弁護士法人ITJ法律事務所

裁判例


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         主    文
     原判決中被告人Aに関する部分を破棄する。
     被告人Aを罰金五千円に処する。
     右罰金を完納することができないときは、金二百円を一日に換算した期
間、右被告人を労役場に留置する。
     右被告人に対し、公職選挙法二五二条一項の規定を適用しない。
     第一審証人B、C、D、E、F、G、H、I、J、K、L、M、N、O、
P、Q、R、S、T、U、Vに支給した訴訟費用は、右被告人の負担(ただし第一
審相被告人等と連帯)とする。
     被告人Aを除くその余の被告人等の本件各上告を棄却する。
         理    由
 各被告人の弁護人田坂戒三、永井貢、鈴木惣三郎の上告趣意第一点は、事実誤認
の主張であつて、刑訴四〇五条の上告理由にあたらない。
 同第二点について。
 所論は、単なる法令違反の主張であるから、刑訴四〇五条の上告理由にあたらな
い。しかし、昭和二四年九月一九日人事院規則一四―七「政治的行為」五項一号に
いう「特定の候補者」とは、所論のとおり、「法令の規定に基く立候補届出または
推薦届出により、候補者としての地位を有するに至つた特定人」を指すものと解す
べきであつて、原判決が、「立候補しようとする特定人」もこれに含まれるものと
解したのは、あやまりであるといわなければならない。けだし、「特定の候補者」
というのが、「立候補しようとする特定人」を含むものと解することは、用語の普
通の意義からいつて無理であり、同規則の他の条項ないし他の法令との関係で、ぜ
ひそのように解さなければならないような特段の根拠があるわけでもないのに、「
国家公務員法一〇二条の精神に背反する」というような理由から、刑罰法令につき
類推拡張解釈をとることは、あきらかに不当というべきだからである(同規則五項
一号の「候補者」とは、右のように、立候補届出または推薦届出により候補者とし
ての地位を有するに至つたものをいうのであり、候補者としての地位を有するに至
らない者を支持しまたはこれに反対することが、同号に含まれないことについては、
所論の指摘するとおり、人事院当局自身のはつきりした行政解釈が存在する。なお、
以上のように解する結果、国家公務員が、立候補しようとする特定人を支持して選
挙運動を行うことは、政治的行為の制限に関する国家公務員法の罰則にふれないこ
とになつても、それが、事前運動禁止に関する公職選挙法の一般的罰則にふれるも
のであることは、いうまでもない)。
 そうすると、被告人Aにつき、立候補しようとする特定人のための選挙運動に関
し、国家公務員法一一〇条一項一九号の罪の成立を認めた原判決は、法令の解釈適
用をあやまつたものであり、原判決中同被告人に関する部分は、刑訴四一一条によ
り破棄を要するものと認められる。
 各被告人の弁護人田坂戒三の追加上告趣意および被告人Wの上告趣意は、いずれ
も事実誤認の主張であつて、適法な上告理由にあたらない。
 なお、記録を調べても、被告人Aに関する前記の点を除いては、刑訴四一一条を
適用すべき事由は認められない。
 以上の理由により、原判決中被告人Aに関する部分を破棄し、刑訴四一三条但書
によつて、さらに判決することとし、その余の被告人等の各上告は、同四一四条、
三九六条によりこれを棄却すべきである。
 被告人Aにつき原判決の確定した事実(第一審判決判示第一事実、原判決がこれ
に附加した部分を除く)は、昭和二七年法律第三〇七号による改正前の公職選挙法
一二九条、二三九条一号、二二一条一項一号、刑法六〇条にあたるので、刑法五四
条一項前段、一〇条により重い公職選挙法二二一条一項一号の罪の刑に従い、所定
刑中罰金刑を選択して同被告人を罰金五千円に処し、なお、罰金不完納の場合にお
ける労役場留置につき刑法一八条、公職選挙法二五二条一項の不適用につき同条三
項、訴訟費用の負担につき刑訴一八一条、一八二条を、それぞれ適用する。なお、
同被告人に対する公訴事実中国家公務員法違反の点は、前記の理由で罪とならない
が、それは公職選挙法違反の事実と刑法五四条一項前段の関係にあるものとして起
訴されているのであるから、特に主文において無罪の言渡はしない。
 よつて、裁判官全員一致の意見で主文のとおり判決する。
 本件公判期日には、検察官安平政吉が出席した。
  昭和三〇年三月一日
     最高裁判所第三小法廷
         裁判長裁判官    井   上       登
            裁判官    島           保
            裁判官    河   村   又   介
            裁判官    小   林   俊   三
            裁判官    本   村   善 太 郎

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