弁護士法人ITJ法律事務所

裁判例


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       主   文
原判決を取り消す。
被控訴人の請求を棄却する。
訴訟費用は第一、二審とも被控訴人の負担とする。
       事   実
第一 当事者の求める裁判
一 控訴の趣旨
主文同旨の判決
二 控訴の趣旨に対する答弁
控訴棄却の判決
第二 当事者の主張及び証拠関係(省略)
       理   由
一 雇用保険法上の被保険者又は被保険者であつた者は、いつでも被保険者となつ
たこと又は被保険者でなくなつたことの確認を請求することができるから(同法八
条、九条)、その請求が違法に否認された場合には、その取消を求める法律上の利
益がある。
二 被控訴人主張の請求原因1(飯能光機が雇用保険法の適用事業所であるこ
と)、3(本件処分)、4(審査、再審査各請求の棄却)の各事実については、当
事者間に争いがない。
三 被控訴人は、飯能光機に昭和四二年三月一五日に雇用され従業員として就業中
昭和五〇年七月二五日解雇により離職したもので、雇用保険法四条にいう「適用事
業に雇用される労働者」にあたり同法に基づく被保険者の資格を取得したものであ
るから、本件処分は違法で取消を免れないと主張する。
 ところで、被控訴人が雇用保険法に基づく被保険者資格を取得するためには飯能
光機(以下「同社」ということもある。)と被控訴人間に雇用関係が成立したこと
が必要であるのでその存否について検討する。
(一) 原本の存在と成立に争いのない乙第五号証の一、原審における証人A、被
控訴人本人の各供述に弁論の全趣旨を総合すると、被控訴人は昭和二九年に経営コ
ンサルタントを開業したものであるが、昭和四二年三月頃飯能光機(本社・工場所
在地は埼玉県飯能市)に委嘱され、同五〇年六月までの間八年余にわたりいわゆる
経営コンサルタントの業務に従事したことが認められる。
(二) 被控訴人は、昭和四二年三月一五日同社と被控訴人間に雇用(労働)契約
が締結され、右契約に基づき社内経営コンサルタントとしての業務に従事したもの
であると主張するが、その頃右両者間に雇用契約が締結されたものと認めるに足る
確たる証拠は存在しない。一般に、一定の水準以上の規模内容を有する企業におい
て労働者を雇用する場合においては、労働者の履歴書の提出、採用する企業におけ
る採用の内部意思決定手続、労働条件を明示した労働契約書の取交わし及び辞令の
交付などが行なわれるのを通例とするところ、前掲証人Aの証言によれば、同社に
おいても労働者の雇入れに際しては右の如き諸手続が行なわれているところ、被控
訴人についてはこれらのことが一切行なわれていないことが認められ、またこれら
諸手続に代わりあるいはこれに準じるような手続が行なわれたことを窺わせるに足
りる証拠もない。
(三) そこで次に、被控訴人が前記のとおり八年余に及び経営コンサルタントの
業務に従事することにより、飯能光機との間に雇用関係が生じたものとみられるか
否かについて判断する。
1 たしかに、同社と被控訴人間の経営コンサルタントの委嘱関係が八年余という
かなり長期に及んだものであること前認定のとおりであり、また前掲証人A及び被
控訴人本人の各供述並びに弁論の全趣旨によれば、被控訴人は同社の業務に従事し
はじめてしばらくの間森川産業で、また昭和四八年頃旭硝子株式会社で各経営コン
サルタントの業務に従事したことはあるものの(ただし前者は従前の業務の跡仕末
として、また後者は飯能光機の親会社であり、また飯能光機の副長(次長)である
Aの出向元会社であつて、右会社の業務は、別途に報酬を得たものの飯能光機の業
務の延長ともいえるものであつた。)、右二社を除いては、同社の業務に従事した
八年余の間の経営コンサルタントとしての業務はほとんどが同社のそれのみであ
り、従つて収入もそのほとんどが同社から支払を受けた報酬のみであつたこと、そ
してまた同社のコンサルタントとしての業務の準備は自宅でしたが、月のうちほぼ
八日ないし一二日は特別の事情のない限りは曜日を決めて同社の本社に出向き、一
般従業員の出社及び在社時間とは異るものがあつたとはいえ、出社すればほぼまる
一日同社で執務したことが認められ、右事実によれば、被控訴人の同社におけるコ
ンサルタントとしての業務の従事が業務開始時はともかく、時間の経過と共に完全
な雇用形態とまではいい切れないとしても、雇用の性質をも併有した労務(役務)
供給関係に推移していつたのではないかと考える余地が全くないとはいえないもの
があろう(客観的にはともかく、被控訴人の原審供述及び弁論の全趣旨によれば、
被控訴人としては、飯能光機における企業経営についての分析、診断、改善、指導
面における社内専門スタツフとして丸抱えされているといつた意識あるいは少なく
ともそういつた希望なり期待感を持つていたことは否定できないものが窺われ
る。)。
2 しかしながら、両者間の関係を委任関係とする原審証人A、同Bの各供述に対
比し、また以下の認定事実に照らしてみれば、前記認定の事実によつても被控訴人
の飯能光機に対する経営コンサルタントとしての労務(役務)供給関係が雇用関係
はもとより雇用関係の要素を多分に持つた法的関係に推移していつたものと断定す
ることも困難である。
3 各成立に争いのない甲第一、第四ないし第一〇号証、甲第一一ないし第一三号
証の各一、二、甲第一四号証、甲第五一号証の一ないし三、甲第五二、第五三号
証、乙第二二号証、乙第二九ないし第三四号証、乙第三六号証、原本の存在と成立
に争いのない乙第三号証の一、二、乙第五、第七号証の各一、二、乙第八号証の
一、乙第九号証の一ないし三、一六ないし五九、七六、前掲証人Aの証言及び弁論
の全趣旨から各原本の存在と成立が認められる乙第九号証の四ないし一五、六〇な
いし七五、七七ないし九七、乙第一〇号証の一ないし八、乙第一一号証、乙第二四
ないし第二六号証の各二、前掲証人B、同Aの各証言、原、当審における被控訴人
本人の供述を総合すると、次の事実が認められ、右被控訴人本人の供述中この認定
に反する部分は右各証拠に照らし直ちには採用できない。
(ア) 「経営コンサルタント」は国家試験等に合格することによつて国家から資
格を付与される職業ではないが、一般に、経営コンサルタントとは「企業経営全般
あるいは企業経営の各部門(生産、販売、人事、財務など)について経営管理技術
上の問題点の指摘、改善案の指示、改善案実施の指導・教育等の諸活動を行ない、
企業経営の合理化と高度化を側面から援助する企業外の専門家」といわれ、右のよ
うに企業外の専門家として企業の合理化等の長期指導に当る場合に短いときでも一
年間はかかるのが普通であつて、必要に応じ更改される例があること、その報酬は
通常一日当りいくら、一ケ月当り(出勤日数により一日当りの割合を異にする)い
くらと定められるものであること、日本生産性本部においては経営コンサルタント
の制度の確立、充実に努力を傾け、研修会などを実施し、研修課程を終了した者に
は資格を認定するなどしていたこと、前記の如く被控訴人は昭和二九年経営コンサ
ルタントを開業したものであり、日本生産性本部実施の研修会を了えその認定を受
けていること(右研修会を終了し資格の認定を受けたコンサルタントが集つて日本
生産性本部茗谷会という任意かつ親睦的な会を作つているが、被控訴人もその一員
である。)、被控訴人は、飯能光機の本社工場副所長Aの依頼を受けた労働省の係
官の推せん、紹介によつて経営改善指導についての専門家として期間の定めなく同
社の業務に従事することになつたが、前記認定の如く企業内職員として採用される
場合に通常措られる手続あるいは形式は一切なされなかつたこと、同社は旭硝子の
子会社であつて、子会社としての経営に難しいところがあり、会社の制度、規定が
不完全であつたので、人事関係、賃金体系、社員の取扱い、厚生問題、更には予
算、経理と多方面に亘つて被控訴人の指導を仰ぐこととしたため、自ずとその期間
が長くなつたこと、被控訴人は終始同社の幹部あるいは一般従業員からは「先生」
の敬称をもつて接せられ、同社組織機構に組入れられることがなく、また同社(直
接には前記A)の指揮、監督を受けるという関係にはなく、その他後記の如く文字
どおり同社から別格の特別扱いを受けていたこと。
(イ) 被控訴人は昭和四二年三月から同五〇年六月まで同社で業務に就いていた
期間中、就業規則の適用を受けず、従業員としての法律上或いは慣行上の諸々の権
利・義務の実行(例えばその顕著な一例として厚生年金の掛金、社会保険、失業保
険(昭和五〇年三月まで)、雇用保険(昭和五〇年四月以降)等の保険料の納付、
タイムカードの打刻)、参加(例えば新年会、忘年会等の各種の社内懇親会等への
参加)等一切なく、賞与の支給もなかつたし、一方昼食は同社から提供を受け、帰
宅は車で送られるという扱いを受けていたこと。
(ウ) 被控訴人は恒常的に月にして八日ないし一二日間出社して同社においてそ
の業務に従事したが、一つには東京都杉並区<以下略>にある被控訴人の住所兼事
務所から同社までは遠距離であつて、同社の社員等が被控訴人方まで相談、連絡等
にいちいち出向くことは不便であり、また月に恒常的に出社して貰えばその出社一
日当りいくらとしてその報酬が支払いやすく、被控訴人も同社に出社して執務する
ことを希望したことなど双方の都合によつて決定されたものであり、同社の業務命
令による出勤ではなく、出社・退社も拘束を受けることはなかつたこと。
(エ) 被控訴人のコンサルタント業務に対する対価の支払は、原判決添付別表記
載のとおりほぼ毎月一定の額が保たれ大きな変化はなかつたが、それでも昭和四二
年度(業務を開始した三月を除く)は少ない月で四万円(出社日数四日間)、多い
月で一二万円(同一二日間。なお車代として交通費は別途支給)、同四三年度は少
ない月で三万円(同三日)、多い月で一二万円(同一二日)(以下三万円(三日)
~一二万円(一二日)の如く表示する。)、同四四年度は一〇万円(一〇日)~一
二万円(一二日)、同四五年度は九万円(九日)~一三万円(一〇日。ただし同年
七月分から増額)、同四六年度は一三万円(一〇日)~一五万六〇〇〇円(一二
日)、同四七年度は一四万三〇〇〇円(一一日)~一五万円(一〇日。ただし二月
分から増額)、四八年度は一五万円(一〇日)~二一万円(一〇日。ただし八月分
から増額、出社日数は変化なし)、同四九年度は二一万円(一〇日)~二七万三〇
〇〇円(一三日。ただし一一月分から増額。一一、一二月は各八日)、同五〇年は
毎月二七万二〇〇円(各八日)と月によつて増減があり、その変化は直接的には一
日いくらということを基準にして出社日数の多少によつて決められたが、出社日数
の多少は、結局は同社が被控訴人に対し人事、労務、経理等に関する経営改善につ
いて委嘱した業務の内容、その程度、難易、濃淡等の異なることによるものであつ
て、従つて労働賃金の如く月給いくらといつた具合に一定したものではなかつたこ
と(右対価の額は企業外経営コンサルタントとして一ケ月に此の程度の日数従事す
る場合としては一般の基準額をはずれたものではない。)。
(オ) 右対価の支払については、同社は「謝礼」として雑費から支出し、被控訴
人は「日本生産性本部茗谷会」の肩書を付し「指導料」名下の領収証を発行し、ま
た被控訴人は対価の値上げについても「経営指導料改訂」名義で同社に申入れ、更
に同社は給与所得についての源泉徴収ということではなく、報酬・料金等に係る源
泉徴収を行つたうえで支払つていること(所得税法二〇四条一項二号、同法施行令
三二〇条二項参照。源泉徴収税額については給与所得と右報酬・料金等とでは全く
異なるこというまでもない。)。
(カ) 被控訴人は、経営コンサルタントの学識経験のみならず、昭和三九年七月
から税理士も開業しており、税務関係の専門家でもあるが、同社の被控訴人に対す
る以上の各事実の如き取り扱い方につきなんら苦情や是正方を同社はもとより税務
ないし厚生・労働関係諸機関に対し申し立てた形跡は全くみられず、却つて税務署
に対しては、同社から受領した対価を事業所得における報酬として、しかも青色申
告承認事業者としての各種の特典を享受するような方法での確定申告をしているこ
と。
4 以上要するに、飯能光機と被控訴人間に雇用関係が成立したとの被控訴人の主
張事実はそれが合意に基くものであれ、はたまた事実状態に基くものであれ、被控
訴人の立証その他本件全証拠によつてもこれを認めるに十分ではないというべきで
ある(前記認定の諸事実によれば本件労務(役務)供給関係は(準)委任契約に基
づくものであると認めるのが相当である。)。
四 そうすると本件処分は相当であつて、被控訴人の本訴請求は理由がないものと
いうべく、これと結論を異にする原判決は失当であるからこれを取り消して被控訴
人の本訴請求を棄却することとし、訴訟費用の負担につき行訴法七条、民訴法九六
条、八九条を適用して主文のとおり判決する。
(裁判官 田中永司 安部剛 岩井康倶)

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