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平成24年6月13日判決言渡
平成23年(行ケ)第10228号審決取消請求事件
口頭弁論終結日平成24年4月25日
判決
原告ニュアンスコミュニケーシ
ョンズオーストリアゲー
エムベーハー
訴訟代理人弁理士伊東忠彦
伊東忠重
大貫進介
山口昭則
鶴谷裕二
被告特許庁長官
指定代理人大野克人
安久司郎
田部元史
田村正明
主文
特許庁が不服2008-23615号事件について平成23年3月7日にした審
決を取り消す。
訴訟費用は被告の負担とする。
事実及び理由
第1原告の求めた裁判
主文同旨
第2事案の概要
本件は,特許出願拒絶査定の不服審判請求を不成立とした審決の取消訴訟である。
争点は,容易想到性である。
1特許庁における手続の経緯
本件特許出願人であったコーニンクレッカフィリップスエレクトロニクス
エヌヴィは,平成14年(2002年)3月25日,名称を「編集中における音
声カーソルとテキストカーソルの位置合わせ」とする発明につき国際特許出願(パ
リ条約による優先権主張2001年3月29日,欧州)をし,平成15年9月24
日,日本国への国内移行手続(甲3,特願2002-578284号特許出願)を
行い,平成19年10月30日付けで拒絶の理由が通知され(甲4),平成20年
5月7日付けで手続補正書(甲6)を提出したが,同年6月12日付けで拒絶査定
(甲7)を受け,これに対し,同年9月16日に不服の審判(不服2008-23
615号)を請求した(甲8)。その後,特許を受ける権利が原告に承継され,平
成21年7月15日付けで特許庁長官宛に出願人名義変更届が提出され,特許出願
人の名義が原告に変更された。特許庁は,平成23年3月7日付けで「本件審判の
請求は,成り立たない。」との審決をし,その謄本は,同月22日,原告に送達さ
れた。
2本願発明の要旨
平成20年5月7日付け手続補正書(甲6)の特許請求の範囲の請求項1(以下
「補正後の請求項1」という。)に記載された発明(以下「本願発明」という。)
は以下のとおりである。
「音声情報から音声認識装置によって認識された認識テキスト情報の誤ったワー
ドを訂正する訂正装置であって,
前記音声認識装置は,前記認識テキスト情報の各ワードにおいて,該ワードが前
記音声認識装置により認識された前記音声情報の部分をマークするリンク情報を構
成し,
当該訂正装置は,前記音声情報と,前記係る認識テキスト情報と,前記リンク情
報とを受信するよう構成され,
当該訂正装置は,
表示手段に表示される前記認識テキスト情報の誤ったワードにテキストカーソル
を配置及び表示し,ユーザにより入力された編集情報に従って前記誤ったワードを
編集するテキスト編集手段と,
前記音声情報の音声再生が実行され,該音声再生中にちょうど再生されているワ
ードに対応し,前記リンク情報によりマークされている前記認識テキスト情報のワ
ードが該ワードにおいて音声カーソルを表示することにより連動してマークされる
当該訂正装置の連動再生モードを実行する連動再生手段と,
前記テキストカーソルと前記音声カーソルとを同じ位置又は所定の距離だけ離間
した位置に配置するため,前記表示されたテキストカーソルを前記表示された音声
カーソルに,あるいは前記表示された音声カーソルを前記表示されたテキストカー
ソルに連動させるカーソル連動手段と,
からなることを特徴とする訂正装置。」
3審決の理由の要点
(1)審決は,「本願発明(請求項1に係る発明)は,引用発明1,引用発明2,
引用刊行物2の技術及び周知技術に基づいて当業者が容易に発明をすることができ
たものであるので,特許法第29条第2項の規定により特許を受けることができな
い。」と判断した。
(2)上記判断に際し,審決が認定した引用刊行物1(特開平2-163819
号公報,甲1)記載の発明(引用発明1),本願発明と引用発明1との一致点及び
相違点,引用刊行物2(特開昭62-212870号公報,甲2)記載の従来技術
(引用刊行物2記載の技術)及び発明(引用発明2)並びに相違点についての判断
は,以下のとおりである。
ア引用発明1
「音声認識装置で認識され,個々のワードから成るテキストとして表示装置によ
って再生し,誤って検出された言語を訂正する,テキスト処理装置であって,
音声信号は第1のメモリに記憶され,音声認識装置によって検出された個々の言
語にスタートマーク及びエンドマークを割り当てることにより,各言語はスタート
マーク及びエンドマークによって境界され,スタートマーク及びエンドマークは音
声信号と特定の時間関係にあり,スタートマーク及びエンドマークによってコンピ
ュータは,検出ワードと関連して,第1メモリに記憶されている音声信号との相関
をとることができ,
第1のメモリに記憶された音声信号を連続して再生すると同時にスタートマーク
及びエンドマークと協働して対応する検出ワードをコンピュータによって表示装置
上にカーソルにより強調表示することができ,必要な場合,表示装置上に表示した
カーソルにより強調された言語を訂正することができる,テキスト処理装置。」
イ本願発明と引用発明1との対比
(ア)一致点
「音声情報から音声認識装置によって認識された認識テキスト情報の誤ったワー
ドを訂正する訂正装置であって,
前記音声認識装置は,前記認識テキスト情報の各ワードにおいて,該ワードが前
記音声認識装置により認識された前記音声情報の部分をマークするリンク情報を構
成し,
当該訂正装置は,前記音声情報と,前記係る認識テキスト情報と,前記リンク情
報とを受信するよう構成され,
当該訂正装置は,
ユーザにより入力された編集情報に従って前記誤ったワードを編集するテキスト
編集手段と,
前記音声情報の音声再生が実行され,該音声再生中にちょうど再生されているワ
ードに対応し,前記リンク情報によりマークされている前記認識テキスト情報のワ
ードが該ワードにおいて音声カーソルを表示することにより連動してマークされる
当該訂正装置の連動再生モードを実行する連動再生手段と,
からなることを特徴とする訂正装置。」の点。
(イ)相違点
本願発明は,表示手段に表示される前記認識テキスト情報の誤ったワードにテキ
ストカーソルを配置及び表示し,ユーザにより入力された編集情報に従って前記誤
ったワードを編集するテキスト編集手段を有しているのに対し,引用発明1は,ユ
ーザにより入力された編集情報に従って前記誤ったワードを編集するテキスト編集
手段を有しているが,引用発明1の該テキスト編集手段が,表示手段に表示される
前記認識テキスト情報の誤ったワードにテキストカーソルを配置及び表示している
のかどうか必ずしも明らかではない点。
また,本願発明は,前記テキストカーソルと前記音声カーソルとを同じ位置又は
所定の距離だけ離間した位置に配置するため,前記表示されたテキストカーソルを
前記表示された音声カーソルに,あるいは前記表示された音声カーソルを前記表示
されたテキストカーソルに連動させるカーソル連動手段を有しているの対して,引
用発明1は,カーソル連動手段を有しているのかどうか明らかではない点。
ウ引用刊行物2の技術
「文章中の誤りを修正する文章読み上げ校正装置であって,音声出力部が読み上
げるのにあわせて,ディスプレイに表示された文章において文章の表記位置を読み
上げカーソルを移動させて指示し,操作者は文章中の表記に誤りがあると,停止指
示キーを操作して停止指示をし,読み上げカーソルの移動を停止し,このカーソル
は,修正データの入力位置を指示するためにも使用され,カーソルを制御して,文
章中の誤りを修正する技術。」
エ引用発明2
「文章の読み上げが進むにつれ,読み上げ位置は,データ入力可能位置指標によ
って指示され,この指標は,本来データ入力可能位置を指示するために用いられて
いるものであり,ディスプレイ手段の画面のデータ入力可能位置指標は,文章の表
記列上を同期して走査してゆき,停止指示キーによる停止指示があったとき,少し
戻されて停止され,編集がなされる,文章読み上げ校正装置。」
オ相違点についての判断
引用刊行物1には,以下の記載がある。
記載事項(イ)「コンピュータの制御のもとで検出した言語を表示装置上に強調
表示できると共に同時に関連するオーディオ信号を音響的に再生することができ,
前記キーボードによってデータを前記コンピュータに入力でき,コンピュータによ
って,必要な場合表示装置上に表示された検出した言語を訂正できるように構成し
たことを特徴とするテキスト処理装置。」(請求項1),「表示装置上に強調表示
されキーボードを介して訂正された検出言語」(請求項2),記載事項(ハ)「従
って,本発明の目的は,冒頭部で述べた型式のテキスト処理装置において,検出し
た言語をチェックでき,誤って検出した言語を簡単に,短時間でしかも高い信頼性
を以て訂正することができるテキスト処理装置を提供することにある。」,記載事
項(ニ)「コンピュータによって,必要な場合表示装置上に表示された検出した言
語を訂正できるように構成することにより達成される。」,「従って,操作者は,
例えばチェック又は訂正すべき言語と関連しコンピュータによって表示装置上に強
調表示されたオリジナルの音声信号を音響的に監視することがでる(判決注「で
る」は「できる」の誤記と認める。)。この結果,操作者は関連する言語を正しく
識別することができ,必要な場合これらの言語をキーボードを介して正しい形態で
入力することができる。或は,表示装置によって表示されたテキストの検出言語を
連続してチェックすることができ,すなわち第1のメモリに記憶されている音声信
号を連続して音響的に再生し,関連する検出された言語をコンピュータによって表
示装置上に同時に強調表示することができ,この結果瞬時的に検出した言語は連続
して強調表示され操作者はオリジナルの音声信号を同時に聴取し,従って操作者は
訂正が必要な言語を簡単に正確に認識することができる。」,記載事項(ヘ)「表
示装置13によって表示された検出言語を例えばカーソルで強調したり或いはコン
ピュータ4の制御のもとで下側に線を引いたりすることができ,しかも同時に対応
するオーディオ信号を音響的に再生することもできる。従って,表示装置13によ
って表示した言語によって形成されるテキストを簡単に,迅速にしかも高い信頼性
を以てチェックし又は訂正することができる。必要な場合,コンピュータ4と協働
すると共に指令入力手段として作用するキーボード17とデータとに基づいて表示
装置13上に表示した強調された言語を訂正することができる。」,「このように
構成すれば,操作者は強調されたワードに対応するオーディオ信号を直接監視して
音声認識装置1により対応するワードが正しく検出されたか又は誤って検出された
かを確認することができる。言語が誤って検出された場合,操作者はキーボード1
7を介して誤ったワードを正しいワードで置き換えることができる。」,「この結
果,操作者は発音されたテキストを連続して聴取すると共に,同時に音声認識装置
によって検出され表示テキスト中に強調表示さた言語に注目することになる。上述
したテキスト処理装置を用いて種々の操作を行なうことにより,簡単で高い信頼性
を以てテキストをチェックし訂正することもでき,」
これらの記載から,引用刊行物1には,操作者がカーソルで強調された誤ったワ
ードをキーボード入力により編集して訂正することが記載されており,編集対象は
カーソルで強調されたワードであると解することができるから,引用刊行物1のワ
ードを強調するカーソル(音声カーソル)は,誤ったワードを編集するための,本
願発明の「テキストカーソル」にも相当し,引用発明1のテキスト編集手段は,表
示手段に表示される認識テキスト情報の誤ったワードにテキストカーソルを配置及
び表示しているということができ,引用発明1の訂正装置は,音声カーソルと同じ
位置で連動するテキストカーソル,あるいはテキストカーソルと同じ位置で連動す
る音声カーソルを有しており,本願発明と同様に,「表示されたテキストカーソル
を前記表示された音声カーソルに,あるいは前記表示された音声カーソルを前記表
示されたテキストカーソルに連動させるカーソル連動手段」を有しているというこ
とができる。
また,一般にテキストの編集を行う場合にテキストカーソルを表示することは当
然のことであり,引用刊行物2の技術には,文章読み上げ校正装置において,ディ
スプレイに表示された文章において文章の表記位置を読み上げカーソル(本願発明
の「音声カーソル」に相当する。)を移動させて指示し,操作者は文章中の表記に
誤りがあると,停止指示キーを操作して停止指示をし,読み上げカーソルの移動を
停止し,このカーソルは,修正データの入力位置を指示するためにも使用されるこ
と(本願発明の「テキストカーソル」に相当する。),即ち,音声カーソルがテキ
ストカーソルを兼ねることが記載されており,また,引用発明2には,文章読み上
げ校正装置において,入力可能位置指標(本願発明の「テキストカーソル」に相当
する。)は文書読み上げにおいて,読み上げ位置を指示し(本願発明の「音声カー
ソル」に相当する。),両者は読み上げ中は同じ位置で連動させる連動手段を有し
ているということができ,停止指示がなされると所定の距離だけ離間して両カーソ
ルが位置することが記載されている。
そして,引用発明1において,テキストの編集に際してテキストカーソルを表示
する周知技術及び,音声カーソル位置のテキストを修正すべく,音声カーソルと同
じ位置で連動したテキストカーソルを表示し,停止指示がなされると所定の距離だ
け両カーソルを離間する引用発明2,音声カーソルと同じ位置で連動したテキスト
カーソルを表示する引用刊行物2の技術を適用することにより,引用発明1のテキ
スト編集手段が,表示手段に表示される前記認識テキスト情報の誤ったワードにテ
キストカーソルを配置及び表示するようにし,引用発明1において,テキストカー
ソルと前記音声カーソルとを同じ位置又は所定の距離だけ離間した位置に配置する
ため,前記表示されたテキストカーソルを前記表示された音声カーソルに,あるい
は前記表示された音声カーソルを前記表示されたテキストカーソルに連動させるカ
ーソル連動手段を設けるようにすることは当業者が容易になし得ることである。
そして,本願発明のように構成したことによる効果も引用発明1,引用発明2,
引用刊行物2の技術及び周知技術から予想できる程度のものであって,格別のもの
ではない。
第3原告主張の審決取消事由
審決には,①本願発明と引用発明1との間の一致点の認定の誤り,及び,②相違
点についての判断の誤りがあり,いずれも審決の結論に影響するから,審決は取り
消されるべきである。
1取消事由1(一致点の認定の誤り)
審決は,引用発明1の「テキスト処理装置」を本願発明の「訂正装置」に相当す
ると認定した(10頁10~12行)。本願発明の訂正装置は,誤ったワードを編
集する装置であり,実施例中の訂正装置10に対応し,音声認識手段8とは別個の
装置である。したがって,審決の認定に従うと,引用発明1の「テキスト処理装
置」は,引用刊行物1記載の実施例中の音声認識装置1ではなく,コンピュータ4
に相当することになる。第1図から明らかなように,引用発明1において,コンピ
ュータ4は再生すべき音声信号を第1メモリ15から受信していない。
本願発明は,「当該訂正装置10は,前記音声情報SDと,前記係る認識テキス
ト情報ETIと,前記リンク情報LIとを受信するよう構成され」ていることから,
①連動再生手段12が,「前記音声情報SDの音声再生が実行され,該音声再
生中にちょうど再生されているワードに対応し,前記リンク情報LIによりマーク
されている前記認識テキスト情報ETIのワードが該ワードにおいて音声カーソル
ACを表示することにより連動してマークされる当該訂正装置の連動再生モードを
実行する」ことができ,また,
②カーソル連動手段15が,「前記テキストカーソルTCと前記音声カーソル
ACとを同じ位置又は所定の距離(Nワード)だけ離間した位置に配置するため,
前記表示されたテキストカーソルTCを前記表示された音声カーソルACに,ある
いは前記表示された音声カーソルACを前記表示されたテキストカーソルTCに連
動させる」ことができる。
引用発明1におけるコンピュータ4は,再生すべき音声信号を第1メモリ15か
ら受信していないので,上記①,②のような動作をすることができない。
したがって,審決がした「『当該訂正装置(4)は,前記音声情報と,…を受信
するように構成され,』…の点で一致し」(11頁2,3行)との認定は誤りであ
る。
審決は,上記一致点の認定を誤ることにより,相違点を容易であると誤認したも
のであり,違法であるから,取り消すべきである。
2取消事由2(相違点についての判断の誤り)
(1)審決は,本願発明が誤ったワードを編集する過程においても音声情報の音
声再生が継続して行われるという特徴を看過したことにより,相違点を容易である
と誤認した。
本願発明においては,音声情報の音声再生が継続して行われている間,現在ちょ
うど再生されている音声情報に対応するワードは常に,音声カーソルによって指示
されている。認識テキスト情報TIのうち,訂正対象である文字を指示するカーソ
ルであるテキストカーソルとは別個に音声カーソルが設けられているので,訂正
(編集)中であっても再生されているワードを指示することができ,音声情報の音
声再生を継続して行うことができる。
(2)審決は,「ディスプレイに表示された文章において文章の表記位置を読み
上げカーソル(本願発明の『音声カーソル』に相当する。)を移動させて指示し,
…このカーソルは,修正データの入力位置を指示するためにも使用される(本願発
明の『テキストカーソル』に相当する。),即ち,音声カーソルがテキストカーソ
ルを兼ねることが記載されており,」(13頁11~17行)と認定したが,本願
発明の「音声カーソル」と「テキストカーソル」とを誤って同一視したものである。
本願発明において,音声カーソルとテキストカーソルは役割が違い,兼ねることは
できない。
(3)引用発明1においては,訂正位置を示すカーソルと音声再生位置を示すカ
ーソルの2つの別個のカーソルを設けることの記載も示唆も存在しない。
また,引用発明1においては,誤った言語を訂正している間は,音声信号の音声
再生は停止されており,訂正終了後に,エンドマークの位置,すなわち次の言語の
スタートマークの位置から音声再生を開始する。訂正中に音声再生が停止されてい
ることから,訂正位置を示すカーソルと音声再生位置を示すカーソルの2つの別個
のカーソルを設ける動機もない。
したがって,審決の「引用刊行物1のワードを強調するカーソル(音声カーソ
ル)は,…本願発明の『テキストカーソル』にも相当し,…引用発明1の訂正装置
は,…本願発明と同様に,『…カーソル連動手段』を有しているということができ
る。」(12頁37行~13頁8行)という認定は誤りである。
審決は,本願発明の2つのカーソルの役割を誤認した結果,本願発明の相違点が
引用発明1から容易であると誤認した。
(4)引用発明2は,本願発明のように音声を認識してテキスト情報を得る技術
分野に属する発明ではなく,すでに存在する表記された文章(テキスト)に基づき
音声合成を行う技術分野に属する発明である。
このように本願発明とは全く逆の関係にある引用発明2を,音声認識に係る引用
発明1に組み合わせることには困難性があるにも拘わらず,審決は,その困難性を
越えて組合せが容易であるという理由付けを示さずに引用発明2を引用発明1に組
み合わせることによって相違点を容易であると誤認したものである。
仮に組み合わせることができたとしても,引用発明2においては,1つのカーソ
ルしか開示されておらず,訂正位置を示すカーソルと音声再生位置を示すカーソル
の2つの別個のカーソルを設けることの記載も示唆も存在しない。
また,引用発明2の技術は「チェックの結果,文章中の表記に誤りが認識された
とき,停止指示キー40を操作して,停止指示を行う。」という音声読み上げを必
ず停止させる技術であるから,2つのカーソルを必要としておらず,訂正位置を示
すカーソルと音声再生位置を示すカーソルの2つの別個のカーソルを設ける動機も
ない。
したがって,審決の「また,引用発明2には,…停止指示がなされると所定の距
離だけ離間して両カーソルが位置することが記載されている。」(13頁17~2
2行)との認定は誤りである。
これらの誤認に基づいてした,審決の「そして,引用発明1において,…引用刊
行物2の技術を適用することにより,引用発明のテキスト編集手段が,…カーソル
連動手段を設けるようにすることは当業者が容易になし得ることである。」(13
頁23~34行)との判断は誤りである。
第4被告の反論
1取消事由1(一致点の認定の誤り)に対して
(1)原告は,本願明細書の実施例の訂正装置10と本件実施例の音声認識手段
8とは別個の装置であると主張している。
しかし,本願の特許請求の範囲には,音声認識手段8が記載されているわけでは
なく,音声認識装置が記載されている。
本願の特許請求の範囲に記載された「音声認識装置」と「訂正装置」の関係につ
いて,本願の発明の詳細な説明には,段落【0016】に「・・・音声認識手段,
・・・訂正装置からなることを特徴とする音声認識装置。」と記載され,段落【0
031】には,「音声認識装置1は,さらに・・・訂正装置10を備える。」と記
載され,図面の簡単な説明(段落【0059】)には,「図1は,・・・訂正装置
を備えた音声認識装置を示す。」と記載されているように,発明の詳細な説明の記
載では両者は必ずしも別個の装置であるということはできず,特許請求の範囲に記
載された「音声認識装置」と「訂正装置」とは,特許請求の範囲に記載されたとお
りの各機能を奏するという意味において別個の装置であるといえるだけである。
一方,引用刊行物1には,特許請求の範囲の請求項1に「テキストに対応する音
声信号を音声認識装置に供給し,この音声認識装置で音声信号中の言語を検出し,
検出した言語をデジタル信号の形態でワードメモリに記憶すると共に,このワード
メモリから別の処理手段に供給し,この処理手段において検出した言語を表示装置
によってテキストとして再生し,必要に応じて訂正し,プリンタによって記録する
ことができるテキスト処理装置において」(1頁下左欄4~12行)と記載され,
発明の詳細な説明に「音声認識装置が学習装置と協働するテキスト処理装置におい
ては,特定の話者によって発音された言語の音声信号の特徴を,前記音声認識装置
によって音声信号から抽出することができ,この特徴を,学習装置に供給した音声
関連パラメータと学習装置に供給されると共に話者関連パラメータとして音声認識
装置に記憶される関連する音声信号と対応する言語とを比較することによって学習
装置により解析し,前記特徴は音声認識処理において音声認識装置によって利用で
きる。」(3頁上右欄10~19行)と記載されているように,「テキスト処理装
置」と「音声認識装置」とは,それぞれ別個の機能を奏する装置として区別して記
載されている。
そして,引用発明1のテキスト処理装置においては,引用刊行物1の特許請求の
範囲に「テキストに対応する音声信号を音声認識装置に供給し,この音声認識装置
で音声信号中の言語を検出し,・・・できるテキスト処理装置・・・」と記載され,
3頁上右欄2~3行に「第1のメモリに記憶されている音声信号を連続して音響的
に再生し」と記載され,4頁下左欄17~19行に「電気信号としてテキスト処理
装置の入力部3に供給された音声信号を第1の別のメモリ15に記憶する。」と記
載されているように,音声認識装置によって認識され,音声再生が実行される音声
情報を,テキスト処理装置は入力,すなわち受信するように構成されている。
(2)引用刊行物1の5頁下左欄7~14行に,「一方,第1メモリ15に記憶
されている音声信号を音響的に連続して再生し同時にコンピュータ4により第2メ
モリ16に記憶されている各検出ワードのスタートマーク及びエンドマークと協働
して対応する検出ワードを表示装置13上に強調表示することにより,表示装置1
3によって表示したテキストを例えば連続してチェックすることも可能である。」
と記載されているように,引用発明1は,音声情報の音声再生中にちょうど再生さ
れているワードに対応して音声カーソルを表示することにより連動してマークして
いるから,引用発明1のテキスト処理装置は,①連動再生モードを実行している。
なお,②カーソル連動手段がテキストカーソルを連動させる動作については,審
決は,相違点とした上で容易性の判断を行っている。
したがって,審決は,上記一致点の認定を誤ることにより,相違点を容易である
と誤認したものではない。
2取消事由2(相違点についての判断の誤り)に対して
(1)原告は,審決が,本願発明の,誤ったワードを編集する過程においても音
声情報の音声再生が継続して行われるという特徴を看過したことにより,相違点を
容易であると誤認したと主張している。
しかし,本願発明は,テキストカーソルと音声カーソルとを別個に設けてテキス
トカーソルと音声カーソルを連動させるものであって,本願の特許請求の範囲には,
テキストカーソルと音声カーソルとを連動させるカーソル連動手段が記載されてい
るが,テキストカーソルによる誤ったワードの編集に際して,テキストカーソルと
音声カーソルとが連動するものであるか否か,また,誤ったワードの編集に際して,
音声情報の音声再生を継続するのか否かが特定されているわけではない。
この点,本願明細書の段落【0057】には,「同期再生モードは同期データSY
Iの入力によって自動的に中断され,編集データEIの入力後続けられてもよい。こ
の変形は,訂正処理と平行して変換されたテキスト情報ETIの誤ったワードをさら
にサーチする必要がないので,訂正装置に慣れていないユーザにとりわけ有益であ
る。」と記載されているように,本願発明は,テキストカーソルにより誤ったワー
ドの編集をする際に,同期再生モード(連動再生モード)を中断すること,すなわ
ち,誤ったワードを編集する過程において音声情報の音声再生が継続して行われな
いということも含んでいる。
したがって,本願発明が,誤ったワードを編集する過程においても音声情報の音
声再生が継続して行われるという特徴を有していることを審決が看過したことによ
り,審決は相違点を容易であると誤認したとの原告の主張は誤りである。
(2)引用刊行物2には,従来技術として,読み上げ中の表記位置がカーソルに
よりディスプレイ上で識別可能に表示されること,読み上げの進行に合わせてカー
ソルが移動され,文章中の当該する表記位置を順次指示することが記載され,さら
に,「カーソルは,修正データを入力する際の入力位置を指示するためにも使用さ
れる。」と記載されており(2頁上右欄14行~下左欄3行),引用刊行物2には,
カーソルが,読み上げ中の表記位置を指示する音声カーソルとしての役割を果たす
と共に,修正データ入力のためのテキストカーソルの役割を兼ねることが明記され
ている。したがって,審決が,「音声カーソルがテキストカーソルを兼ねることが
記載されており」と認定したことに誤りはない。
(3)引用刊行物1には,次のように記載されている。
「コンピュータの制御のもとで検出した言語を表示装置上に強調表示できると共
に同時に関連するオーディオ信号を音響的に再生することができ,前記キーボード
によってデータを前記コンピュータに入力でき,コンピュータによって,必要な場
合表示装置上に表示された検出した言語を訂正できるように構成したことを特徴と
するテキスト処理装置。」(1頁下右欄4~12行)
「表示装置13によって表示された検出言語を例えばカーソルで強調したり或い
はコンピュータ4の制御のもとで下側に線を引いたりすることができ,しかも同時
に対応するオーディオ信号を音響的に再生することもできる。従って,表示装置1
3によって表示した言語によって形成されるテキストを簡単に,迅速にしかも高い
信頼性を以てチェックし又は訂正することができる。必要な場合,コンピュータ4
と協働すると共に指令入力手段として作用するキーボード17とデータとに基づい
て表示装置13上に表示した強調された言語を訂正することができる。」(5頁上
左欄18行~上右欄10行)
「このように構成すれば,操作者は強調されたワードに対応するオーディオ信号
を直接監視して音声認識装置1により対応するワードが正しく検出されたか又は誤
って検出されたかを確認することができる。言語が誤って検出された場合,操作者
はキーボード17を介して誤ったワードを正しいワードで置き換えることができ
る。」(5頁下左欄1~7行)
これらの記載から,引用刊行物1には,操作者がカーソルで強調された誤ったワ
ードをキーボード入力により編集して訂正することが記載されており,編集対象は
カーソルで強調されたワードであると解することができる。
よって,引用刊行物1には,訂正位置を示すカーソルと音声再生位置を示すカー
ソルを設けることは,実質的に記載されており,引用発明1は,訂正位置を示すカ
ーソルと音声再生位置を示すカーソルを実質的に有しているといえる。
また,本願の特許請求の範囲には,音声情報の音声再生が継続している間,テキ
ストカーソルによる誤ったワードの編集が可能であることについて特定はされてお
らず,本願の発明の詳細な説明における実施例には,前記のとおり,ワードの編集
中に同期再生モードを中断することも記載されており,この点,引用発明1と異な
るところはない。
さらに,引用刊行物2には,従来技術として,つぎのように記載されている。
「表示制御部37は,音声出力部35が読み上げている文章の表記を,ディスプ
レイ38に表示させる。このとき,読み上げ中の表記位置は,カーソルあるいは文
字の輝度制御等により,ディスプレイ上で識別可能に表示される。たとえば,カー
ソルを用いる場合,読み上げの進行に合わせてカーソルは移動され,文章中の該当
する表記位置を順次指示する。この場合,カーソルは,修正データを入力する際の
入力位置を指示するためにも使用される。操作者(校正者)は,読み上げられた“
読み”とディスプレイ38に表示された表記とにしたがって入力した文章の正誤を
チェックする。チェックの結果,文章中の表記に誤りが認識されたとき,停止指示
キー40を操作して,停止指示を行う。停止制御部39は,停止指示に応答して,
主制御部30を介して音声出力部35による読み上げ動作を停止させるとともに,
表示制御部37による表示動作も,現時点の状態で停止させる。次に操作者は,キ
ーボード41を操作して,ディスプレイ上のカーソルを制御し,データ入力位置を
指定し,正しい表記を入力して,文章中の誤りを修正する。このようにして,読み
上げられた文章の読みを聞きながら,ディスプレイ38およびキーボード41を用
いて文章の校正を連続して行うことができる。」(2頁上右欄14行~下右欄1
行)
すなわち,引用刊行物2には,従来技術として,音声カーソルの移動をテキスト
の修正のために停止すると,音声カーソルがテキストカーソルを兼ねることが記載
されており,両カーソルは連動しているということができる。
また,引用刊行物2には,つぎのようにも記載されている。
「ディスプレイ手段4は,読み列格納手段6から文章の単語列を取り出して,そ
の表記列,すなわち文章を表示する。表示された表記列中における読み上げ位置は,
データ入力可能位置指標8によって指示される。この指標8は,本来データ入力可
能位置を指示するために用いられているものである。制御手段5は,読み列格納手
段6から音声出力手段3への読みの順次取り出しを制御するとともに,データ入力
可能位置ポインタ7により,読み出した順次の読みに対応する単語あるいは表記等
の位置を指示する。このデータ入力可能位置ポインタ7は,ディスプレイ手段4の
画面上におけるデータ入力可能位置指標8のアドレスを制御するために用いられる。
読み上げの結果操作者により,文章中の表記の誤りが検知されたとき,停止指示キ
ー9が操作され,読み上げ動作の停止が指示される。制御手段5は,停止指示キー
9の操作に応答して,読み列格納手段6からの読みの取り出し動作を停止させ,同
時に,データ入力可能位置ポインタ7の値から定められた値(α)を減算する。こ
の結果,ディスプレイ手段4上のデータ入力可能位置指標8は,所定の量だけ戻さ
れる。」(3頁上右欄10行~下左欄13行)
ここで,「所定の量だけ戻され」る前のカーソルが,音声再生位置を示すカーソ
ルであり,「所定の量だけ戻され」た後のカーソルが,訂正位置を示すカーソルで
あり,両者は,停止指示キーの操作に応答して,「所定の量だけ戻され」るという,
所定の距離だけ離間した位置に配置するための連動動作を行っていることになる。
よって,引用発明2は,訂正位置を示すカーソルと音声再生位置を示すカーソル
の2つの別個のカーソルを有しており,両者は,所定の距離だけ離間した位置に配
置するために連動しているといえる。
また,テキストの編集に際してテキストカーソルを表示することは,周知技術で
ある。
よって,引用発明1に,テキスト編集に際してテキストカーソルを表示する周知
技術,引用刊行物2の技術及び引用発明2を考え合わせれば,訂正位置を示すカー
ソルと音声再生位置を示すカーソルの2つの別個のカーソルを設け,両者を連動さ
せることは,容易に想到し得たことである。
したがって,審決の「引用刊行物1のワードを強調するカーソル(音声カーソ
ル)は,・・・本願発明の『テキストカーソル』にも相当し,・・・引用発明1の
訂正装置は,本願発明と同様に『・・・カーソル連動手段』を有しているというこ
とができる。」との認定に誤りはない。
(4)引用刊行物1の(技術分野),(従来の技術)及び(発明が解決しようと
する課題)の各項(2頁下左欄2行~下右欄7行)に記載されているように,引用
発明1は,音声認識装置において認識されたテキストを訂正する従来のテキスト訂
正装置において,誤ったテキストを簡単に訂正するテキスト訂正装置を提供するこ
とを目的としており,音声信号を音響的に連続して再生し,対応する検出ワードを
強調表示することでテキストを訂正するものである。
そして,引用発明2は,「文章読み上げ校正装置」であり,誤りを含む文章(テ
キスト)の誤り箇所を訂正して正しい文章を作成する装置であり,訂正のために,
文章を音声で出力する装置である。したがって,引用発明1のテキスト訂正装置に
おいて,引用発明2の文章読み上げ校正装置の技術を適用することに何ら困難性は
ない。
また,上記(3)記載のとおり,引用発明2は,訂正位置を示すカーソルと音声再
生位置を示すカーソルの2つの別個のカーソルを有しており,両者が,所定の距離
だけ離間した位置に配置するために連動していることが記載されている。
さらに,カーソル連動手段を設けることが,引用発明1,引用刊行物2の技術,
引用発明2,周知技術から容易であることは,上記(3)記載のとおりである。
したがって,審決の「引用発明1において,テキストカーソルと前記音声カーソ
ルとを同じ位置又は所定の距離だけ離間した位置に配置するため,前記表示された
テキストカーソルを前記表示された音声カーソルに,あるいは前記表示された音声
カーソルを前記表示されたテキストカーソルに連動させるカーソル連動手段を設け
るようにすることは当業者が容易になし得ることである。」,「本願明細書に記載
された本願発明によってもたらされる効果は,引用例1に記載の事項および周知技
術から,当業者であれば予測することができる程度のものであり,格別顕著なもの
とはいえない。」との認定・判断には誤りがなく,原告が主張する取消事由2は理
由がない。
第5当裁判所の判断
取消事由2(相違点についての判断の誤り)について判断する。
審決は,相違点の判断において,引用発明1について,「引用刊行物1のワード
を強調するカーソル(音声カーソル)は,誤ったワードを編集するための,本願発
明の『テキストカーソル』にも相当し,引用発明1のテキスト編集手段は,表示手
段に表示される認識テキスト情報の誤ったワードにテキストカーソルを配置及び表
示しているということができ,引用発明1の訂正装置は,音声カーソルと同じ位置
で連動するテキストカーソル,あるいはテキストカーソルと同じ位置で連動する音
声カーソルを有して」いる(12頁37行~13頁5行)と認定した。
しかし,上記の認定には誤りがある。その理由は,以下のとおりである。
1本願発明について
(1)補正後の請求項1の記載によれば,本願発明は,「表示手段に表示される
前記認識テキスト情報の誤ったワードにテキストカーソルを配置及び表示し,ユー
ザにより入力された編集情報に従って前記誤ったワードを編集するテキスト編集手
段」を備えるから,本願発明の「テキストカーソル」は,「テキスト編集手段」に
より「表示手段」に表示される「認識テキスト情報」の誤ったワードに配置及び表
示されるものと認められる。
また,補正後の請求項1の記載によれば,本願発明は,「前記音声情報の音声再
生が実行され,該音声再生中にちょうど再生されているワードに対応し,前記リン
ク情報によりマークされている前記認識テキスト情報のワードが該ワードにおいて
音声カーソルを表示することにより連動してマークされる当該訂正装置の連動再生
モードを実行する連動再生手段」を備えるから,本願発明の「音声カーソル」は,
「連動再生手段」により,「音声情報」の音声再生中にちょうど再生されているワ
ードに対応する上記「認識テキスト情報」のワードに表示されるものと認められる。
そうすると,補正後の請求項1の記載から,本願発明における「テキストカーソ
ル」と「音声カーソル」とは,それぞれ,「テキスト編集手段」及び「連動再生手
段」という異なる構成により配置及び表示されるものと認められるから,両者は別
個のものとして配置及び表示されるものと解するのが合理的である。
(2)補正後の請求項1の記載によれば,本願発明は,「前記テキストカーソル
と前記音声カーソルとを同じ位置又は所定の距離だけ離間した位置に配置するため,
前記表示されたテキストカーソルを前記表示された音声カーソルに,あるいは前記
表示された音声カーソルを前記表示されたテキストカーソルに連動させるカーソル
連動手段」を備える。
(3)本願明細書(甲3)には,「テキストカーソル」及び「音声カーソル」の
操作と配置について,以下の記載がある。
「【0018】
アクティブ状態の同期再生モードの訂正装置において,ユーザは同期再生手段により音声カーソ
ルでマークされたワードが正しいものであるかどうかチェックを行う。そしてユーザはこの音声カ
ーソルの近くで認識テキスト情報に誤ったワードを認識する。このとき,テキストカーソルはこれ
と全く異なる位置に,すなわち直前の誤ったワード訂正されたテキスト情報の位置に通常置かれる。
【0019】
本発明によると,ユーザは,例えば,キーボードのキーを操作することにより,テキストカーソ
ルを音声カーソルに同期させる。これにより,テキストカーソルは同期再生中直前にハイライトさ
れたワード上に置かれる。訂正対象の誤ったワードは一般的にテキストカーソルの近くに置かれる
ので,この訂正対象のワードの訂正は簡単な手動操作で,短時間に行うことができる。
・・・・・・
【0035】
モニタ6に表示されるテキスト情報TIに示されるように,同期再生モードがアクティブ状態なと
き,テキストカーソルTCと音声カーソルACはともに表示されていて,テキストカーソルTCは大抵1
つの文字をマークし,音声カーソルACは常に1つのワード全体をマークしている。同期再生モード
がアクティブ状態のとき,テキストカーソルTCはテキスト情報TIの中の編集手段11が最後に訂正
した誤ったワード上の表示位置にとどまる一方,音声カーソルACはワード間をシフトしていく。
・・・・・・
【0041】
訂正手段10の編集手段11はまた,テキストカーソルTCを音声カーソルACに,あるいは音声カ
ーソルACをテキストカーソルTCに位置合わせする(synchronized)ためのカーソル同期手段15を
備える。これにより,ユーザにより認識された誤ったワードを訂正するためのテキストカーソルTC
の位置決めはかなり容易になる。・・・
・・・・・・
【0052】
適用事例に依存して,逆に音声カーソルACをテキストカーソルTCの位置に合わせることが有益か
もしれない。・・・
・・・・・・
【0053】
このような同期処理によって,2つのカーソルは必ずしも同じ位置になる必要はない。例えば,
一方のカーソルがもう一方のN=3ワード分先行していてもよい。」
上記記載によれば,本願発明は,異なる位置にある「テキストカーソル」と「音
声カーソル」について,そのいずれか一方のカーソルと同じ位置又は所定の距離だ
け離間した位置となるように他方のカーソルを移動させて,両者を「位置合わせす
る(synchronized)」もので,それにより,「訂正対象のワードの訂正は簡単な手
動操作で,短時間に行うことができる」という作用効果を奏することは明らかであ
る。
(4)そうすると,本願発明の「カーソル連動手段」における「前記テキストカ
ーソルと前記音声カーソルとを同じ位置又は所定の距離だけ離間した位置に配置す
るため,前記表示されたテキストカーソルを前記表示された音声カーソルに,ある
いは前記表示された音声カーソルを前記表示されたテキストカーソルに連動させ
る」とは,異なる位置にある「テキストカーソル」と「音声カーソル」について,
そのいずれか一方のカーソルと同じ位置又は所定の距離だけ離間した位置となるよ
うに他方のカーソルを移動させて,両者を「位置合わせする」ことと理解できる。
(5)以上から,本願発明において「テキストカーソル」と「音声カーソル」と
は別個のものとして配置及び表示されるもので,本願発明の「カーソル連動手段」
は,異なる位置にある「テキストカーソル」と「音声カーソル」について,そのい
ずれか一方のカーソルと同じ位置又は所定の距離だけ離間した位置となるように他
方のカーソルを移動させて,両者を「位置合わせする」ものと認められる。そして,
本願発明は,上記の構成により,「訂正対象のワードの訂正は簡単な手動操作で,
短時間に行うことができる」との作用効果を奏するという技術的意義を有すると認
められる。
2引用発明1について
(1)引用刊行物1(甲1)には,引用発明1における,音声認識装置によって
検出された個々の言語の音声信号の再生とテキストの訂正について,以下の記載が
ある。
「従って,本発明の目的は,冒頭部で述べた型式のテキスト処理装置において,検出した言語を
チェックでき,誤って検出した言語を簡単に,短時間でしかも高い信頼性を以て訂正することがで
きるテキスト処理装置を提供することにある。
(発明の概要)
本発明によれば上記目的は,前記音声信号を第1のメモリに記憶し,キーボードと協働するコン
ピュータの制御のもとで前記音声認識装置によって検出した言語にスタートマーク及びエンドマー
クを割り当て,これらマークが第1メモリに記憶されている音声信号と時間的に関連し,前記スタ
ートマーク及びエンドマークを第2のメモリに記憶し,第2メモリに記憶されている検出した言語
のスタートマーク及びエンドマークにより前記コンピュータが,検出した言語に対応し第1メモリ
に記憶されている音声信号と相関をとることができ,コンピュータの制御のもとで検出した言語を
表示装置上に強調表示できると共に同時に関連するオーディオ信号を音響的に再生することができ,
前記キーボードによってデータを前記コンピュータに入力でき,コンピュータによって,必要な場
合表示装置上に表示された検出した言語を訂正できるように構成することにより達成される。テキ
ストに対応する音声信号が付加的に記憶されると共に,これらの音声信号と相関し音声認識装置に
よって検出したテキストの言語と時間的に関連するスタートマーク及びエンドマークも記憶される
ので,各検出した言語に関連する音声信号を割り当て,或は音声信号の各部分に対応する検出言語
を簡単に割り当てることができる。従って,操作者は,例えばチェック又は訂正すべき言語と関連
しコンピュータによって表示装置上に強調表示されたオリジナルの音声信号を音響的に監視するこ
とがでる(判決注「でる」は「できる」の誤記と認める。)。この結果,操作者は関連する言語を
正しく識別することができ,必要な場合これらの言語をキーボードを介して正しい形態で入力する
ことができる。或は,表示装置によって表示されたテキストの検出言語を連続してチェックするこ
とができ,すなわち第1のメモリに記憶されている音声信号を連続して音響的に再生し,関連する
検出された言語をコンピュータによって表示装置上に同時に強調表示することができ,この結果瞬
時的に検出した言語は連続して強調表示され操作者はオリジナルの音声信号を同時に聴取し,従っ
て操作者は訂正が必要な言語を簡単に正確に認識することができる。」(2頁右下欄3行~3頁右
上欄9行)
「上記手段により,音声信号中に含まれる複雑なテキストの個々の言語を認識することができ,
これらの言語をワードメモリ12にデジタル信号として順次記憶する。記憶したワードは別の処理
に有用なものとすると共に,コンピュータ4を介して表示装置13又はプリンタ14に供給する。
このようにして,音声信号にって(判決注「にって」は「によって」の誤記と認める。)表された
テキストは表示装置13上に個々のワードから成るテキストとして直接表示することができ,表示
装置において必要なチェック又は訂正が行われる。けだし,この音声認識装置は特有のエラーを生
じ,個々の言語又は言語群が正しく識別されず誤って表示さるおそれがあるためである。
誤って検出された言語を訂正するため,本発明によるテキスト処理装置は,後述する別の工程を
利用する。
電気信号としてテキスト処理装置の入力部3に供給された音声信号を第1の別のメモリ15に記
憶する。
・・・・・・
さらに,音声認識装置によって検出されワードメモリ12に記憶した個々の言語にスタートマー
ク及びエンドマークを割り当てる。これらのマークは第1メモリ15に記憶した音声信号と特定の
時間関係にある。このように構成することにより,検出された各言語はスタートマーク及びエンド
マークによって境界され,言語のエンドマークは同時に次の言語のスタートマークを構成する。こ
の点に関し,これらのマークを付する際,これらマークが第1のメモリ15に記憶されている音声
信号と特定の時間関係にあるように設定する必要がある。
・・・・・・
第2のメモリ16に記憶されている検出言語のスタートマーク及びエンドマークにより,コンピ
ュータ4は,検出ワードと関連すると共に第1メモリ15に記憶されている音声信号との相関をと
ることができ,表示装置13によって表示された検出言語を例えばカーソルで強調したり或いはコ
ンピュータ4の制御のもとで下側に線を引いたりすることができ,しかも同時に対応するオーディ
オ信号を音響的に再生することもできる。
従って,表示装置13によって表示した言語によって形成されるテキストを簡単に,迅速にしか
も高い信頼性を以てチェックし又は訂正することができる。必要な場合,コンピュータ4と協働す
ると共に指令入力手段として作用するキーボード17とデータとに基づいて表示装置13上に表示
した強調された言語を訂正することができる。・・・
このように構成すれば,操作者は強調されたワードに対応するオーディオ信号を直接監視して音
声認識装置1により対応するワードが正しく検出されたか又は誤って検出されたかを確認すること
ができる。言語が誤って検出された場合,操作者はキーボード17を介して誤ったワードを正しい
ワードで置き換えることができる。一方,第1メモリ15に記憶されている音声信号を音響的に連
続して再生し同時にコンピュータ4により第2メモリ16に記憶されている各検出ワードのスター
トマーク及びエンドマークと協働して対応する検出ワードを表示装置13上に強調表示することに
より,表示装置13によって表示したテキストを例えば連続してチェックすることも可能である。
この結果,操作者は発音されたテキストを連続して聴取すると共に,同時に音声認識装置によって
検出され表示テキスト中に強調表示さた(判決注「さた」は「された」の誤記と認める。)言語に
注目することになる。上述したテキスト処理装置を用いて種々の操作を行なうことにより,簡単で
高い信頼性を以てテキストをチェックし訂正することもでき,このチェック訂正の後プリンタ14
によって最終的に正しいテキストをプリントすることができる。」(4頁左下欄1行~5頁右下欄
3行)
(2)上記記載によれば,引用発明1の目的は,検出した言語をチェックでき,
誤って検出した言語を簡単に,短時間でしかも高い信頼性を以て訂正することがで
きるテキスト処理装置を提供することであり,この目的達成のために,引用発明1
では,音声認識装置によって検出され,表示装置に表示されたテキストにおいて,
検出言語のスタートマーク及びエンドマークで音声信号との相関がとられることに
より,音響的に再生されている言語が表示装置上に強調表示され,操作者が,発音
されたテキストを連続して聴取するとともに,この強調表示された言語に注目し,
言語が誤って検出されたと確認された場合,この強調表示された言語を訂正できる
ようにしたと認められる。
そうすると,引用発明1では,音響的に再生されている言語が表示装置上に強調
表示され,この強調表示された言語に,音声認識の検出誤りを発見した場合に,操
作者がこの強調表示された言語を訂正できるのであって,引用刊行物1の記載から
は,引用発明1において,音響的に再生されている言語の強調表示とは別に,表示
画面上の検出誤りがある言語にカーソルが配置及び表示され,この言語を操作者が
訂正できるとは認められない。
(3)本願発明における「テキストカーソル」と「音声カーソル」とは別個のも
のとして配置及び表示されるもので,本願発明の「カーソル連動手段」は,異なる
位置にある「テキストカーソル」と「音声カーソル」について,そのいずれか一方
のカーソルと同じ位置又は所定の距離だけ離間した位置となるように他方のカーソ
ルを移動させて,両者を「位置合わせする」ものであることは,上記1で認定した
とおりである。
そうすると,「引用刊行物1のワードを強調するカーソル」は,本願発明の「音
声カーソル」に相当すると認められるが,誤ったワードを編集する,本願発明の
「テキストカーソル」に相当するとは認められず,また,引用発明1が「音声カー
ソルと同じ位置で連動するテキストカーソル,あるいはテキストカーソルと同じ位
置で連動する音声カーソルを有して」いるとも認められない。
以上から,審決の相違点の判断における,「引用刊行物1のワードを強調するカ
ーソル(音声カーソル)は,誤ったワードを編集するための,本願発明の『テキス
トカーソル』にも相当し,引用発明1のテキスト編集手段は,表示手段に表示され
る認識テキスト情報の誤ったワードにテキストカーソルを配置及び表示していると
いうことができ,引用発明1の訂正装置は,音声カーソルと同じ位置で連動するテ
キストカーソル,あるいはテキストカーソルと同じ位置で連動する音声カーソルを
有して」いるとの認定には,誤りがある。
3引用刊行物2の技術について
(1)引用刊行物2(甲2)には,引用刊行物2の技術について以下の記載があ
る。
「表示制御部37は,音声出力部35が読み上げている文章の表記を,ディスプレイ38に表示
させる。このとき,読み上げ中の表記位置は,カーソルあるいは文字の輝度制御等により,ディス
プレイ上で識別可能に表示される。
たとえば,カーソルを用いる場合,読み上げの進行に合わせてカーソルは移動され,文章中の該
当する表記位置を順次指示する。
この場合,カーソルは,修正データを入力する際の入力位置を指示するためにも使用される。
操作者(校正者)は,読み上げられた“読み”とディスプレイ38に表示された表記とにしたが
って入力した文章の正誤をチェックする。
チェックの結果,文章中の表記に誤りが認識されたとき,停止指示キー40を操作して,停止指
示を行う。
停止制御部39は,停止指示に応答して,主制御部30を介して音声出力部35による読み上げ
動作を停止させるとともに,表示制御部37による表示動作も,現時点の状態で停止させる。
次に操作者は,キーボード41を操作して,ディスプレイ上のカーソルを制御し,データ入力位
置を指定し,正しい表記を入力して,文章中の誤りを修正する。
このようにして,読み上げられた文章の読みを聞きながら,ディスプレイ38およびキーボード
41を用いて文章の校正を連続して行うことができる。」(2頁右上欄14行~右下欄1行)
上記記載によれば,引用刊行物2には,音声出力部が文章を読み上げるのにあわ
せて,ディスプレイに表示された文章中の該当する表記位置をカーソルを移動させ
て指示し,操作者は文章中の表記に誤りを認識すると,停止指示キーを操作して読
み上げ動作を停止させるとともに上記カーソルの移動を停止し,次に上記カーソル
を制御し,データ入力位置を指定したうえで,文章中の誤りを修正することが記載
されていると認められる。
そうすると,引用刊行物2の技術において,音声出力部により文章が読み上げら
れている間,ディスプレイ上には読み上げ中の表記位置を示すカーソルが表示され
るだけで,使用者の操作により文章中の誤った表記に配置されるカーソルが別に表
示されるとは認められない。また,引用刊行物2の技術において,文章中の表記の
誤りを修正する時は,操作者の停止指示により文章の読み上げが停止され,ディス
プレイ上には,操作者により制御され,データ入力位置を示すカーソルが表示され
るだけで,読み上げ中の表記位置を示すカーソルが別に表示されるとは認められな
い。
(2)審決は,従来技術である引用刊行物2の技術について,「引用刊行物2の
技術には,文章読み上げ校正装置において,ディスプレイに表示された文章におい
て文章の表記位置を読み上げカーソル(本願発明の『音声カーソル』に相当す
る。)を移動させて指示し,操作者は文章中の表記に誤りがあると,停止指示キー
を操作して停止指示をし,読み上げカーソルの移動を停止し,このカーソルは,修
正データの入力位置を指示するためにも使用されること(本願発明の『テキストカ
ーソル』に相当する。),即ち,音声カーソルがテキストカーソルを兼ねることが
記載されて」いる(13頁10~17行)と認定した。
上記(1)で認定したとおり,引用刊行物2の技術におけるカーソルは,音声出力
部により文章が読み上げられている間は,読み上げ中の表記位置を示し,文章の読
み上げが停止されて文章中の表記の誤りを修正する時は,データ入力位置を示すよ
うに,その機能が選択的に切り替えられるものである。すると,引用刊行物2の技
術におけるカーソルは,本願発明における「音声カーソル」と「テキストカーソ
ル」の両方の機能を備え,これらの機能が選択的に切り替えられるものであり,こ
の点で「音声カーソル」と「テキストカーソル」とを兼ねているといえる。したが
って,審決における引用刊行物2の技術の認定に誤りはない。
しかし,引用刊行物2の技術では,音声出力部により文章が読み上げられている
間は,ディスプレイ上には読み上げ中の表記位置を示すカーソルが表示されるだけ
で,使用者の操作により文章中の誤った表記に配置されるカーソルが別に表示され
るとは認められず,また,文章中の表記の誤りを修正する時は,操作者の停止指示
により文章の読み上げが停止されるとともに,ディスプレイ上には,操作者により
制御され,データ入力位置を示すカーソルが表示されるだけで,読み上げ中の表記
位置を示すカーソルが別に表示されるとは認められない,すなわちカーソルは単一
である。
4引用発明2について
(1)引用刊行物2(甲2)には,引用発明2について以下の記載がある。
「本発明は,文章読み上げ校正装置の読み上げ動作中に停止指示が行われたとき,その時点にお
ける文章中の読み上げ表記位置から所定の文字数分だけ戻した位置を停止位置とし,またその位置
をデータ入力可能位置とするように制御するもので,これにより,実際の誤り表記位置までの距離
を小さくあるいは零とし,データ入力可能位置を指示するための操作量を削減している。」(3頁
左上欄3~10行)
「ディスプレイ手段4は,読み列格納手段6から文章の単語列を取り出して,その表記列,すな
わち文章を表示する。表示された表記列中における読み上げ位置は,データ入力可能位置指標8に
よって指示される。この指標8は,本来データ入力可能位置を指示するために用いられているもの
である。
制御手段5は,読み列格納手段6から音声出力手段3への読みの順次取り出しを制御するととも
に,データ入力可能位置ポインタ7により,読み出した順次の読みに対応する単語あるいは表記等
の位置を指示する。
このデータ入力可能位置ポインタ7は,ディスプレイ手段4の画面上におけるデータ入力可能位
置指標8のアドレスを制御するために用いられる。
読み上げの結果操作者により,文章中の表記の誤りが検知されたとき,停止指示キー9が操作さ
れ,読み上げ動作の停止が指示される。
制御手段5は,停止指示キー9の操作に応答して,読み列格納手段6からの読みの取り出し動作
を停止させ,同時に,データ入力可能位置ポインタ7の値から定められた値(α)を減算する。こ
の結果,ディスプレイ手段4上のデータ入力可能位置指標8は,所定の量だけ戻される。
〔作用〕
第1図に示された本発明の構成によれば,文章の読み上げが進むにつれ,ディスプレイ手段4の
画面のデータ入力可能位置指標8は,文章の表記列上を同期して走査してゆき,停止指示キー9に
よる停止指示があったとき,少し戻されて停止される。
停止指示があったとき,データ入力可能位置指標を戻す量は,読み上げ校正により操作者が表記
の誤りに気が付いてから停止指示キー9を操作するまでに要する平均的時間と,装置の読み上げ速
度,読み上げられた音節と文字あるいは単語と対応等に基づく適切な値(α)に設定される。
それにより,操作者が表記の誤りに気が付いた時点で即時停止したときの位置,すなわち表記の
誤りのある単語等の位置あるいはその近傍に,データ入力可能位置指標8を位置づけることができ
る。
その結果,誤りのあった表記を修正するためのデータ入力位置を指示する指標位置の変更量を,
零ないしは極く僅かなもので済ますことができ,校正操作を容易にすることができる。第1図中の
ディスプレイ手段4の画面に示されている例では,誤表記“較”に気が付いて実際に停止指示が“
あ”で出されても,データ入力可能位置指標8を“較”の近傍に戻して停止させることが可能であ
る。」(3頁右上欄10行~右下欄20行)
(2)上記記載によれば,引用刊行物2では,音声出力手段による文章の読み上
げが進むにつれ,読み上げ位置は,ディスプレイ手段の画面のデータ入力可能位置
指標によって指示され,上記データ入力可能位置指標は,文章の表記列上を同期し
て走査してゆき,文章中の表記の誤りが検知され,操作者による停止指示があった
時は,文章の読み上げが停止され,上記データ入力可能位置指標は,少し戻されて
停止され,その位置をデータ入力可能位置として,誤りのあった表記が修正される
と認められる。そして,引用刊行物2には,読み上げ位置を指示する上記データ入
力可能位置指標は,本来データ入力可能位置を指示するために用いられているとの
記載がある。
しかし,引用刊行物2には,文章中の表記の誤りが検知され,操作者による停止
指示があった時に,上記データ入力可能位置指標がデータ入力可能位置を指示する
ために用いられることが記載されているだけで,引用発明2において,音声出力手
段により文章が読み上げられている間,上記データ入力可能位置指標がデータ入力
可能位置を指示するために用いられることが記載されているとは認められない。
そうすると,引用発明2においては,音声出力手段による文章の読み上げが進む
間,ディスプレイ手段の画面には,データ入力可能位置指標によって読み上げ位置
が示されるだけで,データ入力可能位置を指示するカーソルが別に表示されるとは
認められない。また,引用発明2において,文章中の表記の誤りが検知され,操作
者による停止指示があった時は,上記データ入力可能位置指標は,少し戻されて停
止され,その位置がデータ入力可能位置として示されるだけで,音声出力手段によ
る文章の読み上げ位置を示すカーソルが別に表示されるとは認められない。
(3)審決は,相違点の判断において,引用発明2について,「引用発明2には,
文章読み上げ校正装置において,入力可能位置指標(本願発明の「テキストカーソ
ル」に相当する。)は文書読み上げにおいて,読み上げ位置を指示し(本願発明の
「音声カーソル」に相当する。),両者は読み上げ中は同じ位置で連動させる連動
手段を有しているということができ,停止指示がなされると所定の距離だけ離間し
て両カーソルが位置することが記載されている」(13頁17行~22行)と認定
した。
しかし,上記の認定には誤りがある。すなわち,上記(2)で検討したとおり,引
用発明2において,音声出力手段による文章の読み上げが進む間,ディスプレイ手
段の画面には,データ入力可能位置指標によって読み上げ位置が示されるだけで,
データ入力可能位置を指示するカーソルが別に表示されるとは認められず,また,
文章中の表記の誤りが検知され,操作者による停止指示があった時は,文章の読み
上げが停止されるとともに,上記データ入力可能位置指標は,少し戻されて停止さ
れ,その位置がデータ入力可能位置として示されるだけで,音声出力手段による文
章の読み上げ位置を示すカーソルが別に表示されるとは認められない。
そうすると,引用発明2において,「入力可能位置指標」は,「文書読み上げに
おいて,読み上げ位置を指示し(本願発明の「音声カーソル」に相当する。)」て
いるとしても,文書読み上げにおいて,データ入力可能位置を指示しているとは認
められず,また,「両者は読み上げ中は同じ位置で連動させる連動手段を有し」,
「停止指示がなされると所定の距離だけ離間して両カーソルが位置する」とも認め
られないから,審決における引用発明2の上記の認定には,誤りがある。
そして,引用刊行物2の技術と同様,引用発明2は,単一のカーソルを備え,こ
のカーソルの機能を,本願発明における「音声カーソル」としての機能と「テキス
トカーソル」としての機能とに選択的に切り替えるものである。
5相違点に係る構成の容易想到性の判断について
上記2で検討したとおり,引用発明1において,音響的に再生されている言語の
強調表示(本願発明の「音声カーソル」に相当。)とは別に,表示画面上の検出誤
りがある言語にカーソルが配置及び表示され,この言語を操作者が訂正できるとは
認められず,また,引用発明1は「音声カーソルと同じ位置で連動するテキストカ
ーソル,あるいはテキストカーソルと同じ位置で連動する音声カーソルを有して」
いるとも認められない。
そして,上記3及び4で検討したとおり,引用刊行物2の技術及び引用発明2は,
いずれも,単一のカーソルを備えるものであるから,テキストの編集に際してテキ
ストカーソルを表示することが本件優先日における周知技術であるとしても,音響
的に再生されている言語の強調表示とは別に,表示画面上の検出誤りがある言語に
カーソルが配置及び表示されない引用発明1と,単一のカーソルを備え,このカー
ソルの機能を,本願発明における「音声カーソル」としての機能と「テキストカー
ソル」としての機能とに選択的に切り替える,引用刊行物2の技術及び引用発明2
とからは,「表示手段に表示される前記認識テキスト情報の誤ったワードにテキス
トカーソルを配置及び表示し,ユーザにより入力された編集情報に従って前記誤っ
たワードを編集する」ようにし,「前記テキストカーソルと前記音声カーソルとを
同じ位置又は所定の距離だけ離間した位置に配置するため,前記表示されたテキス
トカーソルを前記表示された音声カーソルに,あるいは前記表示された音声カーソ
ルを前記表示されたテキストカーソルに連動させる」本願発明の構成とすることを,
当業者が容易に想到し得たとは認められない。
また,上記1記載のとおり,本願発明は,上記の相違点に係る構成により,「訂
正対象のワードの訂正は簡単な手動操作で,短時間に行うことができる」との作用
効果を奏するものと認められるが,この作用効果も,引用発明1,引用刊行物2の
技術及び引用発明2から,当業者が容易に予測し得たとは認められない。
以上から,審決における,相違点に係る構成の容易想到性の判断には誤りがある。
6被告の主張について
被告は,本願明細書に「同期再生モードは同期データSYIの入力によって自動的
に中断され,編集データEIの入力後続けられてもよい。・・・」(【0057】)と
記載されていることを理由に,本願発明は,テキストカーソルにより誤ったワード
の編集をする際に,同期再生モード(連動再生モード)を中断すること,すなわち,
本件発明は,誤ったワードを編集する過程においても音声情報の音声再生が継続し
て行われないということも含んでいるとし,審決が,本願発明が誤ったワードを編
集する過程においても音声情報の音声再生が継続して行われるという特徴を有して
いることを看過したことにより相違点を容易であると誤認したとの原告の主張は誤
りであると主張する。
しかし,被告の上記の主張は採用できない。その理由は,以下のとおりである。
本願明細書の段落【0043】~【0045】には,本願発明の実施例として,
使用者(秘書)が「音声カーソルAC」がマークした「テキスト情報TI」のワードを
誤りと認識し,「同期情報SYI」を入力することにより,「テキストカーソルTC」
が「音声カーソルAC」に位置合わせされ,使用者(秘書)がこの誤ったワードを訂
正することが記載されている。また,段落【0057】には,上記実施例の変形例
として,誤ったワードを訂正する際に,「同期データ(同期情報)SYI」の入力に
よって同期再生モードを自動的に中断し,編集データEIを入力して誤ったワードを
訂正し,編集データの入力後に同期再生モードを続けることにより,「訂正処理と
平行して変換されたテキスト情報ETIの誤ったワードをさらにサーチする必要がな
い」ことが記載されている。
そうすると,段落【0057】に記載の変形例では,段落【0043】~【00
45】に記載の実施例と同様,「テキストカーソルTC」は「音声カーソルAC」に位
置合わせされた後,同期再生モードの中断により「音声カーソルAC」は中断時の位
置に置かれたままとなり,「テキストカーソルTC」は誤ったワードの訂正箇所に置
かれ,編集データの入力後に同期再生モードを続けることにより,「音声カーソル
AC」が「テキスト情報TI」のワードを次々とマークし続けていくと理解できる。そ
して,段落【0057】に記載の変形例によれば,被告が主張するとおり,「本件
発明は,テキストカーソルにより誤ったワードの編集をする際に,同期再生モード
(連動再生モード)を中断すること,すなわち,本件発明は,誤ったワードを編集
する過程においても音声情報の音声再生が継続して行われないということも含んで
いる」ことは認められる。
しかし,段落【0057】に記載の変形例においても,「テキストカーソル」と
「音声カーソル」とは別個のものとして配置及び表示され,「カーソル連動手段」
は,異なる位置にある「テキストカーソル」と「音声カーソル」について,そのい
ずれか一方のカーソルと同じ位置又は所定の距離だけ離間した位置となるように他
方のカーソルを移動させて,両者を「位置合わせする」ものと認められる。そうす
ると,段落【0057】に記載の変形例についてみても,本願発明が,引用発明1,
引用刊行物2の技術及び引用発明2に基づいて当業者が容易に想到し得たものとは
認められず,審決における相違点の判断には誤りがある。
したがって,被告が主張するとおり,本願明細書の記載から「本件発明は,誤っ
たワードを編集する過程においても音声情報の音声再生が継続して行われないとい
うことも含んでいる」としても,審決における相違点の判断には誤りがあり,被告
の上記の主張は採用できない。
第6結論
以上によれば,その余の点につき判断するまでもなく,原告主張の取消事由2に
は理由がある。よって,審決を取り消すこととして,主文のとおり判決する。
知的財産高等裁判所第2部
裁判長裁判官
塩月秀平
裁判官
池下朗
裁判官
古谷健二郎

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