弁護士法人ITJ法律事務所

裁判例


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         主    文
     本件上告を棄却する。
         理    由
 検事の上告趣意は末尾添附の上告趣意書記載のとおりである。
 検事の上告趣意第一点について。
 (一) 所論は先ず、原審は、Aの「若しこの要求が容れられないときは全員総
辞職する」旨の発言内容を最も重要な証拠とし、これを実験則に違反して解釈した
ため、不当な結論に達した違法があると主張する。
   しかし原判決が無罪の理由として説示しているところを仔細に検討するに、
原審は、主として所論の如きAの発言に基いて結論しているわけではない。むしろ、
Aが全員辞職する旨発言したのは、賃上要求に圧力を加える偽装で、決して、従業
員の真意ではなかつたと認めているのである。そして原審は、このような発言があ
つた場合には、辞職ということは従業員にとつて重大な利害関係のあることである
から、軽々しくなすべき筈のものでなく、又往々右の如く偽装として発言する事例
もあるのであるから、被告人としては直接従業員各個についてその真意を確めてみ
ることが望ましい用意であるのに、被告人がこれをしなかつたのは不用意であつた。
しかし不用意ではあつたが当時のAの強硬な全員辞職の主張、被告人のその後に採
つた行動、被告人の性格などからみて、被告人はAの全員辞職する旨の発言を言葉
どおりに受取り、これを真意と誤信したのではないかと思はれる節もあるので、結
局起訴状にいうが如く、Aの右の如き発言が真意でないことを諒知しながら、その
発言のあつたことを奇貨として従業員を解雇したのであるとの点については証明不
十分であると判断しているのである。右の如き原判決の示す理由は十分納得のいく
ことであつて、
 別に実験則に違反する点はない。
 (二) 所論は次に、原判決が一方において六月七日前記Aが全従業員を代表し
て被告人に対し全員辞職の申出をしたとしながら、他方においてその前日六月六日
の労働組合が結成されたという事実は認められないとしているがこれは相互に矛盾
する結論で到底是認するを得ないと主張する。しかし、原判決がAは全従業員の依
頼を受けて、賃金値上等の要求事項につき被告人と交渉するに際し、被告人に対し
右要求が容れられない場合は全員辞職すると発言したのを、被告人が言葉どおりに
受取り、右のAの代表発言により真実全員辞職の申出をしたものと誤信したのでは
ないかと思はれる節があると判断しているが、その判断は当然に、その前提として、
交渉前に既に労働組合が結成されていることを是認するものと解さねばならない理
由はない。Aに全員辞職申出の代表権限ありとすることゝその申出前に労働組合が
結成されていないと認めることゝは、相互に矛盾する結論ではない、何となれば組
合は結成されていなくとも、全従業員が事実上代表者を択んで使用者と交渉し、代
表者を通じて全員辞職の申出をなすこともあり得ないことではないし、そして、こ
のような場合に、その従業員の集団そのものも、未だ組合とは目し得ない場合もあ
り得るからである。
   これを要するに、原判決の示す右の如き認定にはその間何等の矛盾もなく、
その無罪理由の説示には所論の如き不合理な点は認められない。
 同第二点について。
 しかし、原判決は前記の如く、所論六月六日の労働組合結成の事実は認められな
いし、Aの全員辞職する旨の発言も、その真意はともかく、全く事実上全従業員の
依頼によりなされた趣旨であると認定していること判文に徴し明白である。そして、
論旨第一点(二)において説示したとおり、Aが従業員代表として活動したと認め
ること自体、組合の存在を当然の前提としていると論ずることは独断にすぎない。
原判決は唯、起訴状にいう組合結成の事実も、被告人のA発言の真意認識の点も、
総て証明不十分に帰すると判示しているだけであつて、無罪理由の判示としてはこ
れを以てこと足りるのである。しかも前記の如く、その無罪理由の説示に不合理な
点は認められないし、所論団体代表の権限に関する解釈の当否の問題の如きは、原
判決の無罪理由の判示に徴し、これを生ずる余地はないから論旨は理由がない。
 同第三点について。
 (一) 所論は先ず、原判決は、本件第一公訴事実の範囲内に当然含まれるもの
とみるべき「労働組合を結成せんとしたるの故を以て」の解雇か否かについての判
断を遺脱した違法があると主張する。しかし、原判決の右公訴事実に対する無罪の
理由は、六月六日の労働組合結成の事実は認められない、被告人がAの全員辞職す
る旨の発言はその真意でないことを承知の上で従業員を解雇したという点も、認め
られない。諸般の事情からむしろ、被告人は不用意にもその発言を真意と誤信した
のではないかと思はれる節もあり、要するに公訴事実はその証明不十分であるとし
ているのであつて、その説示は首肯し得るものであること前説明のとおりである。
従つて原判決は右の如き説示により反面において被告人が従業員を退職させたのは、
別に従業員等が労働組合を結成せんとしたからではなく、これとは別の理由に基く
ものである趣旨をも表はしていると認められるのである。してみれば所論の事実が
仮りに本件起訴の範囲に含まれるとしても、原判決はこの点についても、判断した
ものと認め得るわけである。従つて原判決には所論の如き判断遺脱の違法はない。
 (二) 所論は次に、原判決には本件第二公訴事実に対する判断を遺脱した違法
があると主張する。
 しかし、前記の如き原判決の無罪理由の説示からみて、原審は、被告人は前記の
事情から、Aの全員辞職する旨の発言を真意と誤信してその申出に応じたのではな
いかと思はれ、双方の真意の合致した合意の退職と迄はいえないとしても、起訴状
にいうが如き一方的な解雇があつたと認めるには証明が十分でないと判断したもの
である。そして証明不十分による無罪理由の説示としては原判決に示す程度でこと
足りるのである。してみれば、原判決には所論の如き判断遺脱の違法ありというこ
とはできない。
 (三) 所論は最後に、原判決は本件公訴事実の中心である解雇か否かについて
の実質的な判断を遺脱した違法があると主張する。
 しかし原判決は、結局起訴状にいうが如き解雇の事実を積極的に認むべき証拠は
十分でないとしているだけである。
 証明不十分による無罪理由の説示としてはこれでこと足りるのであつて、所論に
いうが如く究極において解雇か否かの点について迄判断を示す必要はない。原判決
が証明不十分の理由として説示するところによると、被告人のその後に採つた行動
や被告人の性格をも参酌したとあるから、原審は所論のいうところと異なり、前後
の事情を十分考慮して結論を下したことは明瞭である。
 これを要するに原判決は、起訴状にいうが如き解雇の証明が十分でないとして無
罪の言渡しをしたのであるからそれ以上本件の場合は解雇でなく単なる辞職申出の
承諾なのかどうかなどの点について迄判断を示す必要はない。従つて、原判決には
所論の如き判断遺脱の違法もない。
 よつて、旧刑訴法第四四六条により本件上告を棄却すべきものとし、主文のとお
り判決する。右は裁判官全員一致の意見である。
 検察官 竹原精太郎関与
  昭和二五年七月一一日
     最高裁判所第三小法廷
         裁判長裁判官    長 谷 川   太 一 郎
            裁判官    井   上       登
            裁判官    島           保
            裁判官    河   村   又   介
            裁判官    穂   積   重   遠

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