弁護士法人ITJ法律事務所

裁判例


戻る

平成12年(ワ)第25382号損害賠償等請求事件
(口頭弁論終結日平成14年8月27日)
中間判決
原告パンチ工業株式会社
訴訟代理人弁護士山田敏夫
同馬場和佳
被告日本デイトン・プログレス株式会社
訴訟代理人弁護士渡部敏雄
同本多哲哉
同和氣満美子
同新保克芳
訴訟復代理人弁護士檜垣直人
被告補助参加人株式会社プレスセンター
訴訟代理人弁護士山下江
同目片浩三
同田中伸
同藤井裕
主文
被告が,平成10年12月に,原告の取引先である三菱自動車工業株
式会社(岡崎製作所)及び富士重工業株式会社(群馬製作所)に対して,原告
の製造・販売する別紙物件目録記載の製品が登録番号第1872007号の実
用新案権を侵害する旨を告知した行為は,不正競争防止法2条1項14号所定
の不正競争行為に該当し,被告は,原告に対し,同行為に基づく損害賠償義務
を負う。
事実及び理由
第1請求
1被告は,原告に対し,5224万6414円及びこれに対する平成10
年12月27日(不法行為の後の日)から支払済みまで年6分の割合による金
員を支払え。
2被告は,別紙謝罪広告目録記載の謝罪広告を,表題及び当事者双方の社
名と被告代表取締役名は4号活字,その他の部分は5号活字を使用して,日本
経済新聞,朝日新聞,読売新聞,日刊工業新聞の各全国版に,各1回ずつ掲載
せよ。
第2事案の概要
本件は,被告が,平成10年12月,原告の取引先である三菱自動車工業
株式会社(以下「三菱自動車」という(岡崎製作所,富士重工業株式会社。))
(以下「富士重工業」という(群馬製作所)に対し,原告の製造する別紙物。)
件目録記載の製品が,登録番号第1872007号の実用新案権を侵害すると
,,告げた行為は競争関係にある原告の営業上の信用を害する虚偽の事実を告知
流布したものであり不正競争行為に該当し,被告は故意又は過失により不正競
争行為を行って他人の営業上の利益を侵害したと主張して,不正競争防止法2
条1項14号,4条,7条に基づき,被告に対し,損害賠償及び謝罪広告の掲
載を請求するものである。これに対して,被告は,原告の製造する別紙物件目
録記載の製品は,上記実用新案権を侵害するから,虚偽の事実を告知,流布し
たものではなく,また,被告には故意過失がないなどと反論して,これを争っ
ている。
1前提となる事実等(当事者間に争いがない事実及び証拠により認定した
事実。後者については,末尾に認定に用いた証拠を掲げた)。
(1)当事者
原告は,プラスチック金型用部品,プレス金型用部品等の製造販売,
輸出等を業とする会社であり,被告は,金型部品の輸入,製造販売を業とする
会社である。
(2)被告補助参加人の実用新案権
被告補助参加人は,下記の実用新案権を有していた(以下「本件実,
用新案権」という。。)
実用新案登録番号第1872007号
出願日昭和61年8月18日
出願番号実願昭61−126046号
登録日平成3年11月19日
考案の名称プレス用パンチのリテーナー装置
(3)実用新案登録請求の範囲
本件実用新案登録出願に係る考案の明細書(以下「本件明細書」とい
。〔。「」。〕)う本判決末尾添付の実用新案公報甲1以下本件公報という参照
「」(,「」の実用新案登録請求の範囲の記載は次のとおりである以下本件考案
という。。)
「カム板3が前進したときはパンチ8がリテーナーブロツク1の下面か
らストローク分突出し,且つカム板3が後退したときはパンチ8がリテーナー
ブロツク1内にストローク分引込む如く構成したプレス用のパンチリテーナー
装置において,カム板3及びパンチ8両移動方向と直方する方向の深横溝1a
をリテーナーブロツク1の上面に凹設すると共に該深横溝1a中にパンチ用嵌
合孔1bを設け,パンチ用嵌合孔1bの仮想中心軸とカム板3の移動方向によ
つて決まる仮想中立面に対し対称な位置に当る深横溝の溝底に複数個のバネ用
有底孔1c……1cを設け,圧縮バネ10を配して長方形状パンチセツトブロ
ツク2を上下動のみ可能に深横溝1aに嵌合配置し,該パンチセツトブロツク
2に鍔付きパンチ8の段付孔2aを設け,カム板3に対応する傾斜面2cをパ
ンチセツトブロツク2に設けたことを特徴とするプレス用パンチリテーナー装
置」。
(4)構成要件の分説
本件考案は,次のように分説することができる(以下「構成要件A」
などという。。)
Aカム板3が前進したときはパンチ8がリテーナーブロツク1の下面
からストローク分突出し,且つカム板3が後退したときはパンチ8がリテーナ
ーブロツク1内にストローク分引込む如く構成したプレス用のパンチリテーナ
ー装置において,
Bカム板3及びパンチ8両移動方向と直方する方向の深横溝1aをリ
テーナーブロツク1の上面に凹設すると共に該深横溝1a中にパンチ用嵌合孔
1bを設け,
Cパンチ用嵌合孔1bの仮想中心軸とカム板3の移動方向によつて決
まる仮想中立面に対し対称な位置に当る深横溝の溝底に複数個のバネ用有底孔
1c……1cを設け,
D圧縮バネ10を配して長方形状パンチセツトブロツク2を上下動の
み可能に深横溝1aに嵌合配置し,
E該パンチセツトブロツク2に鍔付きパンチ8の段付孔2aを設け,
Fカム板3に対応する傾斜面2cをパンチセツトブロツク2に設けた
ことを特徴とするプレス用パンチリテーナー装置。
(5)原告の行為
原告は,平成8年から平成11年5月21日までの間に,原告製品を
製造販売した乙3の1∼5乙4弁論の全趣旨原告は原告製品のうちチ(,,。,「
ェンジリテーナ・手動タイプ(丸形パンチ用・GCMR型,異形パンチ用・G
CMF型」の2種類は販売していない,と主張するが,原告作成の「お詫び)
とご案内」の添付書類に,上記2種類の原告製品について「この製品は販売を
」「」,。)。中止いたしました販売中止と記載されているのに照らし採用できない
(6)原告製品の構成
原告製品の構成は,いずれも,別紙「原告製品構造図」記載のとおり
である。原告製品の深横溝には,パンチ用嵌合孔⑧のほかに,バネ用孔⑨2つ
とバネ・ボルト段付孔⑦2つの,合計4つの孔が設けられている。このうち,
バネ用孔⑨は,径は10mm,深さ約30㎜の底のある孔であり,内部には径8
mm,長さ30㎜のバネが挿入されている。バネ・ボルト段付孔⑦は,径10㎜
の底のない孔であるが,約15㎜の深さの部分で段が設けられて径が細くなっ
ており,内部には径8mm,長さ15㎜のバネが挿入されている。平面図で見る
と,2つのバネ用孔⑨はパンチ用嵌合孔⑧の仮想中心軸を中心に点対称の位置
にあり,2つのバネ・ボルト段付孔⑦も同様にパンチ用嵌合孔⑧の仮想中心軸
を中心に点対称の位置にあって,2つのバネ用孔⑨を結んだ直線と,2つのバ
ネ・ボルト段付孔⑦を結んだ直線はパンチ用嵌合孔⑧の仮想中心軸上で交差す
る位置関係にある。そして,パンチ用嵌合孔⑧の仮想中心軸とカム板③の移動
方向によって決まる仮想中立面に対しては,仮想中立面の片側にバネ用孔⑨と
バネ・ボルト段付孔⑦が存在し,これと面対称な位置にバネ・ボルト段付孔⑦
とバネ用孔⑨が存在する。すなわち,仮想中立面の片側のバネ用孔⑨と面対称
な位置にバネ・ボルト段付孔⑦が存在し,片側のバネ・ボルト段付孔⑦と面対
称な位置にバネ用孔⑨が存在する(乙3の1∼5,乙4,弁論の全趣旨。。)
(7)原告の取引先に対する被告の告知行為
原告と被告とは,プレス用パンチのリテーナー装置の商品市場におい
て競争関係にあるところ,被告の営業担当者は,平成10年12月,原告の取
引先である三菱自動車(岡崎製作所,富士重工業(群馬製作所)に対し,原)
告製品は被告補助参加人の本件実用新案権等の権利を侵害するものなので,こ
れを購入・使用しないように求めるとともに,過去の原告製品の購入実績を知
らせるように求め,その際,下記の内容を含む「チェンジリテーナーご採用及
」(。)。びご購入についてのお願いと題する書面を交付した甲2弁論の全趣旨
「長年にわたり各自動車メーカー様においてご使用を賜ってまいり
ました弊社販売商品の「チェンジリテーナー」はその優れた機能・構造から数
々の特許を取得いたしております。しかし,このたびパンチ工業㈱製「チェン
ジリテーナー」が特許を侵害していることが判明いたしましたので,今後パン
チ工業㈱製のチェンジリテーナーをご使用及びご購入なされないようお願い申
し上げます。尚,貴社にてパンチ工業㈱製チェンジリテーナーのご購入実績が
,,()。ございましたらお手数ですが品名数量購入価格単価をご連絡ください
貴社には一切迷惑はおかけしませんのでご協力のほどよろしくお願い致しま
す」。
2争点
(1)被告の行為は,競争関係にある原告の営業上の信用を害する虚偽の
事実を告知,流布したものとして,不正競争防止法2条1項14号所定の不正
競争行為に該当し,被告は損害賠償義務を負うか(争点1)
(2)被告の不正競争行為により原告の被った損害額(争点2)
(3)謝罪広告掲載の必要性(争点3)
第3争点に関する当事者の主張
1争点1(被告の行為の不正競争行為該当性等)
(原告の主張)
(1)不正競争行為該当性
被告の営業担当者は,平成10年12月,原告の取引先である三菱自
動車(岡崎製作所,富士重工業(群馬製作所)等の自動車メーカーに対し,)
原告製品は被告の本件実用新案権等の権利を侵害するものなので,これを購入
・使用しないように求めるとともに,過去の原告製品の購入実績を知らせるよ
うに求め,その際,同趣旨の内容を含む書面を交付した。
しかし,原告製品は,下記のとおり,本件考案の技術的範囲に属せず
(原告製品は本件考案の構成要件A,B,D,E及びFを充足するが,構成要
件Cを充足しない,その製造販売は本件実用新案権を侵害しない。また,そ。)
もそも被告は,本件実用新案権の権利者でもない。したがって,上記被告の行
為は,虚偽の事実を告知,流布したものである。
被告は,三菱自動車(岡崎製作所,富士重工業(群馬製作所)等の)
自動車メーカーに対して,上記のとおり虚偽の事実を告知,流布し,原告の社
会的信用を毀損した。また,原告と被告とは,プレス用パンチのリテーナー装
置の商品市場において競争関係にある。したがって,被告の行為は,不正競争
防止法2条1項14号所定の不正競争行為に該当する。
ア構成要件Cの文言の解釈
本件考案の構成要件Cは「パンチ用嵌合孔1bの仮想中心軸とカ,
ム板3の移動方向によつて決まる仮想中立面に対し対称な位置に当る深横溝の
溝底に複数個のバネ用有底孔1c……1cを設け」というものであるが,こ,
の文言の解釈としては,バネ用有底孔は,パンチ用嵌合孔1bの仮想中心軸と
カム板3の移動方向によって決まる仮想中立面に対して幾何学的な意味で対称
の位置になければならず,かつ,このバネ用有底孔は,仮想中立面の片側にす
,。,べて同じ形状のものが複数個なければならないと考えるべきであるこれは
構成要件Cの文言及び本件考案の出願経過をみれば明らかである。
(ア)被告補助参加人は,当初,本件考案の実用新案登録請求の範囲
を,次のようにして出願していた(甲6。)
「カム板3が前進したときはパンチ8がリテーナーブロツク1の下
面からストローク分突出し,且つカム板3が後退したときはパンチ8がリテー
ナーブロツク1内にストローク分引込む如く構成したプレス用のパンチリテー
ナー装置において,リテーナーブロツク1に圧縮バネ10を配してパンチセツ
トブロツク2を上下動のみ可能に嵌合配置し,該パンチセツトブロツク2に鍔
付きパンチ8の段付孔2aを設け,カム板3に対応する傾斜面2cをパンチセ
ツトブロツク2に設けたことを特徴とするプレス用パンチリテーナー装置」。
(イ)しかし,上記の被告補助参加人の出願に対し,特許庁は,具体
()。的な引用例を引いて進歩性を欠くことを理由に拒絶理由通知を行った甲8
そこで,被告補助参加人は,上記の実用新案登録請求の範囲について下記の下
(),,。線部の事項を加える補正を行い甲12その結果本件考案が登録された
「カム板3が前進したときはパンチ8がリテーナーブロツク1の下
面からストローク分突出し,且つカム板3が後退したときはパンチ8がリテー
ナーブロツク1内にストローク分引込む如く構成したプレス用のパンチリテー
ナー装置において,カム板3及びパンチ8両移動方向と直方する方向の深横溝
1aをリテーナーブロツク1の上面に凹設すると共に該深横溝1a中にパンチ
用嵌合孔1bを設け,パンチ用嵌合孔1bの仮想中心軸とカム板3の移動方向
によつて決まる仮想中立面に対し対称な位置に当たる深横溝の溝底に複数個の
バネ用有底孔1c……1cを設け(この後にあった「リテーナーブロック1,
に」との文言は削除)圧縮バネ10を配して長方形状パンチセツトブロツク。
2を上下動のみ可能に深横溝1aに嵌合配置し,該パンチセツトブロツク2に
鍔付きパンチ8の段付孔2aを設け,カム板3に対応する傾斜面2cをパンチ
。」セツトブロツク2に設けたことを特徴とするプレス用パンチリテーナー装置
(ウ)上記のような出願経過に鑑みれば,本件考案は,単に「リテー
ナーブロック1に圧縮バネ10を配してパンチセットブロック2を上下動のみ
可能に嵌合配置し」ただけでは進歩性を欠き「パンチ用嵌合孔1bの仮想中,
心軸とカム板3の移動方向によって決まる仮想中立面に対し対称な位置に当る
深横溝の溝底に複数個のバネ用有底孔1c……1cを設け」るという部分を加
えたことによって,初めて進歩性を有するものとなったというべきである。し
たがって,本件考案の技術的範囲を考えるに当たっては,被告補助参加人が後
から進歩性を有する部分を加えたことに鑑み,このような事項を加えて補正を
。,した被告補助参加人の意図に沿って厳格に解釈しなければならないすなわち
「パンチ用嵌合孔1bの仮想中心軸とカム板3の移動方向によつて決まる仮想
中立面に対し対称な位置」という文言は,文字どおり仮想中立面に対して幾何
学的に対称な位置のことをいうというべきである。そして「バネ用有底孔」,
も,同仮想中立面の片側にそれぞれ複数個なければならず,さらに,これらの
「バネ用有底孔」は,上記の補正後の文言に「複数個のバネ用有底孔1c……
1c」とあり,バネ用有底孔をすべて同じ符号で表している以上,すべて同じ
形状でなければならない,というべきである。
イ原告製品の構成要件Cへの充足性
原告製品は,上記仮想中立面の片側に,形状の異なる孔であるバネ
用孔⑨とバネ・ボルト段付孔⑦が存在し,これと面対称な位置にバネ・ボルト
段付孔⑦とバネ用孔⑨が存在する。すなわち,仮想中立面の片側のバネ用孔⑨
と面対称な位置にバネ・ボルト段付孔⑦が存在し,片側のバネ・ボルト段付孔
⑦と面対称な位置にバネ用孔⑨が存在する。したがって,仮にバネ用孔⑨とバ
ネ・ボルト段付孔⑦のいずれも「バネ用有底孔」に該当するとしても,両者の
孔は形状が異なる以上,構成要件Cの「複数個のバネ用有底孔1c……1c」
との文言を充足しない。
加えて,構成要件Cの「バネ用有底孔」とは,考案の詳細な説明及
び図面を参酌して考えれば,底が完全にふさがれた孔をいうことが明らかであ
るから,原告製品におけるバネ用孔⑨2つはこれに含まれるが,バネ・ボルト
段付孔⑦はこれに含まれない。そうすると,原告製品においては「バネ用有,
底孔」の文言を充足するバネ用孔⑨2つが,上記仮想中立面に対して交差する
位置にあるということになるから,幾何学的に対称な位置にあるとはいえず,
構成要件Cの「対称な位置」との文言を充足しない。
(2)被告の故意過失
ア被告には,上記行為を行うについて,故意過失がある。
すなわち,原告の取引先に対し,原告製品が本件実用新案権を侵害
したと虚偽の事実を告知,流布した被告の行為は,競業者である原告の営業上
の信用を著しく害する典型的な不正競争行為というべきであるから,相当の理
由がない限り,虚偽の権利侵害の事実を告知,流布した者には当該行為をする
につき過失があったと推定するのが相当であり,かつ,過失の推定を覆す相当
な理由については,極めて厳格に解するべきである。
イ本件では,被告は,平成10年12月ころ,本件実用新案権の侵害
の有無について公権的な判断がされたわけではない時期に,原告の取引先に対
して直接執拗な申入れを行っているのであり,上記の相当な理由があるとは認
められない。
(被告の主張)
(1)不正競争行為該当性
不正競争防止法2条1項14号にいう「虚偽の事実」とは客観的真実
に反する事実のことであるところ,原告製品は,下記のとおり,本件考案の技
,,。術的範囲に属するからその製造販売及び使用は本件実用新案権を侵害する
したがって,被告が「虚偽の事実」を告知,流布したとはいえないから,被告
の行為は不正競争行為に該当しない。
ア原告は,原告製品が本件考案の構成要件A,B,D,E,Fを充足
することは認め,構成要件Cを充足することを争っているが,次のとおり,原
告製品は構成要件Cも充足するものである。
(ア)構成要件Cの文言の解釈
本件考案の構成要件Cは「パンチ用嵌合孔1bの仮想中心軸と,
カム板3の移動方向によつて決まる仮想中立面に対し対称な位置に当る深横溝
の溝底に複数個のバネ用有底孔1c……1cを設け」という文言であるが,,
この「対称な位置」との文言は,複数個のバネ用有底孔が,幾何学的な意味で
面対称になっていることを意味しないと解すべきである。
①本件考案は,連続的に送られてくる被加工物を,順次プレス機
械上に載せプレスするとき,孔を空けたり空けなかったりするのに使用するプ
レス用パンチのリテーナー装置に関するものである。
②従来のプレス用パンチのリテーナー装置では,パンチを突出さ
せた状態で使用中,衝撃や振動によってカムが後退するなどして誤作動し,不
良品を出すことがあった。かかる技術的課題を解決するため,本件考案の考案
者は,リテーナーブロック1の上面に,カム板3の進行と直方する方向に深横
溝1aを設けて,そこにパンチ用嵌合孔1bと,複数個のバネ用有底孔1c…
…1cを設け,さらに,バネ用有底孔に圧縮バネ10を配して長方形状パンチ
セットブロック2を上下動のみ可能に深横溝1aに嵌合配置し,パンチセット
ブロック2にカム板3に対応する傾斜面2cを設けた。本件考案は,こうした
構成をとることによって,カム板が正確にプレス位置に保持され,緩衝による
パンチの誤動作を避けることができるようにし,上記の技術的課題を解決した
ものである。
③上記のような本件考案の技術的課題の解決手段からすれば,本
件考案の技術的特徴は,深横溝1aの溝底に複数個のバネ用有底孔がバランス
,,良く配置され圧縮バネ10によってパンチセットブロック2が円滑に上昇し
また,パンチの際の衝撃による誤動作を避けることができるようにパンチセッ
トブロック2を保持できるようにしたところにある。つまり,深溝底1aの溝
底の複数個のバネ用有底孔は,誤動作を避けることができる程度に,バランス
良く配置されていればよいのであり,幾何学的な意味で面対称になっているこ
とまで要するものではない。したがって,複数個のバネ用有底孔を「パンチ用
嵌合孔1bの仮想中心軸とカム板3の移動方向によって決まる仮想中立面」に
「対称」に配置する,という構成要件Cは,複数個のバネ用有底孔が,バラン
ス良く配置されていれば足りるものであって,幾何学的に完全な意味で面対称
であることを意味しない。
(イ)原告製品の構成要件Cへの充足性
①原告製品の深横溝には,パンチ用嵌合孔⑧のほかに,孔が4つ
設けられているが,この4つの孔は,バネ用孔⑨2つとバネ・ボルト段付孔⑦
2つの2種類の孔に分けられる。そして,原告製品において,パンチセットブ
ロックは円滑に上昇し,また,パンチの際の衝撃による誤動作を避けることが
できるようにパンチセットブロックが保持されており,バネ用孔⑨2つ及びバ
ネ・ボルト段付孔⑦2つはバランス良く配置されている。したがって,原告製
品は,構成要件Cを充足する。
②また,仮に構成要件Cが,幾何学的に完全な意味で面対称であ
ることを要すると考えたとしても,原告製品は,構成要件Cを充足する。
なぜなら,バネ用孔⑨とバネ・ボルト段付孔⑦は,いずれの孔
も径が10mmであり,径8mmのバネが挿入されている。そして,原告製品にお
いては,パンチセットブロックが円滑に上昇し,また,パンチの際の衝撃によ
る誤動作を避けることができるようにパンチセットブロックが保持されている
から,バネ用孔⑨とバネ・ボルト段付孔⑦は,いずれも構成要件Cにいう「バ
ネ用有底孔」に該当するものとして,同視し得る。そして,原告製品において
は,この4つの孔のうち2つずつの孔が,パンチ用嵌合孔⑧の仮想中心軸とカ
ム板③の移動方向によって決まる仮想中立面に,幾何学的にも面対称な位置に
配置されているからである。
(2)被告の故意過失
ア原告は,被告補助参加人から警告を受けた当初から,原告製品が本
件実用新案権を侵害することを前提とした対応をとっていた。すなわち,被告
補助参加人が原告に対し,平成10年9月1日付けで警告書(乙1)を送付し
たところ,原告は,同月17日付けで,被告補助参加人に対し回答書(乙2)
をファクシミリ送信した。そして,同回答書には「事前調査が必ずしも十分,
でなく,過去に販売しました当該商品が貴社の御指摘の通りという事態もない
とは言い切れません「貴社の実用新案権を侵害しているような場合……ど。」,
のように対応しましたら宜しいのか貴社のご意向をお聞かせ頂きたく「現在」,
在庫を抱えておりませんし製造販売も致しておりません」などと記載されて。
いた。
イ原告は,平成10年12月初めころ,自己の取引先に対し,原告の
カタログに記載されたプレス用パンチのリテーナー装置の販売を中止する旨
を,書面で通知した(乙3の1∼5。原告は,それまでの間,原告製品が本件)
実用新案権を侵害していないとの主張を一切行っていなかった。
ウ上記の経過の下で,被告は,被告補助参加人の意を受けて,原告と
の間での損害賠償の交渉のための資料を得るために,原告の取引先であった三
菱自動車及び富士重工業に対して,原告製品の購入実績を開示するように依頼
したものである。このように,平成10年12月の時点では,被告補助参加人
と原告との間で,原告製品が本件実用新案権を侵害することについて主張の対
立はなく,また,原告との間での損害賠償の交渉のための資料を得るために原
告の取引先に対して権利侵害という事情を説明して購入実績の開示を依頼する
ことが必要であった。このような場合においては,仮に後日の法的手続におい
て権利侵害に当たらないとの結論に至り,結果的に告知内容が事実に反するこ
とになったとしても,被告には過失がない,というべきである。
2争点2(被告の不正競争行為により原告の被った損害額)
(原告の主張)
(1)原告は,本件の被告の行為により,既に製造したプレス用パンチの
。,リテーナー装置を取引先に対して納入できない事態に立ち至ったこれにより
原告は,次のとおり,891万7552円の損害を被った。
ア原告は,富士重工業に納入するため,原告製品(GCAR13,1
6,20型)合計200台を製造したが,本件の被告の行為のため,富士重工
業から納入を断られた。その販売価格は,合計570万4280円であり,原
価率が78%なので,原告は,製造原価に相当する444万9338円の損害
を被った。
イ原告は,三菱自動車に納入するため,原告製品(GCAR13,1
6,20型)合計200台を製造したが,本件の被告の行為のため,納入を断
られた。その販売価格は,合計572万8480円であり,原価率が78%な
ので,原告は,製造原価に相当する446万8214円の損害を被った。
(2)原告は,本件の被告の行為により原告製品の購入を拒まれたことか
ら,富士重工業,三菱自動車に対して納入するための新しいタイプのプレス用
パンチのリテーナー装置を開発した。原告は,同開発費相当額である400万
円の損害を被った。
(3)原告は,(2)に記載したとおり,新しいタイプのプレス用パンチのリ
テーナー装置を開発し,製造したが,原告製品は本件実用新案権を侵害しない
のであるから,本来新しいタイプのプレス用パンチのリテーナー装置は不要な
ものであった。原告は,これにより,次のとおり,743万1294円の損害
を被った。
ア原告は,富士重工業に納入するため,新しいタイプのプレス用パン
チのリテーナー装置合計200台を製造した。原告は,その製造原価分に相当
する370万7782円の損害を被った。
イ原告は,三菱自動車に納入するため,新しいタイプのプレス用パン
チのリテーナー装置合計200台を製造した。原告は,その製造原価分に相当
する372万3512円の損害を被った。
,,,(4)原告は本件の被告の行為により富士重工業及び三菱自動車から
。,原告製品以外の自動車プレス金型用部品についても購入を中止された原告は
その製造原価分に相当する719万7568円の損害を被った。
(5)原告は,本件の被告の行為により,業界において営業上の信用,名
誉を著しく毀損された。原告は,これにより2000万円に相当する損害を被
った。
(6)原告は,本件訴訟を弁護士に委任し,(1)∼(5)の合計額である47
54万6414円の約1割に当たる470万円の弁護士費用相当額の損害を被
った。
(7)以上の(1)∼(6)の合計額である5224万6414円が,原告の被
った損害額である。
(被告の主張)
上記原告の主張は,否認し,争う。
3争点3(謝罪広告掲載の必要性)
(原告の主張)
原告は,本件の被告の行為により,業界においてその営業上の信用,名
誉を著しく毀損された。したがって,原告の営業上の信用,名誉を回復するた
めの措置として,原告の被告に対する日本経済新聞,朝日新聞,読売新聞,日
刊工業新聞の全国版への謝罪広告掲載請求を認める必要がある。
(被告の主張)
上記原告の主張は,否認し,争う。
第4争点1についての当裁判所の判断
1不正競争行為該当性について
(1)被告の行為
前記「前提となる事実等(前記第2,1(7))に記載したとおり,原」
告と被告とは,プレス用パンチのリテーナー装置の商品市場において競争関係
にあるところ,被告の営業担当者は,平成10年12月,原告の取引先である
三菱自動車(岡崎製作所,富士重工業(群馬製作所)に対し,原告製品は被)
告の本件実用新案権等の権利を侵害するものなので,これを購入・使用しない
ように求めるとともに,過去の原告製品の購入実績を知らせるように求め,そ
の際,下記の内容を含む「チェンジリテーナーご採用及びご購入についてのお
願い」と題する書面(甲2)を交付した。
「長年にわたり各自動車メーカー様においてご使用を賜ってまいり
ました弊社販売商品の「チェンジリテーナー」はその優れた機能・構造から数
々の特許を取得いたしております。しかし,このたびパンチ工業㈱製「チェン
ジリテーナー」が特許を侵害していることが判明いたしましたので,今後パン
チ工業㈱製のチェンジリテーナーをご使用及びご購入なされないようお願い申
し上げます。尚,貴社にてパンチ工業㈱製チェンジリテーナーのご購入実績が
,,()。ございましたらお手数ですが品名数量購入価格単価をご連絡ください
貴社には一切迷惑はおかけしませんのでご協力のほどよろしくお願い致しま
す」。
(2)被告の告知内容の虚偽性について
そこで,次に,被告の告知した内容が虚偽かどうかを検討する。
原告製品が本件考案の構成要件A,B,D,E及びFを充足すること
は,当事者間に争いがない。そこで,原告製品が本件考案の構成要件Cを充足
するかどうかについて判断する。
本件考案の構成要件Cは「パンチ用嵌合孔1bの仮想中心軸とカム,
板3の移動方向によつて決まる仮想中立面に対し対称な位置に当る深溝横の溝
底に複数個のバネ用有底孔1c……1cを設け」というものである。,
ア本件明細書における「考案の詳細な説明」欄には,次のような記載
がある。
(ア)「産業上の利用分野]この考案は,連続的に送られて来る被[
加工物
を,順次プレス機械上に載せプレスするとき,孔をあけたり,あけ
なかったりするのに使用するプレス用パンチリテーナー装置に関するものであ
る(本件公報1欄24行∼2欄4行)。」
(イ)「従来の技術]鉄板に孔をあけるとき用いるプレス用パンチ[
9は,第7図及び第8図に示す如く,円柱部9bの上端に段部状の基部9aを
設け,更に基部9aに上向き傾斜面9cを設けた形状をしている。たとえば,
自動車のバックウインドウにオプション的にウインドシールドワイパーを取付
けることがある。つまり,同一の生産ライン上を流れる車体部品にリヤーウイ
ンドシールドワイパー取付用の孔をあけたりあけなかったりすることがある。
このような場合,プレスのラム14に取付けた上型のパンチがストローク分突
出したり,ストローク分引込んだりするようにする必要がある。このような場
合,第7図に示す如く,カム板3を前進させて特殊パンチ9を突出させたり,
第8図に示す如くカム板3を後退させて特殊パンチ9を引込ませたりしてい
る(本件公報2欄5行∼2欄22行)。」
(ウ)「考案が解決しようとする問題点]第7図及び第8図に示す[
従来のリテーナー装置では,パンチ9を突出させた状態で使用中,衝撃や振動
によってカム板3が後退し,誤作動し,不良品を出すことがあった。この考案
は,カム板が正確にプレス位置に保持され,緩衝によるパンチの誤動作を避け
ることが出来るようにしたプレス用のパンチリテーナー装置を提供しようとす
るものである。またこの考案に係る,パンチリテーナー装置は,市販されてい
るJIS規格の鍔付きパンチを利用して,カム板の使用を可能にしようとする
ものである(本件公報2欄23行∼3欄10行)。」
(エ)「問題点を解決するための手段]第1図乃至第5図を参考に[
して説明する。この考案に係るプレス用パンチのリテーナー装置は,カム板3
が前進したときはパンチ8がリテーナーブロック1の下面からストローク分突
出し,且つカム板3が後退したときはパンチ8がリテーナーブロック1内にス
トローク分引込む如く構成したプレス用のパンチリテーナー装置において,カ
ム板3及びパンチ8両移動方向と直方する方向の深横溝1aをリテーナーブロ
ック1の上面に凹設すると共に該深横溝1a中にプレス用嵌合孔1bを設け,
パンチ用嵌合孔1bの仮想中心軸とカム板3の移動方向によって決まる仮想中
立面に対し対称な位置に当る深横溝の溝底に紛数個(引用者注:複数個」の「
誤記と考えられる)のバネ用有底孔1c……1cを設け,圧縮バネ10を配。
して長方形状パンチセットブロック2を上下動のみ可能に深横溝1aに嵌合配
置し,該パンチセットブロック2に鍔付きパンチ8の段付孔2aを設け,下向
き斜面3a付カム板3に対応する傾斜面2cをパンチセットブロック2に設け
たものである(本件公報3欄11行∼3欄34行)。」
(オ)「作用]第2図に示す如く,エヤーシリンダー5を作動させ[
,,てピストン5aを後退させるとカム板3がパンチセットブロック2から外れ
圧縮バネ10によってパンチセットブロック2が上昇すると共にパンチ8が没
入する。この状態においては被加工物13は打抜きされない。第1図に示す如
く,エヤーシリンダー5を作動させてピストン5aを前進させると,カム板3
の下向き斜面3aがパンチセットブロック2の斜面2cに接触してパンチセッ
トブロック2を押下げると共に,パンチ8も押下げら(れ)る。この状態にお
。」()いて被加工物13への打抜き作業を行う本件公報4欄24行∼4欄36行
(カ)「考案の効果]本考案においては,第7図及び第8図に示す[
従来のリテーナー装置の如く,頂部に上向き傾斜面9cを設けたパンチ9の如
く,特殊なパンチを必要としないので,JIS規格の鍔付きパンチ8を利用す
ることが出来,パンチのコストを著しく低減させることが出来る。また,第4
図に示す如く段付孔2a及びパンチ用嵌合孔1bの数を増やすことによって,
複数個のパンチ8を同時セットすることも出来る(本件公報4欄37行∼5。」
欄2行)
イまた,本件考案の出願時(昭和61年8月18日)における公知技
術については,証拠(甲1,8∼13)及び弁論の全趣旨によれば,次の公知
技術が存在したことが認められる。
実願昭59−178636号(実開昭61−97325号)のマイ
クロフィルム(甲11。出願日:昭和59年11月27日,公開日:昭和61
年6月23日)には,実用新案登録請求の範囲として,次の内容のものが記載
されている。
「金型ホルダに取付けられたリテーナと,前記リテーナにその軸心方
向に摺動自在として保持され,基端面側に大径頭部を有するパンチと,前記パ
ンチの大径頭部背面側に対して進退動される移動バッキングプレートと,前記
パンチに嵌合され,前記大径頭部に係止されて該パンチに対して該大径頭部側
からの抜けが規制されたばね座用ワッシャと,それぞれ前記ばね座用ワッシャ
と前記リテーナとの間に介装され,互いに前記パンチの周回り方向に間隔をあ
けて配設されて,該パンチを前記金型ホルダへ向けて付勢する複数個のリター
ンスプリングと,を備えていることを特徴とするプレス金型」。
そして,同公報の「考案の詳細な説明」欄の[考案の構成]の項に
は「リターンスプリングとしては,パンチの周回り方向に間隔をあけて配設さ
(以下脱字)リターンスプリングによって構成してある。このような構成とす
ることにより,比較的小さなリターンスプリング例えば小径のコイルリターン
スプリングを用いた場合にあっても,大きなばね力が得られるため,移動バッ
キングプレートを退出位置としたときには,パンチを金型ホルダへ向けて確実
に変位させることができる」と記載されている。。
,,,,ウ上記アイによれば本件考案は従来のリテーナー装置において
パンチを突出させた状態で使用中,衝撃や振動によってカム板が後退し,誤作
動することがあったので,この課題を解決するため,カム板が正確にプレス位
置に保持され,緩衝によるパンチの誤動作を避けることができるようにし,併
せて,市販されているJIS規格の鍔付きパンチを利用してカム板の使用を可
能にしようとするものである。しかるに,本件考案の出願日において,同様の
課題を解決するために,リターンスプリングを周回り方向に間隔をあけて配置
する構成のプレス金型は,公開実用新案公報において公開されていた。
そうすると,課題解決のための本件考案の技術的特徴は,単にスプ
リングのための孔をパンチの周回り方向に配置するだけでなく,孔をパンチ孔
の仮想中立線とカム板の進行方向で構成される仮想中立面に対して対称な位置
に設けること,すなわち構成要件Cにあるというべきである。
,「」,そして構成要件Cにおける仮想中立面に対し対称とあるのは
「」,,字義どおり面に対して対称すなわち仮想中立面に対して面対称な位置に
同一形状のバネ用有底孔が設けられていることを意味するものである。
なぜなら,このように「パンチ用嵌合孔1bの仮想中心軸とカム板
3の移動方向によつて決まる仮想中立面」に対して面対称な位置に同一形状の
バネ用有底孔を設ければ,そこに収納されるバネも同一のものとなり,仮想中
立面の左右において,バネによる弾力が同一に存在することになる。そして,
「」[],本件明細書の考案の詳細な説明欄の作用の項に記載されているように
「エヤーシリンダー5を作動させてピストン5aを前進させると,カム板3の
下向き斜面3aがパンチセットブロック2の斜面2cに接触してパンチセット
ブロック2を押下げると共に,パンチ8も押下げら(れ)る(本件公報4欄」
31行∼35行及び第1図参照)ところ,上記のように仮想中立面の左右にお
いて同一にバネによる弾力が加えられていることから,カム板3の下向き斜面
3aがパンチセットブロック2の斜面2cに接触して,水平方向の力が垂直方
向の下向きの力に変換されてブロック8を押し下げる際に,左右均一に下向き
,,,の力が加えられることになりこれによりパンチ8が左右にぶれることなく
正確かつ安定的に押し下げられることになるのである。
原告製品についてこの点を見ると,原告製品においては,仮想中立
面の片側のバネ用孔⑨と面対称な位置にバネ・ボルト段付孔⑦が存在し,片側
のバネ・ボルト段付孔⑦と面対称な位置にバネ用孔⑨が存在するものであり,
バネ用孔⑨に収納されているバネは長さ30㎜,バネ・ボルト段付孔⑦に収納
されているバネは長さ15㎜であって,仮想中立面に面対称の位置に設けられ
た孔が同一の形状のものでない,すなわち正確には「面対称」でない(孔の深
さ・形状を含めて対称となっていない)結果,そこに収納されているバネの形
状も同一のものではなく,その形状上,仮想中立面の左右におけるバネによる
弾力が同一であることが保証されているものではない。そうすると,仮想中立
面に対称にバネ用有底孔を設けることにより,形状上,左右に加えられるバネ
の弾力を同一の強さとすることで,カム板とパンチブロックの接触による下向
きの力を正確かつ安定的にパンチに伝えるという本件考案の技術思想は,原告
製品においては見られないというべきである(バネの長さが違っても,材料の
弾性等を計算することにより左右に加えられるバネの弾力を同一の強さとする
ことは可能かもしれないが,それは「仮想中立面に対称」という形状のみで,
これを実現しようという本件考案の発想とは異なるものである。。)
上記によれば,原告製品は本件考案の構成要件Cを充足しないもの
である。
エ被告は,原告製品の深横溝の溝底には,パンチ孔の他に,4つの径
10mmの孔があるところ,その孔は,パンチ用嵌合孔の仮想中心軸とカム板の
移動方向によって決まる仮想中立面に,幾何学的にも対称な位置に設けられて
いるから,原告製品は,構成要件Cの文言を充足する,と主張する。
,,しかし原告製品におけるバネ用孔⑨とバネ・ボルト用段付孔⑦は
孔の径はいずれも10㎜で同一ではあるが,バネ用孔⑨は深さ約30㎜の底の
ある孔で長さ30㎜のバネが収納されており,バネ・ボルト段付孔⑦は底のな
い孔で約15㎜の深さの部分で段が設けられて径が細くなっており長さ15㎜
のバネが収納されているのであるから,両者を同一のバネ用有底孔ということ
はできない。したがって,バネ用孔⑨と面対称の位置にバネ・ボルト用段付孔
⑦が設けられているからといって「仮想中立面に対し対称な位置に‥‥‥複,
数個のバネ用有底孔が」設けられているということはできない。
なぜなら,このような場合はバネ用有底孔は面に対して「対称な位
置」に配置されているとは文言上いえないし,既に述べたとおり,本件考案が
解決すべき技術的課題が,従来のリテーナー装置において,パンチを突出させ
た状態で使用中,衝撃や振動によってカム板が後退し,誤作動することがあっ
たため,カム板が正確にプレス位置に保持され,緩衝によるパンチの誤動作を
避けることができるようにするところにあったことからすれば,カム板が進行
するに際してパンチセットブロックが左右にぶれることなく安定して上下動す
るような構成でなければならないというべきであり,したがって,パンチセッ
トブロックを上下動させるためのバネを収納する孔が違う形状のものであって
。,,はならないというべきだからであるつまり本件考案の上記の課題解決手段
その技術的特徴をみれば,構成要件Cは,単に「バネ用有底孔」に該当する2
つの孔が対称の位置にあれば足りるというべきではなく「バネ用有底孔」に,
当たる同一の形状の孔が面対称に設けられていることを要する,というべきで
ある。原告の主張は,採用できない。
,,,オ上記によれば原告製品は本件考案の技術的範囲に属しないから
その製造,販売及び使用は本件実用新案権を侵害するものではない。したがっ
て,被告が原告製品が本件考案の技術的範囲に属し,その製造,販売及び使用
が本件実用新案権を侵害する旨を告知したことは,被告が本件実用新案権の権
利者でないことについて触れるまでもなく,虚偽の内容の告知であり,被告の
行為は,不正競争防止法2条1項14号所定の不正競争行為に該当するという
べきである。
2被告の故意過失
上記のとおり,原告製品は本件考案の技術的範囲に属するものではない
ところ,被告は原告製品が本件考案の技術的範囲に属するものと軽信して,原
告製品の製造,販売及び使用が本件実用新案権を侵害する旨を告知したもので
あるから,被告には少なくとも過失があったものというべきである。
この点について,被告は,原告が被告補助参加人から警告を受けた当初
,,から原告製品が本件実用新案権を侵害することを前提とした対応をしており
原告製品が本件実用新案権を侵害していないとの主張を一切せず,自己の取引
先に対し自主的に原告製品の販売を中止する旨を通知したと主張し,このよう
に,平成10年12月の被告の行為の時点では,被告補助参加人と原告との間
で,原告製品が本件実用新案権を侵害することについての主張の対立はなく,
また,原告との間での損害賠償の交渉のための資料を得るために原告の取引先
に対して権利侵害という事情を説明して購入実績の開示を依頼することが必要
であったから,被告には過失がないと主張する。
そこで,被告が告知行為に至る経緯について認定するに,証拠(甲2,
乙1,2,3の1∼5)及び弁論の全趣旨によれば,次の事実が認められる。
(1)被告補助参加人は,平成10年9月1日付けで,原告に対し,原告
「」製品が被告補助参加人の有する本件実用新案権を侵害する旨記載した警告書
(乙1)を送付した。
(2)これに対し,原告は,同月17日付けで,被告補助参加人に対し,
回答書(乙2)をファクシミリ送信した。原告は,同回答書において「弊社と
致しましても警告書の内容について検討すると共に,貴社のご指摘の弊社商品
が貴社実用新案権を侵害しているのか現在事実関係を調査しております。…弊
社の調査の結果,貴社のご指摘の弊社商品が貴社実用新案権を侵害しているよ
うな場合には,弊社と致しましては速やかに最大限の誠意を持ちまして対処し
たいと考えております。…」と記載している。
,,,「」(3)原告は平成10年12月付けで取引先に対しお詫びと御案内
と題する書面(乙3の1∼5)を送付した。原告は,同書面において「弊社発行
の『'98プレス金型用標準部品,自動車型用カタログ』記載の製品のうち,
誠に勝手ながら別添のアイテム(原告製品)に付きましては,やむを得ない事
情により販売を中止と致しましたことを,先ずもってご案内申し上げます」。
と記載している。
(4)被告は,前記認定のとおり,平成10年12月,原告の取引先であ
る三菱自動車(岡崎製作所,富士重工業(群馬製作所)に対し,原告製品は)
被告の本件実用新案権等の権利を侵害するものなので,これを購入・使用しな
いように求めるとともに,過去の原告製品の購入実績を知らせるように求め,
その際,同趣旨の内容を含む「チェンジリテーナーご採用及びご購入について
のお願い」と題する書面(甲2)を交付した。
,,上記認定の事実によれば被告補助参加人からの警告書の送付に対して
原告は,被告補助参加人に対して原告製品が本件実用新案権を侵害するものか
どうかを調査中である旨を回答しているにとどまり,被告補助参加人の主張す
,,る実用新案権侵害の事実を自ら認める旨の回答は被告補助参加人に対しても
被告に対しても行っていない。原告が取引先に対して送付した上記の「お詫び
と御案内」と題する書面についても,文中において実用新案権侵害を自ら認め
る趣旨の記載はなく,実用新案権侵害の有無をめぐる被告補助参加人との紛争
に伴う混乱により取引先に迷惑をかけることを避けるために,自主的に原告製
品の販売を中止する旨が記載されているにとどまるものである。したがって,
上記認定の経緯をもって,被告補助参加人と原告との間で,原告製品が本件実
用新案権を侵害することについての主張の対立がなかったと認定することはで
いない。被告の主張は,採用できない。
3結論
以上によれば,被告が,原告の取引先である三菱自動車(岡崎製作所)
及び富士重工業(群馬製作所)に対して,原告製品が本件実用新案権を侵害す
る旨を告知した行為は,不正競争防止法2条1項14号所定の不正競争行為に
該当し,被告は,上記行為につき少なくとも過失があったものであるから,原
告に対し,同行為に基づく損害賠償義務を負うものというべきである。
そこで,本件においては,原告の損害賠償請求及び謝罪広告請求につい
て,これらの請求の内容等を最終的に確定するためには,なお,引き続き,争
点2(被告の不正競争行為により原告の被った損害額)及び争点3(謝罪広告
掲載の必要性)についての審理を行う必要がある。
よって,主文のとおり中間判決する。
東京地方裁判所民事第46部
裁判長裁判官三村量一
裁判官和久田道雄
裁判官田中孝一
(別紙)
物件目録
1チェンジリテーナ・エアシリンダータイプ
(丸形パンチ用・GCAR型,異形パンチ用・GCAF型)
2チェンジリテーナ・手動タイプ
(丸形パンチ用・GCMR型,異形パンチ用・GCMF型)

戻る



採用情報


弁護士 求人 採用
弁護士募集(経験者 司法修習生)
激動の時代に
今後の弁護士業界はどうなっていくのでしょうか。 もはや、東京では弁護士が過剰であり、すでに仕事がない弁護士が多数います。
ベテランで優秀な弁護士も、営業が苦手な先生は食べていけない、そういう時代が既に到来しています。
「コツコツ真面目に仕事をすれば、お客が来る。」といった考え方は残念ながら通用しません。
仕事がない弁護士は無力です。
弁護士は仕事がなければ経験もできず、能力も発揮できないからです。
ではどうしたらよいのでしょうか。
答えは、弁護士業もサービス業であるという原点に立ち返ることです。
我々は、クライアントの信頼に応えることが最重要と考え、そのために努力していきたいと思います。 弁護士数の増加、市民のニーズの多様化に応えるべく、従来の法律事務所と違ったアプローチを模索しております。
今まで培ったノウハウを共有し、さらなる発展をともに目指したいと思います。
興味がおありの弁護士の方、司法修習生の方、お気軽にご連絡下さい。 事務所を見学頂き、ゆっくりお話ししましょう。

応募資格
司法修習生
すでに経験を有する弁護士
なお、地方での勤務を希望する先生も歓迎します。
また、勤務弁護士ではなく、経費共同も可能です。

学歴、年齢、性別、成績等で評価はしません。
従いまして、司法試験での成績、司法研修所での成績等の書類は不要です。

詳細は、面談の上、決定させてください。

独立支援
独立を考えている弁護士を支援します。
条件は以下のとおりです。
お気軽にお問い合わせ下さい。
◎1年目の経費無料(場所代、コピー代、ファックス代等)
◎秘書等の支援可能
◎事務所の名称は自由に選択可能
◎業務に関する質問等可能
◎事務所事件の共同受任可

応募方法
メールまたはお電話でご連絡ください。
残り応募人数(2019年5月1日現在)
採用は2名
独立支援は3名

連絡先
〒108-0023 東京都港区芝浦4-16-23アクアシティ芝浦9階
ITJ法律事務所 採用担当宛
email:[email protected]

71期修習生 72期修習生 求人
修習生の事務所訪問歓迎しております。

ITJではアルバイトを募集しております。
職種 事務職
時給 当社規定による
勤務地 〒108-0023 東京都港区芝浦4-16-23アクアシティ芝浦9階
その他 明るく楽しい職場です。
シフトは週40時間以上
ロースクール生歓迎
経験不問です。

応募方法
写真付きの履歴書を以下の住所までお送り下さい。
履歴書の返送はいたしませんのであしからずご了承下さい。
〒108-0023 東京都港区芝浦4-16-23アクアシティ芝浦9階
ITJ法律事務所
[email protected]
採用担当宛