弁護士法人ITJ法律事務所

裁判例


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         主    文
     本件控訴を棄却する。
         理    由
 弁護人樋口芳包、中村勝次の控訴の趣意は記録編綴の各弁護人名義の控訴趣意書
記載のとおりであるから、ここにこれを引用する。
 これに対する当裁判所の判断は次のとおりである。
 各弁護人の所論は、いずれも要するに、原判示A製作所は被告人及びその兄弟で
あるB、同C、同Dの共同事業であり、したがつてそれより挙がる収益も共同所得
というべく、被告人はうち三割の分配を受ける約束であつたに止まるのに、原判決
が被告人一人の所得として課税し得る関係にあるとし、ほ脱税額を認定したのは、
事実を誤認したか、又は法令の解釈適用を誤つたものであるというのである。そこ
で当裁判所は次のとおり判断する。
 一、 原判決挙示の証拠を綜合すると(なお、原審において適法に取調べられた
E事務官のB(三通)C(四通)D(四通)に対する質問顛末書を参照)、次の事
実を認めることができる。
 被告人(事件発生の昭和三三年当時二九才位)、その長姉C(同じく三二才
位)、その次姉D(同じく三〇才位)は、広島市において生活していたが、さきに
父を失い、昭和二〇年原子爆弾により母も失つたので、その頃いずれも二〇才に満
たない位の年齢でありながら、姉二人は洋裁業をし、被告人は他に勤めるなどし
て、兄弟力を併せて戦後の生活をきりぬけて来た。弟B(同じく二七才位)は、幼
時銚子市の叔父の家に引取られていたが、戦後は東京都でクリーニング店に勤めて
いた。兄弟四人で一つの事業をしたいと考えていたが、Bの技術を生かし、C、D
の技術も利用するにはクリーニング業が最適と考え、昭和二六年頃、先ず広島の兄
弟三人がそれまで貯めていた貯金を出しあつて、亡父Fの所有であつた広島市a町
の家屋においてクリーニング業を始め、ついでBも東京より帰り、自己の貯金を拠
出してこれに参加した。兄弟が寝食を忘れて働いた関係から、逐次業務用機械も整
備され、ある程度の業績を挙げることができた。Bは実業学校において機械科に属
していたもので、男二人は予てより機械に興味を持つていたが、仕事上の経験か
ら、洗濯用プレスなどを改良して売ればその方が儲かるのではないかと考えるよう
になつた。そこで、昭和三〇年頃クリーニング業を止め、男二人はその研究に没頭
し、女二人はその間洋裁業に励んで四人の生活費をつくり出した。右自宅を工場と
して製作をすることとし、順次工作機械を揃えたが、その資金はクリーニング業に
よつて得ていた貯金などが充てられた。昭和三〇年一〇月大阪において行われた展
示会に洗濯用プレスを出品し好評を博したことから、昭和三一年始め頃より製作し
た機械が順調に売れ始めた。昭和三二年暮には広島市b町cに一五〇坪の土地を得
て工場となし、昭和三四年暮には同市b町d番地のeに四九〇坪の土地を得て工場
を拡張した。又、昭和三二年暮には東京都墨田区f町にG営業所を設置し、Bがそ
の所長となつた。昭和三四年七月頃墨田区g町に三九坪の土地を購入し、直ちにそ
の上に事務所を建築してG営業所を移した。昭和三五年度により後記の如く株式会
社に組織替えされたものであるが、その間事業は順調に発展し、昭和三三年度の売
上高は五〇四二万三二五〇円、昭和三四年度の売上高は五四一九万二九〇七円に達
した。
 右の間、対外的には被告人が長男として事業主の如く振舞つてきた。商取引を始
め、対外的な法律行為はすべて「A製作所H」、即ち被告人一人の名において行わ
れ、したがつてその法律効果は被告人一人に帰属した(本件の納税申告もまた被告
人一人の事業として被告人一名の名においてなされている。)。取得した不動産
も、前記G営業所の土地建物をB名義とした外、すべて被告人所有名義とされた。
かように対外的法律行為を被告人一人の名においてすることは、もとより他の兄弟
の了承するところであつた。内部的にも些細な日常業務は主として被告人において
決し運営するところであつた。しかし、前記の如く、兄弟四人の貯金を出し合い四
人が協力してクリーニング業をなし、よつて得た貯えなどによつてA製作所は始ま
つたもので共同出資の形であるし、年令的にも同じ位で、男女の差はあれ、略々同
じ立場で寄与し得る力量を持つていたのであつて(女二人は被告人より年上で、戦
後暫らくはむしろ女二人が被告人の生活の面倒をみたとも思える)、四人はひとし
く、兄弟力を併せて一つの事業を完成するとの意気込みで働いたものである。決し
て被告人一人の事業に他の三人が従業員として働くという考えではない。実際に
も、重要事項は兄弟の合議によつて決定され、女二人は結婚もしないで、注文品の
発送、事務関係に他の従業員を督励して働き(もっともDは後には病弱になつ
た)、BはG営業所長として東京方面における注文取り、集金、アフターサービス
に懸命に働いた。
 被告人は結婚することにより、昭和三二年四月から右b町に一家を構えたので、
右a町の旧宅に住むC、D、前記G営業所に住むBと、昭和三三、三四年度頃には
三世帯に別れて生活していた。しかし各人とも定まつた報酬をとるといらことな
く、随時生活費を必要に応じてとる、しかもそれは最少限度のもので満足し、残余
はすべて事業の拡張整備に費われた。要するに、利益分配をしないで投下資本とし
て逐次蓄積されていつたのである。兄弟四人は利益分配について明示の特約をした
ことはないが、いずれ適当な時期に分配されるものと暗黙の了解をしあつていた。
もつとも、右両年度頃には、各人の分配率をどのようにするかの話合いはなされて
いなかつた。昭和三五年度の株式会社設立に当り、被告人としては利益分配として
他の兄弟に株式を与え(被告人が代表取締役、Cが専務取締役、Bが取締役とな
る)、本事件発生後株式の割合を被告人、Bをそれぞれ三とし、Cを二、五Dを
一、五の割合とした。
 <要旨>二、 右A製作所は、右のような事業の開始、発展の経緯、経営の実体か
らいつて、被告人ら兄弟四人の共同事業であるというべきである。税務当局
や検察官は、被告人一人の単独事業であつて、その余の兄弟は従業員であると主張
するが、かような考えは採用できない。対外的な法律行為が被告人一人の名におい
て行われていることは、実体が共同事業であることを否定するものではない。一方
では弁護人らにおいて、共同事業である以上、これより挙がる収益が被告人一人の
所得に帰するということはないと主張するが、右の如く、対外的法律行為が被告人
一人の名においてなされているのであるから、所得もまた被告人一人に帰属し、蓄
積された財産も被告人のものである(B名義とされた土地建物は被告人より贈与さ
れた関係になる。)。もつとも、他の兄弟は被告人に対し利益を分配せよとの請求
権を有するが、(最終の確定的な分配であるかどうかはさておいて、後に行われた
株式会社設立の際、それが実現されている。)その債権債務関係は内部的のものに
止まるから、全所得が被告人一人のものであるとして課税するに何等差支えない。
かよらに解したからといつて、所得税法上の実質課税の原則に反するものではな
い。(右共同事業は、もとより、被告人が業務執行者であり、外部に対しては他の
兄弟を代理しているという民法上の典型的組合ではなく、講学上にいら内的組合に
属する。)
 以上の次第により、原判決には事実の誤認もなく、法令の解釈適用の誤りもない
ということができる(「被告人並びに弁護人の主張について」として原判決が説く
ところも、以上の説示と同趣旨であると解し得ないではない。)。各弁護人の所論
はいずれも採用できない。
 そこで、本件控訴は理由がないというべく(なお、原判決に所得税法とあるのは
昭和四〇年法律第三三号による改正前のものであり、右記載を脱漏したものと認め
られる)、刑事訴訟法第三九六条に則りこれを棄却することとし、主文のとおり判
決する。
 (裁判長裁判官 高橋英明 裁判官 福地寿三 裁判官 竹村寿)

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