弁護士法人ITJ法律事務所

裁判例


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         主    文
     本件控訴を棄却する。
         理    由
 本件控訴の趣意については、検察官が差し出した控訴趣意書の記載を引用する。
 所論は要するに、原判決が被告人から本件犯罪に係る貨物の価格に相当する金額
を追徴しなかつたのは、法令の解釈適用を誤つたもので、その誤が判決に影響を及
ぼすことが明らかであるから、原判決は破棄を免れない、と主張するのである。
 ところで原判決は、本件被告人に対し追徴を科さなかつた理由の前提として、
「一般に没収不能の場合、没収に代り追徴を科し得るのは、犯人がその没収すべき
物の所有者であつた場合に限ると解さなければならない。」と立論しているが、そ
れはその独自の見解に過ぎず、当裁判所のにわかにくみしがたいものといわなけれ
ばならない。
 なるほど、一般刑法上没収せらるべき物について没収不能の場合その価額を追徴
することを定めた目的は、本来没収せらるべき物によつて生じた不法の利益が形を
変えてそのまま犯人の手中に残らないようこれを犯人から剥奪し、もつて没収の趣
旨を貫くことにあり、したがつて刑法は追徴を科することのできる場合を、「犯罪
行為より生じ若しくはこれにより得た物又は犯罪行為の報酬として得た物」又は
「右の物の対価として得た物」として本来没収が可能であつた場合に限り、没収の
目的が実務上社会的に危険な物を除去するという保安処分的性質を有つといわれる
「犯罪行為を組成した物」又は「犯罪行為に供し又は供せんとした物」である場合
にまでは及ぼしていないのであつて、それはやがて必然的に、犯人がその物の価額
に相当する利益、換言すれば所有者としての利益を不法に保持する場合に限ること
になり、追徴はまさに、没収に代るべき処分たる性質を有し、没収以上の不利益を
犯人に与えるものではない、と普通理解されているけれども(原判決が、追徴の目
的について、「これにより犯人がその物を他に処分して不当に没収を免れることを
防止するにある」と解し、「この場合その物の処分とその対価の取得という関係に
あるのであるから犯人がその物の所有者であることを前提とすることはいうまでも
ない」と説き、あたかも物の処分により対価を取得した場合のみに目を向けて推論
しているように見えるのは、措辞妥当を欠くか、又は事物の一面しか見ていないと
いうそしりを免れないであろう。けだし、物を他に譲渡して対価を取得した場合に
限らず、これを他に贈与し、又は毀滅する等少くとも犯人がその意思選択に基いて
事実上ないし法律上没収不能の状態を生ぜしめたときは、犯人がなお不法の利益を
その手中に残すものと見るべき点において、有償譲渡の場合と何ら異るところはな
いといわなければならないからである。)、刑法の特別法たる関税法の罰則におい
ては、たとえば、密輸により取得した貨物にとどまらず、その運搬、保管、処分の
あつせん等の犯罪を組成した貨物又は右犯罪行為の用に供した船舶等の類まで含め
て、これが没収不能の場合にその価格に相当する金額を追徴する旨定めていると解
しなければならないことは、追徴制度の本義にかんがみその合理性ないし立法上の
当否についての疑問の存することは別として、明文上ほとんど疑をはさむ余地はな
いと考えられるので、関税法上の追徴は、一般刑法上のそれと異り、一概に犯人の
手中から不法の利益を剥奪する性質のものであるとは言えず、むしろ密輸等関税法
上の犯罪の取締を厳に励行し、その犯罪禁圧の徹底を期するため主刑にさらに付加
された懲罰的性質を有するものとでも説明しなければ、その存在理由を解しがたい
ことになろう(最高裁昭和三二年七月一九日第二小法廷決定、判例集一一巻七号一
九九八頁参照)。したがつてその意味においては必ずしも、追徴は没収に代るべき
ものであるから追徴が没収せらるべき物の価格に相当する金額を徴収するものであ
る以上、犯人がその物の価格に相当する利益を保持すること、すなわち犯人が所有
者であることを前提としなければならない、と言う必要は少しもない。けだし、関
税法上の追徴が前述のように懲罰的性質のものであるとみるほかはないとすれば、
単に、犯人がその手中に本来没収すべかりし物を存していたところそれが不可能に
なつたからその物に代るべきもの(没収に代るべきものでなくして)すなわち物の
価格に相当する金額を徴収するのであると説明すれば足りる。したがつてこの場
合、原判決のように「犯人が所持者たるにとどまる場合、犯人に対する没収は単に
その所持の剥奪に過ぎず、物は第三者の所有物であるから犯人は財産的苦痛を感じ
ないのにかかわらず、没収不能のゆえをもつて追徴を科せられることになれば、そ
の物が処分されたという偶然の事情によりにわかに犯人に財産的苦痛を与えること
になる。すなわちこの場合には所有者の場合と異り没収と追徴とがいわゆる等価関
係に立たないで犯人に対し没収可能なとき以上の不利益を与えることになり、かか
る不合理はとうてい法の許容するところとは解せられない。」などと言うのは当ら
ないことになるしさらに原判決のように、漁業法第一四〇条の追徴規定を引いて、
同じ立言をとつていない関税法上の追徴に関する同法一一八条の規定の解釈にこれ
を類推すべきいわれもなければ、また強いて同規定をしかく制限的に解しなければ
ならない根拠も見出しがたい。
 (原判決は、関税法第一一八条の規定が、第二項において第一項第一号により没
収しない場合追徴を科していない点を指摘して、「犯人がいまだかつて犯罪貨物の
所有者とならなかつたときは追徴を科さない旨を明かにしている」と断じているも
ののようであるが、右規定はその反面において、犯人がいまだかつて所有者となら
なかつたときでも、所有者が悪意の場合没収すべき旨を定めるとともにそれが没収
不能のときは犯人から追徴すべき旨を定めていることは明らかといわなければなら
ない。)
 以上説明したように、本件における追徴の可否について原判決の示した理由は、
一般追徴制度本来の趣旨から考えると、推論の過程はともかく、必ずしも一理なし
としないのではあるが、現行関税法の解釈としては無理というほかはない。(制度
の理論的立場から論ずるならば、むしろ進んで犯罪の組成物件、供用物件等没収に
よつて犯人から不法利益を剥奪する趣旨が認められないような物についてまで、そ
れが没収不能の場合追徴を科すべき旨を規定した点が問題として考慮さるべきであ
ろう。)
 しかしながら、結論として本件における追徴の可否そのものを案ずるとき、さら
に具体的事案について考察を進めなければならない。本件は被告人が、密輸にかか
る外国製腕時計五個について、その情を知りながら、他人の依頼によりこれが売却
処分のあつせんをしたという関税法第一一二条第一項所定の犯罪で、記録によれば
右時計を買受けたAは、これが密輸品なる情を知つていたものと認められるから、
右物件は被告人の所有には属しないのであるが、その物の存在するかぎり、被告人
に対する関係においてこれを没収すべきものであることは同法第一一八条の規定に
徴し明らかである。しかるに記録編綴の昭和三四年四月一六日付川崎税関支署長B
の東京地方検察庁検事古谷菊次郎あての文書によれば、当該物件は、その後前記A
に対する関税法違反事件に対する税関長の通告処分履行により、すでに昭和三二年
二月一五日所定の手続を経て税関に納付され国庫に帰属するにいたつた事情が認め
られるのである。そして、このようにして、本件犯罪にかかる物件は、他事件につ
いての処分の結果にせよ、すでに国庫に帰属した以上本件被告人に対する関係にお
い<要旨>ても事実上これを没収するに由ない事態にいたつたわけであるか、右のよ
うに、密輸貨物の処分のあつせんをした犯罪を組成する物件について、没収
不能の原因が、犯人である被告人の任意的行為によつたものではなく他事件に騎け
る税関長の通告処分という国家行為に基く場合には、当該物件を関税法第一一八条
第二項にいわゆる「没収することかできない場合」にあたるとして追徴することは
許されないと解すべきである。けだし、前述したとおり、本件のような犯罪組成物
件とみられるものについて法が追徴を科する理由は、犯罪の取締を厳に励行しその
禁圧の徹底を期するため懲罰的にこれを加えるものにほかならないとするにして
も、その没収不能の原因が右のような本人の責に基かない事情による場合、なおこ
れを科する必要を認めないし、またそうすることはかえつて当を得ないものと考え
られるからである。(最高裁昭和三三年四月一六日大法廷判決、判例集一二巻六号
九二三頁参照。同判決の理由は必ずしも明らかでないが、上と同旨に出たものと推
測されるのである。)
 しからば、本件において被告人に追徴を科さなかつた原判決は、その理由はとも
あれ、結局相当に帰するから、本件検察官の控訴趣意はその理由がないといわなけ
ればならない。
 よつて刑事訴訟法第三九六条により本件控訴を棄却すべきものとし、主文のとお
り判決する。
 (裁判長判事 兼平慶之助 判事 足立進 判事 山岸薫一)

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