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平成30年7月19日判決言渡
平成29年(行ウ)第112号上陸基準省令違反処分取消等請求事件
主文
1本件各訴えをいずれも却下する。
2訴訟費用は原告の負担とする。5
事実及び理由
第1請求
1主位的請求
名古屋入国管理局長が平成29年8月24日付けで原告に対してした管名
審留896号通知を取り消す。10
2予備的請求(第1次)
名古屋入国管理局長が平成29年8月24日付けで原告に対してした管名
審留896号通知中の「原告が平成29年3月5日まで『出入国管理及び難民
認定法第七条第一項第二号の基準を定める省令』の表の法別表第一の二の表の
技能実習の項の下欄第1号ロに掲げる活動の項の下欄16号の表のヲに掲げ15
る外国人の適正な技能実習を妨げる不正行為を行っていた」との認定を取り消
す。
3予備的請求(第2次)
原告が,平成29年3月5日まで「出入国管理及び難民認定法第七条第一項
第二号の基準を定める省令」の表の法別表第一の二の表の技能実習の項の下欄20
第1号ロに掲げる活動の項の下欄16号の表のヲに掲げる外国人の適正な技
能実習を妨げる不正行為を行っていないことを確認する。
第2事案の概要
1本件は,原告が,名古屋入国管理局長(以下「名古屋入管局長」という。)か
ら平成29年8月24日付けで,平成29年法務省令第19号による改正前の25
「出入国管理及び難民認定法第七条第一項第二号の基準を定める省令」(平成
2年法務省令第16号。以下「上陸基準省令」という。)の表の「法別表第一の
二の表の技能実習の項の下欄第1号ロに掲げる活動」の項の下欄16号の表の
ヲに掲げる外国人の適正な技能実習を妨げる不正行為(以下「ヲ号不正行為」
という。)を行ったと認定したなどとの通知(以下「本件通知」といい,本件通
知に係る認定を「本件認定」といい,両者を併せて「本件通知等」という。)を5
受けたところ,本件通知等は行政事件訴訟法(以下「行訴法」という。)3条2
項にいう「行政庁の処分その他公権力の行使に当たる行為」(以下「行政処分」
という。)であるとして,主位的に本件通知の取消しを,本件通知が行政処分に
当たらない場合に予備的(第1次)に本件認定の取消しを,本件認定も行政処
分に当たらない場合に予備的(第2次)に原告がヲ号不正行為を行っていない10
ことの確認を求める事案である。
被告は,本案前の主張として,主位的請求及び予備的請求(第1次)につき,
本件通知等は行政処分に該当しない,予備的請求(第2次)につき,同請求に
係る訴えには確認の利益が存在しない旨主張して争っている。
当裁判所は,本案前の争点について判断するために弁論を終結した。15
2関係法令の定め等
(1)本件通知等がされた当時のもの
ア平成28年法律第89号による改正前の出入国管理及び難民認定法(以
下「入管法」という。)
入管法7条1項においては,外国人が本邦に上陸するためには,同項各20
号に掲げる上陸のための条件に適合していなければならないとされ,同項
2号においては,申請に係る本邦において行おうとする活動が虚偽のもの
でなく,入管法「別表第一の下欄に掲げる活動(中略)又は別表第二の下
欄に掲げる身分若しくは地位(中略)を有する者としての活動(以下略)」
のいずれかに該当し,かつ,入管法別表第一の二の表(技能実習等)及び25
四の表(留学,研修等)の下欄に掲げる活動を行おうとする者については,
我が国の産業及び国民生活に与える影響その他の事情を勘案して法務省令
で定める基準(上陸基準省令)に適合すること等が規定されている。
そして,入管法別表第一の二の表の技能実習の項の下欄において,1号
ロとして,「法務省令で定める要件に適合する営利を目的としない団体によ
り受け入れられて行う知識の修得及び当該団体の策定した計画に基づき,5
当該団体の責任及び監理の下に本邦の公私の機関との雇用契約に基づいて
当該機関の業務に従事して行う技能等の修得をする活動」(以下「技能実習
1号ロ」という。)が,2号ロとして,「前号ロに掲げる活動に従事して技
能等を修得した者が,当該技能等に習熟するため,法務大臣が指定する本
邦の公私の機関との雇用契約に基づいて当該機関において当該技能等を要10
する業務に従事する活動(法務省令で定める要件に適合する営利を目的と
しない団体の責任及び監理の下に当該業務に従事するものに限る。)」(以
下「技能実習2号ロ」という。)が,それぞれ規定されている。
イ上陸基準省令
入管法7条1項2号を受けて規定された上陸基準省令においては,「技能15
実習1号ロ」について1号から40号までの上陸許可基準が定められてお
り,技能実習生,実習実施機関(本邦にある事業所において技能実習を実
施する法人又は個人をいう。以下同じ。),監理団体(平成29年法務省令
第19号による廃止前の「出入国管理及び難民認定法別表第一の二の表の
技能実習の項の下欄に規定する団体の要件を定める省令」(平成21年法務20
省令第53号。以下「団体要件省令」という。)1条1号に規定する技能実
習生の技能,技術又は知識を修得する活動の監理を行う営利を目的としな
い団体をいう。以下同じ。)等に関する様々な基準が定められている。この
うち,監理団体については,講習の実施,技能実習生用の宿泊施設の確保
等の要件が定められているほか,16号(以下「上陸基準省令(技能実習25
1号ロ)16号」という。)において,「監理団体又はその役員,管理者若
しくは技能実習の監理に従事する常勤の職員が外国人の技能実習に係る不
正行為で次の表の上欄に掲げるものを行ったことがある場合は,当該不正
行為が終了した日後同表下欄に掲げる期間を経過し,かつ,再発防止に必
要な改善措置が講じられていること。ただし,当該不正行為が技能実習の
適正な実施を妨げるものでなかった場合は,この限りでない。」と規定され,5
同号の表のヲにおいて,上欄に「監理団体において,出入国管理及び難民
認定法別表第一の二の表の技能実習の項の下欄に規定する団体の要件を定
める省令(…中略…)第1条第2号の2から第4号まで,第6号及び第8
号(文書の作成及び保管に係る部分を除く。)に規定する措置を講じないこ
と」と,下欄に「3年間」と,それぞれ規定されている。10
ウ団体要件省令
入管法別表第一の二の表の「技能実習」の項の下欄の定めを受けて規定
された,団体要件省令1条3号においては,「監理団体の役員で当該技能実
習の運営について責任を有する者が,実習実施機関において行われる技能
実習の実施状況について3月につき少なくとも1回監査を行うほか,監理15
団体において実習実施機関による不正行為を知った場合は直ちに監査を行
い,その結果を当該監理団体の所在地を管轄する地方入国管理局に報告す
ることとされていること。ただし,当該役員が実習実施機関の経営者又は
職員を兼務するときは,当該実習実施機関の監査については,監理団体の
他の役員が行うこととされていること。」と規定されている。20
エ法務省入国管理局における指針
法務省入国管理局は,「技能実習生の入国・在留管理に関する指針」(平
成25年12月改訂。以下「本件指針」という。)を策定,公表し,上陸基
準省令における不正行為の具体的内容を明らかにするとともに,これらの
不正行為が認められた場合には,上陸基準省令に従い,厳正に対処するこ25
ととしている。なお,前記不正行為の具体的な項目として,「賃金等の不払」,
「労働関係法令違反」等が挙げられている。
また,地方入国管理局は,監理団体又は実習実施機関(以下「監理団体
等」という。)における不正行為が確認され,当該不正行為が技能実習の適
正な実施を妨げるものであった場合には,当該監理団体等に対し,上陸基
準省令(技能実習1号ロ)16号の表の上欄に掲げる不正行為の終了した5
日から,同表の下欄に掲げる所定の期間,同号の基準に適合しないことと
なる旨の通知(監理団体等が不正行為を行った旨の認定を含む。以下「不
正行為の通知」という。)を行うこととしている。この通知は,本邦の実習
実施機関において技能実習を受けようとする外国人(以下「技能実習生に
なろうとする者」という。)が,地方入国管理局に対し,在留資格認定証明10
書交付申請を行う前に,あらかじめ本国で監理団体が連携する外国の送出
し機関を通じて,技能実習生になろうとする者と実習実施機関との雇用契
約の成立に係るあっせんを受けた上で,同当事者間での雇用契約の締結が
行われるなど,関係者による一連の準備行為が行われるため,関係者が受
ける不利益や影響等を慮って行われているものである。15
そして,この場合,当該監理団体等は,新規の技能実習生の受入れを行
うことができず,当該監理団体等が受入れを予定している外国人で,在留
資格認定証明書の交付を受けている者がいまだ入国していなければ,速や
かにそれを取り寄せて返納する必要がある。(甲2,弁論の全趣旨)
オなお,上陸基準省令(技能実習1号ロ)16号の「不正行為が終了した20
日」との部分は,平成24年法務省令第37号による改正(以下「平成2
4年改正」という。)前の上陸基準省令においては,「不正行為が行われた
と認められた日」と規定されており,運用上は,不正行為の通知がされた
日をもって「不正行為が行われたと認められた日」と取り扱われていた(甲
12)。25
(2)本件通知等の後に施行された制度等
ア平成28年11月28日,「外国人の技能実習の適正な実施及び技能実
習生の保護に関する法律」(以下「技能実習法」という。)が成立し,平成
29年11月1日,施行された。
技能実習法の下においては,技能実習における監理事業を行おうとする
者は,主務大臣の許可を受けなければならないとされ(23条1項),当該5
主務大臣の許可については欠格事由が定められているところ(26条),前
記欠格事由の一つとして,「第23条第1項の許可の申請の日前5年以内に
出入国又は労働に関する法令に関し不正又は著しく不当な行為をした者」
(同条4号)が規定されている。
また,技能実習法の下においては,技能実習を行わせようとする者は,10
技能実習生ごとに,技能実習の実施に関する計画を作成し,これを外国人
技能実習機構(以下「機構」という。)に提出し,機構は,前記計画が所定
の要件に適合すると認めるときは,その認定をする旨規定されているとこ
ろ(8条,9条,12条,外国人の技能実習の適正な実施及び技能実習生
の保護に関する法律の規定により外国人技能実習機構に行わせることとし15
た事務(平成29年法務省,厚生労働省告示第3号)),その要件の一つと
して,団体管理型技能実習に係るものである場合には,監理団体による実
習監理を受けること(9条8号)が定められている。(甲3)
イ法務省及び厚生労働省は,平成29年7月,「技能実習制度運用要領」(甲
11。以下「本件運用要領」という。)を作成し,公表したところ,本件運20
用要領には,「旧制度及び現行制度施行以後にかかわらず,地方入国管理局
から,技能実習生の受入れを一定期間認めない旨の『不正行為』の通知を
受けている者については,当該受入れ停止期間中は欠格事由に該当し,監
理団体の許可を受けることはできません。」との記載がある。また,法務省
入国管理局及び厚生労働省人材開発統括官は,同月頃,「新たな外国人技能25
実習制度について」との題名の資料(以下「本件資料」という。)を作成し
たところ,本件資料には,「旧制度の不正行為等の新制度での取扱い」との
標目で,「施行日前後にかかわらず,旧制度の不正行為は,技能実習法上の
欠格事由に該当し,新制度においても技能実習生の受入れは認められな
い。」,「(参考)技能実習法上の欠格事由1(略)2監理団体の許可
申請『許可の申請の日前5年以内に出入国又は労働に関する法令に関し5
不正又は著しく不当な行為』をしたとき(法26条4号)」との記載がある。
なお,前記の「不正行為」については,技能実習の適正な実施を妨げるも
のとして受入れ停止を通知された行為を行った場合において,受入れ停止
期間を経過していないものが対象となるとされている。(甲3,11)
ウ法務省入国管理局の平成30年2月19日の報道発表(以下「本件報道10
発表」という。)に係る広報資料には,「技能実習法施行前の旧制度に(マ
マ)行われた行為については,技能実習法施行前の上陸基準省令の規定に
基づき『不正行為』を通知している」旨の記載がある。(甲14)
3前提事実(当事者間に争いのない事実並びに掲記の証拠及び弁論の全趣旨に
より容易に認められる事実等)15
(1)当事者等
ア原告は,外国人技能実習生の共同受入れ事業等を目的とする中小企業団
体の組織に関する法律3条1項1号に規定する事業協同組合である。(甲1)
イ有限会社Aは,衣料品の企画,製造及び販売等を目的とする会社であり,
平成21年8月1日,代表取締役にBが就任した。なお,Bは,遅くとも20
平成27年7月7日から平成29年3月5日までの間,原告の理事であっ
た。(甲1,9,乙10,弁論の全趣旨)
ウCは,Bの父であり,個人事業主として「D」という屋号を用いて縫製
業を営んでいる(以下,同人が「D」という屋号で個人事業をしている場
合には,その主体を「D」という。)。(乙11,15,弁論の全趣旨)25
(2)本件通知等に至る経緯等
ア原告は,平成27年11月7日,監理団体として,第1回の技能実習生
の受入れを開始し,同日,監理団体を原告,実習実施機関をDとする技能
実習生3名が,入国審査官から,在留資格を「技能実習1号ロ」,在留期間
を「1年」とする上陸許可を受けて入国し,平成28年11月8日,在留
資格を「技能実習2号ロ」,在留期間を「1年」とする在留資格変更許可を5
受けた。(甲4,乙9,12,13)
イ原告は,平成28年2月8日から平成29年2月14日までの間,名古
屋入国管理局(以下「名古屋入管」という。)に対し,Dにおいて外国人技
能実習生らの技能実習が順調に実施されている旨の内容が記載された監査
結果報告書を,7回にわたって提出した。(乙14)10
ウ名古屋入管及び愛知労働局が,平成29年3月14日,D及び有限会社
Aに立入り調査を行ったところ,最低賃金法4条1項違反(技能実習生に
対し,平成27年3月分から平成29年2月分までの賃金について,愛知
県最低賃金に満たない賃金を支払っていたこと)及び労働基準法37条1
項違反(技能実習生に対し,平成27年3月分から平成29年2月分まで15
の賃金について,法定の割増率に満たない時間外割増賃金を支払っていた
こと)の各事実が判明したため,E労働基準監督署の労働基準監督官は,
D及び有限会社Aに対し,同年3月17日付けで是正勧告をした。(乙16
ないし21)
エDは,遅くとも平成29年4月10日までに,前記ウの未払賃金の全額20
を支給し,同月11日,E労働基準監督署長に対し,是正報告書を提出し
た。また,原告は,同年3月22日,同年4月24日,同月25日,同年
5月30日及び同年6月6日,名古屋入管に対し,前記ウの賃金の不払等
に関する報告書等を提出するなどした。(乙15,19ないし22)
オ名古屋入管局長は,平成29年4月11日,愛知労働局長から,Dにお25
ける技能実習生に係る労働基準関係法令等の違反事実の通報を受け,同年
8月24日付けで,原告について,団体要件省令1条3号に規定する措置
を講じていないものとして,上陸基準省令(技能実習1号ロ)16号の表
のヲにいう不正行為(外国人の技能実習の適正な実施を妨げるもの)を行
ったと認定し(本件認定),本件認定をしたこと及び前記不正行為が終了し
た日(平成29年3月5日)から3年間上陸基準省令等に適合しないこと5
となる旨を原告に通知した(本件通知)。なお,名古屋入管局長は,同年8
月24日付けで,Dに対し,同月25日付けで,有限会社Aに対し,不正
行為を行ったと認定したことなどをそれぞれ通知した。(甲5,8,乙12,
18,24,25)
(3)本件訴えの提起10
原告は,平成29年9月20日,本件訴えを提起した。(顕著な事実)
3争点及び当事者の主張
本件の争点は,(1)主位的請求及び予備的請求(第1次)につき,本件通知等
が行政処分に該当するか,(2)予備的請求(第2次)につき,同請求に係る訴え
が確認の利益を有するか,である。15
(1)本件通知等が行政処分に該当するか。
(原告の主張)
ア不正行為の通知を受けた監理団体は,所定の期間は新たに技能実習生を
受け入れることができなくなるほか,当該監理団体が受け入れることを予
定している入国前の技能実習生がいる場合には,既に交付された在留資格20
認定証明書を当該外国人から取り寄せ,地方入国管理局への返納を行わな
ければならず,また,既に入国済みの技能実習生は,そのままでは技能実
習1号ロから技能実習2号ロへの資格変更ができないために従来予定して
いた実習の継続は不可能となることから大多数の者が不正行為がされてい
るのと別の機関で働いているにもかかわらず,在留期限が迫る中,転籍先25
を探さなければならなくなるなど,多方面にわたる困難な行為義務を課さ
れ,通知の名宛人以外の第三者までが強い行政指導を受ける仕組みとなっ
ていて,その効果は業務停止命令に類似するとすらいい得る。なお,通知
までされずとも,不正行為に係る認定がされているだけで,前記の効果が
生ずる仕組みになっている場合には,その認定に行政処分性が認められる
べきである。5
また,不正行為の通知は,不正行為があれば,直ちにされるものではな
く,政策的見地から当該不正行為が「技能実習の適正な実施を妨げるもの」,
すなわち,不正行為を行った機関や個人について,不正行為の態様や程度
を個別に調査した結果,技能実習を継続して実施させることが技能実習制
度の適正な運営上好ましくないと認められるものに該当するか否かについ10
て判断した上で行われるものであるから,慎重かつ専門的な裁量判断,す
なわち行政処分が必要となるというべきである。
さらに,観念の通知であっても,それが直接国民の権利義務を形成し又
はその範囲を確定する性質を持つものである場合には,行政処分に該当す
るところ,前記のとおり,不正行為の通知は,即時に,強力,広範かつ確15
定的な効果を生じさせるものである。
加えて,平成24年改正前の上陸基準省令(技能実習1号ロ)16号の
「不正行為が行われたと認められた日」との部分は,当局が不正行為認定
の通知を行った日を意味していたため,平成24年改正前の上陸基準省令
においては,不正行為の通知は,技能実習生の受入れ停止期間の起算点等20
の確定や,強い行政指導等を行うために必要な仕組みに組み込まれていた
のであり,法律上の根拠に基づくものといえる。この点に関し,平成24
年改正によって「不正行為が行われたと認められた日」との文言が「不正
行為が終了した日」と変更されたが,これは,当局が調査に要した時間の
長短によって受入不能な期間が左右されることをなくすとともに,技能実25
習生の保護をより図る観点からの変更であって,不正行為の通知に係る法
令の仕組みが変更されたものではないし,前記改正後も,上陸基準省令と
作成者も同じで内容的にも一体である本件指針において不正行為の通知及
びその効果が詳細に規定されていることからしても,前記改正によって不
正行為の通知に係る明確な根拠条文が見当たらなくなったことは,行政処
分性に関する解釈を左右するものではない。現に,本件報道発表において5
も,不正行為の通知の根拠が上陸基準省令そのものであることが明らかに
されている。
なお,本件通知等による技能実習生又は技能実習を予定している者(以
下「技能実習生等」という。)に対する影響については,個々の技能実習生
が争えばよいと考えたのでは,救済手段として不十分であって不適切であ10
る。そもそも,不正行為の通知の効果は即時に発生するものであり,在留
資格認定証明書交付請求や在留資格変更申請の際には,監理団体に係る不
正行為の有無が個別具体的に審査される仕組みとはなっておらず,飽くま
で不正行為の通知があるか否かが確認されているにとどまる上に,外国人
自身については,不法行為の通知により不法残留等の刑事責任が生ずる可15
能性があるからである。
イ本件通知は,平成29年8月24日にされたものであるところ,当時,
既に技能実習法が成立し,同年11月1日の施行に向けて技能実習法に基
づく監理団体の許可申請等の各種申請が行われていた時期であり,原告も,
同年7月11日,監理団体の許可申請を行っていたものであることなどに20
鑑みると,本件通知等が行政処分に該当するか否かについては,技能実習
法等の定めも考慮して判断すべきである。
そして,本件運用要領等によれば,技能実習法の下では,その施行前に
不正行為の「通知を受けている者」については,「当該受入れ停止期間中は
欠格事由に該当」するものとして,監理団体の許可における欠格者として25
取り扱う仕組みとなっている。
なお,技能実習法に基づく各種申請について,これに対する不許可処分
等の効力を争えばよいと考えるのでは,救済手段として不十分であって不
適切であり(監理団体としての許可に係る訴訟において勝訴した場合であ
っても,技能実習計画の認定をめぐって,不正行為の有無の問題が蒸し返
されるおそれがあるし,個々の外国人の在留資格の変更の際にも,この問5
題が蒸し返されるおそれがある。また,そもそも,技能実習生受入れに向
けた準備は,数か月前から始めなければならないのであって,認可の見込
みに不安がある状態で,監理団体としての事業は行えない。),最高裁判所
平成14年(行ヒ)第207号同17年7月15日第二小法廷判決(民集
59巻6号1661頁。以下「平成17年最判」という。)において,「後10
に保険医療機関の指定拒否処分の効力を抗告訴訟によって争うことができ
るとしても,そのことは前記の結論を左右するものではない」と説示され
ていることからすると,後の抗告訴訟において不正行為の通知の効力を争
えることは,その行政処分該当性を否定する根拠とはならない。なお,本
件と平成17年最判とでは事案が異なるが,原告の事業は渉外事業であっ15
て,人づくりに係る事業であることなどからすれば,本件の方が,処分の
影響が広範囲であって,不利益の性質としても,回復不能性が高く,かつ,
その効果が現在実施中の事業に即座に影響を及ぼすことからすると,より
行政処分性を肯定すべき事案であるといい得る。
ウしたがって,本件通知等が,行政処分に該当することは明らかである。20
(被告の主張)
ア上陸基準省令は,本邦の機関で技能実習等を受けようとする外国人の便
宜を図り,適正な出入国管理行政を行うべく,広く一般の国民や外国人を
対象として定められたものであり,特定の個人や機関の法律上の地位や権
利に対して直接に何らかの影響を及ぼすものではない。したがって,特定25
の監理団体において上陸基準省令に適合しているからといって,当該監理
団体が技能実習生受入れやあっせんを続けることができるという法律上の
地位や法的利益を付与されるものではなく,当該監理団体が上陸基準省令
(技能実習1号ロ)16号の表に掲げるいずれかの不正行為に該当する旨
の認定を受けた場合に,外国人技能実習生の受入れが困難になるなど,何
らかの不利益が生ずるとしても,それは法的保護に値しない事実上の不利5
益にすぎない。技能実習制度は,技能実習生の技術等の習得を目的とする
ものであって,労働力の受入れを目的とするものではないから,技能実習
生を受け入れる側の経済的利益が重視されることは,技能実習制度の趣旨
にそぐわない。
イまた,前記認定に係る通知(不正行為の通知)は,監理団体について上10
陸基準省令に適合しない事実を事実上通知するものにすぎず,これによっ
て法律関係を変動させたり,確定する効果を有するものでもない。
ウしたがって,本件通知等は,国民の権利義務に直接的な影響を及ぼすも
のとはいえない。
エ以上によれば,本件通知等はいずれも行政処分に該当しない。15
(2)予備的請求(第2次)に係る訴えは確認の利益を有するか。
(原告の主張)
過去の事実の確認であっても,当該事実を確認することが紛争の抜本的解
決に資する場合には,当該事実に係る確認の訴えは,例外として適法となる。
そして,原告が確認の訴えの対象とし得る現在の権利関係としては,①原20
告が団体要件省令所定の適格団体であること,②原告が技能実習法26条及
び10条所定の欠格者でないこと,③原告が処分行政庁から原告の監理下に
ある技能実習生に係る事項について何ら行政指導を受ける事由がないことの
3つの地位が考えられるが,これらを確認の訴えの対象とすると,ヲ号不正
行為の有無が争点であるにもかかわらず,適格団体であるための要件全般や25
技能実習法所定の欠格事由全般が確認の対象となり,確認対象が広範囲とな
る一方,不正行為の通知に行政処分性が認められなければ,不正行為の存在
自体で,何らの判断も介さずに受入停止などの効果が発生したりするから,
これらについては,端的に原告がヲ号不正行為を行っていないことを確認す
れば,紛争は抜本的に解決される。
したがって,予備的請求(第2次)に係る訴えには確認の利益があるとい5
うべきである。
(被告の主張)
確認の訴えは,原則として権利又は法律関係についての確認を求める必要
があり(民事訴訟法134条参照),また,確認の対象となる権利又は法律関
係については,原則として現在の権利関係でなければならないと解されると10
ころ,原告が確認を求める対象は,原告がヲ号不正行為を行っていないこと
という過去の事実に関するものである。
したがって,本件予備的請求(第2次)に係る訴えは不適法である。
第3当裁判所の判断
1争点(1)(本件通知等が行政処分に該当するか。)について15
(1)行訴法3条2項にいう「行政庁の処分その他公権力の行使に当たる行為」
(行政処分)とは,公権力の主体である国又は公共団体が行う行為のうち,
その行為によって,直接人の権利義務を形成し,又はその範囲を確定するこ
とが法律上認められているものをいうと解される(最高裁昭和30年2月2
4日第一小法廷判決・民集9巻2号217頁,最高裁昭和39年10月2920
日第一小法廷判決・民集18巻8号1809頁参照)。
(2)ア主位的請求及び予備的請求(第1次)に係る訴えは,本件通知等を行政
処分と捉えてその取消しを求めるものであるところ,入管法は,本邦に入
国し,又は本邦から出国する全ての人の出入国の公正な管理を図ることな
どを目的としており(1条),本邦に上陸しようとする外国人は,原則とし25
て,有効な旅券で日本国領事官等の査証を受けたものを所持し,出入国港
において入国審査官に対し上陸の申請をして上陸のための審査を受けな
ければならない(6条1項,2項)。そして,前記申請を受けた入国審査官
は,入管法7条1項各号に掲げる上陸のための条件に適合しているかどう
かを審査しなければならず,一定の在留資格については,上陸許可基準に
適合することが上陸の条件とされ,上陸基準省令において,本邦で行おう5
とする在留資格に応じた活動ごとに具体的な上陸許可基準が一般的に明
らかにされている(同項2号,上陸基準省令)。これらの規定は,外国人の
受入れが我が国の産業構造や日本国民の就職及び労働条件に及ぼす影響,
対外関係や社会秩序へ与える影響等,外国人の上陸,在留の許否の判断に
当たって考慮すべき事情等を勘案の上,入国管理政策の観点から上陸を許10
可する外国人の範囲を調整する趣旨であるとともに,本邦に上陸しようと
する外国人に事前に上陸許可の基準を知らせることにより,当該外国人に
おいて必要となる資料を把握し,準備する機会を与え,もって,より迅速
に適正な上陸審査を行うことを可能とし,公正かつ円滑な出入国管理を図
ったものと解される。15
イそして,「技能実習1号ロ」の在留資格についてみると,上陸基準省令(技
能実習1号ロ)16号において,監理団体等が外国人の技能実習に係る所
定の不正行為を行ったことがあり,当該不正行為が技能実習の適正な実施
を妨げるものであった場合には,当該不正行為が終了した日から所定の期
間が経過し,かつ,再発防止に必要な改善措置が講じられていることが上20
陸許可の要件として規定されているため,技能実習生になろうとする者が,
不正行為を行うなどした監理団体等を,申請に係る監理団体等として在留
資格認定証明書の交付申請をした場合には,当該申請は認められないこと
となる。また,当該監理団体等は,当該監理団体等に係る技能実習を継続
することは相当ではないとして,既に技能実習を受けている技能実習生に25
ついても,転籍させるように指導され,さらに,技能実習生が在留期間更
新許可申請(入管法21条)や在留資格変更許可申請(入管法20条)を
しても,「相当の理由がない」として不許可とされるおそれが生じることに
なる(甲3,弁論の全趣旨)。
そこで,法務省入国管理局は,問題事例の典型である不正行為等の内容
を明らかにし,これらの行為に対して厳正に対処することを明示すること5
により,受入れ機関に対する一般予防の効果と受入れ機関による自主的な
適正化を促進するため,本件指針を定めている(前記第2の2(1)エ)。ま
た,本件指針において,地方入国管理局は,監理団体等における不正行為
が確認され,当該不正行為が技能実習の適正な実施を妨げるものであった
場合には,当該監理団体等に対し,当該不正行為の終了した日から,所定10
の期間,上陸基準省令に適合しないこととなる旨の通知(不正行為の通知)
を行うこととしているが(前記第2の2(1)エ),その趣旨は,技能実習生
になろうとする者の在留資格認定証明書の交付申請前に,監理団体等を含
む関係者において,技能実習生になろうとする者の雇用契約の成立に係る
一連の準備行為が行われることから,これらの関係者が不利益等を受ける15
おそれがあることに鑑み,事前に監理団体等に対し,不正行為を行ったと
認められる旨の通知を行うこととしたものであって,このような不正行為
の通知について定めた法令上の根拠は見当たらない。
ウ以上のような入管法の定め等によれば,法は,技能実習生となろうとす
る者の便宜を図り,適正な出入国管理行政を行うため,上陸基準省令等に20
おいて,上陸許可の要件として監理団体等の不正行為に係る要件を定めた
上,技能実習生になろうとする者から在留資格認定証明書の交付申請等が
され,又は,既に技能実習を受けている者から在留期間更新許可申請や在
留資格変更許可申請がされた際に,監理団体等による不正行為の有無等を
含めて当該申請の許否を判断することとしたものであって,監理団体等に25
ついては,技能実習生の受入れやあっせんを続けることができるという法
律上の地位や法的利益を付与することなく,また,不正行為の有無を確定
することを目的とする行政上の手続を設けることなく,所定の期間,新規
の技能実習生の受入れ等ができない状態とすることなどによって,監理団
体等を間接的に規制することとしたものにとどまるものと解される。そし
て,地方入国管理局が行う不正行為の通知は,法令上の根拠を持つもので5
はなく,関係者が,在留資格認定証明書の交付申請に先立つ準備等の関係
で不利益等を受けるおそれがあることに鑑み,不正行為を行った監理団体
等に対し,事前に,上陸基準省令に適合しない旨を事実上通知するにとど
まるから,不正行為の通知によって何らかの法律関係を変動させたり,確
定する効果が生じるものではないというべきである。10
(3)そうすると,本件通知等はいずれも行政処分に該当するということはで
きない。
(4)アこれに対し,原告は,①不正行為の通知を受けた監理団体は,新たに技
能実習生を受け入れることができなくなるほか,入国前の技能実習生につ
いて,在留資格認定証明書を当該外国人から取り寄せたり,入国済みの技15
能実習生について,転籍先を探さなければならなくなるなどの影響が生じ
る,②本件通知等により生じる影響については,個々の技能実習生が争え
ばよいとするのでは救済手段として不十分である旨主張する。
確かに,不正行為の通知を受けた監理団体は,技能実習に係る上陸許可
基準に適合しないと判断されることが見込まれるから,技能実習生になろ20
うとする者がそのような監理団体を選択するはずはない。また,当該監理
団体は,行政指導等によって,既に交付された在留資格認定証明書を入国
前の外国人から取り寄せなければならなくなったり,既に入国済みの技能
実習生のうち大多数の者について,転籍先を探さなければならなくなった
りする可能性があることから,不正行為の通知によって,当該監理団体の25
事業や当該監理団体に関わる技能実習生等に大きな影響が生じることは否
定できない。
しかしながら,前記(2)ア及びウによれば,上陸基準省令は,本邦に上陸
しようとする外国人の便宜を図り,公正かつ円滑な出入国管理を実現する
ために上陸許可基準を一般的に明示したものにとどまるものというべきで
あって,監理団体等に対して,技能実習生の受入れやあっせんを続けるこ5
とができるという法律上の地位や法的利益を付与するものではないから,
監理団体が不正行為の通知によって,事業遂行上の不利益を被ることにな
ったとしても,それは事実上の影響というほかない。
また,前記のとおり,不正行為の通知は事実上のものであるから,技能
実習生等に対する影響についても,事実上のものにとどまるものというほ10
かない。個々の技能実習生等が,当該監理団体による不正行為の有無等に
ついて争うことを望むのであれば,在留期間更新許可申請,在留資格変更
許可申請等に係る手続の中で争うことができるのである(なお,飽くまで
法令上問題とされているのは,不正行為の存否であるから,仮に行政庁に
おいて不正行為の通知がされていることを理由に,それ以上特段の審査を15
することなく不正行為があるものとして在留期間更新許可や在留資格変更
許可の申請を不許可とする処分をしていたとしても,同処分の取消訴訟に
おいては,不正行為の通知があることから当然に不正行為の存在が認定さ
れるものではなく,同訴訟の訴訟資料に基づいて不正行為の存否が審査さ
れることとなるものである。)から,前記のように解したとしても,技能実20
習生等に対する救済手段として不十分であるということはできない。かえ
って,明確な手続の定め等が存在しないにもかかわらず,不正行為の通知
が行政処分に該当すると解した場合には,行訴法14条所定の出訴期間内
に取消訴訟を提起しなければその効果を否定することができないことにな
り得ると考えられるから,通知の対象とされていない技能実習生等が前記25
申請等に係る手続において不正行為の有無について争うことに困難を来す
おそれもあるというべきであって,技能実習生等に対する手続保障の観点
からも,不正行為の通知を行政処分と解することは相当ではない。
したがって,原告の前記主張は理由がない。
イまた,原告は,不正行為の通知には,慎重かつ専門的な裁量判断が必要
となるのであるから,不正行為の通知は行政処分に該当する旨主張する。5
しかしながら,前記(1)で説示したとおり,行政処分に該当するか否かは,
当該行為によって,直接人の権利義務を形成し,又はその範囲を確定する
ことが法律上認められているか否かという観点から判断すべきものであっ
て,専門的な裁量判断などが必要となるか否かによって左右されるもので
はない。10
したがって,原告の前記主張は理由がない。
ウさらに,原告は,平成24年改正前の上陸基準省令(技能実習1号ロ)
16号の「不正行為が行われたと認められた日」との部分が,不正行為の
通知が行われた日を意味していたことや,本件報道発表を基に,不正行為
の通知が上陸基準省令に根拠を持つ旨主張する。しかしながら,本件通知15
当時に施行されていた上陸基準省令は,平成24年改正後のものであり,
平成24年改正により,上陸基準省令(技能実習1号ロ)16号は,「不正
行為が行われたと認められた日」から「不正行為が終了した日」と改正さ
れたところ,規定の文言上,平成24年改正後の同号の「不正行為が終了
した日」が行政機関による不正行為の認定やその通知がされた日を意味す20
る余地はないというべきであるから,平成24年改正前の同号の解釈が平
成24年改正後の同号に妥当するものとはいえない。(なお,平成24年改
正前の上陸基準省令(技能実習1号ロ)16号についてみても,不正行為
の通知について明文で定められているものではなく,単に,不正行為の通
知が行われた日を,不正行為が行われたと認められた日とする運用がされ25
ていたというのにとどまるところ,これのみをもって,不正行為の通知に
つき何らかの法令上の根拠があるというのは飛躍がある。)。また,本件報
道発表についても,このような文書の記載で法令解釈が左右されるとはい
い難い上に,不正行為に当たるか否かを上陸基準省令に基づいて判断し,
その判断の結果を通知しているという趣旨に解し得るのであって,不正行
為の通知そのものが上陸基準省令に根拠をもつことを裏付けるものとはい5
えない。
したがって,原告の前記主張は採用することができない。
エ加えて,原告は,本件通知等の行政処分性については,技能実習法の下
では,その施行前に不正行為の通知を受けている者については,欠格者と
して取り扱う仕組みとなっていることが考慮されるべきである旨主張する。10
しかしながら,前記第2の2(2)アによれば,技能実習法の下では,監理
団体は,事前に主務大臣に対する申請をして許可を受けることとされ(2
3条),当該主務大臣の許可については,欠格事由として前記申請の日前5
年以内に出入国又は労働に関する法令に関し不正又は著しく不当な行為を
した者(26条4号)が規定されているが,技能実習法の施行前後を通じ15
て,不正行為の通知を受けたこと自体が欠格事由として規定されているわ
けではない。そして,技能実習法に基づく前記申請については,これに対
する不許可処分の取消訴訟を提起することによって,前記不許可処分の適
法性(当該監理団体が技能実習法26条4号に該当するか否かを含む。)に
ついて争うことができるものである。また,前記第2の2(2)イによれば,20
本件運用要領には,技能実習生の受入れを一定期間認めない旨の「不正行
為」の通知を受けている者については,当該受入れ停止期間中は欠格事由
に該当し,監理団体の許可を受けることはできない旨の記載はあるが,不
正行為の通知に法的根拠がない以上,不正行為の通知を受けたことそのも
のが何らかの法的効果に結び付くと解することはできない。前記記載につ25
いては,類似の記載がある本件資料にも技能実習法26条4号に係る説明
のほかに法令の規定が引用されていないこともふまえると,不正行為の通
知を受けた者については,その通知を根拠として不正行為があったものと
され,技能実習法26条4号が定める欠格事由に該当すると判断されるこ
とが見込まれるという趣旨にとどまるものと解するのが相当である。
そうすると,技能実習法の成立,施行により,その施行前に行われてい5
た不正行為の通知に何らかの法的効果が付与されたと解することはできな
いから,本件通知等がされた前後において技能実習法が成立,施行された
ことを考慮しても,その施行前に行われていた不正行為の通知が,行政処
分に該当するとの原告の主張は根拠を欠く。
オ他に,原告は,平成17年最判を援用するが,平成17年最判は,医療10
法30条の7の規定に基づき都道府県知事が病院を開設しようとする者に
対して行う病院開設中止の勧告について,「後に保険医療機関の指定拒否処
分の効力を抗告訴訟によって争うことができるとしても,そのことは前記
の結論を左右するものではない」などと説示して,行政処分該当性を認め
た事案であり,前記勧告の段階で争うことができないとすると,前記勧告15
を受けた者は,保険医療機関の指定拒否処分がされる蓋然性が高い中で病
院開設に必要な人員及び施設を確保するなど巨額の投資をしなければなら
ないということになり,著しく酷であることなどを考慮して,複数の行為
が一連の手続過程を構成している場合に,どの段階で違法性を争えるよう
にするのが適切かという観点から,行政処分該当性を認めたものと解され20
る。そして,平成17年最判の事案と本件の事案を比較すれば,①前記勧
告は,行政指導の性質を有するとはいえ,法令の規定に基づくものである
のに対し,本件通知等は,入管法等の法令の規定に基づくものと解釈する
ことはできないこと,②技能実習法23条1項に基づく監理団体に係る許
可申請においては,実体として「不正行為」があったことが欠格事由とさ25
れているのであって,技能実習法施行前に行われた不正行為の通知が欠格
事由とされているものではない以上,不正行為の通知と技能実習法23条
1項に基づく許可申請とは一連の手続過程にあるとはいえないこと,③監
理団体は,前記許可申請に対する不許可処分の効力を抗告訴訟により争う
ことができれば,不正行為の通知の内容(不正行為の認定)を争うことが
できるものであるところ,これを前提として,不正行為の通知の効力その5
ものを抗告訴訟により争うことができないとした場合においても,前記勧
告を受けた者が,指定拒否処分がされる蓋然性の高い中で行わなければな
らない巨額の投資と同様に評価し得るような不利益を被るとは認め難いか
ら,監理団体に対する救済手段が不十分であるとはいえないことなどを指
摘することができ,平成17年最判を根拠として,不正行為の通知が行政10
処分に該当するということはできない。
したがって,原告の前記主張は理由がない。
カまた,原告は,最高裁判所昭和54年12月25日第三小法廷判決・民
集33巻7号753頁や最高裁判所平成16年4月26日第一小法廷判
決・民集58巻4号989頁についても援用するが,前者は,通知自体に15
ついて法律上の根拠規定があった事案であるし,後者も,通知自体につい
て法令上の明示的な定めはなかったものの,通知が法律の規定に基づく輸
入届出に対する応答行為と位置付けられる旨が判示された事案であって,
不正行為の通知が法令上の根拠を有しておらず,また,何らかの法令上の
申請等に対する応答行為とも位置づけられない本件とは,明らかに事案を20
異にする。
(5)以上によれば,本件通知等は行政処分に該当せず,主位的請求及び予備的
請求(第1次)に係る訴えは不適法なものとして却下を免れない。
2争点(2)(予備的請求(第2次)に係る訴えは確認の利益を有するか。)につ
いて25
予備的請求(第2次)に係る訴えは,公法上の法律関係に関する確認の訴え
として,原告がヲ号不正行為を行っていないという過去の事実の確認を求める
ものであるところ,これが適法であるといえるためには確認の利益が存在する
ことが必要であり,確認の利益は,判決をもって法律関係の存否を確定するこ
とが,その法律関係に関して現に存する法律上の紛争を解決し,当事者の法律
上の地位の不安,危険を除去するために必要かつ適切である場合に認められる5
から,過去の事実を確認の対象とする場合には,当該事実を確定することが現
に存する法律上の紛争の直接かつ抜本的な解決のため適切かつ必要と認めら
れるような場合にのみ確認の利益が認められる余地があるにすぎない。
しかしながら,本件運用要領によれば,原告がヲ号不正行為を行っていない
ことが確認された場合には,技能実習法23条の監理団体の許可の申請におい10
て技能実習法26条4号所定の欠格事由が存在しないものとされると考えら
れるが,前記の場合に同条所定の他の欠格事由の不存在まで確定されるわけで
はないから,原告がヲ号不正行為を行っていないことの確認が,監理団体とし
ての許可に関する紛争の直接かつ抜本的な解決のために必要であるとはいえ
ない。このように解しても,原告は,技能実習法23条2項の申請をし,これ15
に対する不許可処分の抗告訴訟においてヲ号不正行為の存否を争うことがで
きるのであるから,ヲ号不正行為の存否に関する原告の争訟の機会を不当に制
限することにはならない。
以上によれば,予備的請求(第2次)に係る訴えは,確認の利益を有すると
はいえず,不適法なものであって,却下を免れない。20
なお,本件においては,ヲ号不正行為の存否という過去の事実に関する確認
ではなく,技能実習法23条の許可を受けることができる地位という公法上の
法律関係を確認の対象とすることも考えられる。しかしながら,このような確
認の訴えは,原告が同条2項の申請をした場合の法律関係を事前に確定するこ
とを目的とするものであると解されるところ,原告としては,同項の申請をし25
て不許可処分を受けるなどした場合に抗告訴訟で同処分等の適否を争うこと
ができるのであり,記録上,同項の申請に先立って同条の許可を受けることが
できる地位にあることが確認されなければ,原告において事後的に回復が困難
な損害を受ける状況にあるといった事情は見当たらない。これらの点に照らせ
ば,本件において,同条の許可を受けることができる地位にあることを確認の
対象としたとしても,確認の利益を認めることはできず,その他これを基礎付5
ける事情もうかがわれない。
第4結論
よって,本件各訴えはいずれも不適法なものであるから,これらを却下する
こととし,訴訟費用の負担につき行訴法7条,民事訴訟法61条を適用して,
主文のとおり判決する。10
名古屋地方裁判所民事第9部
裁判長裁判官角谷昌毅
裁判官佐藤政達
裁判官後藤隆大
(別紙省略)

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