弁護士法人ITJ法律事務所

裁判例


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         主    文
     主位的請求に関する本件控訴を棄却する。
     当審における予備的請求を棄却する。
     当審における訴訟費用は控訴人の負担とする。
         事    実
 第一 当事者の申立
 一 控訴人
 1 原判決を取り消す。
 2 被控訴人は、控訴人に対し別紙物件目録記載の建物につき別紙登記目録記載
の(一)、(二)、(三)の各根抵当権設定登記の抹消登記手続をせよ。
 3 (予備的請求)
 別紙物件目録記載の建物について設定された別紙登記目録記載(一)、(二)、
(三)の根抵当権設定登記にかかる各根抵当権の効力が右建物の敷地について存す
る土地賃借権(昭和五三年七月八日所有者Aと控訴人との間に控訴人を賃借人とし
て成立したもの)に及ばないことを確認する。
 4 訴訟費用は、第一、二審とも被控訴人の負担とする。
 二 被控訴人
 1 主文第一項同旨
 2 予備的請求につき、予備的に主文第二項同旨
 第二 当事者の主張
 次のとおり付加訂正するほか、原判決事実摘示と同一であるから、ここにこれを
引用する。
 一 控訴人
 1 主位的請求の原因
 原判決二枚目襄五行目から六行目にかけての「請求の趣旨記載の」を「別紙登記
目録記載(一)、(二)、(三)の」と改める。
 2 予備的請求の原因(当審における新請求)
 (一) 訴外Aと控訴人とは、昭和五三年七月八日、渋谷区ab丁目c番d宅地
のうち本件建物の敷地となつている一六坪六四(五五・〇一平方メートル)につ
き、控訴人を賃借人として、普通建物所有を目的とし、期間を契約成立の日から二
〇年とする賃貸借契約を締結し、控訴人は右賃借権(以下「本件賃借権」とい
う。)を取得した。
 (二) 右契約締結当時までは本件建物の敷地には本件建物の存立を正当ならし
める土地使用権は存在せず、被控訴人は根抵当権の設定を受けた当時この事実を知
つており、しかも、当時は敷地所有者の梅原から提起された本件建物の収去土地明
渡請求訴訟について原告勝訴の判決が確定していた事情にあつた。
 (三) 右のような事情であつて、本件賃借権は根抵当権設定後に成立したもの
でもあり、根抵当権の効力は本件賃借権に及ばないと解すべきであるが、被控訴人
はこれを争つている。
 (四) よつて、本件根抵当権の効力が本件賃借権に及ばないことの確認を求め
る。
 二 被控訴人
 1 予備的請求に対する本案前の主張
 控訴人が当審で追加した予備的請求と控訴人が従来求めていた本件建物にかかる
根抵当権の不存在ないし消滅を理由とする抹消登記手続請求とは、民訴法二三二条
にいう請求の基礎を異にするばかりでなく、控訴審における新請求の追加提起は、
請求の基礎が同一であるほか、相手方の審級の利益を害する虞れがなく、新請求に
対する審理のために従前からの訴訟状態を利用できる場合でなければ許されないと
いうべきである。しかるに、予備的請求にかかる権利関係はこれまで全く審理の対
象とならなかつたものであるから、いずれにしても訴えの追加的変更は許されな
い。
 2 予備的請求の原因に対する答弁
 請求の原因事実(一)は認める。
 同(二)のうち、被控訴人が賃借権等の不存在を知つていたことは否認する。
 同(三)のうち、抵当権の及ぶ範囲に争いがあることは認めるが、その余は争
う。被控訴人の根抵当権の効力は右賃借権に及ぶと解すべきである。
 第三 証拠関係
 原審及び当審記録中の証拠に関する目録の記載を引用する。
         理    由
 一 当裁判所も、控訴人の主位的請求は理由かなく棄却すべきものと判断する
が、その理由は、次のとおり付加、訂正するほか、原判決の理由説示(同判決五枚
目表八行目から七枚目表末行末尾まで)と同一であるから、ここにこれを引用す
る。
 1 原判決五枚目裏九行目の「乙第三号証の記載等」を「乙第三号証並びに原審
証人Bの証言によりいずれも真正に成立したと認められる乙第一号証、同第四号証
(但し、官署作成部分は成立に争いがない。)、同第一三号証の二、同第一五号
証、原審証人Cの証言によりいずれも真正に成立したと認められる同第六、第七号
証、同第一〇号ないし第一二号証、同第一三号証の一、三、同第一四号証、同第三
〇、第三一号証の各記載」と改める。
 2 同六枚目裏六行目の「乙第二号証の記載等」を「乙第二号証並びに同証人の
証言によりいずれも真正に成立したと認められる乙第一七、第一八号証、同第二〇
号証、同第二一号証の一ないし三、同第二二号証、第二四号証の一ないし三の各記
載」と改める。
 3 同七枚目表六行目から七行目にかけての「同証言により真正に成立したもの
と認められる乙第四号証」を「前顕乙第四号証」と改め、同七行目から八行目にか
けての括弧書部分を削除する。
 二 次に、予備的請求について検討する。
 1 本件建物の敷地である控訴人主張の土地につき控訴人主張の日に訴外Aと控
訴人との間で控訴人を借主としその主張の内容による賃貸借契約が締結されたこと
は当事者間に争いがない。したがつて、控訴人は右契約に基づく賃借権を取得した
ものというべきである。
 2 被控訴人は、主位的請求と予備的請求は請求の基礎を異にするから訴えの変
更は許さるべきでない、と主張するが、主位的請求は本件建物に対する根抵当権の
不存在ないし弁済による消滅を理由としてその設定登記の抹消を求めるのに対し、
予備的請求は右根抵当権が存在することを前提として根抵当権の効力が敷地の賃借
権に及ばないことの確認を求めるものであつて、各請求はいずれも同一の建物根抵
当権に関し、前者はその存否を争点とし、後者はその存在を前提としてその範囲を
争点とする点に差異があるにすぎず、ひつきよう同一根抵当権をめぐる争いである
から、いまだ請求の基礎の同一性を欠くものといいえない。
 そして、賃借権の成立につき当事者間に争いがない以上、訴えの変更により訴訟
を遅滞させる虞れがあるとは認められないから、訴えの変更は適法というほかはな
い。
 <要旨>3 建物を所有するためのその敷地の賃借権は、建物の存立に必要欠くべ
からざるものであつて、建物に附随しこれと経済的一体を成すものであるか
ら、建物が抵当権の目的となつているときは、建物の従たる権利として民法三七〇
条にいう附加物に含まれ、原則として、その敷地賃借権にも建物抵当権の効力が及
ぶものと解すべきであるところ、同条は、物が目的不動産に附加して一体を成すに
至つた時期については、それが抵当権設定の前であるか、後であるかの区別をして
いないから、従たる権利について同条を適用する場合においても、抵当権設定の際
又はその後において別段の定めをしない限り、建物抵当権の効力は、抵当権設定後
に成立したその敷地の賃借権にも及ぶものと解するのが相当である。このことは、
抵当権はその実行に至るまでの間、絶えず目的物をその時の状態において支配して
いる、という抵当権の特質からも是認することができ、かように解することは借地
法九条の三の規定と相まつて目的建物の売却価額を高めるからこれを否定的に解す
る場合に比べて抵当権設定者である建物所有者にも利益を与えるということができ
るし、また、民法三八八条の規定とも平仄が合うものというべきである。そして、
右の理が根抵当権についても当てはまるものであることはいうまでもない。
 この点に関し、控訴人は、本件各根抵当権が設定された当時、Bに対し本件建物
の収去による敷地の明渡を求める判決が確定していた、と主張するが、その立証の
ために提出されたものとみられる成立に争いのない甲第三、第五、第六号各証(別
件訴訟第一、二審判決及び執行文付与申請書)は、判決の確定時期を異にし、その
確定はずつと後日のことであるばかりでなく、そもそも、本件建物が別件訴訟の目
的物に含まれていたとは認められず、また、原審証人Bの証言中には控訴人の主張
にそうかのような供述部分があるが、その内容は抽象的であつて、本件建物につい
ての確定判決が存在するのであれば書証として提出されて然るべきであるのに提出
されていないことに照らしても右証言は措信ずることができず、他に控訴人の主張
を認めるに足りる証拠はない。また、控訴人は、本件根抵当権が設定された当時、
被控訴人は本件建物には敷地使用の権原が存しないことを知つていたと主張する
が、そうであつたとしても、それだけでは本件根抵当権の効力が敷地の賃借権に及
ぶことを妨げる理由にはならない、というべきである。
 してみれば、根抵当権設定者である田中、その承継人である控訴人において別段
の定めをしたことの主張・立証のない以上、本件根抵当権の効力は本件賃借権に及
ぶものといわなければならず、その効力が本件賃借権に及ばないことの確認を求め
る控訴人の予備的請求もまた理由がない。
 三 以上の検討により、控訴人の主位的請求を棄却した原判決は相当であるから
本件控訴は理由なしとして棄却すべく、また、当審における予備的新請求を棄却す
ることとし、訴訟費用の負担につき民訴法九五条、八九条を適用して、主文のとお
り判決する。
 (裁判長裁判官 吉井直昭 裁判官 岡山宏 裁判官 河本誠之)
     物 件 目 録
東京都渋谷区ab丁目c番地d 所在
 家屋番号 c番d-e
  木造モルタル塗瓦葺二階建居宅兼店舗
  床面積 一階 三四・二八平方メートル
      二階 三〇・四一平方メートル
     登 記 目 録
(一)乙区一番の根抵当権
 但し、昭和四二年一一月二日東京法務局渋谷出張所受付第四〇三二七号
  原   因  昭和四〇年一一月一一日証書貸付、手形貸付、手形割引契約の
昭和四二年一〇月一二日設定契約。
  元本極度額  金一六〇万円
  損 害 金  日歩金七銭
  債 務 者  大田区fg丁目h番i号
         田 中 惣 一
  根抵当権者  品川区jk丁目l番m号
         大栄信用組合
(二)乙区二番の根抵当権
 但し、昭和四四年三月五日右法務局受付第八三六五号
  原   因  昭和三八年四月二日証書貸付、手形貸付、手形割引契約の昭和
四四年二月二七日設定契約。
  元本極度額  金三〇〇万円
  損 害 金  日歩七銭
  債 務 者  大田区no丁目p番地
         田柴自動車工業株式会社
  根抵当権者  (一)と同じ。
(三)乙区四番の根抵当権
但し、昭和五一年一二月二二日右法務局受付第五五九四三号
 原   因   昭和五一年一二月九日設定。
 元本極度額   金七〇〇万円
 債権の範囲   信用組合取引、手形債権、小切手債権。
 債 務 者   (一)と同じ。
 根抵当権者   (一)と同じ。

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