弁護士法人ITJ法律事務所

裁判例


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主文
原判決を破棄する。
被告人を禁錮1年に処する。
この裁判が確定した日から3年間その刑の執行を猶予する。
理由
 本件控訴の趣意は,名古屋高等検察庁検察官磯部泰一が提出した名古屋地方検察
庁豊橋支部検察官濱隆二作成の控訴趣意書記載のとおりであり,これに対する答弁は
弁護人川崎浩二作成の答弁書記載のとおりであるから,これらを引用する。検察官の
控訴趣意は,被告人を罰金50万円に処した原判決の量刑が罰金刑を選択した点にお
いて著しく軽きに失し不当である,という。
 そこで,記録を調査し,当審における事実取調べの結果をも参酌して検討する。
 本件は,被告人が,普通乗用自動車を運転し,信号機により交通整理の行われてい
る交差点を青色信号に従い右折進行するに当たり,交差点右折先出入口に設けられて
いた横断歩道上の横断者の有無・安全を確認して進行すべき業務上の注意義務がある
のにこれを怠り,対向車両の確認に気を奪われて同横断歩道上の横断者の有無・安全
を確認しないで時速約20キロメートルで進行した過失により,同横断歩道上を右から左
に向かい自転車を引いて横断中の被害者を右前方約8・2メートルに発見し,急制動の
措置を講じたが及ばず,自車前部を被害者に衝突させて路上に転倒させ,被害者に加
療約10か月間を要する骨盤骨折等の傷害を負わせた,という事案である。
信号機により交通整理の行われている交通頻繁な交差点において,被告人は,横断
歩道上の横断者の有無・安全を確認して進行するという自動車運転者としての基本的
な注意義務を怠ったものであり,その過失は重大である。歩行者にとって安全地帯であ
るはずの横断歩道上を青色信号に従って自転車を引いて歩いて横断中だった被害者に
は落ち度は全くない。被害者は,22日間の集中治療室での治療を含む約5か月半に及
ぶ入院治療をし,その後,通院治療とともにリハビリを継続するなど努めたが,事故後
約2年経過した平成13年3月当時でも,右手で大きなものを箸でつかむことや字を書く
のも大変で,利き腕・利き手の自由は完全には回復しておらず,結果は重大である。被
害者やその介護に当たっている家族の処罰感情は厳しい。したがって,被告人の刑事
責任は軽視できない。
 そうすると,被告人が,大変申し訳ないことをしたと述べ,本件を深く反省,悔悟してい
ること,被害者に対する謝罪や見舞いも被告人なりに誠意をもって行っていること,対人
無制限の保険に加入しており,これまでに被害者側に治療費,休業補償費,通院交通
費,居宅改造費等で合計約1460万円の保険金が支払われたこと,これまでに交通違
反歴はもとより,前科・前歴もないこと,妻と3人の子供は被告人の収入で家計を維持し
ていること,A市職員として仕事熱心で有能な人材であると評価されていること,同市役
所の職員らが被告人の寛大な処分を求める嘆願書を提出していること,さらに,被告人
に対し禁錮刑を選択すれば公務員としての身分を失うことになるとの原判決が指摘する
点等の諸事情を十分に斟酌してみても,罰金刑を選択した原判決は,軽きに失して不当
であるといわざるをえない。
 よって,刑訴法397条1項,381条により原判決を破棄し,同法400条ただし書により
更に判決する。
 原判決が認定した事実に法令を適用すると,被告人の所為は刑法211条前段に該当
するところ,所定刑中禁錮刑を選択し,その所定刑期の範囲内で被告人を禁錮1年に処
し,情状により同法25条1項を適用してこの裁判が確定した日から3年間その刑の執行
を猶予することとし,主文のとおり判決する。
平成13年9月25日
名古屋高等裁判所刑事第2部
裁判長裁判官   小   島   裕   史
裁判官   伊   東   一   廣
裁判官   堀   内       満

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