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平成21年2月26日判決言渡
平成20年(行ケ)第10236号審決取消請求事件
口頭弁論終結日平成21年2月19日
判決
原告ゼロックスコーポレイション
訴訟代理人弁理士中島淳
同加藤和詳
同山本隆雄
同設楽修一
被告特許庁長官
指定代理人西村直史
同服部秀男
同岩崎伸二
同酒井福造
主文
1原告の請求を棄却する。
2訴訟費用は原告の負担とする。
3この判決に対する上告及び上告受理申立てのための付加期間を30
日と定める。
事実及び理由
第1請求
特許庁が不服2006−1066号事件について平成20年2月12日にし
た審決を取り消す。
第2事案の概要
,「」1本件は原告が名称をアクティブマトリックス液晶ディスプレイデバイス
とする後記発明につき特許出願をしたところ,拒絶査定を受けたので,これを
不服として審判請求をしたが,特許庁が請求不成立の審決をしたことから,そ
の取消しを求めた事案である。
2争点は,原告の後記発明(本願発明)が下記引用例に記載された発明との関
係で進歩性(特許法29条2項)を有するか,である。

・引用例:特開昭62−223727号公報(発明の名称「液晶パネル,出」
願人セイコーエプソン株式会社,公開日昭和62年10月1日。以
下「刊行物1」といい,同記載の発明を「引用発明」という。甲3)
第3当事者の主張
1請求の原因
(1)特許庁における手続の経緯
,()(),原告は平成7年1995年5月31日の優先権米国を主張して
平成8年5月23日,名称を「アクティブマトリックス液晶ディスプレイデ
バイス」とする発明につき特許出願(特願平8−127583号。請求項の
数1。以下「本願」という。公開特許公報〔特開平8−328040〕は甲
),,(。。1をしその後平成17年9月21日付け第1次補正請求項の数1
甲2)で特許請求の範囲の変更を内容とする補正をしたが,拒絶査定を受け
たので,不服の審判請求をした。
同請求は不服2006−1066号事件として審理され,その中で原告は
平成18年2月10日付けで特許請求の範囲の変更を内容とする補正(第2
次補正。請求項の数7。以下「本件補正」という。甲6)をしたが,特許庁
は,平成20年2月12日,本件補正を却下した上「本件審判の請求は,,
成り立たない」との審決(出訴期間として90日附加)をし,その謄本は平
成20年2月26日原告に送達された。
(2)発明の内容
平成17年9月21日付け第1次補正に係る特許請求の範囲は,前記のと
,(「」。)おり請求項1から成るがそこに記載された発明以下本願発明という
は,次のとおりである。なお,審決において第2次補正は却下されたが,原
告は本訴においてそれを争っていないので,同補正後の発明の記載は省略す
る。
「請求項1】【
基板を覆って形成された複数のゲートラインと,
前記基板を覆って形成された複数のデータラインと,
前記基板を覆って形成された複数の画素電極と,
を備え,前記複数の画素電極の各々の周縁部は,少なくとも前記ゲートラ
インの一部及び前記データラインの一部にオーバーラップしており,
さらに,前記ゲートラインを覆って形成された複数のトランジスタを備
え,前記ゲートラインの各々が複数のセグメントを有し,各ゲートライン
の前記複数のセグメントの各々が前記複数のトランジスタのうちの1つの
トランジスタのゲート電極であることを特徴とするアクティブマトリック
ス液晶ディスプレイデバイス」。
(3)審決の内容
ア審決の詳細は,別添審決写しのとおりである。
その理由の要点は,①本件補正は,請求項の削除,特許請求の範囲の減
縮,誤記の訂正,明りょうでない記載の釈明のいずれにも該当しないから
却下すべきである,②本願発明は,前記引用発明及び周知技術(その一つ
として「刊行物2:特開平7−66419号公報〔発明の名称「液晶表,」
示装置,出願人京セラ株式会社,公開日平成7年3月10日,甲4〕」
を引用)に基づいて当業者が容易に発明をすることができたから特許法2
9条2項により特許を受けることができない,というものである。
イなお審決は,引用発明の内容,本願発明と引用発明との一致点及び相違
点を,次のとおりとした。
〈引用発明の内容〉
「絶縁基板上にゲート電極配線2を行った後,その上に層間絶縁膜,さ
らにソース線3を形成し,前記ゲート電極配線2及び前記ソース線3が
格子状に形成され,その交点にトランジスタを形成したアクティブマト
リクス基板の上に複数の画素電極4を形成し,前記複数の画素電極4の
各々の周縁部は,前記ゲート電極配線2の一部及び前記ソース線3の一
部にオーバーラップしてなる液晶パネル」。
〈一致点〉
本願発明と引用発明とは,
「基板を覆って形成された複数のゲートラインと,
前記基板を覆って形成された複数のデータラインと,
前記基板を覆って形成された複数の画素電極と,
を備え,前記複数の画素電極の各々の周縁部は,少なくとも前記ゲート
ラインの一部及び前記データラインの一部にオーバーラップしており,
さらに,複数のトランジスタを備えていることを特徴とするアクティ
ブマトリックス液晶ディスプレイデバイス」。
である点で一致する。
〈相違点〉
本願発明は,ゲートラインを覆って形成された複数のトランジスタを
備え,前記ゲートラインの各々が複数のセグメントを有し,各ゲートラ
インの前記複数のセグメントの各々が前記複数のトランジスタのうちの
1つのトランジスタのゲート電極であるのに対して,引用発明のトラン
ジスタはこのような構成を有しない点。
(4)審決の取消事由
しかしながら,審決には以下のとおりの誤りがあるから,審決は違法とし
て取り消されるべきである。
ア取消事由1(刊行物2記載発明の認定誤り)
(ア)薄膜トランジスタは,ゲート電極,ソース電極及びドレイン電極の
3つの電極を備えており,これらの電極と兼用される部位又はこれらの
電極に接続される部位が重要である。
この点,審決が周知例として挙げた前記特開平7−66419号公報
(刊行物2,甲4)には,画像信号配線兼薄膜トランジスタのソース電
極及び画素電極兼薄膜トランジスタのドレイン電極が最上層に形成さ
れ,薄膜トランジスタのソース電極が画像信号配線と兼用で,かつドレ
イン電極が画素電極と兼用であることが記載されており甲4・段落0(【
009,図8,図9参照,そのソース電極及びドレイン電極は,単な】)
るソース電極及びドレイン電極ではなく「画像信号配線兼薄膜トラン,
ジスタのソース電極及び画素電極兼薄膜トランジスタのドレイン電極」
である。
他方,刊行物1(甲3,引用発明)に記載された液晶パネルは,複数
の画素電極が最上層に形成されている。
このように,両装置の構成は全く異なるにもかかわらず,審決はその
構成の相違を何ら考慮することなく,画像信号配線及び画素電極を無視
して刊行物2に記載された発明を認定し,これを前提に判断した点に誤
りがある。
(イ)審決は,周知技術の例として,乙1公報(特開平6−332010
号公報)及び乙2公報(特開平5−119350号公報)を挙げるとこ
,,,,ろ乙1公報に記載の技術は既成のゲート電極配線2ソース配線8
ソース電極8’及びドレイン電極9’をマスクとする自己整合方式によ
り絵素電極9を形成する技術であり(段落【0036,この方式では】)
絵素電極9を形成する際にゲート電極配線2がマスクとして使用される
ため,絵素電極9とゲート電極配線2とをオーバラップさせることがで
きない。
このように,乙1公報に記載の技術は,本願発明のように「前記複数
の画素電極の各々の周縁部は,少なくとも前記ゲートラインの一部及び
前記データラインの一部にオーバラップ」している技術に適用すること
ができない技術であるから,容易想到性を判断する際の周知技術の例示
として挙げるのは適切ではない。
そうすると,審決には周知技術の例として刊行物2及び乙2公報のわ
ずか二つしか挙げられていないこととなり,これをもって周知技術とい
うことはできない。
イ取消事由2(本願発明の進歩性判断の誤り)
審決は,刊行物2(甲4)を周知技術といいながら,実質的に刊行物1
を主引例,刊行物2を副引例として取り扱っているところ,刊行物1に記
載された液晶パネルは,ゲート電極配線2(タイミング線2)及びソース
線3(データ線3)を格子状に形成し,その交点にトランジスタを形成し
てアクティブマトリックス基板とし,このマトリックス基板上に画素電極
4を形成するものである。刊行物1に記載されたマトリックス基板の最上
層には,画素電極4が形成されており,ソース線3(データ線3)は画素
電極4の下層に形成されている。一方,刊行物2に記載された液晶表示装
置は,画像信号配線(刊行物1のソース線3(データ線3)に相当する)
及び画素電極(刊行物1の画素電極4に相当する)を同時に形成する液晶
表示装置であるため,刊行物2に記載された液晶表示装置の最上層には,
画像信号配線及び画素電極が形成されている。すなわち,刊行物1に記載
された液晶パネルと刊行物2に記載された液晶表示装置とは,製造手順も
層構成も異なるものである。
また,刊行物2に記載された最上層に画像信号配線及び画素電極が形成
された液晶表示装置は,刊行物1の従来技術において,画像信号配線と画
素電極との間に形成された間隙のため,画素電極の占有率が低下し,この
ために液晶パネルのコントラスト比が低下したり,透過率が低下したりす
るという問題点を有することから,刊行物1に記載された発明では採用す
ることが否定されている。
このように,刊行物1に記載された発明に刊行物2に記載された周知技
術を組み合わせることに関して阻害要因があるから,刊行物1に記載され
た発明の液晶パネルに刊行物2に記載された液晶表示装置を組み合わせる
ことはできず,刊行物1に記載された発明の液晶パネルのトランジスタに
代えて従来周知の薄膜トランジスタの技術を適用することについては格別
の困難性がある。
したがって,本願発明は刊行物1に記載された発明及び従来周知の技術
に基づいて当業者が容易に発明をすることができたものではない。
なお,被告は本件訴訟になって周知技術の例として乙3公報(特開平6
−160900号公報)を追加するが,乙3公報については審査及び審判
において何ら反論の機会が与えられていないから,これを周知技術の例示
として挙げるのは不適切である。
2請求原因に対する認否
請求原因(1)ないし(3)の各事実はいずれも認めるが,同(4)は争う。
3被告の反論
審決の認定判断は正当であり,原告主張の取消事由はいずれも理由がない。
(1)取消事由1に対し
ア原告は,刊行物2には「画像信号配線兼薄膜トランジスタのソース電極
及び画素電極兼薄膜トランジスタのドレイン電極」である液晶表示装置に
ついての発明が記載されているとして,審決がその構成の相違を考慮する
ことなく刊行物2記載の発明を認定したことが誤りである旨主張する。
しかし,審決は「…ゲートラインを覆って形成された複数のトランジ,
スタを備え,ゲート電極を形成するためにゲートラインから延出する付加
的構造を有しないでゲートライン自体を複数のトランジスタのゲート電極
として用いること(7頁13行∼16行)を「この種アクティブマトリ」
クス型液晶表示装置において従来周知の技術(周知技術)とし,上記周」
知技術の一例として刊行物2の記載事項を摘記しているところであって,
刊行物2に記載された発明を認定しているのではない。
したがって,原告の上記主張は,刊行物2に記載された液晶表示装置と
刊行物1に記載された発明(引用発明)の構成にのみ基づき,審決が行っ
ていない発明の認定に対してその誤りを主張するものであり,審決を正解
しないものである。
イまた,原告は,審決が,アクティブマトリックス型液晶表示装置におい
て「…ゲートラインを覆って形成された複数のトランジスタを備え,ゲ,
ート電極を形成するためにゲートラインから延出する付加的構造を有しな
いでゲートライン自体を複数のトランジスタのゲート電極として用いるこ
と(7頁13行∼16行)が周知技術であると認定したことが誤りであ」
る旨主張するが,以下のとおり審決の認定に誤りはない。
(ア)刊行物2に記載された技術事項
審決は刊行物2の記載に関して刊行物2の段落0009の画,,【】「
像信号配線兼薄膜トランジスタのソース電極25」及び「画素電極兼薄
膜トランジスタのドレイン電極26」の記載を踏まえて,刊行物2の図
6,図9及び図10に記載された技術事項を読み取っており,これらの
図面において「画像信号配線兼薄膜トランジスタのソース電極25」,
及び「画素電極兼薄膜トランジスタのドレイン電極26」における半導
体層27上のそれぞれの領域が,それぞれ薄膜トランジスタの「ソース
電極「ドレイン電極」に相当することは技術上明らかである。」,
以上を踏まえれば,刊行物2から,液晶表示装置において「薄膜ト,
ランジスタは,走査信号配線上に形成され,ゲート電極を形成するため
に走査信号配線から延出する付加的構造を有しないで,走査信号配線の
一区分を薄膜トランジスタのゲート電極と」する技術事項を読み取るこ
とができる。
(イ)乙1公報に記載された技術事項
(。審決が周知例として挙げた乙1公報特開平6−332010号公報
「」,,発明の名称表示基板およびその製造方法出願人シャープ株式会社
公開日平成6年12月2日)には,表示基板において「薄膜トラン。,
ジスタはゲート電極配線12上に形成され,ゲート電極配線12はゲー
ト電極を形成するためにゲート電極配線12から延出する付加的構造を
有さず,ゲート電極配線12の一区分が薄膜トランジスタのゲート電極
とされ」る旨の技術事項が記載されている(段落【0002】∼【00
04,図6,図7。】)
(ウ)乙2公報に記載された技術事項
(。審決が周知例として挙げた乙2公報特開平5−119350号公報
発明の名称「液晶表示装置,出願人シャープ株式会社,公開日平成」
5年5月18日)には,液晶表示装置において「TFT25は走査電。,
極線12上に形成され,走査電極線12はゲート電極を形成するために
前記走査電極線12から延出する付加的構造を有さず,走査電極線12
の一区分がTFT25のゲート電極とされ」る旨の技術事項が記載され
ている(段落【0049】∼【0053,図1,図6。】)
(エ)乙3公報に記載された技術事項
審決が周知例として挙げたもののほか,乙3公報(特開平6−160
。「」,,900号公報発明の名称液晶表示装置出願人三洋電機株式会社
公開日平成6年6月7日)には,液晶表示装置において「トランジ。,
スタは,ゲートライン11上に形成され,ゲートライン11は,ゲート
を形成するためにゲートライン11から延出する付加的構造を有しない
で,ゲートライン11の一区分がトランジスタのゲートとされ」る旨の
技術事項が記載されている(請求項2,図1,図2。【】)
(オ)以上によれば,刊行物2(甲4)及び乙1公報∼乙3公報には,審
決が周知技術として認定した「ゲートラインを覆って形成された複数,
のトランジスタを備え,ゲート電極を形成するためにゲートラインから
延出する付加的構造を有しないでゲートライン自体を複数のトランジス
タのゲート電極として用いること」が記載されているといえるから,そ
の周知技術の認定に誤りはない。
(2)取消事由2に対し
ア原告は,刊行物1に記載された発明に刊行物2に記載された液晶表示装
置の薄膜トランジスタを適用する際に阻害要因があると主張するが,上記
(1)のとおり,審決は周知技術の一例として刊行物2,乙1公報,乙2公
報を挙げているのであって,刊行物1に記載された発明に刊行物2に記載
された液晶表示装置を適用することによって,進歩性の判断を行っている
のではない。
したがって,原告の上記主張は審決が行っていない判断の誤りを主張す
るものであるので,失当である。
イまた,上記(1)イのとおり,審決が認定した周知技術に誤りはなく,こ
れによれば,乙1公報∼乙3公報に記載された液晶表示装置においては,
いずれも画素電極はドレイン電極又はソース電極に接続されるものであっ
て,画素電極とトランジスタのドレイン電極またはソース電極と兼用され
ていないものであるといえ,また,乙2公報及び乙3公報に記載された表
,。示装置は画像信号線の上層に画素電極が形成されるものであるといえる
そうすると,審決が周知技術として認定した「ゲートラインを覆って形
成された複数のトランジスタを備え,ゲート電極を形成するためにゲート
ラインから延出する付加的構造を有しないでゲートライン自体を複数のト
ランジスタのゲート電極として用いること」は,原告が主張するように,
「ドレイン電極が画素電極と兼用されているもの」や「最上層に画像信号
配線と画素電極が形成されているもの」に限られたものではなく,薄膜ト
ランジスタを備えた表示装置において,広く採用されている周知技術とい
えるものである。
したがって,引用発明に上記周知技術を適用することに何ら妨げはない
,,。から原告主張には理由がなく審決における進歩性の判断に誤りはない
第4当裁判所の判断
1請求原因(1)(特許庁における手続の経緯,(2)(発明の内容,(3)(審決))
の内容)の各事実は,いずれも当事者間に争いがない。
2本願発明の意義
(1)本願の第1次補正後の特許請求の範囲「請求項1(本願発明)は,前記」
第3,1(2)のとおりである。
(2)また本願明細書(公開公報,甲1)には,次の記載がある。
ア発明の属する技術分野
・「本発明は,アクティブマトリックス液晶ディスプレイデバイスに関し,特に,
画素電極をゲートラインおよびデータラインにオーバーラップし,5マスクディス
プレイアーキテクチャを使用してダークマトリックスを一体形成したアクティブマ
トリックス液晶ディスプレイデバイスに関する(段落【0001)。」】
イ従来の技術及び発明が解決しようとする課題
・「アクティブマトリックス液晶ディスプレイ(AMLCD)は,画素電極の駆動
に薄膜トランジスタ(TFT)を使用することによって,表示品質を向上させる。
AMLCDは,ラップトップコンピュータなど多様な製品の表示部に使用されてお
り,その製造プロセスを簡略にして生産歩留りを向上することに多大な関心がもた
れている。これが達成されると,製品の信頼性の向上とともに,製造コストの低減
が実現される(段落【0002)。」】
・「AMLCDの画素電極は,通常,透明な導電性物質であるインジウムスズ酸化
物(ITO)の層を有する。最近のAMLCDでは,ITO層の上に,パッシベー
ション層を形成している。パッシベーション層の上に液晶材料を配置し,液晶材料
の上に共通電極を形成してAMLCDは完成する(段落【0003)。」】
・「通常,AMLCDは透明基板の表面上に形成される。AMLCDの画素は,平
行な複数のゲートラインと,平行な複数のデータラインとで決定される。ゲートラ
インとデータラインは互いに垂直であり,基板表面上に画素領域のマトリックスを
形成する。各画素領域ごとに画素電極が形成され,それぞれ対応のTFTに接続さ
れる(段落【0004)。」】
・「画素電極は導電性であり,かつデータラインとほぼ同一の水平レベルに形成さ
れるので,画素電極とデータラインとの間に間隔を設けて,画素電極がデータライ
。,,ンに接触しないようにする常態で透明な液晶材料では画素電極が駆動されると
,。画素電極とデータラインとの間の間隙から光が逃げディスプレイ品質が低下する
一方,常態で不透明の液晶材料では,画素電極とデータラインの隙間の上方に位置
する部分の液晶材料は,画素電極の駆動と無関係に,常に不透明である。しかし,
多数の画素電極によってデータラインが共有されるため,これら信号ラインに加わ
る電位によって,信号ライン上の液晶材料の状態が不透明から透明に変わり,これ
ら透明に変化した部分を通って光が逃げる。従って,液晶材料の通常状態が透明で
あっても不透明であっても,画素電極とデータラインとの間隙から光が逃げ,好ま
しくない。これを回避するために,従来のAMLCD装置は,共通電極上にダー
クマトリックスを設けて,画素電極とデータラインとの間隙から漏れる光を遮断し
ていた。このようなダークマトリックスは,許容範囲内の表示品質を得るために,
。」(【】)間隙と約5ミクロンでオーバーラップするように構成される段落0006
・「ITO層をパッシベーション層の上に配置すると,光の逃げ道となる間隙部分
が大きくなる。画素電極とデータラインとを隔てる垂直距離は,パッシベーション
層が厚くなるほど増加する。ディスプレイ品質を維持するには,共通電極上のダー
クマトリックス領域を増加させなければならない。しかし,ダークマトリックス領
域を増加させると,実行画素領域が狭められることになり,ディスプレイ品質の低
下につながる(段落【0008)。」】
ウ課題を解決するための手段
・「本発明の目的は,複数のゲートライン及びデータラインを基板にわたって形成
し,画素電極の各々の周縁部がゲートラインの一部とデータラインの一部の少なく
とも一方にオーバーラップするよう複数の画素電極をゲート及びデータライン上に
形成することによってダークマトリックスを形成することである(段落【000。」
9)】
・「画素電極は,ゲートライン上に第1の間隔をおき,データライン上に第2の間
隔をおいて形成される。画素電極は,ゲートライン上に第1の距離の少なくとも2
倍の距離でオーバーラップし,データライン上に第2の距離の少なくとも2倍の距
離でオーバーラップして60°を越える漏れ光の可視角度を達成する段落0,。」(【
010)】
・「本発明の他の目的は,画素電極をゲートラインおよびデータラインにオーバー
ラップさせることによってダークマトリックスを形成する方法を提供することであ
る(段落【0011)。」】
エ発明の効果
・「本発明の液晶ディスプレイデバイスでは,画素電極をデータラインおよびゲー
トライン上にオーバーラップするように形成することによってダークマトリックス
を一体形成し,画素電極間の間隙からの光漏れを防止し,十分な漏れ光可視角度を
達成して,表示品質を向上させる。また,ダークマトリックスを,画素電極の形成
と共に一体形成するので,製造プロセスの簡略化を計ることができ,信頼性,生産
性ともに改善された液晶ディスプレイデバイスの製造が提供される(段落【00。」
38)】
(3)以上によれば,本願発明は,アクティブマトリックス液晶ディスプレイ
デバイスに関するものである。従来技術においては,画素電極が導電性であ
り,かつデータラインとほぼ同一の水平レベルに形成されるので,画素電極
とデータラインとの間に間隔を設けて,画素電極がデータラインに接触しな
いように形成されることになるが,その結果,画素電極とデータラインとの
間隙から光が逃げ,ディスプレイ品質が低下する等の課題があった。そこで
,,本願発明は複数のゲートライン及びデータラインを基板にわたって形成し
画素電極の各々の周縁部がゲートラインの一部とデータラインの一部の少な
くとも一方にオーバーラップするよう複数の画素電極をゲート及びデータラ
イン上に形成することによってダークマトリックスを一体形成するといった
請求項1記載の構成を採用し,もって,画素電極間の間隙からの光漏れを防
止し,十分な漏れ光可視角度を達成して,表示品質を向上させるとともに,
ダークマトリックスを画素電極の形成と一体形成することで製造プロセスの
簡略化を計ることができ,信頼性,生産性ともに改善された液晶ディスプレ
イデバイスを提供するものである。
3周知技術の意義
原告は,審決の周知技術の認定が誤りである旨主張するので,取消事由の検
討に先立ち,この点について検討する。
(1)刊行物2
ア刊行物2(甲4)には,次の記載がある。
・「0009】開口率を上げるために,図6に示すように,薄膜トランジスタ【
16を走査信号配線上に形成することが考えられる。薄膜トランジスタ16を
走査信号配線13上に形成した場合の薄膜トランジスタ16周辺部の拡大図を
図7に,また図7のA−A’断面図を図8に示す。さらに,他の例を図9に,
’。,,また図9のA−A断面図を図10に示す図7ないし図10において17
24は走査信号配線兼薄膜トランジスタのゲート電極,18,25は画像信号
配線兼薄膜トランジスタのソース電極,19,26は画素電極兼薄膜トランジ
スタのドレイン電極,20,27は薄膜トランジスタの半導体層,21,28
は絶縁層,22,29はガラス基板,23,30は薄膜トランジスタのチャネ
ル部である」。
・図面
【図6】【図9】
【図10】
イ上記図10の断面図からは,ガラス基板29上に走査信号配線兼薄膜ト
ランジスタのゲート電極24が形成され,その上に絶縁層28を介して薄
膜トランジスタの半導体層27が設けられており,さらに,当該半導体層
27上に画像信号配線兼薄膜トランジスタのソース電極25及び画素電極
兼薄膜トランジスタのドレイン電極26が,チャネル部30を挟んで接続
されていることが認められる。
また,図6及び図9からは,各画素に対応する薄膜トランジスタ16は
走査信号配線13上に形成されており,走査信号配線兼薄膜トランジスタ
のゲート電極24は平面視で一定幅の直線構造をしているから,ゲート電
極を形成するために走査信号配線13から延出する付加的構造を有しない
で,走査信号配線の1区分を薄膜トランジスタのゲート電極としているこ
とが認められる。
そうすると,刊行物2には,次の技術事項が記載されていると認められ
る。
「各画素に対応する薄膜トランジスタを備えたアクティブマトリックス
方式の液晶表示装置において,
前記薄膜トランジスタ16は,走査信号配線13上に形成され,
走査信号配線兼薄膜トランジスタのゲート電極24は,ゲート電極を
形成するために走査信号配線から延出する付加的構造を有しないで,走
査信号配線の一区分が薄膜トランジスタのゲート電極として用いられて
おり,
走査信号配線兼薄膜トランジスタのゲート電極24の上に絶縁層28
を介して薄膜トランジスタの半導体層27が形成され,該半導体層27
上に画像信号配線兼薄膜トランジスタのソース電極25及び画素電極兼
薄膜トランジスタのドレイン電極26がチャネル部30を挟んで接続さ
れていること」。
ウそして,走査信号配線兼薄膜トランジスタのゲート電極24はゲートラ
インに相当するから,薄膜トランジスタ16はゲートラインを覆って形成
されているといえ,また,走査信号配線の1区分が薄膜トランジスタのゲ
ート電極として用いられることは,ゲートライン自体を複数のトランジス
タのゲート電極として用いることに相当するから,刊行物2の「ソース電
極」が画像信号配線と兼用であり,かつ「ドレイン電極」が画素電極と,
兼用であることを前提としても,刊行物2には「ゲートラインを覆って,
形成された複数のトランジスタを備え,ゲート電極を形成するためにゲー
トラインから延出する付加的構造を有しないでゲートライン自体を複数の
トランジスタのゲート電極として用いること」との構成が開示されている
ということができる。
(2)乙1公報
ア審決が周知技術の例として挙げた特開平6−332010号公報(乙1
公報)には,次の記載がある。
・「0002】【
【従来の技術】逆スタガー型の薄膜トランジスタ(以下,TFTと略称する)を
アドレス素子として有するアクティブマトリクス型表示基板の従来例を図6および
図7に示す。図6はこの表示基板を構成するベース基板11の一絵素部を示す。こ
のベース基板11上には,互いに平行に配設されるゲート電極配線12と,このゲ
ート電極配線12に直交し,互いに平行に配設されるソース配線18とが形成され
ている」。
・「0003】図6に示すように,隣接するゲート電極配線12とソース配線1【
8とが囲む領域のそれぞれがこの表示基板の一絵素部に対応し,各領域のほぼ全域
を埋める形で絵素電極19が形成されている」。
・「0004】また,図7は図6の線X−Yによる断面を示す。ベース基板11【
上にはゲート電極配線12が形成され,このゲート電極配線12の上面および両側
面の表層に第1のゲート絶縁膜13が形成されている。この第1のゲート絶縁膜1
3が形成されたゲート電極配線12を覆って,ベース基板11の全表面に第2のゲ
ート絶縁膜14が形成されている。第2のゲート絶縁膜14上であって,ゲート電
極配線12に交差する位置の所定の領域にa−Siから成る半導体膜15が形成さ
れている。この半導体膜15上面の中央部にはチャネル層16が形成され半導体膜
15をその表面に沿う方向で二つの領域に分断している。この半導体膜15がチャ
ネル層16で分断された両側部のそれぞれにはオーミック接触用のコンタクト膜1
7が形成されている。このコンタクト膜17はn−aSiから成る。両コンタク++
ト膜17,17の一方に重畳してソース電極18’が形成され,他方にはドレイン
’。’,電極19が形成されているこのドレイン電極19はコンタクト膜17を覆い
チャネル層16と反対側の端部は第1のゲート絶縁膜13上に達し,この第1のゲ
ート絶縁膜13上に沿って少し延伸したところにその端部を成す。このドレイン電
極19’の端部には第2のゲート絶縁膜14上に形成された絵素電極19の端部が
重畳している。これらすべての基板要素を覆って,ベース基板11の表面全面に保
護膜20が積層形成されている」。
・【図6】【図7】
イ上記記載からすると,各絵素部に対応する薄膜トランジスタの構成要素
はゲート電極配線12上に形成されているから,薄膜トランジスタはゲー
ト電極配線12を覆って形成されていることが認められる。そして,図6
によれば,ゲート電極配線12は平面視で一定幅の直線構造をしており,
また,図7によれば,半導体層15のうちチャネル層16で覆われた部分
(ソース電極18’とドレイン電極19’に挟まれた領域)はすべてゲー
ト電極配線12上に配置され,ゲート電極配線12の1区分が薄膜トラン
ジスタのゲート電極とされており,これによれば,ゲート電極配線12は
ゲート電極を形成するためにゲート電極配線12から延出する付加的構造
を有しないで,ゲート電極配線12自体が薄膜トランジスタのゲート電極
となっていると認められる。また,図7によれば,ゲート電極配線12の
上層にソース電極18’及びドレイン電極19’が形成されるとともに,
ドレイン電極19’の端部には第2のゲート絶縁膜14上に形成された絵
素電極19の端部が重畳していることが認められる。
,。そうすると乙1公報には次の技術事項が記載されていると認められる
「複数の薄膜トランジスタを備えた表示基板において,
複数の薄膜トランジスタはゲート電極配線12を覆って形成され,
ゲート電極配線12はゲート電極を形成するためにゲート電極配線1
2から延出する付加的構造を有しないで,ゲート電極配線12自体が複
数の薄膜トランジスタのゲート電極として用いられており,
’’ゲート電極配線12の上層にソース電極18及びドレイン電極19
が形成され,ドレイン電極19’の端部には第2のゲート絶縁膜14上
に形成された絵素電極19の端部が重畳されていること」。
ウそして,ゲート電極配線12はゲートラインに相当するから,乙1公報
には「ゲートラインを覆って形成された複数のトランジスタを備え,ゲ,
ート電極を形成するためにゲートラインから延出する付加的構造を有しな
いでゲートライン自体を複数のトランジスタのゲート電極として用いるこ
と」との構成が開示されているということができる。
(3)乙2公報
ア審決が周知技術の例として挙げた特開平5−119350号公報(乙2
公報)には,次の記載がある。
・「0044】次いで,図6…に示すように,ITO膜をスパッタリング法によ【
り成膜し,画素電極19としてパターン化する。このとき,画素電極19は信号電極
線16及び走査電極線12上にオーバラップするように形成する。即ち,走査電極線
12及び信号電極線16の各々の少なくとも端部が,画素電極19によって層間絶縁
層17を介して被覆されるように画素電極19を形成する。その後,窒化シリコン膜
を画面全体に形成し,パッシベーション膜20とする」。
「【】,,,・0049従ってこの実施例の液晶表示装置のTFT基板はガラス基板11
走査電極線12,窒化シリコン膜13,非ドープa−Si膜14,na−Si膜15,+
信号電極線16,層間絶縁層17,貫通孔18,画素電極19,パッシベーション膜20
及び遮光膜21を備えている」。
・「0050】画素電極19及びTFT25はガラス基板11上に,マトリクス状に【
複数設けられており,画素電極19は層間絶縁層17に設けられている貫通孔18を
介して,TFT25のドレイン電極に接続されている」。
・0051走査電極線12はTFT25を動作させ信号電極線16はTFT25「【】,
を介して画素電極19に電圧を印加するように構成されている」。
・「0052】TFT25は,非ドープa−Si膜14,na−Si膜15,並びに【+
信号電極線16から成るソース電極及びドレイン電極から構成されており,ゲート
絶縁膜である窒化シリコン膜13によって走査電極線12と絶縁されている」。
・0053画素電極19は信号電極線16及び走査電極線12上に層間絶縁層17「【】,
を介してオーバラップするように形成されている」。
・【図1】
【図6】
イ上記記載からすると,各画素に対応するTFT25の構成要素は,走査
電極線12上に形成されているから,TFT25は走査電極線12を覆っ
て形成されていることが認められる。また,段落【0044】及び図6の
平面図に加えて図1の断面図を参酌すれば,走査電極線12は平面視で一
定幅の直線構造をしており,非ドープa−Si膜14のうち信号電極線1
6から成るソース電極とドレイン電極に挟まれた領域はすべて走査電極線
12上に配置され,走査電極線12の1区分がTFT25のゲート電極と
されており,これによれば,走査電極線12はゲート電極を形成するため
に走査電極線12から延出する付加的構造を有しないで,走査電極線12
自体が複数のTFT25のゲート電極となっていることが認められる。さ
らに,図1及び図6によれば,画素電極19は,層間絶縁層17に設けら
れている貫通孔18を介してTFT25のドレイン電極に接続され,信号
電極線16及び走査電極線12上に層間絶縁層17を介してオーバラップ
するように形成されていることが認められる。
,。そうすると乙2公報には次の技術事項が記載されていると認められる
「複数のTFT25を備えた液晶表示装置において,
複数のTFT25は走査電極線12を覆って形成され,
走査電極線12はゲート電極を形成するために走査電極線12から延
出する付加的構造を有しないで,走査電極線12自体が複数のTFT2
5のゲート電極として用いられており,
走査電極線12の上層にソース電極及びドレイン電極が形成され,
画素電極19は,層間絶縁層17に設けられている貫通孔18を介し
て,TFT25のドレイン電極に接続され,信号電極線16及び走査電
極線12上に,層間絶縁層17を介してオーバラップするように形成さ
れていること」。
ウそして,走査電極配線12はゲートラインに相当するから,乙2公報に
は「ゲートラインを覆って形成された複数のトランジスタを備え,ゲー,
ト電極を形成するためにゲートラインから延出する付加的構造を有しない
でゲートライン自体を複数のトランジスタのゲート電極として用いるこ
と」との構成が開示されているということができる。
(4)乙3公報
ア以上のほか,特開平6−160900号公報(乙3公報)には,次の記
載がある。
・「請求項2】透明な絶縁性基板上に形成された複数本のゲートラインと,この【
ゲートラインを含む前記絶縁性基板全面に積層されたゲート絶縁膜と,前記ゲート
ラインと交差する方向に延在された複数本のドレインラインと,このドレインライ
ンと前記ゲートラインで囲まれた領域に設けられた表示電極と,この表示電極に信
号を与えるトランジスタとを少なくとも有する液晶表示装置に於て,
前記トランジスタのゲートは,前記ゲートラインで成り,前記トランジスタの半導
体層は,前記ゲートラインのゲートに対応する前記ゲート絶縁膜上に設けられ,こ
のトランジスタのソース電極,ドレイン電極およびドレインラインを含む全面に設
けられた層間絶縁膜を介して,実質的にドレインラインおよびゲートライン上にま
で表示電極を延在する事を特徴とした液晶表示装置」。
・「0019】本発明の特徴は,2つあり,1つは層間絶縁膜(23)であり,【
これによって表示電極(14)をドレインライン(21)およびゲートライン(1
1)の上に載置できる点である。2つ目は,トランジスタの形成位置であり,ゲー
,()。トライン上に形成しゲートはゲートライン11から突出されないことにある
また別言するとトランジスタの構成要素がゲートライン上に形成され,表示電極の
形成位置に制約を与えないことである」。
・【図1】【図2】
イ上記記載からすると,トランジスタの構成要素は,ゲートライン11上
に形成されているから,トランジスタはゲートライン11を覆って形成さ
れていると認められる。また,図1によれば,ゲートライン11は平面視
で一定幅の直線構造をしており,ゲートを形成するためにゲートライン1
1から突出されず,半導体層のうちソース電極22とドレイン電極20に
挟まれた領域はすべてゲートライン11上に配置され,ゲートライン11
の一区分がトランジスタのゲートとされて,ゲートライン11自体がトラ
。,,ンジスタのゲートとなっていることが認められるさらに図2によれば
表示電極14は,層間絶縁膜23に設けられている孔Cを介してソース電
極22に接続され,ゲートライン11及びドレインライン21上にまで層
間絶縁膜23を介して延在するように形成されていることが認められる。
,。そうすると乙3公報には次の技術事項が記載されていると認められる
「複数のトランジスタを備えた液晶表示装置において,
複数のトランジスタは,ゲートライン11を覆って形成され,
ゲートライン11は,ゲートを形成するためにゲートライン11から
延出する付加的構造を有しないで,ゲートライン11自体が複数のトラ
ンジスタのゲートとして用いられており,
ゲートライン11の上層にソース電極22及びドレイン電極20が形
成され,
表示電極14は,層間絶縁膜23に設けられている孔Cを介してソー
ス電極22に接続され,ゲートライン11及びドレインライン21上に
まで,層間絶縁膜23を介して延在するように形成されていること」。
ウしたがって,乙3公報には「ゲートラインを覆って形成された複数の,
トランジスタを備え,ゲート電極を形成するためにゲートラインから延出
する付加的構造を有しないでゲートライン自体を複数のトランジスタのゲ
ート電極として用いること」との構成が開示されているということができ
る。
(5)以上によれば,刊行物2(甲4)及び乙1∼乙3には,いずれも審決が周
知技術として認定した「ゲートラインを覆って形成された複数のトランジ,
スタを備え,ゲート電極を形成するためにゲートラインから延出する付加的
構造を有しないでゲートライン自体を複数のトランジスタのゲート電極とし
て用いること」との構成が記載されていると認められる。
そして,これらの文献はいずれも本願の優先権主張日(平成7年5月31
日)以前に公開されていたものであり,その技術分野は本願発明と同様,ア
クティブマトリックス液晶表示装置における薄膜トランジスタの電極構造に
係るものである上,乙1公報に関する上記記載は,その出願当時(平成5年
5月26日)における従来技術として挙げられたものであること(乙1,段
落【0002】∼【0004】参照)を併せ考慮すると,審決の認定した上
記構成は,本願の優先権主張日(平成7年5月31日)当時において,発明
の属する技術の分野における通常の知識を有する者(当業者)において周知
技術であったと認められる。これと同旨の審決の認定に誤りはない。
なお原告は,乙1公報に記載の技術は絵素電極9とゲート電極配線2とを
オーバラップさせることができない技術であるから,周知技術の例示として
適切でない旨主張するが,審決の認定した上記周知技術はゲートラインとそ
の余のトランジスタ構造との配置に関する技術であって,絵素電極とゲート
電極配線とのオーバラップに係る構成は含まれていないから,原告の主張す
る点は周知技術に係る前記認定を左右するものではない。
4取消事由1(刊行物2記載発明の認定誤り)について
原告は,刊行物1(甲3)と刊行物2(甲4)に記載された液晶パネルは電
極の配設・兼用部位が異なるにもかかわらず,審決がその相違を何ら考慮する
ことなく刊行物2記載発明を認定したことが誤りである旨主張する。
この点,審決は,前記第3,1(3)イのとおり,刊行物1に基づき引用発明
,,を認定するとともにこれと本願発明とを対比して一致点及び相違点を認定し
その上で審決は,相違点の判断に当たり「上記(2)刊行物記載の事項の(2−,
2)において摘記した,刊行物2の記載事項からも明らかなように,ゲートラ
インを覆って形成された複数のトランジスタを備え,ゲート電極を形成するた
めにゲートラインから延出する付加的構造を有しないでゲートライン自体を複
数のトランジスタのゲート電極として用いることは,この種アクティブマトリ
クス型液晶表示装置において従来周知の技術(上記刊行物2以外に,特開平6
。)。」−332010号公報及び特開平5−119350号公報をも参照である
(7頁12行∼18行)としたものである。
そうすると,審決は,相違点に係る「ゲートラインを覆って形成された複数
のトランジスタを備え,ゲート電極を形成するためにゲートラインから延出す
る付加的構造を有しないでゲートライン自体を複数のトランジスタのゲート電
極として用いること」との構成が周知技術であることを認定し,これを裏付け
るものとして,上記構成が開示された刊行物2等を例示したものと認められ,
刊行物2記載発明を,審決取消訴訟においてその審理範囲を画することになる
副引用例として用いたものでないことは明らかである。
そして,審決の認定した上記構成が周知技術といえることは前記3のとおり
であるから,この点に関する審決の認定に誤りがあるということはできない。
これに対し,原告の上記主張は,刊行物1と刊行物2記載の各液晶パネルに
おける電極の配設・兼用部位の差異をもって,周知技術に係る審決の認定誤り
を帰結するものであるが,この点は「ゲートラインを覆って形成された複数,
のトランジスタを備え,ゲート電極を形成するためにゲートラインから延出す
る付加的構造を有しないでゲートライン自体を複数のトランジスタのゲート電
極として用いること」との構成が周知技術であることを前提に,上記差異をも
ってしても刊行物1記載発明(引用発明,甲3)と周知技術に係る上記構成と
を組み合わせることが可能か否かという観点から論じられるべきであって(こ
の点は取消事由2において検討する,それを認定しないことが周知技術の認)
定についての瑕疵となるものではない。
したがって,原告の上記主張は前提において採用することができない。
5取消事由2(本願発明の進歩性判断の誤り)について
(1)原告は,引用発明においては最上層に画素電極が形成されるのに対し,刊
行物2においては画像信号配線及び画素電極を同時に,かつ,最上層に形成
する発明が開示されているとして,両者の製造方法ないし層構造の違いを指
摘した上で,刊行物1に記載された発明に刊行物2に記載された周知技術を
組み合わせることに関して阻害事由があるから,本願発明を容易想到とした
審決の判断は誤りであると主張する。
(2)しかし,審決の相違点に係る認定は,前記第3,1(3)イのとおり,アク
ティブマトリックス液晶ディスプレイデバイスにおける薄膜トランジスタの
構成について,本願発明におけるトランジスタが,ゲートライン上にこれを
覆う形でトランジスタ構造が設けられ,かつ,直線状のゲートラインがその
まま各セグメントにおいてトランジスタのゲート電極を構成するのに対し,
引用発明におけるトランジスタが,Si薄膜上に絶縁膜を介してゲート電極
配線が設けられ,かつ,ゲート電極が,タイミング線(ゲートライン)それ
,,自体ではなくそこから延出する付加的構造により構成されていることから
このような構成の相違をもって相違点と認定したものであり,しかも,前記
3のとおり,当該相違点の構成に対応する構成(ゲートラインを覆って形「
成された複数のトランジスタを備え,ゲート電極を形成するためにゲートラ
インから延出する付加的構造を有しないでゲートライン自体を複数のトラン
ジスタのゲート電極として用いること)をもって周知技術として認定し,」
容易想到性を判断したものである。
このように,上記相違点及び周知技術は,飽くまでもゲートラインとその
余のトランジスタ構造との配置に関するもの及びゲートラインとゲート電極
との関係に係るものであって,その余のソース・ドレイン電極と画素電極と
の位置関係ないし層構造等を問題とするものではない。そうすると,原告の
主張する上記層構造等は上記相違点ないし周知技術の構成に包含されるもの
ではないから,そのような層構造等の差異が直ちに引用発明と上記周知技術
との組合せを困難ならしめる理由となるものではない。
(3)また,実際にも,以下のとおり,審決の認定した前記周知技術は,刊行物
2におけるような画像信号配線及び画素電極が同時に製造される場合ないし
両者を最上層に構成する場合や,刊行物2と同様の電極の配設・兼用部位を
有するトランジスタに特有の構成ということはできないから,そのような層
構造等の差異の存在が引用発明と前記周知技術との組合せを困難ならしめる
ものではない。
すなわち,上記3において認定したとおり,乙1公報に記載された表示基
板は「ドレイン電極19’の端部には第2のゲート絶縁膜14上に形成さ,
れた絵素電極19の端部が重畳されている」ものであるから,絵素電極19
とドレイン電極19’とは別部材として形成され,ドレイン電極19’に接
続されている。
また,乙2公報に記載された表示装置は「画素電極19は,層間絶縁層,
17に設けられている貫通孔18を介して,TFT25のドレイン電極に接
続され,信号電極線16及び走査電極線12上に,層間絶縁層17を介して
オーバラップするように形成されている」ものであるから,画素電極19と
,,ドレイン電極とは別部材として形成されドレイン電極に接続されている上
信号電極線16及び走査電極線12の上層に画素電極19が形成される点に
ついても開示がある。
さらに,乙3公報に記載された液晶表示装置は「表示電極14は,層間,
絶縁膜23に設けられている孔Cを介してソース電極に接続され,ゲートラ
イン11及びドレインライン21上にまで,層間絶縁膜23を介して延在す
るように形成されている」ものであるから,表示電極14とソース電極とは
別部材として形成され,ソース電極に接続されている上,ゲートライン11
及びドレインライン21の上層に表示電極が形成される点についても開示が
ある。
このように,乙1公報ないし乙3公報に記載された表示装置においては,
いずれも画素電極は別部材として他の電極・配線とは別工程で形成され,ド
レイン電極又はソース電極に接続されるものであって,画素電極がトランジ
,,スタのドレイン電極又はソース電極と兼用されていないものであるしまた
乙2公報及び乙3公報に記載された表示装置は,画像信号配線の上層に画素
電極が形成され,最上層に画像信号配線を有しないものであり,このような
構成においても,審決の認定した前記周知技術を適用することは可能という
ことができる。
なお,前記乙3公報が本件審判手続において斟酌された形跡はないが,引
用発明たる刊行物1(甲3)の意義を明らかにするためにこれを周知技術の
例として本件訴訟において認定することができるのであるから(最高裁昭和
55年1月24日第一小法廷判決・民集34巻1号80頁参照,被告が本)
訴において周知技術の例として提出した乙3公報を認定に供することが違法
となるものではない。
(4)そうすると,審決の認定した前記周知技術は,薄膜トランジスタを備えた
表示装置において広く採用可能な構成というべきであって,引用発明のトラ
ンジスタの構成に代えて上記周知技術を適用することが困難であるとはいえ
ないから,本願発明は,当業者が引用発明から容易に想到することができる
と認められる。これと同旨の審決の判断に誤りはなく,原告の前記主張は採
用することができない。
(5)その他,原告は,審決が刊行物1を主引用例,刊行物2を副引用例として
扱っているとか,乙3公報について審査及び審判において反論の機会が与え
られていないなどと主張するが,審決が刊行物2を副引用例として用いたも
のでないことは前記4のとおりであるし,周知技術としての性質上,これを
裏付ける刊行物が審査及び審判において示されなかったとしても,前記のと
おり,これにより直ちに審決が違法となるものではないから,原告の上記主
張はいずれも採用することができない。
6結論
以上によれば,原告主張の取消事由はすべて理由がない。
よって,原告の請求を棄却することとして,主文のとおり判決する。
知的財産高等裁判所第2部
裁判長裁判官中野哲弘
裁判官森義之
裁判官澁谷勝海

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