
ッ素樹脂コーティング層のワンコーティング層,またはトップコート上
で直接反射する不連続コーティング層による光沢效果によって,デザイ
ンが高級で美麗な器具を提供することができる利点もある。」(甲20,
段落【0030】)
・【発明を実施するための最良の形態】
「図1に示すように,セラミック塗料を器具1の表面に塗布してセラミッ
クコーティング層のワンコーティング層100を形成し,前記セラミッ
クコーティング層のワンコーティング層100上に,セラミック塗料な
どの,前記ワンコーティング層と同種または異種のインク顔料を含むコ
ーティング液を噴射器で斑点状に塗布して,前記インク顔料によって不
規則な模様の凹凸状の不連続コーティング層6をセラミックコーティン
グ層のワンコーティング層とともに形成する。」(甲20,段落【003
3】)
・「一方,図2に示すように,器具1の表面にプライマーコート201,ミ
ットコート202およびトップコート203が順に塗布され積層されて
スリーコーティング200層が形成され,前記スリーコーティング層の
最上部であるトップコート203上に噴射器でインク顔料を斑点状に塗
布して,前記インク顔料でトップコートと共に不規則な模様の凹凸状の
不連続コーティング層を形成する。」(甲20,段落【0034】)
・「前記セラミックコーティング層のワンコーティング層100上に,また
はスリーコーティング層200のトップコート203上に斑点状に形成
されたインク顔料の不連続コーティング層が上向きに突出している。図
面の拡大断面図は,セラミックコーティング層のワンコーティング層,
またはスリーコーティング層を含んだインク顔料の不連続コーティン
グ層を拡大して示したものであるが,実際には前記セラミックコーティ
ング層のコート厚さと突出するインク顔料の不連続コーティング層厚さ
の和は10μm前後となる。」(甲20,段落【0035】)
・「また,前記セラミックコーティング層または耐熱コーティング層または
フッ素樹脂コーティング層の一つであるワンコーティング層上に分散さ
れて斑点状に塗布されるインク顔料としては,前記ワンコーティング層
を形成するために塗布されるセラミック塗料または耐熱塗料またはフッ
素樹脂塗料と同一種類ないし類似の色相を有する顔料を使用するが,必
ずしもこれに限定されるものではなく,セラミック塗料または耐熱塗料
またはフッ素樹脂塗料と違う種類または色相の顔料を使うこともでき,
必要によって,多数回インク顔料を塗布する場合,塗布されるインク顔
料ごとに違う色相を持たせることにより,斑点状の模様が単色でない多
様な色相を有するようにすることもできる。」(甲20,段落【0040】)
・「まず,第1段階で,コーティング対象器具の表面に,微細なエンボスを
無数に形成するサンドブラスティング(sandblasting)
処理を行うことでその表面積を増大させ,第2段階で,前記サンドブラ
スティング処理された器具の表面をきれいに洗浄し,第3段階で,サン
ドブラスティング処理されて洗浄された器具の表面にワンコーティング
層,またはスリーコーティング層を形成する。すなわち,セラミック塗
料または耐熱塗料またはフッ素樹脂塗料の内から選択した一つの塗料を
15∼25μm厚さに塗布してセラミックコーティング層または耐熱コ
ーティング層またはフッ素樹脂コーティング層の一つであるワンコーテ
ィング層を形成した後,100∼150℃で10∼15分間熱処理する
か,あるいはプライマーコーティング液を10∼12μm厚さに塗布し
てプライマーコートを形成した後,200℃で15分間乾燥し,第4段
階で,器具の表面に塗布されたプライマーコート上にミッドコーティン
グ液を10∼12μm厚さに塗布してミッドコートを形成し,第5段階
で,前記ミッドコートが全く乾燥する前にトップコーティング液を8∼
12μm厚さに塗布してトップコートを形成した後,300∼350℃
で15分間乾燥することにより,スリーコーティング層を完成すること
になる。その次の段階で,ワンコーティング層またはスリーコーティン
グ層の乾燥したトップコート上にインク顔料を含むコーティング液を
噴射して斑点状の不規則模様の凹凸状不連続コーティング層を形成し
た後,405∼415℃で20分間熱処理することになる。」(甲20,
段落【0044】)
・「また,前記コーティング層の形成方法においては,ミッドコートまたは
トップコートが乾燥した状態で不連続コーティング層を形成しているが,
必ずしもこれに限定されるものではなく,場合によっては,前記ミッド
コートまたは前記トップコートが湿った状態で不連続コーティング層を
形成することもできる。このような方法を適用すると,不連続コーティ
ング層の大きさ,すなわち斑点状の突起大きさが,乾燥した状態で塗布
したものより小さくなるので,前記不連続コーティング層の大きさ調節
のために適用することができる。」(甲20,段落【0046】)
・「また,前記コーティング層の形成方法においては,セラミックコーティ
ング層または耐熱コーティング層またはフッ素樹脂コーティング層のワ
ンコーティング層が乾燥した状態で不連続コーティング層を形成するこ
とにより,器具の表面をもっと突出させるが,必ずしもこれに限定され
るものではなく,場合によっては,前記セラミックコーティング層また
は耐熱コーティング層またはフッ素樹脂コーティング層のワンコーティ
ング層が湿った状態で不連続コーティング層を形成することもできる。
このような方法を適用すると,不連続コーティング層の大きさ,すなわ
ち斑点状の突起の大きさが,乾燥した状態で塗布してなるものより低く
なるので,前記不連続コーティング層の大きさを調節するために適用さ
れ,このように湿った状態,つまり湿った状態で斑点状に塗布した場合
には,結果として斑点状突起の突出程度が低くなる。」(甲20,段落【0
048】)
・「また,前記のような方法でコーティング層を形成すると,厨房器具の場
合,図1および図2に示すように,飲食物の触れる表面積が他の場合に
比べて一層増加して,飲食物への熱伝逹が均一で活発になされるので,
飲食物が均等に調理できる。一方,トップコートが不連続コーティング
層を覆っている従来の場合には,前記トップコートで遮られた状態で不
連続コーティング層の反射がなされて光沢效果の発揮が不十分であるが,
本発明においては…耐熱コーティング層…であるワンコーティング層,
またはトップコート上で不連続コーティング層の反射がなされるので,
光沢效果をより確実に発揮することができるものである。」(甲20,段
落【0050】)
・【図1】(甲19)・【図2】(甲19)
(2)上記(1)の記載によれば,従来,コーティング液を表面に塗布してコーテ
ィング層を前記表面に形成した厨房用の器具などは,飲食物の調理などに
際して器具の表面が掻かれるなどの問題が生じるため,連続的な小さな球
形体からなる不連続コートの上にトップコートが塗布されていたが,不連
続コートがプライマーコートとミッドコートとの間に又はミッドコードと
トップコートとの間に塗布される形態であると,トップコートが不連続コ
ートを完全に覆ってしまって表面のコーティング層がほぼ平坦な面をなす
ために,耐傷性を発揮することができず,また,飲食物に触れる表面積が
相対的に小さくなるので飲食物への熱伝逹が均一でなく,さらに,乱反射
による光沢効果を確実に発揮できないという問題点を有していた。
そこで,本件訂正発明は,上記問題点を解決するべく,ワンコーティン
グ層上にインク顔料を斑点状に塗布して前記ワンコーティング層と前記イ
ンク顔料の不連続コーティング層が表面に不規則な凹凸状に形成されるよ
うにする(本件訂正発明1)か,あるいは,スリーコーティング層のトップ
コート上にインク顔料を斑点状に塗布して前記トップコートと前記インク
顔料の不連続コーティング層が表面に不規則な凹凸状に形成させるように
する(本件訂正発明8)ことを課題解決手段とすること,つまり,インク顔
料を斑点状に塗布して形成された不連続コーティング層が上向きに充分に
突出した構成とすることで,器具表面の耐傷性及び耐磨耗性をより確実に
発揮し,熱伝逹が均一になるようにし,さらに,乱反射による光沢效果を
より確実に発揮させる器具を提供したものである。
3引用発明の意義
(1)一方,引用例(甲1)には,以下の記載がある。
・【請求項2】
「高温調理機器の調理面あるいは加熱室壁面等の基材上に形成される皮膜
であって,主成分であるポリチタノカルボシランワニス,耐熱顔料に,フ
ッ素樹脂粉末を添加して有機溶剤で液状にした塗料で下塗装膜層を,基材
上に塗布形成した後に,この下塗装膜層を,室温乾燥あるいは強制乾燥に
よって,有機溶剤を揮発させ或いは半焼成状態にし,この下塗装膜層の上
に,ディスパージョン系のフッ素樹脂の液状塗料を,霜降り状或いは薄く
連続して塗布形成して焼結する高温調理機器用皮膜の形成方法」。
<技術分野>
・「この発明は,電子レンジやオーブントースターなどの加熱室の壁面,ホッ
トプレートや調理鍋等の加熱調理面の基材の上に形成される皮膜の構造及
びこの皮膜の形成方法に関する。」(1頁2欄7∼10行)
<作用>
・「上記皮膜は,下塗装膜層にフッ素樹脂粉末が含有されてセラミック層とな
り,この下塗装膜層が室温乾燥或いは半焼成状態で形成された上に上記デ
ィスパージョン系のフッ素樹脂の液状塗料を塗布するので,セラミック層
とフッ素樹脂皮膜との結合が強くなる。又,フッ素樹脂皮膜は下地のセラ
ミック皮膜層にフッ素樹脂が含有されていることにより,なじみが良く,
非粘着性を確実なものとする。」(3頁5欄30行∼37行)
<実施例>
・「第1図Aは焼成前,第1図B乃至第1図Dは焼結後の断面を示している。
まず,第1図Aを参照して,基板32の上に塗料42が10∼40ミクロン仕上
げになるようにスプレー塗布される。塗料42としては,ポリチタノカルボ
シラン(たとえば宇部興産株式会社製のチラノコート)を結合剤とした有
機溶剤ワニス中に,高温に耐えるFe,Co,Mn,Cr等の金属酸化物または
複合酸化物の耐熱顔料,フッ素樹脂粉末(ヘキストジャパン株式会社のフ
ォスタフロン♯9205),増粘剤,シリコンオイルおよび有機溶剤を混合して
なるものを使用した。…次に,150℃20分の予備乾燥後,或は,室温乾燥
後,ディスパージョン型四フッ化エタノン樹脂のフッ素樹脂の液状塗料(例
えば,ダイキン工業株式会社の商標“シルクウエア”黒色系)を薄く,霜
降り状或は薄く連続して塗布し,室温乾燥或は150℃20分の予備乾燥を経
て,380∼420℃の温度で20∼30分焼結すると,第1図B或いは第1図Cに
示す塗膜が形成される。第1図Bは,連続したディスパージョン型四フッ
化エタノン樹脂塗料を薄く塗布したとき,第1図Cは,霜降り状に薄く塗
布して仕上げた場合の成膜断面構成図である。」(3頁5欄43行∼6欄2
7行)
・「実施例1
前述の一般的配合割合において,フッ素樹脂粉末(ヘキストジャパン社製
ホスタフロン♯9205)を3,6,8,15,20重量%と変化させて,塗料50を形成
した。…フッ素樹脂粉末を含む塗料50を,…10∼40ミクロン仕上げにな
るように塗布した。塗布方法は第2図に示すとおりである。すなわち,基
材32の上に塗料50を吹付けて,常乾又は150℃20分の予備乾燥で,溶剤
分を揮発させたのち,四フツ化エチレン樹脂のディスパージョン型液体塗
料43を薄く霜降り状,或は,薄く連続して塗布する方法である。…次に,
150℃で20分間予備乾燥を行なった後,焼付け硬化を380∼420℃で20分
間行なった。」(4頁7欄43行∼8欄9行)
・「実施例7
第8図を参照して,基材32の調理面を400℃でオイル焼きした後,ショッ
トブラストして凹凸をつけた。得られた粗面54を清掃,清浄した後,粗面
54上にセラミック質のアルミナ−チタニア56を溶射した。その後,ポリ
チタノカルボシランを結合剤にしたアルミニウム粉を混合したシルバー色
の耐熱プライマ塗料58を3∼5ミクロン仕上げになるように塗布した。そ
の後室温で乾燥し,溶剤揮発させた後,フッ素樹脂を含まない塗料52を
10∼15ミクロン仕上げになるように塗布した。その後,室温で乾燥し,フ
ッ素樹脂を8∼15重量%含む塗料50を10∼30ミクロン仕上げになるよう
に塗布し,室温で乾燥又は,150℃20分の強制乾燥で,有機溶剤分を揮発
させた後,四フッ化エチレン樹脂のディスパージョン型液体塗料43を薄く,
霜降り状或は,薄く連続して塗布し,150℃20分の予備乾燥を経て,380∼
420℃の温度で,20∼30分間焼付硬化を行なった。」(5頁9欄33行∼4
9行)
<発明の効果>
・「以上説明したとおり,本発明の皮膜構造によれば,最上層部に非粘着性を
呈する樹脂からなる非粘着性脂(フッ素樹脂)層が,従来法(時として,
セラミック層内部にフッ素粉末が多く埋没する)に比べ,確実に表層に霜
降り状或いは連続して形成されるので,非粘着性において,バラツキを生
じない。又,塗装する設備の違いによる大差も生じない。」(5頁10欄2
8行∼34行)
・「金属,ホーロー仕上げ,セラミック,陶器,磁器などの硬質で,鋭角な傷
付きを起こし易い調理器具,食器などが,たびたび接触しても,ハクリの
起こさない皮膜構造は,前記したフッ素樹脂粉末を添加したセラミック塗
装膜が下にしたことが必須の条件であり,さらに,上塗のディスパージョ
ン型フッ素樹脂塗料の吹付膜が厚くなると,フッ素樹脂本来の柔軟な性質
がでて,鋭利な金属ヘラや,ホーロートレイの接触で高温∼室温条件でハ
クリ,傷付きを起こしてしまう。本発明の場合,10μ以下の霜降り状或は
連続膜にしているので,下塗のフッ素樹脂粉末入セラミック層との相乗効
果で,フッ素樹脂本来の欠点がカバーでき,耐摩耗性,金属ヘラの使える
皮膜となっているので,電子レンジオーブン調理が高温でも,トレイの出
し入れで,皮膜がハクリしない。又,ホットプレートで調理を行い,金属
ヘラを用いても,ハクリを起こさないことが判明した。」(6頁11欄4∼
19行)
・【第1図C】・【第8図】
(2)上記(1)の記載によれば,審決にいう引用発明1は前記第3,1(3)イ記載の
とおりであると認められる(当事者間に争いもない。)が,上記引用例(甲1)
の「…本発明の皮膜構造によれば,最上層部に非粘着性を呈する樹脂からな
る非粘着性脂(フッ素樹脂)層が,…確実に表層に霜降り状或いは連続して
形成されるので,非粘着性において,バラツキを生じない。」(5頁10欄2
8行∼33行)との記載及び,「…本発明の場合,10μ以下の霜降り状或は連
続膜にしているので,下塗のフッ素樹脂粉末入セラミック層との相乗効果で,
フッ素樹脂本来の欠点がカバーでき,耐摩耗性,金属ヘラの使える皮膜とな
っているので,電子レンジオーブン調理が高温でも,トレイの出し入れで,
皮膜がハクリしない。」(6頁11欄12行∼17行)との記載によれば,引用
発明1の高温調理機器(器具)の表面形状には,焼結後においても霜降り状
に皮膜が形成されているので非粘着性や皮膜の剥離防止等において確実な効
果を有することが開示されていると認められるから,引用発明1は,より技
術的に正確には,下記のとおりのものであると認められる。

「主成分であるポリチタノカルボシランワニス,耐熱顔料に,フッ素樹脂粉
末を添加して有機溶剤で液状にした塗料で下塗装膜層を,高温調理機器の調
理表面上に塗布形成した後に,この下塗装膜層の上に,無機顔料を含有する
ディスパージョン系のフッ素樹脂の液状塗料を,霜降り状に塗布形成して焼
結することで得られる霜降り状に形成された皮膜を有する高温調理機器」
(下線部は付加部分)
4取消事由の主張に対する判断
(1)取消事由1(相違点(Ⅲ)についての判断の誤り)について
ア原告は,本件訂正発明1は,「不連続コーティング層(6)」を有するも
のであり,本件公報の図1にも明確に不連続状態のコーティング層が示さ
れ,また,本件訂正明細書の段落[0006],段落[0027]及び段落
[0050]の記載からみても,本件訂正発明1のインク顔料の不連続コ
ーティング層が,インク顔料の粒子が上向きに突出して不連続層を形成し
ていることは明らかである旨主張する。
しかしながら,本件訂正発明1のインク顔料の不連続コーティング層は,
原告主張のようにインク顔料の粒子が上向きに突出して不連続層を形成し
ているのではなく,インク顔料を斑点状にワンコーティング層上に塗布す
ることにより,表面に形成されたインク顔料の集合体からなる塗布膜が,
島状に散らばって形成された不連続なコーティング層となり,表面に不規
則な凹凸状を形成したものであることが認められる。
なぜなら,まず,本件訂正発明1の特許請求の範囲の記載は,「インク顔
料を含むコーティング液を噴霧器で一回以上噴射して前記インク顔料を斑
点状に塗布し,前記ワンコーティング層(100)と前記インク顔料の不
連続コーティング層(6)が表面に不規則な凹凸状に形成され」るもので
あり,インク顔料を含むコーティング液を噴霧器で噴射して塗布して形成
されるコーティング層が,インク顔料の個々の粒子として不連続となるも
のでないことは技術上明らかであるし,文言上も,コーティング層が不連
続とされるのであってインク顔料の粒子が不連続とされるものでもない。
また,本件訂正明細書(甲20)においても,前記2(1)記載のとおり,イン
ク顔料を斑点状に塗布することにより不連続なコーティング層(個々のイ
ンク顔料の粒子ではない。)が形成されることが開示され,その実施例の形
成方法でも,「ワンコーティング層…にインク顔料を含むコーティング液
を噴射して斑点状の不規則模様の凹凸状不連続コーティング層を形成し
た後,405∼415℃で20分間熱処理することになる。」(段落【0
044】)とされるから,その熱処理後のコーティング層は,インク顔料の
集合体からなる塗布膜が島状に散らばって不連続な層を形成することが明
らかである。原告は,本件公報の図1を参照してインク顔料の粒子が離散
的に分布している旨主張するところ,同図の表面拡大図のワンコーティン
グ層(100)上において不連続コーティング層(6)とされる複数の円
状の個体が何を意味するのが技術的には必ずしも明らかではないが,上
記の特許請求の範囲の記載及び本件訂正明細書の記載からみて,インク顔
料の粒子が不連続層を形成しているものでないことは,前述したとおりで
あり,原告の主張を採用することはできない。
イ次に,原告は,引用発明1では,無機顔料を含有するディスパージョン
系のフッ素樹脂の液状塗料を霜降り状に塗布,すなわち不連続に塗布する
ものであるが,その後焼結するという工程を経て最終塗膜を得ているから,
焼結前に上記液状塗料を霜降り状(不連続状)に塗布しているものの,焼
結後は引用例(甲1)6頁第1図Cの状態になるのであって,この状態は不連
続な層であるとはいえないと主張する。
しかしながら,引用発明1においては,熱処理(焼結)の前において液
状塗料が「霜降り状に塗布形成」されるだけでなく,前記3(2)記載のとお
り,引用発明の効果として,焼結後においてもその表面形状に霜降り状に
皮膜が形成されているので,非粘着性や皮膜の剥離防止等において確実な
効果を有することが明細書中に明示されている。引用例6頁第1図Cは,
焼結後の皮膜構造の断面図であり,皮膜が形成されている部分の断面図の
一例と解することができるから,同図に皮膜の霜降り状態(不連続状態)が
開示されていないからといって,前記のとおり,明細書中に開示された焼
結後の表面に霜降り状に皮膜が形成されているという技術事項が否定され
るものではない。したがって,原告の主張を採用することはできない。
そして,「霜降り」とは「霜の降りたように,白い斑点が散らばっている
模様」(広辞苑第4版。甲11)を意味するから,引用発明1において,下
塗装膜層の上に顔料を含有する液状塗料を「霜降り状に塗布形成」した状
態とは,下塗装膜層の上に液状塗料の斑点が散らばったように塗布形成さ
れてなる状態と解され,下塗装膜層と顔料の不連続コーティング層が表面
に形成されてなる状態であるということができる。さらに,下塗装膜層(表
面)上に不連続コーティング層が形成されている状態は,断面方向からみ
れば,下塗装膜層と不連続コーティング層が表面に不規則な凹凸状に形成
された状態であるということもできる。
そうすると,引用発明1は,下塗装膜層と顔料の不連続コーティング層
が表面に不規則な凹凸状に形成された構成を有していると認められ,本件
訂正発明1との間に実質的な相違はないことになる。したがって,審決が
相違点(iii)について実質的な相違点でないとした判断に誤りはない。
ウまた,原告は,審決が「本件訂正発明1と引用発明1とは,同一の製造
方法により得られていることから,当然に,得られたものは同一といえる。」
(33頁下3行∼下1行)と判断したことについて,仮に,斑点状に塗布(本
件訂正発明1)する工程と,霜降り状に塗布(引用発明1)する工程まで
が同一であるとしても,その後の加熱工程等が同一か否かは不明であり,
本件訂正発明1では最終生成物として上向きに突出した不連続な凹凸の層
が形成され,引用発明1では表面は凹凸であるが連続した薄い膜が形成さ
れているから,上記審決の判断は誤りであると主張する。
しかしながら,本件訂正発明1は,塗布工程後の加熱工程等を特定する
ものではないから,この点をもって引用発明1との相違点とすることはで
きない。また,引用発明1の表面に形成されるコーティング層が霜降り状
の不連続なものであることは,前記イで述べたとおりである。したがって,
原告の主張は前提において誤りがあり,これを採用することはできない。
エさらに,原告は,本件訂正発明1の効果として,審決が,「しかしながら,
刊行物1には「本発明の場合,10μ以下の霜降り状或いは連続膜にして
いるので,…(略)…耐摩耗性,金属ヘラの使える皮膜となっているので,
電子レンジオーブン調理が高温でも,トレイの出し入れで,皮膜がハクリ
しない。又,ホットプレートで調理を行い,金属ヘラを用いても,ハクリ
を起こさないことが判明した。」及び「本発明の皮膜構造は,それを上回わ
る完全なものとなり,焦げ付き付着物が完全にとれて,付着物のあとシミ,
汚れが目立たなくなった。」と記載されていることから(摘記1−h),上
記(ア)の効果は予測できる範囲のものであるといえる。」(34頁16行
∼23行)と判断したことについて,引用例(刊行物1)に記載された効果は,
上塗のディスパージョン型フッ素樹脂塗料のフッ素樹脂と下塗のフッ素樹
脂粉末入セラミック層との相乗効果により強固な膜が形成されることによ
り奏されるものであるのに対し,本件訂正発明1の効果は,インク顔料の
突出により耐傷性,耐磨耗性を向上させているものであり,引用発明1と
は明らかに相違しており,「上記(ア)の効果」は予測できる範囲のものと
はいえないから,審決の判断は誤りであると主張する。
しかしながら,原告は,審決における本件訂正発明1と引用発明1との
相違点(i)及び(ii)についての判断を争っておらず,上記ア∼ウで説示したよ
うに,相違点(iii)についての審決の判断に誤りはない。そうすると,本件訂
正発明1は,引用発明1と同一ということになるから(新規性の欠如),引
用発明1は当然,本件訂正発明1と同等の効果を奏すると解され,したが
って,原告主張のように本件訂正発明1の効果が予測できる範囲のものと
いえるかどうかは新規性(特許法29条1項3号)を否定する根拠とはなら
ない。しかも,本件訂正発明1の効果は,インク顔料の不連続コーティン
グ層が表面に不規則な凹凸状を形成することによって奏するものであり,
インク顔料の粒子が突出して不連続層を形成していることによるものでな
いことは,前記アのとおりであるから,この点においても原告の主張は失
当であり,いずれにしても原告の上記主張を採用する余地はない。
(2)取消事由2(本件訂正発明2∼6についての判断の誤り)について
原告は,本件訂正発明1について上記の取消事由1を主張し,特許の登録
要件を満たすものであるから,本件訂正発明1に従属する本件訂正発明2∼
6についても同様に特許の登録要件を満たすと主張するのみであり,本件訂
正発明2∼6について独自の取消事由を主張するものではない。
そして,取消事由1に理由がないことは,前記(1)のとおりであるから,原
告主張の取消事由2も理由がないことに帰する。
(3)取消事由3(本件訂正発明8∼10についての判断の誤り)について
ア原告は,審決の【本件訂正発明8について】の「ウ相違点(iii’)
について」における判断(41頁7行∼26行)を争うが,その理由は,
取消事由1の本件訂正発明1の相違点(Ⅲ)についての認定・判断の誤りに
おいて述べたところと同一であると主張する。
そして,取消事由1に理由がないことは,前記(1)のとおりであるから,
本件訂正発明8についての原告主張の取消事由3も理由がない(なお,引
用例7頁第8図が,焼結後の皮膜構造の断面図であり,皮膜が形成されて
いる部分の断面図の一例と解することができるから,同図に皮膜の霜降り
状態(不連続状態)が開示されていないからといって,明細書中に開示され
た焼結後の表面形状に霜降り状に皮膜が形成されているという技術事項
が否定されるものでないことは,引用例6頁第1図Cに関する前記説示と
同様である。)。
イ原告は,本件訂正発明8について,本件訂正発明1についての上記の取
消事由1を主張し,本件訂正発明8に従属する本件訂正発明9,10につ
いても特許の登録要件を満たすと主張するのみであり,本件訂正発明9,
10について独自の取消事由を主張するものではない。
そして,取消事由1に理由がないことは,前記(1)のとおりであり,本
件訂正発明8についての取消事由3は理由がないから,本件訂正発明9,
10についての取消事由3も理由がない。
(4)取消事由4(請求人の主張に対する判断の誤り)について
原告は,審決の【被請求人の主張について】における判断(43頁12行
∼19行)を争うが,その理由は,取消事由1の本件訂正発明1の相違点(Ⅲ)
についての認定・判断の誤りにおいて述べたところと同一であると主張する。
そして,取消事由1に理由がないことは,前記(1)のとおりであるから,原
告主張の取消事由4も理由がない。
5結論
以上によれば,原告の主張する取消事由は,いずれも理由がなく,本件訂正
発明1及び8が引用発明と同一であるから特許法29条1項3号に該当し,本
件訂正発明1ないし6及び8ないし10が引用発明及び技術常識に基づいて当
業者が容易に発明をすることができたものであるから同法29条2項により特
許を受けることができないとした審決の判断に誤りはない。
よって,原告の請求を棄却することとして,主文のとおり判決する。
知的財産高等裁判所第2部
裁判長裁判官中野哲弘
裁判官清水節
裁判官古谷健二郎

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