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平成15年■第2号 道路交通法違反,危険運転致死被告事件
判決
         主         文 
    被告人を懲役5年6か月に処する。
    未決勾留日数中100日をその刑に算入する。
         理         由
(罪となるべき事実)
 被告人は,
第1 公安委員会の運転免許を受けないで,平成14年12月22日午前5時20
分ころ,沖縄県宜野湾市a付近道路において,普通乗用自動車を運転し,
第2 前記日時ころ,前記道路において,運転開始前に飲んだ酒の影響により,前
方注視及び運転操作が困難な状態で,前記車両を時速約85キロメートルで走行さ
せ,もって,アルコールの影響により正常な運転が困難な状態で自車を走行させた
ことにより,そのころ,同所先の信号機により交通整理の行われている交差点を伊
佐方面から真志喜方面へ向かい前記速度で進行しようとした際,対面信号機が赤色
の灯火信号を表示していた同交差点内に進行させ,折から,左方道路から同交差点
に進行してきたA(当時53歳)運転の普通貨物自動車(軽四)右側面部に自車前
部を衝突させ,よって,同人に外傷性血胸の傷害を負わせ,同日午前6時42分こ
ろ,沖縄県浦添市D病院において,同人を前記傷害により死亡させた。
 なお,被告人は,本件事故当時,被告人運転車両の対面する信号機の表示は青色
であったと思う旨供述をしていることから,この点について判断する。
 本件事故現場で事故を目撃した証人Bは当公判廷において,事故直前に見た被害
者の進行方向である大山ゲート方面の信号は青色であり,被告人が運転する自動車
が交差店内に入ったときの対面信号にあたる友愛公園横に設置された信号の表示は
赤色であった旨明確に供述している。これは被告人車の同乗者である証人Cの事故
時の信号表示に関する公判供述とも一致している上,関係証拠によれば,Bの視認
状況は良好であって信号表示を見間違える可能性は特に認められないこと,また,
Bは本件につき何ら利害関係を有しない第三者であり,あえて被告人に不利益な虚
偽供述をする事情も認められないことを考慮すれば,結局,同人の供述の信用性に
つき疑いをはさむ余地はない。他方,本件事故の約1時間後に採取した被告人の血
液からは,1ミリリ
ットル中2.74ミリグラムという高濃度のアルコールが検出されており,被告人
はアルコールの影響により,正常な運転が困難な状態にあったのであるから,信号
表示についても正確な認識が可能であったかは極めて疑わしいものである。この
点,被告人は,捜査段階において,国道58号線に入るまではどの道を通ったのか
分からない,対面信号機が青だったのを見たがそれはどの信号だったのか分からな
い旨述べ,その後公判廷で,当初は,自己の対面信号は青色であったと述べたもの
の,後には見間違えているかもしれないなどと述べるなど,被告人の供述自体も曖
昧であって,到底信用することができないというべきである。
 以上から,本件事故当時の被告人車対面信号機の表示は赤色であったと認められ
る。
(法令の適用)
 被告人の判示第1の所為は道路交通法117条の4第1号,第64条に,判示第
2の所為は刑法208条の2第1項前段にそれぞれ該当するところ,判示第1の罪
について所定刑中懲役刑を選択し,以上は同法45条前段の併合罪であるから,同
法47条本文,10条により重い判示第2の罪の刑に同法47条ただし書の制限内
で法定の加重をし,その刑期の範囲内で被告人を懲役5年6か月に処し,同法21
条を適用して未決勾留日数中100日をその刑に算入し,訴訟費用は,刑事訴訟法
181条1項ただし書を適用してこれを被告人に負担させないこととする。 
(弁護人の主張に対する判断)
 弁護人は,被告人は本件事故当時,統合失調症による幻聴のために正常な運転が
できなかった可能性があり,心神喪失又は心神耗弱の状態であった旨主張するの
で,この点について検討する。
 関係証拠によれば,被告人は統合失調症に罹患しており,平成14年11月29
日まで通院治療を受けていた事実が認められる。しかしながら,病状は軽快状態に
あったというのであり,同乗者であるCや,Eの供述によっても特に被告人に病状
の影響を窺わせるような行動はなかったことが認められる。また,幻聴の点につい
て,被告人は,第4回公判において,本件事故当時,幻聴に支配されて事故を起こ
してしまった旨供述していたものの,第6回公判において,それは虚偽であると供
述し,最終的には本件事故当時幻聴があったのかなかったのか分からないなどと述
べるに至っているのであって,幻聴に関する被告人の供述は,それ自体疑わしいも
のである。その他,関係証拠を精査しても,本件時の被告人の精神状態に疑いを差
しはさむべき事情は
認められないのであって,結局,これらによれば,本件事故当時,被告人は心神喪
失及び心神耗弱の状態にはなかったことが明らかであるから,弁護人の前記主張は
採用できない。
(量刑の理由)
 本件は,被告人が,運転免許証を失効させているのに自動車を運転したという無
免許運転の事案,大量に飲酒した上,酒に酔って自動車を高速度で運転し,対面信
号が赤信号であるのにもかかわらず交差点に進入し,交差する道路から進入してき
た被害者運転の自動車に自車を衝突させ,被害者を死亡させたという危険運転致死
の事案である。
 被告人は,無免許であるのに,居酒屋,スナック等5店舗で飲酒し,高濃度のア
ルコールを身体に保有する状態(事故約1時間後においても血液1ミリリットル中
2.74ミリグラムに達していた。)になってもなお自ら自動車を運転して本件事
故を惹起したのであって,犯情は真に悪質である。自己の対面する青色信号表示に
従って交差点を通過しようとしていた被害者にとっては,避けようのない事故であ
り,被害者には全く落ち度は認められず,被告人の過ちは一方的である。運転代行
業の勤務中に本件事故に遭遇し,突然一命を奪われた被害者の無念さは言うに及ば
ず,遺族の悲しみも察するに余りあり,厳しい処罰感情も心情として十分理解しう
るところである。それにもかかわらず,被告人自身は慰謝の措置を何ら講じていな
い。その他被告人に
は平成4年に酒気帯び運転で罰金刑に処せられた前科があるほか,平成7年には無
免許運転で懲役6か月(3年間執行猶予)の判決を受けているにもかかわらず,平
成14年12月半ばころからCと共に移動手段に自動車を使って飲み歩くようにな
り,本件に至った経緯に照らすと,被告人は交通規範を遵守する意識が甚だしく希
薄であるといえる。以上の諸事情に鑑みると被告人の刑事責任は重大である。
 他方,被告人は公判廷において被告人なりに謝罪の意思を述べており,交際相手
が情状証人として出廷し,被告人の社会復帰を待ち,その更生に助力する旨述べて
いること,その他被告人の病状等(被告人は,精神能力に影響するまでには至らな
いものの統合失調症に罹患し,精神状態に不安定な点がある。)被告人にとって酌
むべき事情も認められる。
 以上の事情を総合考慮し,主文のとおり刑を定めた。
 よって,主文のとおり判決する。
(検察官西連寺義和,私選弁護人横田達各出席)
(求刑 懲役7年)
 平成15年7月22日
  那覇地方裁判所刑事第1部
 裁判長裁判官横 田 信 之
裁判官栗 原正 史
裁判官升 川智道・

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