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裁判例


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主文
1A税務署長が平成16年7月9日付けで原告に対してした原告の平成14年
6月分の源泉徴収に係る所得税の納税告知処分及び不納付加算税賦課決定処分
をいずれも取り消す。
2訴訟費用は被告の負担とする。
事実及び理由
第1請求
主文1項と同旨
第2事案の概要
本件は,原告の設置するB高等学校及びB中学校(名称はいずれも当時のもの)
の各校長であったC(以下「C」という)が各校長を退職し,原告の設置するD。
大学(名称は当時のもの)の学長に就任するに当たり,原告が同人に対して同高等
学校の就業規則及び退職金規程に基づく退職金として4802万1353円(以下
「本件金員」という)を支払い,その支払の際,本件金員に係る所得は所得税法。
30条1項にいう「退職所得」に該当するとして所得税を源泉徴収し,これを国に
納付したところ,A税務署長が上記所得は同法28条1項にいう「給与所得」に該
当するとして原告に対し納税告知及び不納付加算税賦課決定併せて以下本,,(,「
件各処分」という)をしたことから,原告が本件各処分の各取消しを求めた取消。
訴訟である。
なお,本判決において,学校教育法は,平成18年法律第80号による改正前の
同法を,学校教育法施行規則は,平成18年文部科学省令第11号による改正前の
同規則を,教育職員免許法は,平成15年法律第117号による改正前の同法を,
私立学校法は,平成16年法律第42号による改正前の同法を,大学設置基準(昭
和31年文部省令第28号)は,平成18年文部科学省令第11号による改正前の
同基準を,高等学校設置基準(昭和23年文部省令第1号)は,平成16年文部科
学省令第20号による廃止前の同基準をさす。
1法令の定め等
()所得税法等1
ア所得税法28条1項は,給与所得とは,俸給,給料,賃金,歳費及び賞与並
びにこれらの性質を有する給与に係る所得をいうと規定する。
同法30条1項は,退職所得とは,退職手当,一時恩給その他の退職により一時
に受ける給与及びこれらの性質を有する給与(以下「退職手当等」という)に係。
る所得をいう旨規定する。
同法は,退職所得の金額は,その年中の退職手当等の収入金額から退職所得控除
額を控除した残額の2分の1に相当する金額とする(同法30条2項)とともに,
上記退職所得控除額は,政令で定める勤続年数に応じて増加することとして(同条
),。,3項課税対象額が一般の給与所得に比較して少なくなるようにしているまた
同法は,税額の計算についても,他の所得と分離して累進税率を適用することとし
て(同法22条1項,同法201条,退職手当等に係る税負担の軽減を図ってい)
る。
イ所得税基本通達(昭和45年直審(所)第30号)30−1は「退職手当,
等とは,本来退職しなかったとしたならば支払われなかったもので,退職したこと
に基因して一時に支払われることとなった給与をいう。したがって,退職に際し又
は退職後に使用者等から支払われる給与で,その支払金額の計算基準等からみて,
他の引き続き勤務している者に支払われる賞与等と同性質であるものは,退職手当
等に該当しないことに留意する」とし,同通達30−2は「引き続き勤務する役。,
員又は使用人に対し退職手当等として一時に支払われる給与のうち,次に掲げるも
のでその給与が支払われた後に支払われる退職手当等の計算上その給与の計算の基
礎となった勤続期間を一切加味しない条件の下に支払われるものは,30−1にか
かわらず,退職手当等とする」とするところ,同通達30−2が引き続き勤務す。
る者に支払われる給与で退職手当等とするものとして掲げるものは,別紙1のとお
りである。
()学校教育法及び私立学校法等2
ア(ア)学校教育法35条は,中学校は,小学校における教育の基礎の上に,心
,,,身の発達に応じて中等普通教育を施すことを目的とすると規定し同法41条は
高等学校は,中学校における教育の基礎の上に,心身の発達に応じて,高等普通教
育及び専門教育を施すことを目的とすると規定する。
同法40条によって中学校に,同法51条によって高等学校に,それぞれ準用さ
れる同法28条3項は,校長は,校務をつかさどり,所属職員を監督すると規定す
る。同法8条は,校長及び教員(教育職員免許法の適用を受ける者を除く)の資。
格に関する事項は,別に法律で定めるもののほか,文部科学大臣がこれを定めると
,,(。)規定し学校教育法施行規則8条は校長学長及び高等専門学校の校長を除く
の資格は,①教育職員免許法による教諭の専修免許状又は一種免許状(高等学校
及び中等教育学校の校長にあっては,専修免許状)を有し,かつ,同項1号イから
ヌまでに掲げる職(以下「教育に関する職」という)に5年以上あったこと(1。
号,②教育に関する職に10年以上あったこと(2号)のいずれかに該当する)
ものとすると規定し,同規則9条は,私立学校の設置者は,同規則8条の規定によ
り難い特別の事情のあるときは,5年以上教育に関する職又は教育,学術に関する
業務に従事し,かつ,教育に関し高い識見を有する者を校長として採用することが
できる旨規定し,同規則9条の2は,国立若しくは公立の学校の校長の任命権者又
は私立学校の設置者は,学校の運営上特に必要がある場合には,同規則8条及び9
条に規定するもののほか,同規則8条各号に掲げる資格を有する者と同等の資質を
有すると認める者を校長として任命し又は採用することができる旨規定する。
,(,,教育職員免許法3条1項は教育職員学校教育法1条に定める小学校中学校
,,,,,,高等学校中等教育学校盲学校ろう学校養護学校及び幼稚園の教諭助教諭
養護教諭,養護助教諭及び講師をいう。教職員免許法2条1項)は,同法により授
与する各相当の免許状を有する者でなければならないと規定し,同法は,その2章
において免許状の種類,区分等について,その3章において免許状の失効及び取上
げについて,それぞれ規定している。
(イ)学校教育法52条は,大学は,学術の中心として,広く知識を授けるとと
もに,深く専門の学芸を教授研究し,知的,道徳的及び応用的能力を展開させるこ
とを目的とすると規定する。
同法58条3項は,学長は,校務をつかさどり,所属職員を統督すると規定し,
同条5項は,学部長は,学部に関する校務をつかさどると規定し,同法59条1項
は,大学には,重要な事項を審議するため,教授会を置かなければならないと規定
する。
学校教育法に学長の資格に関する事項についての規定はなく,大学設置基準13
条の2は,学長となることのできる者は,人格が高潔で,学識が優れ,かつ,大学
運営に関し識見を有すると認められる者とすると規定する。
大学設置基準14条は,教授となることのできる者は,同条各号のいずれかに該
当し,かつ,大学における教育を担当するにふさわしい教育上の能力を有すると認
められる者とするとし,同条各号は,①博士の学位(外国において授与されたこ
れに相当する学位を含む)を有し,研究上の業績を有する者(1号,②研究上。)
の業績が1号の者に準ずると認められる者(2号,③学位規則5条の2に規定)
する専門職学位(外国において授与されたこれに相当する学位を含む)を有し,。
当該専門職学位の専攻分野に関する実務上の業績を有する者(3号,④大学に)
おいて教授,助教授又は専任の講師の経歴(外国におけるこれらに相当する教員と
しての経歴を含む)のある者(4号,⑤芸術,体育等については,特殊な技能。)
に秀でていると認められる者(5号,⑥専攻分野について,特に優れた知識及)
び経験を有すると認められる者(6号)を掲げる。
イ私立学校法35条2項は,理事のうち1人は,寄附行為の定めるところによ
り,理事長となると規定し,同法36条は,学校法人の業務は,寄附行為に別段の
定めがないときは理事の過半数をもって決すると規定する。同法37条1項は,理
事は,すべて学校法人の業務について,学校法人を代表するが,ただし,寄附行為
をもってその代表権を制限することができると規定し,同法37条2項は,理事長
は,同法に規定する職務を行い,その他学校法人内部の事務を総括すると規定する
(なお,原告の寄附行為9条1項は,理事長は,原告を代表し業務一切を総括し,
法令及び同寄附行為の規定する職務を行う旨規定し,同寄附行為10条は,理事長
以外の理事は,原告の業務について,原告を代表しないが,ただし,原告と理事長
又は理事長が代表する他の法人との利益相反する事項については,理事会の議決に
より,他の理事に原告を代表させることができる旨規定する。甲4。)
私立学校法38条1項は,理事となる者は,同項各号に掲げる者とするとし,同
,(。)(),項各号は当該学校法人の設置する私立学校の校長学長及び園長を含む1号
当該学校法人の評議員のうちから寄附行為の定めるところにより選任された者寄,(
附行為をもって定められた者を含む(2号,同項1号及び2号に規定する者の。))
ほか,寄附行為の定めるところにより選任された者(寄附行為をもって定められた
者を含む(3号)を掲げ,同条2項は,学校法人が私立学校を2以上設置する場。)
合には,同条1項1号の規定にかかわらず,寄附行為の定めるところにより,校長
(学長及び園長を含む)のうち,1人又は数人を理事とすることができると規定。
し,同条3項は,同条1項1号及び2号に規定する理事は,校長又は評議員の職を
退いたときは,理事の職を失う旨規定する。
2前提事実
以下の各事実は,当事者間に争いがないか,掲記の証拠(特記しない限り,各枝
番を含む)によって容易に認定することができる。。
()原告について1
,,,原告はCの父Eが昭和10年に開校したF学校を淵源とする学校法人であり
B学院大学,B学院大学高等学校,B学院大学中学校,B学院G幼稚園及びB学院
大学歯科衛生学院専門学校を設置,運営している。
前記F学校を前身とするL学校は,昭和23年4月,いわゆる学制改革によって
新制高等学校に転換し,G高等学校と称していたが,昭和37年10月にB高等学
校に改称し,さらに,平成15年4月に現在のB学院大学高等学校に改称した(同
校を,以下「本件高校」という。。)
原告は,昭和23年4月に新制中学校としてG中学校を開校したが,昭和27年
3月以降は生徒の募集を停止し,昭和63年6月に同校を廃止した。原告は,平成
12年4月にB高等学校(当時)に併設する形でB中学校を開校し,その後,平成
15年4月,同校は,現在のB学院大学中学校に改称した(同校を,以下「本件中
学」という。。)
原告は,昭和30年4月,G幼稚園を開園したが,その後,同園は,平成4年3
月にI大学G幼稚園に改称し,さらに,平成16年4月,現在のB学院G幼稚園
に改称した(同園を,以下「本件幼稚園」という。。)
原告は,昭和62年4月,大阪府旧a町(現堺市a区。旧a町と堺市との合併の
前後を区別することなく,以下「旧a町」という)にI大学を開学し,平成10。
年4月には,同所に4年制大学であるD大学を開学した。D大学は,平成15年4
月に現在のB学院大学に改称し(同大学を,以下「本件大学」という,他方,I。)
大学は,平成16年3月をもって廃止された。
原告は,昭和59年4月,M専門学校を開校し,同専門学校は,平成4年3月に
I大学歯科衛生学院専門学校に改称し,さらに,平成16年4月,現在のB学院大
学歯科衛生学院専門学校に改称した。
(甲4,甲42,乙4,原告代表者)
()Cの経歴等2
C(昭和3年2月2日生まれ)は,N大学工学部卒業後の昭和25年4月,本件
高校の数学教諭として原告に採用された。
,,,,,()Cは昭和26年3月原告の理事に就任しさらに昭和29年7月父親E
の後任として原告の理事長に就任し,その後,Cの母(H)が理事長を務めていた
昭和32年3月から昭和36年11月までの間を除き,現在に至るまで原告の理事
長の職にある。
Cは,昭和30年3月,本件高校の校長に就任し,平成12年4月には,その設
置に伴って本件中学の校長にも就任し,その後,平成14年3月31日,定年によ
り,本件高校校長及び本件中学校長(特に区別する必要がある場合を除き,併せて
以下「本件校長」という)の各職を退いた。。
Cは,昭和30年4月から昭和36年3月までの間,昭和58年11月から昭和
59年4月までの間,本件幼稚園の園長を務め,さらに,昭和62年4月に同園長
に就任し,現在に至るまでその職にある。
Cは,平成12年4月1日施行の学園長規程により,同日,原告の初代学園長に
就任し,現在に至るまでその地位にある。
Cは,平成14年4月1日,本件大学の学長(以下「本件学長」という)の職。
に就き,現在に至るまでその職にある。
以上によれば,Cは,平成14年3月31日まで,原告理事長,原告学園長,本
,,件校長及び本件幼稚園園長の地位にあったが同年4月1日から現在に至るまでは
原告理事長,原告学園長,本件幼稚園園長及び本件学長の地位にある。
(甲5,甲42,乙7,乙8,原告代表者,弁論の全趣旨)
()本件金員の支払と本件訴え提起に至る経緯3
原告は,上記のとおり,Cが平成14年3月31日をもって本件校長の職を退い
たことから,同年6月10日,Cに対し,本件高校の就業規則及び退職金規程に基
づく退職金として4802万1353円(本件金員)を支払うこととし,その際,
Cから,本件金員に係る所得は所得税法30条1項にいう「退職所得」に該当する
として151万8000円を源泉徴収し,これを国に納付した。
A税務署長は,平成16年7月9日付けで,原告に対し,本件金員に係る所得は
所得税法28条1項にいう「給与所得」に該当するとして,原告の平成14年6月
分の源泉所得税について,納税告知(納税告知額1504万7322円。以下「本
件納税告知という及び不納付加算税賦課決定不納付加算税額150万4000」。)(
円。以下「本件賦課決定」という)をした。。
原告は,平成16年8月23日,A税務署長に対し,本件各処分について異議申
立てをしたが,A税務署長は,同年11月19日付けで,これを棄却する旨の決定
をし,同月22日,同決定に係る異議決定書謄本が原告に送達された。
原告は,同年12月20日,国税不服審判所長に対し,上記異議決定につき,審
査請求をしたが,同請求がされた日の翌日から起算して3月を経過しても裁決がさ
れないとして,平成17年6月21日,当庁に対し,本件訴えを提起した。
国税不服審判所長は,平成17年9月22日,原告に対し,上記審査請求を棄却
する旨の裁決をした。
(甲1から3まで,甲8,甲29,甲42,乙11,乙20,顕著な事実)
3争点及び当事者の主張
本件における争点は,本件金員に係る所得が所得税法30条1項にいう「退職所
得」に該当しないかどうかであり,この点に関する当事者の主張は,以下のとおり
である。
(被告の主張)
()退職所得該当性の判断基準等について1
退職所得について,所得税の課税上,他の給与所得と異なる優遇措置が講ぜられ
ているのは,一般に,退職手当等の名義で退職を原因として一時に支給される金員
は,その内容において,退職者が長期間特定の事業所等において勤務してきたこと
に対する報償及び同期間中の就労に対する対価の一部分の累積たる性質をもつとと
もに,その機能において,受給者の退職後の生活を保障し,多くの場合いわゆる老
後の生活の糧となるものであって,他の一般の給与所得と同様に一率に累進税率に
よる課税の対象とし,一時に高額の所得税を課すこととしたのでは,公正を欠き,
かつ社会政策的にも妥当でない結果を生ずることになることから,このような結果
を避ける趣旨に出たものと解される。そして,退職所得該当性については,その名
称にかかわりなく,退職所得の意義について規定した所得税法30条1項の規定の
文理及び退職所得に対する優遇課税についての上記立法趣旨に照らし,これを決す
るのが相当であるこのような観点から考察するとある金員が上記規定にいう退。,「
,」,職手当一時恩給その他の退職により一時に受ける給与に当たるというためには
それが,①退職すなわち勤務関係の終了という事実によって初めて給付されるこ
と,②従来の継続的な勤務に対する報償ないしその間の労務の対価の一部の後払
の性質を有すること,③一時金として支払われること,の各要件を備えることが
必要であり,また,上記規定にいう「これらの性質を有する給与」に当たるという
ためには,それが,形式的には上記各要件のすべてを備えていなくても,実質的に
みてこれらの要件の要求するところに適合し,課税上,上記「退職により一時に受
ける給与」と同一に取り扱うことを相当とするものであることを必要とすると解す
べきである最高裁昭和53年行ツ第72号同58年9月9日第二小法廷判決・(()
民集37巻7号962頁,最高裁昭和54年(行ツ)第35号同58年12月6日
第三小法廷判決・裁判集民事140号589頁。)
()本件金員が「退職手当,一時恩給その他の退職により一時に受ける給与」2
に該当しないこと
ア退職金の功労報償的かつ賃金後払的性質及び退職後の生活保障という機能に
かんがみ,特別に税負担が軽減され,優遇措置が図られた前記立法趣旨を踏まえる
と「退職手当,一時恩給その他の退職により一時に受ける給与」該当性の前記①,
の要件にいう「退職」という観念は,雇用契約又は委任契約の終了というような私
法上の法律関係に即した観念として理解すべきではなく,雇用関係又はそれに準ず
る関係の終了ないしはそれらの関係からの離脱を意味するところの社会的観念とし
て理解すべきであり,上記「退職」に該当するためには,雇用主等との勤務関係か
らの離脱という実質を備えることが必要であると解される。
イそこで,本件について検討するに,私立学校は,学校法人が設置する組織体
の一教学部門にすぎず(学校教育法2条,私立学校法2条3項,このような法人)
の構成部分は,法人と離れた独自の権利能力を有しない。したがって,Cについて
(),所得税法上の退職勤務関係の終了の事実があるか否かを検討するに当たっては
原告の組織体の一教学部門にすぎない本件高校における職務だけでなく,原告及び
原告が設置する学校(教学部門)において同人が担当するすべての職務を総合的に
勘案すべきである。
,,,そうであるところCは本件校長の職を退いた後の平成14年4月1日以降も
原告の代表役員たる理事長に継続して就任して学校法人の経営に従事するととも
に,原告の学園長や原告が設置する私立学校たる幼稚園の園長を継続して兼任し,
そして,本件校長から同日付けで本件学長に就任した上,原告から多額の報酬を受
け続けていることんなどの事実からすると,Cが原告を「退職」したと認めること
は到底できない。
この点について,原告は,学校法人の役員が私立学校の教職員を兼務し,かつ常
勤の職員として勤務していた場合は,学校法人との間に役員としての契約関係(委
任契約)と教職員としての契約関係(雇用契約)とが別個に成立し,それぞれの契
約関係ごとに勤務関係の終了すなわち退職が認められるべきである旨主張する。し
かしながら,理事長は,使用人を指揮監督する立場にあり,使用人としての立場と
両立し得ない職制上の地位にあるから,使用人としての職責に属する仕事に従事し
ている場合,それは役員(理事長)としての業務遂行と認識すべきものであり,使
用人としての地位を兼ねていると解することはできない。そもそも,原告の主張す
るように原告が部門別会計を採っているとしても,本件高校に権利能力はなく,権
利能力を有するのは学校法人たる原告であるところ,Cが原告を退職した事実が認
められないことは前述のとおりであるから,原告の上記主張は失当である。
また,原告は,原告において理事長に賞与を支払う根拠となる規定はなく,本件
金員は本件高校校長を退職したことによって本件高校の退職金規程に基づいて支払
われたものである旨主張するが,前述のとおり,ある金員が退職所得に該当するか
どうかは,その名目にかかわらず判断されるべきでものあるから,原告の上記主張
は,その前提を欠く。
ウ以上より,本件金員は,前記①の要件を満たさず,所得税法30条1項にい
う「退職手当,一時恩給その他の退職により一時に受ける給与」に該当しない。
()本件金員が「これらの性質を有する給与」に該当しないこと3
ア前記()で述べたところからすれば,退職所得に該当するためには,厳密な1
意味での退職の事実は必ずしも要求されていないと解される。しかしながら,所得
税法上,退職所得を著しく優遇する措置が採られている前記趣旨が妥当するのは,
,,原則として社会実態に照らし実質的に退職に当たる事実が認められる場合であり
実質的に退職したとみるべき事実が認められないにもかかわらず,上記著しい優遇
措置を採らなければ公正でなく,社会政策的にも妥当でない場合というのは,ごく
。,「」限られると考えられるしたがってある金員が上記これらの性質を有する給与
に当たるというためには,およそ何らかの社会的必要性に基づいていわゆる打切り
支給(その給与が支払われた後に支払われる退職手当等の計算上その給与の計算の
基礎となった勤続期間を一切加味しない条件の下に支払われることをいう。以下同
じ。所得税基本通達30−2参照)がされ,それが一般的合理性を有すると認めら
れるという程度では足りず,従前の勤務関係が終了した場合と実質上同視し得る場
合か,そうではなく実質的に退職したとみるべき事実が認められない場合は,新た
な退職給与規程の制定又は相当な理由によるその改正により,退職金の給付に関し
て抜本的な変動があり,その際従前の勤続期間に対する退職金についての精算支給
を相当とする事態が生じた場合など極めて限定された特別の事実関係があることを
要すると解すべきである(東京高裁昭和51年(行コ)第74号同53年3月28
日判決・訟務月報24巻10号2116頁。)
課税実務においても同旨の考え方が採られており,所得税基本通達30−2が引
き続き勤務する者に支払われる給与で退職手当等とするものとしてその()から()16
までにおいて規定しているのは,()の場合を除けば,いずれも,引き続いて勤務1
しているといっても,勤務関係の性質,内容,処遇等において根本的な性格の相違
があり,勤務関係の実体において退職したとみるべき実質がある場合であり,()1
の場合は,退職金の給付に関して抜本的な変動があり,その際従前の勤続期間に対
する退職金についての精算支給を相当とする事態が生じた場合である。
したがって,退職手当等として支払があったとしても,社会的実態に照らし実質
的に退職に当たるとみられる事実がない場合には,原則として,退職所得として課
税上,著しい優遇措置を採るべきではなく,例外的に特別な事実関係があるなどの
ため優遇措置を採らなければ公正を欠き,かつ,社会政策的にも妥当でない結果を
生ずる場合に限り,優遇措置を認めるのが相当というべきである。
イそこで,本件について検討するに,以下のとおり,Cの原告における勤務関
係の性質,内容,処遇等において根本的な性格の相違があるというべき特別な事実
関係はなく,また,依然として年間約1800万円の報酬を収受している実態等か
らすると,実質的に退職に当たるとみられる事実を認めることはできない。
(ア)原告におけるCの地位
Cは,本件校長の職を退いた後も,依然として原告の代表役員たる理事長及び学
園長として原告の経営上,運営上の最上位の地位にあり,法的にも最高責任を負う
立場にあって,原告を代表し,業務一切を総括する広範な権限を有していることに
変わりはない。しかも,Cは,学校法人たる原告が設立された数年後に理事長に選
任されて以来,一時期を除き,現在まで40数年間にわたり,理事長として原告の
最上位の地位にあったものであり,Cは,原告において単なる法人代表役員以上に
枢軸的役割を果たしているものと認められる。Cの原告における地位は,平成14
年4月1日以後も,理事長,学園長及び幼稚園園長については従前と同様であり,
その兼務する職務のうち,本件校長という役職が本件学長に変わったにすぎない。
(イ)Cに対する報酬の支給状況
Cは,原告から平成14年3月31日までは月額合計149万6255円の報酬
(幼稚園園長の給与5万円を含む)を受け取っており,同年4月1日以降は,月。
額合計117万9330円(同上,他に年間約400万円の賞与の支給により,)
年間約1800万円の報酬を原告から受け取っている。仮に勤務内容が激変するな
どして,退職したと同様の事情があるのであれば,Cの報酬は,年功賃金制の下,
勤務内容の激変に伴って必然的に激減するなど,実態に即し退職と同様の事情を反
映した支給金額になるはずであるしかしながらCは依然として月額合計100。,,
万円を超える高額な報酬を原告から収受し,役員報酬の金額にも変動がないのみな
らず,職務手当を含めれば前任学長の退職時の支給額よりも多い金額を,学長の報
酬として就任当初から収受しているのであって,退職と同様の事情があるというこ
とは到底できない。
(ウ)高等学校の校長及び大学の学長の職務の内容
高等学校の校長は,校務をつかさどり,所属職員を監督する(学校教育法28条
3項51条とされ大学の学長は校務をつかさどり所属職員を統督する同,),,,(
法58条3項)とされていることからも,校長及び学長の職務内容は本質的に同様
であり,Cが兼務する職務のうちの一つが,本件校長から本件学長になったことを
もって,Cの地位及び職務の内容が激変したということは到底できない。
これに対し,Cは,高等学校の校長と大学学長の仕事につき,高等学校では生徒
への教育指導という大きな使命と義務を負っているが,大学では学長が直接教員の
指導に当たることがなく,大いに相違するなどと供述するが,Cの挙げる根拠は,
いずれもCの原告における勤務関係が激変したに足りる事情とは認められないし,
給与の支給状況からも勤務関係の変化が反映されていないことは既に述べたとおり
である。
また,Cは,校長の仕事と理事長の仕事とでは9対1で,理事長の職務はわずか
である旨供述するが,それ自体根拠がないのみならず,給与等の支給状況からして
も理事長の職務は軽視できるものではないから,勤務関係に著しい変動が存在する
ことを裏付けるに足りるものでない。そもそも,Cの理事長としての職務は,原告
を代表し,業務一切を総括することにあり,その中には当然,高等学校及び大学の
,,運営に関する事項も包含されるのであるから高等学校の職を退いたからといって
Cが本件高校の運営に関する職務を行わなくなったというものではないし,本件学
長になって初めて大学の運営に関する職務を行うようになったわけでもない。
ウ以上のとおり,本件において,社会的実態に照らし実質的に退職に当たると
みられる事実は認められないところ,そうであるにもかかわらず本件金員を退職所
得として特別な税の減免措置を講じなければならない事情も認められないから,本
件金員に係る所得は,所得税法30条1項にいう「これらの性質を有する給与」に
該当しない。
エこれに対して,原告は,O退職金財団(以下「退職金財団」という)から。
退職資金の給付を受けたことをもって,本件金員につき精算すべき高度の必要性が
あったなどとして,本件金員が「これらの性質を有する給与」に該当すると主張す
る。しかしながら,退職金財団においては,学校法人内の異動により再度加入資格
を得ることもあることから,実際に退職する際に退職給付金として支給することが
可能なように,資格喪失の間,掛金の納付を中断する中断の手続について規定し,
また,掛金を返還した場合については,学校法人内に留保することを許さない規定
,,等はないからCが本件大学に異動したことをもって退職金財団の給付金を精算し
本人に支給しなければならない事情があったといえないことは明らかである。した
がって,原告の前記主張は,失当である。
()本件各処分の適法性4
ア本件納税告知について
以上のとおり,本件金員に係る所得は退職所得には該当しない。そうとすれば,
,「」()本件金員に係る所得は所得税法28条1項にいう給与所得賞与に係る所得
に該当するというべきである(法人税法35条4項参照。)
そうであるところ,Cは,本件金員の支払を受けた平成14年6月10日当時,
給与所得者の扶養控除等申告書(所得税法194条1項,2項)をA税務署長に提
出していなかった。また,Cは,平成14年4月以降は本件校長としての職を失っ
ており,本件高校において,Cに対する給与の支払がされたのは平成14年3月ま
でとなっていることから,本件金員の支給された月の前月に当たる平成14年5月
中には,本件高校がCに対して支払った又は支払うべき通常の給与等はなかった。
以上の事実関係によれば,本件金員は,給与所得者の扶養控除等申告書の提出が
なく,前月中に通常の給与等がない場合(所得税法186条1項2号ロ)に該当す
るから,経済社会の変化等に対応して早急に講ずべき所得税及び法人税の負担軽減
措置に関する法律(平成11年法律第8号)の「別表第一(平成11年4月1日以
())」。,後の給与所得の源泉徴収税額表月額表の乙欄を適用することになるそこで
この税額表を適用し,源泉徴収税額を計算すると,別紙2のとおり,差引き納付す
べき源泉徴収税額は,源泉徴収すべき税額1674万6900円から原告が納付し
た金額151万8000円を控除した金額である1522万8900円となる。
したがって,同金額の範囲内でされた本件納税告知は,適法である。
イ本件賦課決定について
本件納税告知に係る税額ただし1万円未満の端数を切り捨てたもの1522(,)
万円に100分の10の割合を乗じて計算した金額(国税通則法67条1項,同法
118条3項)は,152万2000円であるから,同金額の範囲内でされた本件
賦課決定は,適法である。
(原告の主張)
()本件金員が「退職手当,一時恩給その他の退職により一時に受ける給与」1
に該当すること
被告は,権利能力を有するのは学校法人である原告であり,本件においてCが原
告を退職した事実は認められないとして,本件金員が上記「退職手当,一時恩給そ
の他の退職により一時に受ける給与」該当性の要件のうち,退職すなわち勤務関係
()。の終了という事実によって初めて給付されることとの要件①を欠くと主張する
しかしながら,以下のとおり,Cが本件高校の校長を退職したことにより,退職す
なわち勤務関係の終了という事実があったものと認められるから,本件金員は,上
記要件を満たし,所得税法30条1項にいう「退職手当,一時恩給その他の退職に
より一時に受ける給与」に該当する。
ア理事長と校長とでは,契約関係が別個独立のものであること
以下のとおり,原告の理事長としての職務と本件高校の校長としての職務とは,
法律上明確に区別されており,また,定年の有無,資格要件の存否等,理事長の地
位と校長の地位とには重大な相違点が存在するから,理事長としての職務執行と校
長としての職務執行とを一体としてとらえることは不可能である。したがって,C
と原告との間には,原告の理事長としての役務提供に係る委任契約と本件高校の校
長としての役務提供に係る雇用契約とが,それぞれ別個の契約として成立していた
といわざるを得ない。
(ア)理事長の権限と校長の権限との相違
学校教育法,学校教育法施行規則は,高等学校の校長の権限を,校務をつかさど
り,所属職員を監督すること(同法51条,28条3項)とした上で,入学,転学
の許可(学校教育法施行規則59条1項,61条1項,留学の許可(同規則61)
条の2第1項,休学・退学の許可(同規則62条,全課程の終了の認定(同規則))
63条の2,他の高等学校における履修等についての単位の認定(同規則61条)
,,),(,),の2第2項63条の363条の4卒業証書の授与同規則28条65条
生徒の指導要録の作成(同規則12条の3第1項,生徒の出席簿の作成(同規則)
12条の4)など,職務内容を具体的かつ詳細に定めている。そして,これら校長
の職務は,校長自らが執行しなければならず,理事長には校長に代わってこれを執
行する権限はない。
したがって,学校法人の理事長が同法人の設置する高等学校の校長を兼任する場
合であっても,法定された校長の職務は,理事長としての職務とは峻別された校長
固有の職務ということができる。
この点に関連して,被告は,理事長は使用人としての立場と両立し得ない地位に
あるから,使用人としての職責に属する仕事に従事しているとしても,それは役員
としての業務遂行と認識すべきであると主張する。しかしながら,被告の上記主張
,,によれば学校法人の役員がその設置する私立学校において教鞭を取ったとしても
それは,教員としての職務ではなく,役員としての業務遂行と認識すべきというこ
とになるが,このような考え方は,一般常識からは到底理解し得ないものであり,
学校法人の組織運営を無視した強弁というべきである。そもそも,学校法人の理事
,(。),となる者は①当該学校法人の設置する私立学校の校長学長及び園長を含む
②当該学校法人の評議員のうちから,寄附行為の定めるところにより選任された
者(寄附行為をもって定められた者を含む,③これらの者のほか,寄附行為の。)
定めるところにより選任された者(寄附行為をもって定められた者を含む)とさ。
れ(私立学校法38条1項,上記①及び②の理事は,校長又は評議員の職を退い)
,(),,たときは理事の職を失うものとするとされており同条3項原告においても
その寄附行為6条1項により,理事は,本件学長(同項1号,B学院大学歯科衛)
生学院専門学校学院長(2号,本件高校校長(3号,評議員のうちから評議員会))
において選任した者,2人又は3人(4号,学識経験者のうち理事会において選)
,(),,,,任した者2人又は3人5号とされ上記1号2号3号及び4号の理事は
学長,学院長,校長又は評議員の職を退いたときは,理事の職を失うものとすると
されている(同条2項。このように,学校法人という組織体の制度設計において)
は,現場の状況をよく把握し得る校長を理事とし,もって適切な学校運営に資する
ことが図られているのであって,役員であるから校長になれるということはないか
,(),ら役員の立場で現場学校において業務執行をするという被告の上記考え方は
本末転倒である。
(イ)Cが従事していた現実の職務内容について
現に,Cが平成14年3月31日までに,本件高校の校長として行ってきた職務
と原告の理事長として行ってきた職務は,それぞれ以下のとおりであり,両者は明
確に峻別される。
a本件高校の校長としての職務
Cは,大阪府大東市d丁目e番f号にある本件高校に,月曜日から土曜日まで毎
日,午前8時には出勤し,概ね午後7時ころまで勤務し,①毎日の職員朝礼,生
徒朝礼での訓示,②職員会議,部長会,学年主任会議,学科長会議,教科主任会
議,運動部長会議,奨学金委員会,単位認定会議,補導会議等の生徒指導に関する
会議,同和教育に関する会議,入試選考委員会,中高入試対策委員会,中高入試判
定会議といった各種会議・委員会への出席,③体育祭,文化祭,野外研修,オリ
エンテーション,保護者会(教育後援会,修学旅行等の各種の行事への参加,④)
生徒に対する退学・停学・訓戒等の処分,単位認定や入試における合否判定につ
いての最終的な判断,決定,⑤教務日誌,教具購入計画書等のチェック,決済,
教職員の出張等について決裁,⑥校内巡回,生徒指導,⑦大阪府私立中学校高
等学校連合会,近畿工業高等学校長協会等の外部団体の会議への出席,等の職務を
行ってきた。
b原告の理事長としての職務
これに対し,Cは,原告の理事長として,①理事会,評議員会への出席,②
学校の新設・統廃合,組織の改編の方針の決定,③学校用地の購入や新校舎の建
設等の方針の決定,④教職員人事,財務の決済,等の職務を行ってきた。
(ウ)定年の存否
本件高校の就業規則2条にいう「職員」には校長も含まれるところ,同就業規則
46条1項は,職員の定年は満63歳とし,満年齢63歳に達した直後の学年度末
を定年満限日とする旨規定し,同条3項は,定年に達した者でも,理事会が特に必
要と認めた場合には,定年を延長することができる旨規定している。本件高校の校
長選任規程においても,校長に就業規則の定年に関する規定が適用されることが明
らかにされている。
他方,原告の理事長については,その寄付行為において,任期は定められている
が,定年の規定は設けられていない。
(エ)資格要件について
学校教育法施行規則8条1号は,高等学校の校長の資格について,教育職員免許
法による教諭の専修免許状を有し,かつ,教育に関する職に5年以上あったことと
している(なお,同規則8条2号,9条,9条の2は,それぞれ,上記免許状を有
しない者でも校長になれることを規定しているが,これらは,いずれもごく例外的
な場合であり,ほとんどの高等学校の校長は,上記免許状を有している者が就任し
ている。。)
これに対し,私立学校法は,理事長についての資格要件を設けていない。
イ本件高校の校長の退職と本件大学の学長への就任が職務分掌の異動にとどま
らないこと
,,,以下のとおり本件高校と本件大学とではその目的及び教育内容が全く異なり
人的要素,物的要素,経済的基盤において別個独立性を有しており,また,所轄庁
も異なり,それぞれの学校がそれぞれの所轄庁から強い監督を受けており,被告が
,。主張するようにこれを会社の場合の支店や営業所と同視することは到底できない
また,本件高校の校長としての職務と本件学長としての職務との間には根本的な相
違があり,本件高校の校長としての職務執行と本件学長としての職務執行は全く別
個の契約関係(勤務関係)であると評価することができるから,本件高校の退職と
本件学長への就任をもって単なる職務分掌の異動にすぎないととらえることはでき
ない。
(ア)本件高校と本件大学とが全く別個独立の組織であること
a教育機関としての目的の相違
高等学校は「中学校若しくはこれに準ずる学校を卒業した者若しくは中等教育,
学校の前期課程を修了した者又は文部科学大臣の定めるところにより,これと同等
以上の学力があると認められた者(学校教育法47条)を入学資格者とし「中学」,
校における教育の基礎の上に,心身の発達に応じて,高等普通教育及び専門教育を
施すことを目的とする(同法41条)ものである。」
これに対し,大学は「高等学校若しくは中等教育学校を卒業した者若しくは通常
の課程による12年の学校教育を終了した者(括弧書き省略)又は文部科学大臣の
定めるところにより,これと同等以上の学力があると認められた者」を入学資格者
とし(同法56条1項「学術の中心として,広く知識を授けるとともに,深く専),
門の学芸を教授研究し,知的,道徳的及び応用的能力を展開させることを目的とす
る」ものである(同法52条)から,本件高校と本件大学とでは,その目的や提供
する教育内容において全く異なる。
b人的要素の別個独立性
高等学校においては,教諭及び講師は高等学校の教諭の免許状を有しなければな
らない(教育職員免許法2条1項,3条1項)のに対し,大学の教授は,博士の学
位を有し研究上の業績を有する者や,研究上の業績がこれに準ずると認められる者
などで,かつ大学における教育を担当するにふさわしい教育上の能力を有すると認
められる者(大学設置基準14条)とされている。本件高校の教員は,いずれも高
等学校の教諭の免許状を有しているのに対し,本件大学の教授は,他の大学の博士
号を有している者が大半であり,本件高校の教員と本件大学の教授,講師を兼ねる
者も存在せず,本件高校の教員が本件大学の教授に異動することも本件大学の教授
等が本件高校の教員に異動することも全くなかったものである。
本件高校の生徒と本件大学の学生とは,年齢及びその前提とする教育内容におい
て全く異なるものであり,当然のことながら,本件高校の生徒と本件大学の学生の
地位を同時に有する者は存在しない。
,,,,,また本件高校本件大学はそれぞれ別個独立の組織を有し固有の就業規則
退職金規程等を定めていたのであるから,その人的要素は全く別個のものであると
いうことができる。
c物的要素の別個独立性
小学校,中学校,高等学校,大学,幼稚園等の学校教育法1条に規定する学校に
ついては,学校の種類に応じ,文部科学大臣の定める設備,編制その他に関する設
置基準に従って設置しなければならないとされており(学校教育法3条。この設置
基準として,大学設置基準,高等学校設置基準等が定められている,本件高校は)
,,高等学校設置基準に本件大学は大学設置基準にそれぞれ従って校舎やグラウンド
校具などの物的設備を備えている。
また,本件高校は大阪府大東市d丁目e番f号に校舎を有するのに対し,本件大
学は旧a町b番cに校舎を有しており,その物的要素は全く別個・独立であるとい
える。
d経済的基盤の別個独立性
原告は,国と大阪府その他の自治体から補助金の交付を受けているが,これらの
補助金については使途が定められており,国からの補助金については大学である本
件大学及びI大学の運営にのみ使用することができ,大阪府からの補助金について
は本件高校,本件中学,本件幼稚園等の運営のみに使用することができることとさ
れている。また,当然のことながら,本件高校の生徒から納付された入学金,授業
料は本件高校の運営にしか使用してはならず,本件大学の学生から納付された入学
金,授業料も本件大学の運営にしか使用してはならず,双方の収入を流用すること
は禁じられている。
原告は,私立学校振興助成法14条により,文部科学大臣の定める基準(学校法
人会計基準(昭和46年文部省令第18号)に従い,会計処理を行わなければな)
らなかったところ,学校法人会計基準13条1項,14条1項,24条1項は,学
校法人に対して作成を義務付ける計算書類のうち,資金収支内訳表,人件費支出内
訳表及び消費収支内訳表については,①学校法人(次の②から⑤までのものを除
く,②各学校,③研究所,④各病院,⑤農場,演習林その他③及び④の。)
施設の規模に相当する規模を有する各施設の各部門ごとに区分して記載するものと
しており,原告は,学校法人部門と各学校とを区分して会計処理をすることを義務
付けられている。このような部門別会計によって経理面についても各学校の独立性
が担保されているといえる。
e所轄庁の違い
(,学校の設置廃止等については教育基本法4条1項各号に定める者文部科学大臣
),,都道府県知事等の認可を受けなければならず学校に法令違反等がある場合には
,(),これらの者は学校閉鎖命令を発することができるものとされており同法13条
学校について強い監督権限を有している。また,上記のとおり,原告は,私立学校
振興助成法に基づく補助金の交付を受けていることから,年度ごとに収支予算書を
作成し,貸借対照表,収支計算書等とともに,私立学校法4条に規定する所轄庁に
これを届け出なければならず(私学振興助成法14条2項,所轄庁は,当該学校)
法人の予算が助成の目的に照らして不適当であると認める場合において,その予算
について必要な変更をすべき旨を勧告することができる(同法12条3号。)
平成14年3月当時原告が設置していた学校のうち,本件大学及びI大学の教育
行政上の所轄庁は文部科学大臣であり(私立学校法4条1号,I大学歯科衛生学)
院専門学校,本件高校,本件中学及び本件幼稚園の教育行政上の所轄庁は大阪府知
事(同条2号)であり,原告の法人運営上の所轄庁は文部科学大臣(同条5号)で
あった。
上記のとおり,所轄庁が学校に対して極めて強い監督権限を有していることから
すると,本件大学と本件高校とで所轄庁が異なることは,重大な意味を有する。
(イ)本件高校の校長の地位と本件学長の地位とが全く異なるものであること
a職務の内容の相違
高等学校の校長の職務内容は,前記ア(ア)のとおりである。これに対し,校務を
つかさどり,所属職員を統督すること(同法58条3項)のほかに法定されている
学長の具体的な職務内容は「学生の入学,退学,転学,休学及び卒業の決定(同,」
規則67条)といった程度である。しかも,学長がこれらの決定をするには「教授
会の議を経る」ことが必要であるとされており(同条,本件高校の校長としての)
職務内容と比較すると,その権限の内容は限定されているといわざるを得ない。
そして,Cが,本件高校の校長として行っていた職務の内容は,前記ア(イ)aの
とおりである。これに対し,本件大学の学長就任後,Cは,旧a町b番cの同大学
の学長室に週2,3回出勤し(滞在する時間も一定ではない,①教授会(週1)
回)への出席,②入学式,学位授与式といった行事への参加,③教授会の議を
経た上での学生に対する退学,停学,訓告等の処分,④学務書類の決裁,⑤日
本私立大学協会等本件大学が加盟している外部団体の総会等への出席,などの職務
を行っている。なお,Cが本件学長に就任すると同時に,Cよりも大学の運営に関
,(「」。)(「」し知識・経験を有するCの長男J以下Jという及び次男K以下K
という)が,それぞれ副学長,学長補佐に就任したことから,Cは,学長就任後。
も,同人らにその実質的な判断をゆだねることが多い。
このように,本件高校校長在職時と本件学長就任後では,勤務形態も実際に従事
する職務の内容も全く異なっている。
b資格要件の相違
高等学校の校長の資格については,前記ア(エ)のとおりであるのに対し,大学の
学長の資格については,学校教育法施行規則には定めがなく,大学設置基準に抽象
的な定め(同基準13条の2)がされているにすぎない。
このように,本件高校の校長と本件大学の学長については,その資格要件におい
て大きな相違点が存在する。
c定年齢の相違
本件高校の校長の定年については,上記ア(ウ)のとおりであるのに対し,同大学
の学長は,同大学定年規程に定められた満68歳で定年となる(同規程2条1項1
号。このように,本件大学の学長は,本件高校の校長よりも定年が5歳高く設定)
されており,両者の間には定年齢における相違点も存在する。
d給与の相違
Cが本件高校校長に在職していた平成13年度に,Cに対して支給された給与・
報酬は,①本給93万7000円(内訳:本俸85万1820円,研究補助28
00円,住宅手当2万5200円,調整手当5万7180円,②役職手当11)
万9255円,③役員報酬39万円であった。これに対し,Cが本件大学学長に
,,,就任した平成14年度にCに対して支給された給与・報酬は①本給68万円
②職務手当5万9330円,③役員報酬39万円である。
平成13年度の給与のうち,本件高校校長としての労務の提供の対価に当たるの
は,①本給93万7000円と②役職手当11万9255円との合計105万
6255円であり,平成14年度の給与のうち,本件大学の学長としての職務執行
の対価にあたるのは,①本給68万円と②職務手当5万9330円との合計
73万9330円であり,両者を比較すると,金額において31万6925円の減
額となっており,役員報酬を除いた減額率は,約30パーセントとなっている。
また,平成13年度の研究補助,住宅手当,調整手当,役職手当といった諸手当
はすべて本件高校の給与規程に根拠を有するのに対し,平成14年度の職務手当は
本件大学の指定職に関する規程に根拠を有しており,給与面においても,両者の間
には根本的な相違がある。
()本件金員が「これらの性質を有する給与」に該当すること2
「これらの性質を有する給与」という概念は,一義的には明確ではなく,その該
当性判断に当たっては,所得税法30条1項の趣旨等に照らし,実質的に判断する
必要がある(前記最高裁第二小法廷判決昭和58年9月9日,同第三小法廷判決昭
和58年12月6日。そして,その判断に当たっては,当該給与が,①長年の)
勤務に対する報償,②給与の一括後払,③退職後の生活保障といった経済的実
質を有するかどうかに加え,精算支給の必要性があるかどうか,当該金員を支給さ
れる者の勤務関係の変動の程度,内容等が総合的に考慮されるべきである。
この点について,被告は「これらの性質を有する給与」に当たるというために,
は,およそ何らかの社会的必要性に基づいて打切り支給がされ,それが一般的合理
性を有すると認められるという程度では足りず,従前の勤務関係が終了した場合と
実質上同視し得る場合か,そうではなく実質的に退職したとみるべき事実が認めら
れない場合は,退職金の給付に関して抜本的な変動があり,その際従前の勤続期間
に対する退職金についての精算支給を相当とする事態が生じた場合など極めて限定
された特別の事実関係があることを要すると主張するが,勤務関係の変動と退職金
の精算支給の必要性とを別個独立の要件とし,それぞれを関連付けない点で厳格に
すぎ,相当でない。
そうであるところ,Cの本件高校校長を退職したことに伴う前記勤務関係の変動
に加え,以下のとおり,本件金員が退職金としての経済的実質を有し,また,その
際に退職金を精算する必要があったことなどを総合的に考慮すると,本件金員につ
いては「退職手当,一時恩給その他の退職により一時に受ける給与」と同一に取,
り扱うのが相当である。したがって,本件金員は「退職手当,一時恩給その他の,
退職により一時に受ける給与」に該当しないとしても「これらの性質を有する給,
与」に該当するというべきである。
ア本件金員が退職金としての経済的実質を有すること
本件金員は,Cが本件高校校長を退職したことにより,本件高校の就業規則21
条の退職金として支払われた金員であり,同校退職金規程に基づきその金額が算定
された。上記退職金規程3条1項は,退職金は退職時の本俸に研究補助費の月額を
加えた額に勤続年数に応じて別表(本件判決添付別紙3の退職金支給率表)の率を
乗じた額とする旨規定するところ,この支給率は勤続年数に比例して支給率が高く
なるよう設定され,また,本件高校の給与体系においては,年功序列的賃金体系が
採用され,勤続年数に従って本俸の金額が上昇するよう定められていた。本件金員
は,このような退職金規程の定めに基づいて算定,支給されたのであるから,長年
の勤務に対する報償,給与の一括後払といった経済的実質を有していたことは明ら
かである。
さらに,本件金員が支給された際のCの年齢は74歳であり,本件高校の就業規
則の定年に達し,かなりの高齢であったことからすると,本件金員については,老
後の生活の糧といった経済的実質もまた認めることができる。
したがって,本件金員は,①長年の勤務に対する報償,②給与の一括後払,
③老後の生活の糧という所得税法30条1項が前提とする退職金の経済的実質を
すべて備えているということができる。
イ退職金精算の必要があったこと
原告は,平成14年3月31日当時,退職金財団に加入していた。退職金財団に
おいては,事業の対象となる学校法人から負担金を徴収し,学校法人の教職員が退
職した場合に,当該学校法人に対し,退職者又は遺族に支給する退職金に充当する
資金である「退職資金」を給付する制度を運用しているところ,大学,短期大学に
勤務する者には同制度への加入資格を認めていない。したがって,大阪府内の私立
の幼稚園,小学校,中学校及び高等学校に勤務する教職員が,当該学校を退職した
場合は,その後,同一学校法人の設置する大学に勤務したとしても,退職金財団へ
の加入資格を失うこととなる。
Cは,平成14年3月31日に本件高校の校長を退職したため,退職金財団の加
入資格を喪失した。そのため,原告は,Cについて資格喪失手続をし,その結果,
,,。退職金財団は原告に対しCの退職資金として1972万1200円を支給した
退職金財団から学校法人に給付された退職資金については,退職金財団の運営規則
においても,退職する教職員の退職金に充てるものとされ,本件高校の退職金規程
においても,同様の定めがされている(同規程6条。なお,被告は,掛金の返還)
や掛金納付の中断の手続に言及するが,これらの手続は「同一法人内の私立学校,
を移ったことによる資格喪失」のうち,当該教職員が再度退職金財団の加入資格を
取得する可能性がある場合を想定しており,Cのように高等学校の校長を定年退職
し,その後大学の学長となり,再度加入資格を得る可能性がない場合は対象として
いないことが明らかである。
したがって,原告としては,退職金財団からCの退職資金として給付された上記
金員については,これを学校法人内に留保しておくことは許されず,退職金として
Cに交付すべき法律上の義務があったということができる。
そもそも,Cについては,本件高校の校長を退職したことにより,その就業規則
21条,退職金規程により,同校の教職員としての在職期間等に基づき算定された
金額の退職金請求権を取得すると解される。
以上より,本件においては,極めて高度の精算の必要性があったということがで
きる。
()原告において理事長に賞与を支給することはできないこと3
,。,本件各処分は本件金員が賞与に該当することを前提としているしかしながら
学校法人の理事については無報酬が原則であり,ただし,理事のなり手を確保する
観点から,理事会に出席して学校法人の経営に携わる場合についてのみ報酬を支払
うとするのが一般的であり,原告においても,理事長に賞与を支給する根拠となる
規定はない(原告の寄附行為14条は,役員は,その地位について報酬を受けるこ
とができないと規定し,役員報酬規程にも賞与に係る規定はない。なお,同規程5
条1項は「理事長は,毎年度毎に学園の業績により,理事会,評議会に諮って,,
非常勤以外の役員に特別手当を支給することができる」とするが,支給の実績は。
ない。したがって,本件金員は,理事長であるCに対する賞与ということはでき。)
ず,Cが本件校長を退職したことによる退職手当等に該当するというほかない。
()結論4
以上のとおり,本件金員は「退職手当,一時恩給その他の退職により一時に受,
ける給与」又は「これらの性質を有する給与」に該当し,本件金員に係る所得は,
退職所得に該当するから,これを給与所得であるとしてされた本件各処分は,いず
れも違法である。
第3当裁判所の判断
1「退職所得」の意義
前記法令の定め等記載のとおり,所得税法が,退職所得を「退職手当,一時恩給
その他の退職により一時に受ける給与及びこれらの性質を有する給与」に係る所得
をいうものとし,これについて所得税の課税上他の給与所得と異なる優遇措置を講
じているのは,一般に,退職手当等の名義で退職を原因として一時に支給される金
員は,その内容において,退職者が長期間特定の事業所等において勤務してきたこ
とに対する報償及び同期間中の就労に対する対価の一部分の累積としての性質をも
つとともに,その機能において,受給者の退職後の生活を保障し,多くの場合いわ
ゆる老後の生活の糧となるものであって,他の一般の給与所得と同様に一律に累進
税率による課税の対象とし,一時に高額の所得税を課することとしたのでは,公正
を欠き,かつ社会政策的にも妥当でない結果を生ずることになることから,このよ
うな結果を避ける趣旨に出たものと解される。そうとすれば,従業員の退職に際し
て退職手当又は退職金その他種々の名称のもとに支給される金員が同法30条1項
にいう「退職所得」に当たるかどうかについては,その名称にかかわりなく,退職
所得の意義について規定した前記同法30条1項の規定の文理及び退職所得に対す
る優遇課税についての前記立法趣旨に照らし,これを決するのが相当である。この
ような観点から考察すると,ある金員が,同項にいう「退職手当,一時恩給その他
の退職により一時に受ける給与」に当たるというためには,それが,①退職すな
わち勤務関係の終了という事実によって初めて給付されること,②従来の継続的
な勤務に対する報償ないしその間の労務の対価の一部の後払の性質を有すること,
③一時金として支払われること,との要件を備えることが必要であり,また,同
項にいう「これらの性質を有する給与」に当たるというためには,それが,形式的
には上記各要件のすべてを備えていなくても,実質的にみてこれらの要件の要求す
るところに適合し,課税上,上記「退職により一時に受ける給与」と同一に取り扱
うことを相当とするものであることを必要とすると解すべきである(前記最高裁第
二小法廷判決昭和58年9月9日,同第三小法廷判決昭和58年12月6日。)
2認定事実
前記前提事実に加え,証拠(甲4から9まで,甲16から32まで,甲36,甲
,,,,,,39から43まで乙1から5まで乙7乙10から16まで乙19乙23
原告代表者)及び弁論の全趣旨によれば,以下の各事実が認められる。
()原告における学校設置の経緯等1
ア原告による各私立学校の設置,運営の経緯は,前記前提事実()記載のとお1
りである。
原告は,学校法人としての設立以来,建学の精神を具現化する場として,本件高
校における教育に重点を置いており,本件高校の生徒数は,昭和60年ころには
2200名程度であり,平成14年ころには1200名程度であった。
原告がI大学を開学したのは昭和62年4月であり,本件大学を開学したのは平
成10年4月である。平成14年4月の本件大学への新入学生の数は,143名程
度であった。
イ原告は,国や大阪府その他の地方公共団体から私立学校振興助成法4条1項
及び同法9条に規定する補助金の交付を受けているところ,同法14条1項は,同
法4条1項又は同法9条に規定する補助金の交付を受ける学校法人は,文部科学大
臣の定める基準に従い,会計処理を行い,貸借対照表,収支計算書その他の財務計
算に関する書類を作成しなければならない旨規定し,この規定に基づき定められた
学校法人会計基準は,学校法人に対し,資金収支計算書及びこれに附属する内訳表
(資金収支内訳表,人件費支出内訳表,消費収支計算書及びこれに附属する消費)
収支内訳表並びに貸借対照表及びこれに附属する明細表(固定資産明細表,借入金
明細表,基本金明細表)の作成を義務付け(同基準4条,このうち,資金収支内)
訳表,人件費支出内訳表及び消費収支内訳表については,①学校法人(次の②か
ら⑤までのものを除く,②各学校,③研究所,④各病院,⑤農場,演習。)
林その他③及び④の施設の規模に相当する規模を有する各施設の各部門ごとに区分
して記載するものとしている(同基準13条1項,14条1項,24条1項。)
()Cの経歴等2
アC(昭和3年2月2日生まれ)は,原告の創設者(E)の子であるところ,
大学卒業後の昭和25年4月に22歳で本件高校の数学教諭として採用された。
イCは,昭和26年3月に23歳で原告の理事に,昭和29年7月に26歳で
原告の理事長に就任し,その後,Cの母(H)が理事長を務めていた昭和32年3
月から昭和36年11月までの間を除き,現在(79歳)に至るまで原告の理事長
の地位にある。
なお,原告の理事は,その寄附行為6条1項により,本件学長(同項1号,B)
学院大学歯科衛生学院専門学校学院長(2号,本件高校校長(3号,評議員のう))
ちから評議員会において選任した者,2人又は3人(4号,学識経験者のうち理)
事会において選任した者,2人又は3人(5号)とされ,上記1号,2号,3号及
び4号の理事は,学長,学院長,校長又は評議員の職を退いたときは,理事の職を
失うものとするとされている(同条2項。そのため,Cは,平成14年3月31)
日に本件高校校長の職を退いたことにより理事の職を失い,したがって,理事長の
職も失ったが,同年4月1日の本件学長への就任により,改めて理事となった。C
は,同日以後も理事長の職務を遂行していたところ,Cは,平成14年3月31日
に理事長の職も失ったのであるから,本来は,理事会による理事長選任決議が必要
であったが,この手続は失念されていた。平成14年10月19日開催の理事会に
おいて,Cの理事長としての3年の任期が満了するとして,Cを理事長に再任する
決議がされ,その後,平成16年10月2日開催の理事会で理事長選任手続に係る
上記不備が報告され,Cを理事長として承認する決議がされた。
ウCは,前記のとおり,昭和25年4月に本件高校の数学教諭として採用され
た後,昭和30年3月に27歳で本件高校の校長に就任したが,校長就任後も,昭
和60年ころまで数学の授業等を担当し,クラス担任をするなどしていた。Cは,
その後,平成12年4月にその設置に伴って本件中学の校長を兼任することとなっ
。,,,,たその後平成14年3月31日74歳で本件校長の職を退き同年4月1日
本件学長に就任した(Cの本件高校における勤続年数は52年間である。なお,。)
本件高校及び本件中学の職員の本来の定年は63歳であるが,Cが64歳になった
後の平成4年11月28日に開催された理事会で,Cの定年を平成9年3月31日
まで延長する旨の決議がされ,さらに,平成8年11月30日に開催された理事会
で,Cの定年を平成14年3月31日まで延長する旨の決議がされていた。
また,Cは,昭和30年4月から昭和36年3月までの間,昭和58年11月か
ら昭和59年4月までの間,それぞれ本件幼稚園の園長を務め,さらに,昭和62
年4月に同園長に就任し,現在に至るまでその職にある。
エCは,平成12年4月1日施行の原告の学園長規程により,同日,原告の初
代学園長に就任し,現在に至るまで学園長の地位にある。
()Cの職務内容等3
ア(ア)Cは,平成14年3月31日以前及び同年4月1日以後を通じ,原告の
理事長として,①理事会及び評議員会(いずれも1年間に5回程度開催)への出
席と議事の進行,②学校の新設,統廃合,組織の改編等に関する方針決定,③
学校用地の購入や新校舎建設等の方針決定,④教職員人事,財務の決済等の職務
を行っている。ただし,長男Jが,平成7年4月に原告副理事長に就任したほか,
原告の学園企画室の室長を兼務し,次男Kも同室次長に就任しており,上記②から
④までの職務については,同人らが主導的な役割を果たしている。
(イ)学園長はいわゆる名誉職であって(原告の学園長規程3条は,学園長は,
建学の理念に基づく教育活動を推進するために,各部門を統督し,学園の教育活動
の充実活性化を図ることを職務とすると規定するのみである,Cは,平成14年。)
3月31日以前及び同年4月1日以後を通じ,学園長としては,具体的な職務や権
限を有していない。
(ウ)本件幼稚園においては,昭和62年4月にCが園長に就任するに際し,副
園長の職が設けられ,同園の実務は副園長が統括している。したがって,平成14
年3月31日以前及び同年4月1日以後を通じ,Cの本件幼稚園園長としての職務
は,入園式,卒園式といった重要な式典や宿泊保育,運動会といった各種行事に参
加するといった程度で,Cが本件幼稚園に定期的に出勤するということはない。
イCは,平成14年3月31日まで,本件校長として,本件高校及び本件中学
(いずれもd丁目e番f号所在)に月曜日から土曜日まで,毎日午前8時ころから
午後7時ころまで勤務し,①職員朝礼,生徒朝礼における訓辞,②職員会議,
,,,,,,部長会学年主任会議学科長会議教科主任会議運動部長会議奨学金委員会
単位認定会議,補導会等の生徒指導に関する会議,同和教育に関する会議,入試選
考委員会,中高入試対策委員会,中高入試判定会議といった各種会議・委員会への
出席,③体育祭,文化祭,野外研修,オリエンテーション,保護者会,修学旅行
等の各種行事への参加,④生徒に対する退学・停学・訓戒等の処分,単位認定や
入試における合否判定についての最終的な判断,決定,⑤教務日誌,教具購入計
画書等学務書類の決裁,教職員の出張等についての決裁,⑥生徒指導(問題を起
こした生徒に対する個別の面会・指導を含む,校内巡回,⑦大阪府私立中学校。)
高等学校連合会,近畿工業高等学校長協会等の外部団体の会議等への出席などの職
務を行っていた。なお,本件中学は,各学年の定員が80名程度であり,Cが本件
中学の校長に在職した平成12年4月から平成14年3月までは開校当初のため生
徒数も少なく,Cの本件校長としての職務のうち,本件中学の校長としての職務の
割合は小さいものであった。
ウCは,平成14年4月1日以降,本件学長として,本件大学(旧a町b番c
),(),所在の学長室等において①教授会への出席と議事の進行1週間に1回開催
②入学宣誓式,学位記授与式への出席,③学生に対する退学,停学,訓告等の
処分についての最終的な判断,決定,④学務書類の決裁,⑤日本私立大学協会
等本件大学が加盟している外部団体の総会等への出席,などの職務を行っている。
もっとも,Cが本件大学(学長室)に出勤するのは,1週間に2,3回程度の頻
度ではあるが,不定期であり,出勤した場合の滞在時間も一定ではない。
平成10年4月から,Jは,I大学の学長の職に,Kは,同大学の学長補佐の職
にあったため,同人らは,Cよりも大学運営についての知識,経験が豊富であった
ところ,Cが本件学長に就任すると同時に,Jが本件大学の副学長に,Kが本件大
学の学長補佐にそれぞれ就任し,学長としての職務について実質的な判断の一部を
ゆだねられるなど,Cの学長としての職務の多くを助けている。
()Cに対する給与の明細等4
アCが,平成13年度(本件校長在職時)に原告から支給されていた1か月の
給与明細及びその支給根拠は以下のとおりでありその合計額は149万6255,,
円である。
(ア)理事長の職務に対する報酬39万0000円
原告の理事長の報酬は,その役員報酬規程(なお,同規程の名称は,平成17年
7月2日開催の理事会で役職手当規程に変更された)2条により,25万円から。
40万円までの間とされている。
なお,原告の寄附行為14条は,役員は,その地位について報酬を受けることが
,,,,できない旨規定するがこれは役員の報酬については勤務実態に即して支給し
役員の地位にあることのみによっては支給しないという趣旨であると解される(甲
12,乙23参照。)
(イ)幼稚園園長の職務に対する給料5万0000円
本件幼稚園には園長が非常勤の場合の給料についての定めがなかったことから,
他の非常勤職員の給料等を勘案して,上記金額とされた。
(ウ)a高校校長の職務に対する本給93万7000円
(内訳)本俸85万1820円
研究補助費2800円
住宅手当2万5200円
調整手当5万7180円
本件高校においては,平成11年ころ,校長の給料をいわゆる人事院勧告による
指定職俸給表(事務次官,外局の長,大学の学長,試験所又は研究所の長,病院又
は療養所の長その他の官職を占める職員で人事院規則で定める者に適用される俸給
表)を用いて算定することとし,平成13年度のCの本給は同表における6号俸の
俸給月額と同額(93万7000円)とされた。
b本件校長の職務に対する役職手当11万9255円
本件高校においては,校長,教頭,部長,主任等の地位にある者に対し,役職手
当給与規程2条4項の職務手当を支給することとしているところ平成13(「」),
年度の校長の役職手当は,大規模の大阪府立の高等学校の校長の場合に準じて,本
俸の14パーセントとされ,これにより,上記金額とされた。なお,平成14年度
の校長(Cの後任)の役職手当は,普通規模の大阪府立の高等学校の校長の場合に
準じて,本俸の12パーセントとされた。
(エ)前記のとおり,学園長は,具体的な職務,権限を有しない名誉職であり,
これに対する給与は支給されていない。また,Cは,本件高校校長と本件中学校長
とを兼務していることなどから,本件高校校長としての上記本給及び役職手当の他
に,本件中学校長としての職務に対する給与は支給されていない。
イCが,平成14年度(本件学長在職時)に原告から支給された1か月の給与
明細及びその支給根拠は,以下のとおりであり,その合計額は117万9330円
である。
(ア)理事長の職務に対する報酬39万0000円
支給の根拠は,平成13年度と同様である。なお,理事長選任手続については,
前記()イのとおりである。2
(イ)幼稚園園長の職務に対する給料5万0000円
支給の根拠は,平成13年度と同様である。ただし,平成13年1月1日から同
,(,)年12月31日までの給料・賞与の合計額は60万円うち源泉所得税3万円
であるのに対し,平成14年1月1日から同年12月31日までの給料・賞与の合
計額は,63万3333円(うち,源泉所得税3万3333円)である。
(ウ)a本件学長の職務に対する本給68万0000円
うち,本俸59万3260円
本件大学においては,指定職に関する規程により,学長,学部長,事務局長等の
俸給表(指定職俸給表)を定めているところ,平成14年度のCの号俸は4号俸と
され,上記金額が決められた(なお,同規程4条は,指定職俸給表の適用を受ける
職員の該当号俸は,理事長が決定する旨規定する。。)
b本件学長の職務に対する職務手当5万9330円
これは,上記本俸59万3260円の10パーセントに相当する額であるが,指
定職に関する規程5条は,指定職の適用を受ける職員は,管理職手当(役職手当,
職務手当等,研究補助費,住宅手当及び家族手当は,支給されないとしており,)
上記5万9330円の職務手当は,同規程上は,支払われないはずのものであり,
前学長(安川克己)も,職務手当の支給は受けていなかった。
ウ以上によれば,Cが平成13年度に原告から支給を受けていた1か月の給与
の合計は149万6255円であり,そのうち,本件校長としての職務に対する給
与は105万6255円である。これに対し,Cが平成14年度に原告から支給を
受けていた1か月の給与の合計は117万9330円であり,そのうち,本件学長
としての職務に対する給与は73万9330円である。そうすると,Cの平成14
年度の給与月額は,平成13年度に比べて,約21パーセント減少しており,本件
学長としての職務に対する給与は,本件校長としての職務に対する給与に比べて,
約30パーセント減少している。
()本件金員の支払とその算定根拠5
ア原告は,Cが本件校長の職を退いたことから,平成14年6月10日,Cに
対し,本件高校の就業規則及び退職金規程に基づく退職金として4802万135
3円(本件金員)を支払うこととし,その際,Cから,本件金員に係る所得は所得
税法30条1項にいう「退職所得」に該当するとして151万8000円を源泉徴
収し,これを国に納付した(なお,原告が,同日,現実にCに支払ったのは,本件
金員から上記所得税のほか地方税等を控除した残額4511万2035円であ
る。。)
,,イ本件金員の額は平成14年3月31日当時のCの本俸85万1820円に
本件高校の退職金規程が勤続年数41年の普通退職の場合の支給率として定める
56.375を乗じて算出された。なお,本件高校の退職金規程3条1項は,退職
金は退職時の本俸に研究補助費の月額を加えた額に勤続年数に応じて別表(本件判
決添付別紙3の退職金支給率表)の率を乗じた額とする旨規定するところ,同別表
には勤続年数が41年以上の場合の支給率が規定されていないことから,本件金員
。,の額の算出には勤続年数41年の普通退職の場合の支給率が用いられたもっとも
本件記録によっても,平成14年3月31日当時のCの研究補助費(2800円)
が算出の基礎として加算されなかった根拠は明らかでなく,また,同規程3条2項
が同条1項により算出された金額に10円未満の端数がある場合はこれを切り上げ
る旨規定するにかかわらず,本件金員の額の算出に当たって10円未満の切上げが
されなかった根拠もまた明らかでない。
ウ退職金財団は,大阪府内に私立学校を設置している学校法人その他の設置者
及び私立学校関係団体に対し,当該学校法人等に勤務する教職員の退職金支給に必
。,要な資金を給付することを事業目的とする財団法人である退職金財団においては
事業の対象となる学校法人等から負担金を徴収し,学校法人等の教職員が退職した
場合に,当該学校法人等に対し,退職者又は遺族に支給する退職金に充当する資金
である「退職資金」を給付する制度を運用している。原告は,昭和43年4月に退
職金財団の事業の対象となったところ,Cが本件校長の職を退いたことから,Cに
対して本件金員を支払った後,同財団に対し,同財団事務要領の定めに従って算出
されたCに係る退職資金1972万1000円を請求し,その後,同金員が同財団
から原告に対して給付された。
()学長及び理事長に係る退職金6
ア本件大学の退職金規程3条は,退職金は,退職時の本俸に勤続年数に応じて
別表の率を乗じた額とする旨規定するところ,上記勤続年数は,本件大学における
勤続年数を意味し,Cが,今後,本件学長の職を退く際には,平成14年4月1日
から退職までの期間が退職金算出の基礎とされる。
イ原告の役員報酬規程には,理事(理事長)を退任する際に退職金を支給する
旨の定めはなく,原告において,これまで退任する理事に退職金を支払ったことは
ない。
3検討
()ア前記認定の本件金員の算定方法等からして,本件金員がCの本件高校で1
の勤続期間(52年間)における勤務に対する報償ないしその間の労務の対価の一
部の後払として支払われたこと,本件金員が一時金として支払われたことは,いず
れも明らかであるから,本件金員は「退職手当,一時恩給その他の退職により一,
時に受ける給与」に当たるための前記3要件のうち,②,③の各要件を満たすとい
うことができる。
イそこで,①の要件について検討する。
確かに,前記認定事実によれば,Cは,本件校長の職を退く前後を通じて学校法
人である原告の理事及び理事長の地位にとどまっていたのであり,同人が同学校法
人の創設者の後継者として若年期から同学校法人の事業展開に主導的役割を果たし
てきた中心的人物であることを併せ考えると,本件校長からの退職及び本件学長へ
の就任という勤務関係の異動は,同一の学校法人の設置する内部組織としての教育
機関の代表者,最終責任者の職間の異動にすぎないとみられなくもない。
しかしながら,そもそも,同一の学校法人の設置する教育機関であっても,高等
学校(及び中学校)と大学とでは,その教育機関としての目的,性格が基本的に異
なるものであり,その差異に応じて学校教育法その他の関係法令によりその組織及
び運営の両面にわたって種々の規制がされているのであって,同一の学校法人との
間に雇用等の法律関係にある者であっても,少なくとも教員については,その設置
する高等学校(及び中学校)及び大学相互間の異動は一般的に考え難く,原告にお
いても,このような観点から,本件高校及び本件大学についてそれぞれ別個の就業
規則を定めるのみならず,その退職金規程もそれぞれ別個とした上勤続年数に関す
る通算規定等を設けていないものと解される。また,私立学校法及び学校教育法の
規定によれば,学校法人における理事及び理事長の権限は,当該学校法人の組織及
び運営の基本的事項に関するものにとどまり,教育に関してはその設置する各学校
の校長ないし学長にその多くがゆだねられており,しかも,後記のとおり,高等学
校(及び中学校)の校長と大学の学長とでは,その教育機関としての目的及び性格
の相違から,所属職員に対する指揮監督権の内容等において差が設けられているの
である。
そうであるところ,前記認定事実によれば,Cの平成14年3月31日までの原
告における職務のうち主要なものは,常時勤務を要する本件校長としての職務で
あったということができ,その余の理事長としての職務及び園長としての職務は,
いずれも常時勤務を要しないものである上,J若しくはK又は副園長にその職務の
一部又は大部分をゆだねていたというのであるから,これらの職務は,Cの原告に
おける職務のうちのごく一部にすぎなかったというべきであり,原告代表者尋問の
結果によれば,C自身も,本件校長としての職務に要する時間,労力等と理事長と
しての職務に要する時間,労力等との比率は9対1程度であるといった感覚を有し
ていたことが認められる。他方,平成14年4月1日以降については,本件学長と
しての職務が主要なものであったということができるものの,Cが本件大学(学長
室)に出勤するのは1週間に2,3回の頻度であって,理事長としての職務,園長
としての職務と同様,常時勤務を要するものではなく,さらにその多くを副学長で
あるJや学長補佐であるKにゆだねていたというのである。
また,Cは,平成14年3月31日まで,本件校長として,自ら本件高校及び本
,(,,件中学の校務をつかさどり所属職員を監督する学校教育法40条同法51条
同法28条3項)のみならず,校内を巡回し,生徒朝礼で訓辞を述べ,さらに生徒
指導にも直接当たるなど,実際の教育現場における教師のうちのひとりとしてその
職責を果たしていたということができる(学校教育法は,中学校又は高等学校の校
長の職務として生徒の教育をつかさどる旨の明文の規定を置いていないが,中学校
及び高等学校の教育機関としての目的(同法35条,41条,性格並びに中学校)
又は高等学校の校長の資格に関する学校教育法施行規則の定め等に照らせば,学校
教育法等は校長が直接生徒の教育,指導に当たることをその職務から殊更除外して
いるとは解されず,社会通念上も,必要に応じて生徒に対する教育,指導に当たる
ことは校長の通常の職務の一部であると認識されていると考えられる。これに対。)
,,(),,し大学においてはその教育機関としての目的同法52条性格にかんがみ
学長は,校務をつかさどるとされているものの(同法58条3項,学部に関する)
校務は各学部長がつかさどることとされている(同条5項)ほか,重要事項につい
ては教授会で審議することとされており(同法59条1項,また,学長は所属職)
員を「統督」するとされ(同法58条3項,所属職員に対する指揮監督関係は,)
中学校又は高等学校等の校長のそれに比べて包括的,大局的なものにとどまってい
る。前記認定事実によれば,平成14年4月1日以降のCの本件学長としての職務
内容も大学の代表者最終責任者としての対外的事務決裁事務がほとんどであっ,,,
て,所属職員を直接監督したり,学生を直接教授,指導したりすることはないとい
うのである(そもそも,前記大学設置基準の定め等によれば,学長には主に大学運
営に関する識見が求められており,学生を教授し,その研究を指導し,又は研究に
従事する教授(学校教育法58条6項)に求められるような研究上の業績等を備え
,,,,ている必要はなくしたがって学校教育法等において学長が学生に対する教授
指導等をすることは予定されておらず,社会通念上も学生に対する指導等に当たる
ことは学長の通常の職務の一部とは認識されていないと考えられる。。)
以上によれば,Cの本件学長就任後の職務は,本件校長在職時の職務に比べ,そ
の量において相当軽減されたものであるだけでなく,勤務形態自体が異なるととも
に,その内容,性質においても,学校の代表者,最終責任者としての職務という点
では本質的な相違はないものの,具体的な職務内容や自らのかかわり方については
相当程度異なるところがあるというべきである。
そうであるところ,前記認定のとおり,Cの本件学長就任時の給与月額は,本件
校長退職時に比べ,約21パーセント減少しており,本件学長としての職務に対す
る給与は,本件校長としての職務に対する給与に比べて,約30パーセント減少し
たというのであり,給与面にも前記のような職務の量,内容,性質の変動が一応反
映されているということができる。
以上に認定,説示したところからすれば,Cの本件校長からの退職,本件学長へ
の就任という勤務関係の異動は,社会通念に照らし,単に同一法人内における担当
業務の変更(単なる職務分掌の変更)といった程度のものにとどまらず,これによ
り,Cの勤務関係は,その性質,内容,処遇等に重大な変更があったといわなけれ
ばならない。
以上に加えて,原告においては,その設立以来,建学の精神を具現化する場とし
て本件高校における教育に重点を置いており,その規模等に照らしても,本件高校
が学校法人である原告の中心的な教育機関として位置付けられていたこと,Cが2
回の定年延長を経て52年間もの長期間にわたって本件高校に教員として勤務し,
本件校長の職を退いたときの年齢が74歳と高齢であったこと,Cが,今後,本件
学長を退職する際には,学長就任から退職までの期間のみが退職金算出の基礎とさ
れ,本件高校における勤続期間は加味されない予定であることなどをも併せかんが
みれば,Cの本件学長就任後の勤務関係を,その本件校長在職時の職務関係の単な
る延長とみることはできない。
そうすると,本件金員については,本件校長を退職した前後において,Cの理事
長,園長としての勤務関係が継続していることなどからして「退職手当,一時恩,
給その他の退職により一時に受ける給与」該当性の前記①の要件を満たすとまでい
うのは困難であるとしても,実質的にみて,上記要件の要求するところに適合し,
少なくとも,課税上,これと同一に取り扱うのが相当というべきである。
()これに対し,被告は,Cは,本件校長を退職した前後において,理事長及2
び学園長として原告の経営上,運営上の最上位の地位にあり,法的にも最高責任を
負う立場にあって,原告を代表し業務一切を総括する広範な権限を有しており,本
件校長を退職しても,本件高校及び本件中学の運営に関する職務を行わなくなった
わけでないなどと主張する。
確かに,前記認定のCの経歴等にかんがみれば,Cは,本件校長退職の前後を通
じ,さらに現在に至るまで,理事長として原告を代表し,学校法人内部の事務を総
,,括する立場にあるというにとどまらず原告において多大な影響力を有する中心的
。,,象徴的な存在であるということができるしかしながらCが原告における中心的
,,象徴的存在として原告との間の法律関係を維持持続しているからといって直ちに
本件金員に係る所得を「退職所得」として扱うのが相当でないということはできな
い。そもそも,学校法人における理事及び理事長の権限は,当該学校法人の組織及
び運営の基本的事項に関するものにとどまり,教育に関してはその設置する各学校
の校長ないし学長にその多くがゆだねられていることは,前記説示のとおりである
上,Cの場合,理事長としての職務が本件校長在職時のCの職務のうちのごく一部
にすぎなかったことは既に認定,説示したとおりであるところ,学校教育法,私立
学校法等の定めや前記認定のCの職務内容の変動等に照らせば,Cは,本件校長退
職後,理事長として学校法人の運営に関する方針決定等をするほかは,本件高校及
び本件中学の校務に関する権限を失ったものといわざるを得ず,少なくとも,社会
,。通念上は本件高校及び本件中学における教育の現場から引退したというほかない
したがって,Cが,本件校長退職の前後を通じて理事長として広範な権限を有して
いる旨の被告の主張は,少なくとも本件においては,本件金員に係る所得が退職所
得に該当しないことの根拠としては当を得ないものといわざるを得ない。
また被告は本件校長の職務内容と本件学長の職務内容とは本質的に同様であっ,,
て,Cが兼務する職務のうちの一つが本件校長から本件学長になったからといって
Cの地位及び職務内容が激変したということはできない旨主張するが,本件校長か
らの退職,本件学長への就任によってCの勤務関係に重大な変更があったというべ
きことは既に認定,説示したとおりであるから,被告の前記主張は,採用すること
ができない。
さらに,被告は,勤務内容が激変したのであれば,給与も激減するはずであるの
に,Cは本件校長退職後も原告から月額100万円以上の給与の支給を受けている
などと主張する。しかしながら,既に認定,説示したとおり,Cの勤務関係の変更
は,一応その給与額に反映されているということができるから,被告の前記主張は
採用することができない。なお,前記認定のとおり,Cは,本件校長退職後も原告
から月額117万9330円の給与の支給を受けていることが認められるが,前記
認定のとおり,Cが本件学長を退職する際には同人の本件高校在職期間は退職金額
の算定における勤続年数に算入されず,また,同人が理事を退任する場合には退職
金の支給は予定されていないというのであるから,本件金員は退職後の生活保障の
趣旨をも含むものということができる。
()以上により,本件金員に係る所得は,所得税法30条1項にいう「退職所3
得」に該当するというべきであるから,これを所得税法28条1項にいう「給与所
得」に該当するとしてされた本件各処分は,いずれも,その余の点について判断す
るまでもなく,違法である。
4結論
よって,原告の請求は,理由があるから,これを認容することとし,主文のとお
り判決する。
大阪地方裁判所第2民事部
裁判長裁判官西川知一郎
裁判官岡田幸人
裁判官森田亮

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