弁護士法人ITJ法律事務所

裁判例


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         主    文
     本件上告を棄却する。
     上告費用は上告人らの負担とする。
         理    由
 上告代理人古川祐士、同細川律夫の上告理由第一点について
 原審が適法に確定した事実関係のもとにおいて、家族旅行その他所論の選挙人の
申し立てた旅行が、社会通念に照らして付き合い、儀礼等の理由から社会生活上必
要な用事のためであるか又は本件選挙の当日以外に日程を変更することが著しく困
難な用事のためであつて、公職選挙法四九条一項二号所定の不在者投票事由に該当
するものとした原審の判断は、正当として是認することができ、原判決に所論の違
法はない。論旨は、採用することができない。
 同第二点ないし第四点について
 所論の点に関する原審の認定判断は、原判決挙示の証拠関係に照らし、正当とし
て是認することができ、その過程に所論の違法はない。論旨は、ひつきよう、原審
の専権に属する証拠の取捨判断、事実の認定を非難するものにすぎず、採用するこ
とができない。
 よつて、行政事件訴訟法七条、民訴法四〇一条、九五条、八九条、九三条に従い、
裁判官伊藤正己の補足意見があるほか、裁判官全員一致の意見で、主文のとおり判
決する。
 裁判官伊藤正己の補足意見は、次のとおりである。
 私も、上告理由はいずれも理由がないと考えるのであるが、所論にかんがみ若干
の私見を補足しておきたい。
 上告理由第一点の一は、要するに、所論の家族旅行、慰安旅行等は公職選挙法四
九条一項二号所定の不在者投票事由にあたるとするために必要ないわゆる「用務性」
に欠けるにもかかわらず、単にその旅行が社会通念に照らして選挙の当日以外に日
程を変更することが著しく困難であるということだけで右不在者投票事由にあたる
とした原判決には、法令の解釈適用を誤つた違法があるというのである。
 しかしながら、近年、一般社会生活において農閑期、休暇、休祭日等を利用して
家族旅行、慰安旅行等を行うことは極く普通のこととなつており、しかも、それが
現代の社会生活の重要な一要素となつてきていることにかんがみれば、右のような
旅行もいわゆる「用務性」を有するものと解するのが社会生活の実情に適合するゆ
えんであり、したがつて、選挙の当日以外にその日程を変更することが著しく困難
であるなどやむを得ない事情があつて、投票時間帯に投票区のある市町村の区域外
に旅行中又は滞在中であるべき場合には、なお公職選挙法四九条一項二号所定の不
在者投票事由にあたると解するのが相当であつて、これと同旨の原判決に所論の違
法はなく、右上告理由は理由がないと考えるものである。
 ただ、このように解しても、もとより投票は選挙の当日に投票所におもむいて行
うのが本則であり、不在者投票制度はあくまで例外的な取扱いであつて、法はその
濫用を防止するためその要件と手続を厳格に定めているのであるから、不在者投票
の管理に当たる者としては、宣誓書等の書面の記載上は不在者投票事由にあたる事
由が存在することが必ずしも明らかでない場合には、口頭による申立て又は補足説
明を求めるなどして、その申立てにかかる事由が不在者投票事由に該当するかどう
かを厳正に審査するのでなければならず、その取扱いが安易に流れてはならないこ
とはいうまでもないところである。念のため、このことを一言付加しておきたい。
     最高裁判所第三小法廷
         裁判長裁判官    寺   田   治   郎
            裁判官    環       昌   一
            裁判官    横   井   大   三
            裁判官    伊   藤   正   己

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