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平成12年(行ケ)第286号 審決取消請求事件
     判    決
 原 告 A
 訴訟代理人弁護士 南出喜久治
 被 告 ガブリエラ・フラツテイニ・ソシエタ・ペル・アチオーニ
 訴訟代理人弁理士 八木田茂、大岡啓造
     主    文
 原告の請求を棄却する。
 訴訟費用は原告の負担とする。
     事実及び理由
第1 原告の求めた裁判
 「特許庁が平成11年審判第30145号事件について平成12年6月13日に
した審決を取り消す。」との判決。
第2 事案の概要
 1 特許庁における手続の経緯
 原告は、登録第1949823号商標(本件商標)の商標権者である。本件商標
は、昭和60年4月10日に登録出願され、「SETBALL」の文字を横書きし
てなり、旧別表第17類「被服(運動用特殊被服を除く)布製身回品(他の類に属
するものを除く)寝具類(寝台を除く)」を指定商品として、昭和62年4月30
日に設定登録されたものである。被告は、平成11年2月2日、原告を被請求人と
して、本件商標の指定商品のうち「被服(運動用特殊被服を除く)」についての登
録取消しを求める審判を請求し(同月22日審判請求の登録)、平成11年審判第
30145号事件として審理されたところ、平成12年6月13日、「第17類、
被服(運動用特殊被服を除く)」について本件商標の登録を取り消す旨の審決があ
り、その謄本は同年7月6日原告に送達された。
 2 審決の理由の要点
 (1) 被告(審判請求人)の主張
 被告は、審判請求の理由及び答弁に対する弁駁を次のように述べている。
 被告の調査によれば、本件商標が、少なくとも本件審判請求の日前3年以内に、
原告によって、本件商標の指定商品のうち「被服(運動用特殊被服を除く)」につ
いて使用された事実は認められない。
 したがって、本件商標は、その指定商品「被服(運動用特殊被服を除く)」に関
し、商標法第50条の規定に該当するものであるので、その登録は取り消されるべ
きである。
 (2) 原告(審判被請求人)の答弁に対する被告の弁駁
 原告は、審判乙第1号証ないし審判乙第3号証を提出して、本件商標「SETB
ALL」を、「被服(運動用特殊衣服を除く)」に関して使用している旨を主張し
ているが、審判乙第1号証ないし審判乙第3号証は、いずれも「被服(運動用特殊
衣服を除く)」と本件商標との関係が不明瞭であり、「被服(運動用特殊衣服を除
く)」について本件商標を使用していることを立証するに足りる証拠とはいえな
い。
 具体的には、審判乙第1号証は、「被服を身につけたモデル」、「自転車」、
「自転車の販売店と思われる写真」、及び「小物類が載せられたテーブル」等の様
々な写真が掲載されている枠の中に、単に「Setballの文字を図案化した標
章」が掲載されているにすぎず、「Setballの文字を図案化した標章」が、
これらの枠の中にあるどの写真に対応する商品について使用されているものなのか
が全く分からない。
 また、審判乙第2号証は、「靴」「ズボン」「ゴルフボール」「被服及び眼鏡
(サングラス)を身につけたモデル」「指輪」「ゴルフクラブ及びゴルフバック」
等の様々な写真が掲載されている枠の中に、単に「Setballの文字を図案化
した標章」が掲載されているにすぎず、「Setballの文字を図案化した標
章」が、これらの枠の中にあるどの写真に対応する商品について使用されているも
のなのかが全く分からない。
 さらに、審判乙第3号証は、「被服を身につけたモデル」の上部に「Setba
llの文字を図案化した標章」が掲載されているにすぎず、「Setballの文
字を図案化した標章」が、モデルが身につけた「被服」に使用されているものか否
かが全く分からない。また、審判乙第3号証は、「被服を身につけたモデル」の下
方に「セットボールのメンズクールネックセーターを1名様に、ADAより」とい
う文書が記載されており、この文書から見て、モデルが身につけた「被服」には
「セットボール」という標章が付されている可能性があることは予測できる。しか
しながら、商標審査基準によれば、ローマ字(英語)による表示態様とその音の表
示である平仮名又は片仮名による表示態様との相互間の変更使用は、登録商標の使
用とは認められないので、仮に、審判乙第3号証から「セットボール」という標章
が「被服」に付されていると予測できるとしても、本件商標の使用の証明にはなら
ないことは明らかである。
 以上述べたように、原告の提出した審判乙第1号証ないし審判乙第3号証は、い
ずれも「被服(運動用特殊衣服を除く)」と本件商標との関係が不明瞭であり、こ
れらの審判乙号証により、本件商標が「被服(運動用特殊衣服を除く)」に関して
使用されていたことが立証できるとは到底思えない。
 (3) 原告(審判被請求人)の答弁
 原告は、本件審判請求却下(又は棄却)の答弁の理由を次のように述べ、証拠方
法として審判乙第1号証ないし審判乙第3号証(枝番を含む。)を提出した。
 本件商標は、審判乙第1号証ないし第3号証のとおり、少なくとも、指定商品
「被服(運動用特殊被服を除く)」に関し、使用された事実がある。
 念のため、審判乙号証各号証の発行日を記載すれば以下のとおりである。
 審判乙第1号証 平成 9年9月25日発行
 審判乙第2号証 平成10年6月25日発行
 審判乙第3号証 平成10年9月25日発行
 よって、被告の本件審判請求は理由がなく、失当である。
 (4) 審決の判断
 商標法第50条による商標登録の取消審判の請求があったときは、同条第2項の
規定により、原告において、その請求に係る指定商品について当該商標を使用して
いることを証明し、又は使用していないことについて正当な理由があることを明確
にしない限り、その登録の取消しを免れない。
 そこで、原告の提出に係る審判乙第1号証ないし審判乙第3号証(枝番を含
む。)は発行者が不明であるが、その内容についてみるに、審判乙第1号証は、上
部に「芦屋倶楽部」と表示された小冊子(写し)と認められる一頁のみであって、
発行日が1997年9月25日であり、本件商標と社会通念上同一性を有すると認
められる商標が表示はされているが、これがいかなる商品について使用されている
ものか不明なものである。
 また、審判乙第2号証及び審判乙第3号証(枝番を含む。)は、上部に「Hig
h Society Club」と表示された小冊子(写し)と認められる表紙と
該当頁(一頁)のみであって、発行日が1998年6月25日及び同年9月25日
であり、本件商標と社会通念上同一性を有すると認められる商標が表示はされてい
るが、これがいかなる商品について使用されているものか不明なものである。な
お、審判乙第3号証の2の「PRESENTS」「応募方法」と題する頁の左下に
は「セットボールのメンズクールネックセーターを1名様に ADAより」との記
載があるが、これのみをもって本件商標をその指定商品(被服)に使用をしている
ものとは認められない。
 そして、原告からは、上記の証拠のほか本件商標が実際に使用されていることを
説明・証明する書面及び取引書類等の提出はない。
 そうすると、これらの証拠によっては、本件商標がその指定商品について、使用
されていたものとは認められない。
 してみれば、本件商標は、本件審判請求の登録前3年以内に日本国内において、
原告により本件請求に係る指定商品「被服(運動用特殊被服を除く)」について使
用されていたものとは認められず、かつ、使用をしていないことについて正当な理
由があったものとは認められない。
 したがって、本件商標は、商標法第50条の規定により指定商品中の「被服(運
動用特殊被服を除く)」についての登録を取り消すべきものとする。
第3 原告主張の審決取消事由
 以下のとおり、原告提出の証拠だけでも本件商標の使用の事実は十分に立証され
ているのに、審決はその評価を誤って、本件商標の使用の事実を認めなかったもの
であるから、取り消されるべきである。
 審判乙第1号証には、本件商標と被服のほかに、自転車など4点のカットが見受
けられるが、それらすべての位置関係に着目すると、被服(を着用したモデル)が
中央に大きく表示されており、そのすぐ右側に商標が、また、それら以外の4点の
カットはそれぞれ4隅に小さく表示されている。審決は、「これ(本件商標)がい
かなる商品について使用されているものか不明なものである。」と判断している
が、誤りである。ここに表示の広告は、中央の被服についてのものであり、その商
標はすぐ右側にある本件商標であることは、理解力のあるものならば判断可能であ
る。右下にある自転車あるいは隅にある3点の物品のいずれかであるとは考え難
い。
 審判乙第3号証の2において、本件商標、被服を身につけたモデル及び「セット
ボールのメンズクールネックセーターを1名様に ADAより」という文章が枠線
内に配置されている。本件商標の英語部分を音読すれば、「セットボール」という
呼称が導出され、限られた枠線内の3つの表現が互いに相関関係にあることは自明
である。すなわち、文章中の「セットボール」とは本件商標を意味し、また、「メ
ンズクールネックセーター」とはモデルが着用している被服のことである。審判乙
第3号証の2には、本件商標に関わるものを含めて計10個、同様に枠線に囲まれ
て個々が独立したプレゼントのお知らせが記載されている。それらのうち、下から
2列目の左「RIPOSATE」に始まる枠を除くすべてが、縦長の枠線によって
区切られた平面内に、最上段に商標(丸囲いの「R」が付されたもの)若しくは商
品名、中断に商品若しくは商品を着用したモデルの写真、そして最下段にだれがい
くつの何をプレゼントするのかを表した文章が記載された構成である。仮に、本件
商標に関わる部分のみをみてもその相関関係が理解不可能な場合でも、これらの記
載を考えると、商標と商品の結び付きは明らかである。
第4 審決取消事由に対する被告の反論
 審判乙第1号証及び第3号証の2に関する審決の判断は正当であり、そこに誤り
はない。
第5 当裁判所の判断
 1 甲第1号証によれば、審判乙第1号証は、上部に「芦屋倶楽部」と表示され
た小冊子(写し)の一頁であって、発行日が1997年(平成9年)9月25日で
あり、「Setball」の文字と図形からなる本件商標と社会通念上同一性を有
する商標を表示するものとうかがわれる標章がその下部の枠内に表示されているこ
とが認められる。しかしながら、審決が認定しているとおり、その枠内には、洋装
の女性の写真、テーブルの図柄、自転車の図柄などが配されており、上記標章がい
かなる商品について使用されているものか明らかではなく、その標章の下には当該
標章のライセンス提供を申し出ていると思われる「ライセンスのお問い合わせ・ご
希望の方は(電話番号の記載)」として、上記標章のライセンス提供の勧誘を表示
している記載があり、この記載は、上記標章は、現に上記商標が何らかの商品に使
用されているものではないことをうかがわせるものである。
 また、甲第2、第3号証の各1、2によれば、審判乙第2号証及び審判乙第3号
証(枝番を含む。)が、上部に「High Society Club」と表示さ
れた小冊子(写し)と認められる表紙と該当頁(一頁)であって、発行日が199
8年6月25日及び同年9月25日であり、そこに「Setball」の文字と図
形からなる本件商標と社会通念上同一性を有する商標を表示するものとうかがわれ
る上記標章が表示されていることが認められる。しかしながら、これがいかなる商
品について使用されているものかは不明であり、審判乙第3号証の2の「PRES
ENTS」「応募方法」と題する頁の左下に「セットボールのメンズクールネック
セーターを1名様に ADAより」との記載及び写真があるものの、これのみをも
って本件商標をその指定商品(被服)に使用をしているものとは認められないこと
は、審決の認定するとおりである。
 なお、上記書証によれば、「Setball」の文字を含む上記標章の右下に
は、丸囲いの「R」が付されていて、この標章が登録商標であることを表している
ものと認められるが、この点をもってしてもこの標章が何らかの商品との結び付き
があるとの事実を認めるものではないので、上記認定は何ら左右されない。
 2 以上のとおり、原告が主張する審判乙号各証の記載をみても、本件商標が何
らかの商品について使用されたものと認めることはできないし、他に、原告主張の
ように本件商標が使用された事実を認めるべき証拠もない(甲第2号証の3も、審
判乙第3号証の2とほぼ同様の記載及び写真であり、これをもってしても本件商標
をその指定商品(被服)に使用しているものと認めることはできない。)。
 したがって、「本件商標は、本件審判請求の登録前3年以内に日本国内におい
て、原告により本件請求に係る指定商品「被服(運動用特殊被服を除く)」につい
て使用されていたものとは認められ(ない)」とした審決の認定に誤りはない。
第6 結論
 以上のとおり、原告主張の審決取消事由は理由がないので、原告の請求は棄却さ
れるべきである。
(平成13年6月26日口頭弁論終結)
 東京高等裁判所第18民事部
         裁判長裁判官   永   井   紀   昭
            裁判官   塩   月   秀   平
            裁判官   古   城   春   実

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