弁護士法人ITJ法律事務所

裁判例


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主文
1本件各訴えのうち,別紙主文目録記載の部分をいずれも却下する。
2本件各訴えのその余の部分に係る各事件原告らの請求をいずれも棄却
する。
3訴訟費用は各事件原告らの負担とする。
事実及び理由
第1請求
1第1事件及び第2事件
国土交通大臣が平成18年4月21日にした別紙事業目録記載の各工事に関
する事業認定を取り消す。
2第3事件
東京都収用委員会が,別紙第3事件原告目録1ないし同原告目録3記載の原
告らに対し,平成19年12月27日にした別紙裁決目録記載の各明渡裁決及
び権利取得裁決をいずれも取り消す(ただし,第3事件原告らが取消しを求め
る裁決は,別紙取消しを求める裁決一覧表記載のとおりである。)。
第2事案の概要等
1(1)第1事件及び第2事件は,別紙事業目録記載の各事業につき国土交通大臣
が平成18年4月21日にした上記各事業に係る土地収用法20条に定め
る事業の認定(以下「本件事業認定」という。)について,上記各事業の用
に供するため必要とするとして本件事業認定によって起業者が収用又は使
用をしようとする土地(以下「本件起業地」という。)の所有者,本件起業
地に関して賃貸借による権利(以下「賃借権」という。)を有する者,本件
起業地にある立木の所有者,本件事業認定に係る事業により高尾山の自然環
境及び自らの生活環境に係る人格権又は環境権を侵害される旨主張する者
並びにいわゆる自然保護団体である第1事件原告ら及び第2事件原告らが,
上記各事業の起業者らは当該事業を遂行する充分な能力を有しないととも
に上記各事業には合理性ないし公益性は認められず,かえって,本件事業認
定に係る事業を施行することにより,高尾山の歴史的な自然環境や生態系,
水脈,景観等を破壊するとともに,重大な大気汚染,騒音,振動,低周波空
気振動が発生して周辺住民の健康に重大な影響をもたらし,その生活環境を
破壊するなどの不利益を生じさせるものであることなどから,上記各事業は
同法20条2号から4号までの要件に該当しておらず,また,本件事業認定
に係る手続や上記各事業に係る環境影響評価の手続及び内容に瑕疵があり,
更に本件事業認定は都市計画法及び自然公園法にも違反するなどと主張し
て,本件事業認定の取消しを求める事案である。
(2)第3事件は,東京都収用委員会がした本件起業地に係る権利取得裁決及び
明渡裁決について,上記各裁決の対象となった本件起業地の所有者,当該土
地に関して賃借権を有する者,当該土地にある立木の所有者及び当該土地に
ある立て看板を所有すると主張する者である第3事件原告らが,上記各裁決
には上記(1)に述べた本件事業認定の違法性が承継されるとともに,上記各
裁決の手続及び内容にも固有の違法がある旨主張して,その取消しを求める
事案である。
2関係する法規の定め
(1)土地収用法
ア土地収用法1条は,同法につき,公共の利益となる事業に必要な土地等
の収用又は使用に関し,その要件,手続及び効果並びにこれに伴う損失の
補償等について規定し,公共の利益の増進と私有財産との調整を図り,も
って国土の適正かつ合理的な利用に寄与することを目的とする旨を定める。
イ土地収用法2条は,公共の利益となる事業の用に供するため土地を必要
とする場合において,その土地を当該事業の用に供することが土地の利用
上適正かつ合理的であるときは,この法律の定めるところにより,これを
収用し,又は使用することができる旨を定める。
ウ土地収用法15条の14は,起業者は,同法16条の規定による事業の
認定を受けようとするときは,あらかじめ,国土交通省令で定める説明会
の開催その他の措置を講じて,事業の目的及び内容について,当該事業の
認定について利害関係を有する者に説明しなければならない旨を定める。
エ土地収用法16条は,起業者は,当該事業又は当該事業の施行により必
要を生じた同法3条各号の一に該当するものに関する事業のために土地を
収用し,又は使用しようとするときは,事業の認定を受けなければならな
い旨を定める。
オ土地収用法20条は,国土交通大臣は,申請に係る事業が次のすべてに
該当するときは,事業の認定をすることができる旨を定める。
(ア)事業が土地収用法3条各号の一に掲げるものに関するものであるこ
と(1号)
(イ)起業者が当該事業を遂行する充分な意思と能力を有する者であるこ
と(2号)
(ウ)事業計画が土地の適正かつ合理的な利用に寄与するものであること
(3号)
(エ)土地を収用し,又は使用する公益上の必要があるものであること(4
号)
カ土地収用法23条1項は,国土交通大臣は,事業の認定に関する処分を
行おうとする場合において,当該事業の認定について利害関係を有する者
から同法24条2項の縦覧期間内に国土交通省令で定めるところにより公
聴会を開催すべき旨の請求があったときその他必要があると認めるときは,
公聴会を開いて一般の意見を求めなければならない旨を定める。
キ土地収用法25条1項は,同法24条2項の規定による公告があったと
きは,事業の認定について利害関係を有する者は,同項の縦覧期間内に,
都道府県知事に意見書を提出することができる旨定めるとともに,同法2
5条2項は,都道府県知事は,国土交通大臣が認定に関する処分を行おう
とする事業について,同条1項の規定による意見書を受け取ったときは,
直ちに,これを国土交通大臣に送付し,同法24条2項に規定する期間内
に意見書の提出がなかったときは,その旨を国土交通大臣に報告しなけれ
ばならない旨を定める。
ク土地収用法25条の2第1項本文は,国土交通大臣は,事業の認定に関
する処分を行おうとするときは,あらかじめ社会資本整備審議会の意見を
聴き,その意見を尊重しなければならない旨を定める。
ケ土地収用法26条1項は,国土交通大臣は,同法20条の規定によって
事業の認定をしたときは,遅滞なく,その旨を起業者に文書で通知すると
ともに,起業者の名称,事業の種類,起業地,事業の認定をした理由及び
同法26条の2の規定による図面の縦覧場所を官報で告示しなければなら
ない旨を定める。
コ土地収用法28条の2は,起業者は,同法26条1項の規定による事業
の認定の告示があったときは,直ちに,国土交通省令で定めるところによ
り,土地所有者及び関係人が受けることができる補償その他国土交通省令
で定める事項について,土地所有者及び関係人に周知させるため必要な措
置を講じなければならない旨を定める。
サ土地収用法28条の3第1項は,同法26条1項の規定による事業の認
定の告示があった後においては,何人も,都道府県知事の許可を受けなけ
れば,起業地について明らかに事業に支障を及ぼすような形質の変更をし
てはならない旨定めるとともに,同法28条の3第2項は,都道府県知事
は,土地の形質の変更について起業者の同意がある場合又は土地の形質の
変更が災害の防止その他正当な理由に基づき必要があると認められる場合
に限り,同条1項の規定による許可をするものとする旨を定める。
シ土地収用法35条1項は,同法26条1項の規定による事業の認定の告
示があった後は,起業者又はその命を受けた者若しくは委任を受けた者は,
事業の準備のため又は同法36条1項の土地調書及び物件調書の作成のた
めに,その土地又はその土地にある工作物に立ち入って,これを測量し,
又はその土地及びその土地若しくは工作物にある物件を調査することがで
きる旨を定める。
ス土地収用法36条1項は,同法26条1項の規定による事業の認定の告
示があった後,起業者は,土地調書及び物件調書を作成しなければならな
い旨を定めるとともに,同法36条2項は,同条1項の規定により土地調
書及び物件調書を作成する場合において,起業者は,自ら土地調書及び物
件調書に署名押印し,土地所有者及び関係人(起業者が過失がなくて知る
ことができない者を除く。以下,次のセにおいて同じ。)を立ち会わせた
上,土地調書及び物件調書に署名押印させなければならない旨を定める。
セ土地収用法36条の2は,土地調書及び物件調書の作成手続の特例につ
いて次のとおり定める。
(ア)起業者は,aに掲げる場合にあっては同法36条1項の土地調書を,
bに掲げる場合にあっては同項の物件調書を,それぞれ,同条2項から
6項までに定める手続に代えて,(イ)から(キ)までに定める手続によ
り作成することができる。(1項)
a収用し,又は使用しようとする一筆の土地の所有者及び当該土地
に関して権利を有する関係人(これらの者のうち,起業者が過失が
なくて知ることができない者を除き,一人当たりの補償金の見積額
が最近3年間の権利取得裁決に係る一人当たりの補償金の平均額に
照らして著しく低い額として政令で定める額以下である者に限る。)
が,100人を超えると見込まれる場合
b収用し,又は使用しようとする一筆の土地にある物件に関して権
利を有する関係人(起業者が過失なくて知ることができない者を除
き,一人当たりの補償金の見積額が最近3年間の明渡裁決に係る一
人当たりの補償金の平均額に照らして著しく低い額として政令で定
める額以下である者に限る。)が,100人を超えると見込まれる
場合
(イ)(ア)の規定により土地調書又は物件調書を作成する場合において,
起業者は,自ら土地調書又は物件調書に署名押印した上で,収用し,
又は使用しようとする一筆の土地が所在する市町村の長に対し,国土
交通省令で定めるところにより,土地調書又は物件調書の写しを添付
した申出書を提出しなければならない。(2項)
(ウ)市町村長は,(イ)の申出書を受け取った場合は,直ちに,起業者の
名称,事業の種類及び申出に係る土地又は物件の所在地を公告し,公
告の日から1か月間その書類を公衆の縦覧に供しなければならない。
(3項)
(エ)土地収用法24条4項から6項までの規定は,(ウ)の規定による公
告及び縦覧について準用する。(4項)
(オ)起業者は,(ウ)の規定による公告があったときは,当該公告に係る
土地調書又は物件調書に氏名及び住所が記載されている土地所有者及
び関係人に対し,(ウ)の規定による公告があった旨の通知をしなけれ
ばならない。この場合において,当該通知は,(ウ)の規定による公告
の日から1週間以内に発しなければならない。(5項)
(カ)(ウ)の規定による公告に係る土地調書又は物件調書に記載されてい
る土地所有者及び関係人は,当該土地調書又は物件調書の記載事項が
真実でない旨の異議を有するときは,(ウ)の縦覧期間内に,起業者に
対し,国土交通省令で定めるところにより,その内容を記載した異議
申出書を提出することができる。(6項)
(キ)起業者は,(カ)の異議申出書を受け取ったときは,(ウ)の規定によ
る公告に係る土地調書又は物件調書に当該異議申出書を添付しなけれ
ばならない。(7項)
ソ土地収用法37条1項は,同法36条1項の土地調書には,収用し,又
は使用しようとする土地について,次に掲げる事項を記載し,実測平面図
を添付しなければならない旨を定める。
(ア)土地の所在,地番,地目及び地積並びに土地所有者の氏名及び住所
(1号)
(イ)収用し,又は使用しようとする土地の面積(2号)
(ウ)土地に関して権利を有する関係人の氏名及び住所並びにその権利の
種類及び内容(3号)
(エ)調書を作成した年月日(4号)
(オ)その他必要な事項(5号)
タ土地収用法39条1項は,起業者は,同法26条1項の規定による事業
の認定の告示があった日から1年以内に限り,収用し,又は使用しようと
する土地が所在する都道府県の収用委員会に収用又は使用の裁決を申請す
ることができる旨を定める。
チ(ア)土地収用法40条1項は,起業者は,同法39条の規定によって収
用委員会の裁決を申請しようとするときは,国土交通省令で定める様
式に従い,裁決申請書に次に掲げる書類を添付して,これを収用委員
会に提出しなければならない旨を定める。
a事業計画書並びに起業地及び事業計画を表示する図面(1号)
b市町村別に次に掲げる事項を記載した書類(2号)
(a)収用し,又は使用しようとする土地の所在,地番及び地目(イ)
(b)収用し,又は使用しようとする土地の面積(土地が分割されるこ
とになる場合においては,その全部の面積を含む。)(ロ)
(c)土地を使用しようとする場合においては,その方法及び期間(ハ)
(d)土地所有者及び土地に関して権利を有する関係人の氏名及び住所
(ニ)
(e)土地又は土地に関する所有権以外の権利に対する損失補償の見積
り及びその内訳(ホ)
(f)権利を取得し,又は消滅させる時期(ヘ)
c土地収用法36条1項の土地調書又はその写し(3号)
(イ)土地収用法40条2項は,同条1項2号ニ((ア)b(d)参照)に掲げ
る事項に関して起業者が過失がなくて知ることができないものについ
ては,同項の規定による申請書の添付書類に記載することを要しない
旨を定める。
ツ土地収用法46条2項は,収用委員会は,審理を開始する場合において
は,起業者,同法40条1項の規定による裁決申請書の添付書類に記載さ
れている土地所有者及び関係人並びに同法43条又は87条ただし書の規
定によって意見書を提出した者に,あらかじめ審理の期日及び場所を通知
しなければならない旨を定める。
テ土地収用法47条は,収用又は使用の裁決の申請が次に述べる場合に該
当するときその他同法の規定に違反するときは,収用委員会は,裁決をも
って申請を却下しなければならない旨を定める。
(ア)申請に係る事業が土地収用法26条1項の規定によって告示された
事業と異なるとき(1号)
(イ)申請に係る事業計画が土地収用法18条2項1号の規定によって事
業認定申請書に添付された事業計画書に記載された計画と著しく異な
るとき(2号)
ト土地収用法47条の2第1項は,収用委員会は,同法47条の規定によ
って申請を却下する場合を除くの外,収用又は使用の裁決をしなければな
らない旨を定めるとともに,同法47条の2第2項は,収用又は使用の裁
決は,権利取得裁決及び明渡裁決とする旨を定める。
ナ(ア)土地収用法48条1項1号は,権利取得裁決においては,収用する
土地の区域又は使用する土地の区域並びに使用の方法及び期間につい
て裁決しなければならない旨を定めるとともに,同項2号は,権利取
得裁決においては,土地又は土地に関する所有権以外の権利に対する
損失の補償について裁決しなければならない旨を定める。
(イ)土地収用法48条4項本文は,収用委員会は,同条1項2号に掲げ
る事項については,同条3項の規定によるのほか,当該補償金を受け
るべき土地所有者及び関係人の氏名及び住所を明らかにして裁決しな
ければならない旨定めるとともに,同条4項ただし書は,土地所有者
又は関係人の氏名又は住所を確知することができないときは,当該事
項については,この限りでない旨を定める。
ニ土地収用法49条2項は,明渡裁決につき,同法48条1項2号に掲げ
るものを除くその他の損失の補償について,同法48条4項を準用する旨
を定める。
ヌ(ア)土地収用法52条3項は,収用委員会の委員及び予備委員は,法律,
経済又は行政に関して優れた経験と知識を有し,公共の福祉に関し公
正な判断をすることができる者のうちから,都道府県の議会の同意を
得て,都道府県知事が任命する旨を定める。
(イ)土地収用法52条4項は,収用委員会の委員及び予備委員は,地方
公共団体の議会の議員又は地方公共団体の長若しくは常勤の職員若し
くは地方公務員法28条の5第1項に規定する短時間勤務の職を占め
る職員と兼ねることができない旨を定める。
ネ(ア)土地収用法63条1項は,起業者,土地所有者及び関係人は,同法
40条1項の規定によって提出された裁決申請書の添付書類又は同法
43条1項の規定によって提出し,若しくは受理された意見書に記載
された事項については,同法65条1項1号の規定によって意見書の
提出を命ぜられた場合又は同条2項に規定する場合を除いては,これ
を説明する場合に限り,収用委員会の審理において意見書を提出し,
又は口頭で意見を述べることができる旨を定める。
(イ)土地収用法63条2項は,起業者,土地所有者及び関係人は,損失
の補償に関する事項については,収用委員会の審理において,新たに
意見書を提出し,又は口頭で意見を述べることができる旨を定める。
(ウ)土地収用法63条3項は,起業者,土地所有者及び関係人は,事業
の認定に対する不服に関する事項その他の事項であって,収用委員会
の審理と関係がないものを同条1項及び2項の規定による意見書に記
載し,又は収用委員会の審理と関係がない事項について口頭で意見を
述べることができない旨を定める。
ノ(ア)土地収用法64条1項は,収用委員会の審理の手続は,会長又は同
法60条の2第1項の規定により委任を受けた委員(以下「指名委員」
という。)が指揮する旨を定める。
(イ)土地収用法64条2項は,会長又は指名委員は,起業者,土地所有
者及び関係人が述べる意見,申立て,審問その他の行為が既に述べた
意見又は申立てと重複するとき,裁決の申請に係る事件と関係がない
事項にわたるときその他相当でないと認めるときは,これを制限する
ことができる旨を定める。
ハ土地収用法77条は,収用し,又は使用する土地に物件があるときは,
その物件の移転料を補償して,これを移転させなければならない旨及びこ
の場合において,物件が分割されることとなり,その全部を移転しなけれ
ば従来利用していた目的に供することが著しく困難となるときは,その所
有者は,その物件の全部の移転料を請求することができる旨を定める。
ヒ土地収用法79条は,同法77条の場合において,移転料が移転しなけ
ればならない物件に相当するものを取得するのに要する価格を超えるとき
は,起業者は,その物件の収用を請求することができる旨を定める。
フ土地収用法80条は,同法79条の規定によって物件を収用する場合に
おいて,収用する物件に対しては,近傍同種の物件の取引価格等を考慮し
て,相当な価格をもって補償しなければならない旨を定める。
ヘ土地収用法101条1項本文は,土地を収用するときは,権利取得裁決
において定められた権利取得の時期において,起業者は,当該土地の所有
権を取得し,当該土地に関するその他の権利並びに当該土地又は当該土地
に関する所有権以外の権利に係る仮登記上の権利及び買戻権は消滅し,当
該土地又は当該土地に関する所有権以外の権利に係る差押え,仮差押えの
執行及び仮処分の執行はその効力を失う旨を定める。
ホ土地収用法102条は,明渡裁決があったときは,当該土地又は当該土
地にある物件を占有している者は,明渡裁決において定められた明渡しの
期限までに,起業者に土地若しくは物件を引き渡し,又は物件を移転しな
ければならない旨を定める。
マ土地収用法132条2項は,収用委員会の裁決についての審査請求にお
いては,損失の補償についての不服をその裁決についての不服の理由とす
ることができない旨を定める。
ミ土地収用法133条2項は,収用委員会の裁決のうち損失の補償に関す
る訴えは,裁決書の正本の送達を受けた日から6月以内に提起しなければ
ならない旨定めるとともに,同条3項は,前項の規定による訴えは,これ
を提起した者が起業者であるときは土地所有者又は関係人を,土地所有者
又は関係人であるときは起業者を,それぞれ被告としなければならない旨
定める。
ムなお,土地収用法の一部を改正する法律案(平成13年法律第103号
に係るもの)は,衆議院において平成13年6月15日に,参議院におい
て同月29日にそれぞれ可決され成立したところ,衆議院国土交通委員会
の議決に際して,その運用に関する留意事項について,おおむね次の内容
の附帯決議が行われた。また,参議院国土交通委員会の議決に際しても同
様の附帯決議がされ,その内容として,「事前説明会については,開催期
日等の十分な周知を図るとともに,起業者と利害関係人との間の質疑応答
を実施するなど,実効性のあるものとするよう努めること」(6項)とい
うものも含まれていた。(甲J37の3及び5,乙I2,乙J30)
(ア)社会資本整備審議会のうち,事業認定の審議に携わる委員について
は,法学界,法曹界,都市計画,環境,マスコミ,経済界等の分野か
らバランスよく人選するとともに,事業推進の立場にある中央官庁の
OBの任命は原則として行わないこととし,事業認定の中立性,公正
性等の確保に努めること(1項)
(イ)事業認定の審議に当たっては,当該事業に利害関係を有する委員は
当該審議に関わらないようにするなど厳格な運用を行い,事業認定の
中立性,公正性等の確保に努めること(2項)
(ウ)公聴会については,その透明性を高めるため,開催に当たっては,
開催期日・場所等について事前に十分な周知を図るとともに,議事録
の公開など情報公開の徹底に努めること(3項)
(エ)公聴会が形がい化することのないよう,公聴会で述べられた住民等
の意見は第三者機関に適切に伝えるとともに,公述人相互の間で質疑
が行えるような仕組みとするなど,住民意見の吸収の場という公聴会
の本来の役割を果たすよう,規則改正を含め必要な措置を講ずること
(4項)
(オ)事業認定判断の透明性等の向上を図るという法改正の趣旨を踏まえ,
改正法の公布後に事業認定申請された事業については,公聴会の義務
的開催など改正法の内容を踏まえた運用を図ること(5項)
(2)都市計画法(平成11年法律第87号による改正前のもの。以下,特に付
記しない場合は同じ。)
ア都市計画法16条1項は,都道府県知事又は市町村は,同条2項の規定
による場合を除くのほか,都市計画の案を作成しようとする場合において
必要があると認めるときは,公聴会の開催等住民の意見を反映させるため
に必要な措置を講ずるものとする旨定める。
イ(ア)都市計画法17条1項は,都道府県知事又は市町村は,都市計画を
決定しようとするときは,あらかじめ,建設省(当時)令で定めると
ころにより,その旨を公告し,当該都市計画の案を,当該公告の日か
ら2週間公衆の縦覧に供しなければならない旨を定める。
(イ)都市計画法17条2項は,同条1項の規定による公告があったとき
は,関係市町村の住民及び利害関係人は,同項の縦覧期間満了の日ま
でに,縦覧に供された都市計画の案について,都道府県知事の作成に
係るものにあっては都道府県知事に,市町村の作成に係るものにあっ
ては市町村に,意見書を提出することができる旨を定める。
ウ都市計画法18条1項は,都道府県知事は,関係市町村の意見を聴き,
かつ,都市計画地方審議会の議を経て,都市計画を決定するものとする旨
を定める。
(3)自然公園法(平成21年法律第47号による改正前のもの。以下同じ。)
ア自然公園法13条3項本文は,国定公園の特別地域(当該公園の風致を
維持するため,公園計画に基づいて指定された地域)内においては,工作
物を新築し,改築し,又は増築すること等の行為は,都道府県知事の許可
を受けなければ,してはならない旨を定める。
イ自然公園法56条1項は,国の機関が行う行為については,同法13条
3項の規定による許可を受けることを要しない旨定めるとともに,この場
合において当該国の機関は,その行為をしようとするときは,あらかじめ,
国定公園にあっては都道府県知事に協議しなければならない旨を定める。
(4)生物の多様性に関する条約8条(a)は,同条約の締約国は,可能な限り,か
つ,適当な場合には,保護地域又は生物の多様性を保全するために特別の措
置をとる必要がある地域に関する制度を確立することを行う旨を定める。
(5)平成10年条例第107号による改正前の東京都環境影響評価条例(以下
「平成10年改正前の東京都環境影響評価条例」という。)(乙3の3)
ア平成10年改正前の東京都環境影響評価条例28条は,東京都知事は,
平成10年改正前の東京都環境影響評価条例27条1項の規定による変更
の届出があった対象事業について当該届出前に平成10年改正前の東京都
環境影響評価条例による手続の一部又は全部が完了している場合において,
当該変更が環境に著しい影響を及ぼすおそれがあると認めるときは,当該
事業者に対し,既に完了している手続の全部又は一部を再度実施するよう
求めるものとする旨を定める。
イ平成10年改正前の東京都環境影響評価条例29条は,東京都知事は,
事業者が平成10年改正前の東京都環境影響評価条例24条1項の縦覧期
間が満了した日から5年を経過した後当該対象事業に係る工事に着手しよ
うとする場合において,関係地域の状況が当該縦覧期間満了のときと比較
して著しく異なっていることにより環境の保全上必要があると認めるとき
は,当該事業者に対し,既に完了している手続の全部又は一部を再度実施
するよう求めるものとする旨を定める。
(6)平成14年条例第127号による改正前の東京都環境影響評価条例(以下
「平成14年改正前の東京都環境影響評価条例」という。)(乙3の3)
ア平成14年改正前の東京都環境影響評価条例36条は,東京都知事は,
平成14年改正前の東京都環境影響評価条例35条1項の規定による変更
の届出があった対象事業について,当該変更が環境に著しい影響を及ぼす
おそれがあると認めるときは,東京都環境影響評価審議会の意見を聴いた
上で,当該事業者に対し,既に完了している手続の全部又は一部を再度実
施するよう求めるものとする旨を定める。
イ平成14年改正前の東京都環境影響評価条例37条は,東京都知事は,
事業者が平成14年改正前の東京都環境影響評価条例32条1項の縦覧期
間が満了した日から5年を経過した後当該対象事業に係る工事に着手しよ
うとする場合において,関係地域の状況が当該縦覧期間満了のときと比較
して著しく異なっていることにより環境の保全上必要があると認めるとき
は,当該事業者に対し,既に完了している手続の全部又は一部を再度実施
するよう求めるものとする旨を定める。
(7)東京都環境影響評価条例(乙3の3,乙I5)
ア東京都環境影響評価条例1条は,同条例につき,環境影響評価及び事後
調査の手続に関し必要な事項を定めることにより,計画の策定及び事業の
実施に際し,公害の防止,自然環境及び歴史的環境の保全,景観の保持等
について適正な配慮がなされることを期し,もって都民の健康で快適な生
活の確保に資することを目的とする旨を定める。
イ東京都環境影響評価条例62条1項本文は,事業者は,同条例40条1
項の規定により調査計画書を提出してから(同条例25条及び40条4項
の規定の適用を受けた場合にあっては同条例48条の規定により評価書案
等を提出してから,同条例33条4項の規定の適用を受けた場合にあって
は同条例35条において準用する同条例24条の規定により書面を提出し
てから)同条例68条1項の規定による工事完了の届出がなされるまでの
間に,同条例40条1項1号若しくは2号に掲げる事項を変更しようとす
るとき,又は対象事業の実施を中止し,若しくは廃止しようとするときは,
東京都規則で定めるところにより,その旨を知事に届け出なければならな
い旨を定める。
ウ東京都環境影響評価条例63条は,東京都知事は,同条例62条1項の
規定による変更の届出があった対象事業について,当該変更が環境に著し
い影響を及ぼすおそれがあると認めるときは,東京都環境影響評価審議会
の意見を聴いた上で,当該事業者に対し,既に完了している手続の全部又
は一部を再度実施するよう求めるものとする旨を定める。
エ東京都環境影響評価条例64条は,東京都知事は,事業者が同条例59
条1項の縦覧期間が満了した日から5年を経過した後当該対象事業に係る
工事に着手しようとする場合において,関係地域の状況が当該縦覧期間満
了のときと比較して著しく異なっていることにより環境の保全上必要があ
ると認めるときは,当該事業者に対し,既に完了している手続の全部又は
一部を再度実施するよう求めるものとする旨を定める。
3前提となる事実(各項の末尾に掲記した証拠若しくは弁論の全趣旨により容
易に認定することができる事実又は当裁判所に顕著な事実)
(1)原告ら
ア(ア)別紙第1事件第1原告目録記載の各原告は,平成19年12月27
日当時,本件事業認定によって起業者が収用又は使用をしようとする
分筆前の東京都八王子市(以下,市町を表示する際には都県名は省略
する。)α1町×番4の土地(以下「旧×番4の土地」という。),
分筆前の八王子市α1町×番7の土地(以下「旧×番7の土地」とい
う。),分筆前の八王子市α1町××番の土地(以下「旧××番の土
地」という。),分筆前の八王子市α2町×××番の土地(以下「旧
×××番の土地」という。)又は八王子市α3町△番の土地(以下「△
番の土地」という。)に関して所有権(共有による持分権を含む。以
下同じ。)を有していた者である。なお,上記各原告が所有権を有し
ていた土地は,上記目録の「土地所有権のある場所」欄記載のとおり
である。(甲A1の1,甲A1の2,甲A1の3,甲A1の7,甲A
1の8)
(イ)別紙第2事件原告目録1記載の各原告(以下,別紙第1事件第1原
告目録記載の各原告と併せて「第1原告ら」と総称する。)は,平成
19年12月27日当時,本件事業認定によって起業者が収用又は使
用をしようとする旧×××番の土地又は△番の土地に関して所有権を
有していた者である。なお,上記各原告が所有権を有していた土地は,
別紙第2事件原告目録1の「土地所有権のある場所」欄記載のとおり
である。(甲A1の7,甲A1の8)
イ別紙第1事件第2原告目録記載の各原告(以下「第2原告ら」と総称す
る。)は,平成19年12月27日当時,本件事業認定によって起業者が
収用又は使用をしようとする旧×番4の土地及び旧×番7の土地に関して
賃借権を有していた者である。(甲A2の1ないし3)
ウ別紙第1事件第3原告目録記載の各原告(以下「第3原告ら」と総称す
る。)は,平成19年12月27日当時,本件事業認定によって起業者が
収用又は使用をしようとする旧×番7の土地にある立木に関して所有権を
有していた者である。(甲A3の1ないし5)
エ別紙第1事件第4原告目録及び別紙第2事件原告目録2記載の各原告
(以下「第4原告ら」と総称する。)は,本件事業認定に係る事業の施行
により破壊される危険のある高尾山の自然環境並びに自らの生活環境に係
る人格権及び環境権を有すると主張する者である。
オ別紙第1事件第5原告目録及び別紙第2事件原告目録3記載の各原告
(以下「第5原告ら」と総称する。)は,高尾山の自然を保護すること等
を目的とする自然保護団体である。(甲A4の1ないし18,甲A5の1
ないし9,甲A6の1ないし18,甲A7の1ないし13,甲A8の1な
いし9(枝番を含む。),甲A9の1ないし21(枝番を含む。),甲A
10の1ないし6,甲A11の1・2)
(2)ア一般国道468号(一般有料道路「首都圏中央連絡自動車道」)(以下
「圏央道」という。)は,①横浜市,厚木市,八王子市,青梅市,川越市,
つくば市,成田市,木更津市等の東京都心から約40キロメートルないし
60キロメートル圏に位置する都市を相互に連絡することにより,地域間
の交流を拡大し,地域経済及び地域産業の活性化を促すこと,②首都圏か
ら放射状に伸びる高速自動車国道である第一東海自動車道(以下「東名高
速道」という。),中央自動車道富士吉田線,関越自動車道新潟線(以下
「関越自動車道」という。),東北縦貫自動車道弘前線,常磐自動車道,
東関東自動車道水戸線及び同自動車道千葉富津線を相互に連絡すること
により,都心部への自動車交通の集中による交通混雑を緩和すること,③
都心部への一極依存構造から業務核都市等を中心にした自立性の高い地
域を形成し,相互の機能分担と連携,交流を行う分散型ネットワーク構造
への再編整備による首都圏全体の調和のとれた発展に貢献すること等を
目的に計画された総延長約300キロメートルの環状道路である。
なお,東京圏においては,圏央道,東京外かく環状道路(以下「外かく
環状道」という。)及び首都高速道路中央環状線(以下「中央環状線」と
いう。)の3本の環状道路(以下「首都圏3環状道路」という。)と上記
各高速自動車国道に東京湾岸道路及び第三京浜道路を加えた9本の放射
道路(以下「9放射道路」という。)を結ぶ3環状9放射道路の整備が進
められている。(乙1,乙2の1・2,乙H31)
イ圏央道が通過する海老名市から八王子市へ至る間の幹線道路としては,
一般国道16号(起点:横浜市,経由:八王子市,川越市,木更津市等,
終点:横浜市),一般国道129号(起点:平塚市,経由:厚木市等,
終点:相模原市),一般国道246号(起点:東京都千代田区,経由:
横浜市,厚木市等,終点:沼津市)等があるところ,圏央道に係る事業
のうち,海老名市α4地内の東名高速道との接続点である海老名北イン
ターチェンジ(仮称。以下「海老名北インターチェンジ」という。)か
ら,後記ウで述べる八王子市α1町地内の中央自動車道富士吉田線との
接続点(八王子ジャンクション)(以下「八王子ジャンクション」とい
う。)までの間を結ぶ延長約27キロメートルの区間(以下「本件圏央
道事業区間」という。)を全体計画区間として,道路構造令に定める第
1種第3級又は第1種第2級の規格による4車線の一般有料の自動車専
用道路の新設工事(以下「本件圏央道事業」という。)が計画されてお
り,現在,起業者である国土交通大臣及び参加人X1株式会社(以下「起
業者ら」という。)により,平成24年度に供用を開始することを目途
に整備が進められている。(乙1)
ウ中央自動車道富士吉田線(起点:東京都杉並区,終点:富士吉田市)
は,現在,高井戸インターチェンジから河口湖インターチェンジまでの
全線約94キロメートルが供用されており,既に供用されている中央自
動車道西宮線,同長野線及び東名高速道と連絡しているところ,この中
央自動車道富士吉田線と圏央道とを連結させ,中央自動車道富士吉田線
から都心部へ流入する交通を分散及びう回させることにより,外かく環
状道,中央環状線及び中央自動車道富士吉田線以外の9放射道路と一体
となって機能させ,都心部の交通混雑の緩和と自動車交通の利便性の向
上を図ることを目的として,八王子市α1町地内において,八王子ジャ
ンクションの新設工事(以下「本件八王子ジャンクション事業」という。)
が計画され,現在,平成23年度に供用を開始することを目途に参加人
X1株式会社により整備が進められている。なお,八王子ジャンクショ
ンは,ランプ数8本のループ式であり,地上(現道)からの高さが最大
約70メートル,東西の長さが約1800メートル,南北の長さが約9
00メートル,ランプの総延長が約4800メートルである。(乙1,
乙H48)
エ一般国道20号は,東京都中央区を起点とし,八王子市,相模原市,
甲府市などを経て,塩尻市に至る延長約225キロメートルの主要幹線
道路であるところ,八王子市における一般国道20号の交通混雑等に対
処する目的で,八王子市α5町地内の一般国道16号(八王子バイパス)
との接続部から同市α3町地内の一般国道20号との接続部までの間を
結ぶ延長9.6キロメートルの区間(以下「本件八王子南バイパス事業
区間」という。)を全体計画区間として,道路構造令に定める第4種第
1級の規格による4車線の道路の改築工事(以下「本件八王子南バイパ
ス事業」という。)が計画され,現在,起業者である国土交通大臣によ
り,平成29年3月の完成を目途に整備が進められている(乙1,乙2
の3。なお,以下,本件圏央道事業,本件八王子ジャンクション事業及
び本件八王子南バイパス事業を併せて「本件各事業」といい,前2者を
併せて「本件圏央道事業等」という。また,本件圏央道事業区間,本件
八王子ジャンクション事業に係る事業区間及び本件八王子南バイパス事
業に係る事業区間を併せて「本件各事業区間」という。)。
(3)ア起業者らは,平成17年9月28日付けで,本件圏央道事業に関し,
本件圏央道事業区間のうち海老名市α4地内に設置される海老名北イン
ターチェンジから八王子市α3町地内に設置される八王子南インターチ
ェンジ(仮称。以下「八王子南インターチェンジ」という。)までの区
間は用地取得スケジュール及び供用時期に大きな差があるとして,上記
区間を除外した八王子南インターチェンジから同市α1町地内に設置さ
れる八王子ジャンクションまでの延長約2.1キロメートルの区間につ
いて,事業の認定の申請をした。(乙1,乙3の1)
イ参加人X1株式会社は,平成17年9月28日付けで,本件八王子ジャ
ンクション事業のうち中央自動車道富士吉田線と圏央道とを連結するた
めの分合流部周辺であり一体的に施行する必要があるとされる八王子市
α1町内の区間について,事業の認定の申請をした。(乙1)
ウ国土交通大臣は,平成17年9月28日付けで,本件八王子南バイパス
事業に関し,本件八王子南バイパス事業区間のうち八王子市α5町地内の
一般国道16号(八王子バイパス)との接続部から同市α6町地内の主要
地方道八王子町田線(町田街道)との交差部までの区間は用地取得スケジ
ュール及び供用時期に大きな差があるとして,上記区間を除外した主要地
方道八王子町田線(町田街道)との交差部から同市α3町地内の一般国道
20号との接続部までの延長約2.6キロメートルの区間について,事業
の認定の申請をした。(乙1,乙3の1)。
(4)ア起業者らは,(3)に記載した事業の認定の申請に先立つ平成17年7月
22日,土地収用法15条の14に基づき,本件各事業の目的及び内容に
ついて,本件事業認定につき利害関係を有する者に対する説明会(以下「本
件事前説明会」という。)を開催した。(乙1,乙4の1の1ないし3,
乙4の2の1・2,乙4の3)
イ国土交通大臣は,平成17年9月28日,土地収用法24条1項に基づ
き,本件起業地が所在する市の長である八王子市長に対し,本件各事業に
係る事業認定申請書及びその添付書類の各写しを送付し,また,同日,同
条3項に基づき,本件起業地を管轄する東京都知事にその旨を通知し,事
業認定申請書及びその添付書類の各写しを送付した。(乙5の1・2)
ウ八王子市長は,平成17年10月5日,土地収用法24条2項に基づき,
本件各事業について,起業者の名称,事業の種類及び起業地等を公告する
とともに,公告の日から同月19日までの2週間,八王子市役所で上記の
事業認定申請書及びその添付書類の各写しを公衆の縦覧に供した。(乙5
の3ないし5)
エ東京都知事は,上記縦覧期間内に土地収用法25条1項に基づき同知事
に提出された意見書及び同期間満了後に提出された意見書を国土交通大
臣に送付した。(乙5の5)
オ国土交通大臣は,平成17年10月20日,本件各事業につき,土地収
用法23条1項に基づく公聴会を開催するため,同条2項及び土地収用法
施行規則6条に基づき,起業者の名称,事業の種類及び起業地並びに公聴
会の期日及び場所等の公告(新聞紙による公告)をし,同年11月17日
に八王子市民会館において,同月19日及び20日に八王子市芸術文化会
館において,それぞれ公聴会(以下「本件公聴会」という。)を開催した。
なお,国土交通大臣は,同規則12条に基づき作成した公聴会の記録(速
記録)を国土交通省のウェブサイトに掲載し,これを公表した。(乙6の
1の1・2,乙6の2,乙6の3)
カ国土交通大臣は,本件各事業について,土地収用法20条各号に定める
要件のすべてに該当すると認め,事業の認定をすべきであると判断し,平
成18年2月13日,同法25条の2第1項に基づき,社会資本整備審議
会の意見を求めたところ,同審議会は,同年4月7日,国土交通大臣に対
し,本件各事業の事業の認定をすべきであるとする国土交通大臣の判断を
相当と認める旨の同審議会公共用地分科会(以下「公共用地分科会」とい
う。)の意見をもって同審議会の意見とすることが相当と認め,その旨を
記載した意見書を提出した。なお,国土交通大臣は,公共用地分科会の議
事要旨を国土交通省のウェブサイトに掲載し,これを公表した。(乙7の
1・2,乙8)
キ国土交通大臣は,平成18年4月21日,本件事業認定をするとともに,
同日,土地収用法26条1項に基づき,本件事業認定につき告示した。(乙
8,乙9の1の1・2,乙9の2)
ク国土交通大臣は,平成18年4月21日,土地収用法26条3項に基づ
き,本件事業認定につき告示した旨を東京都知事に通知するとともに,同
法26条の2第1項に基づき,本件事業認定をした旨を八王子市長に通知
した。上記通知を受けた八王子市長は,同条2項に基づき,起業地を表示
する図面を公衆の縦覧に供した。(乙10の1ないし3)
(5)環境影響評価について
ア東京都知事は,昭和63年12月,圏央道に係る都市計画の決定の手続
をするに当たり,環境影響評価(以下「本件環境影響評価1」という。)
を行った。本件環境影響評価1の対象となった事業は,八王子市α3町(一
般国道20号)から青梅市α7(埼玉県境)までの約22.5キロメート
ルの区間であり,その中に高尾山トンネル(仮称。以下「高尾山トンネル」
という。)が含まれている。(乙3の3,乙13の11)
イ東京都知事は,平成8年12月,圏央道に係る都市計画の決定の手続を
するに当たり,環境影響評価(以下「本件環境影響評価2」という。)を
行った。本件環境影響評価2の対象となった事業は,八王子市α3町(神
奈川県境)から同町(一般国道20号付近)までの約2.5キロメートル
の区間であり,その中に八王子南インターチェンジの橋りょう工事が含ま
れている。(乙3の3,乙13の8)
ウ東京都知事は,平成8年12月,本件八王子南バイパス事業に係る都市
計画の決定の手続をするに当たり,環境影響評価(以下「本件環境影響評
価3」といい,本件環境影響評価1ないし本件環境影響評価3を併せて「本
件各環境影響評価」という。)を行った。(乙3の5,乙13の14)
(6)本件各事業に係る都市計画の変更の決定(以下「本件都市計画変更決定」
と総称する。)について
ア東京都知事は,本件圏央道事業等のうち八王子市α3町,同α2町及び
同α1町地内の区間について,平成元年3月13日,都市計画法21条2
項(平成2年法律第61号による改正前のもの),同法18条1項に基づ
いて都市計画の変更をした。なお,同法17条1項に基づく都市計画の案
の公告がされたのは,昭和61年7月である。(乙3の2,乙3の3)
イ東京都知事は,本件圏央道事業等のうち八王子市α3町及び同α2町地
内の区間について,平成9年2月24日,都市計画法21条2項,同法1
8条1項に基づいて都市計画の変更をした。なお,同法17条1項に基づ
く都市計画の案の公告がされたのは,平成7年3月である。(乙3の2,
乙3の3,乙3の5)
ウ東京都知事は,本件八王子南バイパス事業について,平成9年2月24
日,都市計画法21条2項,同法18条1項に基づいて都市計画の変更を
した。なお,同法17条1項に基づく都市計画の案の公告がされたのは,
平成7年3月である。(乙3の2,乙3の5)
(7)権利取得裁決等について
ア(ア)別紙第3事件原告目録1記載の原告らは,平成19年12月27日
当時,別紙物件目録記載4ないし6の土地(以下,別紙物件目録記載
1ないし7の土地について「本件土地1」ないし「本件土地7」とい
い,本件土地1ないし本件土地7を併せて「本件各土地」という。)
のうち,別紙第3事件原告目録1の「所有権東京都八王子市」欄記
載の土地に関して所有権を有していた。(争いのない事実)
(イ)別紙第3事件原告目録2記載の原告らは,平成19年12月27日
当時,本件土地1ないし本件土地3に関して賃借権を有していた。
(争いのない事実)
(ウ)別紙第3事件原告目録3記載の各原告のうち原告X2,原告X3,
原告X4,原告X5,原告X6,原告X7,原告X8,原告X9,原
告X10及び原告X11は,平成19年12月27日当時,同目録「立
木・物件東京都八王子市」欄に記載された本件土地1ないし本件土
地3の土地にある立木に関して所有権を有していた。(争いのない事
実)
イ起業者らは,平成18年12月5日,東京都収用委員会に対し,本件各
土地について,土地収用法39条1項及び47条の2第3項に基づき,収
用の裁決の申請及び明渡裁決の申立て(以下「本件各申請」という。)を
した。(甲J31,丙2の1・2,丙3の1・2,丙4の1・2,丙5の
1・2,丙6の1・2)
ウ東京都収用委員会は,次のとおり,本件各土地に係る権利取得裁決及び
明渡裁決に関する審理(以下「本件審理」という。)をした。(丙13の
1ないし5,丙16,丙17,丙18の1ないし5,丙20,丙22,丙
23,丙25の1ないし5,丙26ないし丙28)
(ア)第1回期日平成19年4月26日
(イ)第2回期日平成19年5月31日
(ウ)第3回期日平成19年7月9日
(エ)第4回期日平成19年8月6日
(オ)第5回期日平成19年9月13日
エ東京都収用委員会は,平成19年12月27日,本件各申請について,
別紙裁決目録記載のとおり,権利取得裁決及び明渡裁決(以下,事件番号
平成▲年第▲号,同号の2に係る権利取得裁決及び明渡裁決を「本件裁決
1」,事件番号平成▲年第▲号,同号の2に係る権利取得裁決及び明渡裁
決を「本件裁決2」,事件番号平成▲年第▲号,同号の2に係る権利取得
裁決及び明渡裁決を「本件裁決3」,事件番号平成▲年第▲号,同号の2
に係る権利取得裁決及び明渡裁決を「本件裁決4」,事件番号平成▲年第
▲号,同号の2に係る権利取得裁決及び明渡裁決を「本件裁決5」といい,
本件裁決1ないし本件裁決5を「本件各裁決」と総称する。)をした。(丙
1の1ないし5)
(8)ア第1事件原告らは,平成18年5月15日,第1事件の訴えを提起した。
イ第2事件原告らは,平成18年10月19日,第2事件の訴えを提起し
た。
ウ第3事件原告らは,平成20年3月13日,第3事件の訴えを提起した。
4本件の争点及び争点に関する当事者の主張
別紙「当事者の主張」のとおり(同別紙で定めた略称は,以下で用いる。)
第3当裁判所が認定した事実
第2の3に判示した事実に加え,各項の末尾に掲記した各証拠及び弁論の全
趣旨によれば,次の事実が認められる。
1本件各事業に係る決定ないし計画等
(1)ア平成15年10月10日,社会資本整備重点計画法4条に基づいて,平
成15年度から平成19年度までを計画期間とする社会資本整備重点計画
が閣議決定されたところ,同計画においては,「国際的な水準から見て整
備の遅れている都市圏環状道路の整備を進めることなどにより国際競争力
の強化に努める」とされている。(乙12の1)
イ都市再生本部は,平成13年8月28日付けで,都市再生プロジェクト
(第二次決定)を決定したところ,同決定においては,「大都市圏におい
て自動車交通の流れを抜本的に変革する環状道路を整備し,都心部の多数
の慢性的な渋滞や沿道環境の悪化等を大幅に解消するとともに,その整備
により誘導される新たな都市拠点の形成等を通じた都市構造の再編を促
す」として,圏央道を含む首都圏3環状道路の整備を推進するとされてい
る。(乙12の2)
ウ国土総合開発法(平成17年法律第89号により題名を国土形成計画に
改正)7条1項(平成11年法律第160号による改正前のもの)に基づ
いて平成10年3月に作成された全国総合開発計画である「21世紀の国
土のグランドデザイン-地域の自立の促進と美しい国土の創造-」におい
ては,圏央道,外かく環状道等環状方向を中心とする幹線交通網の整備を
進めるとともに,東京湾岸道路等の整備により首都高速道路の機能を強化
し,交通渋滞の緩和等を図るとされている。(乙H35)
エ首都圏整備法22条1項(平成11年法律第87号による改正前のもの)
に基づいて平成11年3月26日に決定された首都圏基本計画においては,
「分散型ネットワーク構造の形成に資する首都圏の交通網の形成,並びに
通過交通に対応し渋滞の緩和等を図る」ために,首都圏3環状道路等「特
に重要となっている環状方向の道路の整備を重点的に推進する」とされる
とともに,「近郊地域の整備に資する交通体系」として,「首都圏の道路
網の骨格を形成し,分散型ネットワーク構造実現に資する環状方向の路線
として」首都圏3環状道路等の整備を推進するとされている。また,首都
圏整備法22条1項に基づいて平成13年10月26日に決定された首都
圏整備計画においても,圏央道,外かく環状道等の整備を推進するとされ
ている。(乙H1,乙H37,乙H38)
(2)圏央道の建設事業については,遅くとも平成5年以降,周辺地域の地方公
共団体の首長等で構成される首都圏中央連絡道路促進協議会,地方公共団体
の議会並びに議長及び議員,東京都知事等から,早期建設等の要望が内閣総
理大臣等に提出されている。(乙3の2)
また,本件八王子南バイパス事業については,遅くとも平成5年以降,周
辺地域の地方公共団体の首長等で構成される首都圏中央連絡道路促進協議会,
地方公共団体の議会の議長及び議員,八王子市長等から,早期建設等の要望
が内閣総理大臣等に提出されている。(乙3の2)
2本件各事業の効果に係る予測について
(1)起業者らは,本件各事業に係る事業の認定の申請に当たり,本件圏央道事
業の整備効果を次のとおり予測した。(甲H90,乙3の1)
ア幹線道路の混雑緩和
圏央道が一般国道16号,129号等が担っている交通を分担すること
によって,一般国道16号,129号等の交通量が減少し,混雑が緩和さ
れるとともに,生活道路の交通円滑化が図られる。
圏央道整備後は,一般国道16号の3か所について,平成11年度道路
交通センサスの数値を基準として,平成42年には,交通量が最大で約4
3パーセント減少するとともに,混雑度が1.31ないし1.50から0.
78ないし1.40に減少する。また,一般国道129号の2か所につい
て,同様に,交通量が最大で約24パーセント減少するとともに,混雑度
が1.19ないし1.34から0.96ないし1.01に減少する。さら
に,一般国道246号の2か所について,同様に,交通量が最大で約39
パーセント減少するとともに,混雑度が1.23ないし1.45から0.
89から0.93に減少する。
イ大型車交通の転換
圏央道の当該区間が整備されることにより,一般国道16号,129号
の大型車交通が減少し,地域住民の現道利用の利便性の向上が期待される。
圏央道整備後は,一般国道129号(相模原市α8)について,平成1
1年度道路交通センサスの数値を基準として,平成42年には,大型車交
通量が1万8800台/日から8500台/日に減少するとともに,一般
国道16号(相模原市α9)について,同様に,大型車交通量が1万04
00台から4900台/日に減少する。
ウ環境改善
圏央道の当該区間の整備により,東京都,神奈川県及び埼玉県において
年間約9.7万トンの二酸化炭素の削減が期待される。
エ走行速度の向上(走行時間短縮)
現在の東名高速道,中央自動車道,関越自動車道等の放射方向の高速道
路相互間の交通は,一般国道16号や首都高速道路を通らざるを得ず,多
大な走行時間を要しているところ,圏央道を整備することにより,東名高
速道,中央自動車道,関越自動車道等の放射方向の高速道路相互間の走行
時間の大幅な短縮を図ることができる。
関越自動車道から東名高速道までの走行時間につき,圏央道未整備の場
合は一般国道16号経由で約174分,環状八号線経由で約124分であ
るのに対し,圏央道整備後は約49分に短縮される。
(2)起業者らは,本件各事業に係る事業の認定の申請に当たり,本件八王子南
バイパス事業の整備効果を次のとおり予測した。(甲H90,乙3の1)
ア幹線道路の混雑緩和
八王子市の道路網は,東西方向の幹線道路として中央自動車道と一般国
道20号,一般都道上館日野線等があるが,東西方向の幹線道路は不足し
ていることから,八王子南バイパスが完成することにより,東西方向の幹
線道路として機能するとともに,一般国道20号線等が担っている交通を
八王子南バイパスが分担することによって,交通円滑化が図られる。そし
て,八王子南インターチェンジへのアクセス道路としての機能を有する道
路となる。
八王子南バイパス整備後は,一般国道20号の2か所について,平成1
1年度道路交通センサスの数値を基準として,平成42年には,交通量が
最大で約26パーセント減少するとともに,混雑度が1.03ないし1.
58から0.92ないし1.18に減少する。また,一般都道上館日野線
の2か所について,同様に,交通量が最大で約42パーセント減少すると
ともに,混雑度が1.19ないし1.28から0.69ないし0.94に
減少する。
イ大型車交通の転換
八王子南バイパスの当該区間が整備されることにより,一般国道20号,
一般都道上館日野線の大型車交通が減少し,地域住民の現道利用の利便性
の向上が期待される。
八王子南バイパス整備後は,一般国道20号(八王子市α10町)につ
いて,平成11年度道路交通センサスの数値を基準として,平成42年に
は,大型車交通量が3200台/日から1700台/日に減少するととも
に,一般都道上館日野線(八王子市α11町)について,同様に,大型車
交通量が1300台から700台/日に減少する。
ウ環境改善
八王子南バイパスの整備により,八王子市,日野市及び国立市において
年間約1.2万トンの二酸化炭素の削減が期待される。
エ走行速度の向上(走行時間短縮)
圏央道と接続することにより,行動範囲の拡大と時間短縮などを図るこ
とができるとともに,周辺地域との交流が活発化され,地域の活性化にも
貢献する。
α12駅から八王子南インターチェンジまでの走行時間につき,八王子
南バイパス未整備の場合は一般国道20号を利用することで約47分,α
5街道を利用することで約47分であるのに対し,八王子南バイパス整備
後は約26分に短縮される。
3本件各事業に係る費用便益分析について
(1)道路整備に係る費用便益分析とは,ある年次を基準年とし,道路整備が行
われる場合と行われない場合のそれぞれについて,一定期間の便益額及び費
用額を算定し,道路整備に伴う費用の増分と便益の増分とを比較することに
より分析,評価を行うものである。起業者らは,平成15年8月マニュアル
に基づいて,本件各事業の費用便益分析を行った。
平成15年8月マニュアルにおいては,道路整備に伴う各種の効果のうち,
平成15年8月マニュアル策定時点の知見により十分な精度で計測が可能で
かつ金銭表現が可能である「走行時間短縮」,「走行経費減少」及び「交通
事故減少」の各項目について,社会的余剰を計測することによって総便益を
算出するとされている。他方,費用については,道路整備に要する事業費(用
地費を含む。)及び維持管理に要する費用を算出して総費用を計上するとさ
れている。なお,平成15年8月マニュアルにおいては,現在価値算出のた
めの社会的割引率は4パーセント,基準年次は評価時点,検討年数は供用開
始後40年とされている。(乙3の1,乙H20,乙H30,X12証人)
(2)費用便益分析の手法について
本件各事業に係る平成15年8月マニュアルに基づく費用便益分析の手順
は,おおむね次のとおりである。(甲H90,乙3の1,乙H20,乙H3
0,X12証人)
ア費用便益分析を行うためには交通量の推計が必要となる。その推計に当
たって,人口,自動車保有台数等の社会経済指標を基に,発生集中交通量,
分布交通量及び配分交通量を推計する3段階推定法を採用している。そし
て,分布交通量の推計までのプロセスにおいては,自動車の出発地と目的
地及びその量を網羅的に整理する。なお,自動車の出発地と目的地を網羅
的に整理したものを自動車起終点表,又は出発地(Origin)及び目的地
(Destination)の頭文字をとって自動車OD表と称する。他方,配分交通
量の推計においては,実際にどの道路にどの程度の交通量が走行するかを
推計する。
イ配分交通量の推計の概要
(ア)配分交通量の推計は,分布交通量の推計で得られた自動車OD表を
コンピュータ上に構築した道路ネットワークに配分すること,すなわ
ち,自動車が,どの道路(ルート)を通って出発地から目的地に至る
かをコンピュータ上でシミュレーションすることにより行われる。
そして,コンピュータ上に仮装の道路ネットワークを構築するとこ
ろ,本件各事業に係る費用便益分析の前提となる交通量推計(以下「本
件交通量推計」という。)の対象範囲は関東甲信地域(以下「本件対
象範囲」という。)とされており,本件対象範囲で考慮した道路網は,
道路交通センサスを参考に,すべての国道及び都県道と指定市の一般
市道の一部が対象とされている。なお,圏央道周辺については,必要
に応じ,より小規模な道路も対象とされている。
(イ)上記(ア)で構築された道路ネットワークのうち,それぞれのリンク
(現実に存在する道路の交差点と交差点の間のこと)に自動車OD表
に基づく交通量を配分する際に必要となる道路の走行条件を設定する。
具体的には,道路交通センサスによって与えられる道路の車線数,規
制速度その他のデータを参考に,速度と交通量の関係を示すQV
(quantity-velocity)式を設定する。このQV式により,道路の車線
数,規制速度等に応じ,どの程度の交通量であれば,どの程度の速度
で走行することができるのかが決せられる。なお,リンクの延長(交
差点間の距離)については,道路交通センサスに基づき設定されてい
る。
(ウ)上記(ア)及び(イ)により,交通量配分に必要な道路ネットワークが
構築され,これに自動車OD表を配分する。本件交通量推計において,
自動車OD表は,本件対象範囲を分割したゾーンごとに作成されてお
り,ゾーンの分割は,基本的に市町村を単位とする大きさとし,圏央
道周辺については,必要に応じて細分割されている。本件交通量推計
においては,総交通量を5回に分けて配分し,コンピュータ上で5回
のシミュレーションが行われている。具体的には,自動車OD表上の
各ゾーンと各ゾーンのペアごとに道路ネットワーク上の最短時間で目
的地に到着できるように経路を選択することを前提条件としてシミュ
レーションされている。この際,有料道路については,設定された料
金を時間価値に変換してシミュレーションに反映する。そして,上記
(イ)で設定したリンクデータであるリンク延長(距離),QV式によ
って与えられた速度に応じてリンクごとの旅行時間が算定され,最短
となる経路を選択することで第1回目のリンク交通量が算定される。
第2回目は,第1回目のシミュレーションにより各リンクに配分され
た交通量に基づいてQV式から第2回目の速度を決定し,その速度を
用いてシミュレーションを行う。このような計算を5回繰り返すこと
によって各リンクの交通量を算定する。
ウ本件交通量推計においては,その妥当性を確認する目的から,①昭和6
0年,平成2年,平成6年及び平成11年の社会経済指標を用いて交通量
発生集中モデル式によって得られた現況発生集中量の計算値と平成11年
センサス自動車起終点調査により得られている実際の現況発生集中量との
比較,②平成11年自動車OD表及びネットワークを用いて計算された配
分交通量と平成11年一般交通量調査の24時間観測地点交通量との比較
をそれぞれ行ったところ,推計の妥当性が確認された旨結論付けられてい
る。
エ便益額の算定
(ア)走行時間短縮便益
走行時間短縮便益は,道路の整備・改良が行われない場合の総走行
時間費用から,道路の整備・改良が行われる場合の総走行時間費用を
減じた差として算定する。総走行時間費用は,各トリップ(自動車等
のある地点から他の地点への移動のこと)のリンク別車種別の走行時
間に時間価値原単位を乗じて得た値をトリップ全体で集計したもので
ある。車種別の時間価値原単位(平成15年価格)は,乗用車が62.
86円/分・台,バスが519.74円/分・台,乗用車類が72.
45円/分・台,小型貨物車が56.81円/分・台,普通貨物車が
87.44円/分・台とされている。
(イ)走行経費減少便益
走行経費減少便益は,道路の整備・改良が行われない場合の走行経
費から,道路の整備・改良が行われる場合の走行経費を減じた差とし
て算定する。走行経費減少便益は,走行条件が改善されることによる
費用の低下のうち,走行時間に含まれない項目を対象としている。具
体的には,燃料費,油脂(オイル)費,タイヤ・チューブ費,車両整
備(維持・修繕)費,車両償却費等の項目について走行距離単位当た
りで計測した原単位(円/台・キロメートル)を用いて算定する。
(ウ)交通事故減少便益
交通事故減少便益は,道路の整備・改良が行われない場合の交通事
故による社会的損失から,道路の整備・改良が行われる場合の交通事
故による社会的損失を減じた差として算定する。道路の整備・改良が
行われない場合の総事故損失及び道路の整備・改良が行われる場合の
総事故損失は,事故率を基準とした算定式を用いて,リンク別の交通
事故の社会的損失を算定し,これを全対象リンクで集計する。なお,
交通事故の社会的損失は,運転者,同乗者,歩行者に関する人的損害
額,交通事故により損壊を受ける車両や構築物に関する物的損害額及
び事故渋滞による損失額から算定する。
(エ)上記各便益算定結果に基づき,整備路線の供用開始年次を起算点と
して,検討期間(供用開始後40年間)にわたり,各年次ごとの各便
益の値を算定する。その上で,検討期間中の各年次の各便益について,
割引率(4パーセント)を用いて,基準年次における現在価値を算定
する。そして,上記により算出された各便益の現在価値を合計した額
が便益合計額となる。
オ費用額の算定
費用としては,道路整備に要する事業費(用地費を含む。)及び供用後
に必要となる維持管理に要する費用を算定する。事業費は,事業期間につ
いて設定し,維持管理費については,供用開始年次を起算点とし,検討期
間(供用開始後40年間)にわたり各年次の維持管理費を設定する。そし
て,事業費及び維持管理費についても,割引率(4パーセント)を用いて,
基準年次における現在価値を算定する。
これらを検討年次期間(40年間+基準年次から供用開始年次までの年
数)で合計したものが,総費用となる。
カ費用便益分析
費用便益分析における社会費用便益比(B/C)は,上記のようにして
算定した便益の現在価値を費用の現在価値で除することにより算出される。
(3)本件各事業に係る費用便益分析の結果は,次のとおりである。(甲H90,
乙1,乙3の1,乙H30,X12証人)
ア本件圏央道事業等
(ア)基準年を平成17年度,供用年を平成24年度とし,検討期間及び
割引率は,それぞれ供用開始後40年間及び4パーセントとした。
(イ)費用便益分析の前提とされた,平成42年における将来交通量の予
測は,次のとおりである。予測に当たっては,人口,自動車保有台数
等の社会経済指標を前提に同年の発生集中交通量を推計し,次に同年
の分布交通量を推計し,更に同年の将来道路網にQV式を用いて交通
量を配分し,各区間の将来の交通量を算出した。
なお,上記の前提とされた同年度の人口は1億1758万人,自動
車保有台数は8116万台である。
海老名北インターチェンジから圏央厚木インターチェンジ・ジャン
クション(仮称)3万2200台/日
圏央厚木インターチェンジ・ジャンクション(仮称)から相模原イ
ンターチェンジ(仮称)4万5700台/日
相模原インターチェンジ(仮称)から城山インターチェンジ(仮称)
4万3400台/日
城山インターチェンジ(仮称)から八王子南インターチェンジ
4万2400台/日
八王子南インターチェンジから八王子ジャンクション
4万1600台/日
(ウ)便益については,基準年(平成17年度)における走行時間短縮便
益の現在価値が1兆3959億円,走行経費減少便益の現在価値が6
21億円及び交通事故減少便益の現在価値が182億円と算出され,
その合計額が1兆4761億円とされた。
上記のうち走行時間短縮便益は,便益算定上の供用開始年次である
平成25年度の便益を乗用車,バス,小型貨物及び普通貨物の4車種
別に算出し,検討期間である供用開始後40年間の便益の合計を算出
している。また,走行経費減少便益については,便益算定上の供用開
始年次の便益を乗用車,バス,小型貨物及び普通貨物の4車種別に算
出し,検討期間である供用開始後40年間の便益の合計を算出してい
る。さらに,交通事故減少便益については,便益算定上の供用開始年
次の便益を算出し,検討期間である供用開始後40年間の便益の合計
を算出している。
なお,便益算出の集計対象範囲は,東京都,神奈川県及び埼玉県の
1都2県である。
(エ)費用については,基準年(平成17年度)における事業費の現在価
値が5552億円,維持管理費の現在価値が190億円と算出され,
その合計額が5741億円とされた。
(オ)上記の結果,社会費用便益比(B/C)は,2.6と算定された。
イ本件八王子南バイパス事業
(ア)基準年を平成17年度とし,検討期間及び割引率は,それぞれ供用
開始後40年間及び4パーセントとした。
(イ)費用便益分析の前提とされた,平成42年における将来交通量の予
測は,次のとおりである。予測に当たっては,本件圏央道事業等に係
る費用便益分析と同様の方法が採られている。
一般国道16号バイパスから一般国道16号
4万9500台/日
一般国道16号から都道上館日野線3万6400台/日
都道上館日野線から都道八王子町田線3万4100台/日
都道八王子町田線から一般国道20号2万台/日
(ウ)便益については,基準年(平成17年度)における走行時間短縮便
益の現在価値が2280億円,走行経費減少便益の現在価値が140
億円及び交通事故減少便益の現在価値が40億円と算出され,その合
計額が2460億円とされた。
(エ)費用については,基準年(平成17年度)における事業費の現在価
値が1062億円,維持管理費の現在価値が32億円と算出され,そ
の合計額が1094億円とされた。
(オ)上記の結果,社会費用便益比(B/C)は,2.2と算定された。
4本件各事業に係る環境影響評価等の実施について
(1)本件圏央道事業等に係る環境影響評価について
東京都知事は,東京都環境影響評価条例に基づき,昭和63年12月に本
件環境影響評価1を,平成8年12月に本件環境影響評価2を行った。その
際,東京都知事は,昭和61年9月24日付けで本件環境影響評価1の評価
書案の概要を,平成7年3月14日付けで本件環境影響評価2の評価書案の
概要をそれぞれ告示した上で,都民の意見書の提出や公聴会等の開催,説明
会の開催等の手続を経て環境影響評価書を作成し,平成元年2月6日付けで
本件環境影響評価1の評価書の概要を,平成9年2月5日付けで本件環境影
響評価2の評価書の概要をそれぞれ告示した。本件環境影響評価1において
は,大気汚染,水質汚濁,騒音,振動,低周波空気振動,日照阻害,電波障
害,陸上植物,陸上動物,水生生物,地形・地質,史跡・文化財及び景観の
各項目について,圏央道の建設事業が環境に及ぼす影響について予測及び評
価がされた。また,本件環境影響評価2においては,大気汚染,騒音,振動,
低周波空気振動,水質汚濁,地形・地質,陸上植物,陸上動物,水生生物,
日照阻害,電波障害及び景観の各項目について,圏央道の建設事業が環境に
及ぼす影響について予測及び評価がされた。なお,平成10年改正前の東京
都環境影響評価条例24条1項に基づく評価書の縦覧期間が満了したのは,
本件環境影響評価1について平成元年2月21日,本件環境影響評価2につ
いて平成9年2月20日である。(乙3の3,乙13の7,乙13の8,乙
13の10,乙13の11,乙E1,乙E2)
(2)本件八王子南バイパス事業に係る環境影響評価について
東京都知事は,平成8年12月,東京都環境影響評価条例に基づき,本件
環境影響評価3を行った。その際,東京都知事は,平成7年3月14日付け
で本件環境影響評価3の評価書案の概要を告示した上で,都民の意見書の提
出や公聴会等の開催,説明会の開催等の手続を経て環境影響評価書を作成し,
平成9年2月5日付けで本件環境影響評価3の評価書の概要を告示した。本
件環境影響評価3においては,大気汚染,騒音,振動,低周波空気振動,水
質汚濁,地形・地質,陸上植物,陸上動物,水生生物,日照阻害,電波障害,
景観及び史跡・文化財の各項目について,本件八王子南バイパスの建設事業
が環境に及ぼす影響について予測及び評価がされた。なお,平成10年改正
前の東京都環境影響評価条例24条1項に基づく本件環境影響評価3の評価
書の縦覧期間が満了したのは,平成9年2月20日である。(乙3の5,乙
13の13,乙13の14,乙E3)
(3)計画交通量の見直しに伴う環境影響評価の照査について
起業者らは,本件各事業に係る事業の認定の申請に当たって,事業の完成
の時期を見直したことから,この見直しを踏まえて,建設省(当時)が平成
11年度に実施した一般交通量調査及び自動車起終点調査等に基づき,平成
42年を推計年次とする圏央道及び八王子南バイパスの計画交通量を算出し
た。そして,起業者らは,計画交通量を見直した結果,本件各環境影響評価
の基礎となった計画交通量と比べて本件各事業区間の計画交通量が増加して
いることなどから,平成42年の計画交通量を基礎として,本件各事業の施
行が環境に及ぼす影響について補足的に照査する目的で,本件各環境影響照
査を行った。本件各環境影響照査においては,大気汚染,騒音,振動及び低
周波空気振動の4項目が照査の対象項目として選定され,平成42年を予測
の対象時点として,東京都技術指針(平成15年1月),平成12年10月
及び平成16年4月に建設省土木研究所,国土交通省国土技術政策総合研究
所が取りまとめた「道路環境影響評価の技術手法(その1)」及び「道路環
境影響評価の技術手法(その2)」等に基づき,本件各事業の施行が環境に
及ぼす影響について,再予測計算及び評価が実施された。
(乙3の1,乙3の3,乙3の5,乙E4)
5高尾山トンネルの工事等による地下水等への影響について
(1)α13城跡トンネルの工事等について
アα13城跡トンネルの工事箇所の地質
α13城跡トンネルは,八王子ジャンクションの北側の区間にある圏央
道のトンネルであり,その全長は約2400メートルである。起業者らは,
α13城跡トンネルの施工の準備のために,平成3年度から平成8年度に
かけて,4回にわたりボーリング調査を実施するなどして地質調査を行う
とともに,平成2年以降,α13城の築城当時に掘削されたとされる井戸
である坎井を主としてその他の表流水に係る水理機構を把握するため,降
水量,地下水位,河川流量,水質,土壌水分等を継続して調査した。その
結果,起業者らは,α13城跡トンネルの工事箇所の地質及び水文につい
て,次のとおり結論づけた。(甲C1,乙C5)
(ア)α13城跡地域の地質は,中生代白亜紀の小仏層群を基盤としてお
り,砂岩,けつ岩,砂岩及びけつ岩の互層から成る岩盤で構成されて
いる。ボーリング調査の結果からも,トンネルが計画されている深度
ではおおむね堅固な地質といえる。
(イ)降水量は夏期に多く,冬期には少ない。また,降雨に対して河川流
量は明りょうな応答を示している。
(ウ)トンネルが計画される岩盤深部の地下水位と地下浅部の地下水とは
約50メートル以上差があること,また,地下浅部の地下水位が降雨
に敏感に反応するのに対し,岩盤深部の地下水位は変化が緩慢で地下
浅部のようには降雨の影響を受けていないことから,両者の地下水は
直接連続していないと判断される。
(エ)土壌中の水分は,深度が深くなるにつれ安定しており,4メートル
以深では降雨の少ない時期でもほぼ飽和に近い状態になっている。
イ起業者らは,平成11年10月,α13城跡トンネルの工事に着手した
ところ,平成14年1月22日から同年2月1日にかけて,地下水位の観
測に用いられていた観測井戸の一つである観測孔2の水位が約12メート
ル低下する現象が発生した。(甲C23ないし甲C26,甲C69,乙C
6,乙C7)
ウ起業者らは,上記水位の低下がみられた平成14年1月22日,α13
城跡トンネルの掘削を一時休止し,トンネルのゆう水を抑えるための応急
止水注入を実施するととともに,同年2月ころ,止水対策を含むα13城
跡トンネルを含めた圏央道事業に係るトンネル施工方法全般に関する指導,
助言を受ける目的で,学識経験者等から構成される技術検討委員会を設置
した。そして,技術検討委員会は,同月から同年9月までに合計4回にわ
たり開催され,α13城跡トンネルの施工方法の検討を行い,起業者らは,
技術検討委員会の意見を踏まえるなどして,当初の設計位置よりも手前か
ら地山止水工事を施行することとし,同月3日,当面の掘削範囲の止水注
入を完了させるとともに,同年10月28日,α13城跡トンネルの掘削
を再開した。(甲C15,甲C23ないし甲C26,甲C71,甲C72,
乙C3,乙C6,乙C7)
エ上記α13城跡トンネル掘削再開後,観測孔2の水位は上昇を続け,平
成16年11月ころには,約TP(東京湾平均海面)+345メートル(平
成14年1月22日の水位低下前に比べて約マイナス3メートルの水位)
となった。
その後,起業者らは,先進導坑完了後の拡幅掘削を平成17年10月1
9日より開始したところ,観測孔2の水位が同月22日ころから低下を始
め,本件事業認定がされた平成18年4月当時の観測孔2の水位は,約T
P+315メートルであった。
なお,平成17年11月11日に開催された同年度第3回技術検討委員
会においては,観測孔2の地下水位は,拡幅掘削の進行に伴い低下傾向を
示しているものの,早期に覆工コンクリートが構築されることにより,水
位が徐々に上昇すると考えられる旨の意見が述べられていた。また,観測
孔2の水位は,平成19年2月8日ころから上昇し,同年4月22日時点
では約TP+331メートルとなり,その後,平成22年1月12日時点
では約TP+341メートルとなった。(甲C52,甲C60,甲C69,
乙C7ないし乙C9)
オ起業者らは,平成13年9月,本件圏央道事業区間により北に位置する
圏央道α14橋上り線橋脚(P3及びP4)の基礎の掘削工事を開始した
ところ,掘削箇所から地下水がゆう出したため,P4橋脚については同月
25日から54日間,P3橋脚については同年10月4日から82日間,
連続して揚水を実施した。また,同月末ころ,八王子市α15町α16地
区の住民から井戸の水枯れが発生したとの申出があり,相武国道工事事務
所(当時)は,同年11月から周辺住民に対しての聞き取り調査,平成1
4年1月から当該地域全域の井戸調査をそれぞれ実施した。これらの調査
において,α16地区の292戸(うち井戸を所有するのは146戸)の
うち,42戸について井戸の水枯れが発生していることが確認された。
ただし,起業者らは,上記掘削箇所について平成13年12月25日ま
でに埋戻しを実施したところ,平成14年2月19日時点には上記井戸の
水枯れが発生したすべての井戸について水位の回復がみられた。(甲C1
1,甲C12,甲C36,甲C37,乙C10,乙C11)
カ平成17年5月14日,α13城跡にあるα17滝の表流水が見られな
くなる(滝枯れ)現象が発生した。その後,上記の表流水の流れの回復と
滝枯れの現象が交互に発生し,平成19年7月10日までの間に合計31
1日間,滝枯れの現象が発生した。
これに対し,平成16年5月26日及び同年8月9日に開催された技術
検討委員会においては,α17滝の流量は,観測孔2の水位変化とは関連
しておらず,α17滝の水の大部分は表層土砂,浅部に蓄えられた雨水が
わき出したものと考えられる旨の意見が述べられていた。また,起業者ら
は,平成17年5月にα17滝の表流水が見られなくなったことを受けて,
同月26日及び27日に現地調査を行い,同年6月3日に開催された技術
検討委員会において検討した結果,α17滝の河川水が枯れた原因は,同
年春季の少雨傾向にあり,α13城跡トンネル掘削の影響ではないことな
どを結論付け,同月9日にこれを記者発表した。さらに,同年11月11
日に開催された技術検討委員会においても,①観測孔2の水位低下前後で
流量の変動の傾向に大きな変化は見られず,トンネル掘削の影響は発生し
ていないと考えられる,②予測解析によると,リーミングTBM工法(平
成16年度第3回技術検討委員会において採用されたトンネル拡幅掘削工
法)は,トンネルの掘削期間中及び施工完了後を通じてα17滝への影響
はほとんどない,③よって,α17滝の流量は,観測孔2の水位低下前後
で流量の変動の傾向に大きな変化は見られず,トンネル掘削期間中,施工
完了後を通じ,ほとんど影響は発生しないと考えられる旨の意見が述べら
れた。(甲C38,甲C43の1,甲C73,甲C74,乙C8,乙C1
6,乙C17)
(2)高尾山に係る地質及び水文調査並びに高尾山トンネルの施工方法等につい

ア高尾山トンネルは,本件圏央道事業区間のうち八王子南インターチェン
ジから八王子ジャンクションまでの区間に位置する全長約1300メート
ルのトンネルであり,高尾山を掘削して施工されるものである。起業者ら
は,高尾山トンネルの施工の準備のために,昭和62年10月から平成1
6年3月までの間,高尾山の地質につき,水平ボーリング調査を2箇所,
鉛直ボーリング調査を16箇所実施した。また,起業者らは,平成4年以
降,高尾山のα18滝及びα19滝の水理機構を把握するため,降水量,
地下水位,河川流量,水質,土壌水分等を継続して調査した。そして,起
業者らは,技術検討委員会の意見も得た上で,高尾山の地質及び水文につ
いて次のとおり結論付けた。(甲C33,甲C35,乙3の3,乙C1,
乙C2)
(ア)高尾山の地質について
a中生代白亜紀の地質が主体となっており,けつ岩,砂岩,けつ岩及
び砂岩の互層が主体に構成されているが,なかでもけつ岩優勢(α1
3城跡周辺の地質は砂岩優勢)の地質となっている。また,トンネル
フォーメーション付近の岩盤については,抗口周辺やα20沢の一部
で割れ目の褐色化がみられるが,その他については,深部に向かって
おおむね新鮮・堅硬であると考えられる。
b透水係数については,割れ目の褐色化がみられる抗口周辺で10-

~10-3
cm/sec,α20沢付近で10-5
~10-4
cm/secとなっ
ているものの,それ以外のところでは10-6
cm/sec前後以下又は1
0-5
cm/sec前後となっており,透水性も一部を除き低いと考えられ
る。
c弾性波探査において低速度帯は確認されず,破砕帯を伴う大規模
な断層はないものと考えられ,北抗口水平ボーリング調査において観
測されたゆう水量は非常に少ないことから,この区間において,施工
中に多くのゆう水が発生する可能性は低いものと考えられる。
d水平ボーリング試料の超音波伝ぱ速度と地山弾性波速度の差が小
さい(き裂係数が小さい)ことから,地山の割れ目は密着しているも
のと考えられる。
(イ)高尾山の水文について
a河川流量(α20沢,α21沢及びα22沢)は,降雨に対して極
めて明りょうに応答し,ピークの出現及び減水が早い傾向にあること
から,降雨に大きく依存している。
b河川水と岩盤地下水は,電気伝導率や硝酸性窒素の含まれる量が異
なっていることから,互いの関連性は薄いものと考えられる。
cα18滝は,α20沢とトンネルの交差部より上流側に位置し,そ
の集水域も広いことからも,トンネル施工による影響は少ないと考え
られる。また,α19滝は,その集水域がトンネルルートと大きく離
れており,トンネル施工による影響は少ないと考えられる。
イ平成16年2月3日及び同年3月16日に開催された技術検討委員会に
おいて,上記アの調査結果等に基づいて,高尾山トンネルの構造及び施工
方法について,次のとおり意見が述べられた。(乙3の3,乙C1ないし
乙C3)
(ア)α20沢とトンネルの交差部は比較的土かぶりが薄く,この周辺に
おいて一部トンネルフォーメーションまで割れ目の褐色化がみられる
ことから,トンネル内に水を引き込まず,他流域に水が流出しないよ
う,この周辺を十分カバーする区間を覆工止水構造とすることが適当
である。
(イ)具体的には,割れ目の褐色化がみられる箇所,透水性が比較的高い
と想定される箇所及びα20沢本線の集水域を含み,かつ,慎重を期
して,施工中に比較的地山の緩みが生じることが想定される箇所を含
む区間(約500メートル)を覆工止水構造とすることが適当である。
(ウ)高尾山トンネルの具体的な施工法(施工中の止水対策を含む。)に
ついては,引き続き,α13城跡トンネルの施工実績を踏まえた検討
を進める必要がある。
ウ平成17年6月29日に開催された技術検討委員会においては,α13
城跡トンネルの施工実績について,「先進導坑は既に貫通し,地山止水注
入も完了しており,これまでのトンネル技術検討委員会の見解どおり,ト
ンネル掘削による坎井の水位,α17滝の流量,ならびに土壌水分への影
響は見られなかった」,「α23川において,α13城跡トンネルを挟ん
だ流量観測点間(B-D,B-E間)の流量の相関は,トンネル掘削前後
で大きな変化は見られなかった」,「覆工止水構造区間の透水係数をチェ
ックボーリングで確認した結果,目標値(5×10-6
cm/sec)以下に改
善されていた」とした上で,「先進導坑に用いたシールド工法は水環境の
保全に適切な工法であった」との意見が述べられた。また,高尾山トンネ
ルの施工方法について,「高尾山の水環境を保全するため,α13城跡ト
ンネルの施工実績を踏まえ,覆工止水構造区間は「先進導坑(シールド掘
削)+NATM(機械掘削)」工法により,通常施工区間はNATMによ
り施工を行う」との意見が述べられた。(乙C4)
エ起業者らは,イ及びウの助言を受けて,高尾山トンネルの施工方法につ
いて,全長約1300メートルの工事区間のうち約500メートルについ
ては覆工止水構造,すなわち,まず,ゆう水に対する止水を目的として先
進導坑(シールド掘削)を掘削した後,トンネル周囲に先進導坑から超微
粒子セメントによる止水注入を行った上で,NATM(機械掘削)により
本坑を掘削し,その後,覆工コンクリートと地山の間に防水シートを施工
し,トンネル内に地下水を引き込まない防水構造とすることとした。他方,
その余の約800メートルについては,山岳トンネルの標準工法とされる
NATM(機械掘削)により施工することとした。また,施工に当たって
は,別途工場で製作したコンクリートピースを用いて早期に止水構造を構
築するなどα13城跡トンネルにおける施工方法に改良を加えたものとし
ている。(乙3の3,乙C1,乙C19)
(3)本件環境影響評価1における地形・地質の評価について
本件環境影響評価1においては,ボーリング調査等を行うなどして検討さ
れ,その結果,「トンネル掘削に伴う不圧地下水への影響については,計画
路線のトンネルを横断する大規模な破砕帯を伴う断層は存在せず,高尾山周
辺部においては,中間層地下水と岩盤地下水の連続性が低いと考えられるこ
と,丘陵地においては全般に地下水位が低いと考えられること,また,帯水
層の一部が遮断される台地においては十分透水層が残存することから影響
が少ないと考える」と評価されている。また,α13城跡トンネル及び高尾
山トンネルを施工することによる影響等については個別に検討され,その結
果,次のとおり評価されている。(乙13の11,乙13の12)
ア影響要因
地下水の坑内ゆう出に伴う地下水位の低下
イ不圧地下水の状況
不圧地下水は主に表土等の被覆層及び表層の風化岩に賦存する。この一
部は断層等の割れ目に沿って地下に浸透するが,計画路線を横断する幅広
い破砕帯を伴う大きな断層は認められていない。また,岩盤の風化は尾根
部で厚く,谷部で薄い一般的な性状を示しており,新鮮な岩盤部では透水
性が低く,深部の岩盤地下水と強度の風化帯等に存在する中間層地下水と
は連続性が低いと考えられる。地下水の供給源は,主に当該山域の降雨で
ある。
ウ影響の程度(工事の施工中)
当地域では大きな断層の存在する可能性は低く,新鮮な岩盤部は透水性
が低いこと,谷川の水の大半は岩盤地下水とは別の中間層地下水によりか
ん養されていると考えられること,及び岩盤地下水と中間層地下水との連
続性は低いと考えられるため,影響は少ないと予測される。また,付近に
は,α18滝,α19滝及び一部土かぶりの薄い箇所も存在するが,工事
に先立ち詳細な地質・地下水調査を行い,ゆう水の程度を予測し,施工法
及び止水対策工の検討を行うとともに,施工中には水平ボーリング等の施
工中調査を実施し,ゆう水箇所及び地質性状の確認を行い,最適施工法及
び止水対策工へ反映させるため,影響は少ないと予測される。
エ影響の程度(工事の施工後)
表流水への恒常的な影響は,計画路線西方約4キロメートルにあるα2
4地区における類似事例調査によると,特別な止水対策を講じない場合に
は,渇水期において,若干の影響を生じる可能性がある。しかし,工事の
施工中における十分な止水対策工,さらにインバート,ゆう水処理工等を
施工し,トンネル覆工内のゆう水を防止する等の特別な止水対策を講じる
ため,不圧地下水及び表流水への影響は軽微なものにすることができると
考える。
(4)高尾山トンネルの工事等について
平成19年5月,高尾山トンネルの掘削工事が開始されたところ,同年1
0月,高尾山トンネルの南側坑口付近の沢の水枯れの現象が発生するととも
に,平成20年3月に,α25沢の水枯れ等の現象が発生した。(甲C53,
甲C54,甲C76,甲C77の1・2,甲I3の1ないし3,甲I9,甲
I10の1ないし3,乙C19)
6本件各事業が高尾山等の景観に及ぼす影響について
(1)本件環境影響評価1においては,圏央道の建設による周辺地域の景観に及
ぼす影響につき,現地踏査及び写真撮影によるフォトマップの作成等により
地域景観の特性が調査されるとともに,地形図,観光レクリェーション等に
関する既存資料に基づいて代表的な眺望地点が選定され,その眺望の状況を
写真撮影する方法により調査されている。そして,調査の結果,「事業の実
施に伴い,近景域における視野の変化の他,ある程度の人工構造物の付加に
よる現況景観の変化が生じる。しかし,事業実施に当たっては,道路構造型
式(換気塔を含む),デザイン,色彩等について各種調査をして,詳細な設
計を行うとともに,構造物の設置される箇所の自然的,歴史的,文化的条件
を十分検討し,必要に応じて専門家の意見を設計に反映することにより,構
造物が本来持つべき機能と,視覚的機能を調和させ,これら構造物が美しい
国土の一部を構成するよう十分な景観的配慮を行っていく。また,盛土・切
土のり面,環境施設帯等には速やかに樹林による緑の創造を図る。この場合,
樹林自身が人々に安らぎと憩いを与える自然景観の一部となる。さらに樹林
の高さや位置関係に応じて道路構造物,遮音壁等の人工構造物の全体もしく
は一部を視界から覆い隠すことにより,道路と周辺景観との融合を図る。以
上のことから,計画路線による景観への影響は少ないと考える。」と評価さ
れている。なお,本件環境影響評価1においては,高尾山トンネルにつき,
「高尾山周辺からα26川にかけての地域は,山と谷筋の集落からなる自然
に恵まれた地域であるが,この区間の約7割をトンネル構造で計画しており,
自然的景観の主な構成要素である山地の森林は大部分が保全されることか
ら,このトンネル区間では景観の変化は生じない」と評価されている。(乙
13の11)
(2)本件環境影響評価2においては,圏央道の建設による周辺地域の景観に及
ぼす影響につき,計画路線沿いの現地踏査により地域景観の特性が調査され,
地形図,観光レクリェーション等に関する既存資料に基づいて代表的な眺望
地点が選定され,その眺望の状況を写真撮影する方法により調査されるとと
もに,現地踏査に基づいて圧迫感の状況が調査されている。そして,調査の
結果,「八王子南インターチェンジの建設が予定されている一般国道20号
沿いの地域は,市街化が進んでおり人工的景観要素を多く含んでいる。また,
インターチェンジを設置しても,周辺に広がる山地景観は維持されることか
ら,切土のり面,環境施設帯等の計画路線区域内の植栽可能な部分に,地域
にあった適切な構成種を中心とする植樹等により修景を行い,橋梁の色彩や
形状が周辺の景観と調和するように配慮することにより,景観への影響の程
度を小さくすることが可能と考えられる。換気塔については,広大な山地部
のわずかな部分であり,周辺部から眺望されない位置にあることから影響は
ないと考えられる。以上のことから,計画路線の設置が周辺の景観に与える
影響は少ないものと考えられる」と評価されている。(乙13の8)
7本件各事業の施行による大気汚染について
(1)ア本件各環境影響評価においては,大気汚染につき一酸化炭素,二酸化窒
素及び二酸化いおうを対象物質として,現況調査を行った上で,将来の排
出量の予測を行っている一方で,SPMについては対象物質とはされてい
ない。他方,本件各環境影響照査においては,大気汚染につき一酸化炭素,
二酸化窒素及び二酸化いおうを対象物質として,将来の排出量の再予測を
行うとともに,本件環境影響照査3においてSPMの将来の排出量予測を
行っている。(乙3の3,乙3の5,乙13の8,乙13の11,乙13
の14)
イ現況調査について
本件各環境影響評価においては,上記に述べたとおり,予測を行う前提
として現況調査が行われているところ,大気質については,春,夏,秋及
び冬の各季節につき,それぞれ1週間ずつ,一酸化炭素,一酸化窒素及び
二酸化窒素並びに二酸化いおうの測定が行われている。そのうち,一酸化
窒素及び二酸化窒素の測定に当たっては,ザルツマン試薬を用いる吸光光
度法が使用されている。また,上記現況調査においては,春,夏,秋及び
冬の各季節につき,それぞれ1か月間ずつ,気象の状況が調査されている。
さらに,本件環境影響評価1においては,接地逆転層の形成状況について
も現地調査の対象とされ,予測及び評価の基礎資料とされる一方,本件環
境影響評価2及び本件環境影響評価3においては,上記本件環境影響評価
1における現地調査の結果と気象庁による調査結果とを比較するなどし
て検討が行われている。(乙13の8,乙13の9,乙13の11,乙1
3の14,乙13の15)
ウ大気汚染に係る環境基準について
(ア)平成5年法律第92号による廃止前の公害対策基本法(以下「旧公
害対策基本法」という。)9条及び環境基本法16条1項に基づいて
定められた大気汚染に係る環境基準である「大気の汚染に係る環境基
準について」(昭和48年環境庁告示第25号)では,次のとおり定
められている。(乙E26)
a一酸化炭素
1時間値の1日平均値が10ppm以下であり,かつ,1時間値
の8時間平均値が20ppm以下であること。
b二酸化いおう
1時間値の1日平均値が0.04ppm以下であり,かつ,1時
間値が0.1ppm以下であること。
cSPM
1時間値の1日平均値が0.10ミリグラム/立方メートル以下
であり,かつ,1時間値が0.20ミリグラム/立方メートル以下
であること。
(イ)旧公害対策基本法9条及び環境基本法16条1項に基づいて定め
られた大気汚染に係る環境基準のうち,二酸化窒素に係る基準である
「二酸化窒素に係る環境基準について」(昭和53年環境庁告示第3
8号)では,「1時間値の1日平均値が0.04ppmから0.06
ppmまでのゾーン内又はそれ以下であること」を環境基準とする旨
定められている。(乙E26)
エ本件各環境影響評価及び本件各環境影響照査における予測手法
(ア)本件環境影響評価1においては,一般部及び八王子ジャンクション
部の大気汚染の予測手法として,有風時(風速が1メートル/秒を超
える場合)にプルームモデル,静穏時(風速1メートル/秒以下)にパ
フモデルを用いており,これらのモデルは,建設省技術指針及び東京
都技術指針において採用されている予測手法である。プルームモデル
及びパフモデルは,拡散計算による予測方法のうち,風速の鉛直分布
をモデル化したり,拡散係数が一定であると仮定するなど条件を単純
化した上で,風の流れ及び拡散を考慮した汚染物質の質量保存に関す
る微分方程式を解き,その解を利用して濃度を求める手法の一種であ
る。そして,本件環境影響評価1においては,後述するα1地域を対
象とした風洞実験を実施した上で,「一般的に複雑地形における拡散
については,地形等による気流の乱れにより拡散が促進されるとされ
ており,また,接地逆転層の影響についても設定した拡散巾に反映さ
れていると考えられるため,プルームモデル,パフモデルでの予測は
適切なものと考える」と結論付けられている。ただし,トンネル坑口
部からの排出ガスの拡散予測については,静穏時には噴流モデルが,
有風時には噴流モデル及び等価排出強度モデルが用いられている。
また,本件環境影響評価2及び本件環境影響評価3における大気汚
染の予測についても,トンネル坑口部からの排出ガスの拡散予測以外
についてはプルームモデル及びパフモデルが,トンネル坑口部からの
排出ガスの拡散予測については噴流モデル及び等価排出強度モデル
が用いられている。
(甲E5,甲E6,甲E14の1・2,甲E23の1,乙3の3,乙
13の8,乙13の11,乙13の14,乙E5,乙E6)
(イ)本件環境影響評価1においては,複雑地形下での拡散,特に冬季静
穏な夜間に形成される接地安定層ないし接地逆転層内の拡散現象を
把握するため,実際の地形,気流の状態,温度分布等を再現すること
を目的とした風洞実験が行われた。同実験においては,高尾山トンネ
ルから八王子ジャンクションを経てα13城跡トンネルに至る4.2
平方キロメートル四方の地域について縮尺を1500分の1とする
地形模型を作成した上で,実験が行われた。この地形模型は,熱伝導
性が良いアルミ製とし,模型裏側には銅パイプを配管し,冷却機付き
恒温槽から供給される冷却水により十分な冷却が得られるようにす
ることにより,接地安定層ないし接地逆転層を再現することができる
構造とされていた。また,気象条件(風向風速,接地安定層の強さ,
接地安定層高度等)については,昭和60年から昭和61年の冬季に
行った現地観測における接地安定層出現時の結果を基にして設定し,
接地安定層高度,接地安定層の強さについては,「産業公害総合事前
調査における大気に係る環境濃度予測手法マニュアル」を参考にして
分類した。その上で,本件環境影響評価1は,風洞実験による数値と
プルーム・パフモデルによる計算値とを相関分析するなどして補正係
数を設定し,これでプルーム・パフモデルによる計算値を補正した場
合(接地安定層の影響や地形効果を考慮した場合)と補正しない場合
を比較し,「年平均濃度に対する接地安定層の影響や地形の効果は,
NO2で0.001ppm以下のレベルであり,濃度分布パターンも
ほとんど一致している。従って,「評価書案」に基づいたプルーム・
パフモデルを当地区における年平均値の予測・評価に適用しても問題
はないものと考えられる。」と結論付けている。(乙13の12)
(ウ)本件各環境影響照査においても,大気汚染の予測方法として,上記
(ア)に述べたのとおおむね同様の方法が採用されている。(乙3の3,
乙3の5)
オ本件各環境影響評価及び本件各環境影響照査における予測条件
(ア)日交通量
a本件環境影響評価1においては,予測に用いる日交通量として,
平成12年の計画交通量が採用されており,そのうち,八王子南イ
ンターチェンジから八王子ジャンクションまでの計画交通量は,3
万7000台/日とされている。(乙13の11)
b本件環境影響評価2においては,予測に用いる日交通量として,
平成22年の計画日交通量が採用されており,八王子南インターチ
ェンジ以北の計画交通量は4万0300台/日,八王子南インター
チェンジ以南の計画交通量は4万0800台/日とされている。
(乙13の8)
c本件環境影響評価3においては,予測に用いる日交通量として,
平成22年の計画日交通量が採用されており,10か所について,
本線部で2万1100台/日から4万6900台/日まで,街路部
で最大1万0500台/日とされている。(乙13の14)
d本件各環境影響照査においては,平成42年における将来交通量
の予測値を前提にしているところ,その予測値は,圏央道の城山イ
ンターチェンジから八王子南インターチェンジまでが4万240
0台/日,八王子南インターチェンジから八王子ジャンクションま
でが4万1600台/日とされている。また,本件環境影響評価3
に対応する区間の予測値は,2万台/日から4万9500台/日と
されている。(乙3の1)
(イ)平均走行速度
a本件環境影響評価1においては,平均走行速度について,「通常,
道路を走行する車は,設計速度の範囲内で設定される規制速度を遵
守する」とした上で,規制速度の上限値と考えられる設計速度であ
る本線80キロメートル/時,ランプ40キロメートル/時とされ
ている。(乙13の11)
b本件環境影響評価2においては,平均走行速度について,「設計
速度及び道路交通法施行令に定める最高速度を考慮」した上で,八
王子南インターチェンジ以北が小型車,大型車ともに本線80キロ
メートル/時,八王子南インターチェンジ以南が小型車100キロ
メートル/時,大型車80キロメートル/時,ランプについては小
型車,大型車ともに40キロメートル/時とされている。(乙13
の8)
c本件環境影響評価3においては,平均走行速度について,計画路
線の本線部については道路交通法施行令に定める全車種60キロ
メートル/時とし,街路部については全車種設計速度の40キロメ
ートル/時とされている。(乙13の14)
(ウ)バックグラウンド濃度
本件環境影響評価1においては,計画路線からの影響分を除く大気
汚染物質の濃度(バックグラウンド濃度)について,東京都において
各種施策が講じられることから低減することが予想されるとした上
で,現況調査結果を基に,固定発生源については将来も発生量は変わ
らないものとし,移動発生源については交通量の伸びと自動車排出ガ
ス規制の効果を考慮して設定されている。また,本件環境影響評価2
及び本件環境影響評価3においても,自動車排出ガス規制の効果を考
慮して排出係数が低減するとの前提でバックグラウンド濃度が設定
されている。(乙13の8,乙13の11,乙13の14)
(2)ア本件環境影響評価1は,工事の施工中の建設機械及び工事用車両による
排出ガスの影響は一時的であることなどを理由として影響が少ないとす
る一方,「工事の完了後の計画路線の利用交通に起因する排出ガスは,一
酸化炭素,二酸化窒素及び二酸化硫黄のいずれも評価の指標(環境基準)
を下回るため,影響は少ないと考える」と結論付けており,本件環境影響
評価2及び本件環境影響評価3においても,同様に工事完了後の計画路線
周辺の一酸化炭素,二酸化窒素及び二酸化いおうの濃度が環境基準を下回
る旨結論付けられている。また,本件各環境影響照査においても,計画路
線周辺の一酸化炭素,二酸化窒素及び二酸化いおうの濃度が環境基準に適
合する旨予測されているとともに,SPMの予測を行った本件環境影響照
査3において,対象地域のSPMの濃度が環境基準に適合する旨予測され
ている。(乙3の3,乙3の5,乙13の8,乙13の11,乙13の1
4)
イ二酸化窒素について
(ア)本件環境影響評価1は,12の予測地域における平成12年(ただ
しα3については平成7年)の二酸化窒素の日平均値(年間98パー
セント値)について,一般部が0.033ppmから0.050pp
m,トンネル坑口部が0.033ppmから0.048ppm,八王
子ジャンクション部が0.033ppmであり,1時間値の1日平均
値が0.04ppmから0.06ppmまでのゾーン内又はそれ以下
とする環境基準に適合する旨予測しており,上記一般部のうち,α3
については,日平均値(年間98パーセント値)が0.033ppm
であると予測している。(乙13の11)
(イ)本件環境影響評価2は,八王子南インターチェンジ部周辺における
平成22年の二酸化窒素の日平均値(年間98パーセント値)が0.
045ppmであり,1時間値の1日平均値が0.04ppmから0.
06ppmまでのゾーン内又はそれ以下とする環境基準に適合する
旨予測している。なお,本件環境影響評価2においては,影響が軽微
であること等を理由として,工事の施工中における大気汚染の予測は
行われていない。(乙13の8)
(ウ)本件環境影響評価3は,10の予測地点における平成22年の二酸
化窒素の日平均値(年間98パーセント値)が0.030ppmから
0.054ppmであり,1時間値の1日平均値が0.04ppmか
ら0.06ppmまでのゾーン内又はそれ以下とする環境基準に適合
する旨予測している。なお,本件環境影響評価3においては,影響が
軽微であること等を理由として,工事の施工中における大気汚染の予
測は行われていない。(乙13の14)
(エ)本件環境影響照査1は,α1地域を予測地域として,平成42年度
の二酸化窒素の日平均値(98パーセント値)が0.028ppmで
あり,1時間値の1日平均値が0.04ppmから0.06ppmま
でのゾーン内又はそれ以下とする環境基準を満足している旨予測し
ている。また,本件環境影響照査2は,八王子市α3町(以下,本件
各環境影響調査及び本件各環境影響照査との関係では単に「α3町」
という。)を予測地域として,平成42年度の二酸化窒素の日平均値
(98パーセント値)が0.032ppmであり,1時間値の1日平
均値が0.04ppmから0.06ppmまでのゾーン内又はそれ以
下とする環境基準を満足している旨予測している。さらに,本件環境
影響照査3は,10の予測地点における平成42年度の二酸化窒素の
日平均値(98パーセント値)が最大で0.050ppmであり,1
時間値の1日平均値が0.04ppmから0.06ppmまでのゾー
ン内又はそれ以下とする環境基準を満足している旨予測している。
(乙3の3,乙3の5)
ウSPMについて
(ア)本件環境影響評価1においては,SPMにつき,昭和58年3月に
被告東京都が策定した「東京地域公害防止計画」が「浮遊粒子状物質
は,固定発生源,移動発生源及び自然界に起因するもののほか,二次
的に生成されるものなど複雑多岐であるため,現状では,発生源別の
実態把握及び発生源と環境濃度との関係などについて未解明な部分
が残されている。環境基準の確保のためには,これらの調査研究を進
め,汚染予測モデルを開発し,削減手法を確立する必要がある」とす
る旨が指摘された上で,「自動車の走行に起因して発生する浮遊粒子
状物質は,その生成と移流,拡散及び二次生成粒子に係るメカニズム
が解明されていない。従って,発生源からの寄与を特定することがで
きない」として,予測の対象とされなかった。また,本件環境影響評
価2及び本件環境影響評価3においても,同様の理由により予測の対
象とされなかった。(乙13の8,乙13の11,乙13の12,乙
13の14)
(イ)本件各環境影響照査のうち本件環境影響照査3においては,予測地
点の一部について,SPMの濃度予測が行われ,いずれも環境基準に
適合する旨が予測されている。他方,本件環境影響照査3におけるそ
の余の予測地点並びに本件環境影響照査1及び本件環境影響照査2
においては,インターチェンジやジャンクションによる加速車線及び
減速車線が含まれる区間であることを理由に,SPMの濃度予測が行
われていない。なお,本件環境影響照査3において,SPMのバック
グラウンド濃度については,緩やかな減少傾向になっていることから
平成42年度においても大きな変化がないとされている。(乙3の3,
乙3の5)
8本件各事業の施行による騒音について
(1)ア本件各環境影響評価においては,騒音に係る現況調査を行った上で,工
事の施工中及び完了後の騒音の予測を行っている。そのうち本件環境影響
評価1においては,α3地域及びα1地域を含む9地域の道路交通騒音及
び13地域の環境騒音の現況調査を行うとともに,α3地域及びα1地域
を含む13の地域について工事完了後の道路交通騒音の予測を行っている。
また,本件環境影響評価2においては,α3町について一般環境騒音及び
道路交通騒音の現況調査が行われるとともに,工事完了後の道路交通騒音
の予測が行われている。さらに,本件環境影響評価3においては,α3町
を含む3地点の一般環境騒音及び4地点の道路交通騒音の現況調査が行わ
れるとともに,10の地点において工事完了後の道路交通騒音の予測を行
っている。なお,上記予測地域については,いずれもその概要について検
討が加えられている。(乙13の8,乙13の11,乙13の14)
イ騒音に係る環境基準について
(ア)旧公害対策基本法9条に基づく騒音に係る環境基準である「騒音に
係る環境基準について」(昭和46年5月25日閣議決定)(旧騒音
環境基準)においては,次のとおり定められている。なお,測定結果
の評価については,原則としてパーセント時間率騒音レベルのうち中
央値を採用するとされており,計量単位はホン(A)を用いるとされ
ている。また,下記の「昼間」,「朝夕」及び「夜間」の意義につい
ては,「騒音に係る環境基準について」(昭和46年9月20日環大
特第5号環境庁大気保全局長から各都道府県知事あて)において,昼
間は午前7時又は8時から午後6時,7時又は8時まで,朝は午前5
時又は6時から午前7時又は8時まで,夕は午後6時,7時又は8時
から午後9時,10時又は11時まで,夜間は午後9時,10時又は
11時から翌日の午前5時又は6時までの範囲内において都道府県知
事の定めた時間をいうものとされている。(甲F15,乙F2,乙F
4)
a道路に面する地域を除く環境基準値
AA地域(療養施設が集合して設置されている地域など特に静穏
を要する地域)
昼間45ホン(A)以下
朝夕40ホン(A)以下
夜間35ホン(A)以下
A地域(主として住居の用に供される地域)
昼間50ホン(A)以下
朝夕45ホン(A)以下
夜間40ホン(A)以下
B地域(相当数の住居と併せて商業,工業等の用に供される地域)
昼間60ホン(A)以下
朝夕55ホン(A)以下
夜間50ホン(A)以下
b道路に面する地域の環境基準値
A地域のうち2車線を有する道路に面する地域
昼間55ホン(A)以下
朝夕50ホン(A)以下
夜間45ホン(A)以下
A地域のうち2車線を超える車線を有する道路に面する地域
昼間60ホン(A)以下
朝夕55ホン(A)以下
夜間50ホン(A)以下
B地域のうち2車線以下の車線を有する道路に面する地域
昼間65ホン(A)以下
朝夕60ホン(A)以下
夜間55ホン(A)以下
B地域のうち2車線を超える車線を有する道路に面する地域
昼間65ホン(A)以下
朝夕65ホン(A)以下
夜間60ホン(A)以下
(イ)環境基本法16条1項に基づく騒音に係る環境基準である「騒音に
係る環境基準について」(平成10年環境庁告示第64号)(現騒音
環境基準)においては,次のとおり定められている。なお,騒音の評
価手法は,等価騒音レベルによるとされており,下記の昼間は午前6
時から午後10時までの間,夜間は午後10時から翌日の午前6時ま
での間とされている。(乙F1)
a道路に面する地域を除く環境基準値
AA地域(療養施設,社会福祉施設等が集合して設置されている
地域など特に静穏を要する地域)
昼間50デシベル以下
夜間40デシベル以下
A地域(専ら住居の用に供される地域)及びB地域(主として住
居の用に供される地域)
昼間55デシベル以下
夜間45デシベル以下
C地域(相当数の住居と併せて商業,工業等の用に供される地域)
昼間60デシベル以下
夜間50デシベル以下
b道路に面する地域の環境基準値
A地域のうち2車線以上の車線を有する道路に面する地域
昼間60デシベル以下
夜間55デシベル以下
B地域のうち2車線以上の車線を有する道路に面する地域及びC
地域のうち車線を有する道路に面する地域
昼間65デシベル以下
夜間60デシベル以下
幹線交通を担う道路に近接する空間
昼間70デシベル以下
夜間65デシベル以下
(2)ア本件環境影響評価1においては,工事の完了後とされた平成12年(た
だし,α3地域については平成7年)時点の道路交通騒音について,すべ
ての予測地域についてすべての時間区分において旧騒音環境基準に定めら
れた指標に適合する旨予測されている。そのうち,α3地域及びα1地域
については,次のとおり予測されている。(乙13の11)
(ア)α3地域
騒音予測値
朝(6時から7時)44ホン
昼間(10時から11時)44ホン
夕(19時から20時)42ホン
夜間(5時から6時)42ホン
考慮した騒音対策
東側に遮音壁(高さ3メートル)
地域の類型A(旧騒音環境基準)
車線数4
(イ)α1地域
騒音予測値
朝(6時から7時)52ホン
昼間(10時から11時)53ホン
夕(19時から20時)50ホン
夜間(5時から6時)49ホン
考慮した騒音対策
本線両側に遮音壁(高さ3メートル),環境施設帯(各20メー
トル),中央自動車道南側に遮音壁(高さ3メートル)
地域の類型A(旧騒音環境基準)
車線数4
イ本件環境影響評価2においては,α3町における,工事の完了後とされ
た平成22年時点の道路交通騒音について予測が行われ,次のとおり旧騒
音環境基準に定められた指標に適合する旨予測されている。(乙13の8)
騒音予測値
朝(6時から7時)52dB(A)
昼間(10時から11時)53dB(A)
夕(19時から20時)51dB(A)
夜間(5時から6時)50dB(A)
考慮した騒音対策
本線部:中央帯側遮音壁(高さ3メートル)
路肩側遮音壁(高さ4メートル)
ランプ部:路肩側遮音壁(高さ3メートル)
地域の類型A(旧騒音環境基準)
ウ本件環境影響評価3においては,工事の完了後とされた平成22年時点
の道路交通騒音について,すべての予測地点についてすべての時間区分に
おいて旧騒音環境基準に定められた指標に適合する旨予測されている。
(乙13の14)
エ本件環境影響照査1においては,α1地域における平成42年時点の道
路交通騒音について,次のとおり騒音の中央値(L50)及び等価騒音レ
ベルによる予測を行っており,すべての時間区分において旧騒音環境基準
及び現騒音環境基準に定められた指標に適合する旨予測されている。(乙
3の3)
(ア)中央値
朝49dB(A)
昼間49dB(A)
夕47dB(A)
夜間49dB(A)
考慮した騒音対策
本線両側に遮音壁(高さ3メートル,延長約1200メートル),
環境施設帯各20メートル,中央自動車道に遮音壁(高さ3メー
トル,延長約4400メートル)
地域分類A(旧騒音環境基準)
(イ)等価騒音レベル
近接空間・昼間(6時から22時)52dB(A)
近接空間・夜間(22時から6時)54dB(A)
背後地・昼間(6時から22時)52dB(A)
背後地・夜間(22時から6時)53dB(A)
考慮した騒音対策
本線両側に遮音壁(高さ3メートル,延長約1200メートル),
環境施設帯各20メートル,中央自動車道に遮音壁(高さ3メー
トル,延長約4400メートル)
地域分類A(現騒音環境基準)
オ本件環境影響照査2においては,α3町における平成42年時点の道路
交通騒音について,次のとおり騒音の中央値(L50)及び等価騒音レベ
ルによる予測を行っており,すべての時間区分において旧環境騒音基準及
び現騒音環境基準に定められた指標に適合する旨予測されている。(乙3
の3)
(ア)中央値
朝48dB(A)
昼間49dB(A)
夕47dB(A)
夜間46dB(A)
考慮した騒音対策
本線の路肩側に遮音壁(高さ4メートル,延長約400メートル),
中央帯側に遮音壁(高さ3メートル,延長約500メートル),
上り線路肩の一部に遮音壁(高さ5メートル+1メートル)及び
遮音壁(高さ3メートル)(延長約100メートル),ランプの
路肩側に遮音壁(高さ3メートル,延長約300メートル),八
王子南バイパスの路肩側に遮音壁(高さ4メートル,延長約30
0メートル),ランプ及び八王子南バイパスに環境施設帯各10
メートル
地域分類A(旧騒音環境基準)
(イ)等価騒音レベル
近接空間・昼間(6時から22時)60dB(A)
近接空間・夜間(22時から6時)54dB(A)
背後地・昼間(6時から22時)55dB(A)
背後地・夜間(22時から6時)51dB(A)
考慮した騒音対策
本線の路肩側に遮音壁(高さ4メートル,延長約400メートル),
中央帯側に遮音壁(高さ3メートル,延長約500メートル),
上り線路肩の一部に遮音壁(高さ5メートル+1メートル)及び
遮音壁(高さ3メートル)(延長約100メートル),ランプの
路肩側に遮音壁(高さ3メートル,延長約300メートル),八
王子南バイパスの路肩側に遮音壁(高さ4メートル,延長約30
0メートル),ランプ及び八王子南バイパスに環境施設帯各10
メートル
地域分類A(現騒音環境基準)
カ本件環境影響照査3においては,本件環境影響評価3において予測の対
象となった10地点について,平成42年時点の道路交通騒音の予測が行
われたところ,一部予測地点について追加の対策を講じることにより,旧
騒音環境基準及び現騒音環境基準に定められた指標に適合する旨予測され
ている。(乙3の5)
9本件各事業の施行による振動について
(1)本件各環境影響評価においては,振動につき,現況調査を行った上で,工
事の施工中及び完了後の振動の予測を行っている。そのうち本件環境影響評
価1においては,3地域の環境振動並びにα3地域及びα1地域を含む10
地域の道路交通振動について各現況調査を行うとともに,α3地域及びα1
地域を含む12の地域について道路交通振動の予測を行っている。また,本
件環境影響評価2においては,α3町について一般環境振動,道路交通振動
及び地盤卓越振動数の現況調査並びに道路交通振動の予測を行っている。さ
らに,本件環境影響評価3においては,α3町を含む3地点について一般環
境振動の,α3町を含む4地点について道路交通振動の,α3町を含む6地
点について地盤卓越振動数の各現況調査を行うとともに,9地点において道
路交通振動の予測を行っている。(乙13の8,乙13の11,乙13の1
4)
(2)道路交通振動に係る要請限度について
振動規制法16条1項並びに同法施行規則12条及び別表第2は,都道府
県知事(平成11年法律第87号による改正後は市町村長)が,これを超過
したときに道路管理者に対し道路交通振動の防止のための措置を執るべきこ
と等を要請する当該振動の限度(要請限度)を定めており,区域の区分が「第
1種区域」とされている区域の値は,昼間で65デシベル,夜間で60デシ
ベルと,「第2種区域」とされている区域の値は,昼間で70デシベル,夜
間で65デシベルとされている。なお,昼間は午前5時,6時,7時又は8
時から午後7時,8時,9時又は10時までの範囲内で,夜間は午後7時,
8時,9時又は10時から翌日の午前5時,6時,7時又は8時までの範囲
内で都道府県知事が定めた時間をいうものとされている。
(3)ア本件環境影響評価1においては,工事の完了後とされた平成12年(た
だし,α3地域については平成7年)時点の道路交通振動について,すべ
ての予測地域について,要請限度に定められた夜間における値を下回る旨
予測されている。(乙13の11)
イ本件環境影響評価2においては,α3町における,工事の完了後とされ
た平成22年時点の道路交通振動について予測が行われ,要請限度の値を
下回る旨予測されている。(乙13の8)
ウ本件環境影響評価3においては,工事の完了後とされた平成22年時点
の道路交通振動について,すべての予測地点についてすべての時間区分に
おいて要請限度の値を下回る旨予測されている。(乙13の14)
エ本件環境影響照査1においては,α1地域における平成42年時点の道
路交通振動について予測が行われ,要請限度の値を下回る旨予測されてい
る。(乙3の3)
オ本件環境影響照査2においては,α3町における平成42年時点の道路
交通振動について予測が行われ,要請限度の値を下回る旨予測されている。
(乙3の3)
カ本件環境影響照査3においては,本件環境影響評価3において予測の対
象となった9地点について,平成42年時点の道路交通振動の予測が行わ
れ,すべての予測地点についてすべての時間区分において要請限度の値を
下回る旨予測されている。(乙3の5)
10本件各事業の施行による低周波空気振動について
(1)本件環境影響評価1においては,低周波空気振動について「発生源も多岐
にわたっており,現在その発生機構等を解明する研究途上にあるため,現時
点において低周波空気振動の音圧レベルを定量的に予測する方法が確立され
ていない。したがって,ここでは現況調査で示した調査事例と本事業の内容
を対比することにより定性的に予測した」とした上で,「工事の完了後の低
周波空気振動は,既存資料から判断すると,一般環境中に多様に存在してい
る音圧レベルの範囲内にあるため,沿道住民の日常生活に支障のない程度の
ものと考える」と評価されている。また,本件環境影響評価2及び本件環境
影響評価3においても,同様の観点から定性的な予測が行われ,「一般環境
中に多様に存在している音圧レベルの範囲内にあるため,沿道住民の日常生
活に支障のないものと考える」旨評価されている。(乙13の8,乙13の
11,乙13の14)
(2)本件各環境影響照査においては,平成16年4月に国土交通省国土技術政
策総合研究所が取りまとめた「道路環境影響評価の技術手法(その2)」に
標準外項目として記載された予測方法に基づいて予測がされた。そのうち,
本件環境影響照査1においては,α1地域における平成42年時点の低周波
空気振動について予測が行われ,上記「道路環境影響評価の技術手法(その
2)」に記載された参考指標を下回る旨予測されている。また,本件環境影
響照査2においては,α3町における平成42年時点の低周波空気振動につ
いて予測が行われ,上記参考指標の値を下回る旨予測されている。さらに,
本件環境影響照査3においては,3地点について,平成42年時点の低周波
空気振動について予測が行われ,上記参考指標を下回る旨予測されている。
(乙3の3,乙3の5)
11本件各事業の施行によるオオタカへの影響について
(1)オオタカは,北半球の温帯から亜寒帯にかけて広く分布する森林性のタカ
であり,日本国内においては,主に関西以北で繁殖が多く確認されているが,
越冬期には西日本を含め全国的に分布している。日本国内における生息数に
ついては必ずしも明らかでないものの,近年,生息環境の変化や密漁によっ
て生息状況が悪化しているとの指摘があり,種の保存法4条3項並びに絶滅
のおそれのある野生動植物の種の保存に関する法律施行令1条1項及び別表
第1に定める国内希少野生動植物種とされている。(甲B12,甲B24)
(2)本件環境影響評価1においては,少なくともその評価の対象となった計画
路線の片側500メートル,幅1キロメートルの範囲について現地調査等を
行った上で,鳥類への影響について工事の施工中及び工事の完了後おおむね
10年の時点を対象時点として予測を行っている。そのうち,α3地域及び
α1地域については,当該区域内にその生息地域を限定する固有の種が確認
されていないことや,工事施工後も速やかに鳥類の生息環境が復元されるこ
とが予測されることなどから影響が少ないと考えられる旨予測されている。
(乙13の11)
(3)本件環境影響評価2においては,その評価の対象となった計画路線の片側
500メートル,幅1キロメートルの範囲について現地調査等を行った上で,
鳥類への影響について工事の施工中及び工事の完了後おおむね10年の時点
を対象時点として予測を行っている。そして,オオタカについては,「既存
資料によると,高尾山で記録がある。本種は,本州や北海道の山地の林で繁
殖し,秋冬には全国の平地から山地の林に生息する。現地調査においては,
α27橋付近で確認した。本種は,行動範囲の広いワシタカ類であり,現地
調査の確認時期が秋季,冬季であること,改変部周辺においては営巣は確認
していないことから,調査地域において営巣をしている可能性は低く,主に
餌場の一部として利用していると考えられる。また,計画路線は大部分がト
ンネル構造であり改変部分はトンネル坑口等の一部分であることから,主な
生息環境である森林の改変面積は周辺の広がりに比べると小さく,その主な
餌であるスズメ,キジバト等の小鳥類の大幅な個体数の減少は考えられない
ことから,影響は少ないと予測される」とされている。
また,本件環境影響評価3においても,その評価の対象となった計画路線
の片側500メートル,幅1キロメートルの範囲について現地調査等を行っ
た上で,鳥類への影響について工事の施工中及び工事の完了後おおむね10
年の時点を対象時点として予測を行っている。そして,オオタカについては,
上記調査区域のうち主要地方道八王子町田線より西側の地域に係る区域につ
いて,上記の本件環境影響評価2におけるのと同様の予測がされている。(乙
13の8,乙13の14)
(4)起業者らは,平成8年に八王子市α15地区周辺においてオオタカの営巣
が確認されたことから,同年11月,「X13」を設置して,同地区におけ
るオオタカの生息状況等を調査するとともに,平成10年1月に「オオタカ
との共生をめざして」と題する文書を,同年10月に「オオタカとの共生を
めざして・その2」と題する文書をそれぞれ公表した。そして,起業者らは,
その後もオオタカの生息状況等の調査を継続するとともに,圏央道に係る工
事に当たり,高さを伴うクレーン作業や大きな騒音を伴う工事をオオタカの
繁殖期に行う場合には,オオタカの行動を監視し,状況によっては作業を中
断するなどの措置を講じた。(甲B14,乙B1ないし乙B5)
12本件事業認定に係る手続について
(1)起業者らは,平成17年7月22日,本件事前説明会を開催した。事前に
公告された開催予定時間は同日午後7時から午後9時までであったが,当日
は,午後7時から午後9時48分までの間,本件事前説明会が開催された。
本件事前説明会においては,起業者らが資料を配付するなどして本件各事業
の目的及び内容等について説明した後,出席者との間で質疑応答が行われた。
なお,起業者らは,本件事前説明会においてされた本件各事業の目的及び内
容についての質問を踏まえ,「今後の事業予定について」等の27項目につ
いて起業者らの見解を記載した文書を相武国道事務所のウェブサイトに掲載
した。(甲J37の1,甲J37の7,乙1,乙4の1の1ないし3,乙4
の2の1・2,乙4の3,乙J32,乙J33,原告X14本人)
(2)国土交通大臣は,平成17年11月17日に八王子市民会館において,同
月19日及び20日に八王子市芸術文化会館において,それぞれ本件公聴会
を開催したところ,同月19日の本件公聴会において,社会資本整備審議会
の委員であるX15が意見の陳述を行った。(甲J37の1,甲J37の9,
乙6の3,原告X14本人)
(3)国土交通大臣は,平成18年2月13日付けで,土地収用法25条の2第
1項に基づき,社会資本整備審議会の意見を求めたところ,同審議会は,同
年4月7日付けで,国土交通大臣に対し,本件各事業の事業の認定をすべき
であるとする国土交通大臣の判断を相当と認める旨の意見書を提出した。同
審議会は,公共用地分科会の意見をもって,同審議会の上記意見としている
ところ,当該意見が述べられた当時の公共用地分科会の委員の氏名,職業等
は,次のとおりである。(甲J37の9,乙7の1・2,乙J1)
アX16(東京都立大学教授(行政法))
イX17(社団法人X18専務理事)
ウX19(横浜国立大学教授(都市計画等))
エX20(X21大学教授(民法等))
オX22(X23株式会社取締役共同会長)
カX24(弁護士)
キX25(都市ジャーナリスト)
(4)国土交通大臣は,平成18年4月21日,土地収用法26条1項に基づき,
本件事業認定につき官報により告示するとともに,同日ころ,本件事業認定
に係る事業の認定をした理由,公共用地分科会の議事要旨及び「意見書及び
公聴会における主な反対意見の要旨と当該意見に対する事業認定庁の見解と
を併記した意見対照表」を国土交通省のウェブサイトで公開した。本件事業
認定に係る事業の認定をした理由においては,同法20条1号ないし4号の
要件への適合性について検討が加えられており,そのうち同条3号の要件へ
の適合性に関しては,本件各事業によって得られる公共の利益,失われる利
益,事業計画の合理性について検討が加えられている。(乙8,乙9の1の
1・2,乙9の2)
13(1)本件各裁決に係る審理を担当した東京都収用委員会の会長であるX2
6は,平成12年3月まで特別区人事・厚生事務組合の法務部長の職にあり,
特別区の訴訟に係る事務を担当していた。また,同人は,国土交通省総合政
策局総務課土地収用管理室が平成19年3月ころに設置した「土地収用制度
における事業認定の法的効果の早期確定に向けた検討会」の委員に就任して
いる。(争いのない事実)
(2)本件各裁決に係る審理を担当した東京都収用委員会の会長代理であった
X27は,平成12年度に被告東京都の都市計画局長の,平成13年度に被
告東京都の建設局長の職にあったとともに,東京都都市計画審議会委員,八
王子市都市計画審議会委員,国土交通省が所管する社団法人X28協会の理
事に就任するなどの経歴を有している。(争いのない事実)
14本件各裁決に至る経緯
(1)審理の開始までの経緯
ア起業者らは,平成18年12月5日,東京都収用委員会に対し,本件各
申請をした。
イ東京都収用委員会は,本件各申請に係る土地の所有者及び関係人(以下
「本件権利者ら」という。)に対し,平成18年12月18日以降,土地
収用法42条1項及び47条の4第1項に基づき,本件各申請があった旨
を通知するとともに,八王子市長に対し,同月20日付けで,本件各申請
に係る裁決申請書及び明渡裁決申立書等の写しを送付した。八王子市長は,
同法42条2項及び47条の4第2項に基づき,平成19年1月9日,本
件各申請がされたこと等を公告し,公告の日から2週間関係書類を公衆の
縦覧に供するとともに,東京都収用委員会に対し,同日付けで,同法42
条3項及び47条の4第2項に基づき,上記公告をした日の報告をした。
(丙7の1ないし5,丙8の1ないし5)
ウ東京都収用委員会は,土地収用法45条の2に基づき,平成19年2月
15日,本件各申請について裁決手続を開始する旨を決定し,同月16日,
八王子登記所に対し,本件各土地に係る裁決手続開始の登記を嘱託し,同
登記を経るとともに,同年3月7日付け東京都公報においてその旨を公告
した。(丙9の1ないし5(枝番を含む。))
エ東京都収用委員会は,平成19年3月15日,本件各土地について現地
視察を実施した。(弁論の全趣旨)
(2)東京都収用委員会は,本件各申請の審理を併合した上で,次のとおり審理
をした(なお,以下,本件裁決1,本件裁決2,本件裁決3,本件裁決4及
び本件裁決5に係る収用事件についてそれぞれ「▲号事件」,「▲号事件」,
「▲号事件」,「▲号事件」及び「▲号事件」という。)。
ア第1回期日について
(ア)本件権利者らの代理人であるX29弁護士,原告X30の当時の代
表代行であり本件権利者らの一人でもある原告X31,原告X32事
務局であり本件権利者らの一人でもある原告X33らは,平成19年
1月22日,「意見書」と題する文書(甲J1)及び「申し入れ」と
題する文書(丙10)を東京都収用委員会に提出し,本件各申請の却
下,徹底した審理の実施,八王子市内の会場で審理期日を実施するこ
と,審理期日の事前協議等について申入れをした。(甲J1,丙10,
丙12の1ないし3)
(イ)東京都収用委員会は,平成19年2月15日ころ,X29弁護士,
原告X31及び原告X33に対し,第1回及び第2回期日の場所を八
王子市内の会場とすること,第1回期日は同年4月26日午後1時3
0分からとするが,同月23日を予備日とすることを書面により通知
するとともに,予備日における期日の実施を希望する場合には同年2
月28日までに書面で申し出ることを文書により要請した。この際,
東京都収用委員会は,同年5月31日午後1時30分から第2回期日
を予定していること,その予備日として同月24日を予定しているこ
とも併せて通知した。
これに対し,X29弁護士らは,同年2月26日ころ,同月23日
付けの「進行に関する抗議書及び要求書」と題する文書(丙12の1)
等を東京都収用委員会に提出し,審理の期日等について本件権利者ら
と再度協議することなどを求めた。(丙11,丙12の1ないし3)
(ウ)東京都収用委員会は,本件各申請について起業者らから意見を聴取
することを目的として,本件各申請に係る審理の第1回期日を平成1
9年4月26日に行うことを決定し,同年3月13日ころ,土地収用
法46条2項に基づき,本件権利者らに対し,審理の期日及び場所等
を通知した。また,東京都収用委員会は,同月23日ころ,第2回期
日について,予定を同年5月31日とし,予備日を同月24日として,
予備日における期日の実施を希望する場合には同年4月13日までに
書面で申し出るよう求めるとともに,本件権利者らのうち第2回期日
以降の審理での発言を希望する者は発言内容及び発言時間等を記載し
た意見書を同日までに提出するよう求める書面を,起業者らからの本
件各申請に係る意見書の写しとともに本件権利者ら及び本件権利者ら
の弁護士代理人に送付した。
これに対し,X29弁護士らは,同日付けの「進行に関する抗議書
及び要求書」と題する文書(丙15)を東京都収用委員会に提出し,
第1回及び第2回期日の指定を撤回し,今後の審理の進行及び審理内
容について事前に本件権利者らと協議することなどを求めた。(丙1
3の1ないし5,丙14の1,丙14の2の1ないし5,丙15)
(エ)東京都収用委員会は,平成19年4月26日午後1時31分から午
後4時32分までの間,本件各申請に係る審理の第1回期日を八王子
市芸術文化会館において実施した。
同期日においては,審理の冒頭に,本件権利者らから審理の進行方
法等について意見が述べられた後,起業者ら復代理人らから,本件各
申請の内容等についての意見が述べられた。
また,起業者ら復代理人らからの説明終了後に,X29弁護士らか
ら,審理の進行方法等について意見が述べられ,その中で,X27の
委員としての適格性について意見が述べられたところ,X26から,
X27に委員からの除斥事由に該当する事由はない旨の発言があった。
そして,X26は,審理終了時に,第2回期日について,同年5月
31日に八王子市民会館で開催すること,弁護士代理人から意見聴取
を行うこと及び審理での陳述について「4月13日までの間に私ども
のほうにいただいた発言希望のうち,その内容について記載されてい
るものは弁護士代理人に委任された方を含めて数通でありました。内
容が記載されていないもの等については,5月18日までに補足した
書面を収用委員会事務局まで提出していただくようにお願いいたしま
す。」と発言した。(丙13の1ないし5,丙16)
イ第2回期日について
(ア)弁護士代理人らは,平成19年5月11日付けで,「進行に関する
抗議書及び要求書」と題する文書(甲J3)を東京都収用委員会の会
長であるX26あてに提出し,X27に本件各申請に係る審理に関与
させないことなどを求めた。(甲J3)
(イ)東京都収用委員会は,平成19年5月31日午後1時30分から午
後5時22分までの間,本件各申請に係る審理の第2回期日を八王子
市民会館において実施し,弁護士代理人らから意見聴取をした。
上記期日において,弁護士代理人4名が発言し,X26及びX27
の委員としての適格性や本件事業認定の違法性等について意見を述べ
た。この際,X26は,同人及びX27並びにその他の委員の経歴が
理由で審理が公平性を失うことはない旨の発言等をした。
また,弁護士代理人であるX34弁護士は,当初予定されていた終
了時刻である午後5時の数分前ころから,収用の対象となった土地の
区域及び損失の補償等について意見を述べ始めた。これに対し,X2
6は,審理時間を午後5時40分まで延長して意見を聴取することと
したが,X34弁護士が,発言時間が不十分である等として,次回の
期日の冒頭に再度意見を述べることを求めるなどしたため,発言者席
のマイクの電源を切るよう指示するなどして発言を中止させた。その
上で,第2回期日の残りの時間でX34弁護士の意見を聴取すること
はできないと考えるとし,弁護士代理人らに対し,追加する意見があ
る場合には意見書で提出することなどを求め,弁護士代理人からの意
見聴取を終了した。
そして,X26は,上記意見聴取終了後,▲号事件,▲号事件及び
▲号事件の弁護士代理人に委任していない本件権利者らについて,土
地及び物件を共有しており共同の利益を有すると判断されるとして,
土地収用法65条の2第7項に基づき同条1項に定める代表当事者を
選定すべきことを勧告するとともに,第3回期日を同年7月9日とし,
予備日を同月12日とすること,第4回期日を同年8月6日とし,予
備日を同月2日とすることを述べ,予備日における期日の実施を希望
する場合には同年6月13日までに書面で提出することを求める趣旨
の発言をした。(丙16,丙17)
ウ第3回期日について
(ア)弁護士代理人らは,平成19年6月1日付けで,「第2回公開審理
の進行に関する抗議書及び要求書」と題する文書(甲J4)を東京都
収用委員会の会長であるX26あてに提出し,その中でX26及びX
27に本件各申請に係る審理に関与させないことなどを求めた。(甲
J4)
(イ)東京都収用委員会は,第3回期日を平成19年7月9日午後2時か
ら開始すること,▲号事件,▲号事件及び▲号事件の弁護士代理人に
委任していない土地所有者及び関係人のうち発言内容を明らかにして
発言を希望した者から意見を聴取することを決定し,同年6月22日
ころ,本件権利者らに通知した。(丙18の1ないし5,丙19)
(ウ)東京都収用委員会は,平成19年7月9日午後2時03分から午後
5時54分までの間,本件各申請に係る審理の第3回期日を東京都庁
第二本庁舎1階二庁ホールにおいて実施した。
上記期日において発言を行った本件権利者ら及び弁護士代理人らは,
主にX26及びX27の委員としての適格性を問題とし,その辞任を
求める発言又は審理の指揮方法等について非難する趣旨の発言をした。
他方,X26は,土地収用法52条3項の趣旨を説明するなどして辞
任には応じる意思がない旨発言するとともに,土地の区域及び損失の
補償について意見を述べるよう繰り返し求めたが,本件権利者ら及び
弁護士代理人は,その点に関する意見を述べなかった。
そして,X26は,第4回期日について同年8月6日午後2時に東
京都庁第二本庁舎1階ホールで開催すること並びに▲号事件及び▲号
事件の弁護士代理人に委任していない本件権利者らから意見聴取を行
うことを伝えるとともに,審理を終えるに当たって,本件権利者らに
対し,本日の発言に追加する意見があれば意見書として提出するよう
求める趣旨の発言をした。
なお,X26は,第2回期日において発言することができなかった
分としてX34弁護士が発言を求めた際に,これを認めず,発言を制
止した。(丙18の1ないし5,丙20)
エ第4回期日について
(ア)東京都収用委員会は,本件各申請に係る審理の第4回期日を平成1
9年8月6日午後2時から開始し,その中で▲号事件及び▲号事件の弁
護士代理人に委任していない本件権利者ら等からの意見陳述をさせる
旨決定し,平成19年7月13日ころ,本件権利者らに通知した。(甲
J6)
(イ)弁護士代理人らは,平成19年7月23日付けで「X26会長の辞
任要求及び進行に対する抗議並びに意見陳述の要求書」と題する文書
(丙21)を東京都収用委員会に提出し,▲号事件及び▲号事件に係る
収用の対象となる土地の区域についての発言内容を明らかにした上で,
審理での発言を求めた。これに対し,東京都収用委員会は,第4回期日
において1時間程度の発言を認めることとし,平成19年7月27日付
けで,その旨の通知を行った。(丙21,丙22)
(ウ)東京都収用委員会は,平成19年8月6日午後2時00分から午後
5時25分までの間,本件各申請に係る審理の第4回期日を東京都庁第
二本庁舎1階二庁ホールにおいて実施した。
X26は,まず,▲号事件につき,原告X35の代理人であるX36
弁護士より発言を求める申出があったのでこれを認め,その後,同代理
人X37弁護士から意見を聴取した。次に,▲号事件の権利者からの意
見聴取として,原告X33が発言をしたところ,同人は,▲号事件に係
る弁護士代理人に発言させることを事前に通知しなかったこと等につ
いて異議を述べるなど審理の進行についての意見を述べた。その後,X
26は,原告X38,原告X39,原告X40の代理人である原告X4
1に対し発言を求めたものの,いずれも発言がなかったため,▲号事件
に係る発言希望者からの意見聴取を終了した。
次に,X26は,弁護士代理人の発言を認めたが,発言を行わなかっ
たため,追加して発言を述べることを希望する者の発言を認めることと
したところ,原告X33,原告X40の代理人である原告X41が収用
の対象となる土地の区域や損失の補償等について発言をした。
そして,X26は,上記の審理終了時に,収用委員会としては必要な
審理は終わったと考えているものの,なお発言希望もあることから,第
5回期日を行うこととするとし,その期日を同年9月13日とし,予備
日を同月20日とすると述べ,差し支えがある場合であっても調整して
出席するように求めた上,予備日における期日の実施を希望する場合に
は書面で提出するよう求める趣旨の発言をした。(甲J6,丙23)
オ第5回期日について
(ア)弁護士代理人らは,平成19年8月7日付けで,「第5回審理日程
に関する要求書」と題する文書(丙24)を東京都収用委員会に提出し,
第5回期日を同年10月4日にすることを求めた。これに対し,東京都
収用委員会は,本件各申請に係る審理の第5回期日を同年9月13日午
後2時から開始することを決定し,同年8月27日ころ,本件権利者ら
にその旨通知するとともに,同日ころ,X29弁護士に対し,代理人間
で調整の上,上記期日に出席するよう依頼する旨の文書を送付した。
(丙24,丙25の1ないし5,丙26)
(イ)東京都収用委員会は,平成19年9月13日午後2時00分から午
後6時51分までの間,本件各申請に係る審理の第5回期日を東京都庁
第二本庁舎1階二庁ホールにおいて実施した。
X26は,審理の冒頭,前回の第4回期日までで東京都収用委員会が
予定していた意見の聴取が終了したと述べた上で,なお土地の区域及び
損失の補償について発言を希望する者に,3時間の範囲で発言を認める
旨述べ,発言を求めたところ,本件権利者らのうち7名並びにX29弁
護士及びX34弁護士が発言をした。次に,原告X31が発言を求めた
ため,X26は,発言を認めたところ,原告X31は,次回の期日に発
言することを希望するとして発言を行わなかった。
その後,X26は,「もう一度確認しますけれども,ただいまこの時
間から,この場所でご発言をされる,意見を述べたいという方はおられ
ないですね。」,「次回ならば発言をしたいというのが皆さんの意見だ
ということですね。」と発言した上で,東京都収用委員会の他の委員と
合議し,その結果,審理を終了する旨述べるとともに,なお追加する意
見がある者に対し,同年10月3日までに意見書を提出することを求め
た。(甲J9,甲J10,丙25の1ないし5,丙27,丙29)
(3)東京都収用委員会は,平成19年10月9日から同月17日までの間,土
地収用法65条1項3号に基づく現地調査を実施し,本件各申請に係る事件
について,土地の区域,立木の樹種,胸高直径及び高さ等を調査した。(甲
J12ないしJ15,丙1の1ないし5,丙27)
(4)東京都収用委員会は,平成19年12月27日,本件各裁決をしたところ,
その内容は,次のとおりである。
ア本件裁決1(丙1の1,丙9の1の1ないし3)
(ア)収用する土地及び明け渡すべき土地の区域として,本件土地1ない
し本件土地3の所在,地番,地目,登記簿上及び実測による地積並び
に収用し,明け渡すべき土地の面積が掲記されている。なお,本件土
地2は旧×番4の土地から,本件土地3は旧×番7の土地から,それ
ぞれ平成19年2月16日に分筆されているところ,上記の分筆前の
旧×番4の土地及び旧×番7の土地については,所有者である原告X
40が境界立会いに協力し,境界の確認がされている。
(イ)土地に対する損失の補償として,原告X40に313万4196円,
土地の賃貸借による権利者にそれぞれ1万2689円,土地の転使用
貸借による権利者兼物件所有者には「なし」とされている。また,土
地に対する損失の補償以外の損失の補償は,原告X40,土地の賃貸
借による権利者,土地の転使用貸借による権利者兼物件所有者のいず
れに対しても「なし」とされている。
本件裁決1においては,起業者から収用の請求があった本件土地1
ないし本件土地3にある立木について,収用及び損失の補償について
検討が加えられており,上記立木の取得価格については,立木の市場
価格から伐採及び搬出に係る費用等を差し引いた額により見積もった
ところ市場価格を伐採及び搬出に係る費用等が上回るとして取得価格
を0円とした起業者の見積りと同一の額を算定し,いずれの立木につ
いても移転料が取得価格を超えることになるとして,土地収用法79
条に基づく収用の請求を認めるとともに,その補償額を0円としてい
る。
イ本件裁決2(丙1の2,丙9の2)
(ア)収用する土地及び明け渡すべき土地の区域として,本件土地4の所
在,地番,地目,登記簿上及び実測による地積並びに収用し,明け渡
すべき土地の面積が掲記されている。なお,本件土地4は,平成19
年2月16日に旧××番の土地から分筆されているところ,上記の分
筆前の旧××番の土地については,所有者である原告X35が境界立
会いに協力し,境界の確認がされている。
(イ)土地に対する損失の補償として,原告X35に対して88万866
8円とされるとともに,土地に対する損失の補償以外の損失の補償と
して,原告X35に19万5461円とされており,その内訳は,立
竹木の移転料が5万1030円,その移転雑費が14万4431円で
ある。
ウ本件裁決3(丙1の3,丙9の3)
(ア)収用する土地及び明け渡すべき土地の区域として,本件土地5の所
在,地番,地目,登記簿上及び実測による地積並びに収用し,明け渡
すべき土地の面積が掲記されている。なお,旧×××番の土地につい
ては隣地所有者との境界が確定されておらず,境界の位置等に争いが
あるものの,本件土地5は,平成19年2月16日に旧×××番の土
地から分筆されている。
(イ)本件裁決3は,現地調査及び八王子登記所における調査等から次の
事実を認定した。
a起業者が基本とした南側隣接地の南側境界線については,現地調
査において,尾根とほぼ整合しており,また,旧×××番の土地の
北側には水路があることを確認した。なお,起業者が南北方向の水
路とした箇所及び土地所有者らが主張する水路の位置についても,
それぞれ現況を確認した。
b八王子登記所に備えられている南側隣接地の地積測量図には,旧
×××番の土地の東西の位置を示す引き出し線状の記載があること
を確認した。
c八王子登記所における調査によると,南側隣接地は,昭和45年
の分筆前の旧△△番の土地の一部であった土地である。旧△△番の
土地は,八王子市が所有していた土地であり,昭和45年11月に
八王子市α2町△△番3から同番12までに分筆がされ,その後更
に同番8から分筆がされ,南側隣接地の各土地となったものである。
d八王子登記所に備えられている昭和45年の分筆登記の際の地積
測量図と南側隣接地とは整合している。
e起業者が境界特定の根拠とした,旧△△番の土地の地積測量図を
基に作成した平成19年7月27日付け起業者意見書の添付資料に
記載のある既存の境界くいは,いずれも尾根に沿って設置されてお
り,そのうち,石くい及びコンクリートくいについては,隣接する
無地番の土地を所管する林野庁が管理する区域を示す境界くいであ
った。
fα2町の公図によれば,旧△△番の土地は,北側で無地番の土地
と接し,水路を囲むような形状の土地である。
g旧×××番の土地に関する土地所有者らの主張について,旧××
×番の土地とともに旧△△番の土地が30メートルほど東側に移動
するとした場合,提出された座標値を基に「東京都縮尺2500分
の1の地形図」でその位置を確認すると,旧△△番の土地は,尾根
から大きくずれた位置に存することになる。
(ウ)本件裁決3は,本件土地5の区域及び境界について,起業者の基本
とした南側隣接地については,(イ)b及びdのとおり,地積測量図が備
えられており,また,(イ)a及びeのとおり尾根と整合しているとした
上で,これを基本とし,現地の地形,公図等を参考とした起業者の旧
×××番の土地の境界特定方法は妥当であると認められるとした。
(エ)土地に対する損失の補償として,本件裁決3の裁決書に記載された
土地所有者それぞれに対し,本件裁決3の裁決書に記載された金額と
し,土地に対する損失の補償以外の損失の補償として,土地所有者兼
関係人それぞれに対し「なし」とされている。
なお,本件裁決3においては,起業者から収用の請求があった本件
土地5にある立木について,収用及び損失の補償について検討が加え
られているところ,上記立木の取得価格については本件裁決1と同様
に取得価格を0円と算定した上で,いずれの立木についても移転料が
取得価格を超えることになるとして,土地収用法79条に基づく収用
の請求を認めるとともに,その補償額を0円としている。
エ本件裁決4(乙J29,丙1の4,丙9の4,丙14の2の4)
(ア)収用する土地及び明け渡すべき土地の区域として,本件土地5の土
地の地番は「△番又は無地番及び△番」とされており,収用する土地及
び明け渡すべき土地の区域は,本件圏央道事業については本件裁決4の
裁決書に添付された図面の「Y.1,Y.2,R-110-1,R-1
10-2及びY.1の各点を順次結んだ線分により囲まれた区域」とさ
れるとともに,本件八王子南バイパス事業については上記図面の「R-
110-1,Y.3,Y.4,K520,Y.5,R-110-2及び
R-110-1の各点を順次結んだ線分により囲まれた区域」とされて
いる。
(イ)起業者らは,本件裁決4の申請に当たり,△番の土地を次のとおり
特定した。
a△番の土地については,現地にくい等の境界を示すものが存在せず,
八王子登記所に地積測量図は備えられていなかった。また,△番の土
地所有者から境界立会いの協力を得ることができなかった。
b起業者らは,△番の土地が存在し得ると考えられる範囲を,△番
の土地の周囲の境界が確定している5か所を基点に,公図を参考して,
次のとおり特定した。基点とした5か所は,①八王子市α3町△△△
番2及び同番7の各土地,②α28川,③旧甲州街道である八王子市
α3町△△△番5の土地及び△△△番6の土地,④八王子市α3町△
△△番4南側部分の土地,⑤八王子市α3町△△△番4北側部分の土
地であり,これらの土地の現況をそれぞれ公図と一致させた場合の△
番の土地の位置を,別紙図面1の平面図1ないし5のとおり特定し,
その上で,これらの図面により特定した範囲内に△番の土地が存在す
るものと考え,上記図面により特定した△番の土地を1枚にまとめ
(別紙図面1の6枚目の平面図(5点復元図)),その外枠のポイン
トをそれぞれK520,Y.1,Y.2,Y.3,Y.4,Y.5として
座標計算を行い,土地調書を作成した。ただし,起業者らは,上記方
法により特定した範囲全部が△番の土地である場合も可能性として
はあると考え,全部が△番の土地である場合又は△番の土地と無地番
の土地が含まれる場合があることを土地調書に記載した。
(ウ)本件裁決4は,現地調査及び八王子登記所における調査等から次の
事実を認定した。
a△番の土地は,登記簿及び公図によれば,八王子市α3町△△△
番4及び同番7の土地の近隣で周囲を無地番の土地に囲まれた登記
簿上の面積39平方メートルの土地である。
b八王子登記所には,△番の土地の地積測量図はないが,周辺の土
地である八王子市α3町△△△番2及び同番4ないし同番9までの
土地の地積測量図は備えられている。
c△番の土地の西側には一級河川であるα28川,東側には旧国道
の廃道敷があり,これらの現況は現地で確認することができた。
d八王子市α3町△△△番4及び同番5の土地は,財務省及び被告
東京都の嘱託により保存登記が行われた後,占有者であるX42に
所有権移転登記が行われ,その後に同人から起業者に所有権移転登
記が行われている。
e東京都南多摩西部建設事務所に常備されている旧甲州街道の実測
図によれば,△番の土地の東側の旧国道の廃道敷が現況とともに表示
されており,これによれば,幅員が約8メートルであることが確認す
ることができる。
f土地所有者らの主張する△番の土地の面積は,提出された図面に
よれば900平方メートルを超えている。
g八王子市α3町△△△番2の土地については,平成13年9月1
2日に被告東京都により境界査定がされているが,△番の土地の所有
者らから提出された図面によると,その一部を△番の土地の一部とし
ている。
(エ)本件裁決4は,本件土地6の区域及び境界について,本件土地6に
係る公図は,正確な位置及び面積を示すものとはいえないとしても,
周辺の土地の配置等からおおむねの位置及び形状については参考にで
きると認められるとした上で,△番の土地の存する範囲について,公
図及び周辺の土地の地積測量図を参考にした起業者の特定方法を妥当
であると認め,境界については不明とした。
(オ)土地に対する損失の補償として,「土地所有者不明」とした上で,
本件土地6の区域のすべてが△番の土地に確定した場合には,本件裁
決4の裁決書に記載された土地所有者それぞれに対し,本件裁決4の
裁決書に記載された金額とし,本件土地6の区域が八王子市α3町無
地番の土地及び△番の土地に確定した場合には,国土交通省及び本件
裁決4の裁決書に記載された土地所有者に対し一括して442万88
64円とされた。
また,土地に対する損失の補償以外の損失の補償として,「土地所
有者兼関係人不明」とした上で,本件土地6の区域のすべてが△番の
土地に確定した場合には,本件裁決4の裁決書に記載された土地所有
者兼関係人それぞれに対し,本件裁決4の裁決書に記載された金額と
し,本件土地6の区域が八王子市α3町無地番の土地及び△番の土地
に確定した場合には,国土交通省及び本件裁決4の裁決書に記載され
た土地所有者兼関係人に対し一括して5万6320円とした。なお,
関係人であるX43株式会社に対しては,いずれの場合であっても「な
し」とされている。
さらに,本件裁決4においては,起業者から収用の請求があった本
件土地6にある立木について,収用及び損失の補償について検討が加
えられているところ,上記立木の取得価格については本件裁決1と同
様に取得価格を0円と算定した上で,いずれの立木についても移転料
が取得価格を超えることになるとして,土地収用法79条に基づく収
用の請求を認めるとともに,その補償額を0円としている。他方,起
業者から収用の請求がなかった立木について,その移転料及び移転雑
費の合計額を5万6320円としている。
オ本件裁決5(丙1の5,丙9の5)
(ア)収用する土地及び明け渡すべき土地の区域として,本件土地7の所在,
地番,地目,登記簿上及び実測による地積並びに収用し,明け渡すべき
土地の面積が掲記されている。なお,本件土地7は,平成19年2月1
6日に△△△番6の土地から分筆されているところ,隣地との境界は確
定しているものと認められる。
(イ)土地に対する損失の補償として,土地所有者である被告東京都に29
5万7095円とされている。また,土地に対する損失の補償以外の損
失の補償として,被告東京都に対し「なし」,本件裁決5の裁決書に記
載された立て看板を所有する者に対し,同裁決書に記載された金額とさ
れている。
第4第1事件及び第2事件に係る当裁判所の判断
1原告適格について
(1)行政事件訴訟法9条は,取消訴訟の原告適格について規定するが,同条1
項にいう処分の取消しを求めるにつき「法律上の利益を有する者」とは,当
該処分により自己の権利若しくは法律上保護された利益を侵害され,又は必
然的に侵害されるおそれのある者をいうのであり,当該処分を定めた行政法
規が,不特定多数者の具体的利益を専ら一般的公益の中に吸収解消させるに
とどめず,それが帰属する個々人の個別的利益としてもこれを保護すべきも
のとする趣旨を含むと解される場合には,このような利益もここにいう法律
上保護された利益に当たり,当該処分によりこれを侵害され又は必然的に侵
害されるおそれのある者は,当該処分の取消訴訟における原告適格を有する
ものというべきである。そして,処分の相手方以外の者について上記の法律
上保護された利益の有無を判断するに当たっては,当該処分の根拠となる法
令の規定の文言のみによることなく,当該法令の趣旨及び目的並びに当該処
分において考慮されるべき利益の内容及び性質を考慮し,この場合において,
当該法令の趣旨及び目的を考慮するに当たっては,当該法令と目的を共通に
する関係法令があるときはその趣旨及び目的をも参酌し,当該利益の内容及
び性質を考慮するに当たっては,当該処分がその根拠となる法令に違反して
された場合に害されることとなる利益の内容及び性質並びにこれが害される
態様及び程度をも勘案すべきもの(同条2項参照)と解される(最高裁平成
16年(行ヒ)第114号同17年12月7日大法廷判決・民集59巻10
号2645頁参照)。
以上を前提に,本件事業認定の取消しを求める訴えに関する原告適格につ
いて検討を加える。
(2)ア土地収用法は,憲法29条3条を根拠として,公共の利益となる事業に
必要な土地等の収用又は使用に関し,その要件,手続及び効果並びにこれ
に伴う損失の補償等について規定し,公共の利益の増進と私有財産との調
整を図り,もって国土の適正かつ合理的な利用に寄与することを目的とす
るものである(同法1条)。そして,同法26条1項に基づいて事業の認
定の告示がされると,起業地について明らかに事業に支障を及ぼすような
形質の変更を行うことが制限される(同法28条の3)一方で,起業者は,
同法の手続により土地の収用又は使用をすることができ(同法35条以下),
そのために,起業者に対し,事業の準備のため又は同法36条1項に定め
る土地調書及び物件調書の作成のための立入調査権(同法35条1項)が
与えられるとともに,収用又は使用の裁決の申請権(同法39条1項)が
与えられるなどの法的効果が発生する。
そうすると,起業地内の土地又は当該土地にある立木等に関して所有権
その他の権利を有する者は,違法な事業の認定がされれば,それによって
自己の権利を侵害され,又は必然的に侵害されるおそれが生ずることにな
るのであるから,事業の認定の要件等を定めた同法第3章の規定は,これ
らの者の利益をも保護することを目的とした規定と解することができる。
したがって,これらの者は,同章に定める事業の認定の取消しを求める訴
えの原告適格を有するものと解すべきである。
第2の3(1)に記載した事実によれば,第1原告ら,第2原告ら及び第3
原告らは,本件起業地内の土地又は当該土地にある立木等に関して所有権
その他の権利を有しているから,本件事業認定の取消しを求める訴えの原
告適格を有するというべきである。
イところで,原告らは,本件事業認定に係る事業の施行により破壊される
危険のある高尾山の自然環境及び自らの生活環境に係る人格権ないし環境
権を有する旨主張する者(第4原告ら)並びに高尾山の自然を保護するこ
と等を目的とする自然保護団体(第5原告ら)が原告適格を有する旨主張
する。そして,これらの各原告らについては,起業地内の土地又は当該土
地にある立木等に関して所有権その他の権利を有するものとは認められな
いところ,土地収用法の上記の規定に定められた法的効果が及ぶ範囲はい
ずれも起業地内の土地又は当該土地にある立木等の物件に限られ,したが
って,事業の認定によりその法律上の地位の影響を受ける者も起業地内の
土地又は当該土地にある立木等に関して所有権その他の権利を有する者の
みであるといわざるを得ないから,これらの各原告らについては,上記の
規定から,直接,法律上保護された個別的利益があるものと解することは
できない。
そこで,同法の趣旨及び目的並びに行政処分としての事業の認定におい
て考慮されるべき利益の内容及び性質を総合的に考慮して,上記の者につ
いて原告適格を認めることができるか否かについて更に検討するに,上記
に述べたように,同法は,公共の利益と個々人の具体的な私有財産につい
ての権利の調整を図ることを目的とするものであって,起業地内に具体的
な財産権を有しない者の権利利益を保護する趣旨及び目的を含むものと解
すべき根拠は見当たらず,このことは,同法第3章に定める事業の認定に
係る手続についても同様である。
そして,事業の認定をするための要件を定める同法20条のうち1号,
2号及び4号は,それぞれ,認定の対象となる事業について定める規定(1
号),起業者の事業を遂行する意思と能力について定める規定(2号),
土地の収用等をする公益上の必要について定める規定(4号)であって,
いずれも公益的見地から定められた要件と解するべきであり,これらの規
定を根拠に,同法が,原告らの主張する上記のような者の利益を個々人の
個別的利益としても保護すべきものとする趣旨を含むと解することはでき
ない。また,同条3号は,事業計画が土地の適正かつ合理的な利用に寄与
するものであることを事業の認定をするための要件とするところ,その文
言及び土地の適正かつ合理的な利用という事柄の性質に照らすと,この要
件を満たしているか否かを判断する際に考慮される諸事情の中には,起業
地内の土地又は当該土地にある立木等に関する個々人の財産的利益のほか,
当該起業地の属する地域や場合によってはその周辺等も含んだ広範な地域
の都市環境,居住環境等の種々の社会的な利益も含まれると解するのが相
当であり,このような社会的な利益は,当該起業地の属する地域の住民全
般,ひいては社会全体が享受する内容及び性質のものであって,既に述べ
た同法1条の規定の定める同法の目的等を併せ考慮すれば,事業の認定を
するに当たり申請に係る事業が満たすべき事項について定める同法20条
3号の規定は,公益的見地から一般的にこのような社会的な利益を保護し
ようとするものと解するのが相当であり,これを根拠に,同法が,原告ら
が主張する上記のような者の利益を個々人の個別的利益としても保護すべ
きものとする趣旨を含むと解することは,やはりできないものというべき
である。
また,同法に定める事業の認定に当たっては,①起業者は,あらかじめ,
国土交通省令で定める説明会の開催その他の措置を講じて,事業の目的及
び内容について,当該事業の認定について利害関係を有する者に説明しな
ければならないこと(同法15条の14),②国土交通大臣又は都道府県
知事は,事業の認定に関する処分を行おうとする場合において,当該事業
の認定について利害関係を有する者から公聴会を開催すべき旨の請求があ
ったときその他必要があると認めるときは,公聴会を開いて一般の意見を
求めなければならないこと(23条1項),③事業の認定について利害関
係を有する者は,一定の期間内に,都道府県知事に意見書を提出すること
ができること(25条1項)など,事業の認定について利害関係を有する
者等の手続への関与につき定めた規定はあるものの,これらの規定は,そ
の定める手続の内容及び効果,手続に関与し得るとされる者の範囲等に照
らすと,事業の認定を行うに当たり,起業地内の土地又は当該土地にある
立木等に関して所有権その他の権利を有する者にとどまらず,地域住民や
事業の認定について何らかの利害関係を有する者等の意見を広く収集して,
できる限り公正妥当な事業の認定を行おうという公益的な目的に基づいて
定められたものと解するのが相当であり,これらの規定をもって,同法が,
原告らが主張する上記のような者の利益を個々人の個別的利益としても保
護すべきものとする趣旨を含むと解することは,できないものというべき
である。
さらに,環境影響評価法又は東京都環境影響評価条例が,行政事件訴訟
法9条2項にいう「当該法令と目的を共通にする関係法令」に当たるか否
かを検討するに,環境影響評価法1条は,土地の形状の変更,工作物の新
設等の事業を行う事業者がその事業の実施に当たりあらかじめ環境影響評
価を行うことが環境の保全上極めて重要であることにかんがみ,環境影響
評価が適切かつ円滑に行われるための手続その他所要の事項を定め,その
事業に係る環境の保全について適正な配慮がなされることを確保し,もっ
て現在及び将来の国民の健康で文化的な生活の確保に資することを同法の
目的とする旨を定めるとともに,東京都環境影響評価条例1条は,同条例
につき,環境影響評価及び事後調査の手続に関し必要な事項を定めること
により,計画の策定及び事業の実施に際し,公害の防止,自然環境及び歴
史的環境の保全,景観の保持等について適正な配慮がなされることを期し,
もって都民の健康で快適な生活の確保に資することを目的とする旨を定め
る。そして,上記規定において「環境の保全」,「公害の防止」,「都民
の健康で快適な生活」などの文言が用いられているとともに,環境影響評
価法及び東京都環境影響評価条例においては環境影響評価に関する手続の
詳細が定められる一方で,土地収用法の目的規定には環境の保全等に関す
る文言が用いられていないことや,同法において環境の保全等を直接の目
的とする手続規定は設けられていないことなどを勘案すれば,環境影響評
価法及び東京都環境影響評価条例と土地収用法とは,目的を大きく異にし
ているといわざるを得ないから,環境影響評価法及び東京都環境影響評価
条例は,土地収用法との関係において,行政事件訴訟法9条2項にいう「当
該法令と目的を共通にする関係法令」には該当しないと解すべきである。
そして,他に,土地収用法及びその関係法令において,起業地内の土地
又は当該土地にある立木等に関して所有権その他の権利を有していない原
告らの主張するような者の利益を個々人の個別的利益としても保護すべき
ものとする趣旨を含むと解すべき根拠は見当たらないし,行政事件訴訟法
9条2項が,「当該処分において考慮されるべき利益の内容及び性質を考
慮するものとする」と規定している趣旨を考慮するとしても,法令の具体
的規定を離れて,およそ生命,身体の安全等にかかわるような利益である
限りは,法令により常に個々人の個別的な利益として保護されていると解
することもできない。
そうすると,第4原告ら及び第5原告らについては,本件事業認定の取
消しを求める訴えの原告適格を有しないというべきである。
(3)なお,いわゆる任意的訴訟担当は,行政事件訴訟法7条によりその例に
よるとされる民事訴訟法が訴訟代理人を原則として弁護士に限り,また,信
託法10条が訴訟行為をさせることを主たる目的とする信託を禁止している
趣旨に照らし,一般に無制限にこれを許容することはできないものの,この
ような制限を回避,潜脱するおそれがなく,かつ,これを認める合理的必要
がある場合には,許容されるときがあると解すべきである(最高裁昭和42
年(オ)第1032号同45年11月11日大法廷判決・民集24巻12号
1854頁参照)。しかしながら,本件においては,第5原告らの構成員個
人が本件訴訟の原告として訴訟の提起,追行をしているのであり,第5原告
らの構成員において第5原告らに訴訟追行権を授与しなければ訴訟の提起,
追行が困難であるなどの事情が存するとは認め難いし,他に,第5原告らの
構成員が第5原告らに訴訟追行権を授権することを許容すべき合理的必要が
存在することを認めるに足りる証拠もない。よって,第5原告らにその構成
員のために本件訴訟の提起,追行を担当させることは,許容されないと解さ
れる。
2本件各事業の施行により原告らに重大な損害が生ずるとしてする違法の主張
の取扱いについて
原告らは,本件各事業の施行により,①自然環境及び歴史的環境等の破壊,
②高尾山の地下水に対する影響,③高尾山の景観への影響,④大気汚染,⑤騒
音被害,⑥振動被害,⑦低周波空気振動による被害,⑧サウンドスケープに対
する侵害,⑨オオタカへの影響を含む自然環境への影響,⑩α1地域の生活環
境への影響等が生じ,原告らの環境権ないし環境利益及び景観権ないし景観利
益が侵害されることから,それにより失われる利益を本件事業認定に当たり考
慮すべきであると主張した上で,本件各事業がこれらの権利ないし利益に与え
る影響が甚大かつ深刻なものであることや,本件事業認定及び本件各申請に係
る手続においては,いずれも十分な住民参加等が行われず,上記の利益等への
影響や失われる利益は全く考慮されていないなどとして,本件事業認定は取り
消されるべきである旨主張する。
原告らが指摘する上記の点については,いずれも,本件各事業が土地収用法
20条3号の要件に該当すると判断してされた本件事業認定に違法があるか否
かを判断するに当たり,収用の対象となった土地が当該事業の用に供されるこ
とによって失われる利益として検討の対象になり得るものであるため,同号の
要件適合性を判断する際に検討を加えることとする。
3土地収用法に定める事業の認定に係る手続違反の有無について
(1)本件事前説明会について
原告らは,本件事業認定に係る本件事前説明会について,単に形式的に行
われたものであり,実効性のあるものとするよう努められたとはいえないか
ら,土地収用法15条の14に違反する旨主張する。
しかし,同条は,事業の認定の手続及び収用委員会の審理を含む収用又は
裁決の手続の円滑な進行に資するため,起業者が事業の認定について利害関
係を有する者等に対して十分に説明を行うことを義務付けたものであって,
説明会を通じてこれらの者を含む関係者の理解及び協力が促されることを期
するものであるといえるものの,このような関係者との間で当該事業の施行
等につき合意等が形成されることまで求めるものと解すべき根拠は見当たら
ない。そして,第3の12(1)に記載した事実によれば,本件事前説明会の開
催に際し,起業者らは,本件各事業の目的及び内容等について,資料を配付
するなどして説明をした上で,質疑応答の機会を設けており,終了後に,本
件事前説明会においてされた質問を踏まえた起業者らの見解が相武国道事務
所のウェブサイトに掲載されていることなどを併せ考慮すれば,本件事前説
明会の開催方法等が同条に違反する違法なものであるということはできない。
そして,他に,本件事前説明会につき,同法及びその関係法令の定めに反
する事実があることをうかがわせる証拠はないから,本件事前説明会の開催
方法等に関する原告らの主張を採用することはできない。
(2)本件公聴会について
原告らは,本件公聴会において圏央道事業に疑問を有する公述人がした質
問に対する起業者らの回答が不十分であり,一部については回答がされなか
った旨主張する。しかし,公聴会は,国土交通大臣等が事業の認定に関する
処分を行うに当たり考慮すべき事情等を探求する必要があることや,関係す
る住民の理解を得ること,収用又は使用の裁決の手続の円滑な進行に資する
ことなどの観点から,広く一般の意見を聴く機会を設けるものであり,公聴
会に出席した公述人は,所定の手続をとって起業者に対して質問をすること
ができるものの,あらかじめ定められた公述時間内において答弁を聴くこと
ができるにとどまるものであるから,原告らの主張はその前提を欠くもので
ある。
また,原告らは,本件公聴会で意見を述べた公述人の中に社会資本整備審
議会の委員が含まれていたことを問題とする。しかし,同審議会の委員が事
業の認定に係る公聴会において公述人となることを禁止する法令の定めは見
当たらないし,また,同審議会の委員が本件公聴会において意見の陳述等を
したことをもって,本件事業認定の手続に違法があるというべき根拠も見い
だし難い。
そして,他に,本件公聴会につき,土地収用法及びその関係法令の定めに
反する事実があることをうかがわせる証拠はないから,本件公聴会の開催方
法等に関する原告らの主張を採用することはできない。
(3)社会資本整備審議会からの意見聴取について
原告らは,本件事業認定に係る社会資本整備審議会からの意見聴取につい
て,同審議会の第三者性に疑問がある旨主張するとともに,同審議会は本件
事業認定に係る審議に当たって慎重な審議をしなかったと主張する。
しかし,第3の12(3)に記載したとおり,本件事業認定につき実質的な審
議に当たった公共用地分科会の委員は,法学界,法曹界,都市計画,環境,
マスメディア,経済界等の分野から選ばれていることに加え,一般に,審議
会等の委員は,当該審議会等の目的や取り扱う事項等について専門的知識,
識見ないし経験を有している者が任命され,それらの者の合議により意見が
決定されることを通じ,中立性,公正性の確保が期待されているものである
ところ,公共用地分科会の委員である特定の個人が複数の審議会の委員に過
去に任命され,又は兼務していたとしても,そのことをもって,直ちに,合
議体である公共用地分科会としての中立性,公平性が損なわれるということ
はできない。
次に,原告らは,公共用地分科会の庶務を国土交通省の収用認定に当たる
部局が担当していたことや認定理由の原案等を国土交通省側で作成していた
こと等を指摘するが,かかる事実があるからといって,直ちに,公共用地分
科会の意見がその委員の合議により決定されたことが左右されるものではな
く,社会資本整備審議会からの意見聴取の手続に瑕疵があるということはで
きないのであって,本件事業認定に瑕疵があるということもできない。
また,原告らは,社会資本整備審議会ないし公共用地分科会の議事が公開
されなかったことを問題とするが,これらの議事ないし議事録を公開するこ
とを事業の認定の要件とする旨の法令の定めは見当たらないことなどからし
て,上記議事ないし議事録を公開するか否かが本件事業認定の適法性に影響
を与えるものということはできない。
さらに,原告らは,社会資本整備審議会ないし公共用地分科会の審議に当
たって関係人の事情聴取や現場検証が実施されなかったことを問題とするが,
社会資本整備審議会が土地収用法25条の2に定める意見を述べるに当たっ
て関係人の事情聴取や現場検証をすることを求める法令の定めは見当たらず,
審議においていかなる資料等を収集するかは社会資本整備審議会ないし公共
用地分科会の裁量にゆだねられているというべきであって,本件においてそ
の裁量権の範囲からの逸脱等があった事実を認めるに足りる証拠はない。
そして,他に,上記の意見の聴取について同法及びその関係法令の定めに
反する事実があることをうかがわせる証拠はないから,上記の意見の聴取に
関する原告らの主張を採用することはできない。
なお,原告らは,本件公聴会に公述人として出席した委員が罷免されなか
ったことを問題とするが,同委員は,公共用地分科会の構成員ではないこと
などからすれば,原告らの主張はその前提を欠くというべきである。
(4)事業の認定をした理由の告示について
原告らは,土地収用法26条1項に定める「事業の認定をした理由」の告
示につき,本件事業認定に係る「事業の認定をした理由」が住民らの疑問に
何ら答えようとしておらず,特に,α13城跡トンネル工事により生じた水
枯れの問題について,適切な措置を執っていると繰り返すのみで,具体的な
根拠等は何ら示していないことから,同項に違反する旨を主張する。
ところで,一般に,法が行政処分に理由を付記すべきものとしているのは,
処分庁の判断の慎重,合理性を担保してそのし意を抑制するとともに,処分
の理由を相手方に知らせて不服の申立てに便宜を与える趣旨に出たものであ
ると解されるところ,どの程度の記載をすべきかは,処分の性質と理由付記
を命じた各法律の規定の趣旨,目的に照らしてこれを決定すべきであると解
される(最高裁昭和36年(オ)第84号同38年5月31日第二小法廷判
決・民集17巻4号617頁参照)。そして,土地収用法においては,同法
20条各号で事業の認定の要件が定められるとともに,事業の認定に当たっ
ては,説明会及び公聴会の開催,利害関係を有する者の意見書の提出,社会
資本整備審議会からの意見の聴取等の手続が定められていることなどを勘案
すれば,事業の認定をした理由を告示するに当たっては,上記の意見聴取に
係る諸手続において提出された意見で指摘された事項のうち主要なものにつ
いて,同条各号に定める要件ごとに,事業の認定をした行政庁としてそのよ
うな判断をするに至った枢要な事情を明らかにすべきものと解される。
以上を前提に,本件事業認定に係る「事業の認定をした理由」の告示につ
いて検討するに,第3の12(4)に記載したとおり,そこでは,本件各事業に
つき同条1号ないし4号の要件への適合性について検討が加えられており,
証拠(乙8,乙9の1の1・2,乙9の2)によれば,本件各事業に係る意
見で指摘された事項のうち主要なものについて検討した上で,同条各号に定
める要件ごとに国土交通大臣として本件事業認定をするに至った枢要な事情
が記載されていると認められる。そして,上記告示と同時に公開された「意
見書及び公聴会における主な反対意見の要旨と当該意見に対する事業認定庁
の見解とを併記した意見対照表」(乙8)においては,本件訴訟において原
告らが主張する事項も含め,本件各事業に係る様々な意見に対する事業の認
定をした行政庁としての見解が詳細に記載されていることをも勘案すれば,
本件事業認定に係る「事業の認定をした理由」の告示が理由の付記を欠くも
のとして同法26条1項に反するものということはできない。したがって,
原告らの上記主張を採用することはできない。
4土地収用法20条2号の要件適合性について
(1)土地収用法20条2号は,事業の認定の要件として,起業者が当該事業を
遂行する充分な意思と能力を有する者であることを定めるところ,本件各事
業の起業者らのうち,国土交通大臣は道路法12条本文等の規定により,ま
た,参加人X1株式会社は道路整備特別措置法3条1項の規定により独立行
政法人日本高速道路保有・債務返済機構法13条1項に定める協定に基づき
国土交通大臣の許可を受けて,一般国道又は高速自動車国道等の新設又は改
築を行うことができるとされており,証拠(乙1,乙11の1・2)及び弁
論の全趣旨によれば,①本件圏央道事業等について平成18年3月31日付
けで参加人X1株式会社が独立行政法人日本高速道路保有・債務返済機構と
協定を締結し同日付けで国土交通大臣の許可を受けていること等法令上要求
される手続を起業者らが履践していること,②本件各事業について予算上の
措置が講じられ,組織,人員等に関する措置も講じられていることがそれぞ
れ認められる。
よって,起業者らは,本件各事業を遂行する充分な意思と能力を有する者
であるといえるから,本件各事業は,土地収用法20条2号の要件に該当す
るというべきである。
(2)他方,原告らは,我が国の財政赤字について指摘するとともに,いわゆる
旧道路関係4公団並びにその業務の引継ぎ並びに権利及び義務の承継を受け
た参加人X1株式会社を含む高速道路株式会社が負担する債務の額が巨額で
あること,圏央道の全面供用の見通しが立っていないことなどを指摘して,
圏央道は赤字路線であり,事業効果が上がるとは考え難いなどとして,起業
者らが本件各事業を遂行する充分な意思と能力を有する者であるとはいえな
いと主張する。
しかし,原告らが指摘するような事情があることをもって,直ちに,起業
者らに本件各事業を遂行する能力に欠けるということはできないし,上記に
述べたとおり,起業者らが一般国道又は高速自動車国道等の新設又は改築を
行うための所要の立法措置等が講じられており,本件各事業についても所要
の予算上の措置及び組織,人員等に関する措置が講じられているから,原告
らの上記主張を採用することはできない。
5土地収用法20条3号の要件適合性について
(1)土地収用法20条3号は,事業の認定の要件として,「事業計画が土地の
適正且つ合理的な利用に寄与するものであること」を定めるところ,同法1
条が,同法の目的として,公共の利益となる事業に必要な土地等の収用又は
使用に関し,その要件,手続及び効果並びにこれに伴う損失の補償等につい
て規定し,公共の利益の増進と私有財産との調整を図り,もって国土の適正
かつ合理的な利用に寄与することを定めることなどを勘案すれば,当該土地
が当該事業の用に供されることによって得られるべき公共の利益と,その土
地が当該事業の用に供されることによって失われる私的な利益及び公共の利
益を比較衡量した結果として,前者が後者を優越する場合に,当該事業は上
記の要件に該当するものと解するのが相当である。
そして,上記の要件に該当するか否かについての判断は,具体的には,事
業の認定に係る事業計画の内容,事業計画が達成されることによってもたら
されるべき公共の利益,事業計画において収用の対象とされている土地の状
況等の諸要素,諸価値の比較衡量に基づく総合判断として行われるべきもの
であると解される。
その上で,上記の総合判断は,多種,多様であり,同質でないものも少な
くない公共の利益と私的な利益の比較衡量を要するものであることなどから
して,その性質上,専門技術的,政策的な判断を伴うものであって,事業の
認定をする行政庁は,このような意味においてその判断に係る裁量権を有す
るということができる。そして,かかる判断については,それが裁量権の行
使としてされたことを前提として,その基礎とされた重要な事実に誤認があ
ること等により重要な事実の基礎を欠くこととなる場合,又は事実に対する
評価が明らかに合理性を欠くことや判断の過程において考慮すべき事情を考
慮しないこと等によりその内容が社会通念に照らし著しく妥当性を欠くもの
と認められる場合に限り,裁量権の範囲を逸脱し又はこれを濫用したものと
して違法となると解するのが相当である。
そこで,以上に述べたところを前提に,本件各事業の施行によって得られ
る公共の利益と本件各事業の施行によって失われる利益についてそれぞれ検
討を加えた上で,その比較衡量に係る本件事業認定をした国土交通大臣の判
断に違法があるか否かについて検討を加える。
(2)本件各事業の施行によって得られる公共の利益について
以下,本件各事業の施行によって得られる公共の利益について,第2の3
及び第3に記載した事実を前提に検討する。
ア本件圏央道事業等について
(ア)まず,本件圏央道事業等の完成により,中央自動車道と東名高速道
が接続され,既に圏央道により中央自動車道と関越自動車道とが接続
されていることと併せて,道路交通における広域的な利便性が向上す
るとともに,他の環状道路である中央環状線及び外かく環状道と連絡
することなどによって,都心部の通過交通の一部を転換することによ
り都心部の交通混雑を緩和し,首都圏全体の円滑かつ安全な交通の確
保が図られるがい然性があるといえる。
そして,この点は,①平成19年6月23日に圏央道八王子ジャン
クションからあきる野インターチェンジまでの区間が開通し,中央自
動車道と関越自動車道とが圏央道で接続されたことにより,圏央道を
利用する交通量が増大するとともに,圏央道八王子ジャンクションか
ら八王子西インターチェンジまでの区間の利用交通量の約5割である
約1万4000台/日が中央自動車道から関越自動車道までを連続的
に利用していること(乙H8),②上記区間における同年7月から平
成21年6月までの平均交通量を取りまとめた結果においても,上記
区間の平均交通量の約4割である約9200台/日が中央自動車道か
ら関越自動車道までを連続的に利用していること(乙H49),③交
通事故により首都高速道路が通行止めとなった際に,う回路として圏
央道を利用するとの効果が見られた事例があること(乙H22),④
圏央道を含めた首都圏3環状道路の整備により,当該道路周辺に商業
施設や企業の物流施設が設置され,それにより当該道路がある市町村
の雇用者数が増加するなどの効果が発生していること(乙3の1,乙
H5,乙H6の1ないし6,乙H8,乙H33,乙H49ないし乙H
57)などによって裏付けられているということができる。
(イ)また,平成11年度の道路交通センサスによると,一般国道16号
等の平日交通量は,一般国道16号の八王子市α5町地内で5万54
83台/日,平日混雑度(設計交通容量を交通量で除した数値(甲H
8,甲H18の11))は1.38,一般国道129号の厚木市α2
9地内においては5万4676台/日,平日混雑度は1.34,一般
国道246号の厚木市α30地内で8万2365台/日,平日混雑度
は1.45であり(乙1,乙3の1),これらの地点において相当程
度の混雑があることが認められる。そして,圏央道が神奈川県央地域
及び多摩地域の南北方向の幹線道路として機能し,従前から一般国道
16号等が担っている幹線交通を圏央道が分担することにより,一般
国道16号等の交通渋滞の緩和が図られ,円滑な交通の確保に寄与す
るがい然性があるところ,この点は,①平成17年3月に圏央道日の
出インターチェンジからあきる野インターチェンジまでの区間が開通
した後に,その周辺道路である国道411号等の交通量の減少が見ら
れたこと(乙3の1),②平成19年6月23日に圏央道八王子ジャ
ンクションからあきる野インターチェンジまでの区間が開通した後に,
その周辺道路である一般国道16号及び一般国道411号において交
通量の減少がみられるとともに,交通渋滞が緩和されたこと(乙H8,
乙H33,乙H49),③同様に,圏央道から一般国道16号までの
間の生活道路において大型車の交通量が減少していること(乙H33)
などによって裏付けられているということができる。
(ウ)以上によれば,本件圏央道事業等の施行によって得られる相応の公
共の利益が存するものと認められる。
(エ)なお,第3の2及び同3に記載したとおり,本件各事業に係る事業
の認定の申請に当たり,本件圏央道事業等の施行により,幹線道路の
混雑緩和,大型車交通の転換,環境改善及び走行速度の向上(走行時
間短縮)等の整備効果があるものと予測されるとともに,本件圏央道
事業等の社会費用便益比が2.6と分析されているところ,後に述べ
るとおり,これらの分析等を用いて本件圏央道事業等の施行によって
得られる公共の利益について検討することが不合理であるとまでいう
ことはできない。
イ本件八王子南バイパス事業について
八王子南バイパスは,八王子南インターチェンジと接続されることから,
圏央道と連携して,上記に述べた広域的利便性の向上等にも寄与するもの
であるといえる。
また,平成11年度の道路交通センサスによると,一般国道20号の平
日交通量は,八王子市α31町地内で4万0298台/日,平日混雑度は
1.58となっており(乙1,乙3の1),当該地点において相当程度の
混雑となっていることが認められる。そして,本件八王子南バイパス事業
が施行されることにより,現在の一般国道20号の交通が分散され,交通
渋滞の緩和が図られることから,円滑な交通の確保に寄与するものといえ
る。
以上によれば,本件八王子南バイパス事業の施行によって得られる相応
の公共の利益が存するといえる。
なお,第3の2及び同3に記載したとおり,本件各事業に係る事業の認
定の申請に当たり,本件八王子南バイパス事業の施行により,幹線道路の
混雑緩和,大型車交通の転換,環境改善及び走行速度の向上(走行時間短
縮)等の整備効果があるものと予測されるとともに,本件八王子南バイパ
ス事業の社会費用便益比が2.2と分析されているところ,後に述べると
おり,これらの分析等を用いて本件八王子南バイパス事業の施行によって
得られる公共の利益について検討することが不合理であるとまでいうこと
はできない。
ウ(ア)これに対し,原告らは,費用便益分析による費用便益比が1を下回
る事業は土地収用法20条3号,4号の要件に適合しないものであり,
また,費用便益分析を行うに当たり,費用便益分析マニュアルが定め
られていることから,本件各事業に係る費用便益分析がこれに沿って
行われているか否かについて検討されるべきである等と主張した上で,
起業者らが実施した本件各事業に係る費用便益分析の手法や前提とな
るデータ等に問題点ないし誤りがあり,その結果,本件各事業に係る
費用便益分析が費用便益分析マニュアルに従ってされたことについて
も,また,費用便益比が1を超えることについても立証されていない
から,上記費用便益分析の不合理性ないし違法性が推認され,本件各
事業に公益性があるとはいえない旨を主張する。
ところで,道路事業の施行に当たり,当該事業に係る適正な費用便
益分析が行われることが望ましいことは論をまたないものであり,ま
た,土地収用法に基づく事業の認定をする際に,申請に係る事業が同
法20条3号の要件に該当するか否かを判断するに当たり,当該事業
において費用便益分析の結果を適切にしんしゃくすることが望ましい
ことも論をまたないものである。しかし,費用便益分析が実施されて
いることが同法に基づく事業の認定の要件であると解すべき法令上の
根拠は見当たらないし,また,平成15年8月マニュアルによる費用
便益分析の結果である費用便益比が一定の数値を下回ることをもって,
当該事業が同条3号及び4号の要件に該当しないものであると解すべ
き法令上の根拠も見当たらない。したがって,原告らが前提とするこ
れらの主張を直ちに採用することはできない。
(イ)次に,第3の3に記載した事実に加え,証拠(甲H83ないし甲H
91(枝番を含む。),乙H20,乙H30,X12証人)及び弁論
の全趣旨によれば,本件各事業に係る費用便益分析は,平成15年8
月マニュアルに定められた方法に基づいて実施されているものと認め
られる。そして,平成15年8月マニュアルにおいて算定の対象とさ
れている便益は,走行時間短縮,走行経費減少及び交通事故減少のみ
であり,これらは本件各事業の施行による便益の一部であると認めら
れる一方で,費用便益分析においていかなる費用をどのように算定す
るかについては様々な考え方があり,また,平成15年8月マニュア
ルにおいて計上される便益が実際の効果に照らし過小であるとの見解
もあるところ(乙H20,乙H26,乙H30,乙H40ないし乙H
43,X12証人),このような見解については,本件各事業のよう
な環状道路の建設事業については予想される便益が多様であり,かつ,
便益が広範囲に及び得ることからして,首肯し得ないものではないこ
となどを勘案すれば,原告らが平成15年8月マニュアルに基づく費
用便益分析の方法等について指摘するところを勘案しても,平成15
年8月マニュアルに基づいて本件各事業に係る費用便益分析を実施す
ることや,その結果を本件事業認定における判断資料としてしんしゃ
くすることがおよそ不合理であるとまで断ずることはできない。
また,証拠(乙1,乙3の1ないし5,乙8,乙H30,X12証
人)及び弁論の全趣旨によれば,本件事業認定に当たっては,本件各
事業に係る費用便益分析の結果は,本件各事業が土地収用法20条3
号の要件に適合するか否かを判断する際の資料の一つとして用いられ
ていると認められる一方で,それのみに依拠して本件各事業が同号の
要件に適合するか否かが判断されたと認めるに足りる証拠はない。そ
の上で,①確かに,本件各事業に係る費用便益分析の前提となる交通
量推計のうち配分交通量の推計に係るデータ等の詳細は明らかでない
ものの,その推計の前提とされた人口,自動車保有台数等の社会経済
指標の予測値や将来の発生集中交通量の推計値等は明らかにされてお
り(甲H90,乙3の1),そのような予測ないし推計を前提にした
ものとして上記費用便益分析の結果を本件事業認定に当たってしんし
ゃくすることがおよそ不合理であるとはいえないこと,②本件各事業
に係る費用便益分析においては,推計された配分交通量と実測した交
通量の相関関係を検討するなどして現況再現性に係る検証が行われて
いること,③上記に述べたとおり,平成15年8月マニュアルにおい
て算定の対象とされている便益は,走行時間短縮,走行経費減少及び
交通事故減少に関するもののみである一方で,舗装による運転者の走
行快適性の向上等の他の直接的な効果や雇用創出等の間接的な効果に
ついては算定の対象とされておらず,本件各事業に係る費用便益分析
についても同様にその便益の一部のみが算定の対象となっていること
などによれば,本件事業認定に当たり,上記費用便益分析の結果をし
んしゃくすること自体がおよそ不合理であり,これをもって国土交通
大臣がその裁量権の範囲を逸脱し,又はこれを濫用したものであると
いうことはできない。
(ウ)他方,原告らは,平成18年12月に開催された関東地方整備局事
業評価監視委員会(平成18年第3回)における圏央道相模原インタ
ーチェンジ(仮称)から八王子ジャンクションまでの区間に係る費用
便益分析の結果について,便益の対象とすべきでない道路の便益が計
上されるなどして過大に便益が計上されている旨を主張する。しかし,
原告らが指摘する上記費用便益分析は,本件事業認定においてしんし
ゃくされたものとは異なる時期に,かつ,異なる区間についてされた
ものである。したがって,仮に上記費用便益分析に原告らが指摘する
ような問題があるからといって,直ちに本件各事業に係る費用便益分
析の結果について,それが事業の認定の判断資料としてしんしゃくし
得ない程度に不合理であるということはできない。
また,原告らは,圏央道相模原インターチェンジ(仮称)から八王
子ジャンクションまでの区間について独自に費用便益分析を実施した
ところ,費用便益比が1を下回った旨を主張し,これをもって,本件
各事業に公益性が欠ける旨を主張する。しかし,原告らが用いた費用
便益分析の方法は費用便益分析マニュアルにおける方法とは異なるも
のであり,その方法の選択の当否の点はおくとしても,かかる分析方
法に基づく費用便益比が1を下回ったからといって,それとは異なる
費用便益分析マニュアルによる分析ないし分析結果がおよそ不合理で
あると断ずることはできないし,本件各事業に係る費用便益分析の結
果について,それが事業の認定の判断資料としてしんしゃくし得ない
程度に不合理であるということはできない。
(3)本件各事業の施行によって失われる利益について
ア高尾山トンネルによる高尾山の地下水への影響について
(ア)証拠(甲C2ないし甲C6,甲C44,甲C45の1・2,甲C46
の1・2,甲C47ないし甲C50,甲C64,X44証人)及び弁論
の全趣旨によれば,一般に,山岳を掘削してトンネル工事を行うことに
ついては,当該山岳の地下水に影響を及ぼすことを完全に防止すること
は困難であるものと認められる。また,第3の5(1)に記載した事実に
よれば,高尾山と地質が類似すると認められる箇所が掘削されたα13
城跡トンネルの工事においては,工事の施工により観測孔2の水位が低
下するなどの現象が発生した事実が認められる。
しかし,第3の5に記載した事実によれば,①本件環境影響評価1に
おいて,適切な止水対策工事等を行うことが前提とはされているものの,
高尾山トンネルの施工による地下水への影響は少ない旨結論付けられ
ていること,②起業者らにおいても高尾山の地質及び水文調査を行って
いるところ,その調査方法及び調査結果が明らかに不合理であると認め
るに足りる証拠はないこと,③起業者らは,②の調査結果を基に,学識
経験者等から構成される技術検討委員会の助言等を得た上で,α13城
跡トンネルの施工状況等も勘案して,高尾山トンネルの施工方法を検討
していること,④上記調査及び検討の結果として,止水対策工事が必要
と認められる工事区間については覆工止水構造とするなどの対策を採
り,施工に当たってはα13城跡トンネルの施工方法に改良を加えたも
のを採用していること,⑤α13城跡トンネルの工事においていったん
低下した観測孔2における地下水位が対策を講じた後は再度上昇して
いることなども認められ,これらの事実も勘案すると,高尾山トンネル
の施工により高尾山の地下水に影響が生ずるおそれがあることは否定
できないものの,これのみをもって,本件圏央道事業等の施行によって
得られる公共の利益が上記の影響によって失われる利益に優越すると
の判断につき,それが重要な事実の基礎を欠くか又はその内容が社会通
念に照らし著しく妥当性を欠くと認めるに足りないし,後述する他の本
件各事業の施行によって失われる利益と併せ考慮しても,かかる判断が
重要な事実の基礎を欠くか又はその内容が社会通念に照らし著しく妥
当性を欠くと認めるに足りない。
(イ)他方,原告らは,α13城跡トンネルの工事において民家の井戸の水
枯れが発生したことやα17滝の水枯れが発生したこと等を挙げて,こ
れにより高尾山トンネルの工事においても地下水に重大な影響が生ず
る旨を主張する。しかし,原告らが主張する民家の井戸の水枯れについ
ては,第3の5(1)オに記載したとおり,橋脚工事に伴って掘削した箇
所を埋め戻した後に井戸枯れが発生したすべての井戸について水位の
回復がみられるなど,α13城跡トンネルの工事との関連を疑わせる事
情があることも考慮すれば,上記井戸の水枯れがα13城跡トンネルの
影響により生じたと認めるには足りないといわざるを得ない。また,α
17滝の水枯れについても,α17滝の下流にあるα23川の流量とα
13城跡トンネルの工事箇所の近隣にある観測孔2の水位とに関連が
みられないことや,α23川の流量が,降雨に対して明りょうに応答し,
ピークの出現及び減衰が早い傾向がみられること(乙C17,乙C18)
などα13城跡トンネルの工事との関連を疑わせる事情があることも
考慮すれば,上記α17滝の水枯れがα13城跡トンネルの影響により
生じたと認めるには足りないといわざるを得ない。
また,原告らは,α13城跡トンネルの北側に位置するα32トンネ
ルの工事により,沢の水枯れが発生した旨を主張する。しかし,起業者
が実施したα32トンネル坑口付近の井戸の水位観測においては,原告
らが問題とする沢の直下掘削時の平成13年7月から同年10月にか
けて及び工事完了後の平成16年10月時点においても,顕著な水位低
下がみられなかったこと(乙C14,乙C15)などα32トンネルの
工事との関連を疑わせる事情があることも考慮すれば,上記沢の水枯れ
がα32トンネルの影響により生じたと認めるには足りないといわざ
るを得ない。
さらに,原告らは,高尾山トンネルの工事においても水枯れが発生し
た旨を主張するところ,かかる現象が高尾山トンネルの工事により発生
したことを的確に裏付ける客観的な証拠は見当たらないことから,原告
らの上記主張を採用することはできない。
イ本件圏央道事業等が高尾山等の景観に及ぼす影響について
第3の6において記載したとおり,本件環境影響評価1及び本件環境影
響評価2においては,本件圏央道事業等が高尾山を含む周辺地域の景観に
及ぼす影響について,現地踏査等の方法により調査がされているところ,
その調査方法に特段不合理な点があるということはできない。
また,本件環境影響評価1及び本件環境影響評価2においては,事業の
施行に当たって,構造物の設置される箇所の自然的,歴史的,文化的条件
を検討した上で構造物の設計を行うことや,植林等により人工構造物の遮
へい措置を講ずることなどの配慮を行うことを前提として,景観に及ぼす
影響は少ない旨評価されているところ,この評価が明らかに不合理である
とまでいうことはできない。その上で,本件圏央道事業等により設置され
る橋りょうやジャンクション,トンネルの坑口等の構造物により高尾山を
含む周辺地域の景観に影響が生ずるおそれがあることは否定できないもの
の,当該影響は,本件圏央道事業等のような山間部に環状道路等を設置す
る事業において完全に防止することは困難な性質のものであることや,景
観への影響は,これが直ちに周辺住民の生活妨害や健康被害を生じさせる
という性質のものとはいえないことも勘案すれば,これのみをもって,本
件圏央道事業等の施行によって得られる公共の利益が上記の影響によって
失われる利益に優越するとの判断につき,それが重要な事実の基礎を欠く
か又はその内容が社会通念に照らし著しく妥当性を欠くと認めるに足りな
いし,(3)の他の項において検討する本件各事業の施行によって失われる諸
利益と併せ考慮しても,かかる判断が重要な事実の基礎を欠くか又はその
内容が社会通念に照らし著しく妥当性を欠くと認めるに足りない。
なお,原告らは,高尾山トンネルは高尾山の山体を貫くのであるから,
高尾山の豊かな生態系や歴史的景観を構成している基盤的要素を破壊する
などとして,本件環境影響評価1が高尾山トンネルにより高尾山に対する
景観の改変が生じないとしている点を問題とする。しかし,原告らが問題
とするところは,本件環境影響評価1において「陸上植物」,「陸上動物」
及び「地形・地質」との予測・評価項目により別途評価されているものと
認められる(乙13の11)から,原告らの上記主張を採用することはで
きない。
ウ大気汚染による損害について
(ア)第3の7に記載した事実によれば,本件各事業の施行により,本件
各事業の計画路線周辺に大気汚染が発生するおそれがあることを否定
することはできない。しかし,①本件各環境影響評価及び本件各環境
影響照査において予測の対象とされた一酸化炭素,二酸化窒素及び二
酸化いおうについては,工事完了後の計画路線周辺の濃度が,旧公害
対策基本法及び環境基本法に基づいて定められた環境基準に適合する
ことが予測されていること,②本件環境影響照査3において予測の対
象とされたSPMについても上記環境基準に適合することが予測され
ていること,③後述するとおり,上記予測の対象となった時点や地域
の選定方法及び予測方法等が特段不合理とまで認めることができない
こと,④本件各事業の施行により,本件各事業区間周辺の一般国道等
における道路交通の一部を本件各事業区間が分担することになるから,
その限度で,従前上記一般国道等を通行していた自動車等による大気
汚染が減少する関係にあることなどを勘案すれば,本件各事業の施行
によって得られる公共の利益が上記大気への影響によって失われる利
益に優越するとの判断につき,それが重要な事実の基礎を欠くか又は
その内容が社会通念に照らし著しく妥当性を欠くと認めるに足りない
し,(3)の他の項において検討する本件各事業の施行によって失われる
諸利益と併せ考慮しても,かかる判断が重要な事実の基礎を欠くか又
はその内容が社会通念に照らし著しく妥当性を欠くと認めるに足りな
い。
(イ)a他方,原告らは,本件各環境影響評価及び本件各環境影響照査に
ついて,プルームモデルを用いてα1地域の大気汚染を行うことは
不適切である一方で,原告らが用いた3次元流体モデルによる大気
汚染予測がより適切であるところ,これによれば,本件各事業の施
行により環境基準を上回る高濃度の二酸化窒素が排出されることが
予測される旨主張する。
プルームモデルは,建設省技術指針及び東京都技術指針において
採用されている方法であるところ,証拠(甲E6,甲E12,甲E
14の1・2,甲E20,甲E23の1・2,甲E24,甲E26,
甲F31,乙E23,乙E29,乙E30,X45証人)及び弁論
の全趣旨によれば,プルームモデルは,拡散場が平たんであること
や拡散係数が拡散場で一定であるとの仮定に基づいていることなど
から,同モデルを用いて複雑な地形の地域における汚染物質の拡散
状況の予測を高い精度で予測することは必ずしも容易ではないこと
が認められる。しかし,①昭和58年3月に東京都環境保全局が作
成した環境影響評価制度の手引(甲E5)においては,予測方法に
つき,列記された予測手法のうちから適切なものを選択し,又は組
合せの方法によるとした上で,大気質の変化の予測は,複雑地形の
影響等を考慮しなければならない場合等には差分モデルの利用を検
討するとされていたものの,大気拡散式(有風時:プルームモデル,
無風時:パフモデル)によることが基本とされていたこと,②建設
省技術指針等における予測方法は,上記の拡散係数そのものを与え
るのではなく,実測や実験データに基づいて拡散幅を定め,これを
用いて予測を行うとされていることや,複雑な地形や建物等は拡散
を促進させること,拡散式を用いた大気汚染の予測は年平均値を予
測するものであって,特定の風向における影響が大きくはないこと
(乙E6)などからすれば,プルームモデルを用いて本件各事業の
対象地の大気質の予測をすることが不合理であるとまでいうことは
できない。
また,本件環境影響評価1においては,現地の地形及び接地逆転
層を含む気象条件を再現して行った風洞実験を行い,その結果を用
いてプルームモデル及びパフモデルを用いた予測結果を検証し,こ
れらのモデルをα1地域における大気汚染予測に用いても問題はな
い旨結論付けているところ,この風洞実験の実施方法等につき,検
証結果の信頼性を喪失させる程度に不合理な点があるとは認められ
ない。したがって,この観点からも本件各環境影響評価及び本件各
環境影響照査においてプルームモデルを用いて大気汚染予測をして
いることが不合理であるということはできない。
bまた,原告らが主張する3次元流体モデルによる大気汚染予測に
ついては,ある一定の空間を一定の距離ごとに区切って,その一定
範囲の空間を多数の直方体(メッシュ)に分割し,それぞれのメッ
シュごとに風速及び風向を算出する手法であるところ,この手法に
おいても,風速等を隣接するメッシュにおける値を基に順次計算し
て解いていくことから,拡散係数の与え方やメッシュの分割方法等
により得られる数値が異なるという点においてその精度には一定の
限界があるものと認められる(乙E6)。
また,原告らが提出する,二酸化窒素に係る大気汚染予測に関す
る調査報告書等(甲E1,甲E10,甲E18,甲E19)につい
て検討するに,①原告らの主張を前提にしても,3次元流体モデル
による大気汚染予測をするためには,地形の影響を受ける前の風の
データが必要であるところ,計算に用いられている気象データは,
構造物や地形の影響を受けていると推認されるα1地域のデータ
(甲E19)であるか,又はα1地域と気象条件が必ずしも一致し
ないと推認されるα6町測定局,α33町一般局及びα34町自排
局の気象データ(甲E1,甲E18)が用いられていることから,
その予測の精度には限界があるといわざるを得ないこと,②原告ら
が採用する3次元流体モデルの正確性の検証(甲E10,甲E19)
については,検証のために用いられた実測濃度について,道路端に
おける測定値が除外されていることや,6月及び12月の各3日間
という短期間の測定結果であり,かつ,その測定方法がカプセルを
用いた簡易測定法であることなど,そのデータの精度に疑問がない
とはいえないこと,バックグラウンド濃度が14.9ppbとされ
た根拠が必ずしも明らかでないことなどの問題があることに照らし,
上記調査報告書等をもって,本件各環境影響評価及び本件各環境影
響照査における二酸化窒素の濃度予測の結果が不合理であるという
ことはできない。
(ウ)原告らは,本件各環境影響評価並びに本件環境影響照査1及び本件
環境影響照査2においてSPMの排出予測がされていないことを問題
とし,かかる予測をするべきであった旨主張する。しかし,SPMの
濃度の予測については,①昭和58年3月に被告東京都が策定した「東
京地域公害防止計画」において,SPMが,固定発生源,移動発生源
及び自然界に起因するもののほか,二次的に生成されるものなど複数
多岐であるため,発生源別の実態把握及び発生源と環境濃度との関係
等について未解明な部分が残されている旨指摘されており(乙13の
12),平成元年に社団法人X46協会が策定した「道路環境整備マ
ニュアル」にも同旨の指摘がされていること(乙3の5),②原告ら
が指摘する環境庁(当時)の委託業務結果報告書(甲E16)におい
ても,SPMの予測手法として物理モデルと統計モデルを挙げた上で,
物理モデルについては,「予測手法がまだ十分ではなく発生源の把握
や二次生成物質の推計等今後の研究に依存するところが大きい」旨が,
統計モデルについては,「実測データの蓄積が十分でないこと」など
が問題点として指摘されているなど,その予測手法が確立されたもの
ではないことをうかがわせる記載があること,③平成9年6月当時,
環境庁(当時)の政府委員が,参議院環境特別委員会において,「S
PMの由来や性状等から,予測手法等は十分まだ確立されていないと
いう状況で」ある旨答弁していること(乙E8)などを勘案すれば,
本件各環境影響評価が行われた時点においては,環境影響評価を行う
のに必要なSPMの汚染予測手法が確立されていなかったものと推認
されるから,本件各環境影響評価においてSPMの予測評価が行われ
なかったことをもって,本件各環境影響評価がその合理性を欠くとい
うことはできない。
本件各環境影響照査においても,インターチェンジやジャンクショ
ンによる加速車線及び減速車線が含まれる区間については,SPMの
濃度予測が行われていないところ,これは,インターチェンジやジャ
ンクションにおける加速車線や減速車線の走行パターンは,本線の走
行パターンとは異なり,SPMについてはそのような走行パターンに
対応した排出係数の設定方法が解明されていないことによるものと認
められる(乙3の5)から,当該区間に係るSPMについての予測評
価が行われなかったことをもって,本件各環境影響照査がその合理性
を欠くということはできない。
なお,原告らは,本件各環境影響評価及び本件各環境影響照査にお
いて,微小粒子状物質についての予測評価が行われていないことを指
摘するが,環境基本法16条1項に基づいて微小粒子状物質に係る環
境基準が告示されたのは平成21年9月9日付けであること(乙E3
7の1ないし3)などに照らし,このような予測評価がされていない
ことをもって本件各環境影響評価及び本件各環境影響照査が合理性を
欠くということはできない。
(エ)原告らは,本件各環境影響評価において,走行車両が自動車専用道
路等における道路交通法施行令で定められた法定速度を遵守すること
を前提としていることを問題とする。しかし,環境影響評価は,対象
事業の実施により生ずる一般的な条件下における環境の状態の変化を
明らかにすることにより行うものと認められるところ(乙3の3,乙
F7),社会通念上,車両がその法定速度を遵守して走行することは
一般的な条件であるということができる。他方,仮に,現実の道路上
で走行速度が法定速度を上回る車両が往々にして見られるとしても,
道路状況等により,車両が法定速度ないしそれ以下の速度で走行する
場合もあり得るから,将来の圏央道及び八王子南バイパスにおける車
両の平均走行速度が法定速度を常に上回っているとまで断ずることは
できない。したがって,本件各環境影響評価において,走行車両が法
定速度を遵守することを前提とした上で評価を行っている点に不合理
な点はないというべきである。
また,原告らは,本件各環境影響評価において,接地逆転層による
影響について精度の低い予測しかされていない旨の主張をする。しか
し,第3の7(1)イに記載したとおり,本件環境影響評価1においては,
接地逆転層の形成状況について現地調査がされているほか,本件環境
影響評価2及び本件環境影響評価3においても,上記現地調査の結果
と気象庁による調査結果とが比較されるなどして検討が加えられてお
り,この検討方法等に特段不合理な点があるとは認められないから,
原告らの上記主張を採用することはできない。
さらに,原告らは,本件各環境影響評価において,将来の二酸化窒
素の削減計画が勘案されていることを問題とするところ,第3の7(1)
オ(ウ)に記載したとおり,本件各環境影響評価においては,自動車排
出ガス規制の効果を考慮してバックグラウンド濃度を設定しているこ
とが認められるが,自動車排出ガス規制が逐次強化されていること(乙
13の9,乙13の15)などに照らせば,かかる設定が合理性を欠
くとはいえない。また,原告らは,本件各環境影響照査におけるSP
Mの予測についても同旨の主張をするところ,第3の7(2)ウ(イ)に記
載したとおり,本件各環境影響照査3においては,SPMのバックグ
ラウンド濃度には大きな変化がないとの前提で予測がされているもの
の,国及び地方公共団体によりSPMの排出を規制する施策が講じら
れ,一定の成果が上がっている事実も認められること(乙E9ないし
乙E21,乙E32ないし乙E36)からすれば,かかる前提が合理
性を欠くとはいえない。
そして,原告らは,本件各環境影響評価において既存道路との複合
汚染が十分に考慮されていないとの趣旨の主張をする。しかし,本件
各環境影響評価においては,バックグラウンド濃度の測定が行われる
とともに,将来のバックグラウンド濃度の予測においても将来交通量
の伸び等が検討の対象とされているなど,既存道路との複合的な影響
について考慮されているものと認められるから,原告らの上記主張を
採用することはできない。(乙13の9,乙13の12,乙13の1
5)
エ騒音被害について
(ア)第3の8に記載した事実によれば,本件各事業の施行により,本件
各事業の計画路線周辺に騒音が発生するおそれがあることを否定する
ことはできない。しかし,①本件各環境影響評価並びに本件環境影響
照査1及び本件環境影響照査2において,工事完了後の計画路線周辺
の道路交通騒音が,旧公害対策基本法及び環境基本法に基づいて定め
られた環境基準に適合することが予測されており,本件環境影響照査
3においても,一部予測地点について追加の対策を講じることにより
上記基準に適合することが予測されていることや,これらの予測の対
象となった時点や地域の選定方法及び予測方法等が特段不合理である
と認めるに足りる証拠はないことを併せ考慮すれば,本件各事業の施
行によって得られる公共の利益が上記騒音の発生による影響によって
失われる利益に優越するとの判断につき,それが重要な事実の基礎を
欠くか又はその内容が社会通念に照らし著しく妥当性を欠くと認める
に足りないし,(3)の他の項において検討する本件各事業の施行によっ
て失われる諸利益と併せ考慮しても,かかる判断が重要な事実の基礎
を欠くか又はその内容が社会通念に照らし著しく妥当性を欠くと認め
るに足りない。
(イ)a他方,原告らは,旧騒音環境基準及び現騒音環境基準に定められた
基準は受忍限度であり,これを超える騒音は違法であるとの趣旨の
主張をするところ,土地収用法第3章の規定に基づく事業の認定を
するに当たり,当該事業の施行により上記基準を超える騒音を生ず
るがい然性がある場合には,それを同法20条3号の適合性の判断
の要素として考慮すべきことは論をまたないものの,そのようなが
い然性があることをもって直ちに当該事業に係る事業の認定をする
ことが違法であるとする法令上の根拠を見いだすことはできない。
また,上記基準は旧公害対策基本法9条及び環境基本法16条1項
に基づき,騒音に係る環境上の条件について生活環境を保全し人の
健康の保護に資する上で維持されることが望ましい基準として定め
られたものであること(乙F2ないし乙F4)からしても,上記の
がい然性があることをもって直ちに当該事業に係る事業の認定をす
ることが違法であるということはできない。
b原告らは,旧騒音環境基準及び現騒音環境基準における「道路に面
する地域」とは,道路に建物が接しているか又は道路端から最大で
20メートルの距離にある地域を指すと解するべきであり,α1地
域は「道路に面する地域」に該当しないとした上で,「道路に面す
る地域」以外に適用される環境基準を適用すると,当該基準値を上
回る騒音被害が発生する旨を主張する。
ところで,証拠(甲F15,乙F2,乙F3)及び弁論の全趣旨
によれば,①旧騒音環境基準の策定に当たった専門委員会において
は,「道路に面する地域」に適用される基準については,別途の検
討を要するとされ,その後,「道路に面する地域」以外の地域に適
用される基準に5ホン(A)又は10ホン(A)の補正値を加えた
ものが基準値の案とされ,これを基に旧騒音環境基準が策定された
こと,②旧騒音環境基準について,A地域及びB地域のうち「道路
に面する地域」の基準値についてそれ以外のA地域及びB地域の基
準を若干緩和した値とされているのは,「道路交通騒音の実態がと
くに主要幹線道路などにおいて著しく悪化していること,一方,道
路の公共性がきわめて大きく,かつ道路周辺の地域住民が道路から
利益を得ている場合が少なくない,といった条件を考慮して,道路
に面する地域について道路に面しない裏側と同じレベルの厳しい基
準を適用することは妥当でない」と判断されたものであることや,
車線数によって基準値に差が設けられているのも,「一般に車線数
の多い道路ほど幹線道路としての性格が強い,すなわち公共性がよ
り大で,このような道路に面する地域は道路交通騒音についてより
受忍性が強いと考えられたからである」こと,③現騒音環境基準に
ついて,環境庁(当時)大気保全局長が各都道府県知事あてに通知
した「騒音に係る環境基準の改正について」(平成10年9月30
日環大企第257号)においては,「道路交通騒音の影響が及ぶ範
囲は,道路構造,沿道の立地状況等によって大きく異なるため,道
路端からの距離によって一律に道路に面する地域の範囲を確定する
ことは適当ではない」とされていること,④上記環境庁(当時)大
気保全局長通知において,現騒音環境基準に定められた「幹線交通
を担う道路に近接する空間」につき,2車線を超える車線を有する
幹線交通を担う道路に係るものについては,道路端から20メート
ルとされていることがそれぞれ認められる。
このような旧騒音環境基準及び現騒音環境基準の策定経過や内容
等にかんがみると,「道路に面する地域」の基準値は,道路からの
受益性という観点のみから設定されたものではなく,道路の公共性
を中心として,道路交通騒音の実態などを総合的に踏まえて設定さ
れたものと認められるのであって,基準値の策定に際して道路の公
共性が重視されていることにかんがみると,具体的事例において「道
路に面する地域」の適用範囲を画する際に,道路からの距離のみを
考慮することは想定されておらず,むしろ,道路騒音の影響を受け
る地域全体が「道路に面する地域」に当たるものとして,緩和され
た環境基準の適用を認めることが,旧騒音環境基準及び現騒音環境
基準の趣旨に沿うものというべきである。よって,上記原告らの主
張を採用することはできない。
c原告らは,本件各事業の施行により生じる騒音に係る夜間の予測
値が,地点予測では最高値がLAeqで59デシベルとなり,面的
予測ではLAeqで55デシベルないし60デシベルの地域が多く
を占め,最高ではLAeqで60デシベルの地域も予測されること
が明らかになっている旨主張する。しかし,原告らが提出する調査
業務報告書(甲F14)のうち,「道路に面する地域」の環境基準
値を用いず,一般の環境基準値を用いている部分について採用する
ことができないのは,上記に述べたとおりであるし,地点における
評価及び面的評価についても,地形による騒音の反射や吸収の有無,
地形が騒音の伝ぱに及ぼす影響について,どのような地形のいかな
る状態をどのように考慮したのかは必ずしも明らかでないことから,
これをもって,本件各環境影響評価及び本件各環境影響照査におけ
る騒音に係る評価が合理性を欠くとまでいうことはできない。
d原告らは,睡眠妨害が出現するレベルがL50で40デシベル
(A)といわれ,旧騒音環境基準も,一般住居専用地域では,睡眠
の確保を更に確実にするため,屋外値L50で40デシベル(A)
以下を目標として定めたものであり,また,等価騒音レベルでは,
睡眠妨害を防止するための屋内騒音は,LAeqで30デシベル以
内に保つことが重要であるといわれているとした上で,①本件環境
影響評価1におけるα1地域の夜間の騒音レベルは,屋外ではL5
0で49ホンとなっており,睡眠妨害の被害が発生するレベルであ
る,②本件環境影響照査1におけるα1地域における騒音予測値は,
屋外ではLAeqで54デシベルであって,これは屋内では44デ
シベルとなり,明らかに睡眠妨害が生じるレベルであるなどと主張
する。
ところで,本件環境影響評価1においては,α1地域の夜間の環
境基準として,旧騒音環境基準の「A地域のうち2車線を超える車
線を有する道路に面する地域」の基準値(夜間)である50ホン(A)
以下が適用されている。この値は,旧騒音環境基準の「道路に面す
る地域」以外の地域の「B地域」の環境基準値(夜間)と同じであ
るところ,この環境基準値は,騒音レベルの測定は屋外で行うもの
であり,建物による遮音効果は約10デシベルと見積もることがで
きるから,屋外で50ホン(A)以下とすれば屋内では40ホン(A)
以下となり,ほぼ睡眠妨害を免れ得る水準であるといえるとの観点
から定められたものであるところ(乙F2),このような見解がお
よそ不合理であるということはできない。
また,本件環境影響照査1においては,α1地域の夜間の環境基
準として,現騒音環境基準の「A地域のうち2車線以上の車線を有
する道路に面する地域」の基準値(夜間)である55デシベル以下
が適用されているところ,現騒音環境基準の指針値の設定に当たっ
ても,旧騒音環境基準と同様,「生活の中心である屋内において睡
眠影響及び会話影響を適切に防止する上で維持されることが望まし
い騒音影響に関する屋内騒音レベルの指針(「騒音影響に関する屋
内指針」)を設定し,これが確保できることを基本とするとともに,
不快感等に関する知見に照らした評価を併せて行うことが必要であ
る」とされ,道路に面する地域については,睡眠影響に関する科学
的知見を踏まえた「夜間[睡眠影響]40デシベル以下」という屋
内指針値が示されている(乙F3)。これは,道路に面する地域以
外の地域については,音の発生が不規則ないし不安定であり,この
ような騒音による睡眠影響を生じさせないためには,屋内で35デ
シベル以下であることが望ましいとされているが,高密度道路交通
騒音のように騒音レベルがほぼ連続的ないし安定的である場合には
40デシベルが睡眠影響を防止するための上限であるとの知見があ
ることや,連続的な騒音による睡眠への影響に関するその他の科学
的知見を総合すると,道路に面する地域については,40デシベル
以下であれば,ほぼ睡眠への影響を免れることができ,睡眠への影
響を適切に防止することができるものと考えられたからである(乙
F3)。その上で,「道路に面する地域」のうち「専ら住居の用に
供される地域(現騒音環境基準の「A地域」と同義)のうち,2車
線以上の車線を有する道路に面する地域」については,地域補正に
関する考え方,道路に面する地域の睡眠影響に関する指針値及び建
物の防音性能(通常の建物において窓を開けた場合の平均的な内外
の騒音レベル差は10デシベル程度,窓を閉めた場合におおむね期
待できる平均的な防音性能は25デシベル程度)を踏まえ,夜間5
5デシベルであれば,ある程度窓を開けた状態においても,騒音影
響に関する屋内指針を満たすことが可能であることなどから,上記
地域における環境基準の指針値を夜間55デシベル以下とすること
が適当であるとされたものであり(乙F3),このような見解につ
いても,それがおよそ不合理であるということはできない。
以上によれば,α1地域について,本件環境影響評価1において
適用された旧騒音環境基準の基準値(夜間50ホン(A)以下)や,
本件環境影響照査1において適用された現騒音環境基準の基準値
(夜間55デシベル)は,いずれも夜間の睡眠妨害に対する影響が
考慮されているものであるから,合理性を欠くものとはいえない。
そして,本件環境影響評価1におけるα1地域の夜間の騒音レベル
は,L50で49ホン(A)と予測され,上記基準値である50ホ
ン(A)を下回っており,また,本件環境影響照査1におけるα1
地域の夜間の騒音レベルは,LAeqで54デシベルと予測され,
上記基準値である55デシベルを下回っているから,原告らが主張
するような深刻な睡眠妨害が生ずるとまではいえない。
e原告らは,高尾山登山道について騒音に係る影響が評価されてい
ないことを問題とする。しかし,①本件各環境影響照査において用
いられた「道路環境影響評価の技術手法(その2)」及び東京都技
術指針(平成15年1月)において,「調査地域は,騒音の影響範
囲内に住居等が存在する,あるいは立地する見込みがある地域とし,
調査・予測区間毎に設定する」(乙F6),「調査地域は,対象事
業の種類及び規模並びに地域の概況を勘案して,対象事業の実施に
伴う騒音・振動が日常生活に影響を及ぼすと予想される地域とする」
(乙E4)とされていること,②旧騒音環境基準及び現騒音環境基
準のいずれにもおいても,療養施設や住居等の存否に着目して環境
基準を適用する地域の類型を定めていることなどに照らし,住居の
存在しない高尾山登山道のような地域については,騒音に係る環境
影響評価を行うことは想定されていないといわざるを得ず,他に,
高尾山登山道について騒音に係る環境影響評価を行うべき法令上の
根拠も見当たらない。したがって,高尾山登山道について騒音の予
測がされていないことをもって,本件各環境影響評価及び本件各環
境影響照査が合理性を欠くということはできない。
f原告らは,本件各環境影響評価において既存道路との合成騒音が
十分に考慮されていないとの趣旨の主張をする。しかし,本件各環
境影響評価においては,既存道路との複合的な影響については考慮
されているものと認められる(乙13の8,乙13の11,乙13
の14)から,原告らの上記主張を採用することはできない。
g原告らは,サウンドスケープとの概念を指摘した上で,本件各事
業の施行により,高尾山等のサウンドスケープが侵害される旨を主
張する。しかし,本件各環境影響評価及び本件各環境影響照査にお
ける騒音による影響の評価に当たっては,いずれも予測地域の概要
について検討が加えられていることや,上記に述べたとおり,旧騒
音環境基準及び現騒音環境基準がいずれも療養施設や住居等の存否
に着目して環境基準を適用する地域の類型を定めており,人の生活
環境に対する騒音の影響を問題にしていると解されることなどに照
らせば,サウンドスケープとの概念の当否はおくとしても,かかる
概念を援用するなどして環境影響評価を行わなかったことをもって,
本件各環境影響評価及び本件各環境影響照査が合理性を欠くという
ことはできない。
hなお,本件各環境影響評価において,走行車両が法定速度を遵守
することを前提とした上で評価を行っていることが合理性を欠くと
はいえないことは,ウ(エ)で述べたとおりである。
オ振動について
第3の9に記載した事実によれば,本件各事業の施行により,本件各事
業の計画路線周辺に振動が発生するおそれがあることを否定することはで
きない。しかし,本件各環境影響評価及び本件各環境影響照査において,
工事完了後の計画路線周辺の道路交通振動が要請限度の値を下回ることが
予測されており,この予測の対象となった時点や地域の選定方法及び予測
方法等が特段不合理であると認めることはできないことに照らせば,本件
各事業の施行によって得られる公共の利益が上記の振動の発生による影響
によって失われる利益に優越するとの判断につき,それが重要な事実の基
礎を欠くか又はその内容が社会通念に照らし著しく妥当性を欠くと認める
に足りないし,(3)の他の項において検討する本件各事業の施行によって失
われる諸利益と併せ考慮しても,かかる判断が重要な事実の基礎を欠くか
又はその内容が社会通念に照らし著しく妥当性を欠くと認めるに足りない。
カ低周波空気振動について
第3の10に記載した事実によれば,本件各事業の施行により,本件各
事業の計画路線周辺に低周波空気振動が発生するおそれがあることを否定
することはできない。しかし,本件各環境影響評価及び本件各環境影響照
査において,工事完了後の計画路線周辺の低周波空気振動が,沿道周辺の
日常生活に支障のない程度のものか又は「道路環境影響評価の技術手法(そ
の2)」に記載された参考指標を下回ることが予測されており,この予測
の対象となった時点や地域の選定方法及び予測方法等が特段不合理である
と認めることはできないことに照らせば,本件各事業の施行によって得ら
れる公共の利益が上記の低周波空気振動が発生することによる影響によっ
て失われる利益に優越するとの判断につき,それが重要な事実の基礎を欠
くか又はその内容が社会通念に照らし著しく妥当性を欠くと認めるに足り
ないし,(3)の他の項において検討する本件各事業の施行によって失われる
諸利益と併せ考慮しても,かかる判断が重要な事実の基礎を欠くか又はそ
の内容が社会通念に照らし著しく妥当性を欠くと認めるに足りない。
なお,本件各環境影響評価においては,低周波空気振動について定性的
な予測をした上で,沿道周辺の日常生活に支障のない程度のものと考えら
れる旨結論付けているところ,本件各環境影響評価がされた時点において
は,低周波空気振動の発生機構の解明の研究途上にあるため,低周波空気
振動の音圧レベルを定量的に予測する方法が確立されていなかったことや,
平成16年4月時点においても,国又は地方公共団体が実施する環境保全
に関する施策による基準又は目標が示されていなかったこと(乙3の5)
などに照らし,予測方法につき合理性を欠くとはいえない。
キオオタカへの影響について
第3の11に記載した事実によれば,本件各事業の施行により,本件各
事業の計画路線周辺におけるオオタカの生息に影響を与えるおそれがある
ことは否定することができない。しかし,本件各事業区間においてはオオ
タカの営巣が確認されていないことや,八王子市α15地区において営巣
が確認されたオオタカについては,その生育環境に配慮するための方策が
検討され,実際にその方策に沿って工事が施行されたことなどを勘案すれ
ば,本件各事業の施行によって得られる公共の利益が上記のオオタカへの
影響によって失われる利益に優越するとの判断につき,それが重要な事実
の基礎を欠くか又はその内容が社会通念に照らし著しく妥当性を欠くと認
めるに足りないし,(3)の他の項において検討する本件各事業の施行によっ
て失われる諸利益と併せ考慮しても,かかる判断が重要な事実の基礎を欠
くか又はその内容が社会通念に照らし著しく妥当性を欠くと認めるに足り
ない。
クα1地域の生活環境等への影響について
原告らは,本件各事業の施行により,α1地域の歴史的ないし文化的環
境への影響や生活環境に重大な影響を与える旨を主張するところ,既に検
討した本件各事業の施行による高尾山の地下水への影響や高尾山等の景観
に及ぼす影響,大気汚染,騒音,震動,低周波空気振動,オオタカへの影
響等を考慮すれば,原告らが指摘するα1地域における生活環境等に影響
が生ずるおそれがあることを否定することはできない。しかし,本件各事
業の施行によって得られる公共の利益が原告らの指摘する上記の各影響に
よって失われる利益に優越するとの判断につき,それが重要な事実の基礎
を欠くか又はその内容が社会通念に照らし著しく妥当性を欠くと認めるに
足りる証拠はない。
(4)本件各事業の施行によって得られる利益と失われる利益との比較衡量
上記に述べたとおり,本件各事業の施行によって得られる利益については,
いずれも既に述べたような公共性の存在が認められ,この点に加え,第3の
1に記載したとおり,社会資本整備重点計画等において圏央道の整備の促進
が重要な政策課題として掲げられていることや,圏央道の建設予定地ないし
その周辺の地方公共団体等から圏央道の早期建設等が要望されていることな
どを勘案すれば,本件各事業に係る費用便益分析について原告らが指摘する
ところを踏まえても,本件各事業の施行によって得られる公共の利益が認め
られるとの国土交通大臣の判断が重要な事実の基礎を欠くか又はその内容が
社会通念に照らし著しく妥当性を欠くと認めるに足りない。
次に,本件各事業の施行によって失われる利益については,①自然環境,
特に,高尾山の地下水への影響,高尾山等の景観に及ぼす影響,大気汚染,
騒音,振動,低周波空気振動による環境の悪化,オオタカへの影響,②歴史
的ないし文化的環境への影響,③α1地域等の生活環境への影響等が挙げら
れ,そのうち①については,本件各事業の施行により本件起業地周辺におい
て上記の事項につき影響が生ずるおそれがあることは否定することはできな
い一方で,本件各事業の施行によって得られる公共の利益が上記自然環境へ
の影響によって失われる利益に優越するとの判断につき,それが重要な事実
の基礎を欠くか又はその内容が社会通念に照らし著しく妥当性を欠くと認め
るに足りないことは,既に述べたとおりである。また,②歴史的ないし文化
的環境への影響,③生活環境への影響についても,既に述べたところに加え,
埋蔵文化財に係る協議が実施される(乙3の2)などの措置が講じられてい
ることなども併せ考慮すれば,本件各事業の施行によって得られる公共の利
益が上記歴史的ないし文化的環境及び生活環境への影響によって失われる利
益に優越するとの判断につき,それが重要な事実の基礎を欠くか又はその内
容が社会通念に照らし著しく妥当性を欠くと認めるに足りない。
以上によれば,本件各事業が土地収用法20条3号の要件に該当するとし
た国土交通大臣の判断につき,裁量権の範囲を逸脱し,又はこれを濫用した
違法があるということはできない。
(5)なお,本件事業認定に当たっては,認定の対象となった事業計画と異なる
代替案が検討されたことはうかがわれないところ,土地収用法20条3号の
要件適合性の判断に当たっては,代替案が有り得る場合には,これと比較検
討することが事業計画の合理性を審査する上で有効であるということができ
るものの,事業の認定をする行政庁に代替案との比較をすることを義務付け
る法令上の根拠は見当たらないから,起業者の提示した資料等から明らかに
他の案が優れていると認められるといった特別の事情がない限り,代替案と
の比較検討をしないことにより直ちに事業の認定が違法であるとはいえない。
そして,本件各事業に係る事業の認定の申請の当時に,このような代替案が
あったことをうかがわせる証拠はない。
6土地収用法20条4号の要件適合性について
(1)土地収用法20条4号は,同条3号によって事業計画の合理性が肯定され
る場合であっても,当該事業において収用又は使用という取得手続を執るこ
との必要性があり,かつ,それが公益目的に合致することを求めるものと解
される。そして,上記のような同条4号の要件適合性の判断は,その性質上,
政策的な判断を伴うものであって,事業の認定をする行政庁は,その判断に
係る裁量権を有するというべきである。その上で,かかる判断については,
それが裁量権の行使としてされたことを前提として,その基礎とされた重要
な事実に誤認があること等により重要な事実の基礎を欠くこととなる場合,
又は,事実に対する評価が明らかに合理性を欠くこと,判断の過程において
考慮すべき事情を考慮しないこと等によりその内容が社会通念に照らし著し
く妥当性を欠くものと認められる場合に限り,裁量権の範囲を逸脱し又はこ
れを濫用したものとして違法となると解するのが相当である。
(2)ア本件において,証拠(乙1)及び弁論の全趣旨によれば,①起業者らは,
本件事業認定の直前である平成17年8月末の時点で,本件圏央道事業等
についてはその所要面積約15万4439平方メートルのうち約84パ
ーセントに当たる約12万9808平方メートルの用地の取得を完了し,
本件八王子南バイパス事業についてはその所要面積約12万1450平
方メートルのうち約70パーセントに当たる約8万4887平方メート
ルの用地の取得を完了するとともに,残る土地についても,土地所有者及
び関係人との間で用地取得に係る協議を継続していたこと,②一方,任意
による用地取得が困難である場合に一体性を有する本件各事業の計画的
な遂行を図るため,あらかじめ本件各事業に係る事業の認定の申請がされ
たことがそれぞれ認められ,本件各事業につき収用又は使用という取得手
続を執ることの必要性は認められる。
イ次に,本件各事業について収用又は使用という取得手続を執ることの必
要性が公益目的に合致するか否かを検討するに,まず,本件圏央道事業等
については,前記5(2)アに述べたところからすれば,現在,一般国道1
6号等の交通量が多く,慢性的に交通渋滞が発生していることから,早期
に交通渋滞の緩和を図るとともに,広域的な利便性を早期に実現させる必
要があるとする事業の認定をした行政庁としての国土交通大臣の判断が
重要な事実の基礎を欠くか又はその内容が社会通念に照らし著しく妥当
性を欠くということはできない。そして,この点に加え,第3の1に記載
したとおり,圏央道事業につき,首都圏中央連絡道路建設促進協議会等か
ら本件圏央道事業等について早期建設等が要望されていることや,社会資
本整備重点計画等においても圏央道の整備の促進が重要な政策課題とし
て掲げられていることなどを勘案すれば,本件圏央道事業等について必要
に応じ収用又は使用という取得手続を執ることが公益目的に合致すると
の判断が重要な事実の基礎を欠くか又はその内容が社会通念に照らし著
しく妥当性を欠くということはできない。
本件八王子南バイパス事業については,前記5(2)イに述べたところか
らすれば,一般国道20号の交通量が多く,慢性的に交通渋滞が発生して
いることから,早期に交通渋滞の緩和を図る必要があるとする事業の認定
をした行政庁としての国土交通大臣の判断が重要な事実の基礎を欠くか
又はその内容が社会通念に照らし著しく妥当性を欠くということはでき
ない。そして,この点に加え,第3の1に記載したとおり,首都圏中央連
絡道路建設促進協議会等から本件八王子南バイパス事業について早期建
設等が要望されていることなどを勘案すれば,本件八王子南バイパス事業
について必要に応じ収用又は使用という取得手続を執ることが公益目的
に合致するとの判断が重要な事実の基礎を欠くか又はその内容が社会通
念に照らし著しく妥当性を欠くということはできない。
(3)以上によれば,本件各事業が土地収用法20条4号の要件に該当するとし
た国土交通大臣の判断につき,裁量権の範囲を逸脱し,又はこれを濫用した
違法があるということはできない。
なお,原告らは,本件各事業の施行により巨額の財政赤字を招くとして,
本件各事業が同号の要件に適合しないと主張する。しかし,仮に,本件各事
業区間を通行する自動車の通行料金等の収入が本件各事業区間に係る建設費
用等を下回るものであるとしても,これをもって直ちに本件各事業が同号の
要件に該当しないものということはできないし,既に述べたとおり,本件各
事業の施行によって得られる相応の公共の利益があると認められるから,上
記原告らの主張を踏まえても上記判断は左右されない。
また,原告らは,圏央道事業に関する工事の入札手続においていわゆる談
合が行われている疑いがある旨の主張をするところ,同条3号及び4号の要
件適合性を判断するに当たり,かかる事実をどのように考慮すべきかについ
てはおくとしても,本件各事業のうち本件事業認定の対象となった部分につ
いて原告らが主張する談合が行われたことを認めるに足りる証拠はないから,
原告らの上記主張を採用することはできない。
7環境影響評価に関する手続違反等について
(1)原告らは,本件各環境影響評価の手続及びその内容に瑕疵があり,これに
より本件事業認定が違法になる旨を主張する。しかし,土地収用法その他の
関係法令上,事業の認定の申請又は事業の認定に当たり,起業者又は事業の
認定をする行政庁に環境影響評価を行うことを義務付ける規定は見当たらず,
環境影響評価を行うことが事業の認定をするための要件であるということは
できないから,起業者又は事業の認定をする行政庁が事業の認定の対象とな
った事業に係る環境影響評価を行う義務を負うとする原告らの主張は,その
前提を欠くものである。
また,第3の4に記載したとおり,東京都環境影響評価条例に基づいて本
件各環境影響評価が行われたところ,その手続に特段の瑕疵があることをう
かがわせる証拠はない。
さらに,5(3)で述べたところによれば,本件各環境影響評価及び本件各環
境影響照査の内容は,本件事業認定に当たりおよそしんしゃくし得ない程度
に不合理であるとはいえない。
以上によれば,原告らの上記主張を採用することはできない。
(2)次に,原告らは,本件事業認定に当たって再度の環境影響評価を行い,環
境保全の措置についても新たに検討すべきであった旨主張する。
しかし,事業の認定の申請ないし事業の認定に当たり,起業者又は事業の
認定をする行政庁が事業の認定の対象となった事業に係る環境影響評価を行
う義務を負うとする原告らの主張がその前提を欠くものであることは,既に
述べたとおりである。
次に,環境影響評価法について検討するに,まず,同法は,その施行時点
で実施中の事業については,同法に基づく環境影響評価の対象としていない
ものと解されるところ(乙I3),本件圏央道事業等のうち本件環境影響評
価1の対象となった区間については,平成5年12月に工事に着手しており,
同法が施行された平成11年6月当時において施工中であったこと(乙I4)
に照らし,そもそも環境影響評価法の対象事業に当たるとはいえない。また,
本件圏央道事業等のうち本件環境影響評価2の対象となった区間については,
事業区間が約2.5キロメートルであること(乙1,乙3の1,乙3の3,
乙13の8)から,環境影響評価法の適用があるとはいえない(環境影響評
価法2条2項,3項,同法施行令1条,6条,別表第1参照)。さらに,本
件八王子南バイパス事業については,環境影響評価法の施行の日前に都市計
画法17条1項の規定による公告が行われた同法による都市計画に定められ
た事業については環境影響評価を行うことが求められないところ(環境影響
評価法附則3条1項4号参照),第2の3(6)に記載したとおり,本件八王子
南バイパス事業は,環境影響評価法の施行の日前に都市計画の案の公告が行
われ,都市計画の変更の決定がされているから,環境影響評価法の対象事業
に当たるとはいえない。
また,東京都環境影響評価条例について検討するに,同条例63条(平成
10年改正前の東京都環境影響評価条例28条,平成14年改正前の東京都
環境影響評価条例36条に相当)は,東京都環境影響評価条例62条1項の
規定による変更の届出があった対象事業に係る環境影響評価の再実施を定め
たものであるところ,本件各事業について同条例62条1項に掲げる事情が
あったことをうかがわせる証拠はないことから,同条例63条に定める環境
影響評価の再実施が必要であるとはいえない。そして,東京都環境影響評価
条例64条(平成10年改正前の東京都環境影響評価条例29条,平成14
年改正前の東京都環境影響評価条例37条に相当)は,事業者が環境影響評
価書の縦覧期間が満了した日から5年を経過した後に当該対象事業に係る工
事に着手しようとする場合における事情変更に伴う環境影響評価の再実施を
定めた規定であるところ,第3の4に記載した事実及び証拠(乙3の3,乙
3の5,乙I4)によれば,①本件環境影響評価1の対象となった区間につ
いては,平成元年2月21日に環境影響評価書の縦覧期間が満了し,その後,
平成5年11月8日付けで着工届が提出されていること,②本件環境影響評
価2の対象となった区間については,平成9年2月20日に環境影響評価書
の縦覧期間が満了し,その後,平成13年10月22日付けで着工届が提出
されていること,③本件環境影響評価3の対象となった区間については,平
成9年2月20日に環境影響評価書の縦覧期間が満了し,その後,平成13
年10月22日付けで着工届が提出されていることがそれぞれ認められるこ
とから,本件各事業について東京都環境影響評価条例64条に定める環境影
響評価の再実施が必要であるとはいえない。
以上によれば,起業者らには,法令上再度の環境影響評価を行う義務があ
るとはいえないから,再度の環境影響評価を行っていないことをもって,本
件事業認定が違法となるとはいえない。
(3)原告らは,本件各事業の施行に伴い発生する土砂の処理の方法及び搬出先
を明らかにしないで事業の認定の申請をすることは違法である旨を主張する。
しかし,原告らが主張するような事項を土地収用法に基づく事業の認定の申
請をする起業者に義務付ける法令上の根拠は見当たらない。したがって,原
告らの上記主張を採用することはできない。
8都市計画法違反について
(1)原告らは,本件都市計画変更決定につき,関係住民に対する説明が不十分
であり,また,東京都環境影響評価審議会から多くの改善点を指摘する答申
がされていたにもかかわらず,住民らの反対を無視する形で強行されたもの
であったなどと主張するとともに,本件都市計画変更決定に係る八王子都市
計画地方審議会の議決及びこれを前提とした東京都都市計画地方審議会の議
決に瑕疵があるとして,これらが本件事業認定の違法事由になると主張する。
しかし,都市計画法に基づく都市計画の決定の手続と,土地収用法に基づ
く事業の認定の手続は,その根拠法令,目的及び効果を異にするものである
上,連続した一連の手続ということもできない。そうすると,都市計画の決
定の手続の重大かつ明白な瑕疵により当該都市計画の決定が無効な場合は,
上記事業の認定の要件につきその適合性の判断に影響し得るとしても,その
ような場合を除き,都市計画の決定の手続の瑕疵が当然に上記の事業の認定
に承継されるということはできない。したがって,原告らの上記主張はその
前提を欠くというべきである。
また,都市計画法は,都道府県知事が都市計画の決定をするに当たって,
①都市計画の案を作成しようとする場合において必要があると認めるときは,
公聴会の開催等住民の意見を反映させるために必要な措置を講ずるものとし
(16条1項),②都市計画を決定しようとするときは,あらかじめその旨
を公告し,当該都市計画の案を公告の日から2週間公衆の縦覧に供しなけれ
ばならず(17条1項),③その間,関係市町村の住民及び利害関係人に意
見書の提出の機会を与え(17条2項),④関係市町村の意見を聴取の上,
都市計画地方審議会の議を経て,都市計画の決定をすることとしている(1
8条1項)ところ,都市計画の案を作成しようとする場合に住民の意見を反
映させるための措置を講ずるか否かは,都道府県知事の裁量にゆだねられて
おり,その必要があると認めるときに限り,公聴会の開催等の措置を講ずる
ものとされている。そして,原告らが問題があるものとして指摘する関係市
町における説明会は,都市計画の案の作成に際して,その内容を住民等の関
係者に説明し,関係者の理解,協力等を得ようとするものであって,同法1
6条1項の規定に基づいて行われる措置ではなく,任意に開催されるものに
すぎない。したがって,説明会における説明内容等のいかんが,都市計画の
決定の違法事由になると解することはできない。
さらに,同法18条1項に基づく関係市町村の意見の聴取についても,関
係市町村の意見の形成に際して著しい瑕疵があり,関係市町村の意見を聴取
したものとは認めることができないというような特段の事情がある場合は別
論として,都道府県知事は,関係市町村の意見に必ずしも拘束されることな
く都市計画の決定をすることができると解されるところ,原告らの主張は,
八王子市都市計画地方審議会における本件都市計画変更決定に係る議決にお
いて,可否同数であること及び同審議会の会長が自らの決するところにより
可決としたことを宣言すべきであったのに,自らを賛成に加えて賛成多数と
宣言したことを問題とするものである。しかし,上記議決を可決するに当た
り賛成多数としたことに瑕疵が認められるとしても,いずれにせよ上記議決
の結果は可決であったものであることからすれば,その瑕疵は,関係市町村
の意見を聴取したものと認めることができないというべき程度に重大なもの
とは解されない。したがって,原告らの主張する瑕疵をもって本件都市計画
変更決定が違法であるとはいえない。
よって,原告らの上記主張を採用することはできない。
9自然公園法違反について
(1)原告らは,東京都知事が,本件圏央道事業による高尾山トンネル工事の影
響について,自然公園法施行規則11条1項各号に定められた事項を十分に
検討することなく,形式的に同意しており,実質的に自然公園法56条1項
に違反する旨主張する。
しかし,本件圏央道事業においては,平成16年6月25日付けで相武国
道事務所長及び日本道路公団東京建設局八王子工事事務所長(当時)から東
京都知事に対して同項に基づく協議がされ,同年12月28日付けで東京都
知事から異存がない旨の回答がされているところ(乙1),同項の協議に際
していかなる資料の提出を求めるのか,また,提出された資料についてどの
ように検討をするのかといった事項は,当該行為を行う被告国の機関及び都
道府県知事の判断にゆだねられており,協議の際に全く資料が提出されてい
なかったり,提出された資料について何らの検討も加えられなかったという
ような特段の事情がない限り,同項の規定に違反するということはできない
ものと解される。そして,証拠(甲B44,乙1)及び弁論の全趣旨によれ
ば,相武国道事務所長及び日本道路公団東京建設局八王子工事事務所長(当
時)から東京都知事に対して協議がされた際に,本件圏央道事業に係る資料
が提出されており,これらの資料を踏まえて検討が行われたものと認めるこ
とができるから,原告らの上記主張を採用することはできない。
(2)また,原告らは,X47談話が自然公園内における道路建設に関する生物
の多様性に関する条約8条(a)にいう確立された制度の一つであり,本件
事業認定がこのX47談話に反する旨を主張する。
しかし,生物の多様性に関する条約8条は,生物の多様性を保全するため,
「可能な限り,かつ,適当な場合」に,一定の制度を設けることや,生態系
の保護等を促進すること,所要の条件整備のために努力すること等を締約国
に対して求めるものであることが明らかであって,その文理に照らし,原告
らが主張するような具体的な施策を採ることを義務付けているものと解す
ることはできないし,また,原告らが主張するX47談話については,行政
の運営における一般的な指針としての性格を超える法的拘束力まであるも
のと認めるべき根拠を見いだし難い。したがって,原告らの上記主張を採用
することはできない。
第5第3事件に係る当裁判所の判断
1原告適格について
(1)権利取得裁決の取消しを求める訴えの原告適格について
ア第4の1(1)で述べたとおり,行政事件訴訟法9条1項にいう処分の取消
しを求めるにつき「法律上の利益を有する者」とは,当該処分により自己
の権利若しくは法律上保護された利益を侵害され,又は必然的に侵害され
るおそれのある者をいうのであり,当該処分を定めた行政法規が,不特定
多数者の具体的利益を専ら一般的公益の中に吸収解消させるにとどめず,
それが帰属する個々人の個別的利益としてもこれを保護すべきものとする
趣旨を含むと解される場合には,このような利益もここにいう法律上保護
された利益に当たり,当該処分によりこれを侵害され又は必然的に侵害さ
れるおそれのある者は,当該処分の取消訴訟における原告適格を有するも
のというべきである。そして,土地収用法101条1項本文は,土地を収
用するときは,権利取得裁決において定められた権利取得の時期において,
起業者は,当該土地の所有権を取得し,当該土地に関するその他の権利等
は消滅する旨を規定しており,同条3項は,同条1項本文の規定を同法7
8条又は79条の規定によって物件を収用する場合に準用している。
したがって,起業地内の土地又は当該土地にある立木等に関して所有権
その他の権利を有していた者は,それらの収用に係る権利取得裁決の取消
しを求める訴えの原告適格を有するというべきであり,以下,これを前提
に,第3事件の各原告の原告適格について検討する。
イ(ア)第2の3(7)ア(ア)に述べたとおり,別紙第3事件原告目録1記載の
原告らは,本件各裁決がされた平成19年12月27日当時,本件土
地4ないし本件土地6のうち,同目録1の「所有権東京都八王子市」
欄記載の土地に関して所有権を有していたのであるから,それらにつ
いて,別紙第3事件原告目録1のうち原告X48,原告X49及び原
告X50は本件裁決3及び本件裁決4のうち各権利取得裁決の,原告
X35は本件裁決2及び本件裁決4のうち各権利取得裁決の,その余
の別紙第3事件原告目録1記載の各原告のうち,「所有権東京都八
王子市」欄に「α2町×××番2」と記載されたものは本件裁決3の
うち権利取得裁決の,同欄に「α3町△番」と記載されたものは本件
裁決4のうち権利取得裁決の各取消しを求める訴えの原告適格を有す
るというべきである。
(イ)第2の3(7)ア(イ)に述べたとおり,別紙第3事件原告目録2記載の
原告らは,本件各裁決がされた平成19年12月27日当時,本件土
地1ないし本件土地3に関して賃借権を有していたのであるから,本
件裁決1のうちそれらの権利取得裁決の取消しを求める訴えの原告適
格を有するというべきである。
(ウ)第2の3(7)ア(ウ)に述べたとおり,別紙第3事件原告目録3記載の
各原告のうち原告X2,原告X3,原告X4,原告X5,原告X6,
原告X7,原告X8,原告X9,原告X10及び原告X11は,本件
各裁決がされた平成19年12月27日当時,別紙第3事件原告目録
3の「立木・物件東京都八王子市」欄に記載された本件土地1ない
し本件土地3の土地にある収用の対象となった立木に関して所有権を
有していたのであるから,これらの各原告は,本件裁決1のうちそれ
らの権利取得裁決の取消しを求める訴えの原告適格を有するというべ
きである。
(エ)別紙第3事件原告目録3記載の各原告のうち「立木・物件東京都
八王子市」欄に「α3町△番内立看板」と記載された各原告について
a証拠(丙1の4・5,丙5の1・2,丙6の1・2)及び弁論の全
趣旨によれば,別紙第3事件原告目録3記載の各原告のうち「立木・
物件東京都八王子市」欄に「α3町△番内立看板」と記載された各
原告が△番の土地にあると主張する立て看板は,本件土地7に設置さ
れているものと認められ,本件土地6には設置されていないものと認
められる。したがって,上記各原告のうち別紙第3事件原告目録1の
「所有権東京都八王子市」欄に「α2町×××番2」と記載された
各原告(ただし,第3事件原告X48,第3事件原告X49及び第3
事件原告X50を除く。)については,上記立て看板の存在を根拠に
本件裁決4により財産上の権利を失う者であるということはできず,
他に,これらの各原告が本件土地6に関して所有権その他の権利を有
していたことを認めるに足りる証拠はないから,本件裁決4のうちそ
の権利取得裁決の取消しを求める訴えの原告適格を有しない。
bまた,証拠(丙1の5,丙6の1・2)及び弁論の全趣旨によれば,
本件裁決5の対象となった本件土地7は,平成19年12月27日当
時,被告東京都が所有していたものであるとともに,別紙第3事件原
告目録3記載の各原告のうち「立木・物件東京都八王子市」欄に「α
3町△番内立看板」と記載された各原告は,本件土地7にある物件に
関して権利を有するというにとどまり,本件土地7の収用に係る権利
取得裁決の名あて人となる者とはいえず,本件裁決5のうち権利取得
裁決においても名あて人とはされていないものと認められる。そして,
他に,上記の各原告が本件土地7に関して所有権その他の権利を有し
ていたことを認めるに足りる証拠はない。したがって,上記の各原告
は,本件裁決5のうちその権利取得裁決により財産上の権利を失う者
ではないから,それの取消しを求める訴えの原告適格を有しないもの
というべきである。
(2)明渡裁決の取消しを求める訴えについて
ア明渡裁決があったときは,当該土地又は当該土地にある物件を占有して
いる者は,明渡裁決において定められた明渡しの期限までに,起業者に当
該土地若しくは当該物件を引き渡し,又は当該物件を移転しなければなら
ない義務を負うところ(土地収用法102条),明渡裁決の取消しを求め
る原告適格を有する者は,当該裁決の対象となった土地又は当該土地にあ
る物件を占有している者と解すべきである。そして,明渡裁決の対象とな
る土地の明渡し等が完了した場合は,同裁決は既に目的を達して所有者等
が同裁決により負担していた義務は消滅し,もはやそれらの者が同裁決に
より何らかの義務を負い,これを強制されるという関係はなく,明渡裁決
の取消しを求める訴えの利益は消滅するというべきであって,本件におい
て,これと異なって解すべき事情は見当たらない。
イそして,証拠(丙1の1ないし5)及び弁論の全趣旨によれば,本件土
地1ないし本件土地7の明渡し等はいずれも終了しているものと認められ
るから,原告らには,本件各明渡裁決の取消しを求める訴えの利益はない
といわなければならない。
2本件事業認定の違法性の承継の有無について
第4に述べたとおり,本件事業認定に違法があるとは認められないから,本
件事業認定の違法を本件各裁決の違法の理由として主張することができるか否
かについて検討するまでもなく,本件事業認定の違法を理由として本件各裁決
が違法であるとする原告らの主張を採用することはできない。
3本件各裁決の手続に係る違法性の有無について
(1)東京都収用委員会の会長及び会長代理の経歴等について
土地収用法52条3項は,収用委員会の委員及び予備委員は,法律,経済
又は行政に関して優れた経験と知識を有し,公共の福祉に関し公正な判断を
することができる者のうちから,都道府県の議会の同意を得て,都道府県知
事が任命する旨を定めるところ,その趣旨は,収用委員会が公共の利益の増
進と私有財産との調整を図るという公共の福祉に係る目的を実現し,かつ,
私有財産に重要な制限を加える準司法的行政処分をするところから,公正か
つ妥当な判断を行うことのできる者を委員に任命する趣旨を明らかにしたも
のと解される。また,同条4項は,収用委員会の委員及び予備委員は,地方
公共団体の議会の議員又は地方公共団体の長若しくは常勤の職員若しくは地
方公務員法28条の5第1項に規定する短時間勤務の職を占める職員と兼ね
ることができない旨を定めるところ,その趣旨は,収用委員会の委員及び予
備委員が公正かつ中立の立場で職務を遂行することを担保するため,地方公
共団体における一定の地位にあってこれや起業者等と相応の利害関係のある
可能性がある者等の就任を禁止しているものと解される。
以上を前提に本件について検討するに,本件審理を担当した東京都収用委
員会の会長であるX26及び会長代理であったX27は,第3の13に記載
したような経歴等を有するものの,これのみをもって,両名が土地収用法5
2条3項に定める者に該当せず,その任命が違法であるということはできず,
他に,両名が同項に定める者に該当しないことをうかがわせる証拠はない。
また,両名が同法52条4項に該当する者であることをうかがわせる証拠は
ない。
よって,X26及びX27が収用委員会の委員に任命され,本件各裁決の
審理に関与したことをもって,本件各裁決が違法であるということはできな
いから,この点に関する原告らの主張を採用することはできない。
(2)審理の期日等の指定の当否について
原告らは,本件審理に当たり,東京都収用委員会が本件権利者らないしそ
の代理人と事前に協議するなどした上で期日を指定しなかったとして,本件
審理に違法がある旨を主張する。しかし,審理の期日等の指定は,収用委員
会がその権限と職責においてすべきこと(土地収用法46条2項)であり,
その際に権利者又は関係人と日程を協議するべきこと等を定めた法令の規定
は見当たらない。したがって,収用委員会において権利者又は関係人が現実
には立ち会うことのできないような日時を殊更に指定したなどの特段の事情
があれば格別,収用委員会が権利者及び関係人と協議をすることなく審理の
期日等を指定しても,これをもって違法ということはできない。そして,本
件においては上記特段の事情があったことをうかがわせる証拠はないから,
東京都収用委員会の審理の期日等の指定に違法があったということはできな
い。
(3)本件審理の期日における審理の指揮及び本件審理の終了の当否について
アまず,原告らは,東京都収用委員会において審理の期日及び時間を一方
的に指定したことを問題とするが,(2)に述べたとおり,審理の期日等の指
定は収用委員会がその権限及び職責においてすべきことであるから,これ
をもって本件審理が違法であるということはできない。そして,第3の1
4(2)に記載した事実によれば,東京都収用委員会は,期日の指定に当たっ
ては予備日を準備するなど出席を希望する本件権利者らに一定の配慮をし
た事実も認められる。
また,第3の14(2)に記載した事実によれば,本件審理の期日は5回実
施されたところ,当初2回の期日については本件権利者らの多くが居住す
るものと推認される八王子市内でされるなど出席を予定する者にも一定の
配慮がされるとともに,各回少なくとも3時間以上の審理が行われ,上記
5回の期日のうち4回は本件権利者ら及び弁護士代理人からの意見の聴取
に充てられたことや,審理において意見を述べた者らに対し,更に陳述す
ることを希望する意見がある場合には意見書を提出するように促している
ことなどを併せ考慮すれば,審理に充てられた時間や審理の指揮の在り方
等に直ちに問題があったということはできない。
そして,他に,審理の期日における審理の指揮の在り方及び本件審理の
終了に関し,土地収用法の規定に反する事由があったことをうかがわせる
証拠はないから,これらをもって本件審理に違法があったということはで
きない。
イ他方,原告らは,本件審理の期日において,一方的に時間の制限をする
などして,発言を求める者に十分な発言をさせないような審理の指揮がさ
れた旨主張する。しかし,収用委員会の審理は会長又は指名委員が指揮す
るものとされている(土地収用法64条1項)とともに,会長又は指名委
員は,起業者,土地所有者及び関係人が述べる意見,申立て,審問その他
の行為が既に述べた意見又は申立てと重複するとき,裁決の申請に係る事
件と関係がない事項にわたるときその他相当でないと認めるときは,これ
を制限することができる旨が定められている(同条2項)ことや,すべて
の権利者ら及びその代理人に時間の制限なく審理における発言の機会を保
障することは同法の想定するところではないと解されること(同法65条
の2参照)などからすれば,審理の指揮については収用委員会の会長等の
合理的な裁量にゆだねられていると解するべきであるところ,第3の14
(2)に記載した事実及びその他の証拠によっても,東京都収用委員会の会長
であるX26が本件審理の指揮において上記裁量権の範囲を逸脱し,又は
これを濫用したとまではうかがわれない。
また,原告らは,本件審理において議論の主題自体が不当に制限された
旨主張するが,第3の14(2)に記載した事実及びその他の証拠によっても,
そのような事実をうかがうことはできない。むしろ,原告らが問題とする
X26及びX27の経歴等については,これが同法63条等に定める審理
の議題とすべき事項であるとは直ちには解されないし,本件審理において
本件権利者ら及び弁護士代理人が再三にわたってこれを問題とし両名の辞
任を求める趣旨の発言をする一方,X26においては同法52条の趣旨を
説明するなどして辞任には応じない旨の説明を繰り返しているのであるか
ら,このことをもって,原告らの主張するように釈明の拒絶ないし審理の
制限がされたということもできない。
4本件各裁決の内容に関する違法性について
(1)原告らは,本件裁決3及び本件裁決4に関し,旧×××番の土地及び△番
の土地の境界が確定されていないなどと主張して,これにより,本件裁決3
及び本件裁決4に違法がある旨を主張する。
(2)ア収用委員会は,権利取得裁決において収用する土地の区域について裁決
しなければならず(土地収用法48条1項1号),その際には,収用する
土地の区域を明確に特定しなければならないと解されるところ,その特定
の方法として,土地の所在,地番,地目及び地積等を表示するのが一般的
であるが,必ずこのような方法によるべきものとする法令の規定は見当た
らず,収用する土地の区域を実測図面により特定し,これを裁決書に添付
する方法によるのであっても,その区域が客観的に明確になるものであれ
ば,特定として欠けるところはないというべきである。
イ本件においては,第3の14(4)に記載したとおり,本件土地1ないし本
件土地5及び本件土地7については,土地の所在,地番,地目及び地積に
より土地の区域を特定するとともに,本件土地6については収用する土地
の区域を実測図面により表示しているところ,まず,本件土地1ないし本
件土地4及び本件土地7については,分筆前の旧×番4の土地,旧×番7
の土地,旧××番の土地及び△△△番6の土地について,従前の土地所有
者の立会いを得るなどしてその境界が確認されていることなどに照らし,
その特定に欠けるところはないというべきである。
次に,本件土地5については,第3の14(4)ウに記載した旧×××番の
土地の特定方法には特段不合理な点は見当たらないことに加え,原告ら自
身が本件土地5のほぼすべての部分が旧×××番の土地に属する旨主張し
ていることをも勘案すれば,その特定に欠けるというところはないという
べきである。
また,本件土地6については,第3の14(4)エに記載した△番の土地の
特定方法には特段不合理な点は見当たらないことに加え,原告ら自身が本
件土地6は△番の土地に属する旨主張していることをも勘案すれば,その
特定に欠けるというところはないというべきである。
よって,本件各裁決において,収用する土地の区域の特定に欠けるとこ
ろはないというべきである。
(3)ア次に,収用委員会は,権利取得裁決において損失補償金を受けるべき土
地所有者又は関係人の氏名又は住所を明らかにして裁決しなければならな
いとされていること(土地収用法48条1項2号,4項本文)等からする
と,収用等の対象となる土地等の権利関係について審理及び判断すること
が前提とされているといえる。
しかし,土地等の収用等は公共の利益となる事業を施行するために円滑
かつ確実に起業者に必要な土地等を取得させるための制度であって,収用
委員会が上記の審理及び判断をするのは,損失補償金を受けるべき土地所
有者又は関係人を特定するためであり,私法上の権利関係をめぐる紛争を
終局的に解決するためであるとは解されない。また,収用の対象となる土
地について権利取得裁決及び明渡裁決までにその境界を確定すべき旨を求
める法令の定めはない。そして,同法48条4項ただし書及び49条2項
が,損失補償金を受けるべき土地所有者又は関係人の氏名又は住所を確知
することができない場合について定めていることも勘案すれば,収用委員
会は,収用等の対象となる土地等について権利関係の争いがあった場合に
は,その権限と職責の範囲内で,事実関係の把握に努め,法律判断を行う
ベきである一方で,裁決における所有権の帰属等の権利関係の認定は,訴
訟によって権利の確定を図る場合に比して簡易なもので足り,収用等の対
象となる土地の境界が必ず確定されていなければ権利取得裁決及び明渡裁
決をすることができないとはいえないと解される。そして,収用委員会は,
権利関係の紛争について判断をすることができない場合には,同法48条
4項ただし書及び49条2項に基づいて,損失補償金を受けるべき土地所
有者又は関係人の氏名又は住所を確知することができないとして,その氏
名等を不明とするいわゆる不明裁決をすることができるというべきである。
そこで,上記を前提に,原告らが問題とする本件裁決3及び本件裁決4
について検討を加える。
イ本件裁決3について
第3の14(4)に記載した事実に加え,証拠(甲A15,甲J10,甲J
38(枝番を含む。),丙1の3,丙14の2の3,原告X31本人,原
告X51本人)及び弁論の全趣旨によれば,旧×××番の土地については,
隣接する土地の所有者との間で境界の確認等がされておらず,その境界に
争いがある事実が認められる。
しかし,アに述べたとおり,旧×××番の土地の境界が確定されない限
りは法令上本件土地5に係る権利取得裁決及び明渡裁決をすることが許さ
れないというものではないから,旧×××番の土地の境界に争いがあるこ
とのみをもって,本件裁決3に違法があるということはできない。
なお,付言するに,本件裁決3においては,不明裁決はされておらず,
旧×××番の土地の共有者が本件土地5の共有者であるとして土地に対す
る損失の補償をする旨の裁決がされているところ,本件土地5のうち,旧
×××番の土地の北側に存する被告国所有に係る水路の一部である旨原告
らが主張する部分を除き,本件土地5が旧×××番の土地に属することは
当事者間に争いがないところである。そして,仮に,原告らの主張するよ
うに,本件土地5の一部に上記被告国が所有する水路が含まれるとしても,
これをもって,原告らとの関係で本件裁決3が違法であるということはで
きない。
ウ本件裁決4について
第3の14(4)に記載したとおり,本件裁決4においては,△番の土地の
境界に争いがあるとして不明裁決がされているところ,第3の14(4)に記
載した事実によれば,東京都収用委員会は,現地調査及び八王子登記所に
おける調査等により事実関係の把握をした上で,△番の土地については地
積測量図が存在しないものの,周辺の土地の地積測量図と△番の土地につ
き表示がある公図とを対照するなどした上,△番の土地が存し得る範囲に
ついて特定した上で,△番の土地の境界は不明としたものであり,その検
討の内容等については合理的なものということができる。そして,以上の
事情を踏まえて本件土地6の所有者等が不明であるとして権利取得裁決及
び明渡裁決をした本件裁決6に違法があるということはできない。
エ以上のように,旧×××番の土地及び△番の土地の境界が確定されてい
ないとしても,そのような事情を踏まえてされた本件裁決3及び本件裁決
4につき直ちに違法があるということはできない。そして,上記の事情を
前提に,これらに係る境界の確認に関する手続等の違法をいう原告らのそ
の他の主張についても,いずれも採用することができないというべきであ
る。
5立木の取得価格について
(1)原告らは,その所有する立木の取得価格及び補償金額が0円とされている
ことをもって,本件裁決1,本件裁決3及び本件裁決4が違法である旨を主
張するところ,かかる主張は,仮にその論拠が評価方法と評価の過程等にあ
るとしても,要するに,損失の補償についての違法を述べるものであるとい
わざるを得ない。
ところで,土地収用法は,収用委員会の裁決に関する訴えについて規定す
るところ,収用委員会の裁決のうち損失の補償に関する訴えについては,特
に出訴期間及び被告適格に関する定めを置いており(133条2項及び3項),
これは,収用等に伴う損失の補償に関する争いは収用等そのものの適否にか
かわりなく起業者と土地所有者等との間で早期に解決させるのが適当である
との趣旨に基づくものと解され,収用委員会の裁決についての審査請求にお
いては損失の補償についての不服をその裁決についての不服の理由とするこ
とができないとされていること(132条2項)をも併せ考慮すると,収用
等の裁決の取消訴訟においては,裁決事項のうち損失の補償についての違法
を当該収用等の裁決自体の取消事由として主張することはできないというべ
きである。
したがって,損失の補償についての違法を述べる原告らの主張は,その余
の点を判断するまでもなく,失当である。
(2)なお,付言するに,第3の14(4)に記載したとおり,本件裁決1,本件裁
決3及び本件裁決4においては,立木の取得価格について,立木の市場価格
から伐採及び搬出に係る費用等を差し引いた額により見積もったところ市場
価格を伐採及び搬出に係る費用等が上回るとして取得価格を0円とした起業
者の見積りと同一の額が算定されていることは,上記各裁決の裁決書から明
らかであるから,立木の取得価格及び補償金額をいずれも0円とした根拠が
示されていないということはできない。
第6結論
以上によれば,①第1事件及び第2事件の訴えのうち,第4原告ら及び第5
原告らに係る部分,②第3事件の訴えのうち,イ)別紙第3事件原告目録2記
載の各原告並びに別紙第3事件原告目録3記載の各原告のうち原告X2,原告
X3,原告X4,原告X5,原告X6,原告X7,原告X8,原告X9,原告
X10及び原告X11に係る本件裁決1の取消しを求める訴えのうち明渡裁決
の取消しを求める部分,ロ)原告X48,原告X49及び原告X50に係る本
件裁決3及び本件裁決4の各取消しを求める訴えのうち明渡裁決の取消しを求
める部分,ハ)原告X35に係る本件裁決2及び本件裁決4の各取消しを求め
る訴えのうち明渡裁決の取消しを求める部分,ニ)別紙第3事件原告目録1記
載の各原告(ただし,原告X48,原告X49,原告X50及び原告X35を
除く。)のうち,同目録「所有権東京都八王子市」欄に「α2町×××番2」
と記載された各原告については本件裁決3の,同欄に「α3町△番」と記載さ
れた原告については本件裁決4の各取消しを求める訴えのうち明渡裁決の取消
しを求める部分,ホ)別紙第3事件原告目録1の各原告のうち同目録「所有権
東京都八王子市」欄に「α2町×××番2」と記載された各原告(ただし,原
告X48,原告X49及び原告X50を除く。)に係る本件裁決4の取消しを
求める訴え,ヘ)別紙第3事件原告目録3記載の各原告のうち,同目録「立木・
物件東京都八王子市」欄に「α3町△番内立看板」と記載された各原告に係
る本件裁決5の取消しを求める訴えはいずれも不適法であるから却下すること
とし,その余の部分に係る原告らの請求はいずれも理由がないから棄却するこ
ととし,訴訟費用の負担について,行政事件訴訟法7条並びに民事訴訟法61
条及び65条1項本文を適用して,主文のとおり判決する。
東京地方裁判所民事第3部
裁判長裁判官八木一洋
裁判官中島朋宏
裁判官衣斐瑞穂は,転補につき署名押印をすることができない。
裁判長裁判官八木一洋
(別紙)
当事者の主張
第1第1事件及び第2事件
1被告国の主張
(1)第4原告ら及び第5原告らの当事者能力及び原告適格
ア第4原告らは,本件起業地内の不動産や立木等につき権利を有しない八
王子市等に居住する者である。また,第5原告らは,本件起業地内の不動
産や立木等につき権利を有しない自然保護団体である。
イ処分の相手方以外の第三者の法律上の利益の有無を判断するに当たって
は,当該処分の根拠となる法令の規定が,不特定多数者の具体的利益を専
ら一般的公益の中に吸収解消させるにとどめず,それが帰属する個々人の
個別的利益としてもこれを保護すべきものとする趣旨を含むものか否かを
検討すべきである。その場合,規定の文言のみによる解釈を行うことは厳
に慎まなければならないものの,個別の行政実体法を解釈するに当たり,
立法者の意思に基づいて定められた法文の文理を重視すべきであり,また,
当該法令の趣旨及び目的を判断する上でも,下位法令を含めて根拠法令の
規定の文言が重視されるべきである。そして,本件において,第4原告ら
及び第5原告らに本件事業認定の取消しを求める法律上の利益があるか否
か,すなわち,土地収用法が,第4原告ら及び第5原告らが主張する上記
不利益の前提をなす自然環境の悪化を受けないという利益を,一般的公益
の中に吸収解消させるにとどめずに第4原告ら及び第5原告ら個々人の個
別的利益としてもこれを保護すべきものとする趣旨を含むものか否かは,
本件事業認定の根拠となった土地収用法の文言,土地収用法の趣旨及び目
的を考慮して判断すべきである。
ウ(ア)土地収用法は,公共の利益となる事業に必要な土地等の収用又は使
用に関し,その要件,手続及び効果並びにこれに伴う損失の補償等に
ついて規定し,公共の利益の増進と私有財産との調整を図り,もって
国土の適正かつ合理的な利用に寄与することを目的とする(1条)と
ころ,土地収用法の趣旨及び目的は,公共の利益と私有財産との調整,
収用又は使用に係る土地等の所有者や当該土地等の関係人との利害
を調整することであり,かかる同法の趣旨及び目的からすると,保護
すべき個々人の個別的利益として,当該事業の対象となる起業地周辺
住民及び自然保護団体の環境上の利益を含んでいると解することは
できない。
(イ)土地収用法20条3号は,事業計画が土地の適正かつ合理的な利用
に寄与することを事業認定の要件として定めるところ,これは,土地
が適正かつ合理的に利用されることになるか否かという点について,
専ら国民経済的,専門技術的な観点に立って,当該土地がその事業の
用に供されることによって得られるべき公共の利益と,当該土地がそ
の事業の用に供されることによって失われる私的利益ないし公共の利
益とを比較衡量することによって判断すべき義務を行政庁に課したに
とどまるものであって,同号が起業地の周辺住民及び自然保護団体の
環境上の利益を個別,具体的に保護する趣旨を含むものと解すること
はできない。
なお,環境に係る利益については,土地収用法20条3号適合性の
判断,すなわち,事業計画が国土全体の土地利用の観点からみて適正
かつ合理的であるか否かの判断に当たり,比較衡量の対象とされる,
得られるべき利益又は失われるべき利益のうちの一つとして考慮され
得るものではあるが,土地収用法には,都市計画法と異なり,事業計
画が公害防止計画に合致していることを要求する規定はなく,また,
そのほかにも環境に係る利益等について具体的に定めた規定はない。
そのため,環境に係る利益が,土地収用法20条3号適合性の判断に
おいて比較衡量の一要素として考慮される結果として保護されること
があったとしても,それは飽くまでも,事業計画全体の合理性を基礎
付ける多数の得られるべき利益又は失われるべき利益の一つにすぎな
い。したがって,環境に係る利益の保護は,個々の事業計画ごとに判
断される相対的で抽象的な内容ないし性質のものにとどまり,その規
制の中に,都市計画法におけるような個人の健康や生活環境に係る具
体的利益保護の趣旨を見いだすことはできない。
(ウ)土地収用法上の事業認定が告示されると,起業地について明らかに
事業に支障を及ぼすような形質の変更を行うことが制限され(同法2
8条の3),起業者は,同法の手続により土地の収用,使用をするこ
とができ(同法35条以下),そのために起業者に対し,起業地内の
土地調書,物件調書作成のための立入調査権(同法35条1項),裁
決申請権(同法39条1項)といった権限が与えられている。これら
の規定によれば,起業地内の土地等について権利を有する者は,事業
認定の取消しを求める法律上の利益を有するということができるが,
起業地内の土地等について権利を有しない者は,事業認定によりその
権利を侵害される立場にはない。また,土地収用法28条の2は,土
地所有者及び関係人が受けることができる補償その他国土交通省令で
定める事項について,土地所有者及び関係人に周知させるため必要な
措置を講じなければならない旨を定めているにすぎず,そもそも周辺
住民はその対象とされていないことからも,土地収用法が周辺住民の
個別具体的利益を保護する趣旨を含むものでないといえる。
(エ)土地収用法には,事業認定に当たって利害関係人への配慮を目的と
した規定が設けられているが,次に述べるとおり,事業認定に係る手
続規定は,多くの人々の意見を参考とし,できる限り公正妥当な事業
認定が行われるための公益目的の規定と解すべきであって,これをも
って,起業地の周辺住民及び自然保護団体の環境上の利益を個別,具
体的に保護する趣旨を含むものと解することはできない。
a土地収用法23条は,事業認定機関は,事業認定に関する処分を
行おうとする場合において利害関係人からの請求があったときその
他必要があると認めるときに公聴会を開いて一般の意見を求めなけ
ればならない旨規定しているところ,事業の施行による影響が広範
囲に及ぶものなどについては,同法20条の要件,特に同条3号の
要件の認定をするに当たり,困難かつ微妙な価値判断が必要になる
場合があるために設けられた規定である。このような場合には,比
較衡量の基準として,社会に支配的な価値判断を探求する必要があ
ることから,事業認定機関が考慮すべき要素としてどのようなもの
があり,それぞれの価値にどの程度の重みを与えるのかといった判
断に供するべく,十分な情報を収集することを目的に公聴会を開催
するものである。
したがって,土地収用法23条による公聴会は,利益の比較衡量
に必要な情報の収集を目的とするものであって,同法が周辺住民等
の環境上の利益の保護を目的とするような規定を設けていないこと
に照らしても,起業地の周辺住民等の個々の健康や生活環境に係る
具体的な利益を保護するものではない。
b土地収用法25条は,事業認定に関する処分を行おうとする場合
においてその公告があったときは,事業の認定について利害関係を
有する者は,都道府県知事に意見書を提出することができる旨規定
するところ,同条にいう「利害関係を有する者」とは,起業地周辺
の住民で,事業の恩恵に浴する者や事業により環境面での影響を受
ける者も含まれるものの,同条による意見の収集は,飽くまで事業
認定機関が事業認定に関する処分をするに当たって,広く一般から
の意見を求めることにより,公正妥当な判断をするための資料を得
ることを趣旨とするものである。したがって,この意見書の提出に
ついても,利益の比較衡量に必要な情報の収集を目的とするもので
あり,起業地の周辺住民等の個々の健康や生活環境に係る具体的な
利益を保護するためその意向を事業に反映させるためのものではな
い。
(オ)原告らが取消しを求めているのは,土地収用法に基づく本件事業認
定であるところ,本件各事業に係る事業認定申請に先立って,東京都
環境影響評価条例に基づく環境影響評価を行うことは義務付けられて
いない。東京都環境影響評価条例に基づく環境影響評価は,都市計画
法に基づく都市計画決定手続に合わせて行われるものであって,土地
収用法に基づく事業認定とは無関係である。また,起業者らは,本件
各事業に係る事業認定申請に当たって,本件各環境影響評価以降に得
られた新たな知見に基づき,本件各事業の施行が環境に及ぼす影響に
ついて補足的に照査を行っているが,これは,上記条例によって義務
付けられた事後調査等ではなく,その結果は,土地収用法に基づく事
業認定を受けるに当たり参考資料として起業者らから提出されたもの
にすぎない。上記条例は,原告らが取消しを求める本件事業認定の根
拠法令である土地収用法と目的を共通にする関係法令であるというこ
とはできない。
エ以上によれば,土地収用法は,起業地の周辺住民等の個々の健康や生活
環境に係る利益を保護することを趣旨及び目的としているとは解されず,
本件起業地内の不動産について権利を有しない第4原告ら及び第5原告ら
には,本件事業認定の取消しを求める法律上の利益はなく,本件訴訟にお
ける原告適格はないというべきである。また,第5原告らは自然保護団体
にすぎないのであるから,そもそも健康や生活環境に係る具体的利益を有
するとはいえず,この点からも,本件事業認定の取消しを求める法律上の
利益はない。
(2)本件事業認定により原告らに生ずる重大な損害についての反論
ア高尾山トンネルによる高尾山の地下水への影響について
(ア)起業者らは,高尾山トンネルがX70国定公園の下を通過すること
から,地質調査及び水文調査を実施するとともに,学識経験者等から
構成されるトンネル技術検討委員会(以下「技術検討委員会」という。)
を設置し,止水対策を始めとしたトンネル施工方法全般にわたる検討
を行い,技術検討委員会の指導,助言を仰ぎながら,慎重に工事を進
めることとした。そして,起業者らは,技術検討委員会の助言に従い,
高尾山トンネルについては,高尾山の水環境を保全するため,施工中
に比較的地山の緩みが生じることが想定される約500メートルの区
間については,覆工止水構造が完成する前のトンネル掘削時には,ゆ
う水に対する止水を目的として,先進導坑(シールド掘削)掘削後,
トンネル周辺の地山を,超微粒子セメントによる止水注入を行い,水
を通しにくい地山とした上で,覆工コンクリートと地山との間に防水
シートを施工し,トンネル内に地下水を引き込まない防水構造である
覆工止水構造とすることとした。
国土交通大臣は,上記の点を踏まえ,当該トンネル掘削による地下
水の変動が土壌水分に全く影響を与えないと断言することは困難であ
るものの,上記のとおり,起業者らが水環境の影響を最小限にすべく,
技術検討委員会の助言を踏まえて高尾山トンネルの一部を覆工止水構
造とする等適切な措置を講じることとしており,引き続き技術検討委
員会の助言を受けて工事を進めることとしていたことから,本件事業
認定に当たって,本件各事業が高尾山の地下水及び表流水に与える影
響は軽微であって,したがって動植物等の環境に与える影響について
も軽微であると判断したものであり,この判断は合理的である。
なお,原告らが指摘するα18滝については,α20沢とトンネル
の交差部より上流に位置しており,その集水域も広いこと,また,α
19滝については,その集水域がトンネルルートと大きく離れている
ことから,両者に対する高尾山トンネル工事の影響は少ないものと考
えられる。
(イ)原告らが指摘するα13城跡トンネル工事等による影響については,
本件事業認定の対象となった区間外の事情であり,本件事業認定の適
法性とは関係のない事項である。ただし,本件事業認定に係る申請書
の縦覧期間中に上記の点に係る意見書の提出があったことから,本件
事業認定に当たって,意見書の内容についても慎重に確認し,工事現
場周辺の地下水位を観測するための観測孔2の水位低下や八王子市α
15町α16地区における井戸枯れ,α13城跡トンネルの北側に位
置する圏央道α32トンネル(現在の名称はα35トンネル。以下「α
32トンネル」という。)の工事の際の沢の水枯れ及びα13城跡に
あるα17滝の水枯れ等について調査,検討を加えた上で,本件各事
業が高尾山の地下水及び表流水に与える影響は軽微であると判断した
ものであって,この判断は合理的なものというべきである。
イ本件各事業に係る環境影響評価について
(ア)本件圏央道事業等に係る環境影響評価
本件圏央道事業等は,環境影響評価法等に基づく環境影響評価の実
施対象外の事業であるが,都市計画決定権者である神奈川県知事及び
東京都知事により,神奈川県環境影響評価条例,東京都環境影響評価
条例及び「建設省所管事業に係る環境影響評価の実施について」(昭
和60年4月建設省経環発第10号建設事務次官通知)に基づき,環
境影響評価の手続がなされている。そのうち,本件事業認定の対象と
なった区間については,圏央道(一般国道20号から埼玉県境間)建
設事業及び圏央道(神奈川県境から一般国道20号間)建設事業につ
いて,それぞれ,東京都環境影響評価条例等に基づき,昭和63年1
2月に本件環境影響評価1が,平成8年12月に本件環境影響評価2
が行われている。
本件環境影響評価1及び本件環境影響評価2では,地域の概況と事
業の内容を考慮して,「大気汚染,水質汚濁,騒音,振動,低周波空
気振動,日照阻害,電波障害,植物・動物(陸上植物,陸上動物,水
生生物),地形・地質,史跡・文化財,景観」の11項目が予測,評
価項目として選定され,各項目ごとに現況調査が行われ,本件圏央道
事業等の施行が環境に及ぼす影響について予測,評価がされた。また,
予測,評価の対象時点を「工事の施工中」と「工事の完了後」に区分
し,「工事の施工中」においては,工事そのものに起因する工事中の
環境への影響について,「工事の完了後」においては,「施設の存在」
又は「施設の供用」に起因する環境への影響について,それぞれ予測,
評価された。
その結果は,適切な環境保全のための措置を講じることにより,環
境基準等を満足するものと評価されるものであった。
(イ)本件八王子南バイパス事業に係る環境影響評価について
本件八王子南バイパス事業は,環境影響評価法等に基づく環境影響
評価の実施対象外の事業であるが,都市計画決定手続において,都市
計画決定権者である東京都知事により,東京都環境影響評価条例等に
基づき,平成8年12月に本件環境影響評価3が行われている。
本件環境影響評価3では,地域の概況と事業の内容を考慮して,
「大気汚染,水質汚濁,騒音,振動,低周波空気振動,日照阻害,電
波障害,植物・動物(陸上植物,陸上動物,水生生物),地形・地質,
史跡・文化財,景観」の11項目が予測,評価項目として選定され,
各項目ごとに現況調査が行われ,本件八王子南バイパス事業の施行が
環境に及ぼす影響について予測,評価がされた。また,予測,評価の
対象時点を「工事の施工中」と「工事の完了後」に区分し,「工事の
施工中」においては,工事そのものに起因する工事中の環境への影響
について,「工事の完了後」においては,「施設の存在」又は「施設
の供用」に起因する環境への影響について,それぞれ予測,評価がさ
れた。
その結果は,適切な環境保全のための措置を講じることにより,環
境基準等を満足するものと評価されたものであった。
(ウ)計画交通量の見直しに伴う環境影響評価の照査
起業者らは,本件各事業に係る事業認定申請に当たって,圏央道及
び八王子南バイパスに係る事業の完成の時期を見直したことから,当
該見直しを踏まえて,事業認定申請時の最新のデータである建設省
(当時)が平成11年度に全国的規模で実施した一般交通量調査及び
自動車起終点調査等に基づき,将来交通量の推計手法として一般的に
用いられている,①発生集中交通量の推計,②分布交通量の推計,③
路線配分の順序で行う方法により,平成42年を推計年次とする圏央
道及び八王子南バイパスの計画交通量を算出した。
そして,起業者らが計画交通量を見直した結果,本件各環境影響評
価の基礎となった計画交通量(推計年次は平成12年及び平成22
年)と比べて本件各事業区間の計画交通量が増加していることなどか
ら,平成42年の計画交通量を基礎として,本件各環境影響評価以降
に得られた新たな知見に基づき,本件各事業の施行が環境に及ぼす影
響について補足的に照査を行った(以下,本件環境影響評価1に関す
るものを「本件環境影響照査1」,本件環境影響評価2に関するもの
を「本件環境影響照査2」,本件環境影響評価3に関するものを「本
件環境影響照査3」といい,本件環境影響照査1ないし本件環境影響
照査3を併せて「本件各環境影響照査」という。)。
すなわち,起業者らは,本件各環境影響評価において計画交通量を
基礎として予測,評価が行われた項目のうち,自動車の走行が要因と
なって環境への影響が想定される予測項目で計画交通量の変更によ
り評価が変わる可能性のあるものとして,工事の完了後の施設の供用
に伴う「大気汚染」,「騒音」,「振動」及び「低周波空気振動」の
4項目を照査の対象項目として選定し,平成42年を予測の対象時点
として,東京都環境影響評価条例に基づく「東京都環境影響評価技術
指針」(以下「東京都技術指針」という。)(平成15年1月)並び
に平成12年10月及び平成16年4月に建設省土木研究所及び国
土交通省国土技術政策総合研究所が取りまとめた「道路環境影響評価
の技術手法(その1)」,「道路環境影響評価の技術手法(その2)」
等に基づき,本件各事業の施行が環境に及ぼす影響について,再予測
計算及び評価を行った。
そして,再予測計算をした各項目の予測値は,評価の指標(環境基
準等)を下回る,あるいは,適切な環境保全のための措置を講ずるこ
とにより評価の指標(環境基準等)を下回るというものであった。
(エ)以上のとおり,本件各事業については,東京都環境影響評価条例に
基づく環境影響評価が行われ,また,本件各事業に係る事業認定申請
に当たっても,起業者らによる再予測及び評価がなされており,国土
交通大臣は,そのいずれにおいても,評価の指標(環境基準等)を下
回るなどのため,又は適切な環境保全のための措置を講ずることによ
り,環境への影響は少ないと評価されたことを確認した上で,本件事
業認定を行ったものである。
ウ本件各事業が高尾山等の景観に及ぼす影響について
(ア)本件環境影響評価1においては,本件各事業の周辺地域に,X70
国定公園,X71自然公園等の山地景観が存在することから,高尾山
からの眺望,α1地域における眺望など,地域景観の特性等を考慮し
て代表的眺望地点を選定し,現地踏査及び写真撮影によるフォトマッ
プの作成等により調査した上で,景観の変化についての予測を行って
いる。その際,本件圏央道事業等により建設される人工構造物の付加
による現況景観の変化は確かに生じるが,道路構造形式,デザイン,
色彩等について各種調査をし,詳細な設計を行うとともに,構造物の
設置される箇所の自然的,歴史的,文化的条件を十分検討し,必要に
応じて専門家の意見を設計に反映させることにより,構造物が本来持
つべき機能と視覚的機能を調和させ,景観的配慮を行っていくことと
し,盛土・切土のり面,環境施設帯等には速やかに樹林による緑の創
造を図ることにより,人工構造物の全体若しくは一部を視界から覆い
隠すこと等により,道路と周辺景観との融合を図ることにより,本件
圏央道事業等による景観への影響は少ないものと考えるとの評価を適
切に行っている。したがって,ジャンクション及び高架橋が高尾山の
景観を破壊するとの理由をもって本件事業認定が違法であるとはいえ
ない。
また,八王子ジャンクションについては,施設の大半を中央自動車
道北側に配置しているため,八王子市α1町の多くの住宅が存在して
いる都道浅川相模原線(通称旧甲州街道)からは見えにくい位置に配
置されており,景観への配慮がされているといえる。
(イ)原告らは,高尾山トンネルの建設により高尾山の豊かな生態系や歴
史的景観を構成している基盤的構成要素を破壊する旨を主張する。し
かし,原告らが景観要素として掲げる事項は,本件環境影響評価1に
おいて,「地形・地質」,「植物・動物」などの「景観」とは別の評
価項目として選定されており,それらの評価項目においても環境影響
評価は適正に行われている。この中で,「自然的景観の主な構成要素
である山地の森林の大部分は保全されることからトンネル区間では景
観の変化は生じない。」とされている。また,高尾山トンネルについ
ては,山中に単独の換気塔を設けることなく,高架橋を通じて八王子
ジャンクションの地下に設けた換気室でダクトにより処理している。
(ウ)原告らは,八王子南インターチェンジに係る環境影響評価につき,
インターチェンジによる人工構造物自体が高尾山を中心とする自然景
観を破壊していることを全く考慮していない旨主張するところ,本件
環境影響評価2においては,調査対象地域のうち計画路線が通過する
八王子市の関係町村及びその周辺には,高尾山を中心とした山地景観
が広がっており,代表的な景観資源としてはX70国定公園,X71
自然公園が挙げられることから,高尾山からの眺望など,地域景観の
特性等を考慮して代表的眺望地点を選定し,現地踏査及び写真撮影に
よるフォトマップの作成等により調査した上で,景観の変化について
の予測を行った。そして,その評価としては,八王子南インターチェ
ンジの建設が予定されている一般国道20号沿いの地域は,市街化が
進んでおり人工的景観要素を多く含んでいることに加え,インターチ
ェンジを設置しても周辺に広がる山地景観は維持されることから,切
土のり面,環境施設帯等の計画路線区域内の植栽可能な部分に,地域
にあった適切な構成種を中心とする植樹等により修景を行い,橋りょ
うの色彩や形状が周辺の景観と調和するように配慮することにより,
景観への影響の程度を小さくすることが可能と考えられ,計画路線の
設置が周辺の景観に与える影響は少ないものと考えられるとの評価を
適切に行っている。したがって,八王子南インターチェンジによる景
観破壊を理由として本件事業認定が違法であるとはいえない。
エ大気汚染について
(ア)二酸化窒素等による大気汚染の予測方法について
a本件環境影響評価1の大気汚染の予測については,気象の現地調査
の結果,谷部においては谷沿いの風が卓越しており,その流れを阻害
する地形・地質も特に見られないことなどから,一般部及び八王子ジ
ャンクション部の予測は有風時(風速が1メートル/秒を超える場
合)にプルームモデル,静穏時(風速1メートル/秒以下)にパフモ
デルを用いている。これは,「建設省所管ダム,放水路及び道路事業
環境影響評価技術指針について」(昭和60年9月26日付け建設事
務次官通知)の別添「建設省所管道路事業環境影響評価技術指針」(以
下「建設省技術指針」という。)及び東京都技術指針において採用さ
れている予測手法である。上記予測手法は,有風時には正規型プルー
ム式,弱風時には無風時におけるパフ式を拡散幅が拡散時間の一次関
数であると仮定して時間積分を行った簡易パフ式を基本としている。
このうち,拡散幅については,既存の実測や実験データから設定する
ことになっていることから,上記拡散式は,プルーム・パフ型の統計
モデルの性格を有するものといえる。もともとのプルーム式及びパフ
式は,拡散場が平たんであること,拡散係数が拡散場で一定であるこ
となどを仮定して導かれたものであるが,これは,理論式を構築する
際の単純化のために,平たんな場としているにすぎず,およそ平たん
な場でなければ適用できないというものではない。また,ここでいう
「平たん」とは,必ずしも平たんな地形であることを意味しているわ
けではなく,α1地域のように谷底にある程度の平たんな幅がある地
形で,風の流れが地面に沿った流れになっている場合は,谷地形であ
っても,理論上平たんな拡散場と同じことになるというべきである。
しかも,建設省技術指針等に示された予測方法は,拡散係数そのもの
を与えるのではなく,実測や実験データに基づいて拡散幅を定めるも
のとなっており,様々な条件におけるデータに基づいて拡散幅を定め
ることにより予測に適用できる手法となっている。そして,複雑な地
形や建物等は拡散を促進させることや,拡散式を用いた大気汚染の予
測は,年平均値を予測するものであって,特定の風向における影響が
大きくないことなどを考慮すると,技術指針に示された予測方法は相
当程度広い範囲で適用することができる。
このように,本件環境影響評価1におけるプルーム式及びパフ式の
拡散幅は,理論値に加え,道路沿道における様々な気象条件等におけ
る実測値も考慮されているものであり,接地逆転層の影響についても,
設定した拡散幅に反映されていることから,上記拡散モデルによる予
測は適切なものである。そして,このことは,α1地域を対象とした
風洞模型実験においても確認しているところである。
また,本件各環境影響照査においても,東京都技術指針(平成15
年1月),平成12年10月及び平成15年12月に建設省土木研究
所及び国土交通省国土技術政策総合研究所が取りまとめた「道路環境
影響評価の技術手法(その1)」及び「自動車排出係数の算定根拠」
と題する資料等に記載された手法が用いられている。
b本件環境影響評価1においては,現地の地形及び接地逆転層を含む
気象条件を再現して風洞模型実験を行っており,これによりプルーム
式及びパフ式の予測結果を検証している。そして,上記風洞模型実験
の結果によると,「風洞実験では,安定層と複雑地形の両者の斜面流
(冷気流)のため,主風向と平行な中央自動車道から谷部方向へ汚染
物質が移流し,谷部で風上側からの汚染物質と重合しつつ谷部風下側
に移流拡散されていく形態となっている。そのため,谷部では計算値
の方が濃度が低くなっていると考えられる。」とされており,地形及
び接地逆転層等による影響が十分に反映されている。また,接地逆転
層の影響や地形効果を考慮しない場合とこれらを考慮した場合の比
較を行い,「その結果,年平均濃度に対する接地安定層の影響や地形
の効果は,NO2で0.001ppm以下のレベルであり,濃度分布
パターンもほとんど一致している」との結論を得た。
c以上のとおり,α1地域についてプルーム式及びパフ式を適用し
たことは適切かつ妥当であり,このことは,風洞模型実験によって確
かめられている。
(イ)大気汚染の予測方法に関する原告らの主張への反論
a原告らが大気汚染の予測方法として適切であると主張する3次元
流体モデルとは,ある一定範囲の空間を一定の距離ごとに区切って,
上記一定範囲の空間を多数の直方体(メッシュ)に分割し,それぞれ
のメッシュごとに風速,風向を算出する手法である。この手法は,乱
流の方程式について,風速等を,隣接するメッシュにおける値を基に
順次計算して解いていくことから,計算量が膨大になる上,メッシュ
の定め方等により,得られる数値が異なる点に問題があると指摘され
ている。3次元流体モデルの計算量が膨大な点は,計算機の性能が向
上してきたことにより解決される傾向にあるものの,現地実測濃度や
風洞実験結果に適合した拡散係数等のパラメータを設定することは
容易ではないため,3次元流体モデルを環境影響評価へ適用するのは,
現在のところ一般的ではない。
また,原告らが3次元流体モデルを用いて行った予測には,①3次
元流体モデルに用いられている数値解析の手法においては,気流の再
現性が非常に重要であり,予測範囲における現地調査の実施が必要で
あるとされ,原告ら自身においても3次元流体モデルを用いた予測に
必要な構造物及び地形の影響を受ける前の気象データが必要である
とするにもかかわらず,そのようなデータを用いておらず,風向,風
速,大気の安定度といった気象条件の時間による変化等を適切に考慮
していないこと,②拡散モデルにおける発生源となる有効煙突高の推
定において,実煙突高から排ガスが排出されるとの不適切な前提を採
用したケースや,本件で問題となる自動車トンネル換気塔から排出さ
れる排ガスは浮力のない常温ガスであるにもかかわらず,熱量があり,
浮力効果がある排ガスについて排ガス上昇高を算出する際に適用す
るMoses&Carson式を適用したケース,α1地域にはダウ
ンウォッシュを生じるような風速が生じることはほとんどないにも
かかわらずこれが生じるとの前提を採用するとともに,適用する根拠
の乏しいBriggs式(ダウンウォッシュ)や八王子ジャンクショ
ンの換気塔に適用することができないHuber式を適用したケー
スが含まれていること,③3次元流体モデルは,高さの異なる建物が
密集する市街地の道路沿道における調査研究を基に開発されたモデ
ルであり,検証に用いられる風洞模型実験は,市街地模型を用いて行
われ,様々な道路構造や建物構造について実施されるものであるから,
検証や風洞模型実験等による慎重な検討なくして,そこで用いられる
パラメータが山間部に位置し,住宅密集地でもないα1地域に適合し
たものであると断定することができないこと,④原告らの予測には,
地形及び建物のデータとしてどのような資料を用いたのか,拡散係数
等のパラメータをどのように設定したのかについて記載がなく,設定
されたすべてのメッシュごとに風向及び風速がどのように変化する
のか,煙源から排出された物質がどのように拡散していくかについて,
設定された具体的なパラメータが明らかでないこと,⑤NOX濃度か
ら二酸化窒素濃度を求める際に,α1地域とは条件の異なる,道路の
影響が少ない地域におけるNOXと二酸化窒素の関係を用いており,
その結果,正確な予測値より高く算出されていることや,一般的では
ないNOXから二酸化窒素への変換方法を用いており,対象とする特
定の道路の二酸化窒素寄与濃度を正確に求めることができないこと,
⑥二酸化窒素の測定に当たり,精度の劣る簡易測定法を用いているこ
となどの問題点があり,その検証も十分にされていないから,信用性
に欠けるものである。
bなお,原告らが指摘する昭和58年東京都環境保全局「環境影響評
価制度の手引き」(以下「昭和58年手引き」という。)は,無風時
にパフモデルを,有風時にプルームモデルを用いることを基本とする
ものであり,気象条件や複雑地形の影響等を考慮しなければならない
場合,すなわち,気象条件や複雑地形等の影響がプルーム・パフモデ
ルの適用を排除する程度にまで大きい場合に差分モデルの使用を検
討する必要があるというものであって,およそ複雑地形であれば差分
モデルを用いなければならないということを意味するものでない。本
件において,起業者らは,風洞模型実験により,α1地域の大気汚染
予測において,プルーム・パフモデルを用いることが妥当であること
を検証し,α1地域においては,「年平均濃度に対する接地安定層の
影響や地形の効果は,NO2で0.001ppm以下のレベルであり,
濃度分布パターンもほとんど一致している。したがって,「評価書案」
に基づいたプルーム・パフモデルを当地区における年平均値の予測・
評価に適用しても問題はないものと考えられる」との結論を得ている
ものであるから,α1地域については,昭和58年手引きが掲げる「複
雑地形の影響等を考慮すべき場合」には該当せず,差分モデルを検討
すべき場合には当たらない。
また,「大気汚染の予測手法の適用性に関する調査業務報告書」は,
作成を依頼した建設省土木研究所(現国土交通省国土技術政策総合研
究所)が,昭和54年及び55年に拡散係数を設定するために全国で
濃度分布等の調査を行った場所の道路構造や地形の実測値の最大値
あるいは範囲を取りまとめたものにすぎず,これらの最大値は,理論
的に拡散幅の限界を示したものではないから,取りまとめられた調査
範囲を超えた予測の妥当性が失われるというものではない。
(ウ)浮遊粒子状物質(以下「SPM」という。)について
a本件各環境影響評価においては,SPMを予測評価の対象とはしな
かったところ,本件環境影響評価1が行われた昭和61年当時,自動
車の走行に起因して発生するSPMについては,発生源データの集積
が十分ではなく,またSPMの生成と移流,拡散及び二次生成粒子に
係る十分な知見が得られていないことから,発生源からの寄与を特定
することができなかった。また,平成9年の時点においても,SPM
の予測手法が十分に確立していなかった。したがって,本件各環境影
響評価においてSPMの予測,評価が行われていなかったことをもっ
て,本件各環境影響評価が適正に行われなかったということはできな
い。
b起業者らは,本件各環境影響照査において,加速車線や減速車線の
インターチェンジ部などの加減速部車線が含まれる区間を除き,SP
Mの予測評価を行っており,その結果は環境基準を下回る予測結果と
なっている。他方,本件起業地等のジャンクション,インターチェン
ジ部分に関しては,本件各環境影響照査においても予測,評価が行わ
れていないが,これは,ジャンクション及びインターチェンジの加減
速の走行パターンに対応した排出係数の設定が困難であったことに
よるものである。
以上のとおり,国土交通大臣は,SPMの予測結果をも確認の上で
本件事業認定を行ったものであって,SPMについても可能な限り考
慮要素としているものである。
c本件事業認定当時における東京都内のSPM濃度に関しては,減少
あるいは横ばいである旨の分析がなされるとともに,国や地方自治体
によりSPMに関する改善施策が積極的に進められており,国土交通
大臣は,本件事業認定の際,SPMに関する環境改善が大いに期待で
きることを確認していた。また,本件事業認定後も,SPM濃度の改
善は着実に進んでいる。なお,原告らが指摘する微小粒子状物質につ
いては,平成21年9月9日に環境基準として告示されたものであり,
本件事業認定後の事情である。
オ騒音被害について
(ア)本件各環境影響評価及び本件各環境影響照査においては,本件各事
業により設置される道路の沿道地域について,騒音に係る評価の指標
として,環境基準のうち「A地域のうち2車線を超える車線を有する
道路に面する地域」の基準が採用されているが,次に述べるとおり,
かかる基準を採用したことは適切である。
a騒音に係る環境基準における「道路に面する地域」とは,「道路
交通騒音が支配的な音源である地域」又は「当該道路より発する道
路交通騒音の影響を受ける地域」を意味するものとされている。ま
た,「道路に面する地域」の範囲は,単に物理的に道路に面してい
るか否か,道路端からの距離がどれだけかといった点から定められ
るものでないとともに,その定義や範囲の考え方は明確に規定され
ている。
そもそも,道路騒音に係る環境影響評価は,道路の新設により発
生する騒音について,その騒音が及ぶ範囲についてその程度を予測
し,これを評価するものであるから,その対象地域は,本来「道路
に面する地域」と一致するものでなければならない。そして,昭和
46年に閣議決定された「騒音に係る環境基準について」(以下「旧
騒音環境基準」という。)においては,道路の新設に際しては,道
路に面する地域の環境基準の達成に資するよう,道路計画,その他
道路周辺の土地利用計画の策定と実施に十分配慮するものとすると
して,道路の新設の場合において「道路に面する地域」の環境基準
値が適用されることが明らかにされている。被告東京都は,本件各
環境影響評価における騒音の予測評価に当たって,「道路に面する
地域」の適用範囲を適切に判断して環境基準を適用したものである。
また,「騒音に係る環境基準について」(平成10年環境庁告示
第64号。以下「現騒音環境基準」という。)に関して,「騒音の
評価手法等の在り方について(答申)」(平成10年5月22日中
央環境審議会)において,「新たに設置する道路においては,道路
に面する地域の環境基準の指針値が供用後直ちに達成されるよう努
めることとすることが適当である」とされており,道路の新設にお
いて「道路に面する地域」の環境基準値が適用されることが明らか
にされている。起業者らは,本件各環境影響照査における等価騒音
レベルの予測評価に当たっても,このような「道路に面する地域」
についての環境庁(当時)の解釈を踏まえ,その適用範囲を適切に
判断し,環境基準を適用し,本件各環境影響評価及び本件各環境影
響照査を行ったものであり,原告らが主張するようにその範囲を拡
大解釈したなどの事実はない。
b原告らは,道路からの受益性の有無の観点から,「道路に面する
地域」が道路端から最大20メートルの距離に限定されるべきであ
ると主張するが,「道路に面する地域」の環境基準の指針値は,単
に道路からの受益性という観点のみから設定されたものではなく,
道路の公共性,当該地域の道路による受益性,道路交通騒音の実態
等を総合的に踏まえて検討されているものであるから,原告らの上
記主張は相当でない。また,「道路に面する地域」は,「幹線交通
を担う道路に近接する空間」よりも広い概念であるから,「幹線交
通を担う道路に近接する空間」のうち,「2車線を超える車線を有
する幹線交通を担う道路」の範囲が道路端から20メートルの距離
であると規定されているからといって,「道路に面する地域」につ
いて,道路端から20メートルの距離に限定すべきであるとはいえ
ない。
(イ)「道路に面する地域」に係る旧騒音環境基準及び現騒音環境基準は,
次に述べるように,夜間における睡眠影響に関する知見を踏まえ,建
物の防音性能や地域補正の考え方も取り入れて設定されているもので
あって,適切妥当な値というべきであるし,本件環境影響評価1及び
本件環境影響照査1におけるα1地域における夜間の予測値について
は,「道路に面する地域」の夜間の環境基準を下回るものであるから,
深刻な睡眠妨害が生じるものではない。
a本件環境影響評価1において,α1地域の夜間の環境基準として,
「A地域(主として住居の用に供される地域)のうち2車線を超え
る車線を有する道路に面する地域」の夜間の環境基準値である50
ホン(A)以下が適用されている。この値は,旧騒音環境基準の「道
路に面する地域」以外の地域(一般地域)のB地域(相当数の住居
と併せて商業,工業等の用に供される地域)の夜間の環境基準値と
同一であるところ,騒音レベルが40ホン(A)になると,就眠時
間,覚せい時間,脳波又は血液所見などからみた睡眠深度への影響
が出現するとされているが,騒音レベルの測定は屋外で行われるも
のであり,建物による遮音効果を約10デシベルと見積もることが
できるから,屋外で50ホン(A)以下であれば,屋内では40ホ
ン(A)以下となり,ほぼ睡眠妨害を免れ得る水準に当たるとされ
ている。
bまた,本件環境影響照査1においては,α1地域の夜間の環境基
準として,現騒音環境基準の「A地域(専ら住居の用に供される地
域)のうち2車線以上の車線を有する道路に面する地域」の基準値
(夜間)である55デシベル以下が適用されている。現騒音環境基
準の指針値の設定に当たっても,旧騒音環境基準と同様,生活の中
心である屋内において睡眠影響及び会話影響を適切に防止する上で
維持されることが望ましい騒音影響に関する屋内騒音レベルの指針
を設定し,これが確保できることを基本とするとともに,不快感等
に関する知見に照らした評価が必要であるとされ,道路に面する地
域については,睡眠影響に関する科学的知見を踏まえた,「夜間〔睡
眠影響〕40デシベル以下」という屋内指針値が示されている。
これは,一般地域については,音の発生が不規則,不安定であり,
このような騒音による睡眠影響を生じさせないためには,屋内で3
5デシベル以下であることが望ましいとされているが,高密度道路
交通騒音のように騒音レベルがほぼ連続的ないし安定的である場合
には40デシベルが睡眠影響を防止するための上限であるとの知見
があることや,連続的な騒音の睡眠影響に関するその他の科学的知
見を総合すると,道路に面する地域については,40デシベル以下
であれば,ほぼ睡眠影響を免れることができ,睡眠影響を適切に防
止できるものと考えられたからである。
そして,「道路に面する地域」のうち「専ら住居の用に供される
地域(C地域:現騒音環境基準に係る環境庁告示の「A地域のうち,
二車線以上の車線を有する道路に面する地域」と同義)については,
地域補正に関する考え方,道路に面する地域の睡眠影響に関する指
針値及び建物の防音性能(通常の建物において窓を開けた場合の平
均的な内外の騒音レベル差は,10デシベル程度であり,窓を閉め
た場合におおむね期待できる平均的な防音性能は,25デシベル程
度である。)を踏まえ,55デシベルであれば,ある程度窓を開け
た状態(防音効果が15デシベルとなる状態)においても,騒音影
響に関する屋内指針を満たすことが可能であることなどから,C地
域における環境基準値を夜間55デシベル以下とすることが適当で
あるとされたものである。
cこのように,上記夜間の環境基準は,いずれも夜間の睡眠妨害に対
する影響が考慮され,その根拠も明確にされている。そして,上記
検討を踏まえて定められた環境基準は,人の健康を保護し,及び生
活環境を保全する上で維持されることが望ましい基準とされている
のであって,人間の環境の最低限を示すものではなく,原告らが主
張するような最大許容限度又は受忍限度といったものと概念上異な
るものである。
d本件環境影響評価1におけるα1地域の夜間の騒音レベルは,L
50(測定値の中央値)で49ホン(A)と予測され,旧騒音環境
基準の「A地域(主として住居の用に供される地域)のうち2車線
を超える車線を有する道路に面する地域」の夜間の環境基準値であ
る50ホン(A)を下回っていることから,深刻な睡眠妨害が生じ
るものではない。また,本件環境影響照査1におけるα1地域の夜
間の騒音レベルは,LAeq(等価騒音レベル)で53デシベルと
予測され,「A地域(専ら住居の用に供される地域)のうち2車線
以上の車線を有する道路に面する地域」の夜間の環境基準値である
55デシベルを下回っているから,同じく,睡眠妨害が生じるもの
ではない。
(ウ)原告らが3次元流体モデルを用いて行った予測においては,道路端
から20メートル以遠は一般のA地域及びB地域の騒音に係る環境基
準を用いるべきであるとして,これを前提にした評価がされていると
ころ,環境影響評価においては,「道路に面する地域」以外の地域に
ついて評価が行われることはあり得ないのであり,環境影響評価その
ものに対する誤った理解を前提としたものである。
また,原告らの上記予測は,シミュレーションの計算範囲の設定に
ついて,「対象とする地域は非常に急峻である。そのため,騒音の伝
播における地表面効果,評価高さなどについては地形を考慮する必要
がある。ここでは2,500分の1の地図を参照し東西方向2,10
0m,南北方向1,300mの範囲の地形を考慮した」とするだけで,
実際に使用した地形データや各予測地点の予測高さについて何ら具体
的な記載がなく,地点における評価及び面的評価のいずれにおいても,
地形による騒音の反射や吸収の有無,そのほか地形が騒音の伝ぱに及
ぼす影響について,どのような地形の,どのような状態を,どのよう
に考慮したのかが明らかではない。したがって,原告らの上記予測は
信用性を欠くものである。
(エ)本件環境影響評価1及び本件環境影響評価2において設定した平均
走行速度は,本件環境影響評価1については,規制速度の上限値と考
えられる設計速度とし,本件環境影響評価2については,設計速度及
び道路交通法施行令に定める最高速度を考慮して設定している。そし
て,「環境影響評価に係る調査,予測及び評価のための基本的事項に
ついて」においては,「予測は,調査結果の整理,解析により予測が
必要と認められる項目について,対象事業の実施により生じる一般的
な条件下における環境の状態の変化を明らかにすることにより行うも
のとし,その技術的方法は指針において定めるものとする」とされ,
建設省技術指針においては,予測は,「一般的な条件下における環境
の状態の変化を明らかにすることにより行うものと」されており,道
路の新設に際しては,道路を走行する車が設計速度の範囲内で設定さ
れる規制速度を遵守し,通常その速度において走行することができる
ことを予定している。したがって,設計速度及び道路交通法施行令に
定める最高速度を考慮して考えられる設計速度をもって平均走行速度
とすることは合理的である。
(オ)a原告らは,高尾山登山道について,東京都知事の指定を受けてい
なくても環境アセスメントにおいては特に静穏を要するAA類型の
地域の環境基準を守る視点で環境影響評価を行うべきであると主張
する。
しかし,本件環境影響評価1における騒音の予測は,建設省技術
指針及び東京都技術指針に基づき,本件環境影響照査1は,「道路
環境影響評価の技術手法(その2)」及び東京都技術指針に基づき,
それぞれ実施されているところ,建設省技術指針では,騒音の予測
の対象区域について,「施設の供用に伴い環境の状態が一定程度以
上変化する範囲(原則として式の適用できる範囲)」とされており,
予測式は,原則として,比較的平たんな地形に平面,盛土,高架道
路の各構造が連続しており,自動車が毎時30ないし100キロメ
ートル程度の速度で定常的に走行している道路について,路肩端か
ら160メートル(一般道路の場合)又は80メートル(自動車専
用道路の場合)までの地点の騒音レベル中央値(L50)を求める
場合に適用することができるとされている。
また,「道路環境影響評価の技術手法(その2)」では,騒音の
予測地域について「騒音の影響範囲内に住居等が存在する,あるい
は立地する見込みがある地域とし,調査・予測区間ごとに設定する。」
とされており,「道路交通騒音の予測モデル“ASJModel2
003”」が適用することができる予測範囲については,道路から
の水平距離200メートルとされている。
さらに,東京都技術指針では,騒音の予測地域について,「対象
事業の種類及び規模並びに地域の概況を勘案して,対象事業の実施
による騒音が環境に影響を及ぼすと予想される地域」,「対象事業
の種類及び規模並びに地域の概況を勘案して,対象事業の実施に伴
う騒音が日常生活に影響を及ぼすと予想される地域」とされている
ところ,調査地域は,対象事業の実施による騒音の音源の位置,発
生の態様,騒音の減衰状況,周辺の地形及び土地利用状況等を勘案
し,道路交通騒音については,道路端から100メートル程度の範
囲とする(ただし,平たん開放及び高架の道路では,200メート
ル程度の範囲とする。)とされている。
これらの点に照らし,本件環境影響評価1においては,上記各技
術指針に基づき,原則として,官民境界から80メートルないし1
50メートルまでの範囲について予測がされ,八王子ジャンクショ
ンが位置するα1地域においては,本件圏央道事業等の計画及び地
形の状況等にもかんがみ,最大でおおよそ200メートルの範囲に
おける平面予測が行われている。そして,このような予測地域の設
定は,上記各技術指針に照らし適切かつ妥当といえる。
したがって,住居等のない高尾山登山道については,そもそも環
境影響評価を行うことは必要とされていないのであって,本件環境
影響評価1及び本件環境影響照査1において,かかる地域まで騒音
の予測地域としていないとしても,不合理ではない。
b旧騒音環境基準は,地域の類型及び時間の区分ごとに基準値を設
け,地域の類型をAA,A及びBと分類しているところ,高尾山登
山道は上記のいずれにも該当しない。また,現騒音環境基準におい
ても,AA,A,B及びCと分類されている環境基準を当てはめる
地域の類型について定義されており,環境影響の評価は「個別の住
居等が影響を受ける騒音レベルによることを基本とし,住居等の用
に供される建物の騒音の影響を受けやすい面における騒音レベルに
よって評価するものとする。」とされているところ,高尾山登山道
は上記のいずれにも該当しない。このように,高尾山登山道は,騒
音に係る環境基準を適用する対象とならないことから,これを適用
する余地はない。
カ振動被害について
本件環境影響評価1において,工事完了後における道路交通振動につい
て予測しているが,この場合,振動規制法16条1項(平成11年法律第
87号による改正前のもの),同施行規則12条(平成12年総理府令第
25号による改正前のもの)に基づき,都道府県知事(現在は市長村長)
が道路管理者に対し道路交通振動の防止のための必要な措置を要請する限
度(以下「要請限度」という。)をもって「評価の指標」としている。そ
して,本件環境影響評価1の評価の対象となる道路の沿道については,区
域区分第1種の地域に該当することから,その要請限度のうち,環境上で
最も厳しくなる夜間の時間の区分(午後7時から午前8時)の60デシベ
ルを「評価の指標」としている。そして,その予測及び評価結果によれば,
予測地域であるα1地域において,評価の指標である要請限度を下回って
いることから,道路交通振動による影響は少ないと考えられる。また,本
件環境影響照査1においても,α1地域の予測結果についてやはり要請限
度を下回ることが確認されている。したがって,原告らが主張する振動に
よる被害は,合理的な根拠に基づくものとはいえない。
キ低周波空気振動(低周波音)による被害について
本件環境影響評価1において,低周波空気振動について予測評価を行っ
ているところ,低周波空気振動については,発生源も多岐にわたり,本件
環境影響評価1の予測評価の時点においては,低周波空気振動の音圧レベ
ルを定量的に測定する手法が確立されていないため,現況調査の調査事例
と本件環境影響評価1の評価の対象となる道路の内容とを対比することに
よる定性的な予測を行っている。このように,本件環境影響評価1の評価
時点における低周波空気振動についての評価の指標は,未解明の部分が多
く,いまだ確立されていないものの,上記予測及び評価の結果,上記道路
の低周波空気振動は,一般環境中に多様に存在している音圧レベルの範囲
内にあるため,沿道住民の日常生活に支障のない程度のものと考えられる
と評価されている。また,本件環境影響照査1においても,低周波空気振
動について,α1地域の予測結果について,参考評価指標を下回ることが
確認されている。したがって,原告らが主張する低周波被害は,合理的な
根拠に基づくものとはいえない。
クサウンドスケープ論について
サウンドスケープなるものの概念は不明確であり,このような不明確な
概念により,事業認定の違法性の有無に影響を及ぼすとは解し難い。また,
本件各環境影響評価及び本件各環境影響照査において,騒音について適切
に検討がなされ,環境に与える影響は軽微であると認められているのであ
るから,それ以外に,サウンドスケープなるものを本件事業認定において
独立に考慮すべき事項と解すべき余地はない。
ケオオタカへの影響について
(ア)本件環境影響評価1及び本件環境影響評価2によると,本件圏央道
事業区間において,絶滅のおそれのある野生動植物の種の保存に関す
る法律(以下「種の保存法」という。)における「国内希少野生動植
物種」であるオオタカの飛しょうは確認されているが,営巣が確認さ
れていないこと,また,計画路線は大部分がトンネル構造であり,主
な生息環境である森林の改変面積は周辺の広がりに比べると小さく,
その主なえさであるスズメ,キジバト等の大幅な個体数の減少は考え
られないことから,影響は少ないと予測されており,本件圏央道事業
等の施行によるオオタカへの影響は少ないものと認められる。
(イ)本件環境影響評価3によると,本件八王子南バイパス事業区間内に
おいて,オオタカの飛しょうは確認されているが,営巣が確認されて
いないこと,また,計画路線は大部分がトンネル構造であり,主な生
息環境である森林の改変面積は周辺の広がりに比べると小さく,その
主要なえさであるスズメ,キジバト等の大幅な個体数の減少は考えら
れないと予測されており,影響は少ないと予測されており,本件八王
子南バイパス事業の施行によるオオタカへの影響は少ないものと認め
られる。
(ウ)なお,原告らが問題とするα15地区のオオタカの営巣について,
同地区は本件起業地には含まれていないから,原告らの上記主張は,
そもそも本件事業認定の適法性に直接かかわらない事項に係るもので
ある。
また,起業者らが設置している「X13」より提案されたオオタカ
との共生を目指す方策は,環境庁(当時)の「猛禽類保護の進め方」
を踏まえた適切なものであって,起業者らは,α15地区においてオ
オタカの繁殖を確認し続けており,圏央道に係る工事がオオタカの営
巣に深刻な影響を与えているといった事実は存在しないし,同地区に
おいては,オオタカが繁殖することができる生息環境が維持されてい
る。
(3)本件事業認定の手続的違法性等について
ア本件事業認定に係る事前説明会及び公聴会等について
(ア)土地収用法に基づく公聴会の開催は,事業認定に当たり,事業認定
庁が事業認定の考慮すべき要素やその価値の判断に供するため広く一
般の意見を聴くものであり,公述人から意見を聴取するための手続で
あって,公述人の質問に対して起業者又は事業認定庁が回答する義務
を課すものではないし,公聴会において公述人との合意や同意を得る
ことを求めるものでもない。
(イ)原告らは,公共用地分科会の委員の中立性,公正性を問題とするが,
審議会等の委員は,当該審議会等の目的,内容について専門的知識,
識見,経験を有している者が任命され,同時に中立性,公正性につい
ても期待されている。また,公共用地分科会は,事業認定庁が行う事
業認定の判断の参考に資するため,多様な専門分野の学識経験者によ
る議論を通じて,専門的かつ総合的な意見を形成させ,合議体として
の意見を聴取し,これを尊重することにより,事業認定の中立性,信
頼性を向上させることを目的として設けられた機関であり,収用等に
伴う土地等に対する補償額等を確定することを目的とする収用委員会
や,公共事業の効率性及びその実施過程の透明性の一層の向上を目的
とする事業再評価の実施に際して,意見聴取を行うことにより当該事
業再評価の客観性,透明性を確保することを目的とする事業評価監視
委員会とは,審議の目的,内容等が異なっており,本件各事業に関連
して上記の機関においてそれぞれ審議が行われていた場合であっても
同様である。
公共用地分科会の委員の選定及び運営に当たっては,原告らが指摘
する衆議院国土交通委員会附帯決議の1項及び2項を遵守し,平成1
3年法律第103号による改正後の土地収用法等に基づいて適切な運
営等を行っている。また,ある個人が複数の機関の委員を兼ねている
ことをもって公共用地分科会の中立性,公平性が損なわれるものでは
ない。
(4)土地収用法20条2号の要件適合性について
ア土地収用法20条2号は,事業認定の要件として,起業者が当該事業を
遂行する充分な意思と能力とを有することを定めるところ,同号の要件を
具備するか否かは,①事業の施行について免許,許可,認可等の処分を要
する場合に,この処分を受けているかどうか,事業の施行前に法律上要求
されている手続を履践しているかどうか,といった法的な観点,②予算上
の措置が講じられているか否かといった資金面,③起業者の擁する組織,
人員から見て起業者には申請に係る事業を遂行する能力があるか否かとい
った組織,人員の観点等から客観的に判断されるべきものである。
イ本件各事業についてみると,起業者である国土交通大臣は,道路法12
条本文の規定により,また,起業者である参加人X1株式会社は,道路整
備特別措置法3条1項の規定により,独立行政法人日本高速道路保有・債
務返済機構法13条1項に規定する協定に基づき国土交通大臣の許可を受
けて行うことができるとされているところ,平成18年3月31日付けで
参加人X1株式会社が独立行政法人日本高速道路保有・債務返済機構と協
定を締結し,同日付けで国土交通大臣の許可を受けていることから,それ
ぞれ本件各事業の施行に当たり必要とされる施行権限を有しており,法律
上要求される手続も履践している。また,本件各事業を行うことについて
は,予算上の措置が講じられ,組織,人員の措置がなされている。
したがって,起業者らは,アに述べたいずれの点からも,本件各事業を
遂行する充分な意思と能力を有する者であるから,本件各事業は,土地収
用法20条2号の要件に適合しているというべきである。
(5)土地収用法20条3号の要件適合性について
ア土地収用法20条3号は,その文言及び同法1条に定められた土地収用
法の目的に照らすと,事業計画が国土全体の土地利用の観点から見て適正
かつ合理的であることを要する旨を規定したものであり,いわば事業計画
全体の合理性に関する要件を定めたものと解される。それゆえ,土地がそ
の事業の用に供されることによって得られる公共の利益と,土地がその事
業の用に供されることによって失われる利益とを比較衡量した結果,前者
が後者に優越すると認められる場合に,上記要件に適合すると解すべきで
ある。そして,事業認定庁である国土交通大臣の上記要件適合性について
の判断は,事業認定に係る事業計画の内容,事業計画が達成されることに
よってもたらされるべき公共の利益,事業計画策定及び事業認定に至るま
での経緯,事業計画において収用の対象とされている土地の状況等諸要素
の比較衡量に基づく総合判断として行われるべきもので,その性質上,行
政庁に広範な裁量が認められるべきであり,原告らが主張する政策と異な
る政策を選択したからといって,そのことから直ちに本件事業認定が違法
となるものではない。このことは,上記判断が,諸要素の比較衡量に基づ
く総合判断であることのほか,上記判断には将来の予測に係る事項が含ま
れており,また,経済的,開発的利益と文化的,環境的価値という相対立
する価値の軽重を総合考慮して当該事業計画の合理性を判定しようとする
ものであるから,その性質上,必然的に政策的又は専門技術的判断を伴う
ものであることからも裏付けられる。
本件において,国土交通大臣は,イないしエに述べるとおり,本件起業
地が本件各事業の用に供されることにより得られる公共の利益と失われる
利益を比較衡量し,得られる公共の利益が相当程度存する一方,失われる
利益が軽微なものと考えられることから,本件起業地が本件各事業の用に
供されることによって得られる利益が失われる利益に優越するというべき
であり,土地収用法20条3号にいう「土地の適正且つ合理的な利用に寄
与するものであること」との要件に適合すると判断したものであり,その
判断をもって,裁量権の範囲を逸脱し又はこれを濫用したということはで
きない。
イ本件各事業の施行によって得られる公共の利益について
(ア)本件圏央道事業等について
a(a)広域的な視点による利益について
圏央道は,都心部から半径約40キロメートルないし60キロ
メートルに位置する横浜市,厚木市,八王子市,青梅市,川越市,
つくば市,成田市,木更津市等の業務核都市を環状に結び,更に
首都圏から放射状に伸びる9本の高速自動車国道等と相互に連
絡することにより,都心部への交通の集中による交通渋滞の緩和,
都心部への一極依存から業務核都市等の拠点的な都市を中心と
した自立性の高い地域の形成,環状で結ばれる都市相互の機能分
担と連携,交流を行う分散型ネットワーク構造への再編整備によ
る首都圏全体の調和のとれた発展などを目的とする延長約30
0キロメートルの自動車専用道路である。そして,本件圏央道事
業等の完成により中央自動車道と東名高速道が連絡されること
になり,既に開通した中央自動車道と関越自動車道とを連絡する
区間と併せて,広域的な利便性が向上するとともに,他の環状道
路である外かく環状道及び中央環状線と有機的に連絡すること
によって,都心部への流入交通の分散導入,地域間交流の拡大な
どが図られるものである。
また,圏央道事業は,社会資本整備重点計画法4条1項に基づ
いて作成された社会資本整備重点計画,都市再生特別措置法3条
により内閣に設置された都市再生本部が平成13年8月28日
に決定した「都市再生プロジェクト」,国土形成計画法9条に基
づいて定められた首都圏広域地方計画,首都圏整備法に基づく首
都圏整備計画に認められている重要な路線である。
そして,上記に述べた圏央道の供用による広域的な視点からの
公益性については,①起業者らが,圏央道により中央自動車道と
関越自動車道との間が接続された効果を把握するために調査し
た開通2か月後における八王子ジャンクションから八王子西イ
ンターチェンジ間の交通量及び上記区間における開通2年後の
交通量から,圏央道の環状道路機能が発現していることが明らか
になったこと,②中央自動車道と関越自動車道が圏央道で直結さ
れたことにより山梨県方面と群馬県方面のアクセスが向上して
いること,③首都圏3環状道路の整備により企業誘致や集積が加
速していることからも裏付けられている。
(b)地域的な視点による利益について
現在,神奈川県央地域(相模原市等)と多摩地域(八王子市等)
を結ぶ幹線道路として一般国道16号等があるが,相模原市,八
王子市等の既成市街地を通過し,また,神奈川県央地域及び多摩
地域相互の交通に広く利用され,域内交通と通過交通がふくそう
していることから,自動車交通量が多く,円滑な交通が確保され
ていない状況にある。そこで,圏央道が神奈川県央地域及び多摩
地域の南北方向の幹線道路として機能し,従前から一般国道16
号等が担っている幹線交通を分担することにより,一般国道16
号等の交通渋滞の緩和が図られ,円滑な交通の確保に寄与するも
のである。
上記に述べた圏央道の開通による地域的な視点からの公益性
については,①平成19年6月23日に圏央道八王子ジャンクシ
ョンからあきる野インターチェンジまでの区間が開通したこと
から,起業者らが,開通2か月後及び1年後に圏央道に平行する
一般国道16号や一般国道411号の交通量を調査したところ,
交通量が減少していたこと,②圏央道から一般国道16号までの
間の小学校周辺の生活道路では,上記開通後に比べ,大型車の交
通量が減少していることからも裏付けられる。
なお,圏央道と一般国道16号八王子バイパスは,共に現在の
一般国道16号の渋滞緩和を図ることを目的とした道路である
が,料金体系が異なる上,移動する際の時間短縮効果などの利用
者にもたらされる利便性も異なることから両道路の利用者のコ
ストパフォーマンスには差異があり,一般国道16号八王子バイ
パスの利用者の多寡,すなわち交通量をもって圏央道の利用交通
量を推し量ることはできない。また,本件圏央道事業の平成42
年時点の計画交通量は4万1600台/日であるが,これは将来
GDPを考慮した就業者数や自動車保有台数等の社会経済指標
等を参考に平成11年度道路交通センサスの実績から道路事業
で一般的に用いられている手法で推計されたものであり,かつ,
この推計には一般有料道路通行料金の抵抗による交通量の減少
も加味されている。さらに,本件圏央道事業は,交通事故を減少
させる目的のみで行われるものではない。
b本件圏央道事業等により生活環境等に及ぼす影響については,(2)
イで述べたとおり環境影響評価が行われ,その結果,適切な環境保
全のための措置を講ずることにより,環境基準等を満足するものと
評価されている。また,本件環境影響照査1及び本件環境影響照査
2においても,適切な環境保全のための措置を講ずることにより環
境基準等を満足するものと確認されている。さらに,起業者らは,
本件圏央道事業等の施行に当たって,上記環境影響評価等の結果に
基づき,専門家の意見を聞きながら必要なモニタリング調査等を実
施し,地域の環境保全に努めることとしている。
c以上によれば,本件圏央道事業等の施行により得られる公共の利
益は,相当程度存すると認められる。
(イ)本件八王子南バイパス事業について
a一般国道20号は,東京都中央区を起点とし,八王子市,相模原
市,甲府市等を経て,塩尻市を終点とする延長約225キロメート
ルの主要幹線道路であり,古くから甲州街道として存在し,東京都
と甲信地方を結ぶ社会的,経済的,文化的に重要な路線である。本
路線が通過する八王子市は,都心近郊という地理的条件等から,首
都圏のベットタウンとしての性格を有し,α41ニュータウンやα
42ニュータウンなどの大規模住宅団地建設事業に伴う計画的な住
宅供給が行われ,市街化が進み,近年では大学や企業,アミューズ
メント施設などが集積し,人々が交流する複合拠点の形成を目指し
た地域づくりが展開されている。八王子市α5町地内から同市α3
町地内までにおける一般国道20号は,現在,都心部,多摩地域及
び甲信地方を結ぶ幹線交通,八王子市街地を通過していることによ
る生活交通,α43駅及びα44駅に集中するバス交通などがふく
そうしていることから,慢性的な交通渋滞が発生しており,円滑な
交通が確保されていない状況にある。本件八王子南バイパス事業が
完成することにより,現在の一般国道20号の交通が分散され,交
通渋滞の緩和が図られることから円滑な交通の確保に寄与するもの
と認められる。また,八王子南インターチェンジと接続されること
から,八王子南バイパスは,圏央道と連携して,広域的利便性の向
上等にも寄与するものである。
b本件八王子南バイパス事業による生活環境等に及ぼす影響につい
ては,(2)イで述べたとおり,本件環境影響評価3及び本件環境影響
照査3が行われており,適切な環境保全のための措置を講ずること
により,環境基準等を満足するものと評価されている。また,起業
者である国土交通大臣は,本件八王子南バイパス事業の施行に当た
って,環境影響評価等の結果に基づき専門家の意見を聞きながら必
要なモニタリング調査等を実施し,地域の環境保全に努めることと
している。
c以上によれば,本件八王子南バイパス事業の施行により得られる
公共の利益は,相当程度存すると認められる。
(ウ)費用便益分析について
a土地収用法20条3号の要件適合性に係る判断は,事業認定に係
る事業計画の内容,事業計画が達成されることによってもたらされ
るべき公共の利益,事業計画策定及び事業認定に至るまでの経緯,
事業計画において収用の対象とされている土地の状況等諸要素の比
較衡量に基づく総合判断として行われるべきもので,その性質上裁
量が認められており,事業認定申請時の費用便益分析は,同号の要
件適合性についての判断の一資料にすぎない。
b費用便益分析は,道路事業の効率的かつ効果的な遂行のため,各
事業の評価に当たり,社会・経済的な側面から事業の妥当性を評価
するものであり,道路事業に伴う費用の増分と便益の増分を金銭に
換算して比較することにより,事業の評価を行う手法である。
費用便益分析の実施に当たっては,国土交通省道路局及び同都
市・地域整備局が作成した「費用便益分析マニュアル」(以下「費
用便益分析マニュアル」という。)に基づいて行われる。費用便益
分析マニュアルは,学識経験者から構成される検討委員会において,
パブリックコメントの結果や海外事例等を踏まえて審議されるもの
であり,作成時点における最新のデータと知見に基づいて作成され
たものである。
費用便益分析は,ある年次を基準年とし,一定期間の便益額及び
費用額を算定する。このうち,便益については,道路整備が行われ
た場合と行われない場合との交通量を推計し,多岐多様にわたる効
果のうち,最新の知見により,十分な精度で計測が可能でかつ金銭
表現が可能である「走行時間短縮」,「走行経費減少」,「交通事
故減少」の各項目について便益を計測することによって,総便益を
算出する。また,費用については,道路整備に要する事業費及び供
用後に必要となる維持管理費を算出して,それらの合計を総費用と
して算出する。そして,算出した各年次の費用及び便益の値を割引
率を用いて現在価値に換算し,総便益の現在価値を総費用の現在価
値で除して,費用便益比を求めるものである。
なお,本件各事業に係る事業認定申請時点において最新のもので
あった平成15年8月に改訂が行われた費用便益分析マニュアル
(以下「平成15年8月マニュアル」という。)においては,現在
価値算出のための割引率は4パーセント,基準年次は評価時点,検
討年数は供用開始後40年とされている。
c起業者らは,本件各事業に係る事業認定申請時及びその後の事業
再評価の際,その当時の最新のマニュアルである平成15年8月マ
ニュアルに基づいて費用便益分析を実施したものであり,その点は
妥当である。
費用便益分析を行う上で必要となる交通量の推計については,上
記マニュアルに基づき,①発生集中交通量の推計,②分布交通量の
推計,③路線配分の順序で行う「三段階推定法」により行っている。
また,その際にも,将来(本件においては平成42年)の自動車O
D表による交通量配分のシミュレーションに先だって,当該道路ネ
ットワークの配分結果の精度を高めるため,現況(本件においては
平成11年度)の自動車OD表による交通量配分の結果と,平成1
1年の道路交通センサスで実測した交通量との比較を行い,配分交
通量と実測交通量との関係性を相関係数により把握し,相関関係が
高く,したがって,現況再現性が高いことを確認した上で,将来交
通量の推計を行っている。このようにして求められた将来交通量か
ら,上記マニュアルに基づいて便益及び費用の算定を行い,その結
果は,便益が1兆4761億円,費用が5741億円となり,費用
便益比(B/C)は,2.6と見込まれている。
d他方,原告らは,本件事業認定時における費用便益分析について,
対象となる道路網を極端に拡大している旨主張するが,仮に,道路
網を広く設定した場合であっても,当該道路の整備の有無により交
通の流れに影響がない区間であれば,その区間については時間短縮
便益等が算出されないため,過大な評価になることがない。
また,原告らは,本件において費用便益分析に係るデータの開示
を求めるところ,費用便益分析における将来交通量配分と費用便益
分析に至る作業は,構築した道路ネットワーク,設定したQV式な
ど,コンピュータ上に,道路交通センサスによって与えられる値を
基に入力することにより設定されるもの,すなわち,交通量推計か
ら費用便益に至るプログラミングされたプロセスの中で自動的に算
定される一連の作業であり,費用便益計算に係る各リンクの延長(距
離),交通量,速度及び旅行時間等のデータは,そもそもコンピュ
ータ上に当初設定しただけのデータであったり,便益算定の過程で,
理論上,一時的に必要になるデータにすぎず,費用便益計算やその
前提となる交通量推計において網羅的に整理,保存する必要がない。
したがって,それらを確認しながら作業を進めることやそれらのデ
ータを整理,保存することは不要であり,実際にも行っていない。
他方,原告らの求めるデータは,交通量推計及び費用便益分析の算
定プロセスにおいて,いずれも必要であれば把握することが可能な
データであることは否定しないものの,費用便益分析においては,
推計対象道路である圏央道の有無によるリンク別の交通量及び旅行
時間が必要となるが,費用便益分析の観点からは,それらの交通量
がいかなるものになるかは要求されていない。例えば,各リンクの
交通量や旅行時間は便益を算定するためのデータにすぎず,これら
を網羅的に整理したとしても数値の羅列であって特段の意味を持つ
ものでない。
なお,原告らが指摘する平成18年12月に開催された関東地方
整備局事業評価監視委員会(平成18年第3回)における圏央道八
王子ジャンクションからα36間に係る費用便益分析については,
本件各事業に係る事業認定申請及び本件事業認定の根拠資料とはさ
れていない。
ウ本件起業地が本件各事業の用に供されることによって失われる利益につ
いて
(ア)本件起業地は,面積約27.6ヘクタールであり,移転を要する主
な物件は住家35戸及び非住家24戸であるところ,本件起業地が本
件各事業の用に供されることにより失われる利益としては,環境面及
び文化面に与える影響が考えられる。しかるに,以下に述べるとおり,
起業者らは,適正に予測及び評価を実施するなどし,この点について
適切に対策を講じており,国土交通大臣は,本件各事業が環境面及び
文化面に与える影響の程度は軽微であると判断した。
a本件圏央道事業等について
(2)イで述べたとおり,本件圏央道事業等については,東京都環境影
響評価条例に基づく環境影響評価が行われ,また,本件各事業に係る
事業認定申請に当たっても,起業者らによる再予測及び評価がなされ
ているところ,本件圏央道事業等の施行による環境への影響は軽微で
あるといえる。また,本件圏央道事業区間内には,「環境省レッドデ
ータブック」等に掲載されているアキノハハコグサ等が生息している
が,起業者らは移植等の適切な措置を講じることとしている。さらに,
本件圏央道事業区間内には,文化財保護法により起業者らが保護のた
め特別の措置を講ずべき文化財は見受けられない。したがって,本件
圏央道事業等の施行により失われる利益は軽微であるといえる。
b本件八王子南バイパス事業について
(2)イで述べたとおり,本件八王子南バイパス事業については,東京
都環境影響評価条例に基づく環境影響評価が行われ,また,本件各事
業に係る事業認定申請に当たっても,起業者らによる再予測及び評価
がなされているところ,本件南八王子バイパス事業の施行による環境
への影響は軽微であるといえる。また,本件八王子南バイパス事業区
間には,「環境省レッドデータブック」等に掲載されているエビネ等
が生息しているが,起業者である国土交通大臣は移植等の適切な措置
を講じることとしている。さらに,本件八王子南バイパス事業区間内
には,文化財保護法により起業者である国土交通大臣が保護のため特
別の措置を講ずべき文化財は見受けられない。したがって,本件八王
子南バイパス事業の施行により失われる利益は軽微であるといえる。
(イ)なお,事業認定の際に起業者に対して環境影響評価を行うことを義
務付ける法令上の規定は存在しないから,環境影響評価を行うことが
事業認定を行うための法的義務又は要件であると解することはできな
い。
エ事業計画の合理性について
国土交通大臣は,以下に述べるとおり,本件各事業の事業計画は,道路
構造令等に定める規格に適合していることなどから,合理性があると判断
した。
(ア)本件圏央道事業等について
本件圏央道事業等は,東名高速道と中央自動車道が連絡することに
よる広域的な利便性の向上及び一般国道16号等の交通の分散による
交通渋滞の緩和を主な目的とし,道路構造令に定める第1種第3級の
規格に基づく4車線の自動車専用道路を建設する事業であり,本件圏
央道事業等の事業計画は,道路構造令等に定める規格に適合している。
また,本件圏央道事業等の事業計画は,平成元年3月13日以降順次
都市計画決定されており,事業計画の基本的内容は,これらの都市計
画と整合している。したがって,本件圏央道事業等の事業計画は合理
的であるといえる。
(イ)本件八王子南バイパス事業について
本件八王子南バイパス事業は,一般国道20号の交通の分散による
交通渋滞の緩和を主な目的とし,道路構造令に定める第4種第1級の
規格に基づく4車線の道路を建設する事業であり,本件八王子南バイ
パス事業の事業計画は,道路構造令等に定める規格に適合していると
認められる。また,本件八王子南バイパス事業の事業計画は,平成9
年2月24日に都市計画決定されており,事業計画の基本的内容は当
該都市計画と整合している。したがって,本件八王子南バイパス事業
の事業計画は合理的であると認められる。
(6)土地収用法20条4号の要件適合性について
ア土地収用法20条4号は,事業認定の要件として,当該事業が,土地を
収用し,又は使用する公益上の必要性があることを規定しているところ,
この要件は,土地収用法20条3号に規定される要件によって事業計画自
体の合理性が肯定される場合であっても,当該土地を取得するのに強制的
な土地収用という手段を用いるだけの「公益上の必要性」があることを要
する旨規定したものであり,①収用ないし使用という取得手続をとること
の必要性が認められるか否か,②その必要性が公益目的に合致しているか
否か,との観点から判断されるべきである。
イ申請事業を早期に施行する必要性
(ア)本件圏央道事業等について
国土交通大臣は,申請事業を早期に施行する必要性について,以下
のように判断した。
すなわち,(5)イ(ア)a(b)に述べたとおり,現在,一般国道16号等
の交通量が多く,慢性的に交通渋滞が発生していることから,できる
限り早期に交通渋滞の緩和を図るとともに,広域的利便性についても,
早期に実現させる必要があると認められる。また,首都圏中央連絡道
路建設促進協議会等より,本件圏央道事業等の早期完成に関する強い
要望もある。さらに,都市再生本部が平成13年8月28日に決定し
た「都市再生プロジェクト(第二次決定)」においても本件圏央道事
業区間の早急な整備が求められている。以上のことから,本件圏央道
事業等を早期に施行する必要性は高いと認められる。
(イ)本件八王子南バイパス事業について
(5)イ(イ)aに述べたとおり,一般国道20号の交通量が多く,慢性
的に交通渋滞が発生していることから,できる限り早期に交通渋滞の
緩和を図る必要があると認められる。また,首都圏中央連絡道路建設
促進協議会等より,本件八王子南バイパス事業の早期完成に関する強
い要望がある。したがって,本件八王子南バイパス事業を早期に施行
する必要性は高いと認められる。
ウ本件起業地の範囲及び収用又は使用の別の合理性について
国土交通大臣は,本件各事業に係る起業地の範囲は,本件各事業の事業
計画に必要な範囲であると認めた。また,収用の範囲は,すべて本件各事
業の用に恒久的に供される範囲にとどめられ,それ以外の範囲は使用とし
ていることから,収用又は使用の範囲の別についても合理的であると認め
た。
エ以上のことから,国土交通大臣は,本件各事業には,土地を収用し,又
は使用する公益上の必要があると認め,土地収用法20条4号の要件に適
合すると判断したものであり,その判断内容にも不合理な点はない。
(7)環境影響評価に係る手続違反について
本件各事業は,平成5年12月に工事着手し,環境影響評価法が施行され
た平成11年6月12日時点において既に工事の実施中であったことから,
環境影響評価法の対象事業とはならないし,環境影響評価法には,事業の実
施後において環境影響評価を再度行うことを義務付ける規定はない。
また,現行の東京都環境影響評価条例63条及び64条に定める環境影響
評価の再実施について,同条例63条は,同条例62条に基づく事業内容の
変更に伴い変更届があった対象事業についての環境影響評価の手続の再実施
に係る規定であるところ,本件各事業は,同条例62条に掲げる事項の変更
に該当しないため,当該変更届を提出していない。また,同条例64条は,
環境影響評価書の縦覧期間の満了後5年を経過した後に工事に着手しようと
する場合に,かかる事情変更に伴う環境影響評価の手続の再実施に係る規定
であるところ,本件各事業は平成元年2月21日に環境影響評価書の縦覧を
終了し,平成5年11月8日付けで着工届を提出しており,5年を経過して
いないことから,当該規定に該当せず,環境影響評価の手続の再実施は要し
ない。
さらに,既に述べたとおり,環境影響評価を行うことは,土地収用法に基
づく事業認定を行うための法的義務又は要件ではない。
そして,本件各環境影響照査は,本件各環境影響評価以降に得られた新た
な知見に基づき,本件各事業の施行が環境に及ぼす影響について補足的に照
査を行っているものであり,これは,東京都環境影響評価条例によって義務
付けられた事後調査ではなく,その結果は,土地収用法に基づく事業認定を
受けるに当たり,参考資料として起業者らから提出されたものにすぎない。
以上のとおりであるから,原告らが指摘するような環境影響評価に係る手
続違反は存在しない。
(8)本件における都市計画決定手続について
都市計画法に基づく都市計画決定手続と土地収用法に基づく事業認定の手
続は,その根拠法令,目的,効果を全く異にするものである上,連続した一
連の手続となっているものでもない。したがって,都市計画決定手続の重大
かつ明白な瑕疵により当該都市計画決定が無効な場合は,事業認定の要件に
影響を与える可能性があるとしても,そのような場合を除き,都市計画決定
手続の瑕疵が当然に事業認定に承継されるということはできない。
また,都市計画の案を作成するに当たって住民の意見を反映させるための
措置を講ずるか否は,都市計画決定権者である都道府県知事(ただし,平成
11年法律第87号による改正後は都道府県)の裁量にゆだねられており,
原告らが主張する関係市町村での説明会は任意で開催されるものにすぎない
から,同説明会における説明内容いかんは都市計画決定の違法事由にはなら
ない。
さらに,都市計画法18条1項の規定に基づく関係市町村の意見聴取につ
いても,都道府県知事は,特段の事情がある場合を除き,関係市町村の意見
に拘束されることなく,都市計画決定をすることができるというべきである。
(9)自然公園法違反について
ア原告らは,起業者らの,自然公園法に定める国定公園の特別地域内に工
作物を設置するための協議に関する一連の手続が,同法56条1項に実質
的に反しているなどと主張するが,原告らの上記主張においては,自然公
園法に定める国定公園の特別地域内に工作物を設置するための協議に関す
る手続が,本件事業認定の適法性にどのように関係するのかが明らかでな
い。
また,起業者らは,本件圏央道事業がX70国定公園の特別地域内で施
行されることから,自然公園法56条1項に基づき東京都知事に対して協
議を行っており,東京都知事より異存ないとの回答を受けているのであっ
て,自然公園法に違反しているという事実はない。
さらに,自然公園法56条1項の協議に際してどのような資料の提出を
求めるのか,また,提出された資料についてどのように検討をするのかと
いった事柄は,原則として,当該行為を行う国の機関及び都道府県知事の
判断にゆだねられており,協議の際に全く資料が提出されていなかったり,
提出された資料について全く何の検討も加えられなかったというような特
段の事情がない限り,同項の規定に違反するということはできないし,本
件において上記のような特段の事情はない。
イ原告らは,本件各事業がX47談話に反している旨を主張するが,X4
7談話に反することと本件事業認定の適法性判断との関係が明らかでない。
また,本件各事業については,上記のとおり自然公園法に基づく協議を
適切に行うとともに,上記(2)イに述べたとおり,環境影響評価を適切に行
っていることに加え,地下水への影響についても,(2)アに述べたとおり,
十分な調査を行った上で,学識経験者等から構成される技術検討委員会を
設置して,その施工方法等について慎重に検討してきたものであって,本
件各事業がX47談話に反するとはいえない。
2原告らの主張
(1)第4原告ら及び第5原告らの当事者能力及び原告適格等
ア第4原告らについて
(ア)第4原告らは,本件事業認定によって建設される圏央道事業により
破壊される危険のある高尾山の自然環境及び自らの生活環境に対する
人格権ないし環境権を有する者である。
(イ)土地収用制度は,公共の利益となる事業に必要な場合に,正当な補
償を前提として土地等を収用又は使用するものであり(土地収用法1
条),土地収用に当たっては,その土地を当該事業の用に供すること
が土地の利用上適正かつ合理的であることが要求されている(同法2
条)。また,土地利用については起業地及び周辺環境に影響を及ぼす
ことが必然であるところ,土地収用法は,このような起業地及び周辺
環境への影響が土地の利用上適正かつ合理的であることをも要求して
いるものであり,このことは事業認定について,事業計画が土地の適
正かつ合理的な利用に寄与するものであることが要求されていること
(同法20条3号)からも明らかである。そして,土地収用法20条
3号適合性の判断に当たっては,事業認定により失われる自然環境,
歴史環境,文化環境や道路供用によって生じるおそれのある騒音や大
気汚染についても考慮されるように,土地収用により不必要に自然環
境,歴史環境,文化環境を破壊し,周辺住民の生活環境を劣化させる
ことのないようにすることが法の求めているところであるから,その
ような自然環境,歴史環境,文化環境を享受する利益や周辺住民が生
活環境を維持する利益も土地収用法の保護範囲に含まれるというべき
である。その上で,原告適格を判断するに当たり勘案すべき利益の内
容及び性質,害される態様及び程度として,①当該自然環境,歴史環
境,文化環境自体がどのような価値を有しているか,②当該原告が当
該自然環境等との間でどのようなかかわり合いを有し,又は有してき
たか,③当該開発行為により自然環境等がどのように改変されるかな
どの個別具体的事情を総合的に考慮すべきである。
本件において,高尾山は貴重な生態系を有するなどの価値を有し,
本件起業地及びその周辺は貴重な自然環境,歴史環境,文化環境を有
している。また,原告らは,これまでα13城跡や高尾山及びその周
辺の貴重な自然環境,歴史環境,文化環境に親しみ,余暇活動や研究
の対象とするなどしてこれを享受してきた。さらに,本件各事業によ
り,従来の生態系等を維持することができないほどに自然環境が改変
されるおそれが否定できず,巨大なジャンクションにより歴史環境,
文化環境が半永久的に棄損される。
以上に述べた,処分がその根拠となる法令に違反してされた場合に
害されることとなる利益の内容及び性質並びにこれが害される態様及
び程度をも勘案するならば,第4原告らについて原告適格が認められ
るべきである。
なお,本件各事業については,目的を共通にする法令である東京都
環境影響評価条例に基づく環境影響評価が行われているところ,環境
影響評価が事業による環境への影響を考慮して,環境への配慮を求め
る制度である以上,当該事業により環境上の影響を受けると主張する
者の原告適格は,関係法令である東京都環境影響評価条例により基礎
付けられるというべきである。
イ第5原告らについて
第5原告らは,本件事業認定によってその自然環境が破壊される危険の
ある高尾山の自然を保護する活動をしている自然保護団体であり,高尾山
の自然環境を本件各事業から守ろうとする団体であるところ,これらの団
体は,いずれも,団体としての組織が備えられており,団体が構成員から
独立していることに加え,団体としての運営方法が確定していることなど
から当事者能力を有する。また,第5原告らの原告適格を基礎付ける事実
は次のとおりである。
(ア)原告X52は,平成12年1月に結成され,国史跡であるα13城
跡全体を無傷のまま後世に残すための保存運動を進めることやα13
城跡をはじめとする八王子地域で生息するオオタカの保護運動を進め
ることを目的とし,代表者は,原告X39である。
原告X52は,α13城跡及び高尾山周辺の自然環境,歴史環境,
文化環境を保護しようとする目的で設立されており,これらを享受し
保護しようとする利益は土地収用法の保護範囲に含まれると解される
ことに加え,同原告の構成員約180名のうち102名が高尾山及び
α13城跡周辺に居住していること,同原告の構成員から環境利益保
護のために裁判上,裁判外の手段を執ることが授権されていること,
同原告が訴訟追行について十分な知識経験を有すること,同原告の構
成員のすべてが訴訟を提起することは煩さであり,同原告が担当者と
なって訴訟を追行することが合理的であることなどからすれば,同原
告は原告適格を有すると解するべきである。
(イ)原告X53は,昭和60年に結成され,圏央道開発計画からα2・
α40地区の自然を保護し,安全で美しい生活環境を育成することを
目的に活動しており,代表者は,X54である。
原告X53は,α13城跡及び高尾山周辺の自然環境,歴史環境,
文化環境を保護しようとする目的で設立されており,これらを享受し
保護しようとする利益は土地収用法の保護範囲に含まれると解される
ことに加え,同原告の構成員191名のうち189名が高尾山及びα
13城跡周辺に居住していること,同原告の構成員から環境利益保護
のために裁判上,裁判外の手段を執ることが授権されていること,同
原告が訴訟追行について十分な知識経験を有すること,同原告の構成
員のすべてが訴訟を提起することは煩さであり,同原告が担当者とな
って訴訟を追行することが合理的であることなどからすれば,同原告
は原告適格を有すると解するべきである。
(ウ)原告X55は,昭和60年6月に結成され,圏央道から高尾山とそ
の周辺の自然を守ることを目的に昭和61年には圏央道計画の白紙撤
回を求める13万名余の署名を東京都議会に提出し,その後も継続的
に圏央道計画に反対する活動をしている団体であり,代表者は,原告
X38である。
原告X55は,α13城跡及び高尾山周辺の自然環境,歴史環境,
文化環境を保護しようとする目的で設立されており,これらを享受し
保護しようとする利益は土地収用法の保護範囲に含まれると解される
ことに加え,同原告の構成員80名のうち25名が高尾山及びα13
城跡周辺の八王子市内に居住していること,同原告の構成員から環境
利益保護のために裁判上,裁判外の手段を執ることが授権されている
こと,訴訟追行について十分な知識経験を有すること,同原告の構成
員のすべてが訴訟を提起することは煩さであり,同原告が担当者とな
って訴訟を追行することが合理的であることなどからすれば,同原告
は原告適格を有すると解するべきである。
(エ)原告X56は,昭和63年6月に結成され,高尾山の自然を守り,
緑の街づくりをすすめることなどを目的に活動しており,代表者は,
原告X57である。
原告X56は,α13城跡及び高尾山周辺の自然環境,歴史環境,
文化環境を保護しようとする目的で設立されており,これらを享受し
保護しようとする利益は土地収用法の保護範囲に含まれると解される
ことに加え,約1000名を超える同原告の構成員のうち375名が
高尾山及びα13城跡周辺の八王子市内に居住していること,同原告
の構成員から環境利益保護のために裁判上,裁判外の手段を執ること
が授権されていること,訴訟追行について十分な知識経験を有するこ
と,同原告の構成員のすべてが訴訟を提起することは煩さであり,同
原告が担当者となって訴訟を追行することが合理的であることなどか
らすれば,同原告は原告適格を有すると解するべきである。
(オ)原告X32は,平成元年10月に設立され,八王子市α1の圏央道
工事予定地の地主の協力を得て,土地の借地権を設定し,立木を保存
するために2千数百本の立木を購入し圏央道から自然を保護する運動
に共鳴する個人に立木を販売し,自然観察会や自然保護の学習会など
継続的な活動を続けている構成員数約180名の団体で,代表者は,
原告X38である。
原告X32は,α13城跡及び高尾山周辺の自然環境,歴史環境,
文化環境を保護しようとする目的で設立されており,これらを享受し
保護しようとする利益は土地収用法の保護範囲に含まれると解される
ことに加え,同原告の構成員約180名のうち103名が高尾山及び
α13城跡周辺の八王子市内に居住していること,同原告の構成員か
ら環境利益保護のために裁判上,裁判外の手段を執ることが授権され
ていること,訴訟追行について十分な知識経験を有すること,同原告
の構成員のすべてが訴訟を提起することは煩さであり,同原告が担当
者となって訴訟を追行することが合理的であることなどからすれば,
同原告は原告適格を有すると解するべきである。
(カ)原告X30は,平成7年9月に結成され,高尾山の自然及び関連地
域の住環境を守ることを目的に,圏央道及びそのアクセス道路関連の
土地を取得してトラスト運動を行うため,旧×××番の土地及び△番
の土地を構成員が購入して圏央道の工事に反対しているものである。
代表は,原告X58である。
原告X30は,α13城跡及び高尾山周辺の自然環境,歴史環境,
文化環境を保護しようとする目的で設立されており,これらを享受し
保護しようとする利益は土地収用法の保護範囲に含まれると解される
ことに加え,同原告の構成員約89名のうち75名が高尾山及びα1
3城跡周辺の八王子市内に居住していること,同原告の構成員から環
境利益保護のために裁判上,裁判外の手段を執ることが授権されてい
ること,訴訟追行について十分な知識経験を有すること,同原告の構
成員のすべてが訴訟を提起することは煩さであり,同原告が担当者と
なって訴訟を追行することが合理的であることなどからすれば,同原
告は原告適格を有すると解するべきである。
(キ)原告X59は,平成元年に設立され,登山,ハイキングを健康で文
化的な活動として位置づけ,都民の間で普及,向上を図ることを目的
に設立された団体で,その目的のために都民の要求に応じる活動や山
岳自然保護を活動の柱とし,東京都近郊でハイキングに最適な山であ
る高尾山,α13城跡の自然環境を守ることもその目的に合致する重
要な活動と位置づけて高尾山,α13城跡の自然保護運動に積極的に
取り組んでいる。構成員数は平成17年11月末現在で2918名で,
代表者はX60である。
同原告の活動に係るα13城跡及び高尾山周辺の自然環境,歴史環
境,文化環境を享受し保護しようとする利益は土地収用法の保護範囲
に含まれると解されることに加え,同原告は,構成員が高尾山及びα
13城跡周辺に居住している者を中心としているわけではないものの,
一定の広域的な自然環境の保全を目的とする団体においては,その性
質上,保全すべき環境の周辺住民が構成員に含まれることを厳格に要
求すべきでないことや,同原告には,高尾山及びα13城跡の周辺地
域である八王子市及び近隣市町村の団体によるX61があり,高尾山
及びα13城跡の環境の有する歴史的,文化的,自然的,環境的及び
景観的価値に愛着を持ち,これを保全しようとする活動を行っている
こと,同原告の構成員から環境利益保護のために裁判上,裁判外の手
段を執ることが授権されていること,訴訟追行について十分な知識経
験を有すること,同原告の構成員のすべてが訴訟を提起することは煩
さであり,同団体が担当者となって訴訟を追行することが合理的であ
ること,同原告の構成員のうち本件訴訟の原告となった者の比率が他
の第5原告らに比べて低いことからも団体の任意的訴訟担当を認める
合理性がより強く認められることなどからすれば,同原告が担当者と
なって訴訟を追行することが合理的であることなどからすれば,同原
告は原告適格を有すると解するべきである。
(ク)原告X62は,本件事業認定によってその自然環境が破壊される危
険のある高尾山の自然を保護する活動をしている自然保護団体で高尾
山の自然環境を本件各事業から守ろうとする団体であり,平成12年
4月に発足し,都会における自然保護を目的に結成された。構成員数
は35名であり,代表者は,原告X63である。上記に述べたのと同
様の理由で,原告X62についても当事者能力及び原告適格を有する
というべきである。
(2)本件各事業の施行により原告らに生ずる重大な損害について
本件各事業の施行により,次に述べるとおり,貴重な植物相を有し,多様
な動物が生息するとともに,宗教的,歴史的価値を有する高尾山における自
然環境や歴史的環境に被害が発生し,又は今後発生することが予想されると
ころ,これにより,上記環境を利用する多くの人々にとって重大な利用行為
を阻害し,又は侵害することになる。
上記の環境利益又は共同利用行為による利益の享受は,環境権ないし環境
利益及び景観権ないし景観利益として構成されるところ,十分な住民参加と
情報公開の手続を経た合理的な意思決定によって変更された場合にのみその
変更が認められるという意味で,法的保護に値するものであるから,上記被
害により失われる利益は本件事業認定に当たり,考慮されるべきである。そ
して,本件各事業がこの環境利益ないし景観利益に与える影響が甚大かつ深
刻なものであることや,本件事業認定に係る手続及び本件各事業に係る収用
手続においては,いずれも十分な住民参加等が行われず,かつ,上記に述べ
た共同利益への影響や失われる利益については全く考慮されていないことな
どからすれば,本件各事業の施行は許容されず,本件事業認定は取り消され
るべきである。
ア高尾山トンネルによる高尾山の地下水への影響について
(ア)トンネル工事は,地下水の流れや水位に影響を与えるものであり,
その結果,井戸の枯渇や植生への影響等の環境問題が生じる場合があ
る。そして,高尾山を構成するのは,中生界白亜系の小仏層群盆堀川
層に属する砂岩,粘板岩の互層であり,西南西から東南東方向の一般
走向を示し,同方向のしゅう曲軸に沿って激しくしゅう曲しており,
これらの断層運動やしゅう曲活動に際しては,固化した岩盤の耐力を
上回る力がかかったために,岩盤には大小様々な規模と形状の割れ目
を生じている。風化作用も地表近くだけではなく,この岩盤の割れ目
に沿って地下深所にまで達するため,岩質の劣化も著しい。そのため,
高尾山の岩盤は,良好な岩質とされるA・B級(電研式岩盤分類法)
の岩盤はほとんどなく,もろく,水を通しやすいC・D級の岩盤が主
体を占めており,このような高尾山にトンネルを掘ることは,地下水
に影響を与える可能性が極めて大きいものであり,ひいては,高尾山
全体の水環境に影響を与え,高尾山にあるα18滝やα19滝にも影
響が生じるとともに,高尾山の自然環境に重大な影響を及ぼす可能性
がある。
(イ)豊かな自然の水に支えられた環境が存在すること自体が人々の快適
な環境にとって不可欠な要素であり,地下水は景観の維持にとって不
可欠である。また,自然水は,安全な社会生活を支えるものであり,
飲料や食品として享受されている。さらに,高尾山においては,地下
水はゆう水となって登山する者ののどを潤しているとともに,高尾山
には市民が自然を感じる場,修験道場として広く知られるα18滝及
びα19滝があるなど,高尾山の自然水の恵みは,周辺住民及び高尾
山を訪問する人々に多大な利益をもたらしている。
上記に述べた自然の水を享受する権利は憲法13条により保障され
ていることに加え,上記の高尾山の自然水について,①かつての高尾
山の表参道であるα19滝道の入口付近に建築されたX64に付随す
る水飲み場を所有する原告X40は,慣行による引水の利用権を,②
X64に付随する水飲み場を利用する高尾山への登山者は,高尾山の
自然の水に接し,これでのどを潤す権利としての自由権を,③X65
の清水の利用を認められた高尾山への登山者は,慣行による清水の利
用権又は高尾山の自然の水に接し,これによりのどを潤す権利として
の自由権を,③α18滝及びα19滝を訪問する者は,高尾山の重要
な水の名所としてのα18滝及びα19滝の水を利用,鑑賞する権利
としての自由権をそれぞれ有している。
しかし,本件各事業の施行により地下水脈が破壊され,井戸やゆう
水等の枯渇が生じることにより,上記の各権利が侵害される危険性が
高い。
(ウ)高尾山トンネル工事に先立つα13城跡トンネル等の工事において
は,トンネル工事により,観測孔2の水位低下,八王子市α15町α
16地区における井戸枯れ,α13城跡トンネルの北側2600メー
トルの位置にあるα32トンネル工事における沢の水枯れ,α17滝
の水枯れ等の現象が発生しているが,起業者らは,かかる事態の発生
を防止することはできなかった。高尾山トンネルの工事箇所の地層は,
α13城跡トンネルの工事箇所の地層と同様か,又はよりもろいもの
であるから,α13城跡トンネルと同様の工法で高尾山トンネルの工
事が施行されれば,必ず水環境への影響が生ずるといえる。現に,平
成19年5月に開始された高尾山トンネルの工事により,高尾山トン
ネル南側坑口付近の沢の水枯れや「X69跡」の由緒ある石塔が建つ
α25沢の水枯れ,ゆう水枯れ等が発生するとともに,高尾山トンネ
ルの直上にある稲荷山尾根における土壌成分データに異常値が観測さ
れるようになるなどの現象が発生した。
他方,起業者らが実施した地質調査及び水文調査における評価は正
確なものとはいえないし,高尾山トンネル工事において,被告国が主
張するような覆工止水構造を採用したとしても,完全な止水をするこ
とは不可能であり,高尾山の地下水に与える影響を防止することはで
きない。
イ本件各事業が高尾山等の景観に及ぼす影響について
(ア)本件各事業によりα1地域に設置される八王子ジャンクション及
び高架橋りょうの存在は,高尾山からの眺望景観を大きく損ね,その
景観価値を破壊するものである。
また,上記のとおり,高尾山トンネルの建設により水脈の破壊を起
こすことは避けられない。特に,高尾山の北西側斜面は,凍結破砕作
用による岩石の風化が活発で,表土が不安定な場所であるところ,ジ
ャンクション付近からの自動車排ガスの汚染と気温上昇の影響を直
接受けるとともに,アで述べたトンネル工事による水脈破壊が加速す
るおそれが高い。そのような事態が生じた場合,当該斜面に生育する
ブナ類への影響は必至であり,α18滝やα19滝の水枯れが十分に
考えられる。
さらに,高尾山の南山麓である八王子市α3町には八王子南インタ
ーチェンジが設置されるところ,同町の幅約200メートルの狭い谷
あいに,高さ約17メートル,南北約300メートル,東西約200
メートルのインターチェンジが設置されるのであり,これにより高尾
山の景観が大きく損なわれる。
(イ)他方,本件環境影響評価1においては,本件圏央道事業等による景
観の影響が少ない旨評価されているところ,本件環境影響評価1にお
ける代表的眺望地点の選定は適切でないし,景観変化の予測について
も科学的合理性を欠いている。すなわち,東京都技術指針は,景観に
関する環境アセスメントの対象範囲について,「対象事業の実施に伴
う地形の改変,施設の設置等が景観に影響を及ぼすと予想される地域
並びにその影響の内容及び程度とする。その場合,地域が一体として
有している景観の特性に対する影響を含む。」と定めるところ,「景
観への影響」としては,①主要な景観構成要素の改変の程度及びその
地点からの眺望の変化の程度,②代表的な眺望地点の改変の程度及び
その地点からの眺望の変化の程度,③貴重な景勝地の消滅の有無又は
改変の程度及び④圧迫感の変化の程度の4点が挙げられる。しかし,
本件環境影響評価1は,次に述べるとおり,上記の点について誤った
判断をしている。
また,本件環境影響評価2において,八王子南インターチェンジに
よる景観の影響が少ない旨評価し,その前提として,八王子南インタ
ーチェンジの建設が予定されている一般国道20号沿いの地域の市街
地化が進んでおり,人工的景観要素が多く含んでいるとされているが,
市街地化が進んでいるのは上記インターチェンジとは離れた地域であ
るから,このような評価は誤りである。
aトンネルによる景観破壊
本件環境影響評価1においては,「高尾山周辺からα26川にかけ
ての地域は,山と谷筋の集落からなる自然に恵まれた地域であるが,
この区間の約7割をトンネル構造で計画しており,自然的景観の主要
な構成要素である山地の森林は大部分が保全されることから,このト
ンネル区間では景観の変化は生じない」として,高尾山トンネルによ
る高尾山に対する景観構成要素の改変がないと断定している。
しかし,高尾山トンネルは,高尾山の山体を貫くのであるから,高
尾山の豊かな生態系や歴史的景観を構成している基盤的要素を破壊す
るものである。すなわち,高尾山の景観を構成するα19滝やα18
滝などが地下水脈破壊により減水ないし枯渇等の影響を受けるおそれ
が大きいことに加え,山体にトンネルを通すことは地層や地下水脈な
ど高尾山の基盤的構成要素を改変するものであり,山体を構成する地
層,地下水脈は史跡や生態系への累積的影響にかんがみれば,高尾山
トンネルの建設による景観価値の破壊は回復し難い重大な損失となる。
また,景観は,生態系的な価値に加えて,高尾山の完全性といった山
体自体の価値を含むものであるが,山体を貫くトンネルは,この完全
性を破壊するものである。したがって,本件環境影響評価1が高尾山
トンネルによる景観の改変がないとした点は,著しい誤りである。
b本件環境影響評価1は,α1地域の景観について,「人工構造物が
出現することにより景観の変化が生じる」としつつ,結論として「地
域景観の特性が大きく変化することはないと予測される」とする。当
該人工物は,八王子ジャンクションや高架橋(α37橋)であるが,
これらを設置することは,α1地域の自然と古くからの低層住宅地と
が織りなす景観とは全く相いれない景観破壊であることからすれば,
上記結論は常識に反するものであり,評価の信頼性を大いに損なうも
のである。
また,本件環境影響評価1は,「計画路線を中景域で望む眺望地
点」を取り上げ,「切土盛土のり面に樹林の創造を行い,周辺景観上
の一体化を図るほか,環境施設帯にも樹林の創造により橋りょう下部
の遮へいを行うなどの対策を講じることにより,違和感,圧迫感,煩
雑さは軽減され」るとして,上記人工物による景観の改変が大きくな
いとするところ,のり面での樹林の創造自体,自然林と調和するかど
うか疑問であることをおくとしても,のり面を作ること自体が問題で
あり,植林によりその形態上の不調和をぬぐい去ることは困難である。
さらに,近景域で望む眺望地点についても,「橋りょう下部が大き
く開放されていることから,構造物による圧迫感は比較的少ない」と
予測するところ,通常人の視点で見たとき,このような予測ができる
かは疑問であり,自然豊かな景観が長大な橋りょうに遮へいされ,巨
大コンクリートが頭上高くから覆いかぶさる圧倒的な恐怖感が先に立
つのが自然であるから,かかる予測ないし評価には客観性がなく,何
ら合理的裏付けがない。
そして,本件のような巨大な人工構造物については,本来,第1に
立地や配置,第2に規模や構造などにおいて,順次,その影響回避,
低減措置が検討されるべきであるが,このような検討が一切されてい
ない。
c本件環境影響評価1は,ジャンクションによる高尾山からの眺望景
観の変化において,現況景観の遠景について「自然豊かな雄大な景観」
としつつ,「視野の中央に位置する中央自動車道のコンクリート吹付
面が,人工構造物として目立っている。」と指摘する。しかし,中景
の高尾山のイヌブナ林や遠景のα45山は,自然豊かな雄大な景観と
して高い景観価値を有する一方で,中央自動車道とのり面のコンクリ
ート吹き付け面は,人工構造物として豊かな景観構成要素の一部を破
壊し,景観価値を損ねているものの,この吹き付け面とは異なり,中
央自動車道自体は,景観全体から見るとそれほど大きな占有領域を占
めず,それほど大きな違和感がないとはいい得ることからすれば,上
記現況景観の認識自体,適切な景観評価を欠いているものである。
次に,本件環境影響評価1は,本件圏央道事業等の完成後について,
これらに代わって,「橋りょう主体のジャンクションに置き換えられ
る」とし,その評価を「新たに生じる切土・盛土のり面には樹林の創
造を行うことにより,周辺の既存林との一体化をはかることができ」
ることから,現在の「景観上の異物感はかなり減少すると予測される」
とする。しかし,新規のり面の樹林創造では景観上の違和感が解消す
ることができないことは上記のとおりであるし,既存のり面の植栽自
体は別に評価されるべきである。また,既存景観では,中央自動車道
の存在自体はそれ程顕著なものではないが,本件圏央道事業等により
設置されるジャンクションの存在は異様であり,強い圧迫感を与える
ものであり,明らかに豊かな自然景観を分断し,違和感を生み出すも
のである。
d高架橋りょうによるα1地域の眺望景観の変化について,本件環境
影響評価1は,現況景観について,「豊かな樹木に覆われたα46山
とα45山を背景に,民家と梅林が落ち着いた,山間集落のたたずま
いを見せている」と的確な指摘をしている。ところが,眺望景観の変
化については,八王子ジャンクションや高架橋りょうにより現況景観
が大きく変化するにもかかわらず,先述したとおり,橋りょう下部の
空間やのり面等の樹林創造等により,圧迫感等が比較的小さいとする。
しかし,上記に述べたとおり,このような予測は合理性を有しない。
eジャンクションや高架橋りょうによる住宅地からの眺望景観の変化
について,本件環境影響評価1は,α1地域の住宅地として,「新興
住宅地」を選び,眺望視点を駒木野公園として,そこからの眺望景観
について,「圧迫感が少ない」,「特性の変化が少ない」と予測して
いる。しかし,α1地域は,旧甲州街道の沿道に古くからの民家を中
心として形成された集落であり,山間集落的なまちなみ景観が中心で
ある。その点で,少なくとも旧甲州街道沿いにある,α19滝口等を
眺望視点として選択していない本件環境影響評価1は,その選択を誤
ったものである。
また,眺望景観の予測において不可欠である,圧迫感の状況の調査
地点として,圧迫感の影響が考えられる住宅地についても調査する必
要があり,近接する住宅地付近の予測及び評価をすることが必要であ
るが,本件環境影響評価1はこれを欠いている。現実には,旧甲州街
道沿いの北側の住居では,ジャンクションの構造物がその敷地の北側
に迫り,居住者に堪え難い圧迫感をもたらしている。この近景の改変
は住居の敷地に覆いかぶさるような印象を居住者に与えている。また,
住居内の部屋で座るという通常の姿勢で窓の外をのぞくと,ジャンク
ションという巨大構造物により空がほとんど覆われている状態となる。
敷地及び住居内の室内からも見た極近景のこのような変化は,住居内
における居住方法にも重大な影響を及ぼし,居住し続けることが困難
となるものである。
f八王子南インターチェンジが建設される八王子市α3町は自然豊か
な地域である。本件環境影響評価1においてもその点は認めていなが
ら,「計画路線を中景域で望む眺望地点」を取り上げ,「切土盛土の
り面に樹林の創造を行い,周辺景観上の一体化を図るほか,環境施設
帯にも樹林の創造により橋りょう下部の遮へいを行うなどの対策を講
じることにより,違和感,圧迫感,煩雑さは軽減され」るとして,上
記人工物による景観の改変が大きくないとする。そもそものり面での
樹林の創造自体,自然林と調和するかどうか疑問であるが,その点は
おくとしても,のり面を作ること自体が問題であり,植林してもその
形態上の不調和をぬぐい去ることは困難である。しかも,本件環境影
響評価1においては,八王子南インターチェンジによる人工構造物自
体が高尾山を中心とする自然景観を破壊していることを全く考慮して
いない。
ウ大気汚染による損害
(ア)本件環境影響評価1においては,圏央道の建設により,1日平均4
万3800台の車が流入することが予想されている。今日,東京の大
気汚染状況は深刻さを増しており,1日5万台近い交通量の増加によ
り,付近住民の健康被害をもたらす危険性は極めて高い。特にα1地
域は古くからの住宅地であり,豊かな自然に囲まれた良好な住環境を
保ってきたにもかかわらず,1日5万台近い交通量が増えれば,α1
地域の大気汚染による住民の健康被害が生じる。
(イ)本件各環境影響評価及び本件各環境影響照査における大気汚染予測
の前提条件に関する問題点
a本件環境影響評価1においては,交通量予測の重要な前提条件で
ある自動車保有台数(全国)について平成12年には約5800万
台となると予測したが,平成12年7月の実数は約7526万台で
あり,30パーセント近くものかい離がみられる。かかる大きなか
い離は圏央道の交通量予測にも大きく影響することは必至であり,
再予測が必要であった。
b本件環境影響評価1においては,走行車両が自動車専用道路の法定
速度である80キロメートル/時を遵守することを前提とし,本件
環境影響評価2及び本件環境影響評価3においても同様の前提とさ
れているが,渋滞等がない限り80キロメートル/時を維持する車
は皆無であり,100キロメートル/時から120キロメートル/
時で走行する車両がほとんどであることは常識である。原告らが,
平成14年3月に中央自動車道を通行する自動車の走行速度につい
て調査をしたところ,昼間及び夜間の双方で,平均速度は80キロ
メートル/時を超えていた。
速度と窒素酸化物,SPM,二酸化炭素等の大気汚染物質の濃度
との関係については,走行速度が60キロメートル/時となるとき
に排出係数ないし排出量が最低となり,走行速度が上昇すれば排出
係数ないし排出量も上昇する。したがって,その観点からも,実態
と異なる80キロメートル/時を前提にすることは不相当である。
c本件各環境影響評価においては,二酸化窒素の将来予測につき,
将来の削減計画が勘案されているが,この削減計画は達成されてい
ない。例えば,被告東京都の削減計画も平成9年策定の環境基本計
画では平成12年までにおおむね環境基準を達成し,平成17年ま
でに全測定局で環境基準を達成するという目標を設定していたが,
この目標は実現することができなかった。環境影響評価においては,
実現可能な到達率を前提として予測を行うべきであり,そのような
前提に立って予測をしていれば,本件各環境影響評価の結果が大き
く異なるものとなったことは明らかである。
本件各環境影響照査において予測がされているSPMについても,
将来の削減計画を勘案して予測がされているところ,大気汚染物質
の削減計画等については,当該基準の達成状況,環境基本計画等の
目標又は計画の内容等と調査及び予測の結果との整合性が図られて
いるかについて検討されるべきであり,未達成の計画を勘案するこ
とは許されない。そして,SPMについては,平成14年の時点で
はすべての自動車排出ガス測定局(以下「自排局」という。)で環
境基準を達成することができなかったところ,現実の到達率や実現
可能な到達率を前提として予測を行ったならば本件各環境影響照査
における予測結果と大きくかい離したものとなったのは明らかであ
り,起業者らは上記未達成の事実を認識していたにもかかわらず,
かかる削減計画を勘案する不公正な予測を行ったものである。
(ウ)二酸化窒素に係る大気汚染予測の問題点
a本件各環境影響評価においては,圏央道の建設によりα1地域の
二酸化窒素の濃度は,八王子ジャンクション部分で年平均値で約0.
018ppmになると予測されており,環境基準である年平均値0.
03ppm以下を下回ると結論付けられている。
bしかし,α1地域の八王子ジャンクション部分の単に1地点だけで
は,地域における面的汚染状況については判然としない。
原告らが実施した調査によれば,現状でも中央自動車道の影響に
よる高濃度の二酸化窒素汚染があり,環境基準を超過する場所が二,
三か所認められる上,圏央道が完成すると,α1地域では広範な二
酸化窒素の汚染が発生する。原告らの調査においては,①換気塔か
らの排出を考慮しない場合,②換気塔の影響を考慮しながらも,換
気塔の高さからそのまま排ガスが拡散していくこと(実煙突高から
拡散)を前提にした場合,③換気塔の影響を考慮し,しかも有効煙
突高,つまり煙突からの通常の大気の拡散を前提に,Moses&
Carson方式(熱のある排ガスの拡散で用いられる方法)で予
測した場合,④換気塔の影響を考慮し,かつ,有効煙突高を前提に,
Brigss・ダウンウオッシュ式(熱のないガスの吹き上げ方式)
で予測した場合の4種類の予測をしたが,いずれの場合にも,α1
地域の広範な地域に環境基準以上の汚染が広がることが判明した。
c(a)他方,本件各環境影響評価における調査結果と原告らの調査結
果においては,二酸化窒素の汚染レベルは全く異なっているとこ
ろ,その原因は拡散モデルとして,本件各環境影響評価がプルー
ム・パフモデルで予測したのに対し,原告らは3次元流体モデル
で予測をしたことにある。
(b)プルームモデルは有風時の予測であり,パフモデルは無風時(弱
風)の予測モデルであるところ,プルームモデルは,構造物や地
形等が調査対象地域の中で均一であることが前提とされている。
しかし,α1地域は長さ約4.5キロメートル,尾根の高さでの
谷幅500ないし800メートルのV字谷の峡谷で,そこに多く
の沢が流入している。また,北側山腹に中央自動車道が走り,そ
の上に巨大なジャンクションが建設され,地上30メートルには
換気塔も建設される。風向も風速も高さや地域によって複雑に変
わり,強い接地逆転層があることも確認されている。このような
複雑な地形であるα1地域でプルームモデルを適用することは誤
りであるし,原告らの調査によると,α1地域でプルーム・パフ
モデルを適用して予測を行うと,実測値より過小な計算値が算出
されることが判明している。かかるプルームモデルの限界につい
ては,様々な文献で指摘されており,例えば昭和58年手引きに
おいては,「気象条件及び物質の排出条件の時間的変化,臨海部
における海陸風の循環,複雑地形の影響等を考慮しなければなら
ない場合には,(プルーム・パフモデルではなく)差分モデルの
利用を検討する」としている。
また,被告国は,風洞実験によってプルーム・パフモデルによ
る予測の妥当性を確認していると主張するが,強い接地逆転層が
発生するα1地域で,接地逆転層の把握のために風洞実験を行う
ことは適切ではない。
さらに,本件各環境影響評価で用いられた拡散幅は,「道路環
境整備マニュアル(平成元年1月)」どおりの拡散幅であるとこ
ろ,「大気汚染の予測手法の適用性に関する調査業務報告」(平
成9年3月)においては,上記マニュアルの予測手法が適用でき
るのは,拡散幅設定条件からみた適用範囲を高架で13メートル
以下,予測範囲は横断面で150メートル,鉛直高さで18メー
トルの範囲とされており,八王子ジャンクションは,これより格
段に大きく,予測範囲も格段に広いのであり,拡散幅の限界を超
えている。
そして,起業者らは,上記プルームモデルについて,現状の交
通量,排出係数によってシミュレーションを実施し,現実に観測
されている大気汚染濃度を再現するという現況再現シミュレーシ
ョンを実施していない。
(c)他方,原告らは,拡散モデルとして,3次元流体モデルを用い,
地形や構造物の影響を考慮したモデルにより予測を行い,その結
果高濃度の汚染状況が広がることが予測したものである。
なお,3次元流体モデルで必要なのは,構造物及び地形の影響
を受ける前の風のデータであり,本来であればα1地域の上空で,
一定の高度で区切って観測したデータを使うのが理想的な方法で
ある。しかし,α1地域ではこのような観測が行われていないた
め,本来必要なデータが存在しない。そのため,原告らの当初の
予測では,年間データがあり,しかもα1地域に最も近く,かつ,
地形的影響のより少ないα6町測定局のデータを使用した。また,
原告らの当初の予測では,計算量の限界の観点から,日交通量を
使用したところ,上記モデルで算出するのは年平均値であり,年
平均値で換算すれば,日交通量で計算しても時間交通量で計算し
ても,それほど大きな違いは生じない。
ただし,原告らは,被告国の指摘を踏まえ,①気象モデルにつ
いては,α1地域並びに八王子市内のα6町測定局以外のデータ
(α33町及びα34町)のデータを用いる,②日交通量ではな
く時間交通量を用いる,③換気塔からの影響は考慮しないとの各
前提に立った追加調査を行ったところ,いずれの気象データを用
いた予測を行っても,環境基準以上の汚染がα1地域に現れると
の結果となった。
d本件各事業の建設予定地には接地逆転層が生じ,それが発生した
ときには大気汚染による重大な被害が発生するおそれがあることか
ら,本件各環境影響評価においては,他の地域における実験結果か
ら類推するという確度の低い予測ではなく,個別に現地調査及び実
験を行った上で予測をすべきであったにもかかわらず,そのような
調査がされていないとの問題がある。
(エ)SPMに係る大気汚染予測の問題点
a近年,SPMについては人体への健康被害,特に呼吸器疾患を起
こす原因物質としてその危険性が指摘されている。しかし,本件各
環境影響評価においてはSPMの予測がされていない。しかし,本
件環境影響評価1が公表されたのは昭和63年12月であるところ,
昭和63年3月に,既に環境庁(当時)は「浮遊粒子状物質予測解
析調査」を発表し,SPMの予測手法を紹介しているから,限定さ
れた手法であったとはいえ予測は可能であり,その後策定されたマ
ニュアル等の存在も勘案すれば,遅くとも,本件各環境影響照査が
行われた時点では予測が可能であった。
b原告らは,SPMについて,二酸化窒素と同様に,地形構造物の
影響を考慮することができる3次元流体モデルでの予測を行った。
この予測では,自動車排ガス管から直接排出される固体の粒子状物
質である1次粒子に限定して調査を実施しているが,実際にはガス
状物質として排出され,化学変化を受けて粒子物質になる2次生成
粒子も存在する。自動車排ガス由来の1次粒子と2次生成粒子の比
率はおおむね1対1とされているため,予測結果以上の汚染が実際
には広がるものである。そして,実煙突高で想定した場合,有効煙
突高をMoses&Carson式で予測した場合及び有効煙突高
をBriggs・ダウンウォッシュ式及びHuber式で予測した
場合のいずれについても,広範囲にわたって環境基準以上の汚染が
予測された。
c被告国は,近年の規制等により,東京都内のSPM濃度が安定し
てきている旨を主張するが,従前は,東京都内の自排局で100パ
ーセント環境基準を達成することができないという異常な状態であ
ったものが,規制の開始により効果が劇的に現れているものにすぎ
ず,今後同様にSPMの濃度の改善が進むかどうかは全く予測する
ことができない。また,SPMの中でも特に深刻な健康被害をもた
らすおそれがある微小粒子状物質(いわゆるPM2.5)の濃度に
ついては必ずしも改善していない。工事の完成していない本件各事
業区間については,早急にPM2.5についての調査と工事完成後
の予測を行うべきである。
(オ)本件八王子南バイパス事業について
a本件八王子南バイパス事業により八王子南バイパスが建設され
るところ,同バイパスは八王子市α5までの住宅街や医療施設,
教育施設のすぐ近くに建設されるのであり,大気汚染の影響を否
定することはできない。
b本件環境影響評価3においてもSPMについて調査が行われて
いない。他方,二酸化窒素,二酸化いおう及び一酸化炭素につい
ては調査が行われており,人間の呼吸器に悪影響を及ぼすとされ
る二酸化窒素の日平均値について,いずれも環境基準である0.
06ppmを下回るとされているが,その前提とされた交
通量が過少に評価されている。
(カ)以上のとおり,本件各事業により,二酸化窒素及びSPMにつき,
環境基準を上回る高濃度の大気汚染が生じることが予測され,これに
より,付近住民,特にα1地域の住民について,環境基準以上の高濃
度汚染が生じる結果,健康被害が生じる危険性が高い。
エ騒音被害について
(ア)本件環境影響評価1において前提とされている自動車保有台数(全
国)の予測値が過少であるとの問題点があることは大気汚染に係る環
境影響評価の場合と同様である。また,走行車両の速度が上昇すれば
騒音の値が上昇することを勘案すれば,本件各環境影響評価において
走行車両が自動車専用道路の法定速度を遵守することを前提とされて
いることは,大気汚染に係る環境影響評価の場合と同様に,騒音被害
の実態を反映しないものであるといえる。
(イ)本件環境影響評価1及び本件環境影響照査1においては,α1地域
の圏央道による騒音予測につき,緩和された「道路に面する地域」の
環境基準を適用して,環境基準以下であるから問題がない旨結論付け
られている。すなわち,上記結論の前提として,α1地域の原告らの
住宅地を「道路に面する地域」であるとして,旧騒音環境基準におい
ては夜間につきL50で50ホン(A),現騒音環境基準においては
夜間につきLAeqで55デシベルを適用している。
しかし,旧騒音環境基準において「道路に面する地域」に関する環
境基準に係る数値が定められた根拠は必ずしも明確ではなく,望まし
い基準というよりは規制基準に近い数値であることなど基準策定時の
経過などからして,「道路に面する地域」の環境基準の適用範囲は,
限定して考えるべきである。その上で,①評価の対象となる地域が「道
路に面する地域」である場合に緩やかな環境基準が適用されることに
なったのは,当該道路周辺の地域住民が道路から利益を得ているため
であるから,このような利益を受けていることが,上記緩和された環
境基準が適用される必要条件というべきであること,②道路交通騒音
の影響を受ける地域がすべて「道路に面する地域」であると解すると
すると,A類型の住宅専用地域のほとんどが「道路に面する地域」に
該当することになりかねないが,かかる解釈がされることを環境基準
は想定していないこと,③現騒音環境基準は,「道路に面する地域」
のうち「幹線交通を担う道路に近接する空間」における基準を更に緩
和しているところ,その定義は,2車線以下の車線を有する道路の場
合は道路端から15メートル,2車線を超える車線を有する道路の場
合は道路端から20メートルと限定していることなどからすれば,
「道路に面する地域」とは,道路に建物が接しているか又は面してい
る地域,すなわち道路端から20メートル以内の地域を指すと解する
べきである。そして,α1地域の民家はいずれも中央自動車道や圏央
道の道路端から20メートル以上離れており,20メートル以内には
原告らを含めて住民の住居は存在しないし,α1地域が中央自動車道
や圏央道から利益を受けることはないから,α1地域のうち原告ら住
民が居住する地域は,すべて,「幹線交通を担う道路に近接する空間」
の背後地であり,少なくとも,現騒音環境基準におけるA地域の一般
地域の基準値である,昼間(午前6時から午後10時まで)はLAe
qで55デシベル以下,夜間(午後10時から翌日午前6時まで)は
LAeqで45デシベル以下を適用すべきである。
そして,道路騒音に関する環境基準は,生理的,心理的,生活的影
響も苦情もなく,生理的影響,聴取妨害,作業妨害はいまだ出現せず,
睡眠影響は無視できるレベルであるとして決定されたものである以上,
これらの被害を出さないためにも,上記環境基準を受忍限度として,
これを超える騒音は違法なものと判断すべきである。
(ウ)起業者らは,平成14年3月に「圏央道技術資料作成業務13G8
報告書」を作成し,平成32年の試算交通量を基にした騒音に関する
環境影響照査を行っているところ,α1地域における圏央道開通後の
夜間の予測として,中央自動車道の遮音壁を3メートルにかさ上げす
る前提で,L50で49dB(A),LAeqで54デシベルと予測
している。これらの結果は,旧騒音環境基準におけるA地域の住居専
用地域の夜間の環境基準であるL50で40ホン(A)及び現騒音環
境基準における同地域の夜間の環境基準であるLAeqで45デシベ
ルをいずれも大幅に超える数値となっており,かつ,上記数値は,屋
内の数値に換算するとLAeqで44デシベルとなり明らかに睡眠妨
害が発生するレベルである。すなわち,諸外国,国際機関の指針や近
時の研究成果等を踏まえれば,騒音による睡眠妨害を防止するために
は,屋内ではLAeqで30デシベル,LMaxで45デシベル以下
とすべきであり,そのための屋外値は家屋の遮音効果を15デシベル
と考えたとしてもLAeqで45デシベル,LMaxで60デシベル
以下とすべきであり,このような観点からは,上記数値は睡眠妨害の
被害が発生するレベルである。他方,現騒音環境基準は,「道路に面
する地域」について,合理的な理由もなく政治的配慮から家屋の遮音
効果を15デシベルとして,屋外における夜間の環境基準を55デシ
ベルとしているところ,この数値は,屋内では45デシベルに相当し,
仮に,被告国が主張するように,α1地域に「道路に面する地域」の
基準を適用するとしても,睡眠影響が生ずる水準にある。
(エ)平成17年11月1日午後10時から翌2日午前6時における原告
X35宅の現況の騒音調査の結果によると,屋外はLAeqで61デ
シベル,室内はLAeqで47デシベルとの結果であり,原告らが主
張するA又はB類型の住宅地の夜間の現騒音環境基準の基準値である
45デシベルを16デシベルも超過する。その後,中央自動車道南側
に高さ3メートルの遮音壁が設置されたものの,平成18年6月28
日午後10時から翌29日午前6時における原告X35宅の屋外の騒
音は,LAeqで59.2デシベル,LMaxで69.9デシベルで
あった。八王子ジャンクションの開通後は,原告X35宅の騒音の状
況はほとんど変化していないものの,今後,高尾山トンネルの開通等
により圏央道の交通量が増加すれば,現在以上の騒音の状況になるこ
とが予想される。また,平成21年11月13日から同月18日の夜
間における原告X66宅の現況の騒音は,屋外でLAeqで48デシ
ベルないし49デシベルであった。
また,原告らの予測によれば,地点予測では,夜間の騒音がLAe
qで52デシベルから最高でLAeqで59デシベルの数値が予測さ
れ,A類型の地域夜間の一般環境基準であるLAeqで45デシベル
を大幅に上回り,睡眠妨害が発生する危険な状況になることが予測さ
れている。面的予測では,夜間の騒音レベルが昼間の騒音レベルより
高くなり,原告らを含むα1地域の居住地全域はA類型の地域におけ
る一般環境基準であるLAeqで45デシベルを大幅に超え,すべて
がLAeqで50デシベル以上の地域となり,LAeqで55デシベ
ルから60デシベルの地域が多くを占め,最高ではLAeqで60デ
シベルの地域も予測されることが明らかになっている。夜間騒音であ
るLAeqで55デシベルから60デシベルを屋内値に換算するとL
Aeqで45デシベルからLAeqで50デシベルとなり,受忍限度
を超える深刻な被害が発生する状況である。
(オ)本件環境影響評価2によると,八王子南インターチェンジ付近の八
王子市α3町□-3の地点は2車線の一般国道20号があり,道路沿
道の騒音状況は,平成4年の調査であるが,夜間の騒音レベルがL5
0で59デシベルから夕方の騒音レベルがL50で67デシベルの間
の騒音状況であり,すべての時間帯において旧騒音環境基準を超える
騒音状況であることが明らかになっている。このL50の数値をLA
eqに換算すると64デシベルから72デシベルとなり,既に八王子
市α3町の一般国道20号の道路沿道の騒音被害の状況は,受忍限度
を超える睡眠妨害の影響を受ける被害状況である。
(カ)高尾山は,年間260万人もの人々が自然を楽しむために訪れると
ともに,薬王院という宗教施設もあり,歴史も古く,自然環境,宗教
施設及び歴史環境が豊かである。また,α1地域には特別養護老人ホ
ームや児童福祉施設もあるなど,α1地域及び高尾山の地域は自動車
騒音から自然環境を守り人々の生活を守る必要がある地域であるから,
住居のない高尾山登山道等についても,道路騒音に係る環境影響評価
をすべきであり,かつ,東京都知事の指定を受けていなくても「特に
静穏を要する地域」に適用される環境基準が適用されるべきである。
原告らの調査によれば,高尾山登山道においては,昼間は56デシベ
ル,夜間は59デシベルの騒音が発生し,面的予測では昼間は50デ
シベルを超える騒音地域が登山道を含めて高尾山の北側斜面全体に広
がることが予測されている。
オ振動被害について
本件環境影響評価1においては,振動予測地点20地点中14地点にお
いてがL10で45デシベル以上であるところ,本件各事業により設置さ
れる八王子ジャンクションは,8本のループ式で都道から地上約60メー
トルの高さに東西約800メートル,南北約300メートル,総延長約8
キロメートルに及ぶ巨大なものであり,更にα13城跡トンネル南側坑口
から高尾山トンネル北側坑口を結ぶ高架橋りょうは地上約60メートルの
高さを通過することになるから,大きな振動被害の発生が予測される。
カ低周波空気振動による被害について
起業者らは,α1地域において低周波空気振動に係る現況調査をせずに,
都内の高架道路から発生する低周波空気振動の調査事例を参考にして,自
動車専用道路の音圧レベルの中央値70デシベルないし90デシベルと同
程度と考えられるとして,低周波空気振動に係る評価の指標は未解明の部
分が多くいまだ確立されていないとし,沿道住民の日常生活に支障のない
程度のものと考えるとしているのみであるが,環境影響調査としては不十
分である。α1地域においては,既に中央自動車道による低周波空気振動
の被害が発生している。
本件各事業により設置される八王子ジャンクションは,8本のループ式
で都道から地上約60メートルの高さに東西約800メートル,南北約3
00メートル,総延長約8キロメートルに及ぶ巨大なものであり,更にα
13城跡トンネル南側坑口から高尾山トンネル北側坑口を結ぶ高架橋りょ
うは地上約60メートルの高さを通過する。このような高架橋りょうの自
動車通行により,周辺住民に低周波空気振動による被害をもたらす。
キサウンドスケープに対する重大な侵害
本件においては,サウンドスケープ,すなわち「個人又は社会によって
どのように知覚され,理解されるかに強調点の置かれた音の環境」の観点
からの環境影響評価がされていない。しかし,本件各事業の施行により,
高尾山におけるサウンドスケープ,すなわち高尾山の有する「しずけさ」
等が大きく損なわれ,これを希求して高尾山を訪問する者の利益を侵害す
る。
また,本件各事業により,レクレーション・ノイズの問題,すなわち,
屋外でのレクレーション活動によって発生する騒音の問題又は自然の恵
沢を享受する場所においてその場に本来あるべきサウンドスケープを破
壊するような音響が発生又は侵入する問題が発生するところ,高尾山の平
穏はこのようなレクレーション・ノイズからも保護される必要がある。
ク本件各事業によるオオタカへの影響を含む自然環境への影響について
本件各事業により,自動車排ガスや騒音,光害等の影響が高尾山の特筆
すべき豊かな生物多様性に深刻な影響を及ぼし,到底回復し難いものとな
るおそれが大きい。また,アで述べたとおり,高尾山トンネルの工事によ
り地下水への影響が生じ,高尾山の森林に深刻な影響が生ずる。さらに,
平成8年4月の原告らの調査により,種の保存法により絶滅のおそれのあ
る「国内希少野生動植物種」に指定されているオオタカが圏央道α13城
跡トンネル北側坑口付近に営巣している事実が発見されたところ,平成1
0年9月(繁殖期後)から,圏央道α14橋の工事が始まるや,α13城
跡のオオタカのふ化の数,巣立ちの数が漸減し,ついに,平成14年以降,
オオタカは同地域での営巣を放棄してしまった。
ケα1地域の生活環境への影響について
α1地域は,古い歴史を有し,集落として独自の文化を形成してきた地
域であるとともに,自然が豊かな地域であり,その自然を求めて同地域に
転居した者も多く,そのような地域であることから,児童福祉施設や老人
保養施設が設けられている。本件各事業は,そのような地区にジャンクシ
ョン,橋脚及び高尾山トンネルを建設しようとするものであり,これらの
建造物によりα1地域の景観は変わり果て,文化・情操教育としての場も
失われるとともに,住民に与え得る健康被害の不安は大きい。α1地域の
住民は,既に中央自動車道を走行する自動車によってもたらされる振動や
騒音にも悩まされており,圏央道が建設されれば,それらが一層激化する。
α1地域の風土は,視覚的な景観のみならず,きゅう覚,触覚,聴覚等総
合的な意味で重大な危機にひんしている。さらに,住民は,先祖伝来の土
地を守るか,手放すかの態度決定を迫られる状況にあり,本件各事業を受
け入れる住民と反対する住民との間で深刻な対立が生じるなどα1地域に
おける共同体そのものが分断されようとしている。
(3)土地収用法に定める事業認定手続違反
ア起業者らは,本件各事業に係る事業認定申請をする前段階として,土地
収用法15条の14に基づく本件事前説明会を開催した。上記規定に基づ
く事前説明会については,平成13年の土地収用法の改正の際の参議院国
土交通委員会における附帯決議の趣旨に照らし,起業者と利害関係人との
間の質疑応答を実施するなど,実効性のあるものとするよう努めるべきで
あるが,本件事前説明会は,多数の参加者が質問をしようとしたのに,そ
のうちの一部の者しか質問することができず,しかも質問に対する回答の
内容が不足しており,本件各事業に対する説明が不十分のまま打ち切られ
た。また,後日,再度の説明会を開催するよう要求があったにもかかわら
ず,再度の説明会は開催されなかった。したがって,本件事前説明会は,
単に形式的に行われたものであり,実効性のあるものとするよう努められ
たとは到底いえないから,上記規定に違反するものである。
イ土地収用法23条は,当該事業の認定について利害関係を有する者から
公聴会の開催の請求があったときは,公聴会を開催することが義務付けら
れているところ,それが形がい化することのないよう,公聴会で述べられ
た住民等の意見を第三者機関に適切に伝えるとともに,公述人相互の間で
質疑が行うことのできるような仕組みとするなど住民意見の吸収の場とい
う公聴会の本来の役割を果たすような措置が講じられるべきであり,平成
13年の土地収用法の改正の際の衆議院国土交通委員会及び参議院国土交
通委員会においても同旨の附帯決議がされた。
しかし,本件公聴会において,公述人相互の一問一答は拒否されるとと
もに,起業者らは,圏央道事業に疑問を有する公述人がした質問に真しに
回答せず,後日文書で回答するとした質問に対してもいまだ回答をしてい
ない。また,本件公聴会において起業者らが用意した公述人の中には,国
土交通省の各種審議委員のみならず第三者機関とされる社会資本整備審議
会の委員を務め,本件各事業につき第三者として公正な立場であるべき者
がいた。
このような本件公聴会は,形式的に公聴会を開いたというのみであり,
上記述べた公聴会の本来の役割を果たすような在り方とはほど遠いもので
あり,土地収用法の上記規定に反するものである。
ウ土地収用法25条の2は,国土交通大臣が事業認定に関する処分を行お
うとするときには,あらかじめ社会資本整備審議会の意見を聴き,その意
見を尊重しなければならない旨定め,第三者機関の意見聴取を義務付けて
いる。その第三者機関は公平,中立であるべきであり,平成13年の土地
収用法の改正の際の衆議院国土交通委員会及び参議院国土交通委員会の附
帯決議においても「事業認定の中立性,公正性等の確保を図るため,社会
資本整備審議会で事業認定に関する審議に関与する委員については,法学
会,法曹界,都市計画,環境,マスコミ,経済界等の分野からバランスの
とれた人選を行うとともに,事業認定の立場にある中央省庁のOBの任命
は原則として行わないこと」,「同審議会における事業認定に関する審議
には当該事業に利害関係を有する委員は加わらないようにするなど,運用
の中立性,公正性等を確保するとともに,議事要旨の公開に努めること」
とされている。
しかし,公共用地分科会の委員は,そのほとんどが国土交通省等の審議
会の委員を歴任しており,その中立性に問題があるし,また,委員の構成
についても,公共事業である道路建設の積極的推進者である経済界の有力
委員は配置されている一方で,自然保護団体に関係する者はいないし,高
尾山の自然に関連する環境問題,生態学,地質学等の専門家もいないとの
問題がある。
また,公共用地分科会の庶務は国土交通省の収用認定に当たる部局が担
当し,認定理由の原案を国土交通省側で作成し,公聴会の住民の発言に対
する反論まで添付して委員に提出されるなどしており,第三者機関からの
意見聴取の実効性を欠くものとなっている。
さらに,イに述べたとおり,本件公聴会で,起業者側の公述人として社
会資本整備審議会の委員が公述するなど,同審議会の第三者性に疑問が持
たれるようなことが行われたため,第5原告らは,同審議会の審議に当た
り,審議の公正さと中立性の確保のために,当該委員の罷免や審議の公開,
公共用地分科会の公開を求め,審議に当たって関係人の事情聴取や現場検
証を実施するなどの慎重な審議を求めた。しかし,社会資本整備審議会は,
これらの要請を考慮することなく,慎重な審議をすることなく本件事業認
定が相当である旨の意見を述べた。
このような審議は,土地収用法の上記規定に反するものである。
エ土地収用法26条1項は,事業認定に当たり「事業の認定をした理由」
を告示する旨を定める。これは,事業認定の判断の過程を公表することが,
事業認定の公正の確保と透明性の向上を図ることになるとともに,事業認
定が土地所有者等の権利をはく奪し又は制限する処分の重要な前段階とい
う実質的不利益処分であることから,その理由を公表することが不利益処
分について理由の付記を義務付けている行政手続法の趣旨に沿うことにな
るからである。しかし,本件事業認定の際に告示された「事業の認定をし
た理由」は,起業者らの意見をそのまま繰り返したもので,住民らの疑問
には何ら答えようとしておらず,特に,α13城跡トンネル工事により生
じた水枯れの問題等について,適切な措置を採っていると繰り返すのみで,
具体的な根拠等は何ら示していない。事業認定は,起業地内の関係人に一
定の行為制限を課す不利益処分としての性格を有するのであるから,認定
理由の公表に当たっては,いかなる事実関係を認定し,当該根拠規定に該
当すると判断したのかについて具体的に記載することが必要であるが,か
かる事項は一切記載されていない。したがって,このような告示は,土地
収用法の上記規定に反する。
(4)土地収用法20条2号適合性について
被告国と日本道路公団(現在の参加人X1株式会社)は巨額な赤字を抱え
ることからすれば,起業者らは,土地収用法20条2号の事業を遂行する能
力を有しておらず,また,次に述べるとおり,本件各事業を施行することは
更なる巨額の財政赤字を招くものであるから,本件各事業は同条4号の要件
を欠いているというべきである。
ア圏央道は総延長300キロメートルに及ぶ高速道路であるところ,本件
事業認定の申請書によると,八王子ジャンクションと海老名北インターチ
ェンジ間の全体計画27キロメートルに要する費用は工事費及び用地補償
等の合計で6247億6000万円とされている。1キロメートル当たり
231億円強を要する計算であり,これを総延長300キロメートルの圏
央道の工事費に換算すると約7兆円の費用を要することになる。また,工
事費が高額になるトンネル工事部分や今後の物価上昇等を考慮すると,総
工事費は約10兆円に上る可能性がある。
他方で,被告国は,巨額の財政赤字を抱えており,その原因は道路事業
等の不必要な公共事業への巨額な支出にある。また,日本道路公団は第4
次全国総合開発計画に基づいて全国の高速道路や有料道路を建設し,既に
巨額な負債を生み出しており,その道路建設による負債の償還が現実的に
は困難になっている。被告国や日本道路公団による高速道路や有料道路の
建設をこのまま進め,巨額な負債をこれ以上国民に負担させることを防ぐ
には,現在ある高速道路計画及び有料道路計画をすべて凍結する必要があ
る。さらに,日本道路公団など旧道路4公団(日本道路公団,首都高速道
路公団,阪神高速道路公団,本州四国連絡橋公団)は平成10年度時点で
約43兆3500億円もの巨額な負債を抱えており,その約8割を占める
約34兆9800億円が日本道路公団等による高速道路建設に伴う借入金
である。しかも,上記旧道路4公団の事業は現在でも赤字が累積する構造
となっており,更に巨額の投資をして高速道路整備を実行することは重大
な誤りである。
イ本件環境影響評価1が行われたのは昭和63年12月であるところ,そ
れ以降,圏央道の全体計画300キロメートルのうち開通したのは一部に
すぎず,圏央道の全面供用の見通しは全く立っていない。そして,既に開
通した圏央道の交通量は開通前の予測を下回り,赤字となっているととも
に,上記開通した区間に平行する一般国道16号の1日当たりの交通量は,
圏央道供用開始前に比べ目立った減少は見られていない。すなわち,圏央
道はいわゆる赤字路線であり,今後もその事業効果が上がるとは考え難い。
(5)土地収用法20条3号及び4号の要件適合性について
ア広域的視点による利益について
起業者らは,広域的な視点による利益として,①都心部の慢性的交通混
雑の緩和及び首都圏全体の交通円滑化,②近郊都市の発展への貢献(地域
間交流の拡大,産業活動の活性化)及び③首都圏全体の調和の取れた発展
(一極集中型から多極型へ)の3点を主張しているが,これらの主張は,
いずれも抽象的なものであり,かつ,次のとおり理由がない。
(ア)都心部の慢性的交通混雑の緩和及び首都圏全体の交通円滑化につい

起業者らは,圏央道が都心から約40ないし60キロメートル圏に
位置する都市を相互に連絡することにより,都心部への交通の集中を
緩和すると主張している。しかし,単に東京に集中する交通をバイパ
スして東京都心に乗り入れる交通量を減少させるための目的であるな
らば,東京都心から約40ないし60キロメートルにあるのでは余り
役に立たず,むしろ外かく環状道の方がより効果を上げることができ
るし,圏央道は,放射的性格を持つ道路と位置付けられるものであり,
そのバイパス効果は限りなく小さい。
また,平成6年度道路交通センサスを前提とすれば,東京都区部の
交通における通過交通の占める比重は5パーセントであったとされる
が,圏央道建設による交通の分散効果に関係する都心部を起点又は終
点としない交通量についての具体的な数値が示されたことはなく,抽
象的な説明にとどまっている。道路交通センサスによれば,平成6年
度の東京都区部内の交通量は459万7000台/日であったが,平
成11年度には495万5000台/日となった。これは東京都区部
における開発の結果であるが,その後も都心部では都市再生事業とし
て大規模な開発が続いている。都心部の慢性的交通混雑の緩和を図る
のであれば,道路建設によるのではなく,一極集中を促進するような
開発の抑制又は開発によって生ずる交通需要を自動車交通に依存させ
ないような方策をとらねばならない。他方で,平成32年の東京都区
部内の交通量予測を見ると,平成6年道路交通センサスに基づくもの
が541万台/日とされていたものが,平成11年道路交通センサス
に基づくものは506万台/日となっており,35万台/日も下方修
正されている。道路建設をするために交通量の過大予測がされていた
ことは歴史的事実であるが,絶対量としては,圏央道による転換効果
(理論上の最大値は,圏央道以遠に起終点を持つ東京都区部通過交通
量である4万台/日)を帳消しにする下方修正となっている。
都心部の慢性的交通混雑の緩和と首都圏全体の交通円滑化は,①地
域内,広域のバス,LRT(軽量軌道交通)を含む路線電車,環状鉄
道等の公共交通の整備,②パークアンドライド,ロードプライシング,
貨物共同配送,駐停車禁止区域の設定と厳格な執行,住宅地内への進
入禁止等によるTDM(交通需要管理),③過剰地域への局地的対策,
④自動車の共同利用(カーシェアリング),⑤歩道,自転車専用路線
の設定,バスベイの設定,交差点拡幅等の一般幹線の道路構造,交通
流の改善,⑥一般主要環状幹線の交差点の立体化,踏切りの立体化等
の様々な手法によって総合的にかつ費用効率的に対処すべき問題であ
る。
(イ)近郊都市の発展への貢献(地域間交流の拡大・産業活動の活性化)
について
本来,圏央道は,その沿道にX67,X68等の大規模な開発計画
があり,そのための道路として位置づけられていた。しかし,これら
の開発計画がいわゆるバブル崩壊後に実施されなくなったため,道路
計画を維持するために新たな理由とされたのが地域経済の活性化とい
う説明である。しかし,これらはいずれも抽象的な期待を述べるもの
にすぎず,圏央道によって具体的にどのように地域の産業活動の活性
化がなされ得るのかが具体的に説明されたことはない。地域間交流を
図るためには一般道路の方が優れており,自動車が通過するのみの自
動車専用道路はむしろ都市を分断し,破壊してしまうおそれが高い。
(ウ)首都圏全体の調和の取れた発展(一極集中型から多極型へ)につい

圏央道の建設により,首都圏全体が具体的にどのように調和の取れ
た発展がなされていくのか,その具体像は全く明らかになっておらず,
極めて抽象的な説明にとどまっている。かえって,一極集中を促進す
ることが明白な「都市再生プロジェクト」(第二次決定)の中に多極
分散型の発展を志向するとされる圏央道の建設計画が位置付けられて
いる矛盾があることからも,首都圏全体の調和の取れた発展との説明
が具体性を欠いた建設のためのスローガンにすぎないことは明らかで
ある。そもそも,道路建設により自動車交通を促進すること自体が,
大気汚染,気候変動,ヒートアイランド現象等の問題を悪化させてい
るのであり,鉄道とバスを中心とした公共交通機関の整備と交通需要
管理こそが首都圏全体の調和の取れた発展に寄与するといえる。
イ地域的な視点による利益について
起業者らは,地域的な視点による利益として,①慢性的な交通渋滞の緩
和,②交通事故の減少,③自動車保有台数の増加への対処,④市街地生活
道路の通過車両の減少,⑤地域の活性化と雇用の創出を挙げる。しかし,
これらの主張は,いずれも抽象的なものであり,かつ,次のとおり理由が
ない。
(ア)起業者らは,一般国道16号及び129号の慢性的な交通渋滞を緩
和するために,バイパスとして圏央道が有用であると主張するようで
ある。しかし,既に存在する一般国道16号八王子バイパスは有料で
あるために交通量が少ない。すなわち,一般国道16号八王子バイパ
ス開通前後の一般国道16号(又は同バイパス無料部分)の交通量は,
有料道路と既存無料道路で大きく異なっており,無料道路部分が比較
的混雑しており,混雑度2以上の地点が2か所ある(多くは1.5前
後からそれ以下となっている。)のに対し,有料部分へう回しない自
動車が多いため,有料部分の混雑度はわずか0.4ないし0.6にと
どまっている。中央自動車道と圏央道が接続された後も一般国道16
号の大型車交通量はかえって増加しており,圏央道への転換効果は認
められない。
次に,起業者らは,本件八王子南バイパスの効果として,中央自動
車道へのアクセスが容易になることを挙げるところ,八王子市内から
中央自動車道を利用する際に,さらに料金が必要な圏央道が経由され
る可能性は少ない。
また,起業者らは,α41ニュータウン及びα42ニュータウンの
発展で市街化が進んで一般国道20号が更に機能を果たせなくなるた
めに,本件八王子南バイパスが必要であるとしているが,一般国道2
0号沿線と上記ニュータウン地区は離れており,関連付けることはで
きないし,α41ニュータウン及びα42ニュータウンにおいては野
猿街道,α41ニュータウン通り,尾根幹線及び一般国道16号が地
域の幹線道路となっているため,一般国道20号の渋滞には寄与して
いない。一般国道20号には,既に八王子中心部にバイパスがあり,
一般国道20号とほぼ同じ交通量を分担している。
さらに,一般国道16号については,交通渋滞への対処からこれま
で順次拡幅工事が行われ,2車線を4ないし6車線にする事業が進め
られており,更に巨費を投じて圏央道を建設する必要はない。
なお,被告国は,圏央道八王子ジャンクションからあきる野インタ
ーチェンジまでの区間が開通した後に一般国道16号等の交通量が減
少し,渋滞が緩和されたと主張するが,これは,一般道路全体の交通
量が減少したためであり,圏央道の上記区間の開通の効果とはいえな
い。
(イ)多発する交通事故対策論について
一般論として,交通事故対策として道路建設を行うことは費用対効
果が著しく悪い。交通事故は,様々な手法を通じて総合的に対処され
るべき問題であり,圏央道の建設によって解消される種類の問題では
ないし,環状道路を整備することにより交通事故を減少する旨の被告
国の主張は実際の交通事故件数のデータからも実証されていない。ま
た,一般国道16号における交通事故は,仮に道路整備による対処が
あり得るとしても,車線の拡幅等一般国道16号自体の道路整備によ
り対処されるべき事柄であり,現にそのための整備がなされつつある。
さらに,現在問題となっている高齢者の事故の増加については,免許
制度を改善することの方が有効である。
(ウ)自動車保有台数の増加について
起業者らは,本件各事業に係る事業認定申請の際,平成11年の時
点で7146万台の自動車保有台数が平成42年には8116万台に
増加することを前提にしている。しかし,現実には,平成12年ころ
から,東京都,神奈川県及び大阪府では自動車保有台数が横ばいか減
少傾向で推移しており,更に全国の自動車保有台数は,平成19年の
7923万6095台をピークに,平成20年には7908万076
2台,平成21年には7880万0542台に減少している。したが
って,今後,巨費を投じて圏央道を開通させる必要はない。
(エ)市街地生活道路の通過車両について(安全な道路交通環境の確保の
必要性)
圏央道の建設によって,例えば八王子市内においてどの道路の交通
量が減少するのかが具体的に示されたことはない。その意味で,道路
建設による通過車両の排除は抽象的な説明にとどまっている。仮に,
一般国道16号の渋滞解消によりいずれかの生活道路の通過車両が減
少するとしても,上記のとおり,一般国道16号の渋滞が圏央道建設
以外の方法で解消され得ることから,圏央道を建設する必要性はない。
そもそも通過車両の減少には圏央道建設といった大掛かりな方法では
なく,例えば住宅地域内の速度制限,一方通行,右左折禁止等の通行
制限,バンプ(車道の隆起),シケイン(車道の蛇行)等の物理的障
害の設置といった対策による方が効果的かつ費用効率的である。
(オ)道路整備と地方経済との関係について
道路を整備すると,その道路によって接続された経済的競争力が高
い地域が競争力が低い地域の活力を吸い上げるという,いわゆるスト
ロー効果が発生する。これにより,競争力の低い地域の商店が閉店す
るなどの影響が生じ,地域経済の衰退につながる可能性が高い。した
がって,圏央道の建設により地域経済が活性化されるということはで
きない。
ウ圏央道建設による渋滞緩和効果について
被告国は,圏央道の建設により,都心部通過交通の一部が圏央道に転換
し,都心部の慢性的交通混雑の緩和と首都圏全体の交通円滑化に資すると
主張するが,その具体的内容は主張立証されていない。
東京都区内の通過交通は約29万台/日であり,そのうち圏央道の外側
に起終点を持つ交通は約4万台/日である。そして,約4万台/日のうち
圏央道にう回する割合について,起業者らは具体的数値を示していないも
のの,最大でも当面圏央道の効果のない千葉県関連の交通を除いた1万数
千台/日であると考えられる。そして,東京都区部交通量は705万台/
日であるから,台数レベルでは圏央道の外側同士の交通は東京都区部交通
量全体の約0.6パーセント(4万台/日÷705万台/日×100)に
すぎず,仮に,圏央道が上記約4万台/日をすべてう回させる効果を持つ
としても,約0.6パーセントという数値は,統計上の誤差の範囲内にと
どまるものである。現に,圏央道八王子ジャンクションからあきる野イン
ターチェンジまでの区間が開通した後も,首都高速道路の交通集中渋滞量
の減少や周辺地域における国道の交通量の変化等は見られない。
また,3環状9放射道路の1つを構成する中央環状線は間もなく全面開
通するところ,約16万5000台の交通を吸収し,首都高速道路の渋滞
の60パーセントを解消するとされており,これまで開通した区間によっ
ても,首都高速道路の渋滞解消効果が現れたとされている。また,中央環
状線の外側には外かく環状道が建設されるとともに,多摩地域には数多く
の都市計画道路の整備計画があり,圏央道よりも内側にあるこれらの都市
計画道路は圏央道よりも具体的な都心部の交通渋滞緩和効果を有している。
中央環状線や外かく環状道の環状線,南北の都市計画道路が整備されるこ
とを考えれば,圏央道建設が持つ都心部の交通渋滞緩和効果は皆無に等し
い。
さらに,首都高速道路の交通量は,圏央道を建設するまでもなく,既に
減少している。すなわち,首都高速道路(東京線)の交通量は,1日平均
で平成8年度の約88万4000台/日から,平成11年度は約85万6
000台/日,平成17年度は約83万台に減少している。また,首都高
速道路の走行量(24時間交通量に区間距離を乗じたものの合計)は,平
成11年には約1551万台キロメートルであったのに対し,平成17年
には約1422万台キロメートルに減少している。しかし,上記交通量の
減少にもかかわらず首都高速道路の渋滞は改善されていない状況にある。
この点からも圏央道の建設が交通渋滞の緩和効果に乏しいといえる。
なお,交通渋滞の緩和効果を検討するに当たっては,交通量を問題とす
べきであり,走行量を問題とすべきではない。
エ本件各事業における費用便益計算の問題点
(ア)土地収用法に基づく収用の対象となる事業については,費用便益分
析による費用便益比が1を下回る事業についてはこれを実施しないと
いうのが被告国及び国土交通省の基本方針であることなどから,かか
る事業については土地収用法20条3号,4号の要件に適合しないと
いうべきであるとともに,国土交通省は,費用便益分析を行うに当た
り,費用便益分析マニュアルを定めていることから,本件各事業に係
る費用便益分析がこれに沿って行われているか否かについて検討され
るべきである。
また,立証責任の公平な分配の見地に加え,憲法の人権規定が国民
の基本権の享有を保障するとともに,あるべき権利状態を想定してい
るものと考え,それと異なる権利状態を作出するような立証責任論は
採り得ないと考えるべきことなどからすれば,市民である原告らが損
害の発生の可能性ないしがい然性を一応立証した場合には,被告国が
損害発生の可能性ないしがい然性がないことを立証すべきである。こ
れを本件についていえば,原告らは,(イ)ないし(オ)に述べるとおり,
本件各事業に関する費用便益比が1を超えておらず,かつ,費用便益
分析が費用便益分析マニュアルに沿って行われたともいえないことに
ついて一応の立証をしているから,被告国において,本件各事業の費
用便益分析が費用便益分析マニュアルに沿って行われ,かつ,費用便
益比が1を超えることについて立証すべきである。
(イ)本件事業認定においては,圏央道の整備効果として,八王子ジャン
クションから海老名北インターチェンジ間の費用便益分析による費用
便益比は2.6とされており,起業者らからは,費用便益分析マニュ
アルに基づく計算方法と計算結果のみが示されている。その結果が1
を超えることが真実か否か,また,この費用便益分析が費用便益分析
マニュアルに従って行われたか否かを検討するためには,分析に用い
たデータや分析過程が明らかにされる必要がある。
しかし,被告国は,費用便益分析に用いた道路網(ネットワーク),
リンク(路線)ごとの交通量等のデータを保存しているにもかかわら
ずその開示を拒否している。そして,上記費用便益分析に係るデータ
が開示されないことにより,①費用便益分析の前提となる交通事故発
生件数に誤りがあること,②費用便益分析における走行時間短縮便益
と深く関連する時間価値原単位が費用便益分析マニュアルに定められ
た値と比較して過小になっているところ,道路整備による節約時間の
計算結果が過大になったことを調整するためにかかる処理がされたこ
とが疑われること,③費用便益分析の前提作業である交通量推計にお
ける交通量の配分の手法としてQV式を採用したとするのみで,その
理由やQV式により適正に配分がされたことを示すデータを開示して
いないこと,④便益が過大に見積もられていること等の疑いが解消さ
れていない。
また,国土交通省ないしその地方支分部局は,費用便益分析をコン
サルタント会社にいわゆる丸投げ的に業務委託をしており,その分析
作業が費用便益分析マニュアルに沿って適切に行われているか否かを
確認しておらず,国土交通省ないしその地方支分部局が主体となって
費用便益分析を行ったとはいえない。
(ウ)本件各事業について行われた費用便益分析には次に述べる問題点が
あり,その結果,便益が過大に算出されるか又は費用が過小に算出さ
れている。
a将来交通量の需要予測が過大に見積もられている。
b費用便益マニュアルにおいては,走行時間短縮便益は,短縮時間に
車種別の時間価値を乗じて便益を計算しているところ,その計算の基
礎になる車種別の時間価値原単位が欧米の同種基準に比べて著しく高
額に設定されている。
c建設費は計画段階の費用で計算されるところ,一般に,建設費は現
実には計画段階よりも増大することが指摘されており,圏央道八王子
ジャンクションから青梅インターチェンジ間においても,国土交通省
の費用便益計算時の工事費に比べ,工事費が増大している。国土交通
省の費用便益計算ではこの事業費の増大を全く考慮していない点で費
用を過小評価している。
d上記費用便益分析では,費用便益分析の前提となる交通量推計の対
象範囲は関東甲信越地域とされ,その対象範囲で考慮した道路網は道
路交通センサスを参考にすべての国道及び都県道と指定市の一般市道
の一部とされている。
被告国ないし国土交通省は,上記道路網の内容や交通量配分も明ら
かにしていないものの,本件事業認定後に公表された,圏央道八王子
ジャンクションからα36までの区間の事業再評価における費用便益
分析を参照すると,その対象となる地域を著しく広範囲に設定し,本
来は費用便益分析の対象とすべきでない道路(「その他道路合計11
883.1キロメートル」)における便益を算出し,便益を過大に算
出していることから,本件各事業に係る事業認定申請時の費用便益分
析においても同様の問題があるものと推測される。なお,原告らにお
いて,上記事業再評価における費用便益分析について,対象とすべき
でない道路における便益を除外して再計算をすると,費用便益比は0.
36となった。
(エ)本件各事業における費用便益分析マニュアルに基づく費用便益分析
には,(ウ)に述べたところに加え,次のような問題点ないし誤りがあ
る。厳密な社会的費用便益分析による評価,測定を行えば,圏央道は
建設を中止すべき道路事業に分類される可能性が大きいと考えられる。
a公開されているデータが不完全であるため,再評価ないし再測定が
不可能であり,第三者による検証可能性ないし再現可能性がない。
b道路プロジェクトにおいては,通行料金,ガソリン代等の表面化し
た価格のみならず,安全性,環境汚染等の市場機構において評価さ
れない価値も評価の対象としなければ正しい価値評価をすることは
できない。この価値評価をShadowPrice(潜在価格)というところ,
この潜在価格は,①走行費用(有料道路の通行料金+ガソリン代+
減価償却費等),②時間の経済価値費用,③安全の社会的費用(外
部不経済費用),④環境汚染の社会的費用(外部不経済費用)の和
から構成される。そして,本件事業認定に当たって行われた費用便
益分析においては,①及び②については考慮されているが,②につ
いては,時間の限界的経済価値,すなわち単位時間の経済価値が過
大評価されているとの問題がある。また,③については,交通事故
の減少のみが考慮されており,④については全く考慮されていない。
c上記費用便益分析の報告書においては,「整備なし」,「整備あり」
との用語を用いており,あたかもWithandWithout
ComparisonMethod(プロジェクトを実施した場合と実施しなかっ
た場合との比較方法)を用いているかのようであるが,実際には「整
備あり」の場合に,外かく環状道の完成や首都圏の交通ネットワー
ク整備を前提としており,BeforeandAfterComparison
Method(プロジェクトの前と後との比較方法)を用いている。プロ
ジェクト評価においては,経済成長や他のプロジェクト等の影響を
捨象したWithandWithoutComparisonMethodを用いるべきであり,
圏央道の区間ごとのプロジェクト評価を行う場合,その区間ごとの
プロジェクトが完成した場合のみの影響を評価,測定するよう修正
する必要がある。
dプロジェクト評価においては,ModifiedOriginState
EvaluationApproach(修正オリジン法),すなわち,あるプロジ
ェクトの評価を実施する場合に,基本的には直接的な影響を評価,
測定し,間接的な影響は直接的な影響では考慮することができない
もののみを修正するという考え方を採用するべきであるが,上記費
用便益分析においてはこの手法が採用されていない。間接的な影響
を受ける外かく環状道や首都圏の交通網まで含めているのは過大
評価であるし,そもそも間接的に影響を受けるにすぎない既存の道
路は原則として評価,測定の対象に含めるべきではない。
e上記費用便益分析においては,純便益の評価ないし測定法として,
消費者余剰の増大分を評価,測定するという方法論を選択しておら
ず,これにより便益の過大評価を行っている。
f上記費用便益分析の前提となる将来交通量の推計には,①発生集中
交通量の推計,②分布交通量の推計,③手段別交通量の推計,④配
分交通量の推計という4段階推計が用いられるべきであるが,費用
便益分析マニュアルにおいては,イ)本来の交通需要予測は,道路
交通のみならず,鉄道や船,歩行,自転車等すべての交通手段によ
る交通需要予測から道路配分交通量を予測して分析するものである
ところ,上記費用便益分析の前提である交通需要予測について自動
車OD表という,道路にかかわる指標しか考慮していないこと,ロ)
①及び②の推計が抽象的で内容が不明確であることとの問題点があ
る。
g上記費用便益分析の前提は,道路整備前と道路整備後を比較する際
に総トリップ数を同一としているが,誘発交通を考慮に入れれば,
整備によって車両の移動(トリップ)が増大する可能性があること
から,かかる前提は非科学的である。
h上記費用便益分析においては,平成42年を推計年次としているが,
かかる推計には高速道路の無料化や値下げ等の近時の動向が織り込
まれておらず,また,平成42年時点で,現在計画中の道路がすべ
て完成するとの前提に立っている点でも問題がある。したがって,
仮に将来の予測をするとしても,現在から最大でも5年後,10年
後,15年後と具体的に予測可能な期間で将来を予測すべきである。
(オ)国土交通省が用いる費用便益分析マニュアルを含めた従来の交通計
画分析の問題点を克服するために開発された分析手法であるミープラ
ンを用いて,(ウ)dで述べた圏央道八王子ジャンクションからα36ま
での区間について,国土交通省が設定した前提条件により分析を行っ
たところ,当該区間の圏央道建設前後で関東圏全体で見ると走行時間
便益は1日当たり約1264万円(年間で約46億1360万円)の
便益増加との結果となるものの,走行経費については圏央道の建設後
で1日当たり約3090万円(年間約112億7850万円)増大す
るため,走行時間便益と走行経費便益とを総合すると1日当たり約1
826万円(年間で約66億6490万円)の便益減少との結果とな
る。しかしながら,あえて上記の走行時間便益以外の数値については
国土交通省が用いた数値をそのまま利用して上記区間における費用便
益分析を行ったところ,費用便益比は0.38となる。かかる分析結
果は,本件圏央道事業の費用便益比が1を下回ることを推認させるも
のである。
(カ)以上によれば,被告国は,本件各事業に係る費用便益分析が費用便
益分析マニュアルに従ってされたことについても,また,費用便益比
が1を超えることについても立証していないから,上記費用便益分析
及び本件事業認定については,その不合理性ないし違法性が推認され,
本件各事業に公益性があるとはいえない。
オ本件各事業の施行により失われる利益について
被告国は,環境影響評価などの予測に基づいて「失われる利益」が軽微
であると主張する。しかし,(2)で述べたとおり,本件各事業の施行により
重大な損害が発生するのであり,本件各事業の施行により失われる利益に
ついては全く検討がされていないに等しい。
カ圏央道事業に関する工事の入札手続においては,予定価格に極めて近い
価格で落札がされており,談合が行われている疑いがある。本件各事業に
含まれる高尾山トンネル工事についても予定価格に極めて近い価格で落札
がされており,談合が行われている疑いがある。このように,本件各事業
は,起業者や工事業者に私的な利益を与えることを目的とするものであり,
公共性があるとはいえない。
キ以上によれば,本件各事業の事業計画は,土地の適正かつ合理的な利用
に寄与するものであるとはいえないし,また,土地を収用し,又は使用す
る公益上の必要があるものとはいえないから,土地収用法20条3号及び
4号の要件に適合しない。
(6)環境影響評価に関する手続違反等
本件各事業における環境影響評価は,次に述べる理由により東京都環境影
響評価条例に違反する。
ア環境影響評価は科学的な分析であるとともに,その本質は環境に配慮した
社会的意思決定であるから,この意思決定に住民が参画することが不可欠
であり,また,住民参加が確立するためには,十分な情報公開が必要であ
る。そして,東京都環境影響評価条例では,計画書(方法書)に対する意
見書,評価書案(準備書)の説明会や意見書提出,公聴会,見解書の作成,
説明会,意見書提出等の住民側の意見を十分反映させる手続を設けている
ところ,これらの手続を形式的に行えば足りるというものではなく,その
手続の中で十分に住民の意見を反映することが求められる。
しかし,上記各手続は,公聴会を除いてすべて起業者らが主催し,処理
する仕組みであることから,本件各環境影響評価においても住民参加の形
式を整えるためのみの手続が行われ,例えば,①説明会は1回限り,2時
間のみ実施し,そのうち1時間程度は事業者の説明を行い,参加した住民
等の質疑は1回のみで一問一答方式の質疑は認められず,終了時間になる
と多数の質問,意見が打ち切られた,②見解書の見解は評価書案(準備書)
の記載を繰り返すことが多く,質問や意見に対する適切な見解が述べられ
なかった,③住民等が要求した資料等の公開を拒み,住民側の厳しい追及
の結果,やむを得ず公開したことも度々であったなど,その運営は非民主
的であり,住民参加を実現したものとはいえないものであった。
イ本件各環境影響評価の内容には,大気汚染や騒音,景観,水質,地形な
いし地質に関する部分について,既に述べたとおり数多くの問題点があり,
有効な環境影響評価をしたとはいえない。その結果,α13城跡トンネル
における沢の水枯れ,観測孔の地下水位の低下,α13城跡(高尾山)ト
ンネル換気所の壁面のひび割れ,高尾山トンネル工事現場(南側坑口)の
沢の岩盤のひび割れ,沢の水枯れ,α38トンネルにおける崩落事故,α
39川の水枯れ等の多数の想定外の事態が発生している。
ウ新たな科学的知見に基づく再評価の必要性
(ア)本件環境影響評価1は,昭和61年,東京都環境影響評価条例及び
東京都技術指針に基づいて行われた。しかし,平成11年に環境影響
評価法が施行され,それに伴って東京都環境影響評価条例が改正され
るとともに,東京都技術指針も改正された。国土交通大臣は,本件事
業認定の時点で環境影響評価法の施行に伴い,東京都条例及び技術指
針が改正され,最新の科学的知見が変更されたことを熟知しており,
次に述べるような本件環境影響評価1の制度的及び技術的欠陥につい
ても熟知していたものであるから,国土交通大臣は,新たな技術指針
や最新の科学的知見に従って必要な再調査を行い,それに基づいて騒
音の発生予測も含めた予測及び評価を行い,環境保全の措置について
も新たな検討を行うべきである。
aα1地域等には圏央道のみならず,中央自動車道,一般国道20
号等2車線の地区幹線道路が近接して存在し,圏央道と交差あるい
は並行することになるので,これらの沿道について大気の複合汚染
及び合成騒音の予測及び評価が必要である。
b東京都技術指針においてSPMについても予測手法が提示されて
いるにもかかわらず,その予測及び評価がなされていない。また,
(2)ウ(エ)に述べたとおり,昭和63年3月の時点で環境庁によりS
PMの予測手法が示されていたことなどから,遅くとも平成14年
3月の時点では予測が可能であったというべきであり,SPMにつ
いては予測及び評価をすべきであった。
c評価の指標について
平成15年の東京都技術指針においては,評価の指標として,①
環境基準及び法令等による基準,②東京都又は区市町村が定めた計
画,要綱等の中で当該地域について設定している環境の目標,③大
部分の地域住民が日常生活において支障を感じないとされる程度,
④現況環境値,⑤類似事例,⑥低周波音に関する科学的知見及び⑦
その他の客観性を有する指標が挙げられているところ,平成11年
の東京都技術指針において挙げられていたのは,上記のうち①,②
及び⑦に相当する部分のみであった。
上記基準のうち,③の「大部分の地域住民が日常生活において支
障を感じないとされる程度」との指標は特に重要であり,環境基準
自体は満たしていても生活に支障を来すようなことがあるため,
「地域住民が日常生活において支障を感じるか否か」という視点が
加えられることになったものである。本件においては,自動車保有
台数の増加に伴う交通量の増大,走行速度の実態に即した騒音値,
大気汚染を勘案すれば,本件各事業の施行により地域住民が日常生
活において支障を感じることは容易に想像される。すなわち,圏央
道の建設予定地の沿道,特に中央自動車道沿道の住民は,中央自動
車道による大気汚染,騒音,振動等の被害を既に受けており,これ
に加え,圏央道が建設されれば,当該住民の健康,生活被害は更に
悪化し,その日常生活において支障を感じることは明らかである。
(イ)再度の環境影響評価実施義務の不履行
平成10年改正前の東京都環境影響評価条例29条は,事情変更に
よる手続の再実施を定めるところ,上記(ア)に述べた点に加え,既に
述べたとおり,本件各環境影響評価の内容に数多くの問題点があるこ
とを勘案すれば,本件各事業について,上記規定に基づいて再度の環
境影響評価を行うべきである。
他方,被告国は,本件環境影響評価1の評価書の縦覧は平成元年2
月21日に終了し,平成5年12月に工事着手がなされていることか
ら,本件各事業が同条の適用を受けることはない旨主張しているが,
本件環境影響評価1は,本件各事業の東京都分である埼玉県境の青梅
市α7から高尾山南ろくの八王子市α3町の一般国道20号線までの
間の,22.5キロメートルの広範な区域に係る都市計画についてな
されたものであり,上記区間には多様な地域特性があり,自然環境や
歴史的,文化的環境の特に豊かなα13城跡及び高尾山と他の地域と
を同視することはできない。また,工事期間も当初,平成5年12月
1日から平成13年3月31日までの7年余を要する長期間を予定し,
工事区間も細かく区分して順次着工している。このような長期間にわ
たる工事については,公示後5年以内に着工された場合でも,ある区
間が着工される前に,当該地域の状況が当該縦覧期間満了のときと比
較して著しく異なっていることにより環境の保全上必要があると認め
るときは,上記規定の趣旨に照らして,再度の環境影響評価を行うべ
きである。
また,東京都環境影響評価条例63条及び平成14年改正前の東京
都環境影響評価条例36条は,変更の届出があった事業について,当
該変更が環境に著しい影響を及ぼすおそれがあると認めるときは,東
京都環境影響評価審議会の意見を聴いた上で,手続の全部又は一部の
再実施を義務付けているところ,本件各事業においては,上記の工事
期間について,工事完了の予定時期を平成16年3月31日に変更し,
その後再び平成18年3月31日に変更し,いずれも変更の届出がな
されている。この工事期間の変更は,専らトンネル工事による水脈破
壊の結果各所に発現した地下水位の低下によるものであるが,これは
環境影響評価が不十分であったことを示すものであるから,そのまま
工事を延長したのでは環境に著しい影響を及ぼすおそれがあることが
明白であり,新たに慎重かつ適切な環境影響評価を再実施する義務が
あるというべきである。
よって,起業者らが環境影響評価を再度実施しなかったのは,平成
10年改正前の東京都環境影響評価条例29条,平成14年改正前の
東京都環境影響評価条例36条及び東京都環境影響評価条例63条に
反するものである。
(ウ)起業者らは,本件各事業に係る事業認定申請に当たり,計画交通量
を見直した結果,本件各環境影響評価の基礎となった計画交通量と比
べて本件各事業区間の計画交通量が増加していることから,本件各環
境影響評価以降に新たに得られた知見に基づき,本件各事業が環境に
及ぼす影響について補足的に照査を行ったとして,計画交通量の変更
により評価が変更される可能性のあるとされた4項目に限定して本件
各環境影響照査を行っている。
しかし,上記再予測の結果は,既に述べたとおり誤っている上に,
本件各環境影響照査における4つの選定項目についてすら,環境影響
評価として全く不十分である。起業者らは,計画交通量を見直した結
果,本件各環境影響評価の基礎となった数量より増加したことから,
本件各環境影響照査を行ったにすぎないし,本件各環境影響評価の基
礎となった関係事実ないし状況のうち,地下水脈の分断も重大な変化
であるが,その点は考慮されていない。
(エ)平成5年11月に成立した環境基本法は,実質的に環境に対する個
人の権利を認め,社会経済活動その他の活動による環境への負荷をで
きる限り低減することを目指している。次に,平成9年6月に成立し
た環境影響評価法においては,従前のような環境基準追求(達成)型
から,環境への負荷の実行可能な低減を目指すベターディシジョン型
への転換が求められるようになり,代替案の検討も必すのものとなっ
た。また,環境基本法14条は,①環境の自然的構成要素の良好な状
態の保持,②生物の多様性の確保及び自然環境の体系的保全並びに③
人と自然との豊かな触れ合いの3点の事項を確保すべきことを明言し,
これを受けて,環境影響評価法11条3項(平成11年法律第160
号による改正前のもの)及び12条2項等に基づき定められた,「環
境影響評価法第四条第九項の規定により主務大臣及び国土交通大臣が
定めるべき基準並びに同法第十一条第三項及び第十二条第二項の規定
により主務大臣が定めるべき指針に関する基本的事項」(平成9年環
境庁告示第87号)は,上記3点を確保すべく,環境影響評価の在り
方を明確に規定する。すなわち,上記告示の第2「環境影響評価項目
等選定指針に関する基本的事項」の中で,ベターディシジョン型への
転換として,「評価は,調査及び予測の結果を踏まえ,対象事業の実
施により選定項目に係る環境要素に及ぶおそれのある影響が,事業者
により実行可能な範囲内で回避され,又は低減されているものである
か否かについての事業者の見解を明らかにすることにより行うものと
する」旨定められ,影響回避ないし低減を評価基準として,影響の最
小化を目的としており,環境基準や目標は,整合性の検討としてのみ
位置づけられているのである。また,上記告示の第2の2「環境要素
の区分ごとの調査,予測及び評価の基本的な方針」として,上記①な
いし③をいずれも選定項目として明記している。
上記に述べたような環境影響評価の評価基準の変更等に照らせば,
従前の環境影響評価が仮にその時点で適切になされていたとしても,
新たな環境影響評価制度の下では,新たな見直しを求めることこそ,
環境基本法の精神にもかなうものである。そして,本件各事業のよう
に,本件事業認定時点において実際の工事区間がいまだ着工されてい
なかった場合は,当然,新たな環境影響評価制度に基づき,新選定項
目となった,②生物の多様性の確保及び自然環境の体系的保全並びに
③人と自然との豊かな触れ合いについて新たに環境影響評価を行う必
要がある。また,従前実施された①環境の自然的構成要素の良好な状
態の保持についても,ベターディシジョン型の評価を行う必要があっ
た。
以上のとおり,新しい環境保護の立法の流れは,単なる計画交通量
の相違といったものにとどまらない重大な変更であるから,新たな環
境影響評価制度に基づき,環境影響評価の再実施が必要であったのに,
起業者らはこれを怠り,限定された項目の照査にとどまったのである
から,違法といわなければならない。
エ本件各環境影響評価においては,切土,トンネル等の工事に伴い発生す
る土砂について本件各事業内の利用及び他の公共事業への利用に努めると
し,それ以外の土砂の処理については,環境への影響を十分に考慮し,関
連法規に従い適切に対処するとしている。そして,それらの評価書案に対
する見解書では,「残土の処理及び工事用車両に関して,「首都圏中央連
絡自動車道建設残土対策連絡協議会」において適切な処理を検討すること」
などとしている。
しかし,昭和63年に設立されたとされる首都圏中央連絡自動車道建設
残土対策連絡協議会は,その設立趣意書が残存しているのみで,協議会の
開催記録,協議内容等は残存しておらず,また,平成11年以降は開催さ
れていない。したがって,本件各事業により発生する土砂が本件各環境影
響評価の評価書に記載されているように適正に処理されていると考えるこ
とはできない。これらの土砂の処理について処理方法,搬出先及び搬出量
を明らかにしないままに事業認定を申請することは違法である。
(7)都市計画法違反
本件においては,都市計画法に基づく都市計画施設に関する都市計画決定
がなされ,この都市計画決定を前提として土地収用法に基づく本件事業認定
がなされたところ,本件の都市計画決定の手続には,次に述べるような違法
がある。したがって,その後続手続である本件事業認定も当然に違法となる
というべきである。
ア(ア)都道府県知事が都市計画決定を行うに当たっては,①都市計画の案
を作成するに当たり必要があると認められる場合には公聴会の開催等
住民の意見を反映させるために必要な措置を講じた上(都市計画法1
6条),②都市計画案を作成し(同),③都市計画決定につき公告の
上,この都市計画案を公告の日から2週間公衆への縦覧に供し,その
間関係市町村の住民及び利害関係人からの意見書の提出の機会を与え
(都市計画法17条),④関係市町村の意見を聴取の上,都市計画地
方審議会の議を経て(都市計画法18条),都市計画決定を行うこと
とされている。
ここで,都市計画法16条1項において公聴会の開催等住民の意見
を反映させるための必要な措置について定められているのは,都市計
画を決定しようとする場合に住民の意見を反映させるための必すの手
続としては都市計画法17条の公衆の縦覧及び意見書の提出の手続が
あるが,都市計画の案を作成する段階で更に住民の意思を反映させる
ことが望ましいためである。また,都市計画法第16条1項にいう「必
要があると認めるとき」とは,この規定が都市計画に住民の意見を反
映させるために必要な措置を講ずるためのものであり,民主主義の理
念に立脚する以上,その必要性を判断するのが都市計画決定権限を有
する都道府県知事であるとしても,その必要性は,定める都市計画の
内容に従ってある程度客観的に判断すべきものであり,圏央道建設が,
上記の「必要があると認めるとき」に当たることは明らかである。ま
た,必要があるとの判断の下に説明会を開催することとした以上は,
その説明会が形式的なものであってはならないと考えられる。
また,都市計画法18条は,都市計画を決定するに当たり,関係市
町村の意見を聴くことと定めているところ,その趣旨は,都市計画は,
都市の機能,環境及び発展の動向に大きな影響を与えるものであり,
都市の在り方を決定する重要な行政行為であることから,その策定に
当たっては基礎的な行政単位である市町村の立場が十分に尊重されな
ければならないためである。したがって,関係市町村の意見を聞くこ
とは都市計画の決定手続上極めて重要な手続であり,その意見は十分
尊重されなければならないことに照らせば,同条の規定上は,関係市
町村の意見を聴いたものの同意を得られなかった場合であっても都市
計画決定をすることが直ちに妨げられるものではないとしても,少な
くとも,例えば関係市町村の意見形成につき著しい瑕疵があり,関係
市町村の意見を聴いたとはいえないことが明らかな場合には,以後の
手続を漫然と進めることは許されないというべきである。
(イ)被告東京都は,昭和55年に東京都環境影響評価条例を制定し,被
告東京都が,同条例2条3号(ただし,平成14年条例第127号に
よる改正後は同条5号)別表に掲げる事業でその実施が環境に著しい
影響を及ぼすおそれがあるものとして東京都規則に定める要件に該当
する事業を実施しようとする場合には,東京都知事があらかじめ定め
る環境影響評価に係る技術上の指針に基づき,当該対象事業の実施が
環境に影響を及ぼす影響について調査等を行い,規則で定めるところ
により,所定の事項を記載した環境影響評価書案及びその概要を作成
し,規則で定める時期までに東京都知事に提出しなければならない(平
成10年改正前の東京都環境影響評価条例9条1項)。東京都知事は,
提出された評価書案を,「環境に影響を及ぼす地域」を管轄する市町
村長等に送付するとともに許認可権者に通知し,市町村長等の意見を
聴いた上,当該対象事業に係る関係地域を定めて評価書案の概要を公
示するとともに評価書案を縦覧に供し,審査意見書を東京都環境影響
評価審議会に諮問することとされている。事業者は,関係地域に対す
る説明会を行い,東京都知事は,都民から意見書の提出を受けるほか,
関係区市町村の意見を求め,公聴会を開催し,事業者に各意見に対す
る見解書を提出させた後,審査意見書を作成し,これを受けて事業者
が環境影響評価書を作成して東京都知事に提出する。このような市町
村長の意見聴取や説明会,公聴会の開催が設けられたのは事業の関係
住民に対する環境上の影響を重視した結果であり,これも行政計画に
対する民主的統制と位置づけることができる。
イしかし,本件における都市計画決定手続において住民の意見を反映させ
る手続は,次のとおり極めて不適切かつ不十分なものであった。
(ア)被告東京都は,昭和61年,「都市計画案及び環境影響評価書案」
を公告し,その後関係市町において説明会を行った。しかし,上記の
「都市計画案及び環境影響評価書案」は,環境への影響についての十
分な検討を経ることなく,大部分において「環境に与える影響は少な
いと考える」との記述に終始しており,また関係市町での説明会にお
いても住民に対して十分な説明はなされず,説明会は紛糾した。
(イ)昭和63年2月,東京都環境影響評価条例に定める環境影響評価書
案に係る見解書が公示されたが,この見解書の内容は環境影響評価書
案と何ら相違のないものであり,やはり住民の意見が反映されたもの
ではなかった。上記見解書の公示後,各市町においてその説明会が開
催されたが,この説明会も紛糾し,説明会は深夜にまで及び,更に継
続となることもあった。
(ウ)東京都環境影響評価審議会は,昭和63年11月1日,上記「都市
計画案及び環境影響評価書案」に対し,計画に疑問を有する住民の提
起した疑問点をほぼ受け入れ,大気汚染,植物及び動物への影響,地
形及び地質,残土等57項目の改善点を指摘した答申を提出した。
(エ)八王子都市計画地方審議会は,昭和63年12月20日,本件各事
業について審議を行ったところ,審議の途中で委員の一人から質疑打
切りの動議が提出され,同動議が可決された。そこで,同審議会長は
質疑を終了させ,八王子市都市計画道路の変更の採決を行った。そし
て,採決は賛成6,反対6の可否同数であったところ,審議会長は賛
成票,反対票を議場で数えることなく,あらかじめ用意したメモを読
み上げ,賛成多数で可決された旨宣言して閉会した。同審議会長は,
その後の記者会見で可否同数であったことを認めた上,自らの票を賛
成票に加えたために可決されたなどと述べた。
(オ)八王子市長は,昭和63年12月22日に東京都知事に意見を提出
し,同月23日,環境影響評価書が提出されて東京都都市計画地方審
議会が開催された。しかし,同審議会は,八王子都市計画地方審議会
の議決の瑕疵を勘案せずに審議を行い,議決をした。
ウ上記に述べたとおり,本件の都市計画決定は,関係住民に対する説明が
不十分なまま,また東京都環境影響評価審議会から多くの改善点を指摘す
る答申がされていたにもかかわらず,住民らの反対を無視する形で強行さ
れたものであった。都市計画の案を作成するに当たって住民の意見を反映
させるための必要な措置を講ずることは必すの手続ではないとしても,都
市計画に住民の意見を反映させるために都市計画決定の権限を有する都道
府県知事が,必要であると認めてあえて説明会を開催した以上,およそ説
明会を行えばよいものと考えるべきではなく,住民がその内容を十分把握
した上で,公開の場での意見陳述を行うための場となるよう十分留意すべ
きである。しかし,そのような留意は何らなされておらず,制度の趣旨に
沿った説明会の開催はなかった。かかる説明会の開催状況は,都市計画法
16条の趣旨に反する。
また,昭和63年12月の八王子都市計画地方審議会は,審議途中で半
ば強引に審議が打ち切られた上,その採決の結果は可否同数であり,会長
が議場で可否を決していないことが明らかであるから,同審議会の採決は
成立していない。そして,都市計画法18条は,都市計画決定に当たって
の関係市町村の意見聴取については市の都市計画地方審議会の議を経るべ
きこととはしていないものの,関係市町村の意見を聴くことは都市計画の
決定手続のうち極めて重要な手続であり,その意見は十分尊重されなけれ
ばならない。八王子市都市計画地方審議会は,市長の諮問に応じ,都市計
画について市が提出する意見に関することについて審議するものとされて
いることからすれば,八王子市長が都市計画決定について東京都知事に意
見を提出するに当たっては,八王子市都市計画地方審議会の議を経ること
が当然に予定されていた。その観点からも,昭和63年12月21日の段
階では,本件の都市計画についての八王子市の意見は形成されていなかっ
たものというべきである。この点,都市計画法18条には「関係市町村の
意見を聞き」と定められている以上,関係市町村の意見が都市計画決定そ
のものの要件ではないとしても,都市計画地方審議会は,少なくとも関係
市町村の意見の有無及び内容について正確に把握した上で審議しなければ
ならないと解される。
都市計画法上,都市計画地方審議会の議を経ることは,都市計画決定の
要件とされているところ,上記の経過に照らせば,八王子市長が賛成の意
見を提出したことを前提として審議された東京都都市計画地方審議会の意
思形成の過程には重大な瑕疵があったというべきであり,その瑕疵を帯び
た東京都都市計画地方審議会の賛成の答申を受けた東京都知事による都市
計画決定は,都市計画法18条に反するものであり,違法である。
(8)自然公園法違反等
ア高尾山は昭和42年12月にX70国定公園に指定されたが,この指定
の趣旨は「明治100年を記念し,主として自然環境に恵まれない大都市
住民に対し森林の保護育成を図りながら,自然と親しめる野外レクリエー
ションの場を造成し,提供するもの」というところにある。
イ(ア)生物の多様性に関する条約8条(a)は,保護地域における多様性保
全のための制度の確立を要求している。そして,従前,環境省(庁)
の実務において行われていたことで,生物多様性保全のために有効な
行為,慣行などは,確立された制度として,同条約8条(a)によって
条約上の義務履行の一つとして直接に条約の目的を実現する手段,制
度と認められなければならないところ,その一つとして,いわゆるX
47談話がある。
(イ)X47談話は,昭和48年10月19日,X72国立公園を縦断す
る「X73線」の公園計画の決定について,環境庁長官から諮問を受
けて協議していた環境庁自然環境保全審議会が環境庁長官に答申しよ
うとした前日に,上記道路建設の事業主体であった北海道開発局が道
路計画を断念し,環境庁に対する協議を取り下げたため,同審議会が
準備していた答申が公表されないことを考慮し,同審議会会長が,答
申の内容を談話の形式で発表したものであり,その内容は次のとおり
である。
「今後国立公園等における道路の新設については,慎重でなければな
らないばかりでなく,過剰利用の抑制と健全な利用の促進の見地か
ら,場合によっては既存の道路においても自動車交通の規制を検討
する必要もあると考えられる現在において,原則として公園利用の
観点とか経済的,社会的観点等から,その道路が是非必要であり,
他にこれに代わる適切な手段が見いだせないことが前提とされなけ
ればならない。
さらに,その場合においても,事前に当該地域の自然環境につい
て,地形,地質,気象,動植物等の科学的調査を行い,
①原始的自然環境を保持している地域
②亜高山帯,高山帯,急傾斜地,崩壊しやすい地形・地質の地域
等緑化復元の困難な地域
③希少な野生動植物,昆虫等の生息,生息又は繁殖している地域
④優れた景観を保持している地域
など道路建設に伴う人為的要因が,大きな自然環境の破壊の誘因と
なるおそれのある地域は,あらかじめ慎重に避けるよう配慮される
べきであるとともに計画,設計,施行等の各段階を通じて,自然環
境に対する影響が最小限度にとどまるような,あらゆる考慮を払う
べきである。」
X47談話は,単なる談話としてではなく,公園内の道路建設を拘
束してきたものであり,自然公園内における道路建設に関する,生物
の多様性に関する条約8条(a)にいう確立された制度の一つといえる。
したがって,X47談話は,法規そのものではないが,事業認定権者
である国土交通大臣の裁量の幅を実質的に制限するものである。
(ウ)高尾山にはイヌブナ,ブナ,イロハモミジ,オオモミジ,アサダ,
ヨグソミネバリ,ウワミズザクラ,フサザクラ等の樹木が存在すると
ころ,このような森は本来なら海抜800メートルから1600メー
トルの山地帯に現れる森林であり,高尾山のような海抜600メート
ルに満たない山に存在すること自体まれである。このような森林の形
成には16世紀から19世紀の小氷期が関係していたと考えられてい
るのであって,現在では復元不可能であるから,X47談話にいう「②
亜高山帯,高山帯,急傾斜地,崩壊しやすい地形・地質の地域等緑化
復元の困難な地域」に当たる。なお,X47談話の②は「緑化復元の
困難な地域」とのみ記載しているが,国及び地方公共団体の責務とし
て,自然公園における生物の多様性の確保を旨として,自然公園の風
景の保護に関する施策を講ずることを定める自然公園法3条2項の趣
旨からするならば,「緑化復元」とは,植物であれば「従来生育して
いた種と同種による緑化復元」と解するべきである。
また,X70国定公園において,自然公園法の指定植物のうち希少
種を指定理由とするものは65種存在するのであり,高尾山がX47
談話の「③希少な野生動植物,昆虫等の生息,生息又は繁殖している
地域」に該当することは明らかである。
さらに,高尾山には日本の植物の垂直分布帯が凝縮された形で存在
しており,このことは自然景観の点でも極めて優れた景観を保持して
いるから,X47談話の「④優れた景観を保持している地域」に該当
する。
したがって,本件事業認定は,国定公園の緑化復元の困難さ,希少
な植物の保護,優れた景観についての配慮を欠いた点で裁量権の範囲
を逸脱し,又はこれを濫用したものであるから,取り消されるべきで
ある。
ウ自然公園法13条3項は,同法に定める国定公園の特別地域に工作物を
設置するには許可を受けることを要する旨定めるとともに,同条4項は,
上記行為が環境省令で定める基準に適合しない行為は許可してはならない
旨を定め,これを受けた同法施行規則11条1項(平成17年環境省令8
号による改正前のもの。以下同じ。)は,その基準を定めている。また,
同法施行規則10条3項は,本件のような道路建設に当たっては,許可申
請書に①当該行為の場所及びその周辺の植生,動物相その他の風致又は景
観の状況並びに特質,②当該行為により得られる自然的,社会経済的な効
用,③当該行為が風致又は景観に及ぼす影響の予測及び当該影響を軽減す
るための措置,④当該行為の施行方法に代替する施行方法により当該行為
の目的を達成し得る場合にあっては,当該行為の施行方法及び当該方法に
代替する施行方法を風致又は景観の保護の観点から比較した結果を記載す
るものと定めている。
ところで,被告国が行う行為については,例外的に上記許可は必要とせ
ず都道府県知事と協議しなければならないと定めている(自然公園法56
条1項)。自然公園法がかかる協議を要求している趣旨は,これにより自
然公園の中でも特に重要な地域(コア地域)の自然環境,景観を保全する
ことにあるのであって,国定公園の自然環境に悪影響が出るおそれについ
て検討するためである。したがって,事業者である被告国の機関に対し,
その判断に必要な資料等の提出を求め,上記自然公園法施行規則10条3
項に記載された各項目について十分に議論した上で慎重に判断すべきこと
が要求されている。さらに上記判断をするに当たっては国定公園指定の際
の「高尾国定公園(仮称)公園区域案及び公園計画案」の趣旨等を考慮す
べきである。
しかし,東京都知事は,高尾山トンネル工事の影響について次のとおり,
自然公園法施行規則11条1項各号に定められた事項を十分に検討するこ
となく,形式的に同意しており,この一連の手続は実質的に自然公園法5
6条1項に違反する。
(ア)国土交通省から提出された協議の図面に不整合な部分があるにもか
かわらず被告東京都はこれを見落としたままであったこと
(イ)高尾山トンネル掘削に当たって国土交通省が行った水平ボーリング
コアが提出されないままで影響がない旨判断していること
(ウ)高尾山トンネル工事を施工するに当たって,α13城跡トンネルの
実績を踏まえて行うとしているところ,国土交通省は,α13城跡ト
ンネル関係の資料を全く提出していないこと
(エ)被告東京都は「当該車道の設置以外の方法による代替はない」と結
論付けているところ,代替案の検討がなされた形跡もなければ資料添
付もないこと
(オ)本件各事業により設置される巨大な人工物であるトンネルやジャン
クションが高尾山の景観ないし自然風景と親和性を認めることができ
ないことは明らかであるにもかかわらず,景観破壊について形式的な
判断がされていること
第2収用裁決取消しについて
1被告東京都の主張
(1)本案前の主張1
ア明渡裁決があったときは,当該土地又は当該土地にある物件を占有して
いる者は,明渡裁決において定められた明渡しの期限までに,起業者に土
地若しくは物件を引き渡し,又は物件を移転しなければならない義務を負
うところ(土地収用法102条),明渡裁決の取消しを求める原告適格を
有する者は,当該裁決の対象となった土地又は当該土地にある物件を占有
している者と解すべきである。そして,明渡裁決の対象となる土地の明
渡しが完了した場合は,明渡裁決はその目的を達し,もはや所有者等が
その裁決により何らかの義務を負うことはなく,所有者等が明渡しにつ
いての原状回復を求めるためには,権利取得裁決を争い,その取消しを
求めれば足りるから,明渡裁決の取消しを求める訴えの利益は消滅する
というべきである。なお,明渡裁決が取り消されても当然に占有ないし
占有権原が回復するものではない。
イ本件各土地についての明渡状況は下記のとおりである。
(ア)本件裁決1に係る明渡裁決(以下「本件明渡裁決1」といい,本件
裁決2ないし本件裁決5のうち各明渡裁決を「本件明渡裁決2」ない
し「本件明渡裁決5」といい,本件明渡裁決1ないし本件明渡裁決5
を併せて「本件各明渡裁決」という。)の明渡しの期限は,平成20
年3月25日であったところ,本件土地1ないし本件土地3について
は,既に起業者らがさくを設置するなどして,必要な明渡しは終了し
ている。
したがって,別紙第3事件原告目録2記載の各原告並びに同原告目
録3の各原告のうち原告X2,原告X3,原告X4,原告X5,原告
X6,原告X7,原告X8,原告X9,原告X10及び原告X11に
は,本件明渡裁決1の取消しを求める訴えの利益がない。
(イ)本件明渡裁決2の明渡しの期限は,平成20年2月25日であった
ところ,本件土地4については,既に起業者らがさくを設置するなど
して,必要な明渡しは終了している。
したがって,原告X35には,本件明渡裁決2の取消しを求める訴
えの利益がない。
(ウ)本件明渡裁決3の明渡しの期限は,平成20年3月25日であった
ところ,本件土地5については,既に起業者らがさくを設置するなど
して,必要な明渡しは終了している。
したがって,別紙第3事件原告目録1記載の各原告のうち同目録「所
有権東京都八王子市」欄に「α2町×××番2」と記載された各原
告には,本件明渡裁決3の取消しを求める訴えの利益がない。
(エ)本件明渡裁決4に係る物件(立木)は,平成20年11月9日に撤
去され,明渡しが終了しているから,別紙第3事件原告目録1のうち
同目録「所有権東京都八王子市」欄に「α3町△番」と記載された
各原告には,本件明渡裁決4の取消しを求める訴えの利益がない。
(2)本案前の主張2
ア別紙第3事件原告目録1記載の各原告のうち同目録「所有権東京都八
王子市」欄に「α2町×××番2」と記載された各原告(ただし,原告X
48,原告X49及び原告X50を除く。)は,本件裁決4の対象土地に
含まれる△番の土地の共有者ではなく,同裁決の名あて人ではないものの,
同土地上の立て看板の共有者であったと主張して,本件裁決4の取消しを
主張している者らである。しかし,上記原告らが本件裁決4の取消しを求
める根拠とする立て看板は,△番の土地上には存在せず,本件裁決5によ
って収用された土地の区域内に設置されていた。また,本件裁決4は,△
番の土地の境界については不明としたことから,土地の区域について図面
を添付の上明示しているところ,この区域内に上記原告らの立て看板は設
置されていないから,本件裁決4により上記原告らの立て看板が撤去を求
められることはない。よって,上記原告らは,本件裁決4によって,何ら
法律上の利益を侵害されておらず,本件裁決4の取消しを求める法律上の
利益がないから,本件裁決4の取消しを求める訴えについて原告適格を欠
く。
イ別紙第3事件原告目録3記載の各原告のうち,同目録「立木・物件東
京都八王子市」欄に「α3町△番内立看板」と記載された各原告は,本件
裁決5の対象土地である本件土地7の所有者ではなく,本件裁決5の権利
取得裁決の名あて人ではないものの,本件裁決5の対象土地である本件土
地7上の立て看板を共有していた者である。上記原告らは,本件裁決5の
うち権利取得裁決の取消しを求める根拠として,上記立て看板が存在する
土地は,本来△番の土地に含まれており,△番の土地の土地の所有者の同
意の下に権限に基づいて立て看板を設置している旨主張している。しかし,
上記立て看板は,△番の土地上にはなく,本件土地7上にあるから,上記
原告らの主張は前提を欠く。また,本件裁決5は,上記原告らの立て看板
を権利取得裁決の対象としておらず,上記原告らは,本件裁決5のうちの
権利取得裁決の名あて人となっていないことから,本件裁決5のうちの権
利取得裁決によって,何ら法律上の利益を侵害されておらず,本件裁決5
のうち権利取得裁決の取消しを求める法律上の利益がないから,本件裁決
5のうち権利取得裁決の取消しを求める訴えについて原告適格を欠く。
また,本件明渡裁決5については,平成20年11月9日に上記立て看
板の撤去が終了しているから,(1)アで述べたとおり,上記原告らは,本件
明渡裁決5の取消しを求める訴えの利益がない。
なお,本件土地7については,八王子市α3町△△△番6の土地(以下
「△△△番6の土地」という。)の一部として,被告東京都を土地所有者,
上記原告らを物件所有者として裁決申請及び明渡裁決の申立てがされ,そ
の後に収用部分である本件土地7が分筆されたものである。△△△番6の
土地は,東京法務局八王子支局(以下「八王子登記所」という。)に備え
付けられた地図に準ずる図面(以下「公図」という。)によれば,旧国道
の廃道敷部分に地番が付され,地目は公衆用道路となっている。△△△番
6の土地は,平成17年9月12日に保存登記がされ,地積測量図も八王
子登記所に備えられている。
(3)本件事業認定の違法性の承継について
ア起業者は,事業認定の告示があった日から1年以内に限り,収用裁決の
申請をすることができるとされ(土地収用法39条1項),起業者が提出
すべき裁決申請書には,事業計画書並びに起業地及び事業計画を表示する
図面の添付が義務付けられ(土地収用法40条1項1号),収用委員会は,
申請に係る事業が告示された事業と異なるか,又は申請に係る事業計画が
事業認定申請書に添付された事業計画書に記載された計画と著しく異なる
かについて審査する権限を有するが,事業認定についての審査はその限度
に限られており(土地収用法47条),収用委員会は,裁決に当たって事
業認定の適法性について審理する権限がなく,事業の認定に瑕疵があると
判断した場合でも,土地収用法47条に該当する場合以外は収用又は使用
の裁決をしなければならない(土地収用法47条の2第1項)。このよう
な規定にかんがみれば,収用裁決は,事業認定の有効な存在がその適法要
件とされているのであって,事業認定の適法な存在までは求められていな
いと解される。
イ事業認定は,それによって直接国民の権利義務を形成し又はその範囲を
確定することが法律上認められる行政処分であるから,行政不服審査法に
よる不服申立てができるとともに,これに対する抗告訴訟を提起し,先行
する事業認定について,取消訴訟においてその違法性を争うことができ,
かつ,土地収用法上,事業認定がされたときはその旨の告示がされる上,
起業地表示図の縦覧,補償等の周知措置等の諸制度が設けられているため,
土地所有者及び関係人は,事業認定について迅速かつ確実にその事実を知
り得る機会を与えられており,事業認定に違法がある場合には,取消訴訟
を提起することが容易である。
また,平成13年法律第103号による土地収用法の改正においては,
起業者が事業の認定を受けようとするときは事前の事業説明会を土地所有
者等に通知した上でこれを開催することを義務付け(土地収用法15条の
14,土地収用法施行規則1条の2),事業認定について利害関係を有す
る者からの請求があったときには事業認定庁に公聴会の開催を義務付け
(土地収用法23条),事業について反対の意見書があったとき等の場合
に事業認定庁に第三者機関からの意見聴取を義務付け(土地収用法25条
の2),事業認定の理由の公表を義務付ける(土地収用法26条)などの
改正が行われ,事業認定に関する手続の整備がされている。
さらに,上記改正では,収用裁決手続においては事業認定に対する不服
に関する事項等収用委員会の審理と関係がないことを主張できないことが
法律上明確に定められた(土地収用法63条3項)ことから,土地所有者
等にとって,事業認定についての争いは当該認定手続の段階で争うべきこ
とがより一層明確になったといえる。
以上のとおり,事業認定に関する争訟手段としては,これに対する取消
訴訟を提起することができるのであって,上記改正の内容に照らしても,
違法性の承継を認めなければ土地所有者及び関係人の権利の保護に不十分
であるとはいえない。むしろ,違法性の承継を当然に認めることは,出訴
期間の制限の下で行政処分の違法性を争うことを認めた行政事件訴訟法の
趣旨に反するものである。
ウよって,本件事業認定についての瑕疵の有無は,それが重大かつ明白な
瑕疵があって当然に無効と解されない限り,事業認定の取消訴訟において
審理判断されるべき事柄であって,収用裁決の取消訴訟においてこれを審
理判断することは許されないというべきである。
(4)本件各裁決の手続に係る違法性について
ア土地収用法は,収用委員会の判断には多様な知識と経験を必要とするこ
とを踏まえて,衆知を集めて公平,妥当,確実な判断を行うことのできる
合議制の機関として収用委員会を構成するとともに,土地収用法52条3
項は,委員及び予備委員は,法律,経済又は行政に関して優れた経験と知
識を有する者のうちから選任するとしており,法律及び行政等の職歴を有
する者の収用委員への任命を予定している。その上で,土地収用法は,都
道府県知事による収用委員会の委員の公正な選任を担保するため,住民代
表である都道府県議会の同意を要件としているところ(土地収用法52条
3項),東京都収用委員会の会長及び同会長代理は,東京都議会の同意の
上で選任されており,その選任手続は土地収用法52条3項に違反しない。
また,土地収用法52条4項は,過去の職歴について規定したものでは
なく,地方公共団体の議員及び長のほか,現職の常勤職員及び短時間勤務
職員との兼職の禁止を定めるものである。収用委員会の委員については,
同条3項に規定するように,むしろ行政等の経験知識を前提にしており,
東京都収用委員会の会長及び同会長代理の両名とも土地収用法52条4項
の規定に該当しない。
なお,原告らは,東京都収用委員会の会長が国土交通省が設置した検討
会に参加したことを問題とするが,国土交通省が,法律の所管官庁として
の立場で,その所管する法律について検討するために設置した上記検討会
に,収用手続の実務を担う者として参加し,意見を述べることはより良い
法律が制定される上で望ましいことであり,かかる検討会に参加したこと
のみをもって,土地収用法52条3項に違反することにはならない。また,
原告らは,東京都収用委員会の会長代理が圏央道の都市計画に関与してい
るとして,公正な審理が期待できない旨主張するが,収用委員会は,損失
補償に関する専門機関であり,事業認定について判断権限を有するもので
はない。
イ(ア)収用委員会は,土地収用法46条2項の規定によって審理の期日を
指定する権限を与えられており,本件においても,遅滞なく審理を進
めるために,出席人数を想定するとともに,審理の進行状況,審問の
内容などを総合的に勘案して,適切に審理期日を指定したものである。
そもそも,収用委員会が審理期日を指定するに当たって,権利者,関
係人等と日程を協議すべき旨を定めた法令はなく,期日を指定するに
際してあらかじめ土地所有者らとの間で協議をすることを義務付けら
れているものでもないと解されており,本件のように権利者が実数で
500人を超える多人数の事件では,そのすべての権利者と協議の上
で審理期日を決定することは極めて困難である。東京都収用委員会は,
そのような状況においても,権利者の利便を考慮し,第1回及び第2
回審理を八王子市芸術文化会館及び八王子市民会館において開催する
とともに,各回の審理において今後行う審理期日を複数日提示の上,
期日を選択できる機会を与えるなどし,原告らを含む本件権利者らの
利便について,十分な配慮をしている。以上のように,東京都収用委
員会は,適法かつ適正に審理期日を設定したものである。
(イ)原告らは,審理日程の一方的設定は,土地収用法136条及び弁護
士法3条に反する旨主張するが,弁護士法3条は,弁護士の職務を規
定するものであり,土地収用法136条は,代理人の指定又は代理人
としての資格に関するものにとどまるのであって,審理期日の指定と
は関連がない。また,原告らは,代理人である弁護士(以下「弁護士
代理人」という。)の本件審理期日への出席,意見陳述の機会が奪わ
れた旨主張するが,本件の権利者らにおいては,弁護士代理人に委任
をしていない者も多数あり,弁護士代理人との協議により審理期日を
指定し得るものでもなく,かつ,弁護士代理人は複数選任されており,
弁護士代理人間で審理期日に出頭する者を調整することによって,そ
の出席は可能であると認められ,現に本件審理の各期日において,複
数の弁護士代理人が出席していた。したがって,東京都収用委員会が
行った審理の期日指定により,弁護士代理人の出席又は意見陳述の機
会が奪われたことにはならない。
ウ本件審理において本件事業認定の違法性等に関する意見陳述は認められ
ない(土地収用法63条3項)のであるから,この点についての意見陳述
をすることができなかったとしても,本件各裁決の違法事由とはならない。
また,東京都収用委員会は,本件各裁決の対象となる権利者らのうち,
発言内容を明らかにした上で発言を希望するすべての権利者に対し発言の
機会を与えており,各回の審理においては審理時間を延長するなど,可能
な限り意見聴取に努めており,原告らの損失補償に関する事項に係る意見
陳述の機会は与えられていたから,本件審理を一方的に終結したというこ
とはできないし,終結後も更に追加する意見がある者について意見書の提
出を認めている。他方,原告ら権利者は,本件審理において,意見陳述の
機会が与えられたにもかかわらず,法的に何らの根拠のない事由に基づき
東京都収用委員会の会長及び会長代理の辞任を求める発言を続け,あるい
は,事業についての不服について意見を述べ,損失の補償について発言を
せず,発言の先延ばしを図って当日の発言を拒否するなど,東京都収用委
員会の会長の指揮に従わなかった。そのため,自ら損失の補償等に関する
発言の機会を放棄したとみなさざるを得ない事態も生じていた。このよう
に,原告らが自らの意思で上記の機会を適正に活用しなかったのであるか
ら,本件審理の終結に違法性はない。原告らは,本件審理において原告ら
権利者の発言を打ち切った旨主張するが,これは,原告らが,上記のとお
り,原告ら権利者が東京都収用委員会の会長及び会長代理に辞任を求める
など本件審理の対象でない事項に係る発言や同会長の許可を受けないで発
言をした場合に,審理進行のために発言を制止し,それにもかかわらず原
告ら権利者がその指示に従わず発言を続けようとしたため,やむを得ずマ
イクの電源を切るなどの措置を採ったにすぎないのであって,適正な審理
指揮である。
なお,審理は,収用委員会が当事者の意見を聴取するためのものであり,
会長が釈明を行うためのものではないし,本件において,東京都収用委員
会の会長を含む委員の構成に違法性はないから,同会長や同会長代理の適
格性に係る原告らの意見に対して説明をしないことをもって,本件審理の
手続に違法があるということはできない。
(5)本件各裁決の内容に関する違法性について
ア本件においては,土地収用法47条に定める事由はないから,本件各裁
決は実体的要件に適合している。
イ収用の対象となる土地についてその境界に争いがあり,境界が特定でき
ないときには,争いのある部分について,その所有者を確定できないこと
になるところ,土地収用法48条4項ただし書に定める「土地所有者又は
関係人の氏名又は住所を確知することができない」場合に該当するものと
解され,いわゆる不明裁決をすることが予定されている。そして,収用す
る土地の区域内の各土地の境界を明示することも,区域の特定のためには
必要ないと解されている。
また,収用委員会は,争いのある私法上の権利関係を確定する権限を有
する司法機関ではないし,収用手続はこのような権利関係を確定すること
を目的としたものでもないから,権利関係の究明にいたずらに時間と手数
をかけ,裁決の遅延を来すようなことは適当でないと解される一方で,収
用委員会は,裁決の対象となる土地等について権利関係の争いがあるから
といって直ちに不明裁決をしてよいものではなく,収用委員会は,自己の
責任において,事実関係の把握をした上で,法令及び確立された判例,通
説に基づく法律判断を行わなければならないと解される。
ウ本件裁決3について
(ア)起業者は,土地収用法26条1項に基づく事業の認定の告示があっ
た後,土地調書及び物件調書(以下,両者を併せて「調書」と総称す
ることもある。)を作成することとされ(土地収用法36条1項),
その作成のために,土地収用法35条1項は,起業者に,土地に立ち
入り,これを測量することを認めている。この調書の作成に当たって
は,同条2項で占有者へ通知しなくてはならないとの定めはあるが,
権利者の立会いは必ずしも必要ではなく,起業者が独自に所要の測量
調査をすれば足りるものである。
また,土地収用法36条2項に定める立会いは,起業者において調
書をあらかじめ用意し,これを権利者に現実に提示し,記載事項の内
容を周知させれば足りるのであって,上記調書を作成する過程そのも
のに立ち会わせることが求められているものではない。
さらに,本件土地5に係る収用について,起業者らは,土地収用法
36条の2により土地調書の作成を行っているところ,この場合,土
地収用法36条2項ないし6項までの手続に代えて,起業者らは,自
ら土地調書に署名押印した上で,収用しようとする土地が所在する市
町村の長に対し,土地調書の写しを添付した申出書を提出し,市町村
長は,このことを公告した後,1か月間その書類を縦覧に供する。公
告に係る土地調書に記載のある土地所有者は,その調書の記載事項が
真実でない旨の異議があるときは,縦覧期間内に起業者に対し異議申
出書を提出することができる旨定められている。したがって,本件土
地5に係る調書の作成においては土地収用法36条2項の適用がない。
そして,原告らが問題とする,本件土地5の北側に隣接する水路の
境界確定手続は,土地収用法に定める手続ではないから,その手続い
かんによって,本件収用裁決の手続が違法となるものではない。
(イ)原告らは,本件土地5の収用に係る土地調書において特定された本
件土地5の北側境界線の北側に,本件土地5の一部であるはずの土地
がはみ出している旨主張するが,当該区域は本件裁決3に係る申請の
範囲外の区域であり,本件土地5の周辺に旧×××番の土地が存在し
ていることをもって,本件裁決3が違法であるとはいえない。
また,原告らは,本来水路である部分が本件土地5の範囲に含まれ
ている旨主張する。しかし,原告らの主張は,要するに本件裁決3の
対象となった区域の土地の所有者として,原告ら以外にも,水路の所
有者である被告国も含まれていたとするものであって,仮に,原告ら
の主張を前提としても,本件裁決3により,原告らは何らの不利益も
受けない。したがって,かかる事実を本件裁決3の違法事由の根拠と
して主張することはできない。
(ウ)東京都収用委員会は,本件土地5の境界について,次の理由に照ら
し,起業者らの本件土地5の土地の境界の特定は妥当であると判断し
たものである。その上で,起業者らから申請のあった土地の区域につ
いて,原告らの所有であることを原告らの代理人である弁護士から提
出のあった意見書において確認した上で裁決をしたものであるから,
裁決の対象となった土地所有者に誤りはない。
a公図によれば旧×××番の土地の北側には水路が存在し,これは
現地において確認することができた。
b八王子登記所には,旧×××番の土地の地積測量図はなかったも
のの,同登記所に備えられている八王子市α2町△△番19,同番
20及び同番21の土地(以下「△△番19の土地」,「△△番2
0の土地」及び「△△番21の土地」といい,これら3筆の土地を
併せて「南側隣接地」という。)の地積測量図の北側境界線には,
旧×××番の土地の東西の位置を示す引き出し線状の記載があるこ
とを確認した。南側隣接地の地積測量図には座標値の記載はないも
のの,その南側境界線の形状は,尾根の形状とほぼ整合している。
c八王子登記所における調査によると,南側隣接地は,昭和45年
の分筆前の八王子市α2町△△番の土地(以下「旧△△番の土地」と
いう。)の一部であった土地である。旧△△番の土地は,八王子市
が所有していた土地であり,昭和45年11月に八王子市α2町△
△番3から同番12までに分筆がされ,その後更に同番8から分筆
がされ,南側隣接地の各土地となったものである。
d起業者らが境界特定の根拠とした既存の境界くいは,いずれも尾
根に沿って設置されており,そのうち,石くい及びコンクリートく
いについては,隣接する無地番の土地を所管する林野庁が管理する
区域を示す境界くいであった。
eα2町の公図によれば,旧△△番の土地は,北側で無地番の土地
と接し,水路を囲むような形状の土地である。
f起業者らの特定した旧×××番の土地の境界を前提に,本件土地
5について分筆登記が行われ,座標値が記載された地積測量図が八
王子登記所に備えられている。
エ本件裁決4について
(ア)起業者らは,後記2(2)ウのとおり△番の土地が存在し得ると考えら
れる範囲を特定した上,土地の区域として申請した。これに対し,東
京都収用委員会は,△番の土地の特定について次のとおり認定した。
a△番の土地は,登記簿及び公図によれば,八王子市α3町△△△
番4及び同番7の土地の近隣で周囲を無番地の土地に囲まれた登記
簿上の面積39平方メートルの土地である。
b八王子登記所には,△番の土地の地積測量図はないが,周辺の土
地である八王子市α3町△△△番2及び同番4ないし同番9までの
土地の地積測量図が備えられている。
c△番の土地の西側には一級河川であるα28川,東側には旧国道
の廃道敷があり,これらの現況は現地で確認することができた。
d八王子市α3町△△△番4及び同番5の土地は,財務省及び被告
東京都の嘱託により保存登記が行われた後,占有者であるX42に
所有権移転登記が行われ,その後に同人から起業者に所有権移転登
記が行われている。
e東京都南多摩西部建設事務所に常備されている旧甲州街道の実測
図によれば,△番の土地の東側の旧国道の廃道敷が現況とともに表
示されており,これによれば,幅員が約8メートルであることが確
認することができた。
f土地所有者らの主張する△番の土地の面積は,提出された図面に
よれば900平方メートルを超えている。
g八王子市α3町△△△番2の土地については,平成13年9月1
2日に被告東京都により境界査定がされているが,△番の土地所有
者らから提出された図面によると,その一部を△番の土地の一部と
している。
(イ)東京都収用委員会は,(ア)を前提に,△番の土地に係る公図は,正
確な位置,面積を示すものとはいえないとしても,周辺の土地の配置
等から,おおむねの位置及び形状については参考にできると認められ,
他に資料もないことから,公図及び周辺の土地の地積測量図等を参考
とし,△番の土地の存在し得る範囲について申請を行った起業者らの
特定方法を妥当と判断し,△番の土地の境界については不明としたも
のである。
他方,△番の土地の権利者らからは,△番の土地は,本件土地7も
含め更に広い土地であるとの主張がされた。しかし,△番の土地の登
記簿面積との比較や,本件土地7の土地については,△△△番6の土
地について,八王子登記所において保存登記が行われ,地積測量図も
備えられていることから,その主張を裏付ける事実は認められないと
判断したものである。
オ立木の取得価格等について
(ア)収用委員会の裁決事項のうち損失の補償についての不服については,
行政不服審査法による不服申立てが許されず,被収用者は,起業者を
被告として出訴すべきものとされているから,かかる事由を収用裁決
の違法事由として主張することは許されない。
(イ)土地収用法80条は,物件を収用する場合において,収用する物件
に対しては,近傍同種の物件の取引価格等を考慮して,相当な価格を
もって補償しなければならない旨と規定するところ,「相当な価格」
とは,移転しなければならない物件に相当するものを取得するのに要
する価格(土地収用法79条)に一致するものであり,市場における
客観的な取引価格を意味するものである。また,ここでいう「相当な
価格」とは,明渡裁決の時の価格(土地収用法73条)を意味する。
本件のような山林等に生育している状態の立木の市場における客観
的な取引価格とは,最寄り市場の価格から,当該立木を伐採して市場
まで搬出する経費を控除して算定した価格をいう(このような算定方
法を以下「市場価逆算方式」という。)のであり,この算定方式は一
般的に採用されている合理的な相当価格算定方式である。その上で,
東京都収用委員会は,本件裁決1,本件裁決3及び本件裁決4におい
て,立木の取得価格とは,上記明渡裁決時の立木の客観的な取引価格
を意味するものであり,当該立木の搬出路もないことなどの現況に照
らせば,伐採して市場に搬出しても搬出費用が最寄り市場の価格を上
回ることが明らかであることから,市場価逆算方式に従って取得価格
を0円としたものである。
したがって,東京都収用委員会が上記各裁決において立木の「取得
価格」を0円として裁決したことは適正であり,違法性はない。
(ウ)原告らは,起業者らも収用裁決も上記価格の算定根拠を示していな
いと主張するが,東京都収用委員会は,起業者らから提出された立木
補償について意見を述べている平成19年3月16日付け意見書の写
しを原告らにも送付している。また,東京都収用委員会は,起業者ら
及び本件権利者らの申立てを検討の上,土地収用法65条1項に基づ
き現地を調査し,鑑定人に調査のための鑑定をさせた結果,立木の種
類,胸高・根元直径及び樹高を認定し,また,立木の取得価格及び移
転料を算定した上,補償額を算定したものであって,土地収用法73
条,79条及び80条の規定を踏まえ,適正に算定した結果に基づき
裁決を行い,その判断の理由を裁決書で示している。
(6)被告東京都は,本件事業認定の適法性並びに本件土地5及び△番の土地等
の本件各裁決の対象物件に関する被告国,参加人関東地方整備局長及び参加
人X1株式会社の主張及び立証を援用する。
2被告国,参加人関東地方整備局長及び参加人X1株式会社の主張
(1)本件裁決3について
ア旧×××番の土地の土地調書は,起業者らが,本件事業認定を受けた後,
平成18年7月26日及び27日に土地収用法35条1項による土地物件
調査を実施し,同法36条1項及び36条の2に基づいて作成したもので
ある。具体的には,起業者らは,同年9月22日に同法36条の2第2項
に定める申出を八王子市長あて実施した。申出を受けた八王子市長は,同
年10月2日から同年11月2日まで八王子市役所で公告縦覧するととも
に,同年10月2日付けでその旨を国土交通省関東地方整備局相武国道事
務所(以下「相武国道事務所」という。)長あてに通知した。この通知を
受けて,相武国道事務所長は,同日付けで,旧×××番の土地所有者あて
に公告があった旨の通知を行っている。
他方,原告らは,境界確定に当たり土地所有者の立会いを求め土地調書
に署名押印を求めることが必要なのに,立会いさえ求めなかったなどと主
張するところ,土地収用法36条2項の規定は,調書を作成する過程その
ものにまで立ち会わせることを求めているものではない。また,旧×××
番の土地の土地調書は,土地収用法36条の2に定める手続により作成さ
れており,土地収用法36条2項の適用はない。
イ原告らは,相武国道事務所長が申請し,八王子市長が平成17年3月3
1日付け○道財市収第○号(以下「○年確定通知」という。)により確定
通知を行った境界確定について,旧×××番の土地の所有者に通知される
ことなく境界確定作業が行われた旨を主張する。しかし,○年確定通知は,
相武国道事務所が,圏央道事業に必要な土地の買収等を進めるため申請を
行って作成したものを八王子市が認めたものであるが,旧×××番の土地
以外の周辺土地権利者3名と公共用財産管理者間の境界確定であり,旧×
××番の土地と公共用財産との間の境界は確定されていない。そして,官
民境界確定は隣接地所有者同士の所有権の範囲を定める私的契約であると
ころ,対側地や両側の土地の所有者と現地での立会い等の境界確定の協議
をしないか又は不調となった場合でも,申請者である土地所有者と境界確
定の協議が成立すれば,申請地と里道の境界は,申請者と被告国の間では
確定したことになる。したがって,旧×××番の土地の所有者を除く土地
所有者との間で境界立会いが実施されたからといって○年確定通知自体が
無効になるものではない。
なお,原告らは,○年確定通知に基づいて旧×××番の土地の土地調書
が作成されているところ,○年確定通知における境界確定に誤りがあるか
ら,上記土地調書の記載内容は真実でない旨の主張をするが,○年確定通
知と旧×××番の土地の土地調書には,共通して表示されている箇所はな
い。
ウ相武国道事務所は,平成12年以降,旧×××番の土地を含む関係土地
所有者に境界立会いの依頼をしてきたが,旧×××番の土地所有者からは
境界立会い参加の同意が得られなかったため,先行して従前から境界立会
い参加の同意を得られていた土地所有者との立会いを実施することとし,
境界についての認識確認を平成16年8月2日に実施した。
次に,関係土地所有者及び公共用財産管理者としての八王子市,申請者
である相武国道事務所の立会いにより,境界確認及び測量作業を実施する
ために平成16年12月10日付けで関係土地所有者あてに境界立会いへ
の依頼書を送付した。
旧×××番の土地の所有者を含む圏央道事業反対者が組織する原告X3
0は,この境界立会い依頼に対して立ち会わないことを組織として決定し,
相武国道事務所に対しては境界立会い拒否と測量中止の申入れを行い,平
成17年1月18日の境界立会い実施日には,現地に赴きながら立会いを
行わなかった。そのため,相武国道事務所は,やむを得ず平成16年8月
2日に行った旧×××番の土地所有者を除く土地所有者との立会いを確定
立会いの日とし,本来境界立会いを実施する予定であった日以降に図面を
作成し,旧×××番の土地所有者を除く各土地所有者の同意を得たもので
ある。
以上のとおりであるから,旧×××番の土地と公共用財産との境界確定
に当たって,旧×××番の土地の所有者を無視した事実はない。
エ本件土地5の収用に係る土地調書は,旧×××番の土地の実測図を表示
し,その隣接地である八王子市α2町□□番の土地(以下「□□番の土地」
という。),水路(現八王子市α2町□□□番3土地),同町◎番の土地,
△△番19の土地,△△番20の土地及び△△番21の土地の位置関係を
表示しているにすぎず,旧×××番の土地の位置ないし境界等について原
告らが主張することを本件土地5の収用に係る土地調書からうかがい知る
ことはできない。仮に,原告らの主張が○年確定通知について指摘するも
のであるとしても,○年確定通知は,当時の現況流水地及び通路の位置を
定めているのではなく,八王子登記所が保管する旧土地台帳附属地図(以
下「旧公図」という。)及び公図等に基づき公共用財産の位置を定めてい
るのであり,自然地形は,古い時代からの風化,浸食,たい積等による変
遷の可能性があり,また人工構造物等により変更されることもあり,現況
と必ずしも一致しないこともあり得るから,自然地形と一致しないことの
みをもって○年確定通知が誤っているということはできない。
オ原告らは,本件土地5の収用に係る土地調書における本件土地5の北側
境界線の北側に,本件土地5の一部であるはずの土地がはみ出していると
ともに,本来水路である部分が本件土地5の範囲に含まれている旨主張す
るが,一筆の区画については,旧公図作成時点で決められているものであ
り,他方,自然地形は,風化,浸食,たい積等の作用により経年変化し得
るものであるから,仮に,現地の地形等が原告らの主張のとおりであった
としても,その現況が直ちに境界と認められるものではなく,境界を特定
するための相応の根拠が必要である。
(2)本件裁決4について
ア△番の土地付近の旧甲州街道用地の幅員について,東京都南多摩西部建
設事務所に常備されている旧甲州街道の実測図によれば約8メートルとさ
れており,上記幅員が3メートルないし4メートルであるとする原告らの
主張は根拠がない。
また,△番の土地に係る公図について,その信ぴょう性を疑わせる事情
はなく,これを参考として土地の区画の決定をすることが相当でないとは
いえない。
イ△番の土地付近の無番地の土地等に居住していたX42に対する土地の
払下げ及び払い下げられた土地に係る起業者との間の売買契約は適正に行
われており,起業者らが同人を脅迫するなどした事実はない。
ウ△番の土地については,所有者が耕作等実質的な手入れをしていないこ
とや周囲が無番地に囲まれていることから,位置を特定する上で参考とな
る資料としては公図しか存在し得なかった。
起業者らは,この公図に基づき,①八王子市α3町△△△番2及び同番
7の各土地,②α28川,③旧甲州街道である八王子α3町△△△番5の
土地及び△△△番6の土地,④八王子市α3町△△△番4南側部分の土地,
⑤八王子市α3町△△△番4北側部分の土地の現況をそれぞれ公図と一致
させた場合の△番の土地の位置を各々図面にして,△番の土地の存在し得
る範囲を認定した。具体的には,八王子市α3町△△△番2及び同番7の
各土地(別紙図面1の1枚目平面図1黄色着色部)を全体として公図と合
致させた場合の△番の土地は黄色囲み部分に特定されることになる。同様
に,α28川(別紙図面1の2枚目・平面図2赤色着色部)を公図と一致
させた場合には赤色囲み部分,旧甲州街道である八王子市α3町△△△番
5の土地及び△△△番6の土地(別紙図面1の3枚目・平面図3橙色着色
部)を一致させた場合には橙色囲み部分,八王子市α3町△△△番4南側
部分の土地(別紙図面1の4枚目・平面図4緑色着色部)を一致させた場
合には緑色囲み部分,八王子市α3町△△△番4北側部分の土地(別紙図
面1の5枚目・平面図5藍色着色部)を一致させた場合には,藍色囲み部
分に特定されることとなる。別紙図面1の平面図1ないし5は,いずれも
公図を基本としているため,その信ぴょう性に優劣はなく,起業者らとし
ては,これら図面により特定した範囲内に△番の土地が存在するものと考
え,上記図面により特定した△番の土地を1枚にまとめ(別紙図面1の6
枚目・平面図(5点復元図)),その外枠のポイントをそれぞれK520,
Y.1,Y.2,Y.3,Y.4,Y.5として座標計算を行い,土地調書を作
成した。起業者らは,上記方法により特定した範囲全部が△番の土地であ
る場合も可能性としてはあると考え,全部が△番の土地である場合又は△
番の土地と無番地が含まれる場合とがあることを土地調書に記載した。
以上のように,起業者らとしては,現存する資料により△番の土地が存
在すると考えられる最大限の範囲を△番の土地である可能性があるとして
土地調書を作成したものであり,その方法は適正である。
3原告らの主張
(1)本案前の主張について
ア行政処分を取り消す旨の判決は遡及的に効力が生じるものと解すべきと
ころ,明渡裁決が取り消されれば,原告らの占有権原が復活し,原状回復
を求め得る法的地位を獲得するのであるから,明渡裁決の対象となる土地
の明渡しが完了しても,訴えの利益があるというべきである。また,原告
らが権利取得裁決を争うことができるとしても,請求権が競合する場合に
は,そのいずれによる請求をも認めるべきである。
イ別紙第3事件原告目録1記載の各原告のうち同目録「所有権東京都八
王子市」欄に「α2町×××番2」と記載された各原告は,本件裁決4の
対象物件である立て看板の共有者である。そして,上記原告らは,上記立
て看板を△番の土地の所有者に同意を得て設置したものであるが,△番の
土地が収用されれば,上記看板を設置する権原を失うことにつながるから,
本件裁決4の取消しを求める法律上の利益を有する。
ウ別紙第3事件原告目録3記載の各原告のうち,同目録「立木・物件東
京都八王子市」欄に「α3町△番内立看板」と記載された各原告について,
本件裁決5の対象土地は本件土地7とされているが,これは△番の土地の
一部である。そして,上記原告らは,いずれも,△番の土地上に設置され
た立て看板を共有する者であり,上記立て看板を△番の土地の所有者に同
意を得て設置したものであるが,本件土地7が収用されれば,上記看板を
設置する権原を失うことにつながるから,本件裁決5の取消しを求める法
律上の利益を有する。
(2)本件事業認定の違法性の承継について
先行する行政行為と後行する行政行為が同一の目的を追求する手段と結果
との関係をなし,これらが相結合して一つの効果を完成する一連の行為とな
っている場合には違法性の承継が認められるべきである。そして,土地収用
法における事業認定と収用裁決とは,その主体は異なっていても,土地収用
という一つの目的に向けた一連の行為であることに加え,収用委員会が事業
認定の審査権限を有しないこと,土地収用が私人の所有権をはく奪するもの
であり,当該私人の権利保護が図られる必要があるところ,事業認定の段階
では収用される区域等が明確でなく,事業の公益性の点について事業認定の
段階で争わなければ救済手段を失うとするのは当該私人に酷であることなど
も併せ考慮すれば,土地収用法に基づく事業認定の違法性は収用裁決にも承
継されるというべきである。そして,本件事業認定には,第1の2で述べた
とおりの違法事由があるから,本件各裁決は,その違法性を承継する。
(3)本件各裁決の手続に係る違法性
ア土地収用法52条3項は,収用委員会の委員につき,公共の福祉に関し
公正な判断をすることができる者のうちから,都道府県の議会の同意を得
て,都道府県知事が任命する旨を定める。また,土地収用法52条4項は,
収用委員会の委員が地方公共団体の議員又は地方公共団体の長若しくは職
員と兼職することを禁止するところ,その趣旨は,収用委員会の委員がそ
の職務の遂行に当たって不偏不党,公正中立である必要があり,地元の利
害にとらわれたり,起業者の立場に偏することがあってはならないためで
ある。したがって,収用委員会の委員は,第三者機関として公正かつ公平
な立場で審理することが期待されている。さらに,土地収用法61条は,
委員が当事者又は当事者の関係人である場合などは当然に除斥される旨を
定めるところ,収用委員会の判断の公正さを保障するためには,単に除斥
事由に該当する場合に限らず,判断の公平さに懸念が持たれる委員は審理
に携わるべきではなく,また,委員として任命すべきではないのであり,
法的にもこれを排除すべきである。
しかし,東京都収用委員会の会長であるX26は,平成12年3月まで
東京都の特別区人事・厚生事務組合の法務部長を務め,昭和54年以降長
年にわたって,住民と特別区との間の訴訟の特別区側の代理人をするとと
もに,国土交通省総合政策局総務課土地収用管理室が平成19年3月ころ
に設置した「土地収用制度における事業認定の法的効果の早期確定に向け
た検討会」に学識経験者として検討委員に就任するなどの経歴を有する者
である。また,本件各裁決当時東京都収用委員会の会長代行であったX2
7は,東京都職員として建設局や都市計画局で長期間勤務して局長等の要
職を務め,本件事業認定の前提となる圏央道事業の都市計画決定等におい
ても関与するとともに,東京都職員を退職後も被告東京都の外郭団体であ
る東京都公園協会の理事長や東京都都市計画審議会委員等を務め,国土交
通省とも関係の深い者である。そして,上記のような経歴を有する者は,
本件審理において公正な判断をすることができないおそれがあるか又は公
正な判断をすることを疑わせる立場にある者であるから,これらの者が東
京都収用委員会の会長及び会長代行に就任し,本件事業認定の瑕疵の有無
が審理されるべき本件審理に関与することは,上記土地収用法の各規定に
反する。
イ審理期日の一方的指定
収用委員会による審理期日の指定に当たっては,関係者が可能な限り出
席しやすく,かつ十分な準備の上に意見を述べる期日を指定することは,
公平な審理の前提であり,そのような期日指定をするためには,関係者の
意見を十分に聴取し,関係者と協議することが必要である。しかし,本件
審理の各期日は,原告らの再三の申入れにもかかわらず,すべて東京都収
用委員会が一方的に指定した。このような期日の一方的指定は,関係住民
の意見陳述の機会を不当に制約する不公正なものであり,その権限を濫用
するものであるとともに,代理人弁護士が出席して意見を陳述する機会を
奪うものであり,弁護士による代理を認める土地収用法136条及び弁護
士法3条に反する。
ウ審理期日における不当な審理指揮及び審理の一方的打切り
土地収用法63条は,土地の区域や補償に関して口頭で意見を述べるこ
とができる旨を定めるところ,東京都収用委員会が,審理期日と時間を一
方的に指定したものであったため,発言を希望する意思を示したにもかか
わらず意見陳述をすることができない多数の権利者及び関係人を残したま
ま審理が打ち切られた。
また,本件審理の各期日においては,東京都収用委員会の会長及び会長
代行の経歴等に関する釈明を拒絶されるなど,議論の主題自体が不当に制
約された。
さらに,本件審理の各期日においては,一方的に時間制限をするなどし
て,発言を求める者に十分に発言させないような審理の指揮がされた。
したがって,本件審理においては,権利者及び関係人からの意見聴取が
不十分であり,これは本件各裁決の違法事由を構成する。
エ後記(4)エで述べるとおり,本件各裁決には収用対象地の立竹木の取得価
格及び補償額をいずれも0円としているものがあるところ,その算定根拠
が何ら示されていない。すなわち,例えば近傍の市場の同種物件(立木)
の取引価格等が示されることが必要なはずであるが,このような資料が提
示されていない。この点は当該裁決の違法事由を構成する。
(4)本件各裁決の内容に関する違法性
ア憲法29条1項に定める財産権の不可侵の原則からすれば,土地収用は
例外的措置であるから,その適用は,慎重かつ厳格に適用されねばならな
い。そのような観点から,土地収用法37条1項は,起業者において,収
用する対象土地の所在,地番,地目,地積並びに土地所有者の氏名及び住
所を記載し,実測平面図を添付した土地調書を作成しなければならないと
定めているところ,収用する土地の形状や位置を特定する必要からすれば,
収用する対象土地の属する筆については,隣接する土地との境界を明確に
し,その位置及び形状を特定しなければならない。また,土地収用法40
条は,起業者が収用委員会の裁決を申請しようとするときは,収用又は使
用しようとする土地の所在,地番,地目,面積,使用の方法並びに権利を
有する関係人の氏名及び住所等を特定することを求めているところ,収用
の対象となる土地の境界を確定することは,土地を特定する重要な要素で
あり,土地収用においては,これが適正な手続で行われる必要がある。
したがって,仮に,いわゆる不明裁決があり得たとしても,それは,権
利者ら関係人の意見を十分に聴取し,境界画定の努力が十分になされた上
でされる必要があり,争いがあるからといって直ちに不明裁決をしてよい
ものではなく,収用委員会は,自己の責任において,事実関係の把握をし
た上で,法令及び確立された判例,通説に基づく法律判断を行わなければ
ならないのであって,このような手順を経て,なお,権利者不明と判断せ
ざるを得ないときに,初めて不明裁決を行うことができるのである。
しかし,本件各裁決は,上記のとおり権利者らの意見を十分に聴取する
ことなく,かつ,次に述べるとおり境界があいまいなままされたものであ
るから,違法である。
イ本件裁決3について
本件裁決3により起業者らが収用しようとした本件土地5は,旧×××
番の土地の東側部分の651.42平方メートルであり,土地調書上,そ
の北側には水路及び里道があり,水路との境界は,別紙図面2のKY15
-16,KY15-20,KY15-23及びKY15-24をそれぞれ
結んだ線で画されている。そして,東京都収用委員会は,本件裁決3にお
いて,起業者らの主張するとおりの境界を認定しているが,かかる認定は
次の理由により違法である。
(ア)相武国道事務所は,圏央道新設工事に伴う用地買収のため,八王子
市に対して,旧×××番の土地及びその周辺土地と市有地である水路
及び里道の境界確定を申請し,その申請を受けて,八王子市が,国土
交通省が作成した現況実測平面図を基に水路及び里道を確定して隣接
土地所有者との間で土地境界図を作成した。そして,本件土地5の収
用に係る土地調書は,上記八王子市が作成した土地境界図を基に作成
されている。
しかし,上記境界確定作業の過程で,旧×××番の土地の所有者に
対して境界立会いの呼び掛け又は案内をせずに,一方的に境界確定の
作業が行われたものであるから,そのような境界確定は無効である。
また,収用の対象となる土地の境界確定に当たっては,土地所有者の
立会いを求め,土地調書に署名押印を求めることが必要である(土地
収用法36条2項)ところ,境界確定に当たり土地所有者の立会いを
求められていないままに本件土地5の収用に係る土地調書が作成され
ており,その作成手続に瑕疵があるから,土地収用法47条に基づい
て裁決を却下すべきであり,それがされなかった本件裁決3には違法
がある。
(イ)(ア)に述べた八王子市が作成した土地境界図及びこれを基に作成さ
れた本件土地5の収用に係る土地調書は,次のとおり記載内容が誤っ
ている。このような誤りが生じたのは,八王子市α3町の公図や測量
図面を参照せず,八王子市α2町の公図や測量図面のみを参照して土
地調書を作成するなどしたためである。そして,東京都収用委員会は,
十分な調査をせずに,かかる内容に誤りがある土地調書に依拠して本
件裁決3をしたのであるから,本件裁決3には違法がある。
a旧×××番の土地,□□番の土地,八王子市α2町◎◎番の土地,
同町□□□番の土地及び同町◎◎◎番の土地(以下,これらの土地
を「◎◎番の土地」,「□□□番の土地」及び「◎◎◎番の土地」
という。)の間にある水路と里道の位置が誤っている。
特に,□□番の土地と□□□番の土地の境界部分の位置には水路
及び里道はないし,◎◎◎番の土地と□□番の境界部分にあるとさ
れた里道の位置は異なっている。旧×××番の土地に隣接する水路
の位置は,別紙図面3の赤点線のとおりである。
b本件土地5の収用に係る土地調書は,八王子市が,旧α40町の
町有林であった旧△△番の土地を払下げした際の分筆図面を基に作
成された△△番20の土地及び△△番21の土地の地積測量図を基
に作成されているが,上記地積測量図によれば,△△番21の土地
と八王子市α3町●番の土地(以下「●番の土地」という。)は境
界が接している。それにもかかわらず,本件土地5の収用に係る土
地調書においては,△△番21の土地と●番の土地が離れた位置に
あるものとされている。このような誤りが生じたのは,□□番の土
地と八王子市α3町●●番の1の土地の面積と範囲を異常に大きく
とったため,他の土地,特に△△番21の土地の位置が西側にずれ
たためである。
c土地調書における本件土地5とその北側に接する水路の境界線は,
別紙図面4のKY15-16,L43,KY15-20を順次結ん
だ線であるが,現実の水路の位置は,同図面の青色線に囲まれた水
色部分であり,実際の里道は,茶色線に囲まれた茶色部分である。
同図によれば,実際は水路である部分が本件土地5の範囲に入って
いる箇所がある一方で,実際は本件土地5の一部であるはずの土地
が上記線の北側にはみ出している箇所があり,現実の土地の形状と
一致していない。
(ウ)八王子市α3町●●●番の土地(以下「●●●番の土地」という。)
には稲荷神社があり,この土地の区域は神社であるため変化はないと
考えられる。そこで,●●●番の土地を基準として,旧△△番の土地
が払い下げられた際の測量図面,△△番21の地積測量図を根拠とし
て,図面を作成すると,別紙図面5のとおりである。これによれば,
本件裁決3により収用裁決及び明渡裁決がされた本件土地5は,××
×番の土地の一部であるKY15-16,H15-781-1,H1
5-782,L-32-1,L-43等の各点で結ばれた「収用裁決
された区画」と表示された土地にすぎず,別紙図面5のうち,L-3
2-1,M-84,M-83,M-82,M-81,M-41,M-
42,M-43,KY15-16,H15-781-1,H15-7
82,L-32-1等の各点で結ばれた「収用裁決されていないα2
町×××番地の区画」と表示された土地は,いまだ原告ら土地所有者
が所有する八王子市α2町×××番1の土地である。
ウ本件裁決4について
東京都収用委員会は,本件裁決4において,△番の土地の境界は不明で
ある旨の不明裁決をしているところ,不明裁決は,土地所有権の権利関係
に争いがあり,土地所有者の氏名及び住所が確知できない場合に例外とし
て行われるものである。土地の境界に争いがあり,その結果,収用対象の
土地の権利者の氏名及び住所が確定できない場合にも不明裁決が許される
としても,土地収用は財産権を所有者から奪う例外的措置なのであるから,
当事者にはどの範囲の土地が収用対象であるのか,その関係で当事者の土
地がどの位置に,どの程度の広さであるのかは最低限明示すべきであり,
安易な不明裁決は避けるべきである。したがって,少なくとも,当事者の
意見を十分に聴き,収用委員会として十分な調査をしても,土地境界につ
いての争いが最終的に不明である場合に不明裁決が許されるというべきで
ある。
しかし,次に述べるとおり,起業者ら及び東京都収用委員会は,△番の
土地の境界を確定する作業を不誠実に行っているから,本件裁決4は違法
である。
(ア)起業者らは,△番の土地について,公図や登記簿謄本を参考にした
と説明するのみで,土地の形状や位置等を特定するための具体的な根
拠を示していない。また,△番の土地の境界について,権利者らの意
見を十分に聴取することなく,境界が確定されないままに収用裁決が
されている。
(イ)△番の土地の特定の方法には次のとおり問題がある。
a明治21年ころに八王子市α3地区に旧甲州街道が開設される際に,
△番の土地の一部が提供されていることから,△番の土地と旧甲州街
道とは接して存在していたにもかかわらず,公図上は,旧甲州街道と
△番の土地とは接していないため,この公図は不正確である。また,
△番の土地上にかつて居住していたX42は,同人宅が旧甲州街道に
接して製材業を営んでいた旨説明しており,その点からも,△番の土
地と旧甲州街道が接していたといえる。
b起業者らは,八王子市α3町△△△番2,同番4,同番6及び同番
7の各土地を基点にするなどして△番の土地の範囲を特定したと主張
するが,その方法が不明確であり,かつ,上記八王子市α3町△△△
番2,同番4,同番6及び同番7の各土地は,旧甲州街道と△番の土
地との間に無番地の土地があるとの誤った前提の下で,被告国がその
無番地の土地上に勝手に地番を作り出したものにすぎない。
c△番の土地の範囲を特定する際に,起業者ら及び東京都収用委員会
は,△番の土地に接する旧甲州街道の幅員が8メートルであったこと
を前提にしているところ,実際は,上記旧甲州街道の幅員は3メート
ルないし4メートルである。また,相武国道事務所の職員らは,本来
は△番の土地上に居住していたX42に対して,同人が旧甲州街道と
△番の土地との間にある無番地の土地に居住しているなどと説明をし
たところ,同人が居住していた場所が無番地の土地上にあるという主
張も,旧甲州街道の幅員が8メートルであったことを前提に初めて成
り立つものであり,事実に反するものである。そして,上記職員らは,
X42を△番の土地から立ち退かせるため,上記虚偽の説明をするな
どして,同人が△番の土地ではなく旧甲州街道の廃道部分である都有
地及び国有地に長年にわたり無断で居住しており,土地を使用する権
限がないから立ち退きをするほかないなどと申し向けて脅迫した上で,
本来は△番の土地の一部である場所に八王子市α3町△△△番4及び
同番5の各土地を生み出し,いったん同人に八王子市α3町△△△番
4及び同番5の各土地を財務省及び被告東京都から購入させ,これを
国土交通省に売却させたものである。したがって,このような経緯で
作り上げられた八王子市α3町△△△番4及び同番5の各土地の存在
を前提にして△番の土地の範囲を確定することは誤りである。
エ本件裁決1,本件裁決3及び本件裁決4においては,原告らが所有する
立竹木の取得価格及び補償額をいずれも0円としているところ,関係人ら
は,立木が生えている山の自然環境及びその山と一体となった高尾山やα
1地域の自然環境の価値を評価し,それを保全するために立木を取得した
ものである。本件各裁決により土地の収用がされれば上記立木を失うとと
もに,立木が生えている自然環境も破壊されるのであり,その自然環境が
失われるのであれば,自然環境の価値を財産的に評価して補償されるべき
である。したがって,起業者らは,上記立木の所有者に金銭により補償す
るとするならば,本件各裁決による収用の対象となっている立木全体に対
して,同様の自然環境の条件が確保される用地を他の場所で確保し,その
場所で上記立木が生息することができる状況を作り出すのに必要な価格を
基準にすべきであり,高尾山やα1地域と同様の環境で,同様の立木を取
得する費用は莫大なものであるから,1本0円と換算することは不公正で
ある。
また,被告東京都が主張する市場価逆算方式を適用したからといって,
直ちに相当な補償が算定されたということはできない。
なお,原告らは,単に補償金額に対する不服を述べるものではなく,そ
の評価方法と評価の過程等についての問題を指摘するものであるから,こ
れらは収用裁決の違法事由となるものである。
(別紙)
主文目録
1第1事件及び第2事件の訴えのうち,別紙第1事件第4原告目録,別紙第1事
件第5原告目録,別紙第2事件原告目録2及び別紙第2事件原告目録3に記載の
各原告に係る部分
2第3事件の訴えのうち,次の請求に係る部分
(1)別紙第3事件原告目録2記載の各原告並びに別紙第3事件原告目録3記載の
各原告のうち原告X2,原告X3,原告X4,原告X5,原告X6,原告X7,
原告X8,原告X9,原告X10及び原告X11に係る別紙裁決目録1記載の
各裁決の取消しを求める訴えのうち明渡裁決の取消しを求める部分
(2)別紙第3事件原告目録1記載の各原告のうち原告X48,原告X49及び原
告X50に係る別紙裁決目録3及び4記載の各裁決の取消しを求める訴えのう
ち明渡裁決の取消しを求める部分
(3)原告X35に係る別紙裁決目録2及び4の各裁決の取消しを求める訴えのう
ち明渡裁決の取消しを求める部分
(4)別紙第3事件原告目録1記載の各原告(ただし,原告X48,原告X49,
原告X50及び原告X35を除く。)のうち,同目録「所有権東京都八王子
市」欄に「α2町×××番2」と記載された原告については別紙裁決目録3記
載の各裁決の,同欄に「α3町△番」と記載された原告については別紙裁決目
録4記載の各裁決の各取消しを求める訴えのうち明渡裁決の取消しを求める部

(5)別紙第3事件原告目録1の各原告のうち同目録「所有権東京都八王子市」
欄に「α2町×××番2」と記載された各原告(ただし,原告X48,原告X
49及び原告X50を除く。)に係る別紙裁決目録4の各裁決の取消しを求め
る訴え
(6)別紙第3事件原告目録3記載の各原告のうち,同目録「立木・物件東京都
八王子市」欄に「α3町△番内立看板」と記載された各原告に係る別紙裁決目
録5の各裁決の取消しを求める訴え

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